さらば父祖の国

    作者:るう

    ●成田空港、国際ロビー
    「さらば、父祖の国よ……」
     赤黒い肌の男は、しみじみと呟いた。
     男は、日系ボリビア人。百年以上に渡る移民史がある中で、彼のように自ら足で先祖の土地を踏みしめる機会に恵まれた子孫は、そう多くない。
    (「私は幸いビジネスで成功したとはいえ、祖国は日本と異なり貧困に喘いでいる」)
     迫るようにラパス市中心部を取り囲む赤レンガの貧民街に思いを馳せながら、男は連日の商談で疲れた体を休められる場所を探す。
    (「ハードな仕事にはなったが、我が国を少しでも豊かにするため、必ずこのビジネスチャンスをものにしたいものだ」)

    ●武蔵坂学園、教室
    「日本から海外に脱出しようという、一部のシャドウ動きが予測されました」
     灼滅者なら五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)の説明を待たずとも、ダークネスはサイキックアブソーバーの影響で日本国外では活動できないはずだ、ということを知っているだろう。
    「シャドウが何故そのようなことをするのか、また、その方法で国外脱出が成功するのかも、定かではありません。けれど最悪の場合、国外に出たシャドウがソウルボードから弾き出され、飛行機内に実体化することも考えられます」
     その場合、もしもシャドウが暴れるようなことがあれば、飛行機は墜落して大惨事となる可能性すらある。
    「ですので皆さん、その前にシャドウが潜んでいる人物に接触して、シャドウを撃退して下さるようお願いします」

     今回、シャドウが運び屋に選んだのは、南米ボリビアのビジネスマン、スズキ。シャドウはソウルボードの中で、彼の出身地で、ボリビアの事実上の首都であるラパスの風景に潜んでいる。
    「ソウルアクセスした皆さんは、ラパス近郊の、標高四千メートルの場所にあるエル・アルト国際空港に降り立つことになります」
     ソウルボードの中には、空港脇の埃っぽい大通りや、その先のラパス市街――空港周辺を縁の一部とする巨大なすり鉢状の急な谷の斜面に無数のレンガの家が建ち並び、最も低い辺り(といっても富士山頂近い高さがある)に、谷全体の大きさから見ればおもちゃのような高層ビルが建ち並ぶ様子が、ほぼ完璧に再現されている。強いて差を挙げるなら、ここには人がいないのと、高山病の心配がないことだ。
    「空港には道化面のフォルクローレ音楽の奏者がおり、これが倒すべきシャドウです。シャドウはすぐに襲い掛かってきますが、倒せずとも谷底の広場まで追い詰めれば、シャドウはソウルボードから撤退するでしょう」
     敵の戦闘力はそう高くない上、灼滅者との死闘を繰り広げてまでソウルボードに居座るつもりもないため、戦闘自体に困難はないだろう。
     より困難なのは、人の目の多い空港でスズキ氏を眠らせ、ソウルアクセスする機会を得ることの方だ。
    「けれど幸い、スズキさんは少しの間体を休められる場所を探しています。彼はアイマラ語、スペイン語に加えて日本語も流暢ですので、上手く人気のない場所へ誘導して眠らせてあげて下さい」
     スズキ氏の便の搭乗手続き開始までは、少しばかりの時間がある。
    「慌てなくても大丈夫ですので、確実に空の安全を守れるようにして下さいね」


    参加者
    荒城・夜月(茨を纏う月虹・d01005)
    童子・祢々(影法師・d01673)
    ピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)
    天外・飛鳥(囚われの蒼い鳥・d08035)
    フェリス・ソムニアリス(夢に棲む旅猫・d09828)
    春夏秋冬・初衣(泡雪ソネット・d15127)
    アイン・コルチェット(絆の守護者・d15607)

    ■リプレイ

    ●舞台裏は入念に
    「えっ、と。かん、ばん。どこ、で、しょう、か?」
     見知らぬ人ばかりが無数に行き交う空港の中は、決して春夏秋冬・初衣(泡雪ソネット・d15127)にとって落ち着く場所ではない。
     仲間たちは、空港の仮眠室を手配してくれているはずだ。そこに、万が一にもお呼びでない人が近づかないよう、初衣は進入禁止を示せる立看板の類を探していた……人ごみに怖気づきそうになる心を奮い立たせて。
    「……こっちだ」
     声を掛けられて、初衣は振り返る。
     ヒルデガルド・ケッセルリング(Orcinus Orca・d03531)。あたかも新しいアルバイト、という顔をして堂々と清掃係用の詰め所に入り込んできたばかりの彼の手には、平たいものを入れた袋があった。中には既に、人目を忍んでくすねてきた『清掃中』の立看板が入っている。
    「けれ、ど。いち、まい、では。たり、ません、よ、ね?」
     初衣の問いに、ヒルデガルドは軽く頷く。さしもの彼も、欲張って一人で二枚目を狙う危険を冒すのは不適切と考えていたところだ。
    「あと、は、まかせ、て、くだ、さい」
     初衣はその身に静かに闇を纏うと、誰にも気付かれることなく職員通路に滑り込んだ。

     一方その頃。
    「どうだ、予約は出来そうか?」
     アイン・コルチェット(絆の守護者・d15607)の問いに、童子・祢々(影法師・d01673)と荒城・夜月(茨を纏う月虹・d01005)は電話を切ると、揃って頷く。
    「第一ターミナル側、予約完了です。コルチェット先輩の名前も、お借りしておきました」
    「第二ターミナルの方も予約できたよ」
     幾つかのパターンを想定して、手分けして別々の部屋を確保しておく。多くの部屋を占有してしまうのは少々気が咎めるが、この際、背に腹は変えられまい。接触役の報告を受け次第、不要になった分をキャンセルしておけばよいだろう。
    「後は、しばらく待ちの姿勢か。天外が上手くやってくれればいいが」
    「先輩には、こちらの予約状況を伝えておきますね」
     電話は、すぐに通じる。了解、という天外・飛鳥(囚われの蒼い鳥・d08035)の声を聞いて、祢々はひとまず息をついた。

    ●ビジネスマンに休息を
    「お客様。気分が優れないようにお見受けしますが」
     空港関係者に似たスーツ姿の飛鳥に声をかけられ、スズキ氏は慌てて背筋を伸ばす。
    「ご配慮感謝します。ですがご心配なく、少々疲れが溜まっているだけですので」
    「くれぐれもご無理をなさらぬように。ご出発までお時間がおありなら、少しばかりお休みになられたらどうでしょうか? よろしければ仮眠室にご案内致します」
     慣れない口調ながらもスムーズに台詞を並べ立てた飛鳥に、スズキ氏はふと安堵の表情を見せた。
    「有難う。では一時間ほど、そこで横にならせて下さい」
     よしっ、と心の中でガッツポーズすると、飛鳥はこっそりと携帯を弄る。

    「この先は、仮眠室で待たせて貰おう」
     誘導成功の報を受け、アインはスズキ氏を誘うのとは隣り合う部屋に向かった。密かに入り込むための策を悩むよりは、正面から客として入る方が性に合う。
     他方、清掃員っぽい姿に化けた夜月は。
    (「どうせだったらキャビン・アテンダント姿の方が良かったなぁ……」)
     ため息をついて、初衣たちの探してきた立看板を手に仮眠室に潜り込……もうとして。
    「……お客様?」
     受付の人に引き止められた。
    (「あちゃー……。お客さんなら騙せても、さすがに受付さんには偽者ってバレちゃうかー……」)
     こんな格好したまま呼び止められるなんて、女の子としては一生の不覚! ここで吸血捕食でもしておけば有耶無耶にできるのかもしれないけれど、こんな事でダークネス紛いの事をしたくもない。素直に料金を支払って、一部屋借りておく……無念。

     そうこうしているうちに、スズキ氏が現れた。
    「こちらです」
     スズキ氏が、飛鳥の案内に従って一番奥の部屋に入った後、その手前の部屋からピアット・ベルティン(リトルバヨネット・d04427)が顔を出す。
    (「それじゃ、ピアの出番なの!」)
     素早く左右を確認し……すかさず例の立看板を、バリケードのように並べて設置!
    (「受付さんさえ見に来なければ、これで、知らないお客さんは近づかないはずなの!」)
     再び一旦部屋に戻り、そわそわと待機中のピアに、しばらくするとフェリス・ソムニアリス(夢に棲む旅猫・d09828)が声をかけた。
    「どうやら、眠ってくれたみたいだヨ。起こさないよう静かにネ」
     スズキ氏のベッドの隣には、一人、また一人と灼滅者たちが集まってくる。
    「それじゃ、夢の世界へ遊びにいこうか!」
     目を瞑って、フェリスはそっとスズキ氏に触れた。
     フェリスと、彼女に触れていた七人の仲間たちの体が、突然力を失い折り重なる……。

    ●世界で最も高い都市へ
     引き込まれる感覚がしばらく続いた後、灼滅者たちは、からりと乾燥した空気の支配する空港へと降り立っていた。
    「スペインか……懐かしいな」
     英語ではない並びのアルファベットで飾り立てられた空港内の店舗の文字に、アインはアメリカナイズされた西洋ではない、古き良きヨーロッパの香りを感じ取る。
     ……けれど、異国情緒を堪能している暇は、灼滅者たちには許されない。
    「なに、か。きこえ、て、きま、す、ね……」
     初衣が耳をすませると、擦れたような笛の音が晴れ渡った空の下から聞こえてくる。束ねた管をビン笛の要領で吹く、サンポーニャの音色だ。
    「ふぁあ……素敵な音楽……ってそうじゃないっ!」
     夜月はすぐに思い出す。この笛の主こそが、ソウルボードから追い出すべきシャドウであることを。
     灼滅者たちの前に現れたシャドウの表情は、陽気そうな道化の仮面に隠れて伺い得ない。それでもヒルデガルドは、シャドウの一挙手一投足を冷静に観察し、敵の思惑を推測するための情報を探り続ける。
    (「現状、目的は不明。悪夢を見せる事もなく、ただ心象風景に溶け込んでいる。宿主に望郷の念を抱かせることで、海外への移動は促せたとしても、それが特定の目的地になることはあるまい」)
     では、当人に口を割らせるか? 否。有益な情報など得られまい。今すべきは、シャドウを可能な限り揺さぶってみること。そのためには……。

    「くっらえー、なの!」
     ぐるぐると手を振り回すと、ピアは跳び掛かってくるシャドウを殴りつける! テンポのよい音楽に合わせてかわすシャドウに向けて、霊力の網が広がった!
    「逃がしはしないのっ! そう来ることは、わかってたの!」
     ピアの瞳の奥底で、バベルの鎖が未来を告げる。不規則なはずの道化の動きを、網は中心に捉えたまま離さない! サンポーニャの奏でる旋律が、一瞬だけ止まる。
    「君は、誰かの指揮下にいるのかな?」
     砂埃を嫌って飛行帽のゴーグルをかけながら問う祢々に、大方の予想通りシャドウは答えない。小馬鹿にするかのように再開される、アンデスの唄。
    「力ずくなら、教えて貰える? 何らかの組織の上位者による命令と思えば間違いないかな?」
     放たれる、魔力の弾丸。網を引きずりながら飛び跳ねる道化を、祢々の弾丸は彼女のライドキャリバー『ピーク』の弾丸と共に追い回す。片足を軸に回りながら踊る道化が向かう先……ラパスの市街地は、その奥にあるはずだ。
    「一体、何がしたいんだろ?」
     邪魔者を排除しに来たのだろうが、攻撃されてすぐ逃げてゆくシャドウに、自身もそのハンターながら、フェリスはふと首をかしげた。
    「けど……罠って未来予測もなかったし、全力で相手させて貰うヨ!」
     サンポーニャの音色を打ち消すかの如くかき鳴らされる、激しいギター。対する道化も勢いよく笛を吹き鳴らし、共に段々とテンポを上げてゆく!
    「君にはサウンドソルジャーとして興味あるけれど……俺が綺麗にぶっ壊してあげるね♪」
     二人の曲に合わせるように、飛鳥の甘く柔らかなボーイソプラノが響く。美しく、無邪気で、けれど残酷な歌声。三つの音は互いに互いを傷つけ合い、路地の土埃を巻き上げながらつむじ風のように高地を舞う!

    ●すり鉢の縁、エル・アルト市街
     ところどころの石畳が崩れた、整備の追いついていない道の上を、灼滅者たちは道化を追って駆け抜ける。
    「貴様がどういうつもりでここに忍び込んだのかは知らん。……だが、好きにさせるつもりは毛頭ない」
     アインの拳が、道化を捉える! ……けれど拳の勢いを逆に利用して跳び上がると、道化は路上駐車のトラックの上に片手逆立ちで着地する。
    「逃がしはせん!」
     追って、アインが駆けた……その時! トラックは溶けて影の塊となり、アインの全身を包み込んだ!
    「すこし、だけ。がまん、して……」
     影に対抗するように、初衣は指輪に祈る。初衣の中の闇への恐怖が、より大きな闇と化して影を打ち滅ぼす!
     けれど影は、道化が道端の車に触れる度、何度でも繰り返し襲ってくる。それらを避けながら、ピアはふと、自分がここまでの街並みを全く見ていなかった事に気が付いた。
    「せっかく知らない街に来たのに、すっごく切ないの」
     お世辞にも綺麗とは言えない、レンガ造りの建物群。けれどそれらをよく観察すれば、この街の人のことを少しでも知ることができただろうに。
    「これもあれも、ぜーんぶあのシャドウのせいなの! 絶対に許さないの!」
     怒りのオーラを身に纏い、ピアも道化を追い詰める!

     唐突に建物が消え、視界が開けた。
     遠くの山と、自分たちのいる崖の上。その間の巨大な空間が、丸ごと一つの街になっているのが目に飛び込む。
    「やァ、これがラパスねェ……本当なら観光したいくらいだねェ」
     フェリスが見る限り、この広大なパノラマに適当な作りの場所はない。
    「この夢の風景、よっぽど故郷が好きなんだろうネ」
     その想いを嘲笑うかのようなシャドウに向けて、フェリスはガンナイフを突き立てる。しばらくの揉み合いの後、まずは道化が、次にフェリスらが眼下の街並みに向かって落下してゆく……。

    ●急傾斜の戦い
     レンガの屋根に着地した道化を追って、石化の呪文が着弾する。崖の上のヒルデガルドの、機械のごとく正確無比な詠唱。道化は片足を引きずるように、つんのめるように屋根の向こうに消えてゆく。
     道化はすぐに屋根の向こうから顔を出すと、美しい音色を漆黒のコンドルの姿に変えて飛ばしてきた……が、それらはオルカの姿を取ったヒルデガルドの影に呑み込まれる。逃げ出す道化を追って跳ぶヒルデガルド。
    「くっらえー!」
     夜月の放った真紅の逆十字が空を駆け、道化を数段下の家々の壁に叩きつける!
     壮大だな、と夜月は思った。そこそこの距離を飛ばしたはずなのに、谷全体の深さから見ればほんの僅か。まるで幻想的なアニメ映画の世界に入り込んだかのようで、あれだけ大変だった夢に入るまでの苦労も吹き飛んでしまう。
     夜月の脇をすり抜けて、祢々の拳が瓦礫を貫く! その奥の、崩れた壁に埋まった道化は、笛を悲鳴のごとくピィと鳴らす。
     直後! 道化は瓦礫を跳ね飛ばし、ほうぼうの体で逃避行を再開した。
    「そちらがその気なら……おっと」
     瓦礫に足を取られた祢々を支えるように、ピークが傍らに滑り込んだ。阿吽の呼吸でそれに乗り込むと、祢々はスロットルを全開にし、一度は開いた距離を再び詰め始める!
     踊るようにその突進をかわした道化の目の前に、飛鳥の笑顔が映っていた。
    「へー。君のダンスも悪くないね」
     宙返りで距離を取ろうとする道化にぴったりと追従しながら、飛鳥も踊りながら影の鎖を操る。
    「どっちがリズムに乗れるか勝負だね」
     振り払おうと左右に跳ねる道化を、ついに影の鎖が掴み取った。数回のバウンドの後、道化は谷底へ向かって伸びる石畳の上に投げ出される……。

    ●谷底は近づいて
    「すごーい……さっきまでとは、全然違うの」
     くすんだ赤一色だった家々が石造りやコンクリートの建物に取って代わられ、ピアはしげしげとそれらを見上げた。
    「ん、ゴールは近そうだネ!」
     斜面そのものはなだらかになれど、斜面となす角度が変わった分だけ逆に急さを増した道を見下ろして、フェリスは頷く。辛うじてピークに制動をかけながらシャドウを追いかける祢々のように、スキー場のように急な坂に慣れていない者にとっては、この街で車を使うのは至難の業に違いない。
    「それじゃあ、後は谷底まで追い詰めればいいだけかな?」
     転げながら攻撃をかわしてゆく道化を眺めて、飛鳥はにっと笑う。一体いつまで、このままで続くことか。
    「そろそろ、覚悟してもらおう……」
     円形交差点の中心の植え込みに引っかかって止まった道化に、アインは全身をバネのように使って腕ごと拳を叩きつける! 笛の音はしばらくの間、沈黙を続けていた。

     むくりと、道化が起き上がる。にじり寄る灼滅者たちに向けて放たれる、巨大な影!
    「させ、ま、せん」
     ……けれどそれらは、灼滅者を誰一人として倒すことはできない。初衣の手に溜まった強い光が、その闇を打ち破ってゆくからだ。
     慌てて、再び逃走に転じた道化に、幾筋かの光が追従した。
    「そろそろか」
     精密作業のようにヒルデガルドが投射し続ける術に追われた道化が、ついに大通りにまで転がり出た。跳び上がってスクレ将軍の像に取り付いた道化に、夜月が迫る!
    「あっまーい! 背中がガラ空きっ!」
     その瞬間! 道化は吹いていたサンポーニャを、灼滅者たち目がけて投げ捨てる!
     夜月の薙いだ杖に引き裂かれながら、道化は降参のポーズをしたまま消えて行った。

    ●夢から覚めて
    「……というわけで、戻ってきたにゃ」
     フェリスの言葉で気がつくと、灼滅者たちはスズキ氏の部屋で身を起こした。夢の中で戦いがあったにもかかわらず、スズキ氏は安らかに寝息を立てている。
    「おっしぃ~! もうちょっとできっちり灼滅できたのに!」
     真偽はともかく悔しがる夜月の一方で、飛鳥はくすりと笑みを浮かべた。
    「夢だから手に入らないと思ってたけど……音楽家のシャドウか、いいお土産ができたね」
    「お土産といえば」
     ピアがふと、付け加える。
    「いつか、本物のラパスにも行ってみたいの。まだ全然見足りないし……」
    「なるほど、悪くない」
     文字ばかりはスペイン語でも、ヨーロッパとは異なる街並み。それがかの地の人々の強さなのかと、アインはしばらく思いを馳せる。

    (「最終的に、シャドウの目的は推測できず。……情報不足」)
     考え込むヒルデガルドの袖を、初衣が引いた。
    「そろそ、ろ。いか、ないと」
     時間は、あれからかなり経っている。起き出したスズキ氏と鉢合わせしてしまうのも、面倒な事になる。

    「どうぞ、よい旅を」
     深々とお辞儀をする祢々に、部屋から出てきたスズキ氏は満足そうに頷いた。顔にはまだ疲れの表情が残っていたが、それでも最初と比べるとずっと晴れ晴れとしていたように見えた。

    作者:るう 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 10/キャラが大事にされていた 1
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