イフリートが占有する源泉付近にこれまで現われた、多数の眷属達。
だがその出没は、決して偶然のものではなかったという。
その事実を武蔵坂学園に告げたのは、イフリート『クロキバ』であった。
「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
そう――実はその裏に潜んでいた黒幕は、ノーライフキング。
クロキバは屍王の邪悪な儀式の一つを掴み、それを潰したというが。すでに儀式は終了していたのだという。
よって、源泉にいるイフリートを、多数のノーライフキングの眷属が襲撃してくると思われる。そのためクロキバが、武蔵坂学園に依頼をもってやってきたのだ。
「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
イフリートを襲撃する眷属の数は、恐らく多数に及ぶ。いくらイフリートとはいえ、その数を退けるのは困難だろう。
なので今回は、その眷属の撃退を武蔵坂学園の灼滅者達に手伝って欲しいのだというが。
「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
その際、源泉にいるイフリートも灼滅者と共に戦うと、クロキバは言う。
そして出来るだけ敵を源泉に近づけずに倒してほしいと付け加えた後。
「ヨロシク頼ム」
クロキバは改めて、そう灼滅者達に『お願い』したのだった。
●
「夏休みに温泉でのんびりしたーって人もいると思うんだけど。またもう一回、みんなには温泉に行って貰うことになっちゃったみたいだね」
飛鳥井・遥河(中学生エクスブレイン・dn0040)は、集まってくれてありがとーと灼滅者達にへらり笑んだ後、早速事件の概要を語り始める。
「実はクロキバからね、イフリートのいる源泉に、ノーライフキングの眷属の襲撃があるっていう連絡が来たんだ。サイキックアブソーバーの予知でも同じ事件が予知されたから、この襲撃が行われるのは間違いないよ」
そして今回は源泉にいるイフリートも灼滅者の作戦指示に従って行動をしてくれるというので。協力して、ノーライフキングの眷属を撃退してほしい。
「みんなに向かってもらう源泉にいるイフリートは、沖縄のシーサーに似た見目をした、もふもふな赤いたてがみの『ティダ』っていうイフリートだよ。ノーライフキングの眷属は数か所から現れて源泉を目指し進軍してくるから、敵が合流してから源泉で迎え撃つこともできるし、眷属達が合流する前に各個に撃破する事も出来るよ」
眷属の群れに偵察を出し確認したり、協力関係にあるイフリート『ティダ』に適切な指示を与えたりなどしてうまく立ち回れば、敵を撃退することができるだろうが。
「クロキバからね、源泉に敵を近づかせないように撃退してほしいって要請があったんだけど。これを実現するためにはね、こっちも人数を分散して、それぞれ各方面から源泉にやってくる敵と戦わなければいけなくなるよ。でも距離が離れるほど、他の戦場の救援に駆けつけることは難しくなっちゃうから。どう作戦を立てて、どんな風に立ち回るか、みんなに考えてほしいと思うんだ」
それから遥河は次に、具体的な敵の詳細やその進軍ルートを説明する。
「眷属達はね、Y字路になってる道の左右から、同時に源泉へと向かってくるんだ。この左右の道はどちらも戦闘に支障のない程度の幅はあって、障害物もないし視界もひらけてるよ。敵はそれぞれの道に各8体ずつ群れをなして進軍してくるから、うまくそれぞれ迎え撃てればその分有利になるかもしれないし、源泉から離れたところで敵を撃退できるんだけど。でもさっきも言った通り、その際は、もうひとつの戦場の救援に駆けつけ難くから気をつけてね。そしてY字路の交差地点は、かなり広くてみんなで充分戦えるんだけど。一気に16体の眷属の相手をすることになるし、源泉にも近くなっちゃうね。どこでどう敵を撃退するかは、みんなにお任せするよ」
そして遥河は、修学旅行の時の沖縄土産だという赤いシーサーぐるみをもふもふしつつも、続けて、共闘するイフリート『ティダ』について語る。
「ティダはね、よく言えば無邪気で……ぶっちゃけていえば、イフリートの中でも頭が良くないよ。気に入った人にはもふもふ尻尾を振って懐いてくるし従順なんだけど、気に入らなかったり敵とみなした相手には容赦がないし、好戦的なんだ。皆と一緒になったばかりの時のティダは、『気に入って仕えてるクロキバから言われたから、灼滅者達と一緒に戦う』って感じみたいだから。あとはみんな次第で、ティダの行動も変わってくるかも。ティダは戦闘になれば、イフリートのサイキックとバトルオーラのサイキックを使うよ。決して頭は良くないけど、体力や腕力はあるから、上手く指示を出すことができれば頼もしい戦力になるだろうし。扱い方を間違えたら手が付けられなくなる可能性もあるから……ある程度、慎重にね」
遥河は、ティダに似ているという赤いもふもふシーサーぐるみを手に、改めて皆を見回して。
「裏で糸を引いているのは、強力なダークネス・屍王みたいだけど。油断せずに、気をつけて眷属を倒してきてね!」
いってらっしゃい、と再び笑みを宿しながら、灼滅者達を見送るのだった。
参加者 | |
---|---|
佐藤・とき(コウノトリ・d01561) |
由井・京夜(道化の笑顔・d01650) |
伐龍院・黎嚇(アークビショップ・d01695) |
枝折・優夜(咎の魔猫・d04100) |
緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142) |
水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774) |
イヴ・アメーティス(ナイトメアキャット・d11262) |
遠野森・信彦(蒼狼・d18583) |
●共闘者
赤いふわもこのタテガミに、大きな口。
立派な牙と見上げる程の巨体は思わず圧倒されてしまう。
灼滅者達の目の前にいるのは、紛れもなくダークネス。
だが今回倒すべき敵は、ふわもこ尻尾をフリフリ揺らすこのイフリート・ティダではない。
(「……イフリートから協力を依頼されるとはね」)
(「淫魔に続いて今度はイフリートか……」)
イヴ・アメーティス(ナイトメアキャット・d11262)と伐龍院・黎嚇(アークビショップ・d01695)は、赤いシーサーのようなイフリートをじっと見つめる。
クロキバが武蔵坂学園に持ちかけてきたのは『共闘』。『命令』ではなく『お願い』。
複雑な心境ではあるものの……やはり、無碍には扱えない。
(「今のところ敵対する気はないみたいだし、ね。一先ず協力して眷属たちを吹き飛ばしましょう」)
(「あまり敵愾心を剥き出しにしては作戦に支障が出る、機嫌を損ねないよう気をつけようじゃないか、ふん」)
倒すべき敵は、屍王の放った眷属。
イヴはとりあえず今回は協力しようと、ティダへ近づいて。
本来敵対すべき相手との共闘に鼻を鳴らしつつも、ちょっぴりティダとの距離をはかりかねている黎嚇も、敵意を抱かれぬよう振舞う。
(「共闘、か。正直、イフリートに対してそれほど恨み辛みはないし」)
宿敵ではあるものの。個人的な恨みはなく、イフリートの群れにも興味があるし。
それにこれで敵になる存在が減らせるのなら、望むところだ、と。
枝折・優夜(咎の魔猫・d04100)は普段無表情であるが、笑顔を頑張って。
「初めまして、枝折です。今回はこちらにお邪魔して、お手伝いしに来ました」
友好的な関係を築くべく、ティダに挨拶を。
そんな優夜に、ティダもぺこり。
『オレ、ティダ、イウ。イフリート。クロキバ、オマエラクル、イッテタ』
「隷属をたくさんふっ飛ばして、クロキバさんに褒めてもらおうか」
「クロキバさんの為に一緒に頑張ろうね」
ティダから名前が出たのを機に、優夜と共にさり気なくクロキバに触れてみる由井・京夜(道化の笑顔・d01650)は、素直に手伝っていいものかちょっぴり悩むも。
(「だけど、ある程度友好的に接してきてくれてる訳だし、お手伝いしといた方が得なのかな」)
それに何よりも。
(「ティダが凄くかわいいし! いや、カッコイイ?」)
ティダのもふもふを撫でたくて、構いたいのです!
(「難しいことはよくわからないけど、ダークネスと共闘ってなにか大きな一歩な気がするよ」)
この戦いが無事に終わったら、ティダは撫でさせてくれるかな……と。
ダークネスとの共闘とティダのふわもこ毛並みに期待しつつも積極的に話しかける、佐藤・とき(コウノトリ・d01561)。
でもまずは共闘するため、そしてもふもふ撫でるためにも!
「一杯食べて、一緒に頑張って、敵を倒しましょう!」
灼滅者達は、ティダと友好を深めるべく差し入れを。
他の皆さんも食べてくださいね? と。水瀬・ゆま(箱庭の空の果て・d09774)は大き目の肉巻きおにぎりを皆にも振舞って。京夜も、食べてくれると良いなと、ナゲットを。
(「イフリートと共闘することになるとはな。意外な事態だが、私は敵を撃ち抜くのみだ」)
空飛ぶ箒で周囲を警戒し、戦場の地理等を調べに行っていた緋野・桜火(高校生魔法使い・d06142)も、手土産の骨付き肉をティダへと渡して。
腹が減っては戦はできぬ! 皆で、戦闘前の腹拵えを。
そして貰ったおにぎりを食べながら、遠野森・信彦(蒼狼・d18583)は、解りやすく今回の作戦をティダへ。
「Y字路からそれぞれ敵が来る。分担して敵を倒すので、片方を此方の味方と協力して戦って欲しい。一緒に戦うのは、俺・信彦と、黎嚇、優夜、ゼファーだ」
ひとりひとり、同じ方向へ向かう灼滅者達を指差した。
ティダはそれに、こくこく頷いて。
『ノブ、クロ、ユウ、ゼファ、イッショワカタ』
「んじゃ、よろしく頼むぜ!」
『ブタ、ウルサイ。ゾンビ、クサイ。キライ。タオス』
信彦の言葉にもう一度こくりと首を振った後、貰った肉をほくほく食べながら、大きく尻尾を振ってこう付け加えた。
『オレ、ニク、スキ』
どうやら、差し入れが気に入ったらしい。
「美味しい? ならよかった」
そんな、獅子というよりも巨大な犬みたいなティダを、微笑ましく見つめながらも。
もう一度箒で偵察に言った桜火から、敵の姿を確認したことを聞いたゆまは。
(「ダークネスさんとはいえ、助力を求めて来た手を振り払う事はできません」)
撃退、致します――そう表情を引き締めて立ち上がる。
ティダと一緒に、宿敵・屍王の眷属を殲滅させて。源泉を、守るために。
●業火の獣
Y字路から二手に分かれて。
「……いた」
事前に桜火が調べておいた地形を利用しながら進んでいた灼滅者達は、身を潜め足を止める。
未来予測通り、敵は8体。
先手を取るべく待ち構え、迎撃しようと……そう思った、瞬間だった。
『テキ。ミツケタ、タオス!!』
「!」
――ウォオオオォォオオオォォ……!!!!
刹那響いたのは、炎獣の咆哮。
そして一気に駆け出し、ゾンビへと鮮烈な赤の炎を見舞うティダ。
先程の無邪気さは微塵も感じられず、その姿は、牙を剥き出しにした獰猛な獣。
だが今回の彼は、共闘相手だ。
「いこう!」
思わぬティダの先行とその炎の威力に一瞬驚くも、すかさず続く灼滅者達。
優夜が展開した結界が戦場に構築され、敵の動きを鈍らせれば。同時に動いたゼファーも主人と共に最前線へと躍り出て。
その後方から敵を絡めとるのは、黎嚇が最も好む色――深い闇の様な黒い影。
そして、イフリートと共闘するなんて思わなかったよと、改めて猛るティダの炎を瞳に映して。
「同じ炎の使い手として負けるつもりはねぇからな!」
信彦の繰り出す螺旋を描く鋭撃が、炎獣の牙に負けじと、ゾンビの腐れた身体を抉り穿った。
燃え上がるその心にともるのは、炎使いとしての対抗意識と。
炎の如く猛る炎獣と共闘できるという、胸の高鳴り。
その炎に呼応するように、ゾンビのナイフやバスターピッグの射撃をもろともせず。激しい炎の奔流で、前衛のゾンビをまとめて焼き払いにかかるティダ。
灼滅者達は傷を受けた敵から集中して攻撃を重ね、確実に1体ずつ仕留めていく。
ティダの攻撃力は、味方である事が頼もしいほどに強烈。
だが……頭が弱いせいか、なりふり構わず力押しでひたすら前に前に出ていて。そのため敵に囲まれ、集中攻撃を受けてしまう形になりかけている。
優夜はティダの傍の手負いのゾンビへと、炎纏わせた縛霊手を叩きつけて。その隙に、ゼファーの浄霊眼がティダの傷を癒す。
「頑張ればクロキバが褒めてくれるぞ」
黎嚇も少し周囲が見えるようになればと、眩き光条を放ちながらそう声を掛ければ。
ティダが敵に突っ込みそうになることを危惧していた信彦も、彼の周囲の敵から片付けるようにフォローを。
その甲斐あり、ティダが集中砲火で倒されることは避けられ、また体力のあるティダが前にいることで灼滅者達が倒れることもなく。
手数が敵の半数ほどである分、一気に殲滅とはいかないが。
ティダが攻撃した眷属から、1体ずつ確実に落としていくことにより、戦況に危なげはなく。
ゾンビのナイフが容赦なく信彦の腕を切り裂き、ティダへとバスターピッグの弾丸が雨霰と撃ち込まれるも。
地に滴る血飛沫が小さな炎の華となって戦場に咲き乱れ、その炎の如き血を滾らせ戦う彼等の姿は、生き生きと純粋に戦い自体を楽しんでいるようで。
優夜やゼファーが、時に身体を張って仲間の前へ立ち、敵の攻撃を肩代わりすれば。回復を重視し動く黎嚇が、すかさず傷を癒し、状態異常を敵に付与してその動きを鈍らせる。
そして信彦の炎を纏う強烈な一撃がバスターピッグを討ち、ティダの放った轟炎が残る敵の数を一気に減らした刹那。
ぐんと伸びた優夜の影が猫と成り、バスターピッグを丸呑みにせんと喰らいついて消滅させて。
「ふん、所詮は眷属、伐龍院の相手ではなかったな」
黎嚇の掲げた、刃の如き白き水晶を纏う権杖から解き放たれた悪しきものを滅ぼす光が、残りの敵を全て、跡形なく一掃したのだった。
●進軍阻碍
仲間やティダとY字路で分かれ、もう一方の道を進んでいた5人の灼滅者は。
「!!」
聞こえる獣の咆哮に、一瞬足を止めた。
何か異変があればすぐに箒で飛んでいけるようにと身構える、桜火。
だが恐らくあれは、敵と遭遇したティダの声であろう。
そしてそれは――此方側の開戦を告げる咆哮でもあった。
「! 来たよ」
姿をみせたのは、屍王の眷属8体。だがまだ、灼滅者達には気付いていない。
京夜は皆と視線を合わせ、頷き合ってから。
「此処から先へは行かせる訳にはいかないよ」
「この先に行く事は許しません」
ゆまと同時に、警戒心の薄い敵の足止めにかかる。
戦場と化した空間に張り巡らされた糸と刹那伸ばされた影が、先頭を歩くゾンビを絡めとって捕らえて。
武装解放――そう呟くと共に桜火が構えるバスターライフルから、狙い澄まされた魔法光線が放たれて。戦闘態勢を取らせぬ前に、ゾンビを撃ち抜いてその腕を吹き飛ばす。
さらに続けてイヴが見舞った漆黒の弾丸が、血が噴出しているその身体を毒で蝕んでいく。
そして、戦闘直前に全員に掛ける事こそ叶わなかったが。
「源泉のこと詳しく知らないけど、ここから先へは行かせないよ」
ときはシールドを広げ仲間を支援し、ゆきちも戦場にシャボン玉を飛ばせば。
ようやく灼滅者達に気付いた敵の群れも、ナイフやライフルを構え、容赦なく襲い掛かってくる。
『ウウゥゥ……アアアァッ!!』
「!」
ジグザグに変形したナイフで斬りつけられたゆまの腕に、鮮血がはしる。
だがすぐに、京夜が成した小光輪の盾が傷を癒して。
「ゾンビなど動きが鈍すぎるな」
その隙に、桜火のライフルから放たれた魔法光線が迸り、ゆまのサイキックの力宿る斬撃がゾンビの脳天を真っ二つにした。
数では劣る戦い。出来るだけ素早く敵を減らすべく声を掛け合い、確実に敵を仕留めていく必要があるが。
予め行なっていた偵察と未来予知の利点を生かし、手早く敵を数体減らすことに成功する。
だが、敵もそう容易には倒れてはくれない。
「……!」
ゾンビのナイフがときに傷を負わせ、バスターピックの放った光線が傷を抉る。
無差別に振り回されるナイフは変形し毒を宿し、灼滅者達の身を蝕んで。撃ち出されるライフルの衝撃は命中率が高く、強烈な一撃となる事も稀にあった。
しかし、まだ倒れるわけにはいかないから。
「オレは大丈夫だから攻撃お願いしますねっ……」
ときはシールドを掲げ、自ら回復を施して。ツンデレつつもやはり大切な主を、ふわふわハートで癒すゆきち。
そしてときの傍にいるゾンビに、イヴの手甲型パイルバンカー『Phalanx』が叩きつけられれば。具現化したトラウマに悶え、消滅する。
それでも懲りず源泉を目指し、攻めこもうとする眷属達と。
「おっと、行っちゃダメたよ?」
行かせはしないと立ち塞がる、灼滅者。
イヴは突破しようとする相手の足を止めるべく、死角から放った斬撃で急所を断って。ときも、豚の丸焼きにすべくバスターピッグへ炎を叩きつければ。
京夜が生み出した清らかなる風が、戦線をしっかりと維持する。
戦闘は思いのほか長い時間に渡ったが、戦況は一目瞭然。
「ライフルを使おうと所詮は豚だな」
桜火の狂い無き正確な狙撃が、バスターピッグをモロに撃ち抜き、確実に仕留めて。
「宿敵眷属に情けをかけるいわれはありません。お覚悟を」
伸びたゆまの影が敵を容赦なく縛りつけ、最後の1体に、止めをさしたのだった。
●太陽の獅子
「お疲れさん! これ食っとけ!」
甘くてうめぇだろ? と信彦が差し出したのは、サーターアンダギー。
「それ食える所はさ、お前さんに似た生き物を魔を払う者として崇めてるらしいぜ。その通りだったな、かっこいいな!」
信彦は自分もサーターアンダギーを齧りながら、晴れやかに笑って。
オイシ、と尻尾を振るティダを見て思う。
(「昨日の敵は今日の友、明日はどうなることかね」)
「頑張ってくれたんだね、ありがとう」
「さすがティダくん。一杯倒せたんだね。凄いね~」
ゆまと共に、そう褒めまくる京夜。
そしてティダは。
「……わっ!? うわぁ、もふもふだね!」
褒めてくれたお礼に、ふわもこの赤いお髭で京夜をスリスリ。
ちょっとじゃれてくるには大きくて、下手をすれば潰されちゃうかもだけど。
敵は撃退したし、いいよね!
そんな京夜の様子に、ときもティダに理解できるようお願いを。
「オレ、ティダ、撫でたい、いい?」
『ナデナデ、イイ』
そしてこくこく頷くもふもふを、撫で撫で、ぎゅー。
優夜も便乗して、猫の様に気持ちよさ気に瞳を細めるティダの、ふわふわな頭を撫でてあげて。
もふもふな鬣を撫でたそうに眺めていた桜火の傍に、ティダがころんと無邪気に転がれば。
手が触れそうなほどすぐ傍にある、赤い鬣。
その毛並みに、桜火はそっと触れてみて。
サングラスの奥の同じ色をした瞳を微かに細めた。
そんな無邪気に遊ぶティダの目を見つめ、イヴは改めて礼を。
「……お疲れ様、協力してくれてありがとう。助かったわ。」
でも……ティダもまた、ダークネス。
(「またいつか彼らと私達が同じ戦場に立つとき、その時も彼らとは味方でありたいものね」)
黎嚇も、まだティダとの距離感が掴めずちょっぴり離れた位置で、仮初の共闘者を眺める。
そして。
「……もふもふだな」
触ってみたいが、いやしかし敵だしな、とそわそわ。
だが赤ではなく、好きな黒のもふもふだったらと……そう思った刹那。
(「む!? クロキバは、黒いもふもふになれるのでは……! いやいや、あれをもふるのはありえん」)
黒いもふもふの心当たりに、余計に右往左往。
だが、一番気になるのはセイメイ。
「……セイメイとクロキバ、白と黒か」
まるでオセロのような二人。果たして盤上を埋めるのはどちらの色なんだろうな、と呟いた後。
「奴等がどこから来たか見当はつかないか……わ!?」
ふと黎嚇は、気になった事をティダに訊ねるも。もふもふじゃれられ、ますます対応に困る。
そんな様子に、ゆまは笑んでから。
「ティダさんの赤い毛並み、とっても綺麗です。わたしも赤なの。お揃い。嬉しいな」
自分とお揃いの赤い鬣を、優しく撫で撫で。
『ユマ、オソロイ、タイヨウノイロ』
ティダはそうパタパタ尻尾を振り、素直に撫でられた後。
太陽のタテガミを揺らし、ぐるりと灼滅者達を見回して言ったのだった。
『イッショ、タタカッテ、アリガト』
作者:志稲愛海 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 15/キャラが大事にされていた 0
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