武蔵坂学園の校舎内の一角で、ひとつの集まりがもたれていた。
魔人生徒会の役員メンバーは学園の生徒であること以外は全て謎に包まれている。
そんな生徒会のメンバーが集まることになったのは、役員のひとりが議題を持ちかけてきたからだ。
呼び出しは突然来るものだと思っているから、皆落ち着いたものだ。
机を挟み、向かい合うように席についたメンバーのひとりが僅かに顔をあげ、他のメンバーを見渡す。
顔は狐面で隠され、顔の造形は分からないが、長い金髪を左右で三つ編みにし、きっちりと高等部の制服を着込んだ生徒だ。
「我が学園には様々なクラブがあります。足りないジャンルのクラブなど見つけることが難しい程です。そこで、私はひとつ提案があります」
「それは何かな」
他のメンバーが聞き返すと、狐面の役員が頷き、言葉を続けた。
「時機到来です。今こそフリーマーケットを開催するのです。皆が歓天喜地するような」
「異論はない」
言葉にする者、頷く者と反応は様々だったが、反対するものは居ない。
「青天白日のもと、フリーマーケットは開催されるでしょう。創意工夫を凝らし、どのようなもにをしやがってくれるのか、私たちは楽しみに待つことにしようではありませんか」
そして、魔人生徒会主催によるクラブ全体を巻き込んだフリーマーケットが開催されることとなった。
伝達は迅速に行われることになり、放送室に斎芳院・晄(高校生エクスブレイン・dn0127)の姿があった。
魔人生徒会からの通達を校内放送で伝えるべく、マイクの電源をオンにした。
校内放送であることを伝えるメロディが流れる。
「魔人生徒会主催によるクラブのフリーマーケットを開催することとなりました」
そのまま、詳しい内容を続けていく。
開催されるのは、休日の一日を使います。
開催時間は午前9時から午後6時まで。
クラブショップ単位でのフリーマーケットに参加となります。
メイン会場は運動場ですが、内容によっては音楽室や家庭科室、体育館やプール、中庭などもあります。
まず、クラブがどの場所に店を出すのか、内容はどのようなものなのかを受け付けた後、フリーマーケットのパンフレットを作成し、前日に配布。
飲食系、クラフトメイド系、ゲーム系、運動系等、様々なジャンルがありますが、クラブをアピールするには格好の場だと思います。
趣向を凝らして、そのクラブらしさが出たショップの出店をお待ちしています。
必要機材などは魔人生徒会から貸し出されますので、ご安心ください。
「フリーマーケットは、出店する側は勿論ですが、お店を見てまわるのも楽しいものです。出店する側、客として参加する側と両方が楽しめるフリーマーケットとなるよう、努力しましょう」
晄はそう言うと、魔人生徒会からの伝達を終えたのだった。
●店先で
休日を利用して開催された魔人生徒会主催のフリーマーケット。
出店側で参加するのも、客側で参加するのも生徒という立場であったから、見知った顔があれば、挨拶と共に立ち話に花が咲く。
気易いというのは、そういうものなのだろう。
様々な場所が会場となっているが、クラブの特性で選定している所もある。
肌を刺す陽射しも、イベントの気分で気にならない。
優歌の家庭科クラブは、店を出すのではなく、店側を相手にする内容となっている。
運動系なら、店の運営に慣れていないだろう、そういった場合のノウハウを提供するのだ。
この活動に関して魔人生徒会に報告書を作成したいと考えていた。
活動の理解が求められたらと願って、優歌は出店しているクラブをまわり始めたのだった。
南基準では、ジャケット羽織ってジーンズでビシっと決めて、一年後輩で気の合う一鷹と共に巡っていた。
「へぇ、こういうのもいいな。お、こっちなんてカッチにつけてやると似合うかも!」
方向転換して、さくさくと南があるき、一鷹の方を振り返った。
一鷹はカジュアルな私服姿で、ジュース片手に歩いて追いつく。
そんな事を行くとか繰り返す。
「あ、みなみん。向こうに女の子向け小物がいっぱいあるぜ。行ってみる?」
「ん、寄ってみようか」
様々な装飾品が並んでいるのを選ぶのに夢中になっている南の様子に、一鷹が呟く。
「興味はあるんだね…やっぱ女の子だな」
その様子に悪戯を思いつき、気づかれないように南の長い赤茶の髪に髪飾りを幾つも結びつけていく。
流星、さくらんぼ、花、アルファベットと続いて、これはバレるかなと思いつつ、似合うしとネコミミのカチューシャをつけて。
一鷹にも似合いそうなのを選んでいると、どうも頭が重い事に気づく。
手を頭にやり、違和感を覚えて鏡の前に立つ。
(「なな、なんだこれ!? いつの間に!?」)
「駿河きさんー…っ!」
「ほらほら、似合ってんじゃんか。どのアクセが一番好き?」
見つかったか、と一鷹は笑い、携帯のカメラを起動して写真に南を撮る。
ぷんぷんと怒りつつも、南も本気で怒っている訳ではないので、すぐに怒りを収めた。
「悪かったって、みなみんはどれがいい?」
「まったく、そっちの奢りだけんね! 流星の髪飾りがいい」
「つけてやるよ」
南に言われて他のアクセは元にあった場所に戻し、選んだ髪飾りの支払いを済ませると、次のお店へと歩き出した。
運動場の真ん中に出店しているのは、K.H.D〜これから本気出す〜。
商品はカレー。ノーマルなカレーもあれば、失神しそうなレベルの辛さの物もあるという。
辛さはランダムと言うから、ギャンブル性もあって楽しいと思うのだ。
もう一つの商品は、トレーディングカード。
カードとなっているのは、補正しまくった部員のもの。
莉那秘蔵の写真も並べてある。
何より、呼び込みや販売係の部員の姿がメイド服や巫女服姿で人目を惹く姿だ。
男女問わず部員はコスプレである。
そう男子も女装なのだ。
カムラは巫女服で猫耳&猫尻尾、足袋と眼鏡、手には箒を装備。完璧なメガネ猫巫女を目指しただけあって、完成度は高い。
水面はメイド服。ふんわりとした顔つきをしている水面も、今日はきりっとした表情で愛想を振りまいている。
依沙もメイド服だが、タイプが違う。スカート丈はミニで、ニーハイを穿き、絶対領域が眩しい。依沙自身は丈が短いのが少し恥ずかしい気分なのだが、部の為と勇気を振り絞って店頭に立つのだった。
「いらっしゃいませ、K.H.D特製カレーはいかがですか?」
照れの混じった声が響く。
知信はというと、シスター服姿。女装するからには全力でと力が入っている。
目指すのは静けさの中に清らかさが光るそんなシスター。
悠華はメイド服で、余り身につけないアイテムと言うことで、気恥ずかしい気分を味わっていた。
クラブ部長の莉那には、カレーの販売とは別に目的があった。
それは、部員獲得と部の知名度UPを狙う! ことだった。
莉那自身もメイド服に身を包んで、店頭に立つ。
「天草、流阿武、西園寺、呼び込み頼むぞ!」
「はーい」
女装部員達の精一杯女の子らしい声が応える。
「辛さ1倍~100倍まであるよ! お気軽に挑戦待ってるよ!」
夏緒瑠はコスプレをした部員の中でも目立とうと奮闘して、一般的な物よりも露出度の高いメイド服を身につけている。胸元は谷間が覗き、スカートはミニ丈。フレンチメイド服よりも過激な感じだ。
「部長! わたしに任せてください!!」
色気だだ漏れな服装とは裏腹に、言動はけなげそのもので、部長の莉那に駆け寄った。
が、振ってくるのは愛の拳。
これが部長の愛、と夏緒瑠は感じ乍らも、これ以上は駄目と身体が逃げの体勢に入った。
莉那もこれ位だろうと、店から追い出される。
「さっさと、宣伝してこい」
「うぅぅ…はい」
宣伝用の看板を手にし、逃げるように走り去っていく。
涙がキラリと光った気がしたが、それも日常の光景。部員の気持ちはいつも通りだなぁ、という感想だった。
ついでに秘蔵写真を売っていた水面も続けてシバかれていた。
「現在K.H.Dでは新規部員さんを募集中です」
依沙が笑顔を振りまく。
ランダムというのは、自分は屹度大丈夫という自信を持って挑んでくる人々が次々とと犠牲になっていく事となった。
(「目指せ死傷者ゼロ! …ってあれ? フリマの目標じゃなくない? これ」)
辛さにのたうつ客を介抱しつつカムラは、自分自身に突っ込みを入れた。
辛さに別の世界に行っていた客は莉那によって優しく起こされる。笑顔付きだ。そして、その客は依沙にまわされる。
莉那は、女装部員の恥ずかしい姿をきっちりとカメラに収めていた。勿論後で使えそうという理由で。
「はい、ミカン。保健室に行く?」
悠華は知信の用意したミカンを差し出しつつ、加減を窺う。
無言で頷く客を保健室へと案内しながら、宣伝もする。決して辛さの匂いに涙目になってつらいから逃げ出したわけではないのだ。
統弥はアンティークや掘り出し物を探せたらと思う。勿論、美味しいものも。アンティークグッズはティーカップや時計などの小物を早速見つける事が出来、満足する。
友人へと贈る品をと選ぶのは、ネックレスなどの装飾品が良いと、目に入った店へと近づく。
無事に考えて居た品を入手出来たら、料理道具や武器の掘り出し物を探して、便利な道具等も探して。
匂いにつられて、味わった後は、味の秘密が気になって質問の嵐を起こしたのだった。
シルバー・ウルフカオスでは、シルバーアクセサリを販売している。
普段もシルバーアクセと天然石を扱うお店で、部員の時兎はもっぱら買う専門なのだが、今日は売り子として立っていた。
(「って言っても、俺性格的に売り子向きじゃないンだよね…」)
いつものお店と違って、計算してくれるレジが無いから、電卓と自分が頼りだと、千波耶は自分を励ます。
(「…お釣り間違えませんように」)
銀嶺は、善四郎の指示に従って、その通りに並べていく。可愛い…とかのセンスは正直自信がないのだ。
それが終わると、銀嶺は猫変身。体長90センチ程の真っ黒なメインクーンで、もふもふの毛並みは思わず触って見たいと思わせる。
クラブショップの販売品2種、ブレスレットとネックレスを身につけペット用アクセも幾つか身につけて、マネキン代わりになる。
曲がっていたりしたのは、千波耶が直してくれた。
部長の善四郎は慣れた様子で、商品の説明や銀製品の手入れの仕方などを説明している。
商品ディスプレイは、小さな動物のマスコット人形を使って秋っぽく仕立られ、可愛らしい。
善四郎命名タイトルは「もりのどうぶつさん」
展示販売する商品は、ハロウィン先取りなデザインのものや橙や紫の天然石を用意したものが並んでいて、アクセに季節感を求める人にはたまらないラインナップとなっている。
千波耶はディスプレイの「どうぶつさん」達が可愛くて、売り子していても顔が何だかほんわりとしてしまう。
買ってくれた客には、お手入れの仕方を纏めたチラシを手渡す。長く使って欲しいと思うから。
「ハロウィンに向けての先行発売っす! お一つ、いかがっすかー?」
並べた商品の邪魔にならない位置で、大人しく座り、客が来ると、ふわふわの尻尾を振って歓迎する。
足元には、「こういう品も取り扱っています、クラブショップで好評販売中」と書いたプレートが置かれ、アピールしていた。
お店の看板猫をやりつつ、立ち止まった客には前足でつっとチラシを押し出して、可愛く鳴いた。撫でてくれた人は喜んで態度で示す。
接客してる部員を横目にディスプレイの調整をする時兎。こういった物の方が落ち着くし、何より得意だ。
けれど、どうしても接客する時は精一杯の笑顔を向けて。
お薦め商品や新作、重ね付けの仕方やコーディネートをしたりとやれる事はして、手に余れば助っ人を頼んでと、上手くまわっていく。
土星からやって来た魔砲少女(自称)の璃理は、並ぶ店を見て瞳をきらきらと輝かせる。
地球の面白い物を求めて、巡りはじめた。
「おお、これの素晴らしいアクセサリーの数々!」
似合うアクセを見繕って貰うと、上機嫌で歩き出す。大本命は園芸を扱う場所。鉢植えを手に入れて、大切に持ち帰り土星に植えるのだ。
そうすれば屹度4万年後位には大きくて立派な大樹が土星に花咲かすのですよー☆ と、ツインテールの髪を揺らし、璃理は言った。
Carpe diemの商品は、信志が天然石を使ったアクセと安寿がカラフルで可愛い端切れを使って作ったシュシュやリボンのヘアゴム、コサージュといったもの。
恋愛運に効果のある石、ピンク色の石をメインに、赤や紫の石や金の金具を使って秋色を出している。
恋のおまじないは女の子なら好きな物だと、恋話やたわいもない話をし乍ら、商品を並べる。
「そのシュシュ可愛い~」
「こう見えても手芸はわりと得意なのよ」
最初の客は信志で早速身につける。
「どぉ? 似合う? アンジュには…そぉねぇ、コレどうかしら」
手に取ったのはインカローズのブレス。安寿は普段長袖だから、袖口から見えるブレスがオシャレだと薦める。さりげないオシャレに気づいて呉れる彼が現れたら良いと続けた。
「綺麗な秋色のアクセだね。どうかな?」
細い手首に彩が映えた。
「フラワーモチーフのスリーピンどう? 芯の所に大き目のパールビーズと青い鳥のチャームがつけてあるの」
使い方が幅広いのだ。安寿と信志は互いを飾りながら、それがマネキン代わりになって、客がやって来、そしてそこでも恋話になって相談を受けたりしたのだった。
運動場の隅の方では、福郎の福楼飯店が倶楽部特産品の『闇拉麺』を提供する。
人の多い所は不慣れだが、精一杯頑張ろうと思う。少しでも宣伝になればと。
『闇拉麺』は、鶏ガラベースの魚介の風味の薫る醤油スープに太縮れの麺で、近い味は喜多方拉麺になる。
原材料は秘密。
「ESPがブイヨンである事は何の関連性もないです、ホントウですよ?」
客に説明する時の声色が、凄く意味深だ。
コック帽子にマスクをしているので、それもあるのかも知れなかった。
オデットとチカはクラスメイト。同じクラスだから、授業中の様子は知っているけれど、お休みの時に一緒になるのは、初めてだった。
「オデット激ヤバ! チョー可愛いんだけど!? マジお嬢な空気流れてんですけどー!」
普段とは違うオデットの服装に、チカは嬉しくなる。一緒に歩く子が可愛かったら、男女問わず嬉しいもの。
「今日のチカも、とってもステキ!」
2人が気になるのはファッションの事。オデットは、日本の女の子って、みんなオシャレでカワイイと思うのだ。
折角の機会だからと、チカはオデットにいつもと違うコーディネイトを勧めて、様々なパターンを作る。冒険しやすい価格なのもフリーマーケットの良い所。
服の次は、アクセ探し。
「ね、これチカにピッタリ!」
オデットがチカの耳元に近づけて鏡を向けると、ガラスの靴のイヤリング。
「キラキラして綺麗ー!」
「でしょう?」
チカはネイルアートの施された爪先で摘んで、その煌めきを楽しむ。購入した時に耳に飾ると、笑みを浮かべて歩き出す。
新しいアイテムを手に入れた事にわくわくしながら、オデットの案内で猪鹿蝶のお店に向かうのだった。
こちらは中庭。
猪鹿蝶は緋毛氈に番傘を立て、茶席風の店構え。扱うのは、和風雑貨。
「この店のコンセプトは『粋』で決まりだな」
江戸の茶屋の看板娘みたいな萩の花の模様の着物に、たすき掛けをした茶子、外郎売の練習に余念がない華丸、そして老舗の番頭みたいな様子の千早。
普段通りに来客数や販売数を愛用のノートPCに入力していると、茶子から突っ込みが入った。
確かに馴染んではいないなと納得する。
「折角お店が和風なんだから店長もそれっぽくないとだよね♪ 算盤と大福帳、決まってるよ☆」
そして変更されると、満足げに頷く。
千早というと、言いようのない時代錯誤感に笑いが込み上げた。
「…たまには悪くない」
今日は俺が猪鹿蝶屋の番頭だと、それらしく振る舞う。
平安時代の料紙風短冊とか竹の香箱が並び、短冊には3人の詠まれてあった。
『PCを大福帳に持ち替えて大店気分に浸る秋の日』
『秋風に 俄か舗の 幕が明き』
『日常を映した様な品々に託し伝へる和の心かな』
華丸は、趣味の津軽三味線を弾きながら客引き。
外郎売の文句を変えて、弾き語り。
「猪鹿蝶と申すは、お立ち会いの中にご存知のお方もござりましょうが、来る日も来る日も歌を考え、和に親しみ、和を愛し、そうして出来たこの品々。天照大神も御照覧あれと、ホホ敬って、の品等はいらっしゃりませぬか」
「さすが華ちゃん!まるで外郎売りの舞台みたいだよ♪ よっ! 琴富伎屋っ!」
茶子は声を掛けつつ、お店が何かの舞台みたいだと思う。
奏でられる音色に惹かれやって来た客には、
「知らざぁ言って聞かせやしょう!」
と、気合いを入れて説明をして。
帰りに寄ったというオデットとその友人に、茶を振る舞った。
流希は、多種多様な人々が集う学園だからこそ、自分の見たことの無いような物が集まると思う。
この機会に、そういった物を目にして見たかった。
耳に聞こえてくる津軽三味線の音色に惹かれ、足を向けると、中庭には番傘の立てられた和風空間があった。
このお店の人達はどんなお話を聞かせてくれるのだろうと、楽しさを胸に秘めて近づいていく。
秋も深まった日に開催された魔人生徒会主催で行われたフリーマーケット。
参加した人々に楽しい思い出として残り、暫くは賑やかな時間が続いたのだった。
作者:東城エリ |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月20日
難度:簡単
参加:27人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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