イフリート源泉防衛戦~熱海のバーサーカー

    作者:相原あきと

     依頼を持ってきた男が誰なのか……だが、それはすぐにわかる事となった。
    「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
     男から感じる威圧感。
     そう、依頼を持ってきた男は……イフリート・クロキバ。
     クロキバは語る、同胞のいる源泉を襲撃してくる眷族達を共に撃退して欲しいと。
    「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
    「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
     それはイフリートにとって都合の良い共闘であろう。
     しかし、ダークネス・眷族を倒す機会をむざむざ不意にするわけにもいかない。
     だから学園は是と答えたのだ。
    「ヨロシク頼ム」
     クロキバの言葉は感謝か、それとも……。

    「みんな、イフリートのクロキバが、やっかいな依頼を持ってきたの……」
     集まった灼滅者達に鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が説明を開始する。
     クロキバの話では、イフリートのいる源泉にノーライフキングの眷族による襲撃が行われようとしているらしい。
     サイキックアブソーバーの予知でも同じ未来が予見されたため、この襲撃が行われるのは間違い無いとの事だ。
    「みんなに行って貰いたいのは熱海よ。熱海の源泉にいるイフリートと協力して、その眷族達を撃退して欲しいの」
     クロキバの話によれば、熱海の源泉にいるイフリートは1体で、今回は灼滅者に協力してくれると言うのだが……。
    「協力する気はあると思うんだけど……イフリートって頭があんまりよくないじゃない? 難しい指示を出しても従ってくれるか怪しいのよね……」
     珠希が腕組しつつ本音を言う。
     敵が目の前にいるのに闘わずに我慢しろ……とか、他の灼滅者が戦っているのに待機していろ……とか、
     正直、その程度の指示すら、どこまで我慢して貰えるかわからないと言う。
    「あと、クロキバからは『できるだけ敵を源泉に近づけずに倒してほしい』って言われてるけど……」
     源泉が汚れると困るとの話だが、背に腹は代えられないし、そこは現場の判断に任せると珠希は言う。
    「ノーライフキングの眷属は、源泉の南西と南東と南の3か所に現れ、時間差で源泉を目指して進軍してくるわ。源泉で合流する3グループを迎え撃つ事も可能だし、合流前に各個撃破も作戦によっては可能になると思う」
     ただし、各個撃破を狙う場合は、チーム同士の距離が離れてしまえば、勝利後に他のチームに救援に駆け付けるのが難しくなるので、その点は注意して欲しい。
     珠希は次に、熱海に現れる眷族について具体的に説明する。
    「現れる眷族はどれもアンデットよ。リーダーはいなくどれも同じ強さね」
     そう言うと珠希はホワイトボードに図を描きだす。

     南東:4体、「南西」と同時に出現して源泉を目指す。
     南西:4体、「南東」と同時に出現して源泉を目指す。
     南:6体、「南西」「南東」が出現してから2分後に出現し源泉へ進軍。

    「アンデット達は、自分達と同等かそれより1人少ないぐらいの人数で当たれば足止めできるわ。ただ、相対する灼滅者の数がアンデットより2人少ない場合は差分のアンデットが灼滅者達の包囲を抜けて源泉へと向かっちゃうわ。各個撃破を狙うなら足止めに行く人数を考えた方が良いわ」
     そこまで言うと、今度は協力関係にある熱海の源泉イフリートについて珠希は言う。
    「熱海にいるイフリートは平和的……というのか不明だけど、専守防衛が好きみたいなの……ただ、自身の毛並みに3回傷を付けられると敵味方見境無しに暴れまわる悪い癖があるみたいで……」
     イフリートは3回ダメージを受けると、敵味方関係無く攻撃を開始する。
     ディフェンダーで庇った場合でも、イフリートを毎回100%の確率で庇えるわけじゃないので注意が必要だ。
    「相変わらずイフリートに良いように使われている気もするけど、ダークネスや眷族を灼滅する機会を逃すわけにもいかないわ。みんな、気を付けて行ってきて!」


    参加者
    羽嶋・草灯(三千世界の鳥を殺し・d00483)
    アプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)
    木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)
    久世・瑛(晶瑕・d06391)
    木嶋・央(黄昏を守護する処刑刀・d11342)
    東屋・紫王(風見の獣・d12878)
    桜庭・黎花(はドジッコと呼ばれたくない・d14895)
    ミスト・レインハート(月下に佇む追憶の影・d15170)

    ■リプレイ


     熱海のとある山。
     そこにあるイフリートの源泉から南西にくだった地点に、4人の灼滅者が到着した。
    「義務はなくても義理はある……わけだし、ここでしっかり足止めするわよ」
     桜庭・黎花(はドジッコと呼ばれたくない・d14895)がカードから殲術道具を出現させつつ仲間を見れば、残り3人もカードを解放する。
     源泉に背を向ける形で陣を整えると、すぐに正面の草むらが揺れて4体のアンデッドが姿を現した。
    「まずは一体ずつ確実に倒しましょう」
     機先を制して即座に飛びかかったのは久世・瑛(晶瑕・d06391)だ。巨大に変異した鬼の腕がアンデッドの1体を殴り飛ばし近くの木に叩きつける。
    「合わせるわ」
     追撃するように黎花も同じく鬼神変にて殴りつけ、さらにアンデッドの後ろの木ごとへし折り吹っ飛ばす。
     それでも起きあがるアンデッドの前に、赤い着物がひらりと揺れた。
     ドゴッ!
     アンデッドを衝撃が襲う。
     東屋・紫王(風見の獣・d12878)がフォースブレイクを脳天に打ち込み、アンデッドはビクンと痙攣、そこにアプリコット・ルター(甘色ドルチェ・d00579)のギルティクロスが逆十字決まって動く死体は切り裂かれた状態で動きを止めた。
     灼滅者達の怒濤の攻撃に1体が倒れるが、残り3体のアンデッドが次々に襲いかかってくる。
     1分経過。
     アプリコットは頭の中で作戦を反芻し、この場をお兄様に……自身のビハインドだけ置いて源泉へ向かおうと――。
    「待って」
     呼び止めたのは紫王だった。
    「彼も一緒に」
     紫王がビハインドも連れて行けと言う。
     事前の相談では自分だけが向かうのかと思っていたためアプリコットは戸惑ったが。
    「俺が行くまで、少しでも2人で持ちこたえてくれないかな?」
     紫王が言い。
    「そのお兄さんとペアの方が頑張れるんでしょう?」
    「イフリートを、お願いします」
     黎花と瑛にも言われ、見ればビハインドのシェリオもこくりと頷いた。
    「……はい!」
     強く、一言。
     引っ込み思案な少女は、大切な兄を連れ戦場をあとにするのだった。


     源泉より南東付近。
    「ふふ……」
     ジグザグにアンデッドを細切れにすると同時、思わず笑みがこぼれたのは羽嶋・草灯(三千世界の鳥を殺し・d00483)だ。
     1分が経過、1体を灼滅。
    「ここは央ちゃんよりアタシが行った方が良さそうね」
    「ああ、すぐに俺も行ってやるさ」
     草灯に対して木嶋・央(黄昏を守護する処刑刀・d11342)が答え、草灯はウィンクひとつ残して走り去る。
     残るアンデッドは3体、1体が速攻で倒された事に灼滅者達を強敵と判断したか、どのアンデッドも一斉にガトリングガンを構え3体同時に一斉掃射を開始。
     嵐のように弾丸が降り注ぐ。
     付近の木々の葉が飛び散り、枝が折れ、幹が割れる音が響く。
     やがて、大量の土煙が巻き起こりアンデッド達は撃つのを止めた。
     だが――。
    「時間も無いしさっさと倒させてもらうわよ!」
     土煙から飛び出した木島・御凛(ハイメガキャノン・d03917)が、アンデッドの1体に急接近すると至近距離からオーラをまとった拳の乱打をくらわせる。
     乱打を浴びた1体がよろりとバランスを崩した所で。
     フッ、と空中に2つの影。
     双方ともに巨大な武器をよろけたアンデッドに振りかぶる。
     断、断ッ!
    「あーあ、まっぷたつを狙ったのに」
    「それはこっちの台詞だ! 邪魔すんじゃねーよ!」
     同時に着地し言い争うはミスト・レインハート(月下に佇む追憶の影・d15170)と央。見事な連携でアンデッドの両手を切り飛ばすが、本人達は不満そうだ。
    「それより、央くんはそろそろ向かったら?」
    「ああ、わかった」
     くるりと背を向けて源泉へと向かう央。
    「そっちは任せたわよ!」
     御凛が央を見ずに声をかける。
     アンデッドは無傷が2体に、両腕を失ったのが1体。
     ミストと目で合図をすると2人同時に地を蹴り……――。


     源泉がぎりぎり目視不能な南側に立つのはたった1人。
     アプリコットだった。
     本来敵であるイフリートからの依頼に、戸惑いつつも助けを求められているのなら助けたい――そう願う少女だったが、背後から近づいてくる大きな熱気に、思考の海から意識を引き上げ、背後を振り返る。
    「アプリコットちゃん、お待たせ!」
     やって来た草灯が少女に笑うが、アプリコットはそのすぐ横に並ぶ巨大な焔獣イフリートに体を強ばらせる。
    「大丈夫、温泉を汚されたくないのは同じみたいだし」
     草灯は焔獣の方を見上げ「さっき言った通り、アンデッド1体を全力で焔によるサイキックで攻撃してくれればいいわ」と言うと。
    『グルルルルゥ……』
     とりあえず返事はもらえた。
    「それにしても、アンデッド相手ってつまらないわよね……。そうだ、ねぇ、アンデッドから温泉を守れたら、あなたの自慢の毛並み、触らせてくれないかしら?」
     軽い口調で草灯が言うが。
     ギロリと焔獣に睨まれた。どうやら却下されたらしい。
     つれないわね……とジェスチャーする草灯だが、やがて南の方からアンデッド6体が姿を現す。
    「来ました」
     アプリコットが呟くと、焔獣もズンと右横に並ぶ。
    「3人で6体を相手に……ね」
    「……違います」
     面白そうに言う草灯の言葉を、アプリコットがおずおずと否定。
     アプリコットの右側にビハインドのシェリオが現れる。
    「4人で、です」
    「ふふ……そうね」
     草灯の笑みにアプリコットも微笑む。
     半歩前に出て自分を守る位置に立つシェリオ。
     アプリコットは思う――お兄様がいてくれる。それだけで……私は頑張れる。
    「ソウビセンパイ、イフリートさん、お兄様……行きましょう」
     心なしかいつもより大きめの声、少女の言葉に2人と1体が頷き、アンデッド達へと攻撃を開始した。


     南西。
     瑛のフォースブレイクがアンデッドに命中し、破壊の魔力を連続で叩き込む。
     木に叩きつけられドサリと倒れるアンデッドだが、すぐにぎこちなく立ち上がった。
    「久世君!」
     黎花の言葉に即座にその場を飛び退く瑛。
     ゴウッと炎の弾丸が大地を穿つ。
     見れば別のアンデッドがガトリングガンから炎の弾を解き放ったようだ。
     さらに先ほど立ち上がったアンデッドもガトリングを構え――。
    「まったく、しつこいっ!」
     黎花が自身の影を伸ばして撃とうとしていた1体を縛り上げ。
    「いい加減潰れなさい!」
     ベキベキと黒い影に潰され、そのアンデッドは動きを止めた。
     アンデッド自体はそこまで強くは無かった。
     ただ、攻撃優先で防御を捨てて戦う2人は、そんな雑魚の攻撃でも相当のダメージを受けてしまっている。
     それでも……。
    「あと1体ですね」
    「全力で……殲滅あるのみ!」
     瑛と黎花は、傷の痛みを忘れるよう再び気合いを入れ直すのだった。


     結果から言うなら、灼滅者達の立てた作戦は秀逸だったと言わざるを得ない。
     6体のアンデッドに対し、イフリートの苛烈な一撃と灼滅者達(ディフェンダーとはいえ)の集中攻撃により即座に1体を灼滅。
     さらに封鎖を抜け出そうとするアンデッドをビハインドが妨害、実質5体4として源泉への抜けを阻止していた。
     だが、懸念が無いわけではない。
    「イフリートさんが!?」
     3体のガトリングを3人で防ぎきったが、4人目の攻撃は全員が直撃を受ける事になった。
    『グルルルルゥ……!』
     焔獣が毛並みを傷つけられ不機嫌そうなうなり声をあげる。
     数を減らす事……それが何より優先される。
     そうアプリコットと草灯が思った時だった。
    「イフリートと共闘なんて、ただの使いっ走りじゃねーか!」
     アンデッド達に執行布――央のウロボロスブレイド――が空から襲いかかる。
    「ま、どーでもいい。精々恩でも売るとするさ」
     にやりと笑って央が着地する。
    「イフリートはファイアブラッドからすれば宿敵だけど……」
     もう1人、現れるのは紫王。
    「今は、仲間だしね」
     羽織った赤い着物をひるがえし焔獣の横に並ぶ。
    「これで数もアタシ達が有利ね」
    「はい」
     草灯にアプリコットがうれしそうに返事をした。


     南東。
    「この一撃で……ぶっ斃す!」
     御凛の拳がこれでもかというぐらい最後の1体に叩き込まれる。
     よろりと後ずさるアンデッド。
     だが、御凛は追撃とばかりに距離を詰める。
    「いい加減、眠りなさいよっ!」
     トドメの一撃が顎下に決まり、アンデッドが弧を描いて大地へ落下、やっと動かなくなる。
    「ふぅ……やっと終ったわね。源泉の方に急がないと」
     御凛の言葉にともに戦っていたミストが頷く。
     頭をよぎるは先に源泉に向かった悪友の姿。
     短期決戦を狙って傷も治さず戦い続けたが、源泉はイフリートの件もある、不安要素を上げればキリが無い。
    「大丈夫かな、央くんバーサーク化したイフリートに食べられたりしてないと良いけど……」
    「心配する暇があったら、急いで行くわよ」
     御凛がミストの背中を叩く。
    「そう……だね。うん、早く、合流しないと」


    『ガアアアアアアアッ!』
     焔獣が怒りの雄叫びをあげる。
     アンデッドのガトリングガンが被弾したのだ。
     これで2回目。
     全身の毛が燃えるように逆立ち始める焔獣を見て、やはり動物は動物か……と草灯は苦笑が漏れそうになる。
     もっとも、灼滅者側はかなり気を使って焔獣を庇っていた。
     本音を言えばもう少し庇う要員が欲しかったが、その分は草灯がカオスペインで標的を誘導する事で補っている。
     だが、先ほどのように列攻撃をされるとどうしようも無い。
     だからこそ、その声が戦場に届いた時、焔獣と共に戦う灼滅者達は息を吹き返す思いだったのだ。
    「騎兵隊、到着よっ」
     黎花の声が響き、同時に清らかな風が仲間達を癒す。
    「お待たせしました」
     瑛も現れる。
    「さあ、ここからは私たちも手伝うわ。源泉を守るわよ」
     黎花の言葉に仲間達が頷く。
     援軍はそれだけでは無い。
    「まったく、アンデッドだけでも大変だったってのに……。こんな所でキレ無いでよね?」
     御凛が苛つく焔獣に釘を刺しつつ。
    「央くん! ふぅ、食べられてなくって良かったぁ」
    「おい、どういう意味だよ」
     御凛に続きミストが現れ、央の無事に一安心する(央に絡まれたが)。
     黎花も瑛も御凛もミストも、誰も彼もが傷だらけだった。
     アンデッドを倒した後、回復する暇すら惜しんで駆けつけたからだ。
     敵の攻撃を食らえば、次は倒れる可能性がある者もいる。
     だが、それでも灼滅者達は全員が揃った事に意味があると感じていた。
     心が、昂揚していくのがわかるのだ。
     アンデッドの残りは2体。
    『グルァアアアア!』
     焔獣が吠えると共に炎を纏った爪が一閃。
     同時、9人の影が一斉に攻撃へと転じる。
     すでに戦いはアンデッドの殲滅戦では無い。
     如何にイフリートをバーサーク化させる前に敵を全滅させるか、だ。
     焔獣の炎爪に切り裂かれたアンデッドが吹き飛び、もう1体のアンデッドがガトリングを構える。
     それを視界に捕らえた瑛が影を延ばして敵ごと影で飲み込むと、その影を切り裂くように赤い逆十字のオーラが出現した。
     ギルティクロスを発動させたアプリコットは思う。
     お兄様がいる、皆も来てくれた、仲間と一緒に……。
     ――助けたい。
     ウロボロスブレイドを構え、少女に宿るは明確なる意志。
     逆十字に切り裂かれたアンデッドの前に優しそうな笑顔で紫王が立つ。
     慌ててガトリングを向けようとするアンデッドだが……。
     ドガッ!
     マテリアルロッドで殴られた。さらに――。
     バキッ、ドスッ、ズガッ!
     魔力のこもった紫王の容赦ない攻撃、どさりとアンデッドが動かなくなる。
    「央くん!」
    「ああ」
     ミストが指さすのは先ほど焔獣に吹っ飛ばされた1体だ、それが立ち上がるのをミストに指摘され、央が斬艦刀を構える。
    「今度はずらせよ?」
     央がそう言いアンデッドへと突貫していく。
     すぐ後ろについてミストも駆け――。
    「叩き斬る!」
    「手加減できないけど、勘弁してね?」
     央とミストがほぼ同時にアンデッドの脇を駆け抜ける。
    「……?」
     最初、何が起きたかわからなかったアンデッドだが、全身に十文字に傷が入ると、一気に上下左右、4分割され倒されたのだった……。


    「ありがとう、一緒に戦ってくれて」
     ルーツがわかるのか、持ち前の雰囲気か、紫王の労いに座り込んだ焔獣が「気にするな」とばかりにあくびを一つ。
    「でも正直、ノーガードで戦い続けるのはきつかったわね……」
     ふぅ、と息を吐くのは草灯。
     そんな草灯の背中からふわりと何かが抱き寄せるように。
    「え?」
     焔獣がしっぽで草灯を抱き寄せたのだ。
     驚きながらも、その毛並みの気持ち良さにうっとりする草灯。
     焔獣を見るも視線を併せてはくれなかったが、邪険にするようでもなかった。多少は……認めてくれたのかもしれない。
    「私も……いい、かな?」
     そう言って御凛がイフリートを見上げるが、勝手にしろとばかりに視線を外された。
    「わぁ……」
     遠慮なくもふる事に。さすが自慢の毛皮と言うだけある。
    「どうやら、クロキバさんの言葉に応えるだけでなく、毛並みも守れて良かったみたいですね」
     瑛が微笑むと、焔獣が同意するように「グラァァァ……」と吠えた。
     もっとも――。
    「うおっ!?」
     源泉に近づこうとした央の前に、炎の壁が立ちふさがる。
     イフリートが立ち上がり、俺の源泉に近づくなと言わんばかり。
    「央くん、ダメだよ」
     ミストが焔獣に頭を下げる。
     それでもヒートアップしそうな焔獣を落ち着けたのは黎花だった。
     前に手紙をくれた件で自分が動いた事。
     そして――。
    「教えてもらった温泉、気持ちよかったわ」
     そうだろう、そうだろう、もふもふのしっぽが黎花を優しく包む。
     焔獣と邂逅する仲間達を後目に、1人アプリコットは木にもたれ掛かるように座り込んでいた。
     今回は相談も戦いも気持ちも……。
     ぼうっと仲間達を見つめる少女の頭を、そっと誰かが撫でる。
     ふと見上げるアプリコット。
     ――頑張ったね。
     まるで、そう言ってくれたかのように……。に、1人アプリコットは木にもたれ掛かるように座り込んでいた。
     今回は相談も戦いも気持ちも……。
     ぼうっと仲間達を見つめる少女の頭を、そっと誰かが撫でる。
     ふと見上げるアプリコット。
     ――頑張ったね。
     まるで、そう言ってくれたかのように……。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 6
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