廃校の悪魔~囚われの不死王

    作者:一兎

    ●扉の向こう
     水晶の瞳から、涙の雫が落ちる。
    「ひ、っ……ぐ。……う、うぅぅっ……」
     栗色の髪を持つ少女は、ずっと泣いていた。悲しいから、悔しいから、心が痛むから。
     その眼と同じように繊細な心では、その声に耐える事が出来なかった。
    「違う。私は違う、こいつらとは違うの! だから出して、ここから出してよ! お願いだからぁ゛!」
     泣き喚く赤毛の少女が、そう訴えたのも何度目の事だろう。
     時に扉を叩き、椅子を蹴っ飛ばし。手足の亀裂から骨の白を覗かせるほどに懸命に叫んだ。
     ただ、その全てに、意味はなかった。
     扉の向こうには、声を聞ける者がいないのだから。
    「……認めさせないと、いけないんだ。ボク達が強いって、ボク達が役立たずじゃないって」
     泣き声と嘆きと、絶望に満ちた部屋の端で、少年は呟きを漏らす。
     部屋の中にいる限り、永遠に聞こえ続ける囁きを耳にしながら。
     自身の黒髪越しに、開かない扉を見つめて。ヒビ割れた左の頬に水晶の輝きを伴って。

    ●不死王救出作戦
     紫堂・恭也からの報せは最初、学園の灼滅者に届いた。
     美醜のベレーザに関する、重要な話があるとして。
     事実、その情報の重要性は高かった。
     ベレーザの率いるソロモンの悪魔たちが、根城としている栃木の廃校。
     言えば、ダークネスの拠点の情報である。
    「そこには、ベレーザに従わねぇ、他のダークネスとかも監禁されてるらしい。半分、牢獄みたいなもんだ」
     従わないダークネスには、いずれ洗脳をかける事で、配下に加えるつもりでいるらしい。
    「そうなりゃあ、ソロモンの悪魔の勢力が増大する事は、間違いねぇ」
     先ほど言ったように、ここには複数の種族のダークネスが居る事になる。
     さらに話によれば、闇堕ちした灼滅者である筒井・柾賢が、廃校拠点の指揮官をしているともいう。
      さすがの鎧・万里(高校生エクスブレイン・dn0087)も、これを勢いで言い飛ばすほど、マヌケではない。
     もし狙い時という物があるとすれば、今くらいのものだろう。
    「恭也は、この闇鍋みてぇな廃校の中に囚われてる、ノーライフキングの子供たちを助けに行くつもりでいる」
     そして、灼滅者たちに、救出に協力して欲しいとも言ってきている。
    「正直、YESって言うには賭けるもんがデカい」
     ハッキリとしているのは、恭也が様々な意味で本気だという事である。
    「そんでも、放っといたら、一人で飛び出すかもしれねぇからな。お前らで付いてやってくれ!」
     ならば、止めてもいいし。見届けたっていい。
     何にせよ、まずは囚われのノーライフキングがいるという場所にまで辿りつかなければ、話にならない。
    「つっても、場所は生徒指導室だって、わかってるんだけどな」
     細かく言えば廃校の2階。職員室の中にある扉の先、そこが生徒指導室だ。
    「そこでアンデッドどもが、障害になる」
     職員室の中には、13体のアンデッドが徘徊しているという。
     易々と生徒指導室に入る事はできない。
     仮に上手く倒せたとしても、かなりの消耗を強いられるはずだ。その状態で生徒指導室に入ろうものなら。
    「ノーライフキングたちは、相当まいってるらしくてな。助けようとしても、見境なく攻撃してくる。幾ら未熟でも、消耗してりゃあ勝ち目はねぇ」
     万里の言うように、トドメを刺されるのが関の山だろう。
     なら、どうすればいいか。
    「お前達とは別に、もう一組。一緒に行動して貰う」
     大雑把に説明してしまうと、こういう事だ。
     もう一つのチームと協力して、突破口を築き。一気に生徒指導室に飛び込む。
     職員室に残ったチームは、アンデッドの殲滅を続け、退路を確保。
    「ほとんど消耗せずに生徒指導室に飛び込めたお前達と、恭也とで、ノーライフキングの救出を行う」
     3人のノーライフキングは半ば恐慌状態にある。救出するなら一度、鎮めなければならないだろう。
    「全部上手くいって終われば、あとは3人を守りながら帰るだけだ! けど、最後まで気は抜くなよ」
     今回の作戦は、バベルの鎖によって、敵に察知されている可能性がある。
     何らかの危険に備えておいて、損はない。
    「全員で、帰ってくるまでが最後だからな。恭也の仏頂面を崩せるように頑張って来い!」


    参加者
    守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)
    白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)
    結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)
    天埜・雪(リトルスノウ・d03567)
    鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)
    時諏佐・華凜(星追いの若草・d04617)
    西明・叡(石蕗之媛・d08775)
    御影・ユキト(幻想語り・d15528)

    ■リプレイ

    ●突入戦
    「道をお開けなさい。子供を泣かせるような悪辣の輩は、一人残らず成敗いたしますわ!」
     注意勧告は、1秒としない内に有言実行へと変わり。
     ゾンビの横っ面を殴りぬき、鮎宮・夜鈴(宵街のお転婆小町・d04235)は、巨大にした拳を元に戻す。
     視界の端に、自身と同じように拳を元に戻す、紅緋の姿を見えて。
     その傍らを、小さな人影が走りぬけていった。
     弧を描いた後に直線的に動き、天埜・雪(リトルスノウ・d03567)の小柄な体は、灰と化したゾンビの亡骸を踏み超え。
     そのまま正面。ファルケの操る影によって動きを制限されたゾンビの元に向かって駆けると、すれ違い様にマテリアルロッドの一撃を叩き入れた。
     魔力が流し込まれる間に一切の音は無く。ゾンビが再び動き出した時には、次の一撃が迫っていて。
     結果を見届ける事なく、駆け抜けると、自然に奥の扉との距離が縮まった。
     それに反応されたのだろう。
     行く手に、別のゾンビが立ちはだかる。
     流れるように迫る攻撃は、ビハインドが防いだ事によって事無きを得たが。
     まだ、ゾンビの数が多い内という事を実感させれた。
    「今、何体目だ?」
    「4体だ」
     西明・叡(石蕗之媛・d08775)の問いに答えたのは、意外にも、紫堂・恭也である。
     幾ら広さがあるといっても、大人数が動き続けているため、室内は混沌としている。それを把握している事に、叡は意外性を感じられずにいられなかった。
     それが表情に出ていたのだろう。
    「そこまで俺は、無責任じゃない」
     恭也は露骨に不機嫌を表して、次のゾンビへと向かっていく。
     叡はやれやれと身振りをして、改めて戦場を見渡し。
    「なるほどな。それじゃ俺達もやるか」
     白咲・朝乃(キャストリンカー・d01839)の歌声によって、催眠状態に陥ったゾンビを見つけると。叡は光輪を投げる。白金の輝きを放つ蛇を模した輪を。
    「清姫が『貴方が欲しい』とよ!」
     光輪の端がゾンビの首に触れた瞬間、叡は力を入れ、その軌道を曲げた。
     ゾンビの首をグルグルと回り続けるように。蛇が腐肉を飲み込んでいくように。
     やがて、ドサリと崩れ落ちるゾンビの体は、灰と化す。
     これで、5体目。
     いや、恭也が向かっていったものが倒れ、6体目。
    『突入開始!』 
     誰かが叫んだ。
     同時に、扉の一番近くにいた雪が、再び駆け出す。
     合わせて、2体のゾンビが動き出すが、足を進める。
     活路は仲間が切り開いてくれると。
     果たして、2体のゾンビはそれぞれ、左右に吹き飛んだ。
     その間に扉に手をかけた雪は、すぐさま開け放つ。
    「今のうちだよ!」
     守安・結衣奈(叡智を求導せし紅巫・d01289)の飛ばす号令に、言われずともと、灼滅者たちは扉を目指し出す。
     しかしこの時、時諏佐・華凜(星追いの若草・d04617)は気づけなかった。自身に迫り来る脅威に。
    『――お前の相手は俺だ!!』
     背後から伝わってくる怒号と衝撃に、何かがあった事だけは理解したが、振り返りはしなかった。そんな場合ではないから。
    「ありがとう、ござい、ます」
     だからせめて、礼だけを残して。
     密度の高い数秒の間に、全員が扉を潜ったのを確認した結衣奈は、閉める寸前に言い残す。
    「後はお任せするよ!」
    『えぇ、退路の確保は任せてくださいまし♪』
     サムズアップと共に返って来る桜花の台詞。
    「無理はしても無茶しないでね!」
    『そっちこそ、闇堕ちなんかしたら承知しないんだから!』
     明日等の言葉に、結衣奈は笑って返す。もちろんだよと。
     この扉を再び開く時は、互いに無事であるように。
     バタリ。
     開けた時の苦労に反して、ごく簡単に扉は閉まった。

    ●不死王の子供たち
     机と椅子は蹴散らされたのか、倒されたまま。
     唯一のインテリアらしき花瓶は、無残な欠片と化している。
     どこか寂しく、荒んだ部屋だった。
    「お姉ちゃ、……えぐっ、ん、たち。誰……?」
     そんな部屋に立ち入った灼滅者たちを迎えたのは、嗚咽混じりの少女の声である。
     じっと見つめてくる瞳は、水晶で出来ていた。
    「初めまして、屍王さん」
     結島・静菜(清濁のそよぎ・d02781)は、そんな栗色の髪をした少女の傍に寄ると、身を屈める。
     近寄った際に、距離をとられた事を内心で残念に思いながらも、語り口は優しく。
    「それから、ごめんなさい。遅くなって」
     目線を同じ高さにして。
    「ぅぅ……ひっ、ぐ。……んっ」
     再び嗚咽を漏らす栗毛の少女の瞳から、涙が零れ落ちた。
     瞬間、部屋の隅で何かが輝きを放つ。
    「……っ!」
     同時に御影・ユキト(幻想語り・d15528)の体は動いていた。
     数秒も満たない合間。
     迫り来る一筋の光の射線に割り込み、闘気とシールドの力を集めた掌で、受け止めた光を握り潰す。
    「認めさせないと。僕達の力を、役に立つって、必要だって。いけないのに。なのに!」
     部屋の隅にいたのは、黒髪の少年であった。言動からして、彼が光を放ったのは確実だろう。少年の頬にある水晶の肌から、何かが零れ落ちていく。
    「貴方たちは……強いです」
     自然と正面に対峙するユキトは、光を握り潰した掌を、少年に見せる。
    「でも、強さは振りかざすものでは……まして、見せ示すものではないんです」
     火傷と裂傷。
     光が持つ瞬間的なエネルギーは、そう簡単に打ち消せるものでない。
    「わからない、わかんないよ。力を見せないで、どうすればいいのさ」
    「もっと凄い事よ! 決まってる! じゃないと出れない! 出してもらえない!」
     自問自答気味に叫ぶ少年の声に被さるように、乱暴な、少女の声が室内に響く。
     やや掠れた声で赤毛の少女は叫び、感情のままにプリズムで出来た十字架を形成する。
    「でしたら、気の済むまで貴方たちの攻撃を……心を、受け止めます」
     数秒後、無数の光線が、灼滅者たちに降り注いだ。

    ●二人の少女
     無数の光を浴びせてくる子供たちに対して、灼滅者たちのとった行動は、耐えるというもの。
     言葉を届ける事に、彼、彼女らを理解するために。
     ただし負担が大きいため、数分と決めていたので、しだいに反撃も行っていたが、やはり怪我の治癒に使った時間の方が長い。
    「う、ひぐっ……んく。うわぁぁぁん!!」
     そうした持久戦の果て、大泣きを始めた栗毛の少女は、その力を感情のままに振るい始める。
    「考えるよりまずは、行動しませんと。子供の泣き顔を放っておくなんて、めっ、ですわ。めっ!」
     華凜の背に声を掛けながら、夜鈴は拡げた鋼糸を手繰り、栗毛の少女の足を封じた。
     光線の一本が、頬を掠る。
    「行動……です、か」
     華凜の頭に浮かんだのは、先ほど自身を助けてくれた誰かの事だ。
     その誰かは、何のために自身を守ってくれたのか。それを思い直して。
     一歩ずつ、華凜は踏み出す。
    「私が、怖くて、も、いいです。例え、臆病、でも。責める人、は、いません。……ですが、優しさ、まで、怖が、っては、いけません。だから、めっ、です」
     やがて目の前にまで近づくと。華奢な手の平で少女の頬を張った。
     パチン。
     純粋な、ただのビンタを一つ。
    「守、って、あげ、ますか、ら。もう、大丈、夫、です、から」
    「うぅぅぅ。え、ぐっ……ぐす」
     そのまま優しい抱擁で少女を包む。臆病な少女の嗚咽はしばらく続いた。
     ただ。
    「ソラから離れろ、人間!」
     もう一人、赤毛の少女は何かが気に食わないらしい。
    「……っ」
     その行く手に、雪が立ち塞がった。
    「どきなさいよ、人間の癖に!」
     罵倒にも近い叫びを耳にしながらも、雪は動かず。
     動かずに、赤毛の少女の目を見返す。
     言葉より何より少女自身を語る、目の奥を覗き込む。
    「何でよ! 私は! そんな解ってる風な目で見ないでよ! 名前も知らない癖に!」
     ついに赤毛の少女は、拳を振り上げ。
     その白い骨を覗かせる腕に、蛇腹の刃が絡みつく。
    「知ってるよ」
     叫びに対する答えは、後ろから。
     ワイヤーで繋がる刃の伸びた先、剣の柄を握る朝乃は、穏やかに言う。
    「睦美ちゃん、だよね。向こうの彼は、海斗くん」
     事前に、恭也から話は聞いていた。
     本当に触りだけだが、知る事が大切だと思ったから。
    「一緒にここから出よう。誰も、睦美ちゃんの事を要らないなんて言わないから。だから、強がらないで」
     昂ぶる感情が頂点に達したのか、赤毛の、いや、睦美は感情を吐き出していた。
    「私は、私は! ソラみたいに可愛くないし! 海斗みたいに頭が良くないのよ! なのに、どうしろって言うのよ!」
     本音と苦悩、その両方が、睦美を挟み込む、二人の耳を打った
     取り得がないから、捨てられる。
     俗に、劣等感と呼ばれる感情である。
    (同じ、なのかな……私と)
    「探せばいいだけだよ。二人と違うって言ったなら、自分の言葉には責任を持たなきゃ」
     劣等感との向き合い方は、幾らでもある。
     それでも、まずは、ここを出る事から。
     二人は、それぞれの殲術道具を握り直した。

    ●意固地な少年
     光が弾ける。
    「……そろそろ、満足しましたか?」
     霧散した光の中から、ユキトは尋ねた。
     黒髪の少年、先ほどの通りなら、海斗という名の少年に対して。
    「もう、何もわからないよ! 何で、僕達はここから出たいだけなのに。どうして邪魔するのさ!」
    「既に何度も言っていますよ。……貴方たちを助けにきました、と」
    「ダメなんだよ。それじゃあ! だって……逃げられっこない! だから、認められるのが一番なんだ!」
     海斗は恐らく、3人の子供たちの中でも、一番まともに物を考えている。
     それゆえに恐れていた。ソロモンの悪魔の脅威に。
     拒絶の叫びと共に放たれる光は、再びユキトを狙う。
    「菊、護れ」
     そこに、叡の声と一匹の霊犬が割り込んだ。
    「じゃあ聞くが。囁きってのは、今も聞こえるのか?」
     光は霊犬の身一つを使って防がれ、叡はそのまま問いかける。
    「えっ?」
     この返答だけあれば、わかる。
     既に聞こえていないのだろう。
    「どういう方法かまでは、わからねぇが。今、そんな事やってる暇はないはずだぜ。……だよな?」
     叡が確認をとったのは、連絡役の結衣奈に対して。
    「うん、みんな頑張ってるよ!」
     当然のように結衣奈は、笑顔を返してみせる。
    「う、……嘘だっ。嘘に決まってる!」
     ならば、自分が今まで抵抗していた事の意味はなんなのか。
     行き場を失った思考は、当たり所を求めて海斗の感情を爆発させた。
    「う、うぅ……わああああぁぁ!!」
     迸る無数の光線が、灼滅者たちに降り注ぐ。
    「信じて、私達を! 助けに来た皆の想いを!」
     咄嗟に結衣奈は風を吹かした。
     癒しの風を、見送ってくれた仲間の分も込めるつもりで、強く。優しく。
    「守るため、救うため……力は振るい方を変えるだけでいいんです」
     癒しを得たユキトは、掌から闘気を撃ち出す。
     傷つけるための力ではない。救うための力を。
     闘気は光を裂き、十字架を撃った。
     一瞬だけ、光線が止まる。
     そこに、白い影が飛び込んでいた。
     ウロボロスブレイドの刃が高速で唸り、無数の光線を弾き続ける
     払い損ねた光線に身を焼かれながらも、恭也は言う。
    「俺は手加減が出来るほど、器用じゃない。だから、頼む」
     光の中に、かろうじて道が出来た。
     一握りの感謝と共に、静菜は、その道を抜けた。
     皮肉にもそれは、この部屋に辿り着く時に見た光景と、よく似ていて。
    「あなたは、これを嘘だと思いたいのですか?」
     装着していた縛霊手を外した。
    「あなた達を閉じこめて、追い詰めるような人達を信じるのですか?」
     少年は答えない。いや、答えられない。
     だから、静菜は拳を振り抜く。
    「逃げないで、今を見てください。あなたには、それが出来るだけの力があるのですから」
     全ての光が止んだ。
    「……ごめんなさい、ごめんなさい」
     戦意を失った少年は、涙を流し謝り続けた。
    「これで、終わりかな」
     視界の端に、睦美を抱きしめる雪と共にいる、朝乃の姿を見ながら。結衣奈はホッと一息をつく。
     終わったのだ。
     すると、丁度。
    『職員室、ボスゾンビは倒しました!』
     トランシーバーに連絡が飛び込んだ。
    『二体ともだ! 脱出路は確保した!』
     続いて、壁越しに声が届く。
     思わずトランシーバーを握る手に力が入る。
     この様子なら、みんな無事なのだろう。
     結衣奈の口は、自然と答え返していた。
    「こちら生徒指導室、子供たちは、みんな助けたよ!」

    ●不器用な少年
     3人の子供たちと共に、生徒指導室から飛び出した灼滅者たちは、職員室に残っていた灼滅者たちの援護を後押しに、廃校の中を抜けた。
     戦いの幕切れとしては、実に呆気ない。
     しかし、望ましい結果であった。
     そして……。
    「ここまでくれば、もういいだろう」
     廃校から程よく離れた場所に辿り着くと、恭也は立ち止まった。
    「行ってしまうんですね」
     その台詞に、ユキトは確認する。
    「約束は守る」
     もしもの時は、必ず連絡を取る。
     肯定の代わりに返ってきた言葉が、全てを意味していた。
    「また用がありました、何度だって頼ってくださいな。何事でも解決してみせますわ」
     夜鈴の言葉は、挑発するように。
    「じゃあ、あの子たちを宜しく頼むね」
     結衣奈は約束を信じて、3つの小さな希望を託す事を告げる。
    「当然だ。……ところで、アイツらはどこだ」
     恭也は、相変わらずぶっきらぼうな態度のまま、逆に尋ね返した。
    「はい、どうぞ。三人とも喧嘩しないように、仲良くするんですよ」
     希望たちは、静菜にジュースとお菓子を手渡されていた。
    「用が済んだなら行くぞ」
    「恭也、さん。確か、に、そうです、けど。言い、方、が」
     半ば呆れた様子で恭也が言うのを、華凜が嗜めようとした時。
    「……アイツも待たせているからな」
     すっと出てきた言葉に、恭也なりの思い遣りが透けて見えた気がした。
    「君達も、いつか強くなったら、ちゃんと恩返ししてあげてね」
    「早く行くぞ」
     口で言うが、無理やり引こうとしないのも、その一片だろうか。
     そんな不器用な姿に、朝乃はちょっとだけ悪戯心を沸かせて。
    「また会いましょうね。手加減が出来ないほど不器用な恭也さん」
     すると、恭也の顔が強張る。
     しばらく、無言のまま催促を続けるほど固く。
    「まぁ、ここもいつ危険になるかわからねぇしな。早く帰った方がいいだろ。互いに元気でな!」
    「あ、ああ、そうだな」
     叡が、そう言っていなければ、多分、ずっと続いていただろう。
     反対の意見を出す者はおらず。
     結局、二手に分かれた去り際。
    「皆さんも、ありがとうございました」
    「あり、がとぅ……ぐすっ」
    「アンタはいい加減、泣き止みなさいよ、もう!」
     手を振り、去っていく3人に手を振り返す雪は、恭也が口が何事か呟いてるのを見つけて。
    (リンゴの皮む……?)
    「ほら雪ちゃんも、帰るよー」
     それも、結衣奈に呼ばれたところで中断したので、そこから先は読み取れなかった。
     

    作者:一兎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 1/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 12
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