殺人少年

    作者:邦見健吾

     バン、と銃声が鳴り響いた。
     遊戯機で遊んでいた男の子の首が消し飛び、鮮血が噴き出す。
    「1人目~」
     キャップを目深に被った少年はニィと唇を歪めて笑うと、まるでゲームのゾンビを相手にするかのように、手に持った銃の引き金を引いた。銃声が1つ鳴るごとに、1人、また1人と撃ち抜かれ、ある者は頭を吹き飛ばされて、ある者は胸に穴を開けられて絶命していく。
    「あと1人、かな?」
     キャップの少年が、最後に残った小学生くらいの女の子に銃口を向ける。女の子の足元には、頭のなくなった男と女の死体。
    「あ……あ……」
     恐怖と混乱に体がすくんだか、女の子は銃を向けられても呆然として身じろぎひとつしようとしない。
    「ばーん!」
     少年のふざけた声とともに銃声が響き、弾丸が放たれた。
    「あーあ、みんな死んじゃったね~、灼滅者さん?」
     真っ二つになった女の子の死体を足で転がしながら、少年の姿をした殺戮者は勝ち誇るように笑った。

    「六六六人衆の動きを予知しました。皆さんにはこれの撃退をお願いします」
     冬間・蕗子(高校生エクスブレイン・dn0104)は緑茶を一口含むと、いつものように淡々と説明を始める。
    「今回現れるのは五〇五番、キラーボーイと名乗る六六六人衆です。キャップを目深に被り、13~14歳の少年の姿をしています」
     キラーボーイはショッピングセンターのゲームコーナーに現れ、手当たり次第にその場にいる人を殺していく。
    「ゲームコーナーには20人ほどの人がいます。100%灼滅できないとはいいませんが、六六六人衆は現在の武蔵坂の灼滅者では灼滅が困難な相手ですので、一般人への被害を抑えてキラーボーイを撤退させることを目標としてください」
     キラーボーイは灼滅者を闇堕ちさせるか、戦闘や虐殺に飽きれば撤退する。灼滅者と六六六人衆には大きな戦力差があるので、何かしらの作戦が必要だろう。
    「ご存知の方も多いでしょうが、六六六人衆が灼滅者を待ち受け、闇堕ちさせようとする事件が起きています。今回も同じ狙いですので気を付けてください」
     キラーボーイは主にガンナイフのサイキックを使って戦うほか、当然基本戦闘術のシャウトも使用できる。
     戦闘に飽き始めると一般人を優先して狙うようになるが、キラーボーイは見た目通り子どもっぽい性格をしており、様々な種類のサイキックを見せれば興味を引くことができるだろう。また、逃げ出そうとする人間を見つければ逃走を妨害することもあるため、一般人を避難させる場合も注意が必要だ。
    「相手は五〇五番の六六六人衆。全力でかからなければ痛い目を見るだけでは済まないでしょう。心してください」
     蕗子は説明を終え、灼滅者それぞれの顔を見回して口を開いた。
    「闇堕ちするなとは言いません。ですが、皆さんが武蔵坂の灼滅者として帰ってくることを願っています」
     あくまで目的は被害を抑えることだと念を押して、蕗子は灼滅者たちを見送った。


    参加者
    ニコル・シーダブル(森は温かい・d01206)
    浦波・仙花(壁の向こうの紅色・d02179)
    楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)
    六連・光(リヴォルヴァー・d04322)
    西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)
    静闇・炉亞(遮心・d13842)
    水蓮寺・閾(アグレッシブチキン・d14530)
    月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)

    ■リプレイ

    ●殺人少年現る
     ゲームコーナーにやってきた灼滅者たちは、それぞれ客に紛れキラーボーイを探していた。
    「……薄汚い人殺しの臭いがします」
     六連・光(リヴォルヴァー・d04322)がキラーボーイと特徴が一致する少年を見つけて顔をしかめた。今しがたバラバラに入ってきた客の二人目。少年は黒い瘴気を銃の形に変えると、呼吸をするように引き金に指をかける。そして――。
     バン、と銃声が鳴り響いた。
     だが間一髪、光が標的の前に立ちふさがって殺戮者の弾丸を受け止めた。
    「無力な連中殺して、いい気になるなよ……糞ガキ!」
     銃弾が当たる寸前、スレイヤーカードが殲術道具を自動的に解放したが、あまりの威力に血を吐き出す。しかし光は口から血をしたたらせながらも、闘志をたぎらせて鋭く睨んだ。
    「あはは、ホントに来たんだね、灼滅者さんたち」
     とうとう姿を現したダークネスは、思惑通りやってきた灼滅者を眼前にして軽薄に笑う。
    「へろーゲーム少年、早速だケド……オレらとデュエルしようゼ!」
    「おっけー。キミたちを闇堕ちさせてランクアップしちゃうよ?」
     楯守・盾衛(シールドスパイカ・d03757)を始めとする戦闘班が殲術道具を手にキラーボーイを取り囲んだ。戦闘班がキラーボーイの注意を引いている間に、避難を担当する灼滅者が一般人を誘導する手はずになっている。
    「六六六人衆には個人的な恨みもあるゆえ、成敗させて頂きますっすよ!」
    「それ、ボクじゃないと思うんだけどなぁ。八つ当たりじゃない? ハハッ」
     ガトリングガンを構えて意気込む水蓮寺・閾(アグレッシブチキン・d14530)に対し、殺戮者の少年は小馬鹿にするように笑い声を上げる。
    「皆さん、早く逃げないと、殺されちゃうんです!」
     一方、浦波・仙花(壁の向こうの紅色・d02179)はパニックテレパスを使用し、混乱状態を利用して人々を誘導しようと試みる。
    「慌てずに避難してクダサーイ! 親御サンはお子サンの手をしっかりとつなぐか、おんぶして速やかに避難してクダサーイネー!」
    「落ち着いて避難してなのですよ!」
     同じく避難担当のニコル・シーダブル(森は温かい・d01206)と静闇・炉亞(遮心・d13842)も誘導に加わり、巻き込まれた全員を救出すべく声を張り上げる。
    (ワタシ、完全に足手まといデースネーHAHAHA! 足引っ張らないよう頑張りマース!)
     ニコルは今回が初陣だが、そんなことを言っていられる状況ではない。
    「さ、僕らと楽しく遊ぼうよ」
     敵の注意をこちらに向かせようと月居・巴(ムーンチャイルド・d17082)が巨拳の一撃を放つが、キラーボーイはたやすくかわして突き出された拳の上に立つ。
    「うーん、困るなぁ~」
     キラーボーイは拳の上に立ったまま首を捻ると、次の瞬間には身にまとう黒い瘴気ごと巴たちの視界から消えていた。

    ●殺人開始
    「どこ行ったっすか!?」
     閾が視線を迷わせてキラーボーイを探すが見当たらない。その時、光が宙を指差して声を上げた。
    「いました!」
     ゲームコーナーから逃げようとする人々の頭上、キラーボーイは一跳びで灼滅者たちの包囲を抜けると、今まさに無辜の人々をその手にかけようと空中で銃を構えていた。懸命に一般人を誘導している炉亞のちょうど真上。
    「慌てないで出口に向かってなの――」
    「ばーん!」
     あどけない声とともに銃声が鳴り響き、逃げる人々の先頭を射抜いた。狂いなく命中した弾丸は頭部を粉々に砕き、そばにいた炉亞がキラーボーイの代わりに大量の返り血を浴びる。
    「え?」
    「アハハハッ、きれいに潰れたね」
     不意の出来事に一瞬呆然とする炉亞の隣に、キラーボーイが音もなく着地した。
    「あ、逃げようとしたらコイツみたいに殺すから。死にたくなかったら隠れててね~」
     キラーボーイはまるで遊びのルールでも提案するかのように無邪気に宣告し、さっきまで人間だったものを玩具のように足で転がす。
     パニックテレパスは一般人の思考能力を低下させるESPだ。必ずしも使用者の言うことを聞くとは限らない。さらに見せしめをされた後では、キラーボーイの指示に従っても不思議はない。
    「そんな簡単に逃がすと思った? 残念でしたー!」
     殺戮者は愉快そうに笑うと、人間などいくらでも殺せるとでも言うように、銃を乱射して遊技機を一斉に破壊してみせた。
     六六六人衆の五〇五番を相手取るには、灼滅者の布陣は中途半端だった。力ずくで抑えるのが困難な相手である以上、全員で避難と防衛に当たるか、注意を引くことにもっと力を傾けるべきだった。また、持ちこたえて飽きさせるのか、あるいは優位に立って追い返すのか、そもそも敵をどう撤退させるかが作戦として明確になっていなかった。
     こうなってはキラーボーイを撃退するにも一般人を避難させるにも、ひとまず敵を灼滅者に釘付けにする必要があるだろう。
    「ヒ、ヒハハハハハ!」
     以前闇堕ちした経験もあり、六六六人衆を仇とする西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504)の心は狂気に傾いていた。壊れたように高笑いを上げ、大鎌に炎をまとわせてがむしゃらに切りかかる。だがキラーボーイは銃に備えた小さな刃でその一閃をやすやすと捌いた。
    「↓\→+デコピン!」
     ゲームのコマンドのようなセリフを叫びながら盾衛が妖気をつららにして撃ち出すが、敵はかわすことなく撃ち抜く。しかしその隙に仙花が刀で真っ直ぐに切り込み、キラーボーイにようやく一撃見舞うことができた。
    「そうそう、そうこなくっちゃ♪」
     灼滅者全員から向けられた殺気を感じ、殺人少年はニィと唇を歪めて笑った。

    ●殺人続行
    「隙ありデース!」
    「キミがね」
     ニコルが獲物を握って背後から迫る。だがキラーボーイは瞬時にニコルの背後に回り、銃口を突きつけた。
    「キミから死ぬ?」
     キラーボーイが耳元で囁き、銃声が轟く。
    「どちらを見てるんだい? こっちだよ」
     しかし寸前で巴がニコルを突き飛ばし、代わりに攻撃を受けた。仮面で表情は読み取れないがダメージは小さくなく、傷から血が溢れている。
    「だが残念、残機UPの矢ァ!」
     盾衛の放った癒しの矢が巴の胸に吸い込まれた。傷は塞がったものの、戦いの中で蓄積したダメージまでは癒しきれない。
    「これ以上は……!」
     仙花が逆十字をかたどった赤い光を生み出すが、高速のステップを踏む敵を捉えることができなかった。
     激しい戦闘が続き、灼滅者の攻撃はいくらか命中しているが、撤退させるには至っていない。逆にキラーボーイの攻撃は熾烈で、灼滅者たちの消耗は大きい。攻撃は灼滅者に引きつけられているが、キラーボーイが出入り口を塞ぐように立ち回るため、一般人を逃がす隙が見つからない。
    「……ッ!」
     キラーボーイの攻撃を受け、光が衝撃で吹っ飛ばされた。ゲーム筐体に激突し、苦痛で声が漏れる。
    「まだまだァ!」
     だが光はまた立ち上がり、杖を強く握って雷を放った。
    「余所見の暇はないですよ?」
     キラーボーイ目掛けて発射される炉亞の魔力の矢。キラーボーイは余裕をもって回避し、刃を携えて襲いかかった。
    「巴さん!」
     炉亞のかけ声に応え、巴が腕を異形化させて飛び込んでくる。巴は全霊の力で剛腕を振るうが、敵は灼滅者を遥かに超える俊敏さを発揮して懐に潜り込み、銃剣を構える。
    「ひっさぁつ!」
    「させないっす!」
    「ヒハハハハハ!」
     しかし、そこに閾がライフルから円形の光線を発射し、織久は妖気をまとう槍を構えて突進する。光線と槍の刺突が次々に命中し、キラーボーイのキャップが吹き飛ばされた。キャップの影から現れたのは、ごく普通の、けれど生意気そうな少年の顔だった。
    「へぇ、カッコイイの使うねー。でも帽子はお気に入りのヤツだったんだよ? 弁償してもらおっかな」
    「ハッ、ンじゃオレも慰謝料とか請求させてもらおッかなァ!?」
     ケラケラと笑うキラーボーイに、盾衛が狂犬のように吠えた。その様子さえ可笑しいと言うように、キラーボーイは口を大きく開けて、ゲームコーナー中に響く大きな声で笑った。
    「慰謝料は無理だよ~、ボク子どもだし」
     キラーボーイはニヤニヤと笑みを浮かべ、隅に隠れていた一組の家族に銃口を向ける。
    「させません……!」
    「ダメデース!」
    「あ、手が滑っちゃった♪」
     引き金が引かれる間際、とっさに仙花とニコルがカバーに入る。立て続けに鳴る銃声が、意識が途切れる前に2人が聞いた最後の音だった。

    ●殺人終了
    「やれ楽しィ、やッぱオレ達ャ家でゲームばッかしてねェでお外でブッ殺し合わなきャなァオイ!!」
    「いやボクはインドア派なんですけど」
     血のたぎりを表すように激しく叫びを上げながら、盾衛が殺戮者と切り結ぶ。盾衛の勢いは衰えていないように見えるが、その実灼滅者は誰もが限界に近づいていた。
    「ヒハハ! ヒハハハハハ!!」
     狂ったような、いや狂った高笑いを上げ、織久が死を宿した刃を振り上げて襲いかかる。高速で振り下ろした鎌がキラーボーイをとらえ、一筋の傷を負わせた。
    「キミにはお返ししてなかったっけ?」
     間近でニッコリと笑う殺戮者。至近距離で砲撃を見舞われ、倒れて動かなくなった。
    「不利……いえ絶体絶命ですね」
     光が拳を握りしめながら呟いた。戦闘不能者3名。敵は健在。そして一般人は全く逃がせていない。一般人を庇いながら戦うどころか、灼滅者だけでも惨敗だ。
     今自分にできることは何か、閾は考えてみた。何度考えても、できることなんてなかった。できることなんて、1つしかなかった。一瞬だけ目をつむり、心の中で恋人と友達に告げる。――帰れなくて、ごめんなさい。
    「思ったより時間かけちゃったなぁ。そろそろ片付けよっと」
     キラーボーイが、両目を泣き腫らした小学生くらいの女の子に面倒そうに銃口を向ける。その時、爆炎の嵐が殺戮者を襲った。灼滅者の力では到底及ばない、強力な一撃。
    「三下でもこれくらい言えるっすよ! ここは自分に任せて逃げろっす!」
     キラーボーイと同じく黒い瘴気をまとい、閾が敵目掛けて一心にガトリングガンを撃ち続ける。
    「そうそう、最初からそうすれば良かったんだよ!」
     キラーボーイは閾の変化に気付き、興奮したような、嬉々とした表情を浮かべた。もう彼の目には同格の存在になった閾しか映っていないようだった。
    「逃げてください! 早く!」
     状況を察した炉亞は一瞬唇を噛み、精一杯の力を振り絞って懸命に叫びながら、手当たり次第に人を抱えて走り出す。炉亞につられて自力で動ける一般人たちがついていく。巴の判断は的確で速かった。戦闘不能者を素早く回収し、一目散に走り去る。
    「おっと、逃がさ――」
    「お前の相手は自分っす!」
     その前に我に返ったキラーボーイが立ちふさがるが、闇堕ちしてダークネスとしての力を発揮する閾に退けられた。
     逃げそこなった最後の一般人を抱え、盾衛と光が閾の横を通り過ぎていく。これでゲームコーナーに残ったのは閾とキラーボーイの二人。先刻まではともかく、この数瞬の攻防は閾に軍配が上がった。
    「あーあ、逃げられちゃった。まあいいや、じゃ、序列上げ頑張ってね!」
    「あ、待つっす!」
     これ以上ここにいても無意味と悟ったキラーボーイは、闇堕ちした閾の目にも留まらぬ速さで去って行った。あわよくば灼滅をと思ったが、さすがに欲張りすぎたか。
    「逃げられたっすか……やっぱり自分、三下っすね」
     でも三下にしては頑張ったっすよ、とぼんやりした心地で思いながら、閾の魂は闇に堕ちていった。

    作者:邦見健吾 重傷:ニコル・シーダブル(森は温かい・d01206) 浦波・仙花(鏡合わせの紅色・d02179) 西院鬼・織久(西院鬼一門・d08504) 
    死亡:なし
    闇堕ち:水蓮寺・閾(アグレッシブチキン・d14530) 
    種類:
    公開:2013年9月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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