兵者と強者

    作者:魂蛙

    ●その拳は何を成す
     流れ着いた流氷から断崖に飛び移り、登りきったロシアンご当地怪人ソルジャーサンボを、待ち構える者がいた。
    「よお、オッサン。待ってたぜ」
     軽くステップを踏んでファイティングポーズを取るのは、アンブレイカブルの古谷・修(こたに・おさむ)だ。
     修に応じるようにソルジャーが構えを取ると、修は嬉々としてに口角を吊り上げた。
    「オレは古谷・修ってんだ。ま、楽しもうぜ」
    「コサック兵団が一兵卒、ソルジャーサンボ。ゆくぞ!」
     自己紹介も手短に、2人のダークネスが激突する。

    「よく鍛え上げられた拳だ。だが、その力で貴様は何を成す!」
     修の右ストレートをガード越しに受け、ソルジャーは問いかけとともにタックルを仕掛ける。
    「強くなるのさ! もっともっと!」
     修は膝を突き上げソルジャーを迎撃し、更に肘を落として追撃をかける。
    「それは手段だ。目的ではない!」
     それでもソルジャーの突進の勢いは止まらず、修に組み付いたソルジャーはそのままダウンを奪って馬乗りになり、電光を握り固めた拳の雨を降らせる。
    「何かを成そうともしない者は、何一つ成すことはない!」
     ソルジャーのパウンドを修はガードで凌ぎつつ隙を窺う。ソルジャーが拳を振り上げた瞬間に体を跳ね上げ反転させ、今度は修が上になるガードマウントに移行した。
    「そうかよ!」
     体重を押し込むような修の左右の連打をソルジャーは首を振って巧みに躱す。焦れた修が放つ大振りの一発を狙って腕を取ったソルジャーは、そのまま下半身を修の下から引き抜き、脚を修の腕に巻き付けた。
    「修よ。コサック兵団に入らないか? その力を、グローバルジャスティス様の為に使うのだ」
    「そーゆーことは、アンタを倒してから考えらぁ」
    「……交渉決裂か。残念だ」
     ソルジャーは脚に力を込めて修を捩じ倒し、腕ひしぎ逆十字を極める!
     そのまま後転して立ち上がったソルジャーは重心を落として構え、ふらつきながらも立ち上がり飛びかかってくる修を迎え撃つ。
    「てりゃぁああっ!」
    「ぬぅんっ!」
     修のローリングソバットからの左ストレートがソルジャーの額を捉え、鮮血が噴き出す。瞬間、ソルジャーの迷彩服の下の三角筋がバンプアップした。
     ソルジャーが一気に踏み込む。大きく振りかぶりオーバースローで投げるように放ったロシアンフックが、修の中途半端なガードを圧し割り――、
    「ウラァアアアアアアッ!!」
     ――顔面を直撃した。
    「……なあ、聞かせてくれよ。アンタは一体、何を成すんだ?」
     消滅しつつある修の問いかけに、ソルジャーは迷わず答えた。
    「世界征服」

    ●兵者と強者
    「ロシアン怪人を乗せた流氷が、また北海道に漂着したようだ。どうやって知ったのか、これを待ち構えたアンブレイカブルと怪人の戦闘になる」
     教室に集まった灼滅者達に、神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が説明を始める。
    「挑みかかるアンブレイカブルの名は古谷・修。それを返り討ちにするのが、ロシアン怪人のソルジャーサンボだ。お前達には、修との戦闘に勝利したソルジャーを灼滅してもらいたい」
     どちらも強力なダークネスだが、まとめて灼滅する好機、というわけだ。

    「戦場は北海道、道路沿いにあるちょっとした広場の展望台だ。午後5時頃、ここでダークネス同士の戦闘が始まる。戦闘が終わるまでは身を隠し、修を倒したところでソルジャーに奇襲をかけてくれ」
     戦闘中にちょっかいを出すのは厳禁だ。ロシアン怪人も灼滅者のことは知っており、戦いを邪魔されたくないアンブレイカブルと共に襲ってくるだろう。強力なダークネス2人が相手となれば、恐らく勝ち目はない。
    「ソルジャーはクラッシャーのポジションからご当地ヒーローのご当地キックとご当地ダイナミック、ストリートファイターの地獄投げと抗雷撃に相当する4種のサイキックを使う。どれも威力が高いから、充分に注意してくれよ」
     ソルジャーは戦闘の直後でダメージを負ってはいるが、その絶大な破壊力は健在である。手傷を負ってようやく互角の相手である、と胸に刻んでおくべきだろう。

    「漁夫の利をさらうようで気の進まない者もいるかもしれないが、ロシアン怪人の侵略を止める為だ。くれぐれも戦闘が終わるまでは手を出さないようにな」
     ヤマトは改めて念押ししてから、灼滅者達を送り出した。


    参加者
    石弓・矧(狂刃・d00299)
    鵺鳥・昼子(トラツグミ・d00336)
    崇宰・亜樹(実証試験課主任・d01546)
    葛木・一(適応概念・d01791)
    間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)
    橘花・透(愛燦々・d10853)
    ライン・ケーニッヒ(ジプシークイーン・d16531)
    牛野・かるび(すみませんそこ右に肉が・d19435)

    ■リプレイ

    ●火蓋
     古谷・修の消滅を見届けたソルジャーサンボは、ゆっくりと振り返る。そこに灼滅者達が立っていたことに、動揺した様子はなかった。
    「武蔵坂学園の灼滅者か」
    「世界征服を成し遂げて、どんな世界を作るつもりなのですか?」
     ウロボロスブレイドを地面に突き立て、柄に両手を乗せたライン・ケーニッヒ(ジプシークイーン・d16531)が問いを投げかける。
    「グローバルジャスティス様の下、我らご当地怪人が統べる世界を」
     鉛のような重圧を滲ませながら呟いたソルジャーは、親指で弾くように頬の血を拭い飛ばした。
    「その世界が成った時、人類はどうなっているのですか?」
    「……人類?」
     問い返したソルジャーは、まるでも不意でも突かれたかのようだった。その反応だけで、答えとしては充分だった。
     ラインはウロボロスブレイドを地面から引き抜き、構える。
    「先程の一騎打ち見事でした。連戦で申し訳ありませんが、今度は私達と戦って戴きます」
    「その通り!」
     朗々と響いた声の主、葛木・一(適応概念・d01791)は木の枝の上で腕を組んで仁王立ちしていた。
    「トランスアジャスト!」
     掛け声とともに跳躍した一が、オーラの光を纏いながら着地する。
    「世界征服なんぞさせねぇよ、お前はここで終わらせる……オレ達がな!」
    「この世にどれだけ悪が栄えようとも、俺たちが止めてみせる! ……絶対に!」
     一と並び立った橘花・透(愛燦々・d10853)が目元に結んだ真っ赤なリボンマスクをたなびかせ、金の装飾が施されたガトリングガンを構える。
    「武人として名乗らせていただきます。私は石弓矧と申します。連戦で申し訳ありませんがお相手して頂きますよ」
    「ライン・ケーニッヒです。貴方の世界征服、阻止させて貰います」
     鞘から抜かれた石弓・矧(狂刃・d00299)の全刃刀『黄泉戸大神』と、ラインのウロボロスブレイドが、凛と涼やかな音を重ねる。
    「どんなに身体は小さくたって、心はデカいぜ世界一!」
     間乃中・爽太(バーニングハート・d02221)が掲げた左手に、赤い炎が灯る。爽太は拳を振り下ろし、己の胸に打ち付けた。
    「燃え上がれ、俺の心っ!」
     瞬間、爽太の全身を炎が渦巻き包んだ。
    「バーニングハートッ! 間乃中爽太、燃えていくぜぇっ!」
     火柱を引き裂き、スレイヤーカードの封印を解除した爽太が両の拳を打ち合わせると、左拳を赤い炎と右拳の青い炎が一際大きく燃え上がる。
      龍砕斧を頭上でぶん回し、爽太の炎を巻き上げたのは牛野・かるび(すみませんそこ右に肉が・d19435)だ。かるびは斧を肩に担ぎ、同時に高く上げた足を地面に打ち付ける震脚で、
    「肉牛乳牛何でも焼肉! 牛野家長女・かるび惨状!」
     派手に地面を踏み鳴らした。
    「俺は鵺鳥・昼子! ソルジャー、悪いが正々堂々と真正面からきっちり不意打ちさせてもらうぜ!」
     カードの封印を解いた鵺鳥・昼子(トラツグミ・d00336)はライダースーツに身を包み、呼び出したライドキャリバーのケルベロスに跨った。
    「いくぜ、ショウダウンだ!」
    「一兵士として相対望む!」
     二五強襲重騎兵甲・舞雷を展開、装備した崇宰・亜樹(実証試験課主任・d01546)が先陣を切る。爆発音と共に背部のバーニアに火が入り、亜樹は炎の尾を長く引き伸ばしながらソルジャー目掛け突入した!

    ●烈火
    「灼滅者の殲滅も我が任務だ。受けて立つぞ子供らよ!」
     その重量と速度は生きる砲弾の領域に達している亜樹の突進を、ソルジャーは真っ向から受ける。ソルジャーは腰を落としてスタンスを広く取り両手を広げて、突っ込んでくる亜樹を受け、
    「うおお!!」
     止める!
     踏み締めた地面を抉り後退しながらも、ソルジャーは亜樹のブーストの推力を踏ん張って押し止める。
     組み合った亜樹の舞雷が、スチームを噴くように黒い霧を撒き散らして周囲を包む。
    「いくぜご当地ビーム、ドーン!」
     高く跳躍した一が、上空からご当地ビームでソルジャーを狙い撃つ。同時に亜樹がソルジャーを振りほどいて後退し、入れ代わり間合いを詰めるのは矧と爽太だ。
    「相手にとって不足無し……全力でいかせてもらいますよ!」
     黄泉戸大神の刃に炎を纏わせ、矧は踏み込み水平斬りを繰り出す。ガードしたソルジャーの腕を、赤熱した剣閃が駆けた。
    「俺の炎は火傷くらいじゃ済まないぜっ!」
     サイドステップで跳んだ矧の背後、既に赤の炎が燃え猛る左腕を振りかざして踏み込んでいた爽太が、左ストレートを叩き込む。
     立て続けのレーヴァテインを受け、半歩だけ退がったソルジャーの炎上する腕を雷光が走った。雷撃はソルジャーの腕にまとわりつく炎さえ食らって螺旋を描く。
     そのままソルジャーはスパーク迸る拳を振り抜き、爽太を殴り飛ばす。
    「火力が足りんな。灼滅者の名が泣いているぞ!」
     疾走するケルベロスがドリフトターンで反転し、ソルジャーの背後を取ってから突入する。
    「だったらもっと派手に燃えちまえ!」
     すれ違い様、背中を斬りつける昼子のチェーンソー剣が激しく火花を散らす。
     昼子の離脱に合わせて亜樹が飛びかかり、同時に亜樹のライドキャリバー、不知火・強襲装甲型が突進を仕掛ける。
    「世界征服など笑止、時代遅れの帝国主義で!」
     ソルジャーは不知火の突進を回し蹴りで蹴り捌き、直後に来る亜樹の〇八式A1型機動重防盾殴打を片腕で受ける。亜樹の腕を掴んで引き込むと同時に懐に潜り込み、そのままソルジャーは亜樹を背負い投げた。
    「時代に遅れるというその発想ではついて来られまい。時代とはこの手で作り上げる物だ!」
     亜樹を地面に叩きつけ、更に追撃せんとするソルジャーの背中を、ガトリングガンの火線が穿った。
    「ガンガンいくぜ、夏歩!」
     透は2丁ガトリングガンを両手に構え、霊犬の夏歩が六文銭射撃を合わせて十字砲火でソルジャーを攻め立てる。
     ソルジャーは上へ跳んで逃げる。そこに、炎の翼を背中に展開したかるびが追って跳躍し、一気に肉薄した。
    「ハッハァ! 空中解体ショーだ!」
     かるびは炎の塊と化した龍砕斧を振りかぶり、全身のバネを使って振り下ろす。ソルジャーは両腕を交差して受けるものの、衝撃を受けきれず叩き落とされた。
     ソルジャーの頭上で、かるびがフォロースルーを殺さず前宙で更に勢いを増しつつ飛来し――、
     地上からはラインがレーヴァテインを発動させつつ突入し――、
    「バラして燃やして、焼肉パーティーだっ!」
    「ハァアアッ!」
     ――ラインが横薙ぎに斬り抜けかるびが縦一文字に振り下ろし、ソルジャーに炎の十字を刻み込む!

    ●熾烈
    「個々の未熟さを連携で補うか。だが、未熟は未熟!」
     ソルジャーは焼け焦げた迷彩服の上着を引き裂き、投げ捨てながら矧に突進する。
     矧はソルジャーの右拳を後退しつつ躱し、側面へ回り込みをかける。
     ソルジャーの振り向き様の裏拳を、矧はサイキックエナジーを這わせた黄泉戸大神で受けた。拳の雷撃と刃の光がぶつかり合い、激しくスパークした。
     ソルジャーが拳を振り抜き、強引に押し切る。体勢を崩した矧に迫り振り上げたソルジャーの腕に、鋭く伸びてきたラインのウロボロスブレイドが巻き付いた。
    「未熟は承知しています。ですが、容易く折れる覚悟で戦場に立っているわけではありません!」
     ラインはウロボロスブレイドを振り上げ、その切先に巻きつけたソルジャーを上空へ放り上げる。瞬間、光の爆発がウロボロスブレイドの根元から切先へと走り、ソルジャーを襲った。
     魔力光の炸裂に弾き飛ばされるソルジャーに、一が飛びつき捕獲する。
    「ご当地ィ……」
     一は右の脇にソルジャーの頭を抱え、左手でソルジャーの腰を掴んで持ち上げる。そのまま尻餅をつくような体勢で勢いをつけて落下し、ソルジャーの頭を地面目掛け垂直に――、
    「ダァアアアイナミィック!!」
     ――叩き付ける!
    「ドッカーン!!」
     脳天破壊の名に恥じぬ一撃が爆裂し、派手に土砂を巻き上げる。
     しかし、仕留めきるには至らない。ソルジャーは一の拘束を振りほどいて立ち上がり、バックステップで後退する。
     そこに間合いを詰めていくのは爽太だ。突っ込む爽太は速度を緩めず、迎え撃つソルジャーの左ストレートをダッキングで躱す。ソルジャーの懐に潜り込んだ爽太の右拳を、青のオーラが燃え猛る。
     爽太の右拳の連打が、徐々にソルジャーを浮き上がらせる。爽太はスタンスを踏み換えて弓を引くように右腕を振りかぶり、
    「青い炎は心の強さ! 吹っ飛べぇっ!」
     渾身の一撃をソルジャーの土手っ腹に叩き込んだ!
     吹き飛ぶソルジャーを追って昼子がケルベロスを走らせる。
     昼子が水平に構えたチェーンソー剣を振り抜く瞬間、ソルジャーはバク宙で体勢を整え着地し、チェーンソー剣の腹を拳でカチ上げる。弾き飛ばされたチェーンソー剣が放物線を描き、地面に突き刺さった。
    「やるなぁ……そんなら、次は真正面から殴り合いだ!」
     昼子はケルベロスの収納から手裏剣甲を取り出し、装備しつつケルベロスから飛び降りた。昼子が構えを取ると、手裏剣甲から手裏剣の刃がせり出す。
     ソルジャーは昼子のワンツーを叩き落すように捌き、踏み込み肘打ちを返す。その時既に、踏み堪えた昼子のボディフックが、ソルジャーの脇腹に突き刺さっていた。
    「昼子、下がれ!」
    「弾幕を展開します!」
    「あいよ!」
     怯んだソルジャーを蹴り飛び後退するとすれ違い、突撃する亜樹の九八式四号五粍五六騎兵小銃と透のガトリングガンが火を噴き、弾幕でソルジャーをその場に釘付けにする。
    「ナイス弾幕!」
     ケルベロスのシートに着地した昼子は、そこに突き立っていたチェーンソー剣を拾いつつシートを蹴り飛び、再突入する。
    「んでもって、もう1発だ!」
     透と亜樹が左右に散開し、直後飛び込んだ昼子がチェーンソー剣で袈裟懸けに斬る。
     ソルジャーの胸に深く刻まれた傷口が、炎に焼かれる。しかしソルジャーは怯まず突進し、低空タックルで昼子の腰を取った。
     ソルジャーは昼子の胴をクラッチしたまま背後に回り込み、反り返って昼子を引っこ抜く。昼子を持ち上げたソルジャーはそのままブリッジを効かせ、後方の地面に昼子を叩き付けた!

    ●灼熱
    「大丈夫か昼子! 鉄、頼む!」
     一に応え、霊犬の鉄が地面を転がる昼子に駆け寄る。浄霊眼の回復を受け、昼子はふらつきながらも立ち上がった。
    「まだ立ち上がるか。命を賭してまで戦い、何を成す!」
    「あらん限りの救済を。この身を刃として世の理不尽、不条理を叩切る。それが私の願いであり信念でもある」
     答えた矧が間合いを詰める。
    「力無き信念は踏みにじられるのみ。その刃、この場でへし折る!」
    「その通り……だからこそ!」
     矧は重心を落として踏み込み、ソルジャーの拳打を潜った。
    「もうこれ以上の言葉は不要でしょう?」
     旋転から繰り出される逆水平斬りが、ソルジャーを大きく後退させる。
     その時既に、かるびがソルジャーの背後を取って跳躍していた。
    「骨ごとミンチにしてやらぁ!!」
     かるびは大上段に構えた斧を、渾身の力で振り下ろす。
    「その腕もらったァッ!!」
     ソルジャーが振り返り上体を泳がせるも間に合わず、斧は左腕を一刀両断にして斬り飛ばした!
     一瞬ぐらついたものの踏み止まったソルジャーの眼光が、かるびを射抜く。
    「欲しければくれてやる。だが、安くはないぞっ!!」
     ソルジャーは宙を舞う己の腕を掴み、かるび目掛けて――、
    「なっ?!」
     ――叩き付ける!
     刹那、ソルジャーの上半身が隆起する。腕を失くした肩口から血が噴くのにも構わずパンプアップさせ、ソルジャーは右腕を大きく振りかぶる。
    「させません!」
     かるびを突き飛ばして立ちはだかった亜樹に、ソルジャーがロシアンフックを――、
    「ウラァアアアアッ!!」
     ――叩き込んだ!
     吹き飛んだ亜樹が木に激突し、その太い幹がへし折れる。
     機械装甲の関節を軋ませながら、それでも亜樹は立ち上がった。
    「ま、まだ……せめて、あと一撃っ……!」
     息を吸い込む。駆動音が唸る。ゴーグルが紅に輝く。
     瞬間、亜樹が跳んだ。ソルジャーの直上を取った亜樹は、バーニアを全開にしてソルジャー目掛け急加速する。
    「Grrrahhhhhhh!」
     初速からトップギアに乗った亜樹の飛び蹴りを、ソルジャーは腕を上げてガードする。勢いまでは止めきれず大きく後退するも、砂塵を巻き上げ踏み堪える。
     亜樹はガードの上を蹴り跳ねるとスラスターに点火、弧を描く炎を纏いながらの回し蹴りでソルジャーを薙ぎ払う。
    「今です!」
    「合わせます!」
    「一気にいくぜっ!」
     矧とライン、透が同時に飛び出した。3人は散開してソルジャーを包囲し、一気に攻め立てる。
     透がガトリングを乱射してプレッシャーをかけ、
     ラインが踏み込み炎を纏わせたウロボロスブレイドを振り下ろし、
     矧が炎を宿した黄泉戸大神の抜き胴で駆け抜け、
     ラインが刃を返して水平斬りを叩き込み、
     矧が逆手に持ち替えた黄泉戸大神で背後を突き、
     透が飛び込みガトリングガンの銃口を突き立てる。
    「くらえっ! 獅子の弾丸、アウレアバーストっ……!!」
     透がソルジャーの胸に銃口を押し込み、トリガーを引く。
     ゼロ距離射撃に荒れ狂う弾丸に、斬撃がソルジャーに刻みつけた炎が触発され、爆裂した!
     ソルジャーがよろめき後退する。直後、爆煙を引き裂き現れた昼子がソルジャーに飛びかかる。
     昼子は回転で螺旋と化しながら突っ込み、ソルジャーの土手っ腹に手甲を捩じ込む。昼子はそのまま拳を突き上げ、コークスクリューのアッパーでソルジャーを打ち上げた。
    「こいつで終わりだ! 決めてやれよ、ヒーロー!」
     一と爽太そしてかるびは、既に並んで高く跳躍していた。
    「ズバーンと決めてやるぜ!」
    「燃えるハートのバァアアニングキック!」
    「ヤキニクゥゥゥゥゥゥ!!!」
     跳躍の最頂点で、天地逆転してから旋転で勢いをつけて脚を振り下ろす、3人の動きがシンクロする。
     3人は逆巻く炎を纏い、灼熱の矢と化して急降下しソルジャーを――、
    『いっけぇええええええっ!!』
     ――ブチ抜いた!!
     着地した3人が派手に地面を抉り、焼かれた地面が煙を上げる。その背後、断崖絶壁の下へとソルジャーが墜落する。
    「グローバルジャスティス様に栄光あれ……!」
     海中に没したソルジャーが爆発し、墓碑代わりの水柱が立ち上った。
     矧が1つ息をつく。
    「皆さん、お疲れ様でした。ケガの具合はどうでしょうか?」
     矧は仲間の無事を確かめてから、柵から身を乗り出して海を見下ろすが、そこにあるのは溶けかかった只の氷の欠片くらいだった。
    「ソルジャーサンボ……敵ながら、勇敢な兵士でした」
     亜樹は呟いて海を見つめる。出来る事なら一騎打ちがしたかった、という言葉は胸の内に留めておく。
     兵者が散った海に、亜樹は敬礼を捧げた。

    作者:魂蛙 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月11日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 13/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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