力研ぎし炎を纏い

    作者:幾夜緋琉

    ●力研ぎし炎を纏い
    『……ゥゥゥ……グ、ルゥゥ……』
     山中に響き渡る呻き声。
     一つ聞けば、山中に住む小動物達は恐れ戦く……そしてその声色は、何かに怒りを向けているが如く、荒い。
    「……ん、何か聞こえたか?」
    「いーや、なんもきこえなかったぜー」
     軽装の登山装備、リュックサックを背中に背負った学生二人が、ぐだぐだと会話。
     ……すると、その声を聞いた声の主……イフリートが。
    『ウグルゥゥウ……!!』
     獲物を見つけた、とばかりに、森の中から突如姿を現す。
     突如現れた獣に、驚く二人。
    『う、うわぁぁ、なんだなんだあれ!!』
     突如鋸とで、すっかり腰が抜けた彼ら……そして、彼らはじりじり、と後方に逃げる。
     が……獣、いや、イフリートが。
    『グルゥゥゥア!!』
     と、咆哮と共に喰らい尽くすのであった。
     
    「みんな、集まったね? それじゃ早速だけど、依頼の説明を始めるね!」
     須藤・まりんは、集まった灼滅者達ガッツポーズで元気に声を上げながら、早速説明を始める。
    「今回は、静岡県の山中に現れたイフリートを退治してきて欲しいんだ!」
     と、静岡県三島市にある、とある山中を指す。
     かつては城だった所……つまりは城跡。その近くに、イフリートが現われたというのである。
    「このイフリート……どうやら既に何人かの被害者を産んでしまっているみたい。もうすぐ秋になるし、登山シーズンにもなる。そうすればイフリートが更なる被害者を出してしまう……という可能性は十分にあるよね? そうならない内に、皆にはイフリートを倒してきて欲しいんだ!」
    「勿論皆が認識してる通り、イフリートは強力で、危険なダークネスだよ。でも……きっと皆なら、イフリートを灼滅出来ると想うんだ!」
     と拳を振り上げるまりん。
     そして続けて。
    「相手にするイフリートは一匹……だけどその炎に包まれた身体から繰り出される、打撃力に優れた一撃は、下手すれば即重傷にも繋がりかねない高い攻撃力を持っているよ」
    「勿論、イフリートの内は獣の様な心も持っている様で、森の中……みんなが恐らく戦闘場所となる所には木々が色々と生えていると想うんだけど、そこを縦横無尽に走り回っているみたい。動きが素早い敵だから、その動きに惑わされないよう、皆で注意してね?」
    「後は……下手に音を出すと、何も知らないで、興味を持った一般人が迷い込んで来るかもしれない。その点は頭の片隅にみんな入れておいて、作戦を考えて欲しいんだ」
     最後にまりんは。
    「何はともあれ、イフリートがこのまま暴れ続けるのは防がなきゃならない。皆を危険な目に遭わせてしまう事になるけど、きっと皆なら大丈夫だと信じてる。だから……宜しく頼むね!」
     と、ぴょーんとジャンプして、気合いを皆に入れるのであった。


    参加者
    有沢・誠司(影狼・d00223)
    両角・式夜(黒猫カプリッツィオ・d00319)
    海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)
    真榮城・結弦(中学生ファイアブラッド・d01731)
    黒澤・蓮(スイーツ系草食男子・d05980)
    虚中・真名(緑蒼・d08325)
    宮代・庵(小学生神薙使い・d15709)
    鈴鹿・美琴(異端のカタルシス・d20948)

    ■リプレイ

    ●炎の力と
     まりんから話を聞いた灼滅者達。
     静岡県は三島市、山中に存在する城跡……掘や土塁などが、風化を避ける為に整備されており、過去の城址の面影を感じ取る事が出来る史跡。
     更に歩いて行けば、周りには美しい緑が咲き誇り、灼滅者達の来訪を歓迎しているかの様にも想える。
    「……城跡、それも山城ですか……」
    「ん……? ああ、確かにここは山の中の城です、綺麗ですよね」
    「ええ……山城と言うのはその山一つをもって城として機能させます。山全体こそが城……そして、そこに紛れ込んだイフリートと……いや、これは……ずっと昔、山城が塞がれた頃から居たのかも知れませんね?」
    「……確かに、そういう考え方も出来るでしょうね。まぁ事実こそは分かりませんが」
    「そうですね。でも、そんな城の主を退治しようというのは、いささか気も引けます……でも、被害は食い止めなければなりませんよね」
     虚中・真名(緑蒼・d08325)と、海堂・詠一郎(破壊の軌跡・d00518)の会話。
     確かにイフリートの素性は解らないし……その原素は、この山の武士、将軍の末裔なのかもしれない。
     とはいえ……もう一つ気になるのは、最近のイフリートの動き。
    「んー、でもここ最近はイフリートを助けてたりしたし、なんでこのイフリートは暴れてるんだろ。その理由はちょっと気になるよな? まさか……」
    「……まさか、何だい?」
     両角・式夜(黒猫カプリッツィオ・d00319)に真榮城・結弦(中学生ファイアブラッド・d01731)が小首を傾げると。
    「……登山客に、尻尾踏まれたとかじゃないかな? 尻尾踏まれると痛いし、それで怒ったりするのもありえるんじゃないかな?」
    「……そんな訳ないでしょ。とは言え気になることには間違い無いけどね」
     苦笑する黒澤・蓮(スイーツ系草食男子・d05980)、それに結弦もそうだね、と笑い頷く。
     そして。
    「まぁともかく、害獣駆除ならぬ、イフリート駆除と……まぁ、規模は違えど、獣退治に変わりはないか……」
    「ええ。目的も信念もなしに、暴れ回る怪物……と。理性の欠片も感じられません。これだからダークネスは嫌いなのです」
    「そうだな……イフリートか。ブレイズゲートで出会ったことがあるが……今回はどんな奴か、楽しみだ。ああ、皆、初めての依頼だが、宜しく頼むぞ」
     有沢・誠司(影狼・d00223)と宮代・庵(小学生神薙使い・d15709)に、鈴鹿・美琴(異端のカタルシス・d20948)が声を掛ける……のだが。
    「……?」
     きょとんとしている蓮、結弦。
     記憶にある美琴は、小学生の女の子……でも目の前にいるのは、18歳のグラマーな女性。
    「美琴ちゃん、エイティーンの姿、可愛いね」
     と式夜が微笑むと、胸を張って頷く美琴。
     エイティーンを使った美琴か、とちょっと安心して……そして灼滅者達は山中に目を配りつつ。
    「それではそろそろ山に入ることにしましょうか。皆さん、準備は宜しいですか?」
     と、詠一郎が確認するように皆に尋ねると、それに庵は。
    「ええ、十分な用意をしてきましたよ。流石わたしですね、ぬかりありません」
     と、登山用装備と、登山用服装を見せる彼女。
    「では……蓮さん、お願いします」
    「解りました……っ!」
     と、続けて殺界形成を展開し、人を山中から自然と遠ざけるように仕向ける。
     そして……殺界形成を使用し、暫し経過後……一般人の気配がしなくなった所で。
    「そろそろ……大丈夫かな。それじゃ、行くとしようか」
     誠司の言葉に頷き、灼滅者達は山中へと足を踏み入れるのであった。

    ●力奮いし獣の咆哮
     そして……山中。
    「いやぁ、富士山でなくても、日本アルプスを擁する静岡の山は中々いいですねぇ……これでダークネスなどいなければ、最高なんですけれどね……」
    「そうですね。それに秋になれば、紅葉がきっと綺麗でしょう……ちょっと時期が早かったかもしれませんが、ね」
    「うん……まだまだ先だね。後二ヶ月位早かったかな……?」
    「そうだねぇ……ここら辺は、11月頃だったもんね」
     庵、詠一郎、蓮が、山中に声が響く位に、大きく会話する。
     潜むなら、普通は声を潜める物なのだが、今回はイフリートに気付いて貰わないといけない訳で、声を上げて、イフリートに、今此処に居る、と知らせる。
     又、それに加えて刀や、足音をわざと立てることで、音の麺でも騒ぎ立てる。
     ……とは言え、夕方の山中は、それだけでも中々に怖い雰囲気……幸いなのは、殺界形成と、時間のおかげで……一般人とは出会わなかったこと。
     どうやらこの山の中には、灼滅者達のみ……逆に言えば、それはそれで……ちょっと怖さもあるけれど。
    「しかし、何処にいるのだろうな? イフリートよ、早く出てきて欲しいものだ」
     と、美琴も尊大な口調で、イフリートを待ち構える。
     ……とは言え、中々イフリートが出て来る事は無くて……時間は刻々と経過。
    「うーん……本当に何処に居るのでしょうね?」
     詠一郎の言葉に、誠司が。
    「そうだね……と……?」
     ほんの僅かな気配の違い……その気配の違いに気付いた誠司が脚を、ふと止める。
     そして……耳を澄ますと。
    『……ガルゥゥ……』
     獣の呻き声。それが、かなりの近くから聞こえてきたのだ。
    「どうやら……近くに来た様だね……」
    「そうだね……此から先は、もう一回り、警戒して向かおう」
     誠司に頷く式夜。
     そして灼滅者達は、更に山の奥へと、歩みを進める。
     ……山中に入り、1時間程が経過し、大木の木陰を通りがかった……その時。
    『グ……ガゥゥウ!!』
     突如、樹の中から現れたイフリート。
     獰猛な声と共に、奇襲の一撃を企てようとしたのだろうが……その攻撃は、真名がギリギリで受け止める。
     宵闇の中に、牙とナイフが交叉する火花が散る……そして、イフリートは一旦距離を取って、灼滅者達を睨み付ける。
    「ふぅ……それでは灼滅を開始しよう。皆、準備はいいか?」
    「当然です。さて……折角登山を楽しむ人達を脅かし、暴れる事しか脳の無いダークネスさん……社会の敵なので、さっさと灼滅されて下さい!」
     と、庵が初っ端のガトリング連射を穿つ。
    『グゥゥ!!』
     しかし、イフリートは素早い動きで以て、その一撃を回避。
    「聞いていた通り、中々素早い様だね。となると……まずはある程度、動きを制限した方が良いかな?」
    「そうだな……結弦、頼めるか? 俺が牽制する」
    「了解だよ」
     クラッシャーの蓮と結弦は頷き……蓮がオーラキャノンを放つと、その逆側で影縛りを仕掛ける結弦。
     その身体がを、影が縛り上げる。
    『グ……ゥゥ!』
     恨みの籠もった声が、灼滅者達に穿たれるが、それに怯む事無く。
    「続けて行くぞ。狙いは歯ずさん、受けて見ろ、自分の力を!」
     と美琴がゲシュタルトバスターを放つと炎を付与。そして誠司、詠一郎、真名のディフェンダー陣は、イフリートを包囲するような体制を組んでから。
    「その身に癒されぬ傷を深く刻め!」
     と、ペトロカースの石化に、詠一郎は抗雷撃、誠司がティアーズリッパーを、連続して叩き込んで行く。
     対してイフリート……とりあえず、目の前に居る庵へ攻撃をしようとするが、その攻撃を誠司が咄嗟にカバーリング。
    「っ……まったく、力任せに過ぎるな……」
     そう言い放ちつつも、続けての動きにて。
    「だが……その隙が命取りだ。まずは、その脚を削がせて貰うぞ」
     カウンター気味に黒死斬で、一肢を切り抜ける。
    『ウグァアア!!』
     痛みに咆哮……周りの木々がざざざ、と揺れる。
     心の奥底まで響く、獣の咆哮は恐怖心を僅かに抱かせる。
    「ひ…………と、とと、ま、負けるかっ!!」
     一瞬怯み掛ける美琴だが、すぐ気を取り直す。そして……今度はアンチサイキックレイ。
     また、式夜はダメージを受けた誠司に癒しの矢で回復を施しておく。
     更にまた結弦、蓮、庵のクラッシャー陣。
     既に包囲網を組んでいるから、イフリートの動きはある程度制限されている……今がチャンス。
    「よし、全力で行くぜ!」
    「了解だよ」
    「力押しが効き辛いのはやりづらいですが……仕方有りませんね」
     結弦が雲櫂剣を穿つと、続けて蓮のレーヴァテイン、庵のブレイジングバースト。
     影縛りの効果と、包囲による三方向からの連続攻撃……イフリートは中々にそれを交すことも出来ずして、次々とダメージを受ける。
     とは言えイフリートは、その痛みを、身を以て洗わすが如く……暴れ回る。そして暴れ回ると共に、周りの木々もなぎ倒し、燃やし……戦場は荒れていく。
     だが、クラッシャーへの攻撃は、全てディフェンダー陣がカバーリングして受け止める。
     とは言え一撃一撃は、中々の重さで。
    「っ……さすがはイフリート。一撃一撃がキツイですね」
     苦悶と共に、軽い笑みを浮かべる詠一郎。
     とはいえ式夜が、しっかりと癒しの矢と、式夜の霊犬、お藤が浄霊眼を使っていく結果、ダメージを後には残さないように動く。
     ……ただ、イフリートの体力は多い。
     ジリジリと体力を削り……そして……合わせて10ターンを軽く経過。
    「はぁ……はぁ……き、強敵だな……」
     汗を拭いつつ、美琴の言葉……それに周りの仲間達はこくりと頷きつつも。
    「だが、未熟です。私達の勝利には揺るぎは無い筈です。さすが私」
     と庵がまた、自信ありげに微笑む。
     ……確かに、傍目から見ればイフリートの身体は既にボロボロ。
     とは言え荒ぶる獣の牙は未だに鋭く、血を求めている……。
    「でも皆……油断はしないようにね! 背後は必ず俺が護るから、安心してくれていい!」
     式夜の力強い言葉に後押しされ、灼滅者達は武器を力強く握りしめる。
     そして。
    「良し……では背後は頼む。皆、いくぞ!」
     美琴の声に、一斉に灼滅者達は斬りかかる……四方八方からの攻撃に、イフリートの炎の身体は、爆撃に包まれる。
    『グウゥオォウ……!!』
     そして、その爆炎の中に聞こえるイフリートの苦悶の声。
     その声が、僅かに今迄の声とは違う。
    「……今だよ!」
     それに合わせた結弦の声、そして攻撃。
     クラッシャー陣の連携攻撃が、爆炎の中に叩き込まれ……イフリートは、咆哮を上げた。

    ●咆哮潰えて
    『グゥゥゥゥウ……!!』
     断末魔の咆哮が、城跡の中に鳴り響く……そして、その鳴き声の終わりと共に、イフリートの身体は消えていく。
    「はぁ……はぁ……こ、こわ……っ! い、いや、最後まで油断大敵の敵だな。うむ、いい勉強になったぞ……」
     美琴がほんの僅か、エイティーンの口調を解きかけたものの、すぐに意識し直し、エイティーンに戻す。
     そして……結弦が。
    「無事終わったみたいだね……皆、怪我とかはない? 何か手伝える事はあるかな?」
    「ん……と、大丈夫ですね。まぁ……疲れはしましたけれど、ね」
     苦笑する真名、そのほかの仲間達も同じ様に頷いて。
    「さて……と、依頼は完遂……という事になるよね? 後は自由行動、って事でいいかな?」
    「そうですね……まぁ、危険なところにはいかないようにしないといけませんね……僕は折角ですし、ちょっとこの緑を見てから帰りますよ」
     誠司に頷く詠一郎、それに真名も。
    「あ、僕も少し城跡を見ていきたいかな? ここから見上げる星空は格別だろうし、さ」
     ニコリと笑う真名。
     確かにここは山の上……美しい星空を見上げるには、もってこいのスポットだろう。
     そして星空を見上げようとする二人は、山の上へ……煌めく星空と、綺麗な緑。
    「……綺麗ですね。ですが、紅葉が綺麗な季節に来れば、もっと美しかった事でしょうね……」
     と呟く。
     そうして……不意に流れる流れ星に。
    「あ…………」
     その流れ星に、すっと目を閉じ……心の奥で思いを呟く真名なのであった。

    作者:幾夜緋琉 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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