イフリート源泉防衛戦~Clover clover

    作者:雪月花

     夏の暑さと秋の空気が入り混じる頃、武蔵坂学園に依頼をもたらしたのは、あのクロキバだった。
    「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
     彼はそう切り出す。
    「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
     という訳で、灼滅者達を頼ることにしたようだ。
    「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
     ノーライフキングの画策に、イフリートとの共闘。
     奇妙な状況ではあるが。
    「ヨロシク頼ム」
     そう告げるクロキバは、灼滅者達の協力に期待を寄せているようだった。
     
    「……ということで、クロキバから仲間のイフリートのいる源泉に、ノーライフキングの眷属による襲撃が行われようとしている、という話があった。サイキックアブソーバーからも同様の事件が予知されたから、襲撃は間違いないだろうな」
     教室に集まった灼滅者達を前に、土津・剛(高校生エクスブレイン・dn0094)が告げる。
    「ノーライフキングの眷属は、源泉を取り囲むように複数の場所から現れて進軍してくるようだ。眷属達への対処の仕方によっては、有利に戦うことも可能だろう」
     偵察を出したり、源泉にいるイフリートへの指示も含めて上手く立ち回れば、勝利は難しくないと彼は言う。
    「クロキバからは『源泉に近付かせずに撃退して欲しい』といった要請があったが、これを実現するにはこちらも人数を分散し、それぞれの敵と戦わなければならない。
     距離が離れてしまえば、他の戦場で勝利した仲間が別の戦場に救援に駆けつける……事は難しくなるので、各自の判断で行うかどうかを考えて欲しい」
     全ての作戦は、場に当たる灼滅者次第。
     剛はそこに念押しして、源泉と現れる眷族について話し始める。
     この源泉は、とある人の近付かないような山の奥にひっそりと湧き出ているものだ。
    「周囲は起伏のある森といったところか。日の当たる場所に白詰草の咲く、普段は穏やかな雰囲気の場所だ」
     現れる眷族は人型のアンデッドで、それぞれ10体程度の群れが2ヶ所に姿を現すという。
    「アンデッドは大概通常のゾンビと変わらないものばかりだが、パラライズや毒を付与してくるものも何体か混ざっているようだから、気を付けて欲しい。少数が偵察を行って眷属達の居所を確認したら、イフリートと手分けして当たるのが妥当だろうな」
     そして源泉にいる、共闘することになるイフリートについても説明する。
    「フサフサした犬の頭に角が生えたような外見で、胸毛と足の爪が白い『シロツメ』というイフリートだ。こいつは頭は悪くないが、せっかちなところがあるようだから、ずっと待機していろとか長く退屈なことをさせようとすると、そわそわし出して途中で我慢出来なくなるかも知れない」
    「なんだか可愛いイフリートだね」
     灼滅者達と一緒に話を聞いていた矢車・輝(スターサファイア・dn0126)が小さく笑う。
    「だが、お前達全員を纏めた力に匹敵する相手だ。シロツメの性格も考えて、的確な作戦指示を出してやれれば、戦いも楽になるだろうな」
     剛の言葉に、輝は頷く。
    「この戦いの結末は、既にお前達の手の中だ。良い結果を信じて、待っているぞ」
     灼滅者達を信頼の眼差しで見据え、剛は締め括った。


    参加者
    古海・真琴(占術魔少女・d00740)
    篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)
    釣鐘・まり(春暁のキャロル・d06161)
    東堂・秋五(君と見た夕焼け・d10836)
    リュカ・シャリエール(茨の騎士・d11909)
    蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)
    観屋・晴臣(牙竜点睛・d14716)
    柿崎・法子(それはよくあること・d17465)

    ■リプレイ

    ●花咲く森へ
     灼滅者達は山を行く。
     途中には険しい場所もあったものの、そこから比べたら今の道なき道はなだらかにも思えてくる。
     山の手前こそ登山コースにもニアミスしたけれど、そこはいろはが殺界形成で一般人を遠ざけ、事無きを得ていた。
     木漏れ日に透けた緑が揺れ、時々目にする陽だまりには白い花が咲く。
    「綺麗で、長閑な場所ですね」
     釣鐘・まり(春暁のキャロル・d06161)がふんわりと笑う。
     なんか、よく分かんない状況だけど……と呟いた後、動き易くとジャージを着た東堂・秋五(君と見た夕焼け・d10836)は後に続く矢車・輝(スターサファイア・dn0126)を振り返った。
    「矢車、何か不自由なことはないか?」
    「大丈夫。僕のこと、気に掛けてくれてありがとう」
     輝は首を振って微笑む。
    「それより、自分を助けてくれた人達と肩を並べて戦えるのが、今は嬉しいよ」
     会話の中で、秋五は自らの感覚に確信を得ていた。
     和やかな空気の横で、蛇原・銀嶺(ブロークンエコー・d14175)は携帯電話の画面を眺めている。
    「やはり、この辺りだと電波は弱いか……」
     皆番号は交換していたものの、連絡に使えるかは運とタイミング次第か。
     そうこうしているうちに、木々の向こうに赤い姿がちらついて見えた。
    「あ、もしかして」
     篠原・小鳩(ピジョンブラッド・d01768)が緑の瞳を凝らすように、じっと見入る。
    「イフリートとの共闘ですか……」
     ちらりと、古海・真琴(占術魔少女・d00740)も活発そうな眼差しを向けた。
     相手の体躯を予想するに、恐らくもう少し歩かなければならなそうだが。
    「まぁ前にラブリンスターと共闘したこともありますし、これも不思議な話ですが、こういうこともあるのかな?」
     仲間達は奇妙な気分も交えつつ、概ね同じか好意的な考え方をする者が多かった。
    「ボクはイフリートに会うのは初めてだけど『頼まれたからには成功させないとね』」
     依頼について口にしながらも、柿崎・法子(それはよくあること・d17465)はなにやら荷物を抱えている。
     どうやらイフリートへの土産らしい。

    ●森のシロツメさん
    「この先がありますでしょうか?」
     リュカ・シャリエール(茨の騎士・d11909)が指差す方に歩を進めると、ESPを使わずとも木々が疎らになっていく。
     その先の少し開けた場所に、イフリート・シロツメは待っていた。
     立派な二本の角を生やし、凛々しい顔立ちをした……巨大なポメラニアンのような姿で。
    「もふもふ……!」
    「ここまでもふもふとは……」
     ほわーんと夢見るような眼差しの小鳩の側で、リュカも目を見開く。
    「なんや、どないな奴か見て……」
     後列からなんだなんだとやって来た立夏も、思わず動きを止める。
    「見……ちゅうか、ものっそかわええいうか……これ力にならんと、あかんやろ!」
     妙に賑やかな灼滅者達を前に、当のシロツメは不思議そうだ。
    「オマエタチガ、クロガネノイッテイタすれいやーカ」
    「はっ……挨拶に忘れておりました」
     リュカがぴんと背筋を伸ばし、シロツメに挨拶をしたのを切欠に皆の挨拶が続く。
    「クロキバさんからのお願いですし、シロツメさんも私たちを信用してください、ね?」
     内心可愛い! もふもふ! と思いつつ小鳩は神妙な顔で言う。
    「ワカッテル」
     シロツメは丸まった尾を揺らした。
    「クロキバ、アタマイイ。カレガタノンダ、マチガイナイ」
    「白い爪でシロツメ……やはり、クロキバの牙は黒いのだろうか?」
     普段は淡々と受け答える場合が多い銀嶺が、珍しく自分から口を開く。
    「タシカニ、キバクロイナ」
     言われてみればという風にシロツメは答えた。
     真琴も聞いてみる。
    「どうしても守りたかったという源泉、後で案内して貰えるかな?」
    「ミタイナラミルトイイ。モットムコウ、イマミルカ?」
     シロツメの案内で奥へ向かうと、見えてきた突き当たりの岩肌から、湯気が立っているのが見えた。
     湧き出た湯は小さな池程度の窪みに溜まり、溢れた分は小川のように流れていく。
    「チカヅクダケナラ、ヘイキ。デモ、ニンゲン、ユダル」
    「源泉だものね」
     真琴は小さく笑みを浮かべた。
    「潜れる程のお湯はないんですね……」
     溜まっている湯量を眺めて、優歌はこれでは調べようもないと肩を落とす。
    「シロツメは、何故源泉を守護しているんだ?」
    「ココハワレラニトッテ、タイセツナバショ。のーらいふきんぐガアラスト、ヨゴレテ、ワレワレイロイロコマル」
     再び銀嶺が問うと、難しい内容を上手く説明しようとするような口ぶりで告げる。
    「色々……か」
     アバウトな上、何故屍王に狙われているかは要を得ない返答だった。恐らくシロツメの知能的な問題で。
    「どちらにしろ、これ以上はアンデッドを近付けさせない方が良いでしょうか?」
    「そうですね、源泉の側で戦ったら荒らしてしまいますし」
     小鳩と真琴が頷き合っていると、リュカは懐から櫛を取り出した。
     しかし、ピクリとシロツメが空を仰ぐ。
    「キタヨウダ」
     灼滅者達もその感覚に気付いた。
     空間を越えた、アンデッドの出現。
     現れた場所自体は不明瞭だが、東から南に広がる森の何処かだろうことは確かだ。
    「シロツメさん、私もここを護りたい、です」
     幾分険しい目つきになったシロツメを真剣な眼差しで見上げ、まりは口を開く。
    「敵が源泉到達前に倒したいので、索敵を手伝ってくれませんか?」
    「ワカッタ。ワレ、サガス」
    「わっ、と」
     急に身を翻したシロツメの鼻先を、リュカが静止する。
    「シロツメさん、ボク達と一緒」
    「ナニ……?」
    「一人よりも二人だよ、これだけいれば奴らなんて大丈夫なのです☆」
     満面の笑みを浮かべた瑠璃の言葉で、訝しげだったシロツメも「ソレガさくせんカ」と納得した。
    「シロツメさんは、足が速……わっ!?」
     聞くが早いか、リュカは鼻で持ち上げられぽーんと巨獣の背に落とされた。
    「ワレ、ハシルトクイ」
    「出発進行なのです☆」
     その背で瑠璃がきゃっきゃと笑う。
    「いいなぁ……」
     思わずチラチラと熱い視線を送る小鳩。
    「ツカマレ」
    「は、はいっ」
     まりは急かすシロツメの尻尾に掴まり、皆を振り返る。
    「いってきます」
     いってらっしゃいと笑みを交わし。
    「それでは私達も」
     空からの索敵に合わせ、地上を探索する真夜が片手を上げる。
    「あっ、私は忍者じゃないです、一般人ですからー」
     どう見ても一般人ではない身のこなしで、緑の中を駆ける彼女に突込みが追いつかない。
    「では、俺達も南方へ」
     観屋・晴臣(牙竜点睛・d14716)の言葉に真琴も『天狗丸』と名付けた箒を取り出す。
    「空を飛ぶってロマンだよなあ……」
     こういう時、魔法使いは凄いと感心げに見送る秋五を、見上げる輝。
    「秋五さんも飛んでみたい?」
    「そうだな……」
    「無事に終わったら、もふもふさせて貰えるでしょうか……」
    「貰えると、良いな」
     空に想いを馳せる小鳩に、銀嶺もぽつりと零した。

    ●異質な足音、そして戦い
    「ニオイ、ナイ」
    「こちらが風上?」
    「カゼヨクナイ」
     途中まで変な格好で背中に乗せられていたリュカは、体勢を立て直してシロツメの首に掴まっていた。
     曰く「クロキバが仲介してきた灼滅者は、彼のように頭が良いからその作戦を聞いていれば間違いない」という判断らしい。
     空気はまだ、爽やかな深緑が香るだけ。
     尻尾に掴まっていたまりが、ハンドフォンを使って連絡を取る。
    「こちらは、まだ……真琴さん達の方は?」

    「源泉に向かってる訳だから、そろそろ見えても良いと思うんですが……」
     晴臣と範囲が被らないように散開した真琴が、空の上から応える。
     木々は不規則に集まったり疎らになって、草の生えた地面の見える場所も多い。
     時折、地上で索敵している黒い頭も見える。
    「もう少し東寄りに……あ」
     木々の陰からゆらゆらと姿を現した複数の人影を見付けて、真琴はすぐに仲間達に連絡を取った。
    「アンデッドの数は11体。方向は待機地点から――」
     晴臣や真夜と合流し、亡者達の進行方向を予測して待機班と落ち合う地点を決める。

     真琴達から連絡を受けた待機班は、南下する前にいつでも戦闘に入れるよう武装した。
     それまで警戒はありつつ若干の和やかさの残っていた空気も、ぴんと張り詰める。
    「ボク達も出発だね」
     法子が『ディフェンダー』と名の付いた無敵斬艦刀を肩に乗せると、
    「俺は念の為、ここで源泉の防衛を行うぜ」
     取り零しや万一の時の為にと、直哉が最終ラインとして残ることになった。
     数名の持つ隠された森の小路によって、行く手にある茂みが静かに分かれていく。

     その頃、シロツメと索敵を行っていた面々も、虚ろな目で突き進むアンデッド達の姿を捉えていた。
    「イヤナニオイダ」
     灼滅者達を降ろしながら、シロツメは顔を顰めた。
    「あなたの力、貸して下さい」
     まりの言葉に「タノンダノハクロキバ、ワレラノホウ」と前を向く。
    「……オマエタチ、イカナイノカ」
     一緒に待ち受ける体勢の彼らを、チラリと見遣るシロツメ。
    「こうみえても私、なかなかつよいんですよ。一緒に奴らを殲滅しましょうね☆」
     瑠璃がにこっと微笑み掛ける。
    「フム。ワレハドウウゴケバイイ?」
     ちょっと不服そうな言い草は、自分だけで充分と言いたげだが、一応作戦は聞く体らしい。
    「のびのび戦って下さい」
    「ソンビをぶっとばして」
     それぞれの獲物を手にしながら、簡潔に告げるまりとリュカに「ワカリヤスイ」と応えたシロツメの背から、火柱のように一対の翼が噴き出した。
     炎の翼は、灼滅者達にも破魔の力を齎す。
    「オマエタチマデ、モエルナヨ」
     軽口と共に、迫り来る亡者達と激突した。

     南方で偵察班と合流した灼滅者達も、目前にアンデッド達を見据えていた。
    「1体ずつ確実に倒していくようにしましょう、ね」
     明るい森に似つかわしくない者共に、真っ先に槍の穂先を向け、うねる螺旋の勢いを込めて突き刺したのはクラッシャーの小鳩だ。
     並ぶ秋五が眩いばかりの十字架を降臨させ牽制している間に、真琴が除霊結界を張っていく。
     瞬く間に手にした獲物を錆付かせたり、動きが鈍くなる亡者達をさて置き、小鳩に貫かれた1体を銀嶺の影業『Intermezzo』が切り裂いた。
     ディフェンダーとして前に出た法子が炎を纏わせて振るう巨大な剣の一撃を、輝が後方から援護する。
     サポート達の助力もあり、危なげなく1体目が倒れ、攻撃は次の標的へと移っていく。
     攻撃を仕掛けながら、真琴は思う。
     源泉が狙われる訳も何があるのかも分からないけれど。
    (「イフリートにも私たちの存在は無視出来なくなった、ってことなのかな……」)
     今までは困った時の便利屋さんのようだったが、そこから何か変わったかは……まだ見えない。

    「マリさん、ボクから離れないを! 必ず守りをなるますでしょうッ!」
    「はいっ」
     リュカとまりの連携が、亡者達を状態異常漬けにしていく。
     そこを突いたシロツメの攻撃は、通常以上に冴えたようだ。
     アンデッド達の体力を根こそぎ奪うように、炎が燃え盛る。
    「チイサイノニ、ナカナカタフ」
     華奢ながら盾として充分に守りの要になっているリュカに、シロツメは呟いた。
     シロツメに付いて来たサポートのお陰で、目立つ程のダメージもなく亡者の半分は倒れ伏していた。
     生木の焦げる匂いを感じつつ、確信していた勝利は目の前だった。
    「シロツメさん!」
     しぶとく残っていた1体が、最後の抵抗とばかりにシロツメ目掛けて振るった爪を、リュカが受け止める。
     幾重にも固めたガードが、毒を弾いた。
    「これで……っ」
     まりが放ったオーラキャノンで弾き飛ばされた亡者は、もう起き上がることはなかった。

     灼滅者達の前に飛び出した、晴臣のライドキャリバー・ベレトのエンジン音が空回りする。
    「あいつか……!」
     祭霊光で癒しを齎しながら、銀嶺は特定したパラライズを使うアンデッドを皆に知らせた。
     攻撃を集中させていた亡者が倒れると、次の標的はそいつへと。
     毒に侵されたり身動きが取れなくなっても、密やいろは達がすぐに回復してくれる。
    「輝さん、援護します」
    「ありがとう!」
     佐和が前に出て敵を捕らえている間に、輝がマジックミサイルを打ち込み、更に登のフォースブレイクが体力を削っていく。
     殺傷ダメージの蓄積を気にする前に、こちらの班も終わりが見えてきた。
     秋五の影に縛られた亡者に、小鳩がマテリアルロッドを突き付ける。
     荒れ狂う魔力の放出に合わせて、真琴がマジックミサイルを放つ。
     無数の魔法の矢が次々と降り注ぐ中、
    「ボクがトドメに回るのも『よくあること』かな?」
     シールドバッシュで敵を引き付け、仲間を守ってきた法子のレーヴァテインが、死して尚活動し続けていたアンデッドに引導を渡した。
     亡骸を燃やす炎が小さくなり、爽やかな森の匂いが鼻に戻ってきた頃。
    「皆さん……!」
     少女の声がした方へ目を向けると、シロツメと一緒に灼滅者達が駆けて来るのが見えた。
    「オワッテタ」
     シロツメの呟きは、残念なのかやるなという意味を含んだものなのか。
     さておき、リュカは前のめりに小鳩の許へ向かう。
    「コバトさん、ご無事ありましたでしょうか!? 大丈夫、ケガのは?」
    「はい、皆さんと力を合わせて、無事です」
     にっこり笑う小鳩に、リュカも安堵した。

    ●もふっ……?
    「上手くいって良かったな」
     源泉の手前では、直哉がほっとした顔で迎えた。
    (「ダークネスだって生きている。このまま戦わずに済むのなら……」)
     仲良く……という訳ではないが、一緒に戻ってきた灼滅者達とシロツメを見ると、そう思ってしまう。
    (「……なんだかこういうことが続くと、ダークネスと仲間にまではなれないでも、隣人程度の仲にはなれるんじゃないかと思えてくるな」)
     実際はそうもいかないだろうと思いつつ、秋五はシロツメを見遣る。
    「もふもふ……」
    「もふもふ!」
    「もふもふ、です」
    「うおっ、もふもふやん!」
     ……白い胸毛にも脇の方にも、灼滅者達が埋まっていた。
    「コレモクロキバカラ、タノマレタカ?」
     シロツメ自身はよく分かっていないようだが、源泉を守れて機嫌が良いのかもふらせてくれた。
     銀嶺まで控えめにもふっている……。
     ひとしきりもふられた後、リュカに櫛で毛を梳かれながら法子が「ちょっと悪いんだけど、コレの味の感想を聞かせてくれないかな」と取り出した直径50cmの『イフリート焼き』――イフリート型の大判焼き――を口にした。
     因みに中身は、つぶあんこしあんクリームと揃っている。
    「アマイ」
     シロツメはガツガツ食べながらそう言った。
    「そうか、自然には甘いものってあまりないのかな」
     法子が考えている間に、再び場はもふり大会になってしまった。
     木漏れ日差す白詰草の揺れる場所で――もう少し、もふもふタイムは続きそう。

    作者:雪月花 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 6
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