カメラを愛する少年たちは、色香と狂気に惑わされ

    作者:雪神あゆた

     滋賀県は住宅街の一角。人気のない通りで。
    「ほら……坊や達? 優しく指を動かして……激しくしちゃうと壊れちゃうわ、カメラが」
     バニー服を着た女が、カメラを持った少年達に話しかけている。
     少年達は四人。いずれも中学生くらい。痩せており筋肉もあまり発達していない。
     女は20歳前後で長身。両腕で胸を挟み、ふくらみの豊かさと柔らかさを強調するポーズをとっていた。
     赤い紅が塗られた唇を動かし、少年達に言う。
    「ほら、もっとぉもっとぉ……あたしのことを、とって……ちょうだい? 近づいて……はやく来てぇ……ねぇ、もっと近くで……んっ、いい子ね」
     少年達はバニー服の女をカメラのファインダー越しにみつめ、何度もシャッターを切る。
     数分後、バニー服の女は胸元に手をやった。
    「あたしのことをたっぷり、撮影してくれたお礼に……これをあげる」
     胸の谷間から取り出したのは、黒いカード。
     それを少年達に手渡していく。
    「さあ、いっぱいいっぱい殺してきてね? 欲望の赴くままに……お姉さんからの、お、ね、が、い♪」
     少年達に向かって投げっキッス。
     少年達は熱に浮かされたように頷くのだった。
     
     教室で。
    「……いやらしいことは、いけないと思います!」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は首を左右に振ってから、説明を始めた。
    「臨海学校で騒ぎを起こした、HKT六六六人衆。彼らがまた事件を起こすようです。
     黒いカードを持った男の子達――滋賀県はとある中学の写真部の四人組が殺人を行うのですが、今回の男の子達は、ただの一般人ではなく、武器を持ってサイキックに似た攻撃を仕掛けてきます。
     ソロモンの悪魔や淫魔の配下みたい、ですね。
     これが、黒いカードの新しい能力なのか、それとも別の力なのかはわかりません。
     ですが、ともかく男の子達の凶行を止めなくてはいけません。
     四人はKOすれば、力を失い正気を取り戻すようです。四人と戦い、カードを回収していただけないでしょうか」
     
     姫子は灼滅者たちが頷くのを待ってから、説明を続けた。
    「写真部の男子四人は、殺人したいと言う欲望に取りつかれ、公園をおとずれます。
     公園の奥には砂場があり、五人の子供がいます。放置しておけば殺されてしまうでしょう。
     皆さんは午後2時に、公園の中に入り、公園内で待機していて下さい。
     ただし、写真部四人が来る前に、子供たちには話しかけたり公園から出したりすると、バベルの鎖の力で感づかれてしまいます。
     子供たちに話しかけたり、何かをするとしても、それは写真部四人が来てから、お願いします」
     写真部四人は灼滅者が公園に入ってから10分後に訪れる。
    『お姉さんのために、がんばらないと』『早くたくさん殺さなきゃ』などと呟きながら。
     四人のうち二人は、眼鏡が武器になっている。
     睨みつけてペトロカースに似た呪いや、眼鏡に集中した気を放つオーラキャノン相当の技を行ってくる。
     また、残りの二人は、ナイフを武器にしている。こちらは、零距離格闘やジグザグスラッシュの技を使ってくるようだ。
     公園には幾つか遊具はあるが、それ以外の障害物はない。
     また、出入り口は写真部四人が来る入口、その一つしかない。
    「幸い、入口から奥の砂場までは、それなりに距離があります。入口付近で戦っている分には、砂場にいる子供には、攻撃が当たる事もないでしょう。
     子供たちをうまく守って戦って下さい」
     説明を終えると、姫子はまっすぐに灼滅者の瞳を見つめる。
    「写真部四人にカードを渡した存在の事も気にかかりますが――ですが、今は目の前の相手に集中を。
     皆さんなら惨劇を止められる。信じてますからっ!」


    参加者
    シルフィア・カレード(月の箱庭・d00427)
    鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    柴・観月(サイレントノイズ・d12748)
    水城・恭太朗(機嫌一万長・d13442)
    火伏・狩羅(蛍火・d17424)
    片桐・ほの花(花紺青・d17511)
    六道・光琉(小学生デモノイドヒューマン・d20376)

    ■リプレイ

    ●立ちはだかるは我ら
     公園の奥で、子供たちが砂遊びをしているようだ。幼いはしゃぎ声が、入口付近にいる灼滅者にまで届いていた。
     水城・恭太朗(機嫌一万長・d13442)は声を聞きつつ、炭酸飲料の缶を強く振る。そして缶を影業で破壊。泡が噴出する。入口に向かって。
     入口には四人が立っていて、今まさに中に入ろうとしていた。彼らへ炭酸の泡が飛ぶ。
    「こっちだ!」
     恭太郎は四人に告げた。
     四人はいずれも少年で、痩せた体に白いシャツを着ていた。二人が眼鏡をかけ、残りの二人はナイフを持っている。今回戦わなければならない相手だ。
     柴・観月(サイレントノイズ・d12748)は彼らの前に立ちはだかる。
    「奥に行きたいなら、まず俺達を殺さなくちゃね」
     抑揚のない口調。無表情。だが、眼鏡の奥の瞳から、観月の闘志が感じられた。
    「『あの人』のお願いで殺さないといかんのじゃろ。ウチらを殺したら、いーっぱいご褒美もらえるよ」
     鷹森・珠音(黒髪縛りの首塚守・d01531)は相手を挑発しながら、サウンドシャッターを展開。奥の子供に、戦いの音が聞こえぬようにする。
     少年達は虚ろな瞳を灼滅者達に向けながら、呟きだす。
    「そうだ、殺さないと」
    「お姉さんのためにも殺さないと」
     一歩、二歩と近づいてくる少年。
     片桐・ほの花(花紺青・d17511)の霊犬、白柴姿のえだまめは、嬉しそうに尻尾を振りだす。
    「……えだまめ。ちょっと緊張感というものがなさすぎやしませんか?」
     ほの花はたしなめながら、槍の柄を握った。
     六道・光琉(小学生デモノイドヒューマン・d20376)は少年達に問いかける。
    「お兄さん達、僕より大人なのに、どうしてそんなひどいことをするの?」
     答えはない。
     光琉の顔には、困惑と緊張。ナノナノの白玉が彼を励ますように跳びはねた。
     光琉や仲間達は敵の進行を妨げる陣形を取った。少年達を奥に進ませないために。
     火伏・狩羅(蛍火・d17424)も、あらかじめ決めていた位置に立ち、背負っていたバセットバウンド、霊犬の倶利伽羅を地面に下ろす。
    「倶利伽羅、しっかり守りきりましょー!」
     アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)は中衛に陣取り、白銀の鋭き剣を構えた。自分に言い聞かせる。
    「子供さん達は、絶対に守ってみせますっ……!」
     シルフィア・カレード(月の箱庭・d00427)は仲間の準備が整ったのを確認すると、白い柱のようなライフルを肩に担ぎあげる。
    「……では、始めるとしよう」
     青の瞳に『力』をこめるシルフィア。
     一方。少年達二人はナイフを振りあげていた。殺さなきゃ、と言いながら、灼滅者に迫ってくる。

    ●一進一退
     少年たちが攻撃するよりも早く、珠音が動いた。
    「罠にかけるよ。黒髪縛り――『大蜘蛛』!」
     珠音は頭を振る。髪に仕込んだ鋼糸を操り、結界を構築。珠音が張り巡らさせた糸が、少年たちの足を切り裂く。
     少年たちは動きを鈍らせたが、まだ止まらない。少年の一人がナイフを振りあげるが、彼の左右から観月と光琉が襲いかかる。
    「残念だけど――殺されてあげる気なんて、これっぽちもないんだ」
     観月は黒の杖を、少年の腕に、叩きつける。ただの打撃ではない。体内に爆発を引き起こすフォースブレイクだ!
     光琉は観月にタイミングを合わせ、自分の影を実体化させる。影を刃に変え――少年に斬撃をみまう。
    「白玉ちゃんもお願いっ」
    「ナノ!」
     白玉が光琉に従い、しゃぼん玉を飛ばす。
     二人と一匹の攻撃。その痛みに、悲鳴をあげる少年。
     狩羅は今が好機と判断し、倶利伽羅を見やった。
     倶利伽羅は主の視線に気づき、走り出す。咥えた刀で少年に斬りかかる。
    「さあ、私も行きますよー!」
     少年の体勢が崩れた瞬間。狩羅は笑顔のまま、拳を握りしめる。手の甲からエネルギーの盾を生成した。盾を少年に叩きつける
     鈍い音が響いた。少年はよろめいて後ろに下がる。
     だが、
    「殺さなきゃ」
    「お姉さんのために、頑張って殺さなきゃ」
     ナイフを持った少年の後方で、眼鏡をかけた二人が呟いた。
     眼鏡が怪しく光る。少年たちの目が見開かれた。
     次の瞬間、狩羅は足が重くなるのを感じた。石化の呪いをかけられたのだ。
     さらに、別の少年がナイフで刺そうとするが、
     恭太郎がジャンプ。少年の前に着地。仲間を狙うナイフを、最終決戦形態の己の体で、受け止めた。
    「ぐああああっ……っ!」
     派手な悲鳴をあげたが、それは演技。悪戯っぽい顔になると、片目を瞑る。
     恭太郎は狩羅の肩に触れ、気を流し込んだ。気で呪いをかき消していく。

     一分後には、アリスが少年たちの標的になった。
     アリスは腹をナイフで刺されてしまう。傷は深い。
     さらに別の少年がアリスを切ろうとするが、
    「させませんっ」
     ほの花がアリスを庇い、代わりにナイフで切られた。
     ほの花は相手の腕を杖で払い、肩を突く。フォースブレイク! 突かれた少年はほの花の魔力で吹き飛んだ!
     一方で、えだまめはアリスの足元に立っていた。浄霊眼で見上げアリスの痛みを消していく。
     アリスは、えだまめとほの花に、ありがとうございます、と礼を言い、少年に向き直る。
     先程飛ばされた少年はふらふらと立ち上がっていた。
    「負けられません……っ」
     アリスは『不思議の国のアリス』と題された本を開き、カオスペインを発動させる。少年の心をかき乱す!
     シルフィアは、できた隙を見逃さない。
    「今の貴様は格好の標的。その程度で私達が何とかなると思ったか、たわけっ!」
     相手を強く罵倒しつつ、シルフィアは肩に担いだ武器より光線を放つ。少年の胴体を撃ち抜いた。
     少年は立っているが、足が震えていた。効いている。

    ●耐え抜いた末に
     戦闘は続く。
     敵の攻撃力は低くはない。が、灼滅者たちは防御重視の陣形を活かし、敵の猛攻をしのぎ続ける。
     アリスは青の瞳に、決意の光を浮かべていた。
    「奥の子供さんたちに近づけないためにも、戦線は絶対に崩せませんっ……!」
     自分に斬りかかろうとする少年の前に、赤い十字架を召喚。少年の心を冒す。
     はたして少年は、隣にいた別の少年に跳びかかった。
     仲間を攻撃する少年の背に、倶利伽羅が六文銭を飛ばす。
     背中を打たれ少年が振りかえった。
     狩羅は間髪いれず、少年との間合いを詰める。此方を向いた少年の顔へ、閃光百裂拳!
     少年はうつ伏せに倒れた。
    「トドメをっ!」
     狩羅の呼びかけに観月が答えた。
    「うん、まかせて。――行くよ、俺の全力で」
     観月は、少年をじっと見つめる。少年が立ちあがる瞬間に、杖を振った。上から下へ。そして、脳天をしたたかに打つ!
     少年は倒れ、今度は起き上がらなかった。

     一人倒れたものの、少年達はなお必死で抵抗してくる。
     今も、恭太郎が仲間を護るため、少年達の攻撃を受けとめていた。
     光線で撃たれ、呪われ、さらにナイフでえぐられる。
     恭太郎は痛みの中でも自分を見失わない。呼吸を整え、体中の気で己を治療する。そして不敵に笑った。
    「やるじゃないか……だが、勝つのは俺達だぜ!」、
     シルフィアは後方から様子をうかがう。少年達は恭太郎の気迫に呑まれ、他への注意を怠っていた。
     シルフィアは武器の砲口を少年に向けた。
    「それ以上、好きにさせるかっ!」
     鋭い眼差しで睨むシルフィア。
     そして放ったのは、マジックミサイル。
     シルフィアのミサイルは、避けようとする少年を追いかけ――そして胴に命中。
    「うわあああああ、よくもよくもよくもっ!」
     傷ついた小年は、ヤケになったように喚く。ナイフを振りかざす。
     ほの花は、えだまめに恭太郎を治療するように指示し、そして前進。
     腕を前に突き出し、螺旋槍! 少年の胸を突き、戦闘不能に追いやった。
     ほの花は残った少年達めざし、疾走を再開。走りながら宣告する。
    「ビームがでる眼鏡はカッコいいですが……でも、そろそろお仕舞いです」
     他の者も残った二人、眼鏡の少年へ攻撃を仕掛け――二分後には、残る敵は、眼鏡の少年一人になっていた。
     光琉に眼鏡からの光線が襲いかかる。が、光琉はすばやく横に飛んだ。光線を回避。
    「ナノ!」白玉が鳴いた。そして、たつまきを放って少年を牽制。
     少年は悔しげに言う。
    「殺さなきゃいけないのにっ」
    「お兄さん。そんなこと言っちゃ、だめだよ」
     光琉は剣を持つ手に力込めた。剣が伸び、生き物のように少年の体に絡みつく。
     少年は光琉のウロボロスブレイドから逃れようと、もがく。
     珠音はその少年に向かって駆け、横を通り過ぎる。すれ違いざまに首を振った。
     髪が揺れ、糸が珠音の意志に従い少年の体に迫る。
    「黒髪縛り――『蟷螂』!」
     糸は、少年に悲鳴をあげる暇すら与えず、意識を奪い取る。

    ●戦い終わって
     狩羅は、倒れた少年達に近づいていく。狩羅は眼鏡やナイフを探したが、見つからなかった。
    「力や武器は、意識を失ったのと同時に消えたみたいですねー。ともかく助けられてよかったです」
     胸をなでおろす。
     珠音は少年たちのポケットの中からカードを見つけ出した。
    「こんなものをほいほい受け取るエロ少年……困ったものじゃが、とにかく回収しちょこう」
     ぼやきながら、珠音は四人からカードを取り上げる。
     また、恭太郎の提案で、バニーガールを撮ったカメラも回収した。
     どちらも学園に提出しよう、手掛かりになればいい、と灼滅者たちは話しあう。
     やがて、少年達は目を覚ます。
     アリスはプリンセスモードを発動させ、少年達に優しく微笑む。
    「もう、大丈夫です。安心して……? もしよろしければ、聞きたいことがあるのですが……」
     バニースーツ姿のシルフィアが、アリスの言葉を引き取った。
    「聞きたいのは一つ。少年、君達にカードを渡した人を覚えているか?」
     アリスの姫姿とシルフィアのバニースーツは、少年達に好印象を与えたようだ。が、少年達は、よく分からない、と申し訳なさそうに答える。
    「でも、助けてくれてありがとうございます」
     頭を下げる少年達。
     恭太郎と光琉が少年達をさとす。
    「少年たちよ、人のお願いを聞くのもいいけど、美人からのお願いって、大体ロクなもんじゃないからな。今度からはちゃんと気をつけて動くんだぞ?」
    「知らない人なのに甘い言葉とかかけてくる人は、とても悪い人かもしれないから、心を許しちゃいけないんだって、聞いたよ?」
     男としての共感の混じった恭太郎の忠告、素朴だが説得力を持つ光琉の言葉。
     少年達は神妙な顔で頷く。
     少年達に観月は頭をちいさく下げた。
    「ごめんね、さっきは。でも、子供を襲うなんて駄目だから、それはしっかり分かって欲しいんだ」
     淡々とした観月の言葉に、少年達は「はいっ」と声をそろえ答えた。
     やがて、少年達四人は何度も頭を下げ、公園を出ていく。
     公園の奥から、
    「おにいちゃん、おねえちゃん、そんな所でなにしてるのー?」
     子供たちが遊びを一段落させ、灼滅者たちに気がついたらしい。興味深げに声をかけてくる。
    「えだまめ、遊んできてあげてくださいな」
     ほの花の言葉を聞き、えだまめが軽く吠え、子供達に駆け寄り、じゃれついた。
    「わんちゃんだ、かわいー」
     灼滅者たちが守りきった子供たちの、無邪気な声と笑顔。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月15日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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