イフリート源泉防衛戦~鳴子ニ灯ル炎

    作者:御剣鋼

    ●クロキバからの依頼、再び
    「クロキバ様からの御用件、確かにうけたまわりました」
     里中・清政(中学生エクスブレイン・dn0122)は、来訪した男に向けて恭しく会釈すると、集まっていた灼滅者達と共に、学園の教室へと移動し始める。
    「ヨロシク頼ム」
     男――ガイオウガ配下のイフリートであるクロキバは、用意された茶菓子と御茶には手を付けず、後の判断は武蔵坂の灼滅者達に任せるとだけ告げると、静かに口元を閉じた。

    「クロキバ様から、イフリートのいる源泉にノーライフキングの眷属による襲撃が行われようとしているという、報せがございました」
     サイキックアブソーバーの予知でも、同じ事件が予知されている。
     この襲撃が行われるのは間違いないと、執事エクスブレインが付け加える……と。
    「なんで、クロキバが……?」
    「単身で来るとは、いい度胸をしているな」
     クロキバの訪問に驚きを隠せず、教室内はざわめきで支配されていて。
     執事エクスブレインは軽く咳払いをすると、己自身にも復唱するように、言葉を紡いだ。
    「クロキバ様が言うには――」
     ――先日、ノーライフキングの邪悪な儀式を一つ潰したのだが、その儀式の目的は、我らの同胞が守る源泉を襲撃する為のものであった。
     ――敵の数は多く、我らだけでは撃退は難しいだろう。
     ――もし、武蔵坂の灼滅者が撃退してくれるならば、我らイフリートは、その指示に従って戦うだろう。
    「皆様に対応をお願いしたいのは、『宮城県・鳴子温泉郷』の源泉の防衛でございます」
     執事エクスブレインは、改めて灼滅者達の顔を真摯に見回すと、深く頭を下げた。
     
    ●鳴子温泉・源泉防衛戦
     以前、イフリートからはぐれ眷属討伐の依頼があった温泉郷と、同じ場所……。
     そう紡いだ執事エクスブレインは、何処か懐かしそうに瞳を細めながらも、話を続ける。
    「今回の戦いでは、鳴子温泉郷の源泉を守るイフリートが皆様の作戦指示に従って、行動をしてくれるとのことでございます」
     陽が傾き始めた頃。ノーライフキングの眷属は山中の源泉を取り囲むように数か所から現れ、源泉を目指して真っ直ぐ進軍してくるという。
     眷属らが合流してから源泉で迎え撃つこともできるが、眷属達が合流する前に各個に撃破することが出来れば、より有利に戦うことができるだろう。
    「眷属の動向を把握し、上手くイフリートと協力して立ち回ることが出来れば、ノーライフキングの眷属であろうと撃退するのは、そう難しくございません」
    「クロキバからは、源泉に近づけずに撃退して欲しいっていう要請があったけど?」
     灼滅者の1人が尋ねると、執事エクスブレインは「ええ」と首を縦に振る。
    「源泉に近づけさけないためには、こちらも人数を分散して対応する必要がございますね」
     けれど、グループ分けにもデメリットはある。
     互いの距離が離れてしまうと、他の戦場のグループが救援に駆けつけるのは難しくなる。
     それは、同行してくれるイフリートも、同じだろう。
    「敵眷属は源泉を中心に『北:山間』『東:山中』『南:河原近辺』の3か所に分かれて、同時に出現します」
     北から現れる眷属は6体のゾンビを中心にした編成で、視界は開けており、3カ所の中でも敵の能力は低めになるが、とにかく数が多い。
     東から現れる眷属はむさぼり蜘蛛が3体だけだが、木々が茂っており視界が悪いという。
     そして、南の河原近辺は見通しはよいけれど、首級のカマイタチが1体と、取り巻きのゾンビが2体という、3カ所の中でも敵戦力が高めの場所になる。
    「ゾンビはロケットハンマー、むさぼり蜘蛛は鋼糸、カマイタチは咎人の大鎌に似たサイキックを使い分けてきます」
     また、同行するイフリートは攻守に長け、特に体力の高さには定評があるとのこと。
     けれど、イフリートの中でも頭が悪いようだと、執事エクスブレインは笑みを零す。
    「皆様の言葉は通じるようですが、難しい言葉や、我慢を強いるような指示を出されますと、思い通りに動いて頂けない恐れがございますね」
     一応、待機しているようにという指示については、頑張って従おうとするらしい、が。
     指示の仕方や内容によっては癇癪を起こしたり、我慢しきれず無視してしまう傾向が、このイフリートは強いようだ。
    「強いイフリートだけど、すごくバカっていうことかな?」
    「3、4歳くらいの子供に接する感じにしたほうが、よさそうだな」
     ――同行するイフリートに、どのような指示を出すか。
     指示を出す時の説明方法によっては、難易度がぐるっと変わるといっても過言ではない。
    「今回の作戦ですが……眷属を撃退することができれば、成功でございます」
     執事エクスブレインの含みをもった言葉に、教室の空気が少しだけ重くなる。
    「つまり、イフリートの生死は問わない、と……」
    「はい、その通りでございます」
     共闘するイフリートもダークネスであるのは、変わらない。
     そう淡々と告げた執事エクスブレインは、灼滅者達に向けて丁重に頭を下げた。
    「いってらっしゃいませ、灼滅者様」


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)
    御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)
    堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)
    月代・アレクセイ(闇堕ち常習犯・d06563)
    鈴見・佳輔(中学生魔法使い・d06888)
    セーメ・ヴェルデ(煌めきのペリドット・d09369)
    高野・ひふみ(殺人鬼・d11437)

    ■リプレイ

    ●炎との共闘
     源泉近くのイフリートと合流した一行は、携帯番号とメーリングリストを再確認する。
     メールと電話の着信音を異なるものに切り替えると、各自それぞれの戦場へと向かった。
    「一緒に北で、ゾンビ倒すの手伝ってくれへん?」
     千布里・采(夜藍空・d00110)の願いに、屈強な炎獣は『ワカッタ』と頷いてくれて。
     采が歩き出すと周りの木々が避けるように身を逸らし、山間に誘う小路を作ってくれた。
    「よろしく。頼りにしている」
     ダークネスとの共闘に引っ掛かりを感じながらも、鈴見・佳輔(中学生魔法使い・d06888)は、ごく普通に共闘する相手として、声を掛けていて。
     炎獣は一瞬だけ足を止めると、その声に応えるように、力強く悠々と歩き出した。

    「敵であるイフリートと共闘ですか……」
     北班が去ったあと、御剣・裕也(黒曜石の輝き・d01461)は何処か楽しげに呟く。
     南班である自分達は見送ることしか出来なかったけれど、上から目線ではなく、簡潔で敬意を払った『お願い』に、炎獣も嬉々と従ってくれたように、見えたから。
    「煽っても誉め過ぎてもイラっとすっだろうし、敬意を払って頼ったのが良かったかもな」
     善悪の区別を一括りに出来ないのは、人も一緒かもしれない。
     宿敵を前にした佐藤・司(高校生ファイアブラッド・d00597)は、少し複雑な心境で。
     そんな思いを感じつつ、向こうにもきっちりお願いされているからなと、笑みを深めた。
    「ここは協力しねーとな」
     司が首に下げた携帯端末は、通話圏内であることを示している。
     万が一、ハンドフォン利用者が行動不能になってしまっても、問題はなさそうだ。
    「源泉に近づかれるのは不味そうですし、急ぎましょう」
     月代・アレクセイ(闇堕ち常習犯・d06563)は、ミリタリー服と靴に付いた土埃を軽く払うと、南の森の一角へと歩き出す。
     木々はアレクセイを避けるように身をくねらせて、彼等に歩きやすい路を与えてくれた。
    「せっかく共闘するのです、最後まで共に立っていたいものです」
     ――今後の関係の構築のためにも、ここを守らないと。
     強い決意と共に口元を強く結んだ裕也も、アレクセイが形成した小路に足を踏み入れる。
     司も足元に気を配りながら、仲間と共に南の河原近辺へと急いだ。

    ●北の山間
    「あたしはシューナ。キミ、名前は?」
     堀瀬・朱那(空色の欠片・d03561)と采が名前を訪ねると、炎獣は首を傾げて。
    『ナマエ、ナイ』
     困ったような仕草に、思わず采は傍らで並走している雑種の白系霊犬に視線を移す。
     この霊犬にも未だ名前が無い。けれど、魂の片割れとの意思疎通はバッチリだ。
    「んー、ゾンビ6体発見カナ?」
     最短経路で目的地に辿り着いた北班の眼前に飛び込んで来たのは、ゾンビの群れ。
     突破阻止を優先に源泉の方面を背にした一行は、そのまま眷属の群れを迎え撃つ。
    「ほな、やりましょか」
     飄々な性格と柔らかな言葉使いの采に、足元の影がゆらりと蠢めく。
     刹那。影が形作る獣の爪と牙が、ゾンビを絡めとった瞬間、猛烈な炎が包み込んだ。
    「イフ君にひとつだけ、頼みがあるンだ」
     猪突猛進が如く前衛に飛び出した炎獣と並走した朱那は、真摯な眼差しで告げる。
     派手な立ち居振る舞いは消え、白髪と空色の瞳は、炎の照り返しで煌めいていて。
    「キミは絶対、倒れないで」
     どんなに腹が立っても、気が逸っても。
     キミが倒れたら全てがお終いになる、そのことを覚えておいて欲しい、と……。
    「必ず最後まで守るから」
     ――仲間だけでなく、イフ君も!
     何時もの賑やかさに戻った朱那は、嬉々とゾンビの群れに飛び込んで行く。
     それに応えたのか否か、炎獣も螺旋の軌跡に合わせ、攻め入るゾンビを炎で焼き払う。
     1人と1体が打ち漏らしそうな敵には霊犬が足止めに入り、采も即座に治癒を施した。
    「ゾンビの足止めと撃ち漏らしの掃討のほか、なんぞあれば言うて下さい」
    「アリガトー! その代わり、絶対に1体たりとも逃しはしないヨ!」
     ――源泉に近付く前に、全て撃破してやる!
     回復は采に任せ、朱那は炎獣の攻撃に合わせて、弱った固体から着実に減らしていく。
     遠距離から放つ衝撃波も零距離で見舞う朱那の横、炎獣も嬉々と炎を帯びた爪を振った。
    「これで最後やね」
     ――仲間の回復は早めに、炎獣も必ず最後まで守る。
     霊犬の助けもあり、采も最後は撃ち漏らしを狙って、影を繰り出す余裕を見せていて。
    「終わったー!」
     距離が遠い南班の支援は困難だけど、隣接の東側の支援なら可能かもしれない。
     酷い傷を負うこともなく勝ち鬨を上げた炎獣の姿に、朱那は頼もしさを感じていて。
     勝利の勢いに乗せたまま、朱那は討伐完了のメールを嬉々と入れたのだった。

    ●東の山中
    「携帯電話は、問題なく通じるようですね」
     源泉の東側で待機していたのは、高野・ひふみ(殺人鬼・d11437)達3人と1体。
     似たような地形が続く山中。戦闘中も惑わされぬよう、ひふみは感覚を研ぎ澄ませるだけでなく、地形や障害物にも目を留めていく。
    (「ソロモンの悪魔とは違うが……」)
     相対的に、ガードが甘くなってるかもしれない。
     佳輔は思考を打ち消すように頭を振ると、木々に隠れる眷属を探さんと目を皿にした。
    (「……黒幕は、此処には来ないのか」)
     思うところはあれど、今は敵の思い通りにさせないことが大事。
     セーメ・ヴェルデ(煌めきのペリドット・d09369)は少しでも敵の侵攻を妨害出来ればと、山中と源泉の間に位置を取り、周囲をざっと見回してゆく。
     けれど、周囲警戒が足りなかったこと、敵の進路の矢面に立ったことが仇になった。
    「――!」
     佳輔の腰のランプが3体の蜘蛛を照らすのと、鋭利な糸が吐き出されたのは、ほぼ同時。
     鋼糸のような糸はセーメに向かって強くしなって、橄欖石色の聖衣を瞬時に紅く染めた。
    「さて、お仕事です」
     移動時の音や草木の揺れで蜘蛛の接近を判断したひふみは、反撃の態勢に移っていて。
     封印解除したひふみの側には、相棒であり家族のライドキャリバーのよいつが並走する。
     密な連携で敵とセーメの間に割り込むと、シールドを広げ、守りと耐性を高めていく。
    「明かりを持って来て正解だったか」
     薄闇の中、佳輔も眷属が源泉に近づかないよう、侵攻経路を塞ぐように動き回る。
     罰当たり感が凄くて神妙な表情のまま、斧のように掴んだギターから癒しを響かせた。
     龍砕斧使いの佳輔には、普段の気怠げさが神妙に変わるほど違和感があったのかもしれないけれど、力強い旋律は傷を癒すだけでなく、忌ましめを取り払ってみせて。
    「……悪いけど、邪魔なんだ、お前達」
     捕縛から脱したセーメは、自身に迫る蜘蛛に、純白の十字槍の穂先を剥ける。
     瞬時に穂先から繰り出した螺旋の如き捻りが、蜘蛛の躯を深く大きく抉った。
    「任せます」
     1体たりとも見失わないよう、蜘蛛の数と位置を確認していたひふみは近くの敵をよいつに託すと、遠い位置の眷属の動きを阻害せんと、素早くシールドで殴打する。
     最後の1体が佳輔の渾身の魔法の矢に貫かれ、山中に静寂が戻った。

    「北班は戦闘終了、南班は戦闘継続中という所でしょうか」
    「どの道、連絡は行っておきたいところだね……」
     携帯端末を取り出したひふみは、淡々と他班の戦況を確認する。
     まだ終わってない味方の戦場に急行したいと告げたセーメに「否」と唱える者はいない。
    「南は河原か……上空なら確認できるかもしれない」
     他班に連絡を入れ終えた佳輔が箒にまたがり、ひふみもよいつのボディを軽く叩いて。
    「鈴見氏の確認次第、南班の加勢へ行きましょう」

    ●源泉付近
    「あ、東側も討伐完了だネー!」
     東班が討伐成功の連絡を入れた、同時刻。
     先に戦い終えた北班は朱那の提案で、各戦場の中心である源泉付近に待機していた。
     討伐完了時はメール、緊急時は電話でワン切りする方法で各自連絡手段を統一している。
     また、メールと電話の着信音で伝達を区別するだけでなく、短縮番号を設定したり、セーメや佳輔のように、ハンズフリー状態にしている仲間もいて。
     そのため、携帯端末が視界に入る前に、音だけで朱那と采の表情が明るくなった。
    「あとは、南側だけやね」
     采は移動中でも積極的に炎獣に話し掛け、意思疎通を図ろうとしていて。
     興味津々な霊犬も炎獣の足元にまとわり付いて、尻尾を振りながら仲良くなりたいとアピールしていたけれど、愚鈍でも重要拠点の守備を託された炎獣だけあって、終始周囲の警戒を重点に置いている。
     ――と、その時だった。
     メールの受信音とは異なる『ワン切りの着信音』が鳴ったのは!
    「緊急の連絡!? 南班だね……」
     南側の敵は、首級のカマイタチと取り巻きのゾンビが2体。対する味方も3人だ。
     しかし、源泉周辺から剣戟の音は聞こえない。恐らく、均衡に近い接戦中なのだろう。
     その距離と方角を確かめようと、朱那が空色の瞳を細めたと同時に、炎獣が唸った。
    『ゾンビタオス、シゴト』
    「え、ええっ!? ちょっと待って、ヨ!!」
     炎獣への指示は『ゾンビを倒すのを手伝って欲しい』『キミは倒れないで』の2つ。
     良くも悪くも指示を素直に捉えてしまっていた炎獣は、嬉しそうに駆け出してしまう。
     そして、それは炎獣だけではなかった。
    「まー、楽しくいこーか!」
    「うっかり仲間を燃やさんようにな」
     脳筋で戦闘好きだった朱那も直ぐに切り替えて、嬉々と炎獣の背を追い掛ける。
     采は平易な言葉で改めて仲間が対応していることを伝えると、共に一陣の風になった。

    ●南の河原近辺
     ――3対3。
     数が同等に加え、強力な個体が1体でもいる場合は、密な連携が鍵になる時が多い。
     敵眷属の一群を見つけた3人は源泉方面を背にして陣取ると、ゾンビから確実に減らさんとディフェンダの司、裕也が足止めに回り込む。
     けれど、火力に関しては3班の中では最も不足しており、遠距離攻撃がメインのカマイタチは、体力が低いアレクセイも狙っていたのだった。
    「こっから先は通行止めな」
     目に余るカマイタチに司が眠りに誘う符で牽制するが、その分火力が不足するのも事実。
     裕也も不足した回復を補わんと、ヴァンパイアの魔力を宿した霧を仲間に供給していて。
    (「ゾンビが落ちるまで、持ち堪えることが出来るでしょうか」)
     スナイパーのアレクセイは極力攻撃を優先して、サイキックエナジーの光輪を飛ばす。
     その一撃は着実にゾンビ達の体力を削っていたけど、前衛より自身の疲労が大きく……。
     敵の狙いは源泉。壁が3つあっても1つが脆ければ、突破されるのも時間の問題だった。
    「俺の炎もそう悪くないはずだ! ゾンビくらいは焼き尽くす!」
     それでも突破されず持ち堪えていたのは、持久力に優れた司と裕也の連携だろう。
     数が減るまで治癒と耐性強化に努めていた司が攻撃に転じた刹那、炎が縛霊手を覆う。
     裕也の影に捕われたゾンビに司は疲れを見せず、イキイキと猛火を叩き付けた。
    「突破させない!」
     1体目が炎に呑まれたのを見送った裕也も、即座に念力で緊急の連絡を入れる。
     そして、死角からの斬撃で2体目の足止めを狙いながら、アレクセイに声を張り上げた。
    「月代さん、リバイブメロディをお願いします」
     カマイタチの攻撃には『武器封じ』と『アンチヒール』がついている。
     複数の異常を解除できるのはアレクセイだけ、もはや治癒を惜しむ状況ではなかった。
     アレクセイの指先がバイオレンスギターに触れ、立ち上がる力をもたらす響きを奏でる。
     ――と、その時だった。ちょっと不器用な旋律が、アレクセイの癒しに重なったのは。
    「誰も倒させない」
     忌ましめを浄化させる旋律を満遍なく傷ついた前衛に響かせたのは、東班の佳輔。
     空飛ぶ箒で上空から南側の状況を確認した後、隠された森の小路で東班の仲間を最短経路で導いたのだった。
    「僕の神よ、力を頂戴……聖断の光、その清浄なる力を」
     その後から現れたセーメが、橄欖石をあしらった、純白の十字槍を高らかに掲げる。
     磨き抜かれた聖なる輝きから放たれるのは、悪しきものを滅ぼす裁きの光――!
     一拍して、セーメの光条を追うように、緋色の軌跡が鋭い弧を描いた。
    「この攻撃はまだお見せしていませんから」
     ――嗚呼、強く、より強くなりたい。
     裕也が見切り対策に入れた鮮血の如き緋色の斬撃が、ゾンビを2つに斬り裂く。
     同時に。豪快なエンジン音を立てて、ひふみとよいつが駆けつけた。
    「敵は倒します」
     漆黒の瞳が狙い定めるのは、殺意に満ちた双眸で鎌を振わんとする、カマイタチだけ。
     佳輔もひふみの強撃に合わせて、バイオレンスギターを斧のように豪快に振りかざす。
     瞬時に形成した魔法の矢がよいつと共に疾走し、カマイタチは大きく態勢を崩して――。
    「言ったろ? こっから先は――」
    「通しません……!」
     司の質素な縛霊手に纏った、炎が。
     裕也の大鎌の刃先に宿した、紅蓮が。
     同時に交差し、炎と紅に爆ぜたカマイタチは、塵と化して消えていった……。

    ●炎との戯れ
    「僕達が最後でしたか」
     他班に加勢に向かおうとしたアレクセイが周囲を見回すと、北班も合流していて。
     念のため、佳輔が空飛ぶ箒で上空から見回してみたが、眷属は全て片付いたようだった。
     襲われたり命の危険がないことを確信した采は、ふと炎獣に訪ねる。
    「楔とか、源泉にある守ってるもの、見せてもらえます?」
     破壊を企てたり、不必要な接触はしない。
     そう丁重にお願いしてみたものの、炎獣は『ダメ』と首を横に振り、静かに唸る。
    「……飴食べるかい?」
     セーメが差し出した飴にも、炎獣は今は忙しいと断りを入れると、直ぐに踵を返した。
    「これが終わったら……モフモフしたかったのになぁ……」
     モフモフ具合は犬が上? それとも炎獣?
     司の灰色の瞳は、夕闇に煌々と靡く炎獣のタテガミから采の霊犬に止まっていて。
     当の霊犬は名残惜しそうに、炎獣の背を見つめていたけれど……。
    「普段どんなことをしているのかな……」
     出来ればイフリートと少し話してみたかったのは、裕也も同じ。
     しかし相手はダークネス。危機が去ったばかりの状況で警戒を解く程、愚かではない。
    「あたし、ココの温泉来た事無いンだヨネ」
     ゆっくり浸かりたーいと背を伸ばす朱那に、ひふみは報告が先だと淡々と帰還を促す。
    「帰るまでが、お仕事です」
     ボディを軽くノックされたよいつも、高らかにエンジンを響かせてみせて。
    「……帰ったら……黒幕の所在、調べられるかな……」
     ……深追いをするつもりはないけれど、何か収穫があれば。
     セーメの金の瞳だけは炎を追っていて。風と化した炎獣が鳴子の山奥に消えるまで――。

    作者:御剣鋼 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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