イフリート源泉防衛戦~しゅくてきといっしょ

    作者:聖山葵

    「先日、ノーライフキングノ邪悪ナ儀式ヲ一ツ潰シタノダガ、ソノ儀式ノ目的ハ、我ラノ同胞ガ守ル源泉ヲ襲撃スル為ノモノデアッタ」
     それは、武蔵坂学園にやって来た男の言だが、儀式を潰した自慢話でもなければただの報告でもなかった。
    「敵ノ数ハ多ク、我ラダケデハ撃退ハ難シイダロウ」
     戦力不足を明かし、更に言葉を続けたのだから。
    「モシ、武蔵坂ノ灼滅者ガ撃退シテクレルナラバ、我ライフリートハ、ソノ指示ニ従ッテ戦ウダロウ」
     つまるところ、協力依頼なのだ。
    「ヨロシク頼ム」
     依頼者の名は、クロキバ。この男もまたイフリートだった。
     
    「あのクロキバってイフリートが来たんだって?」
    「ほぅ、耳が早いな、少年」
     呼び集めた灼滅者達の前で説明の準備を始めていた座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は、扉を開けて顔を出した鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)の第一声へ微かに驚きを見せた。
    「どうもイフリートのいる源泉にノーライフキングの眷属による襲撃が行われようとしているらしくてな」
     サイキックアブソーバーの予知でも、同じ事件が予知されたため、この襲撃が行われるのは間違いないらしい。
    「だが、襲撃の迎撃には源泉のイフリートがこちらの指示に従ってくれるのだよ」
     イフリートだけでは厳しい相手でも灼滅者達が協力すれば勝利することも不可能ではない。
    「問題の眷属達は源泉を取り囲むように数か所から現れて源泉を目指して進軍してくる」
     敵が合流してから源泉で迎え撃つこともできるが、眷属達が合流する前に各個に撃破する事が出来れば有利に戦うことも出来るだろう。
    「それには偵察も必要だろうが、相手の動きを確認して上手く立ち回れば」
     この各個撃破も十分可能という。
    「そも、クロキバというイフリートからは源泉に近づかせずに撃退してほしいといった要請があったからな」
     これに応えるにはこちらもいくつかに分かれて眷属と戦う必要がある。
    「もちろん、距離が離れてしまえばチーム同士で味方を救援することは難しくなる」
     そこまでリスクを払ってでも要請に応えるか、それを決めるのは君達次第だ。判断を委ねる形ではるひは更に説明を続ける。
    「君達が向かう源泉に向かう眷属の集団は三つ。北から現れた眷属達は山中を進み、ちょうど東西南北の南を除く三方から包囲する形で源泉にたどり着く」
     故に救援が出来るとすれば、それは北側の眷属を迎え撃つ者のみ。
    「ちなみに、君達と共闘するイフリートは猫の姿をしたイフリートだ」
     やや小型で戦闘力も比例して弱めだが、それでもダークネス。集団の一つを受け持つぐらいの力は持ち合わせているし、二手に分かれた灼滅者達よりも敵の殲滅速度は速いと思われる。
    「ただ、相手はイフリートだ。あまり難しい指示は理解出来ないし、我慢を強いるような指示には従わないことが考えられる」
     これも加味して人数分担と作戦を考えなくてはならないのだ。
    「小型で戦闘向きでもないからか、イフリートにしては臆病なのも気になる点ではあるな」
     連絡及び指示要員をつけておけば上手く作用するかもしれないが、それは一人分人手をとられてしまうと言うことでもある。
    「ちなみに眷属は腐乱した動物型で数は一つの集団が五体ほどだ」
     毒を伴う近接攻撃とBS耐性を付与する自己回復を有し、戦場は木々が茂っていることもあって見通しは良くない。
    「とはいえ、腐敗していることもあってそれなりに臭う」
     臭いがしたら警戒すれば、奇襲を受けることはないだろうともはるひは語った。
    「偵察要員や連絡要員をつくるか、人数分けをどうするかで戦局はずいぶん変わってくるだろうな」

     それを含めて全てが君達次第。
    「些少面倒な話かもしれないが、宜しく頼むよ」
    「あれ、はる姉ちゃんが冗談言わないなんて……」
     送り出そうとしたはるひの方を見ながらそこで和馬がポツリと洩らさなければ、話はそれで終わりだったというのに。
    「少年よ、あれは冗談ではないッ、母性愛だ」
    「え゛」
    「と言う訳で抱きしめさせて貰おう」
    「ちょ、助け」
     盛大な自爆からエクスブレインに追いかけ回された誰かが出発したのは、この数分後。捕まって、抱き心地を暫く堪能された後のことだったそうな。
     


    参加者
    ジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)
    白鐘・衛(白銀の翼・d02693)
    天宮・優太(暁月・d03258)
    小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)
    現世・戒那(天ツ風・d09099)
    小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)
    アイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)

    ■リプレイ

    ●にぃ
    「ダークネスが私たちを頼ってくるなんて……それだけ切羽詰っているということでしょうか」
     獣道というのが相応しい道を歩きつつ、シャーロット・オルテンシア(深影・d01587)は呟いた。
    「にゃんこイフリートかあ……いいね、これが終わったらもふもふさせてもらおう」
    (「もふもふとの共闘依頼、こういうのを待っていたの」)
     源泉は道の先にあるはずであり、共闘するイフリートとの初顔合わせを期待するアイリス・アレイオン(光の魔法使い・d18724)や小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)の足取りは軽い。
    「共闘関係がこのまま続いていけばいいな」
    「あー、うん。共闘はいいんだけどさ」
     現世・戒那(天ツ風・d09099)の言葉に相づちを打ちつつも、微妙に引きつった顔をしている鳥井・和馬(小学生ファイアブラッド・dn0046)とはテンションの高さがまさに天と地の差だった。イフリートの警戒心を和らげる為にと小鳥遊・優雨(優しい雨・d05156)が用意した猫の着ぐるみが原因なのだろうが。
    「大丈夫です。似合ってますし、それならきっと猫型イフリートとも仲良くやれるはずです」
     優雨は励ますように着ぐるみの少年を抱きしめ、そして今に至る。
    「にっ!」
    「え、えーと……オイラナカマダヨ、テキジャナイヨー?」
    「にー? ……にぃ」
     結果から言うと、目論見は当たった。灼滅者達の登場でビクッと震えて物陰に隠れてしまった炎の猫は、和馬の声に物陰から顔を出すと寄ってきて前足でてしてしと触りだしたのだから。
    (「猫炎獣……やばい、かわいいじゃないか」)
     この時点で悩殺された応援の灼滅者が居る辺り、猫型イフリート恐るべしであった。
    「いいな、肉球とかもふってしたい……! うん、もちろん、全部終わった後で」
     天宮・優太(暁月・d03258)の口から漏れるのも、まごうことなき願望。しっかりわきまえていたとしても、抗いがたい誘惑というのは案外何処にでも転がっているのだ。
    「……ま、使うタイミングがアレば……だな」
     もふもふなイフリートだけでない、例えば今回守るべきものがもたらす温泉という恩恵など。白鐘・衛(白銀の翼・d02693)がわざわざここに置いておくことにした明らかに入浴用の品々は、言葉を用いずそれを物語る。もちろん、それらを楽しむのは優太が口にしたように為すべき事を為してから。
    「夏場に腐乱死体の相手とは中々きつい仕事だな」
     例えジュラル・ニート(デビルハンター・d02576)の言葉通り、終わってから自分の鼻を労いたくなるような事態が待っていようとも、引き返すことは出来ない。
    「私は優雨です。あなたの名前は?」
    「にぃ」
     出発する前に名を尋ねた優雨へ元気に一鳴きする。喋れないのか、それともその短い鳴き声が名前なのか。
    「戒那です、今日はよろしくね~」
    「みー」
     ただ人語は解すらしく、差し出した戒那の手に前足を握られたまま頷くと、霊犬の戒世を一瞥してもう一度みぃと鳴いた。
    「いろはは殺界形成で人払いをした上で後方支援に回るよ」
     応援の人員を含めた灼滅者が各々の立ち位置を決め。
    「さてと戦友たちのサポート頑張るですよー」
    「あとは出発するだけだが……今回の件でこれから他との関係も変わるのかねぇ……」
     動き始めた仲間に倣って歩き始めつつ、衛はちらりと炎の猫を見る。北側のアンデッド達に対処するのは、件のイフリートと戒那に霊犬、そして応援の灼滅者。
    「戦いでは『各個撃破される失策』はあっても『各個撃破できる作戦』は――」
     中には単身で囮兼遊撃に動こうとする者もいたが、あくまで主戦力は三方のアンデッドに差し向けられる三つの班だろう。
    「みー」
    「大丈夫、一緒に戦えば必ず倒せるよ。オレ達はいつもそうして勝ってきたから」
     どことなく不安げに鳴いたイフリートを励ましつつ一つの班が木々の間に消えれば、他の灼滅者達も動き出していた。

    ●みぃ
    「くさいねぇ。でも、今回ばかりはこの匂いに感謝かな?」
    「みぃ」
    「きゅーん」
     答えた猫の瞳には涙がにじんで見えた。戒世にしても拷問レベルの臭いだったのかもしれない。
    「いた」
     結果として奇襲を受けることなく戒那達は近寄ってくるものの影を発見し。
    「お゛あ゛あ゛ぁぁ」
    「ふみぃぃっ」
    「大丈夫、君はボク等が守るから安心して戦って?」
     思わず後ずさるイフリートを宥めながら、戒那は縛霊手に内蔵した祭壇を展開する。
    「にっ」
     その声に勇気づけられたのか、足を止めた猫イフリートは身体の前に集めた炎を放出し、戒那に霊的因子を強制停止させられた獣のアンデッド達を薙ぎ払う。
    「ごあ゛あ゛ぁ」
    「わぅっ」
     奔流の直撃を受けたアニマルなゾンビ達が断末魔をあげ崩れ落ち行く中、戒世が身体のあちこちを炭化させながらも死にきれなかった犬アンデッドの首を斬魔刀で斬り飛ばし。
    「あっさり終わったね。じゃあ、オレは西の救援に行くよ」
     最後の一体を屠った応援の灼滅者は他所へ赴く旨を伝えてその場から走り去る。
    「みぃ?」
     戒那の方を振り向いたイフリートがこれからどうしようと言うかの様に鳴き。
    「付いていくから、好きなようにやってみて?」
    「み」
     頷きを返した戒那の顔を見た炎の猫は、少し迷って東を選んだ。
    「なるほどな、確かに北以外の救援は無理だわ」
     ちなみにこの時、まだ東側を担当する灼滅者達は敵と接触していなかった。
     最初に北側の班が接触したのも救援が出来るのは北班のみとエクスブレインが説明した理由も、同じ場所から三つに分かれた眷属集団の内、最短距離を真っ直ぐ直進するだけだったことに起因する。
    「偵察の人もまだ見つけてないみたいなの」
    「……となると、見つけて戦いが終わったとしてもタイミング的に救援は無理ですね」
     西なら距離が離れすぎ、北はどんなに頑張っても戦闘終了に間に合わないだろう。北班が進軍速度をわざと緩めれば別だが、それでは敵を源泉に近づけてしまう。
    「敵発見! ポイント――」
     偵察を買って出た応援の人員から連絡が入り、知らされた場所に向かった衛達は足を止め顔をしかめた。
    「匂いキツすぎねーか、これ?」
    (「この臭い……わかりやすいですけど、近づきたくないですね……」)
     シャーロットにしても、初めに知覚したのは敵の姿ではなく悪臭。
    「発見なの。……流石にアレはもふれないの」
     所々毛が抜け、肉が腐り落ち骨まで覗く動物をかわいがれるとしたら屍王か特殊な趣味の人達だけでは無かろうか。少なくとも漆黒の弾丸を形成し始めている美海にその手の趣味がないことは言動によって明らかで。
    「……まずは、これです」
    「デッドブラスター、しゅーと、なの」
     シャーロットのどす黒い殺気が動く屍獣へ向けられた瞬間、弾丸も解き放たれた。
    「ぎゃん」
     殺気に押し潰されかけた犬のアンデッドが身体に大穴を穿たれ、腐肉をまき散らしてもんどりを打ち。
    「こりゃ、相当くせーな。服に匂い染み付かねーかな?」
     マフラーで口元を覆ってマスク代わりにしつつ衛はアンデッドの一体へ肉薄するとガンナイフで斬り上げた動く死体へ踵を落とし、地に這ったそれを蹴り飛ばす。
    「やむを得んさね」
     と言うか、集中させたバトルオーラ越しとはいえ素手でどつき回してるジュラルが臭いについては一番危険な位置にいるのでは無かろうか。
    「が、あ゛、あ゛、げ」
     拳に踊らされた臭う骸が落ち葉の上で弾んで地面を転がり。
    「お゛あぁぁぁ」
    「うぉっ」
    「ぶぎゃぁぁぁ」
     ボロボロになりつつも屍獣が反撃に飛びかかってきた瞬間、吹き付けた炎の奔流が腐った身体を飲み込んだ。
    「大丈夫かい?」
     猫イフリートから僅かに遅れて姿を現したのは、戒那。
    「もう終わってたんだな」
    「……みぃ」
     頷きつつもイフリートが涙目なのは、きっと臭いのせいだろう。
    「塵は塵に灰は灰に……だっけかな? まあ、死んでんだからさっさと土に還っとけよ」
     黒こげになった猫の死体は、地面に投げ出されるともう起きることはなく。これでもう負けはない。
    「もふもふの為に、此処で倒されると良いの」
    「み?」
     戦力の倍加した一行はそのまま畳かける。
    「必殺、もふビーム、なの」
    「ぐぎゃんっ」
     もふる対象が駆けつけたことで、気持ち威力が増したように見えなくもない光線が生き残っていたアンデッドに突き刺さり。
    「縛ってあげます……」
     山に入った時点で既に展開していた影を触手に変え、黒い笑顔を浮かべたシャーロットは倒すべき敵を指さす。
    「ま、地道にアシストすりゃきっちり、他の連中が倒してくれっからな」
     影の虜囚と化したアンデッドを凍らせた衛は直後に見ることになる。ジュラルの向けたガトリングガンが自身の言葉を現実にする様を。

    ●西側
    「っ」
     他の戦場がそうであったように、接近と比例して濃くなる臭いへアイリスは声にならない叫びをあげていた。
    「(せめて、せめて果物系の臭いならよかったのに……!)」
    「や、果物の匂いさせつつ寄ってくるアンデッドって言うのもあれだよね? って言うか臭いってことはドリアンとか?」
     小さな囁きが聞こえていたのか、猫な着ぐるみの和馬にツッコまれたアイリスは、鼻を片手で押さえつつ魔法の矢を詠唱圧縮しだす。
    「臭いは確かに酷いですが、ここは通しません」
    「ぶぎゃあぁ」
     Fragarachを高速で振り回し築いた刃の壁が優雨の移動に伴って前進し、身体を刻まれた猫のアンデッドが悲鳴を上げながら後ずさったが、灼滅者達の攻撃は終わらない。
    「悪いけど、待ってたよ」
     いや、後ずさった事自体が失敗だったのだろう。高速で操る鋼糸の軌道上に自ら飛び込む羽目になったのだから。
    「ぎ」
     腐った身体がバラバラに断ち切られ偽りの命で動いていた骸は、断末魔さえ断ち切られ死体に還る。
    「ぎゃうっ」
    「邪魔だよっ」
     仲間を討たれた仇を討とうと、毒を滴らせつつ飛びかかってきた屍犬はサイキックソードを叩き付けられ、炎に包まれたところで頭部を魔法の矢に砕かれ地面に転がった。
    「……早く終わらせよう」
    「ぐるるる」
     頭部を失った骸は二度と起きあがらず、かわりに仲間を減らされたアンデッドがアイリスを見て唸る。
    「がう゛ぁぁぁっ」
     応援の灼滅者に燃やされ炎に包まれてはいても、もふもふさせて貰おうと思った相手とは違って近寄ることすら勘弁して欲しい見た目と臭い。敷き詰められた落ち葉を蹴散らしながら優太に肉薄し。
    「させないよっ」
    「ぐぁ」
     牽制するように振るった鋼糸に進路を遮られて怯み、足を止める。
    「和馬くん」
    「あ、うん」
     むろん、反撃を完全に止められた訳ではなかったが、灼滅者達が間合いの内側で足を止めたのは失敗だった。
    「ごあ゛ぁ」
     アンデッドが身を炎で包みながら呼応した和馬のサイキックソードにはじき飛ばされ、再び優雨が刃で作り出した壁に細切れにされた肉片が周囲に降り注ぐ。
    「わわっ」
     近接攻撃を仕掛ける為に肉薄していた誰かには洒落にならない光景だったが、同時に敵の半数が灼滅されたという意味合いでもあって。
    「がぁぁっ」
    「っ」
     落ち葉を踏み締め噛み付いてくるアンデッドの口にマテリアルロッドを噛ませる形で拮抗しつつ優雨は待つ、目の前で自分に気をとられているそれが隙をつかれて吹き飛ぶ時を。
    「ごあ゛あぁぁ」
     そもそも、半数以下にまで討ち減らされた時点でアンデッド達に勝ち目はなく、残る二体の内の一体は大きな隙を晒していた。雷が荒れ狂う中、魔力の光線の光線に撃ち抜かれた動く死体の身体から力が抜け、崩れ落ちれば、残ったのは濁った目をした犬のアンデッドが一体。
    「これなら、どうにかなりそうだね」
     既に炎に包まれ、もはや集中攻撃のもと屠られる運命しか待っていない敵を見据えながら、優太は雷を引き起こした。口をついて出た言葉は、仲間の足を引っ張るまいと緊張していたからこそか。
    「では、源泉に戻りましょうか」
    「そうね、救援に行こうにも他の戦闘は終わってるみたいだし」
     一分後、最後のアンデッドが滅びるのを見届けて歩き始めた西班の面々を最初に出迎えたのは――。
    「おかえり。怪我はしてない?」
     後方支援兼回復役として後ろに控えていた応援の灼滅者だった。

    ●みー
    「何とか成功だね。源泉も守れて、めでたしめでたし。かな?」
    「みぃ」
     おそらくは、戒那が戒世をなでるのと反対の手でイフリートをなでていた時点で、確認は要らなかったかもしれない。
    「えっと、その……も、もふもふしていい? ちょっとだけ!」
    「みー」
     それでも敢えてしてみたお願いに頷きつつ、炎の猫は優太の膝にぽふっと右前足をのせて鳴いた。
    「あー、あたしもー」
    「私ももふもふしたいの」
    「にぃ」
     少なくともイフリートに拒否する様子はなく、出来上がったのは灼滅者の列。
    「うわぁ、もふもふだ」
     順番待ちを作り出した優太は幸せそうな顔で待ち望んだ時間を堪能し。
    「よし。次、あたしね」
    「み」
    「さて……」
     嬉しそうなアイリスの声を聞きつつ温泉セットを一式を拾い上げた衛は染み付いたかもしれない臭いを洗い流す為どこかへ歩み去る。
    「みぃ」
    「本当にもこもこでちょっと不思議な感触なの」
     残されたのは、ようやく自分の順番が回ってきて猫イフリートと戯れる美海と――。
    「に?」
    「良かったら食べますか」
     自分の視線に気づいた絶賛もふられ中のそれにえびてんとちくわを差し出す優雨。
    「みぃ」
     有り難うというかのように鳴いたイフリートは少し両者を見比べると、えびてんの方に前足を伸ばしやがて両手で持って小動物の食事風景を彷彿とさせるような食べ方で囓り始める。
    「みー」
    「お気に召したようですね。では、和馬くんにはちくわを」
    「え゛?」
     この数分後、形容しがたい表情でイフリートの隣に据わりちくわを囓っていた猫着ぐるみ姿のファイアブラッドが居たとか居なかったとか。
    「じゃあね……ちょっと名残惜しいけど」
     やがて任務を終えた灼滅者達は源泉を後にする。
    「みー」
     えびの尻尾を前足に挟んだままの猫イフリートは何時までもその背中を見送っていた。


    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月13日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 17/キャラが大事にされていた 2
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