「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
重々しい口調でそう切り出した男は、更に言葉を続けていく。彼曰く、敵の数は多く彼らだけでは処理できない。もしも、武蔵坂の灼滅者が敵を倒してくれるのなら、彼の同胞も共闘してくれるであろうと。
「ヨロシク頼ム」
端的に要件を伝えた男の名前はクロキバと言う。
その正体はファイアブラッドの宿敵――イフリートであった。
クロキバさんから、イフリートのいる源泉にノーライフキングの眷属による襲撃が行われようとしているという連絡が来ました。
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は教室に集まった灼滅者達の顔を確認すると、そんな言葉で話を切り出した。
学園と敵対するはずのイフリートからの依頼。クロキバとの邂逅を重ね、言葉を送ったからこそ持ち込まれた話であった。
「サイキックアブソーバーの予知にも、クロキバさんのお話と同じ事件が予知されています。予知された以上は放っておくわけにも行きません。ですので、今回皆さんには、イフリートのいる源泉に行って頂き、ノーライフキングの眷属の襲撃を阻止をお願いします」
そう言うと、姫子はチョークを手に取り近畿地方を黒板に描けば、ある地点に印を付ける。
「襲撃は各地で行われますが、皆さんに行って頂きたいのはここ。京都の鞍馬山です」
姫子が印を入れた場所は、京都の中央にも近い右下部であった。
鞍馬山にある、とある旅館の敷地内。手つかずの自然が残る谷間に源泉が流れいる。そこが今回ノーライフキングの眷属に襲撃される源泉であった。
「眷属の容姿は人型のゾンビという感じです。七体のゾンビが数箇所に分かれて襲撃をしてきます」
まるで源泉を取り囲むように、源泉の東側・西側・南側の三箇所から現れて源泉を目指すようにゾンビ達はやってくる。
東と西に二体。南は三体。陽が傾き、空が茜色に染まる頃にその姿を現す。眷属であるが故に、一体一体がとても強いという訳ではないが、南側に出現する一体以外は頑丈でそれなりの体力も持ち合わせている。また、南側の一体は、他のゾンビ達よりも多くのエフェクトやバッドステータスを灼滅者達に齎すようだ。
この七体のゾンビ達と源泉の近くで戦闘をするのか、それとも離れた場所で戦闘をするのかは灼滅者達に委ねられている。
また、東・西・南、それぞれ距離がそれなりにある。東から西、西から東の地点へ移動する場合はどれほど急いでも二分はかかる。戦闘であれば、二巡程の攻防が繰り返されているであろう。東から南、西から南の地点への移動は最短距離で行くと四分。戦闘であれば四巡程の時を使うこととなる。逆も然り。
数さえ纏まっていれば、灼滅者達で撃退できるであろうが、場所が分かれているせいで状況は不利とも言える。
「今回は皆さんと共に戦ってくれる方がいます」
キロキバがこの依頼を持ち込んだ時に告げた言葉は、現実となっている。
「以前、貴船山に出た鎌鼬を倒して欲しい、というお手紙を武蔵坂学園に送ってくれたイフリートが一緒に戦ってくれるようです」
貴船山と鞍馬山は隣同士に有りその距離は近い。人の足でも一日あれば、両方巡れるくらいだ。だからこそ、やって来てくれるのであろう。
「このイフリートさんは皆さんの指示に従って協力してくれます。ただ少し気をつけて頂きたいのが、一度に複数の事を言われると頭がこんがらがってしまうみたいです。難しいことも分からなくなってしまう様ですね。それと、源泉の近くに灼滅者もゾンビも近づけたく無いようです」
一度に多くの指示を出すと、このイフリートは動け無くなるようだ。そして、このイフリート前では源泉に近づかない方が良いであろう。近づいた場合、イフリートは灼滅者もゾンビも見境なく攻撃を始める。どこまでが良くてどこからが悪いかは、このイフリートしか分からない。
長い説明を終えて、姫子は一息をつく。そうして、時折緩やかに浮かべていた笑みを真剣な顔の奥へと引っ込めた。
「クロキバさんからは、源泉に近づかせずにゾンビを倒して欲しいとお願いをされています。しかし、絶対ではありません。そして……」
言葉を一度断ち、そうして姫子は重い言葉を口にした。
共闘すると言っても、その相手が灼滅者の命を危機に追い込むかもしれない存在であり、また学園の敵でもあるのだから。
参加者 | |
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久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621) |
御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919) |
大神・月吼(戦狼・d01320) |
アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160) |
朝比奈・夏蓮(あさひにゃたん・d02410) |
龍田・薫(風の祝子・d08400) |
ミヒャエル・ヴォルゲムート(デスコーディネーター・d08749) |
深海・水花(鮮血の使徒・d20595) |
●
鞍馬山に差す茜陽は空一面を橙色へと染め上げている。そんな空に浮かぶ一点の影はこの地では名高いモノの影ではない。影は暫く飛行した後、西方に茂る木々の間に姿を消す。
「みつけたよ!ここからまっすぐ二時の方角に行った所に二体!」
朝比奈・夏蓮(あさひにゃたん・d02410)が箒から降りれば、御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)が夏蓮の示した方角に双眼鏡越しの視線を向ける。
「地上からはまだ何も見えませんね。夏蓮さん、ありがとうございます」
遠くを見通しても見えるのは鞍馬山の自然ばかりである。しかし、敵の位置はこれではっきりと分かった。龍田・薫(風の祝子・d08400)は取り出した地図帳を捲れば大凡現在、自分達がいるであろうページを開いた。
「ぼく達がいる場所はだいたいこの辺りでしょうか」
「そうそう!で、ゾンビがいるのがこのあたり!」
薫が指を指す地点から、数ミリ先の地点を夏蓮は指し示す。意外にも近い。
「行きましょう」
天嶺の言葉に二人が頷けば、森の中を駆けていく。
コンパスと先程の情報を頼りに、山を駆ける薫の胸裏にあるのは妙な感覚であった。それは薫だけではないであろう。ダークネスと共闘って妙な気分だよ、そんな事を思っていれば隣を走る薫の霊犬――しっぺがわん、と一声鳴いた。
まるで這いずる様に、変色した体をゆらゆらと揺らす二体の屍。始めに気がついたのは夏蓮であった。駆けながらも、仲間を守り異常への耐性を持つシールドを自分と仲間たちの前に広げる。
「槍よ、螺旋を描き敵を貫け……」
天嶺が戦いの音が外に漏れ出ぬ様にしてしまえば、振るうは螺旋を描く捻りの槍撃。槍撃はゾンビを傷つけるだけでなく、天嶺の攻勢に勢いを齎す。それと同時に、薫の射る矢が天嶺を貫いた。癒しの力を込めた矢は、射られた者の中に眠る超感覚を呼び起こす力を持っている。
緩慢な動きであったゾンビの一体が、目の前に立ち塞がる灼滅者達に飛びかかった。まるで緩慢さの奥に溜めていた勢いを、一気に爆発させる様。変色した歯を生きた肉へ喰い込ませようと――
「今はノーライフキングよりもイフリートの方が信用出来る……ただ其れだけです」
アルヴァレス・シュヴァイツァー(蒼の守護騎士・d02160)は自身に向かって来たゾンビの攻撃を槍の柄で阻む。ゾンビとの距離は伸ばした腕一本分。しかし噛みつき損ねた口から漂う死者の匂いにアルヴァレスは顔を歪ませた。
西側にいる者達が戦いを始めた同刻、その東側でも現れたゾンビ達との戦いは始まった。数は二体。西側と全く同じ状況である。
「故に貴様等を殲滅する……!」
攻撃を防いでいた槍を振るい、アルヴァレスは螺旋の如き動きでゾンビの身体を貫く。
「行くぜっ!」
目にも止まらぬ速さはまるで、飛翔する龍が一気に距離を詰めるそれに似ていおり。二体のゾンビを斧で薙ぎ払うのは久遠・翔(悲しい運命に抗う者・d00621)であった。穏やかで誠実を映していた翔の瞳には、殺戮を求める輝きで煌いている。身に着けていた眼鏡は、既に彼のポケットの中。
「援護するよ。……さぁ、死の舞踏を始めよう……」
ミヒャエル・ヴォルゲムート(デスコーディネーター・d08749)が生み出した霧に込められているのはヴァンパイアの魔力。それは仲間達、そしてミヒャエル自身の力を増幅させる。
ゾンビが両腕を振り回せば、ぶちりと嫌な音を立てて飛ぶ肉片。礫の様に数え切れぬほどに分裂したそれは灼滅者達を襲う。更にもう一体のゾンビも腕を振るうと、その勢いは更に増すばかり。
「くっ……弱くはねぇって事か」
「けれど強くもありませんね」
防ぎきれなかった肉片の攻撃に、翔は顔を歪めて言葉を吐く。一つ一つはそれ程の威力を持たないが、それが絶え間なく何度も続けば話が変わる。横に立つアルヴァレスにも同じ事を思っていたのだろう。翔は、あぁ、と口角を上げて短く答えれば再び斧を構えてゾンビ達へと向かい行く。ゾンビ達から怒りを引きずり出すように繰り出された斧の薙ぎ。続けてアルヴァレスが自身の魔力を腐った体に無理矢理流して暴走させれば、鮮血色を纏うハンマーをミヒャエルはゾンビの体にめり込ます。
「あぁ……本当だ。君達はとっても頑丈な躯を持っているんだね」
三人で攻撃対象を合わせても、ゾンビ達は怯むことはなく弱った様子もない。
ゆっくりとした動作で、ゾンビ達が向かうはこの地にある源泉。そこに、この者達を行かす訳にはいかないから。
●
「クロキバってどんな奴なんだ?」
大神・月吼(戦狼・d01320)が隣にいるイフリートに声をかけた。
炎を纏うその姿。例え過去に戦ったことのある種族と言えど、今は共闘する相手。事前に作戦を確認した時に、灼滅者達がイフリートとコミュニケーションを交えた時間はほんのわずか。戦うべき相手がいない今、月吼の声にイフリートは視線を向ける。
「クロキバ、イイ、アタマ」
イフリートから返って来たのは拙くも短い言葉。あまり話したがらない性格なのか、それともあまり知らないのか。どちらなのかは判断できない。
「そっか。そういや名前、翔が言っていたクラマで良いのか?」
切れて生まれた沈黙を埋めるように月吼はまた一つ尋ねた。名乗らないイフリートに翔が提案した名前。イフリートは一度空を見上げれば、イマハと短く応え、纏う炎を大きくさせると頭を低くさせた姿勢はまるで獲物を狙う猟犬の様。
ゆるやかに吹いた風は、南から北へと流れている。その風に乗って何か重たい物を引きずる様な音がした。
「……大神先輩」
「あぁ、分かってる。クラマも良いな?」
シスター服を靡かせて深海・水花(鮮血の使徒・d20595)が緊張した面持ちで見つめる先には三体のゾンビ。イフリートの返事は喉の奥から鳴らされる好戦的な獣の声。
「そんじゃ、いっちょ派手に暴れるか! クラマは前二体に攻撃!」
月吼の声でイフリートが放つ炎の奔流は、前を歩く二体のゾンビ達の身を焦がす。
目の前の眷属達の王は水花にとって何もなかった存在ではない。ノーライフキングと戦えない歯痒さはあるものの、前進してくるその眷属達を見過ごすことは出来無ないから。断罪の光はゾンビへと向かう。
「これ以上は進ませねぇよ!」
月吼が動きを制約する弾丸を放った。
月吼と水花、そしてイフリート達がいる南側に現れたゾンビは三体。のろのろとした動きであるも、じわりじわりとこちらへと向かってくる。最もイフリートの近くにいたゾンビがイフリートに噛み付けば、もう一体は水花に肉片を浴びせかける。先程まで吹いていた柔らかな風は、じとりと気持ちの悪い澱みを孕んで灼滅者達に襲いかかった。
「クラマ! 近い奴を焼いてくれ!」
イフリートへ指示を出しながらも月吼は再び動きを阻む弾丸を撃とうとする。狙うは澱みの風を生む後方の一体。腕を伸ばそうとすれば、受け入れてしまった毒が回るような気がして。
「癒しの光よ……!」
水花の癒しの光は傷を回復させるだけではない。身を蝕む毒すら今は浄化する。温かな光に包まれた月吼が弾丸を放つ姿を見れば、水花はゾンビ達へと再び視線を向けた。
●
「醜い存在だね……生を失い、腐乱臭と腐り果てた姿は、哀れで仕方がないよ」
ミヒャエルが一体のゾンビを殴りつけると同時に魔力を流しこむ。
噛まれ、数え切れぬ数の肉片が灼滅者達を襲った。応戦するように灼滅者達も腐敗した体を焼き、打撃を加え、槍で貫いている。めり込むハンマーの勢いで一度はゾンビを追い詰めかけるも傷ついた肉体を修復するように、どろりとした肉が与えた衝撃を無い物にしてしまう。
流し込んだ魔力がゾンビの身を壊していく音がミヒャエルの耳に小さく届く。内側から切れていく筋の音、沸き立つ様な肉の破裂音。
「さぁ、君の時間もあと少しだ」
「この間合……頂きました! これで終わりにさせてもらいます……!」
まるで誰かに引き継ぐようにミヒャエルがその身を翻せば、現れたのは拳にオーラを纏わせたアルヴァレス。凄まじい連打撃をゾンビに叩きつけたアルヴァレスの最後の一撃。空に浮かぶゾンビが大地に叩きつけられれば再び起き上がることはなかった。
「残ったのはお前だけだ」
獲物のナイフに纏わせたのは翔の炎。燃えるナイフをゾンビに叩きつければ、炎はゾンビの身体に残る。
ぱちりと爆ぜる小さな火。動くだけでも燃え広がる。ふらつく身体を引き摺ってゆっくりとただ前に進むゾンビの身体は再びその傷を塞いでいく。
「零距離獲った……突き穿つ!」
背後からゾンビの背殴ればアルヴァレスが流し込んだ魔力が、ゾンビを内側から襲って行く。更なる内からの爆発をミヒャエルが誘うも、ゾンビは未だに倒れない。
土を蹴る軽い音、流れる空気が僅かに揺れる。与えるのは目にも見えぬ程、数え切れぬほどの連撃。防げないほどの勢いで繰り返される連撃の終わり、重たい音を立てて地面に沈むゾンビが一体。
「……終わったな」
仕舞っていた眼鏡を取りだせば、翔は何事も無かったかのように眼鏡を掛ける。
「信号弾は上がっていないみたいだね」
薄闇に包まれかける空をミヒャエルが見上げても異変はどこにもない。
「携帯は圏外じゃないから他の奴らはまだ戦っているんだろう」
メールを打ちながらも翔が言葉を重ねた。用件は端的に。短いメールを完成させて一斉に送り出す。
「行きましょうか」
アルヴァレスの短い言葉と共に三人は足を進め始めた。
携帯のバイブレーションを感じながら、錫杖を天嶺は振りあげていた。錫杖に纏わせる炎は赤く。
「炎には浄化の力があるんだ……焼き尽くせ!」
害から身を守ると言われる錫杖を勢いよく振りおろせば、ゾンビの身体は一瞬で大火に飲み込まれる。
一体倒したからと言って油断する事は出来ない。敵はまだここに一体。
「残念でした! その攻撃は通さないよー!」
灼滅者達に飛ばされた肉片。しかし、夏蓮の目の前でそれは悉く失速して落ちて行く。死者の肉を防ぐのは夏蓮を包む命の息吹。水芙蓉の香りを残しながら駆けて拳を幾度も叩きこむ。
「どっかーん!」
切れ目なく続けた夏蓮の攻撃は、そんな効果音と共に最後の一撃を叩き込む。
例え数が減ったとしても、屍達の動きはやはり変わらない。残るゾンビの右手に躍り出たのは薫であった。
「見様見真似、小太刀居合」
片手に持った小太刀の重さ。習い始めたばかりの刃の技、向かい合う様にしっぺの姿を確認すれば雪色の髪は屍へ。
呼吸を合わせ、挟み込む――失敗は許されない彼らの技。
「ここで負ける訳にはいかないんだ」
秘めし思いと決意。呟きにも似た小さな声は、ゾンビの声に消えて行く。
薫がかちりと納刀すれば、背後から聞こえたのは重い肉が崩れ落ちる音。
「久遠先輩から……東側の灼滅は無事終了した様です」
先程、携帯に送られてきたメールを天嶺が確認する。それ以外にメールは来てはいない。
「南側もまだみたいだし、薫くん!」
「はい。これは行けそうですね」
もしも、南側の戦闘が終っていなければやりたい事が夏蓮と薫にはあった。
「絶対に近づいちゃいけないって言われると気になっちゃうよね!」
イフリートが近づけさせたがらなかった源泉。そのイフリートが戦いの最中であれば行っても気付かれる事は無いであろう。
「ぼくの方も準備万端です」
ばれぬように。望遠レンズとカメラがあれば少々遠くとも写真が撮れる。源泉の場所も事前に調べていた天嶺によって把握済みだ。
夏蓮の魔法の箒に二人で乗れば、ゆっくりと箒は前進を始める。
「何があるか分かりません、気を付けて」
低空で飛ぶ箒を見送れば天嶺は駆けだした。どこで戦っているかは分かるが、状況は分からず西から南へ行くには時間がかかるから。途中で聞こえた獣の咆哮に心は先を急いでいた。
●
「……っ!」
ゾンビからの肉片攻撃を水花が避けようとした瞬間、イフリートが水花に向かって大きく吼えその後ろに炎の壁を作り出す。
燃えそうになるワンピースを翻せば水花の背に流れたのは冷たいもの。
「クラマっ!」
月吼がイフリートの名を呼べば向けられるのは僅かな敵意。思い出すのはこのイフリートが、相対する眷属と灼滅者すら源泉に近づけさせたくないという性格。これはイフリートからの警告なのだろう。
下がれない状況を理解しながらも、月吼は素早くゾンビの死角に周り、強固な体を構成する肉を切り裂けば、再び地を歩く事は無い。
「清浄なる光よ……!」
水花が呼び出す裁きの光。照らす先は最も傷を受けているイフリート。滅びか救いか、それを知るのは水花だけ。
「癒しを……」
声と共に柔らかな光がイフリートを照らせば受けていた傷は消えていく。
状況は五分五分。僅かではあるが灼滅者達に向いては来ているものの、疲労の色が現れ始めている。
月吼に向かってゾンビの顎が目前まで迫ってくる。避けきれない。防げない。戦闘で傷つく事は怖くはないが、痛いものは痛い。痛みを覚悟した瞬間、とん、と何者かが立ちはだかる。
「存在から醜いんだ。立ち振る舞いくらい上品にしてみるのはどうだい?」
金の双眸を細めながら、月吼を庇ったのはミヒャエルであった。視線を向ければ、東側の者達がそれぞれの得物を手にゾンビ達を攻撃するの見れば、被せるように月吼はイフリートに指示を出す。
炎がゾンビを飲み込めば、残るはたった一体ばかり。水花を睨みゾンビが向けるのは積もり増えていく全てへの恨み。凝縮された負の力は戦いを助ける効果を壊す。
「喰らえ!」
新たな声が場に響く。夜に輝く銀髪は西側にいた天嶺のもの。重ねる連撃の音。天嶺が離れれば、ゆらりゆらりと揺れる様は、屍の終わりの近さを物語る。
「畳み掛けるぜ!」
「合わせます!」
月吼の叫びに水花が乗れば放つは弾丸の嵐。風穴の空いたゾンビは月吼の影に飲み込まれれば再び現れることはなかった。
「夏蓮さんと薫くんは伏兵にあったんだと思います。」
戦いが終わってイフリートは何かを探すようにあたりを見渡していた。その様子に気がついてか、天嶺が言葉をかける。
「そうなんだ。伏兵がいないか探るために、分かれて行動する事になっててな。でも、大丈夫だったみたいだ」
天嶺の言葉に翔が付け足していく。さすがにばれる訳にはいかない嘘。しかし、長くは持たないであろう。灼滅者達に焦りの色が僅かに現れ始めていた。
「そんなに警戒しなくても良いよ。ほら、聞こえないかい?」
風を切る空飛ぶ箒の音が。元気の良い声が。イフリートに言葉を向けるミヒャエルの視線の先に現れた点。それは次第に大きくなっていく。
「もし、よかったら一緒にご飯を食べようよ。お弁当もあるからさ」
――君と仲良くなりたいんだ。
近づいてくる夏蓮と薫の姿を見れば、イフリートはこくりと頷いた。
作者:鳴ヶ屋ヒツジ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 10/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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