艦艇男。

    作者:高橋一希

     北海道沿岸部――。
     流れ着いた流氷が砕け散り、そこから何者かが姿を現した。
    「ふう、まさかこの自分が他国に入る日が来るとは思わなかったコフ」
     じゃばり、と冷たい水と氷を振るい落としながら現れたモノは、どこか船舶を思わせる。
     頭は灰色の船体。両腕には同色の砲台。そして……何故かセーラー服を纏っている(ただし体格からみるに男性のようだ)。
     そんな彼へとかけられる声。
    「来やがったなぁ!! ロシアン怪人よォ!」
    「誰ヴィチ!?」
     素早く船舶っぽいソイツが振り向くと――視線の先には胴着を着込み、剛毛な毛髪を後ろで一つに結んだ男――アンブレイカブルが居た。口には何故か蟹を咥えている。
    「貴様、何故蟹を咥えているスキー……!」
     問われてアンブレイカブルはぺっ、と蟹を地面へと吐き捨てた。
    「ああ、テメェが来るまで折角だし海に潜って穫ってきた」
    「許さん……許さんヴィチ! この警備艇怪人の目を盗んで領海に入って蟹を捕ってくるとかあり得ないスキー!」
    「いや、俺別に領海侵犯とかしてねーし。かく言うてめェも今、日本に入ろうとしてるじゃねーか」
    「そ、そういわれるとそうコフ……」
     だがそれはそれとして、と言った調子で。
    「邪魔をするものは許さんヴィチ!」
     構えたロシアン怪人にアンブレイカブルが躍りかかる。
    「果たしてこのジャガーノート様の足技を避けられるかなぁァァァァァ!?」
     即座に距離を詰め、身を屈めた状態から素早い蹴りが放たれる。鉄板だろうがあっさり撃ち抜く超硬度の蹴りがロシアン怪人へと叩きつけられる!
     ドガァン!! と凄まじい音がするも――。
    「馬鹿な! 貫けねぇだとぉ!?」
    「ふふ……その程度コフ? その程度では気魄に優れたこの自分の装甲を貫くことなど不可能ヴィチ」
     たたらを踏みつつもお返しだ、とばかりに怪人がジャンプ。鋭い蹴りを繰り出した。それをジャガーノートも器用に足を操り防ぐ。
     衝撃に、じり、とアンブレイカブルがおされ、地面が削れる。
    「この俺様に向かって足技だと!? テメェ舐めてンのか!!」
    「そんな事は無いスキー? 貴様より自分の方が上だというのを教えてやろうと思っただけコフ」
     余裕の表情の警備艇怪人! 途端にアンブレイカブルの表情が更なる殺意に彩られる。
    「ふ、ざ、け……」
     全身の闘気が雷へと姿を変える。
    「んなーーーーーーー!!!」
     足に雷を宿らせ、肉眼は目視できるか怪しい勢いで蹴りこんだ! その一撃にさしもの警備艇怪人も、壁面がめこり、と歪んだ。
    「流石足技に自信があると言うだけあるコフ。でもここまでスキー。見るがいい! この両腕の砲塔を!」
     じゃきん、と構えられる砲塔。
    「一斉射撃ッ!!」
     ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ! と凄まじい轟音が響き、弾丸が連射される。
     凄まじい勢いにアンブレイカブルはその身を削られていく。ナイフを操り弾丸をはじこうとするも――間に合う訳がない。
     ダダダダダダダダダダダダダダダダダ!!! と連射はつづく。ジャガーノートの身が削られ、血煙が湧いた。
    「な、馬鹿なっ! 最強……俺が……こんな結末……認めね……」
     驚愕に目を見開いたままに、ジャガーノートは最期の時を迎えたのだった
     
    「……流氷、だそうですよ」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)が口を開いた。
     彼女が語る所によれば、夏も終わっていないのに、北海道に流氷が漂着したのだという。
     それも、ただの流氷ではなく、ロシアのご当地怪人を乗せた流氷が。
     もともとは巨大な一つの流氷で無数のロシアン怪人が乗っていたらしいが、何らかの理由により流氷は破壊――ロシアン怪人たちはオホーツク海を漂流し、北海道の海岸のあちこちに漂着しはじめている、というわけだ。
    「そして、このロシアン怪人達の漂着に対応してアンブレイカブルが動き出しています」
     姫子は穏やかに。しかし真摯な表情で語る。
    「格好の腕試しの場だと思ったのか、彼らは各地で漂着したロシアン怪人達に喧嘩を売っているようですね」
     どうやって流氷の漂着を知ったかは不明。しかし、これは考えようによっては灼滅者達にとっても好機となり得るかも知れない。
    「そこで皆さんには、ロシアン怪人とアンブレイカブルの戦いの後、生き延びた方を灼滅して欲しいのです」
     ――これはロシアン怪人とアンブレイカブルを一気に倒せるまたとない機会なのだから!
    「戦場は北海道沿岸……行けば分かると思います」
     あばうとな説明ながら姫子はきちんと地図には印を付けた。
    「皆さんが戦う事になるのはロシアン怪人――ロシア警備艇怪人ですね」
     警備艇怪人はご当地ヒーローのサイキックと、ガトリングガンのサイキックを使用する。
     アンブレイカブルとの戦いにより若干ながら消耗しているものの、それでもダークネスは1人でも灼滅者10人分くらいに相当するわけで、決して弱い相手ではない。
    「消耗した相手とはいえ油断大敵です。どうか確実な灼滅をお願いします」
     姫子は灼滅者たちに噛んで含めるようにそう述べた。


    参加者
    月見里・月夜(ロロロ左の四角いの自家製豆腐・d00271)
    比奈下・梨依音(ストリートアーティスト・d01646)
    流鏑馬・アカネ(紅蓮の解放者・d04328)
    天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)
    星置・彪(藍玉・d07391)
    小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)
    青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)
    金剛・ドロシー(ハイテンション系特攻娘・d20166)

    ■リプレイ

    ●重油と火薬と金属と……セーラー服?
     灼滅者達は冷たい岩場へとじっと身を潜めている。目前の存在に気づかれぬよう、それぞれに服装は目立たないよう保護色のものを準備。
     星置・彪(藍玉・d07391)に至っては落ちてる海草を使って頭部のカムフラージュまでしている。
     念を入れて悪い事は無いはずだ。多分。
    (「どこの国から来てもいいけど、厄介事は持ち込まないで欲しいな」)
     視線の先には対峙する二人のダークネス。
     一方は胴着を纏った武闘家風の男。そしてもう一方は……頭が艦艇を思わせる形状をした存在――ロシアン怪人。
     砲塔から放たれた轟音と共にアンブレイカブルが断末魔の叫びを上げる。血煙が舞い、その肉体が粉砕されていく。
    「奴だって気魄に自信があったはずなんだ。超硬度の蹴りで最初に攻撃しようって思うくらいにはね」
     アンブレイカブルの最期を見やり流鏑馬・アカネ(紅蓮の解放者・d04328)が呟く。
    「でもそれを貫かせなかったどころか、ガトリングで削り返すんだから……相当ヤバい敵だよ」
     ぎゅ、とガトリングガンを握った手に汗がじんわりと滲む。
     完璧に敵が気を抜いた。そう思った瞬間に月見里・月夜(ロロロ左の四角いの自家製豆腐・d00271)が駆け出した。
     身を低くし岩場を駆け抜けようとする彼の存在に気づいたか、艦艇男が振り返る。だがそれよりも前に。
    「遅ぇぇぇぇぇ!!」
     纏っていた灰色のパーカーを脱ぎ捨てながらに、月夜が敵の懐へと入り込む。低めの姿勢から全身をバネにし、雷宿した拳で抉りこむようにブチ殴る。
     ガァン、と金属叩きつける凄まじい音がした。衝撃に艦艇男はたたらを踏んだ。
    「貴様ら……何者ヴィチ!?」
    「弱ってるとこを突く……ってのは卑怯で好きじゃねェが……ちゃんとパスポート見せてくれよな?」
     がり、と月夜はポップキャンディーを囓りつつ問いかける。体勢を整えた艦艇男は即座に答えた。
    「そんなモノ必要があるコフか? 我々は人間とは違うスキー?」
    「て事ぁ……警備艇とは名ばかりの不法入国野郎じゃねーか。放っとく訳にゃいかねェなァ」
     月夜の傍、比奈下・梨依音(ストリートアーティスト・d01646)も構える。
    「まさか艦艇相手に力試しできるとはなー。っていうかご当地部分どこだ? そもそもご当地って世界単位で……」
     考える内になんか頭がぐるんぐるんしてきた梨依音。
    「貴様……日々密漁船と戦う我々を愚弄する気スキー!? 赤の広場で銃殺がいいコフ? それともベーリング海に招待してやろうかヴィチ!?」
     梨依音、怒られた。
     なんか凄い勢いで怒られた。
     それはそれとして、のポーズをとって彼は述べる。
    「なーんか気は進まないが悪いな怪人さんよ。続けて俺たちと第二セッションだ! ついでになんでセーラー服なんだ!!」
     セーラー服つーたら水兵さんだろう。
     一般的にじょしちゅーがくせいとかじょしこーせいとかが着てるアレも元となった服は水兵さん、だし!
     なお敵が着込んでいるのがどちらかは……お察しください。
    「しかし変わった喋り方だね、あんた」
     武器を構えたままに敵へと語りかけるアカネに艦艇男はふつーに首を振る。
    「そんな事は無いヴィチ。良くある喋り方スキー」
    「女だったら『~ヴナ』とか『~スカヤ』になるの? なるのかヴナ!」
     いかん。微妙にアカネに伝染った!
     むしろこのまま喋っていたら戦い終わる頃には灼滅者全員に喋り方が移りそうで怖い!
    「流氷に乗って不法侵入しちゃ、メッなのですよっ!」
     ちゃんと、パスポート持ってこなくちゃと言いかけた天城・優希那(の鬼神変は肉球ぱんち・d07243)を艦艇男がじろりとにらむ。
     如何せん頭が艦艇。ちょっとバランス悪いくらい、でっかい。
    「うぁ……怖いよぅ……怖いよぅ……」
     身を竦めて怯える優希那。
    「で、ででで、でも、頑張らなくっちゃ、ですよねっ! せっせせせ精一杯頑張るのですよっ!」
     ふるふる震えながらも一生懸命決意を表明!
    「イザ開戦デス! ゴー・アヘッド!!」
     金剛・ドロシー(ハイテンション系特攻娘・d20166)はギターを構え不敵に笑う。
    「フッフッフ、ワタシは戦艦金剛の魂を持つ女……。タカダカ警備艇ごときが調子に乗ルト、痛い目にあうということを思い知らせてあげマスヨ!」
     一対一では勝ち目の無い相手でも、みんなでボコれば何とかなる! はずなのだから!
    「テメェなんで日本に来た? 理由があンだろ?」
     距離を詰めつつ月夜が問う。
    「なんで君は動けてるの? サイキックエナジーがない外国では、ダークネスはほとんど動けないって聞いてたけど。それに、かなり大人数で日本に来たみたいだけど、何しに来たの?」
     それに小鳥遊・亜樹(幼き魔女・d11768)がつづくも。
    「知りたいヴィチ?」
     彼らの問いかけに艦艇男はフッと妙にニヒルに笑い砲塔を灼滅者達へと向ける。ぎらり、と砲塔が凶悪な光を帯びた。
    「ならばこの自分を倒してからにするスキー!」
    「来るぞ!」
     即座にアカネが仲間達へと鋭く警告。ダダダダ!! と早速彼の砲塔から凄まじい勢いで弾丸が吐き出される。嵐のように降り注いだそれが灼滅者達へと打ちつける。
     まあ、ただ問いかけただけで教えてくれる……なんて程怪人だって甘くはないのだ!
    「うわぁぁん、こっち来ないでくださいでしゅ~」
     混乱気味に叫ぶ優希那。おちつけ!
    「あたしだって日本を守る防人だ! 日本に入るつもりなら、この銃弾の雨を潜り抜けてみな!」
     右手のガトリングガンの銃口を向け、アカネが炎を纏った弾丸を放つ。
     爆炎の魔力を纏った弾丸が艦艇男を炎上させる。
    「こ、この程度うっかりしてウォッカをかけられてあまつさえタバコを吸っちゃった時に比べたらなんてことないスキー!!」
     強がりらしき言葉を吐く敵へと優希那もギターをかき鳴らす。激しい音波が敵へと叩きつけられ艦橋部分がちょっと削れた。
     二人の攻撃の結果分かった事がある。
     確実に、効いている。それも、予想した以上に。敵の身があきらかに傾いだところからもそれは見て取れる。
     そこに亜樹もつづくが、彼はとにかく命中率の高いサイキックで攻撃……という行動。だが他のメンバーと比べるとあまり良い動きだとは言えない。
     何せ相手は気魄に優れた怪人。更に言うならば足技が得意なアンブレイカブルへとご当地キック相当の攻撃を加えていた……という事は、次に優れた能力は何か? 考えればどう攻撃するのが効率的かは分かるだろう。
     灼滅者達はひたすらに敵の体力を削るべく戦い続ける。だが敵もまた簡単にはやられまいとばかりに抗戦。
     戦場を飛び交う火線。そして煌めく白刃。
     梨依音は敵の動きを封じるべく影縛りや雲耀剣を多用。当たらない事も多々あるが、それでも長期戦になれば効果はあらわれてくるはずだ。
     青葉・康徳(北多摩衛士ムラヤマイジャー・d18308)は艦艇男の右腕を狙おうかと考える……が、その為にはポジションを移動する必要があるだろう。
     まあ、そもそもが部位狙いはあまり美味しい攻撃ではない。何せ命中しにくい上にあまり効果は見込めない。ぶっちゃけ普通に殴った方が捗る。死角を作る事は不可能だと考えていいだろう。
     少々厳しい戦況ながらも、それでも今更戦いを止めるわけには行かない。
     死ぬか、それとも相手を倒すか。選択肢はそのどちらかしか存在しないのだから!

    ●戦乱、戦火
     効果的な攻撃方法はわかった。だが序盤の微妙な齟齬は灼滅者達を危機に陥れるに充分過ぎる程だった。
    「皆さん、大丈夫デスカ? まだまだこれからデスヨ!!」
     懸命にドロシーが天使を思わせる歌声で仲間を癒していくが、削られる速度が速すぎる。
     彼女のライドキャリバーヒエイさんも極力仲間を守ろうと自身の回復を主軸にディフェンダーで耐えているが、仲間達は次第に回復に追われていく。
     その様に、スナイパーとして戦い続けていた彪の額から汗が一筋流れる。仲間のフォローも続けてはきたものの、このままではジリ貧になりかねない。
    (「この国を守るため……ってほどの強い気持ちじゃないかもだけど……」)
     傷ついた仲間達の様子に彼は逡巡していた思いを断ち切る。今のまま、スナイパーとして少しでも多くのダメージを与えるべく戦い続けるか、それとも。
    (「ここにいるみんなは守りたい!」)
     決して浅くは無い仲間達の傷に彼は強い決意を持って、メディックへと移動する。
    「大丈夫ですか? 微力ながらですけど、回復お手伝いしますよ!」
     立て直してみせる、と決意を込めて。
     康徳の影が伸び、艦艇男を飲み込む。だが即座に敵が砲塔を構えた。康徳は即座にステップで敵から距離を取る。だが敵が狙っていたのは彼ではなかった。
     ダダダダダダダ!! と艦艇男の両手の砲塔が火を噴いた!
     情け容赦無く亜樹の身体へと着弾。彼の肉体を削りおとし周囲に赤の霧をまき散らす。ぐらり、とその小さな身が地へと倒れ伏した。
    「亜樹さんっ!」
     メディック達の悲鳴にも近い叫び。
    「ふふん、口先だけスキー? この伝家の砲塔を使うまでも無かっ……」
     得意げな表情で「誰が上手い事言えと」的発言をしかけた艦隊男をずぱり、と何かが切り裂いた。
    「てめェ……これ以上おいたすンのは許さねーぞ……!」
     左手でチェーンソー剣を構えた月夜が至近距離で相手をにらむ。チェーンソーの刃が唸り、敵の傷口を広げていく。更に。
    「動きを封じて武器を奪って装甲をはがすっと。サイキック式艦隊解体方ってか?」
     梨依音が最上段から刀をずぱり、と一閃。重い一撃が艦艇男の砲塔を斬る。
     今まで積み重ねてきたバッドステータスはいまやかなりのもの。
    「そろそろ止めといかせてもらうよ!」
     アカネが幾度目かの炎弾を叩きこむ。見切られないよう、他の攻撃も織り交ぜつつではあるが、ひたすらに攻撃に専念し続けてきた。だがそんな敵のあちこちから黒い煙が吐かれている。
    「わっふがる! 日本への侵入を許さない番犬がいるって事を思い知らせてやれッ」
     霊犬わっふがるが「わっふ!」と吼える。彼もまた、ディフェンダーとして時には仲間を庇い、そして時には回復をと懸命に働いていた。
    「大丈夫ですか? 今回復しますねっ」
     リングスラッシャーを分裂させ、優希那は仲間の前へと配置。味方の盾とする。
     彪のポジション移動は仲間達を立て直す契機となった。次第にではあるものの、態勢を立て直しつつある。
     一方回復手段も持たず、バッドステータスに塗れた艦艇男は死の淵に向かおうとしていた。武器を封じられ、装備を剥がされ、回避もロクにできない。そんな敵へと灼滅者達はそれぞれに攻撃を叩きこむ。
     そして――最期の時はやってきた。
    「ボクの奥義を見せる時が来たみたいだね!」
     康徳が手にした武器はドでかい茶柱。柄付なのがちょっぴりシュール。
     彪もつづくも彼はあまりご当地っぽさは前面には出さない姿勢。それでも――。
    「僕にだって……守りたいものはあるっ!」
     放たれた光輪が敵を切り裂き、彪が水平に構え刀身を軽くなぞる。
     刃が緑の光を帯びた。
    「東村山カテキンビーーーーム!」
     康徳の叫びと共に狭山茶カテキンパワーを込めた緑のビームが敵を灼き、そして飲み込んだのだった。

    ●プリャニキとかどうですか
     緑光が消えた後、そこには座り込んだまま動こうとしない艦艇男の姿があった。
     満身創痍。船体部分はもはや穴だらけ。そして自慢の砲塔もいつの間にやらざっくりと切り裂かれている。
    「これでフィニッシュデスネ! ミッション、コンプリートデス!!」
     ドロシーは元気に跳ねてどこかに向けてVサインをキメる。だが月夜は油断しない。残ったポップキャンディーをがり、とかみ砕く。
    「さあ、約束通り喋ってもらうぜ」
     チェーンソー剣の刃を隙無く向け問い正すと、敵は少しだけ顔をあげた。
    「やってくれたな……だが自分を倒しても第二第三のロシア警備艇が密漁船を追い回す事だろう……」
     意味不明気味な言葉とともに、ドーン!! という元気な爆発音をあげて艦艇男が大爆発。鼓膜がびりびりした。
    「……倒してからって言ってただろうがよ……」
     ぷっ、とポップキャンディーの棒を吐き捨てながら、月夜は大変うんざり顔で呟く。話を聞かない上に約束も守らないとかまったくもって迷惑な怪人であった。
    「皆様お疲れ様でした、お怪我の具合はいかがでしょうか?」
     怪我の具合を確かめる優希那。亜樹の傷の様子は良くない。他にも命には別状はないものの、それなりに深い傷のものもいる。早く学園に戻った方が良いかもしれない、なんて事も彼女は考える。
     戦いが終わってもメディックとしての仕事は終わらない。戦い終えてみんなで無事に帰るまでが依頼なのだから。
     康徳はESPを利用し海面を歩き周囲を見渡す。洋上に見えるは砕けた流氷くらいか。
    「警備艇怪人ヨ、アナタもまた強敵デシタ」
     ドロシーの言葉に優希那もそっと手を合わせた。ダークネスとはいえ、それでも誰かがここで生涯を終えたのは確か。いや、それ以前にダークネスとなった「人」が居たハズなのだから、その人物の冥福を祈るくらいは許されるはずだろう。
    「……サテ、早く学園に帰ってティータイムと行きマショウ!」
     ドロシーは気を取り直し元気に述べる。しんみりとした空気を吹き飛ばすように。
     これから何があるかはわからない。だが、だからこそ英気を養うのは大事だ。
     学園に戻ったらあったかい紅茶と美味しいお菓子でも食べて元気を出すのも良いかもしれない。

    作者:高橋一希 重傷:小鳥遊・亜樹(少年魔女・d11768) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月17日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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