イフリート源泉防衛戦~炎の熊はのんびり屋?

    作者:泰月

    ●来訪者
     ある日、色黒の肌にジャケットを纏った異丈夫が、学園に現れた。
    「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
     儀式?
    「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
     お、おう?
    「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
     我らイフリート?
    「ヨロシク頼ム」
     以上、サングラスの良く似合うクロキバさんでした。

    ●頼まれてしまったよ
    「携帯渡したら電話して来た、なんて事も前にあったものね。学園に直接『よろしく頼む』なんて言いに来るダークネスがいたって、今更驚かないわ」
     そう言いつつ、夏月・柊子(中学生エクスブレイン・dn0090)はすごーく遠い目で灼滅者達を出迎えた。
    「もう聞いてるかもしれないけど、クロキバが来たわ。学園に。堂々と」
     イフリートのいる源泉にノーライフキングの眷属による襲撃が行われようとしている、との情報を持って。
    「サイキックアブソーバーでも、同じ事件が予知されたから、襲撃があるのは間違いないわ」
     襲撃が事実である以上、源泉を守るために参戦する事になった。
    「クロキバからの要請が1つ。源泉に近づかせずに撃退して欲しい、らしいの」
     だが、敵は数ヶ所に別れて源泉に進軍してくる。
     クロキバの要請を聞くなら、こちらも戦力を分けて戦わねばならないだろう。
     その場合、戦場間に距離がある為、どこかの戦場で勝利しても別の戦場に合流するのは難しくなる。
     戦力を分けて各個撃破でも、源泉で迎え撃っても良い。
     どちらにせよ、クロキバの言葉通り、イフリートは此方の作戦指示に従って行動してくれる。
     イフリートへの指示を含めて、各自で考えて決めて欲しいと、柊子は告げた。

    「皆に向かって貰うのは、長野県にある熊の湯温泉って所よ」
     熊が傷を癒したと言う言い伝えもある温泉だ。
     そこへ進軍してくるノーライフキングの眷属の数は、15体。東西と北から5体ずつ進軍してくる。
     どの個体も、攻撃は殴打と毒のついた爪のみ。
     但し、各部隊に1体だけ、他より能力が全体的に高く簡単な指揮を取る個体がいる。
    「共闘するイフリートは、角のある炎の熊って感じの姿ね」
     熊の湯に、炎の熊。場所が似合い過ぎだ。
    「少しのんびりした所があるみたい。戦いになる前は、ね」
     敵を探して走り回るような個体ではない。一人で自由にやらせれば、のんびりと待ち伏せを選ぶ筈だ。
     但し、一旦敵を前にしてスイッチが入れば、全力で敵を殲滅しにかかる。
     それとね、と柊子は続ける。
    「このイフリート、記憶力がとても残念」
     故に、敵を前に我慢させるような指示や、余りに長く事細かな指示だと、忘れてしまい完全に従わない可能性もある。
     聞く耳持たない様な事はないので、上手く噛み砕いて指示を与えてやれば効果的だろう。
    「イフリートと協力なんて、って人もいるかもしれないけど」
     向こうから依頼してきたとは言え、ダークネスに対する感情はそれぞれにあるだろう。
    「でもね。イフリートと灼滅者が協力なんて、黒幕のノーライフキングも驚きそうじゃない? 一泡吹かせてやりましょうよ。それじゃ、気をつけて行ってきてね」
     珍しく少し悪戯っぽい笑みを浮かべ、柊子は灼滅者達を見送るのだった。


    参加者
    海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)
    花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)
    明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)
    垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)
    乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)
    加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)
    灯村・真由美(マジカルマユミン・d13409)
    神宮寺・刹那(狼狐・d14143)

    ■リプレイ


    「凄い硫黄の匂いね……確かに野生の熊にも効きそうだわ」
     辺りに漂う濃厚な硫黄泉特有の匂いに、明石・瑞穂(ブラッドバス・d02578)がぽつりと漏らす。
     熊の湯温泉の特徴の1つは、熊が傷を癒したという言い伝えが生まれる程の、濃厚な硫黄泉である事だ。
    「無事に終わったら、温泉に入って帰りましょうか」
     神宮寺・刹那(狼狐・d14143)の提案に、反対する者はいない。
    「さて、イフリートはどこだ?」
     乃木・聖太(影を継ぐ者・d10870)が辺りを見回す。
     温泉の為にも源泉を守らねばならないが、ここにいる筈のイフリートの姿が見当たらない。
     辺りを探しながら灼滅者達は脚を進める。
    「ねえ、あの影……あれかな?」
     しばらくして、垰田・毬衣(人畜無害系イフリート・d02897)が何かに気づく。
     近寄ってみれば、どべーっと腹ばいに寝そべっている熊っぽい何かだ。
    「ねぇ、キミ、ここのイフリート?」
     そう灯村・真由美(マジカルマユミン・d13409)が声をかければ、首が動いて灼滅者達を大きな瞳で見つめる。
    『スレ、イヤー?』
     途切れ途切れにそう聞いてきたので、頷く一同。やっぱイフリートかこれ。
    「私は、加賀見・えな。これから協力するのだし、貴方の名前が知りたいな。よかったら教えて欲しい」
     加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)が名前を尋ねるも、聞こえていないのか無言でのそりと立ち上がるイフリート。
     彼女にしては頑張ったものの、まだ小声の域だったからかもしれない。
    「アタシは毬衣、元イフリートだよ。今日はよろしくなんだよー」
    「名は刹那と言います、今回はよろしくお願いしますね。これは」
    『グルルッ……ヨロ、シク』
     毬衣と刹那の2人も名乗ると、イフリートはようやく反応して、短く挨拶をした。
    『グル? ……グルゥ』
     手土産です、と刹那が差し出した蜂蜜を、イフリートは小さく唸ってからぺろりと一舐め。
     すると気に入ったのか、そのまま残りも舐め始める。
     どうもこのイフリートは人間の言葉を喋るのは得意ではないらしい。
     ヨロシク、の前に入った唸り声は、もしかしたら名乗ったつもりなのかもしれない。
     それでも、イフリートの中では理性がある方と言えるだろう。
    「熊さんって呼んでいいかな?」
     海野・歩(ちびっこ拳士・d00124)が少し考えて尋ねれば、蜂蜜を舐めたまま、こくんと頷くイフリート。
    「こんな愛嬌のある熊さんも俺達より強いんだ……頼りにしてますっすよ」
     挨拶がてら、頼りにしてる意を示すように花凪・颯音(花葬ラメント・d02106)がぽふんと前足に手を置く。
     そのついでに、颯音の手はそっと前足をもふ。もふもふ。
    (「うわ、手触り最高っす!」)
     実はもふもふ好きな颯音。
     イフリート触りたいなぁとうずうずしてたのが、つい我慢しきれなかったなんて、そんな。
    「あ、いいなぁ。アタシも、もふもふさせて貰っていい?」
    『グル?』
     毬衣が尋ねれば首を傾げるイフリート。
     どうやら、もふもふ、の意味が通じなかったようだが、人の手を気にした様子はない。
    「あ、なら私も」
     刹那も言って、2人で手を伸ばして遠慮なくもふもふ、もふんっ。
     その間もイフリートは蜂蜜を舐め続けて、最後は瓶ごとバリムシャゴックン。
     しばし親交を深めた灼滅者達だが、いつまでもこうしている場合ではない。
    「熊さんは僕とぽちと一緒来て、向こうの敵を倒して欲しいんだよ~っ!」
     東を指差す歩の言葉に、すんなり頷くイフリート。
    「ここを守るため……力を貸して」
     小声で呟いて、えなが戦いに備え、地面に手を添えてこの地の力を蓄える。
    「アタシ達4人は西側ね」
    「ボク達3人は北だね」
     瑞穂と真由美の言葉に頷き合い、それぞれの方角へと向かって行った。


    (「イフリートと共闘かぁ。嬉しいんだよ!」)
     内心の嬉しさを表すかの様に、狼犬に姿を変えた毬衣は慣れた様子で山林を駆ける。
     その横には、影の犬とコーギーに姿を変えた颯音が併走していた。偵察目的での先行。
     とは言え、あくまで姿を変えただけで、灼滅者だ。聴覚や嗅覚が犬並みになるわけではない。
     うっかり敵に見つからぬ様、颯音がルートを選び、木陰や茂みに隠れながら素早く慎重に進む。
    「まさか、イフリートと肩並べて戦う日が来るとは思わなかったわぁ」
     その2人の後方では、瑞穂が間延びした口調でポツリと呟いていた。
    「まあ、私も思ってなかったですけどね。これはこれで良い経験になると思いますが……気になりますか?」
     隣を歩く刹那の問いに、瑞穂は首を横に振る。
    「ま、いいんじゃない? ほら、よく言うでしょ。敵の敵は味方、ってね」
    「成程……おや?」
     と、その答えに刹那が頷いた所で、先行していたワンコ姿の2人が突如駆け戻って来た。
    「おかえり。いたの?」
    「いたっすよ! 前の木立の向こう側に」
     瑞穂の問いに、人の姿に戻った颯音が小声で告げる。
    「多分まだ気づかれてないと思うけど、もっと広い場所を探す時間はなさそうだよ」
     毬衣が前方を見据えて告げる。茶色い犬の着ぐるみ姿の彼女は、変身をそのまま大きくした様な感じだ。
    「OK。片っ端から蜂の巣にしてやりましょーか」
     瑞穂は、いつの間にかポンプアクション式ライフルを構え銃口を前に向けていた。
     待った時間は数秒か、数十秒か。
    「一番は貰いますよ!」
     音を立てて木々を掻き分け姿を現したアンデッドに、刹那が真っ先に突撃した。
     同じ頃。
     にゃ~んっ♪
     イフリートの足元に猫が一匹。
     一度すり寄ってから、くるんと回って歩の姿に。
    「わふ~。熊さん、敵を見つけたよ。もうすぐ出てくるよっ!」
     偵察から戻って来た歩は、イフリートとその傍らに控える相棒の霊犬ぽちを撫でながら告げる。
     少し経てば、前方の木立からガサガサと音がして、アンデッドの手足がぬっと出てきた。
    『グルルル……ッ』
     イフリートも気づいて、低い唸り声を上げる。
    「最初は、角の攻撃からにして、一体ずつ倒していこうねっ」
    『グルォォッ!』
     そう指示する歩の言葉が終わるか終わらないかの内に、咆哮を響かせイフリートは猛然と駆け出した。
     どこか遠くの方で、ドーンッと衝撃音の様なものが響いたのが聞こえた。
    「東の方……海野くんとイフリートだ」
    「お待たせ。敵を見つけた」
     えなが小さく呟いた言葉に被さる形で、足早に戻ってきた聖太が2人に報告する。
     彼は、他の2組とは違い、人の姿のまま偵察に出ていた。
     とは言え、彼の前では山の草木も障害にならない。安全な小路を作ってくれる。
    「ここで連中を迎え撃とう。ここなら上を取れる」
     3人は息を潜めて敵を待つ。
    「こんなに一斉に動き出すなんて何が起こるんだろうね」
     護符揃えを手にした真由美が、呟く。
    「狙いは地脈?」
     と首を傾げれば、髪に結んだ鈴がチリンと僅かな音を立てた。
    「まあ、ダークネスの頼みを聞くのは灼滅者として矛盾してるとは思うけど、それはそれこれはこれ、だ」
    「――来た」
     聖太が答えたその時、短く告げたえなが魔導書を手に木陰からいち早く飛び出す。
     その動きに2人も続いて、木陰から飛び出す。
     放たれた禁呪によって炎に包まれるアンデッドに、手裏剣と護符が飛来した。


     アンデッドの拳が、颯音の頬を捉え、爪が食い込む。
    「痛ぇ……ま、効いてないんっすけどね!」
     ニヤリと笑みを浮かべ、颯音はオーラを纏わせた両の拳を何度も叩きつける。連撃には連撃だ。
    「烏羽! 喰らいつくんだよ!」
     颯音が跳び退いた所に響く毬衣の声。
     応えて、狼の形を取った影が膨れ上がり、アンデッドを飲み込む。
     見せたトラウマは、生前の何かか死の瞬間か。
    「遅いですよ」
     刹那がマテリアルロッドを敵の胴に軽く触れさせる。
     流し込んだ魔力がアンデッドの体内で爆ぜて、内からアンデッドを粉々に吹き飛ばした。
    「はいはい、回復はバッチリするから任せて頂戴」
     瑞穂が向ける銃口から放たれる裁きの光条。悪を滅ぼす光も灼滅者にとっては癒しと言う救いとなる。
    「助かるっすよ」
    「なーに。医者は壊すのではなく治すのがお仕事、ってね」
     振り向いた颯音にきびきびと応える瑞穂。
     先程あぁは言ったが、実の所、颯音のダメージは言うほど軽いものではなかった。
    「手早く片付けましょう」
    「がぅっ! 焼き切るよ!」
     刹那と毬衣が、共に炎を纏わせた刃を手に敵へと駆けた。

     イフリートを取り囲む様に展開したアンデッド。
     その一体の拳がイフリートを捉える直前、割り込んだ影がイフリートを守る。
    「わふ~、ぽち、熊さんを守ってくれてありがとうなの~っ!」
     相棒に礼を言いながら、歩の足元から伸びた影が、たった今攻撃を遮られたアンデッドを足元から切り裂く。
    「熊さんっ、今度はあいつを燃やしちゃえ~っ!」
    『グルァァッ!』
     歩の飛ばす指示に大きな咆哮で応えて、炎を纏った剛腕を振り下ろす。
     影に切られた上に体の半ばを焼き潰されたアンデッドは、それ以上動く事はなかった。
     東の戦線は順調そのものだ。
     歩は、自身とぽちはフォローに徹し、イフリートを攻撃に専念させていた。
     彼の出す指示は攻撃対象の指定と、サイキックの交互使用。
     どちらもイフリートでも考えつきそうな事ではあったが、故にイフリートも素直に従っていた。人間でも、自分の考えに近い指示は受け入れ易いものである。

    「緩慢な動きだ」
     聖太がオーラを纏わせた手裏剣を放つ。
     しかし敵は体を貫かれても痛みを感じる事はなく、アンデッドの腕が1つ、2つと伸びてくる。
     身を捩って1つを躱すも、もう1つの腕が伸びて聖太の腕を掴んだ。爪が食い込む。
     半ば腐った腕の持つ毒がじわりと彼の体を蝕み始める。
    「乃木くんっ! ……くっ、邪魔だ!」
     えなの持つ魔導書が輝き、アンデッドに原罪の紋章を刻み付ける。彼女もまた、アンデッドの爪を受けている。
     とは言え、2人の傷は深くない。
    「符よ! 敵の心を惑わせ!」
     故に真由美は、符を放つ。護りの符ではなく、敵の心を惑わせる攻撃の符を。
     攻撃を重視する聖太、守勢を重視するえな、後方で癒し手を担う真由美。
     それぞれ別々の役割を担う、バランスの良い構成。
     だが、敵を倒すのに時間もかかっていた。
     接近戦しか出来ないアンデッドとは言え、ノーライフキングが送り込んだ対イフリートの戦力だ。
     3人の灼滅者の攻撃にも幾らか耐える程度の力はある。
    「こちらが不利か……後退しながら戦って、他チームと合流しよう」
    「いや、一体ずつ確実に倒して行こう」
    「ううん、敵の数を減らした方がいいよ」
     えなが作戦を提案するも、聖太と真由美にはこの場から後退と言う考えがない。
     敵の方が数が多いのは、事前に判っていた事だ。
     どう戦うにせよ、方針を一致させなければバランスの良い構成も長所を活かしきれない。
     1体倒す頃には、3人は明らかに押され始めていた。


     繰り広げられる3箇所での戦い。
     最も速く決着が着いたのは、東側。
     何しろ、ダークネスの強さは灼滅者数人分。
     そこに歩とぽちが加われば、負ける要素はほぼ皆無。
     歩が網状の霊力で敵を縛り上げた所に、ぽちが飛びかかり斬魔の刃で切りつける。
    「熊さんっ、とどめ、やっちゃえ~っ!」
     その言葉に応えてイフリートが突進。炎を纏った角が最後に残った敵を貫いて、焼き尽くす。
    「熊さん、すっご~いのっ!」
     目を輝かせた歩の言葉に、グルルンッと満更でもなさそうな唸りで応えるイフリート。
    「戻ろう、熊さんっ」
     1人と2匹が意気揚々と源泉に引き上げる頃。
     西側の戦いも佳境を迎えていた。
     瑞穂が癒しに専念し続けたが、それでも3人のダメージはかなり蓄積している。
     されど、残る敵は僅か一体。
    「烏羽! 押さえるんだよ!」
     肩で息しながらも毬衣が傍らの影に命じれば、それは纏わりついて敵の動きを阻害する。
    「終わりですっ!」
     刹那が、上段に構えた長大な刃を真っ直ぐに振り下ろす。
     扱い易さよりもただ破壊力を追求した刃は、邪魔な木々ごとアンデッドの体を斬り裂いた。
     颯音の手にする此花朔耶――神話の女神の名を冠した杖から放たれた魔法の矢が、吸い込まれる様にアンデッドを貫く。
    「だめ。アイツ、まだ!」
     それでもまだ倒れない敵に、毬衣が顔をしかめて声を上げる。
     直後。
    「ったく、コイツらときたら死んでも生きてるってんだからタチ悪いわぁ」
     後ろから瑞穂の声が聞こえた。
    「医学にとっての冒涜だってーの」
     声と共に迸った光がアンデッドの頭を消し飛ばす。
    「灰は灰に、塵は塵に。冒涜されし哀れな死者は、名も無き砂に……っすね」
     力尽き、人の形を失い崩れゆく死者に、颯音が小さく呟いた。
     同時刻。
     北の森に光が溢れる。
    「加賀見さん!」
     真由美の放った暖かな癒しの光が、えなの傷を癒していく。
     その光が収まった後も、彼女の両手は輝いていた。
     煌々と。
    「はっ!」
     オーラを纏った両拳の連打を受けたアンデッドが体のあちこちで鈍い音を立てて、よろめく。
     既に1度、気力で立ち上がった後だと言うのに、何処にこんな力が残っていたのか。
    「頼もしいね。俺も負けちゃいられないな」
     聖太が放つ魔力を込めた手裏剣が、矢の様に一直線に飛んでアンデッドの頭を貫いた。
     直後。
    「!!」
     崩れて消えゆく体を突き破って、伸びてきた別の腕がえなを打ち据える。
     更にもう一体が、えなに向かって拳を振り下ろせば、かくん、と膝が崩れて、そのまま前に倒れた。
     3体の敵を倒すまで耐え抜いたのだ。えなに2度目の凌駕を起こす気力は、流石にない。
    「くっ……灯村さん、加賀見さんを!」
     聖太が立ちはだかり、真由美がえなを下げる時間を作る。
     が、聖太もかなり疲弊した状態だ。残る2体のアンデッドも手負いとは言え、正直、余裕はない。
    「このままやろう。灯村さん、回復は任せるよ」
     それでも、聖太はここから攻撃に専念する覚悟を固めて、それを告げた。
    「うん、判ってるよ!」
     真由美もそれに応えて頷く。
     2人で回復し続けて耐えるだけでは、勝利には届かないのは、判っていた。
    「ニンジャにかかればアンデッドと言えど負ける――それを教えてやる」
     笑みすら浮かべ、聖太が言い放つ。
     アンデッドの周囲の気温が急速に下がって行く。
     半ば凍りついた腕が聖太を爪で引っ掻くも、直後に真由美が癒しの光を輝かせる。
     2人の瞳に、諦めの色は微塵もない。

     それぞれの戦いを終えた灼滅者達は、万が一に備え源泉の守りを固めていた。
     この場にいないのは、あと3人。
    「あ、戻って来たよ!」
     それに最初に気づいたのは毬衣だった。
    「苦労したみたいねぇ」
     瑞穂の言葉に、傷だらけの聖太と、えなを背負った真由美は頷き返す。
     見事に敵を近づけさせる事なく源泉を守りきった灼滅者達は、イフリートに別れを告げ、疲れを癒す為に麓の温泉へと向かった。

    作者:泰月 重傷:加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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