日差しが金色を帯びてきた、遅い午後のことだった。
季節はずれの流氷が、北海道北岸に漂着した。
断崖にぶつかり砕ける前に、氷塊は内側から炸裂する。
中から飛び出してきた人影が、砕け残った氷を蹴り、目の前の絶壁の上に軽々と跳び上がった。
崖の上には開けた空き地があり、人影はそこに足音も立てず降り立つ。ぴったりしたボディスーツにメリハリの効いた体を収め、顔はといえば邪悪な表情の猫マスクの、女だった。
女は、とりあえず周囲の様子を見回そうとしたところで。
「ンン?」
背後に感じた不穏な空気に、ぴりりと猫ヒゲを震わせて振り向く。
そこに立っていたのは、筋骨隆々とした男だった。
「ほほー。気配は消してたはずなんだがなァ。こりゃー期待できるか?」
男は肩に羽織っていた上着を脱ぎ捨てた。現れた裸の上半身には、数多の傷跡が刻まれている。
「まずは名乗るぜ。俺はアンブレイカブル、名は石動・真逆(いするぎ・まさか)!」
「ニャ!」
女は素早く身構えた。
男――真逆の体に、闘気が漲る。闘気は両の拳に集中し、炎のようなオーラとなって燃え上がった。
「やる気ニャ!? 負けないニャ! ロシアンブルー怪人ことロシアの青い猫とは私のことニャ!」
ロシアンブルー怪人は、ぶわりと尾を逆毛立たせ、先手必勝とばかりに地を蹴る。
怪人の武器は、手に生えた長い鋼の爪と、しなやかで素早い身のこなしだった。
「フフン! 鈍重野郎ニャ!」
真逆は一方的に攻撃を受けている。
しかししばらくすると、優位に立っているはずのロシアンブルー怪人の表情に焦りが出てきた。微妙なところで回避され、決定的な一撃を与えることができないのだ。
「ダーハハハハ!」
大きく口を開け、真逆は笑った。楽しげだった。
「けっこう速ェな! 俺に当てたのは褒めてやるぜ! だがしかァし!!」
「フギャンッ!?」
ロシアンブルー怪人の横腹に、深々と拳が埋まった。
彼女の目に見えたのは、爆炎の如く燃え上がるオーラが網膜に焼き付けた軌跡のみ。拳そのものを見ることはできなかった。それほどのスピードで繰り出された、拳撃だった。
大型トラックに撥ね飛ばされた子猫のように、儚く、ロシアンブルー怪人の身体は断崖の際へと吹き飛ぶ。
「当てんなら、こんくれえドスンと行こうぜ。……なア? おい。聞いてんのかコラ青い猫。つか青くねえよ灰色じゃねえかテメェ。なあ、もうちっとやろうぜ。なあって」
「うぐぅ……」
倒れ伏したロシアンブルー怪人は、そのままずるずると断崖から滑り落ちた。
そして着水の水飛沫と同時に、その身体は爆散する。
「ッチ。あー、こんな勝ちじゃ染みねえ」
断崖を見下ろし、ロシアンブルー怪人の最期を見届けた男は、舌打ちした。
「ゴゾーロップに染み渡るような勝利ってヤツをよー、してェんだよ俺ァ」
「北海道にまた1つ、ロシアのご当地怪人を乗せた流氷が漂着するようです」
祝乃・袖丸(小学生エクスブレイン・dn0066)が、教室に集まった灼滅者たちにそう切り出す。
先日から度々報告されている事件だが、無数のロシアン怪人が乗っていた巨大な流氷が何らかの理由で破壊され、バラバラになってオホーツク海を漂流し、北海道の海岸のあちこちに流れ着いているのだ。
「このロシアン怪人の漂着に対応して、アンブレイカブルが動き出しています。
どうやって、流氷の漂着を知ったのかは不明です。が、格好の腕試しの相手と思ったのでしょうね。
漂着するロシアン怪人を待ち構えて、喧嘩を売っているようです。
今回の未来予測で、生き残るのはアンブレイカブル。ロシアン怪人との戦闘でのダメージがあるところを、漁夫の利を狙って灼滅してください……とお願いしたいところなのですが」
袖丸はうーんと唸った。
「石動・真逆と名乗るアンブレイカブル、多少の手傷を負っているものの、ロシアン怪人相手に圧勝でした。
勝利は難しいと思われます。
場合によっては、戦いを挑まないという選択肢もありえます。
しかし、怪人との戦闘で暴れ足りていないようで、そのままにしておくと憂さ晴らしに近くの町で、余計な事件を起こす可能性があります。できれば皆さんで力いっぱい戦って、満足してお引取り願うのがベスト、だと思われます」
戦いの舞台となるのは、海を望める絶壁の上。
ところどころ岩が飛び出ているものの、足元はそう悪くなく、広さも戦闘に支障がない。
「アンブレイカブルの武器は、オーラを纏わせた両の拳です。攻撃は閃光百裂拳と鋼鉄拳。回復は集気法ですね」
一通りの説明を終えると、袖丸は灼滅者たちの顔を順繰りに見た。
「危険な戦闘になります。ご無理だけはなさらず。どうか、ご無事で」
参加者 | |
---|---|
石弓・矧(狂刃・d00299) |
棲天・チセ(ハルニレ・d01450) |
八嶋・源一郎(颶風扇・d03269) |
ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068) |
ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295) |
ファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880) |
唐都万・蓮爾(亡郷・d16912) |
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444) |
●
ダークネスたちの戦いの決着がつくまでは静観すると決め、灼滅者たちは岩陰に身を低めて見守っていた。
「……!」
セレスティ・クリスフィード(闇を祓う白き刃・d17444)は瞬きも忘れ固唾を飲む。エクスブレインから、恐らくは勝てないだろうと告げられた相手と戦うのは初めてなのだ。
勝利したのは未来予測の通り、石動・真逆と名乗ったアンブレイカブル。
「要はいい戦いをしたいって事ですかね」
「たぶん、そうとちがうかな。暴れ足りなかった分も引き出して、満足して帰ってもらわんと」
軽く首を傾げた石弓・矧(狂刃・d00299)に、棲天・チセ(ハルニレ・d01450)が頷く。
「ええ。満足してお帰り頂きたいですね」
唐都万・蓮爾(亡郷・d16912)も頷き、封印を解除した。
チセは戦いへ昂る気持ちを抑えるためにシキテ(霊犬)の背を撫でていた手を止めた。
今だ。灼滅者たちは頷きあった。
最初に飛び出し、不意打ちを仕掛けたのは背に白い偽翼を翻したセレスティ。死角から斬りこんできた日本刀の刃を、真逆は腕のオーラで受け止めた。
「何だァ?」
「お見事」
ぐりんと振り向いた真逆に、シェリル(ナノナノ)を従えたファリス・メイティス(黄昏色の十字架・d07880)が声をかける。
「一試合終えた後ですまぬが、此方とも一つ手合わせ願おうか」
八嶋・源一郎(颶風扇・d03269)は鬼の手を模した青い縛霊手の爪先を向けたが、今ひとつ伝わらなかった様子だ。
「……コチラトモヒトツテアワセ?」
「不完全燃焼みたいですし、私達と一手手合わせ願えませんか?」
絶対に漢字変換できていない平坦なイントネーションで鸚鵡返ししてくるので、ソフィリア・カーディフ(春風駘蕩・d06295)がふんわりのほほんと、もう一度同じ内容の言葉を繰り返す。
一瞬の間を置いて、真逆は満面に喜色を浮かべた。
「お上品な言いかたされっとわかんねーよ。要はあれだな、やろうってんだな? そんじゃ、まずは名乗るぜ」
「……あなたは敵。そして勝利に味などない、ただ敵は排除するだけ」
ライラ・ドットハック(蒼の閃光・d04068)が、真逆の言葉を遮り露骨な殺気を向ける。
「ま、やりあう相手ってことさえわかりゃ、充分か。ロシアの灰色なのに青い猫にわざわざ名乗ったのも無駄になっちまったしよォ」
真逆は身構えながらも、慢心をありありと表情に浮かべた。
「猫の場合、グレー……つまり灰色の被毛がブルーと呼ばれるんですよ」
矧が思わず解説をさしはさむと、真逆は感心した様子で目を丸くする。
「ほー。さてはてめえ、あだ名はハカセだな!」
「いいえ。石弓・矧と申します。連戦になりますがお相手していただきますよ」
苦笑し、黒死斬で斬りこんで行った矧の解体ナイフは、オーラを纏った腕によるガードで微妙に急所をそれた。
(「……やはり、意外に、間合いを取る」)
ライラは内心を顔に出さず無表情で、ロシアン怪人との戦いの時から引き続いて真逆を観察していた。肉迫してくるタイプかと思いきや、そうでもないようだ。恐らく、倒されたロシアン怪人と同じヒットアンドアウェイのタイプ。
「棲天チセと相棒のシキテ! いざ、勝負」
チセが堂々と胸を張って宣言し、シキテの頭を撫でて前衛へと送り出す。
「思う存分にね」
そして、自分は足元から影業を立ち昇らせた。その風圧に、鴇羽色のモスリンで仕立てられたショールの裾が、ふわりと舞い上がる。
「チーも、全力で行くんよ!」
チセの足元から伸びた影が、鋭い刃となり狙い通りに真逆を切り裂いた。
「お。いい当たりじゃねェか。やっぱよー、攻撃すんならバシッと当たるのがよー、楽しいよな!」
真逆は歯を剥いた。笑っているのだ。そして雄叫びを上げる。血を流していた傷口が塞がり、その身に纏うオーラが燃え上がる。
「さて。僕達の力がどこまで通用致しますか」
蓮爾は背後に付き従う赤衣の女性――ゐづみ(ビハインド)を手招くかのように、するりと掌を返し制約の弾丸を放った。ゐづみは主の誘いに応じ、赤衣を翻し舞い始める。
「中途半端な攻撃ではご満足いただけないでしょうから……全力で参ります!」
「ええ。思う存分舞いましょう」
ソフィリアは普段とは打って変わって凛と声を張り、頷いたセレスティが刃を閃かせ跳ぶ。ソフィリアの鏖殺領域に包まれた真逆に、セレスティは上段に振り上げた日本刀を打ち下ろした。しかし。
「おッ、と」
攻撃を最小限の動きで避けると、真逆は灼滅者たちの前衛から、また一定の距離を取る。
無駄のない回避は、基本の能力の高さのみではなく、そのスタイルが合わさっての芸当だろう。
「……まずは削らせて貰う」
ライラは敵の動きを冷静に観察した結果、無理に踏み込まないことを決めた。構えたのは【ゲイ・ボルグ】。放たれたバスタービームは赤黒い炎のように、真逆のオーラを貫きその拳を焦がす。衝撃に拳が揺らいだ好機を逃さず、シキテの小さな体が巨体の足元に飛び込んで刃をふるい、シェリルのたつまきが唸る。
「ん!?」
「お主に比べればまだまだ未熟じゃが……ま、その辺りは知恵と工夫でなんとか、というところかの!」
一瞬、真逆のガードが下がったのを見逃さず、源一郎は縛霊手に炎を纏わせ懐に飛び込んでゆく。【藍銅鬼】の爪は、握ったレーヴァテインの炎ごと真逆の腹へと叩き込まれた。
(「皆の攻撃も、当たってはいる、か……」)
矧は戦いの流れを分析し、前衛に夜霧隠れを展開する。真逆の攻撃は近接単体のみとはいえ、まともに食らえばダメージが大きいことが予測される。バッドステータスを重ねて相手の行動を阻害せねば苦しいだろう。
「おほー。なるほど、ちっとは骨身にクるな! これが仲間とレンケイ取って戦うってやつか! 初めてやるタイプだぜェ! けっこー面白ェな!」
真逆は傷を負いながらも笑っている。楽しげに、腹から笑うことしばし。笑い声が途切れる。
「だがしかァし! 俺が勝つ!」
バッドステータスが発動し炎に燃え上がるも、真逆は前衛の只中へと踏み込み、力強く拳をふるった。
「これは……なかなか……」
急所である鳩尾を狙った拳撃だったが、源一郎は咄嗟に縛霊手で庇った。しかしれでも、全身に痛みと共に痺れが走る。源一郎は奥歯を噛み締めて堪えた。
「シェリル、戻れ!」
ファリスは仲間の回復を支援できるよう、シェリルをメディックのポジションに呼び戻す。
「ッチ。いまいちイイとこに当んねかったなァ。次はドカンと行くぜェ!」
攻撃を繰り出した後、また引いて一定の距離を取った真逆は、嬉しそうに悔しがりながら瞳を輝かせ、前衛を眺め回した。
●
断崖の上、激しく仕合うこと、しばし。
「覚悟はしていましたが、一撃が痛い、ですね」
ソフィリアは息を切らし、高速演算モードで回復する。肋骨をやられた痛みはまだ残っていたが、再びバスターライフルの銃口を上げた。
「…………」
隣のライラは無表情のままだったが、彼女もまた肩で息をしている。
クラッシャーたちには既に余裕がない。回復の暇のないまま次が来たら倒れるだろう。
「私と遊んでみませんか?」
セレスティが日本刀を手に、突出する。これ以上クラッシャーたちに攻撃が行かないよう、ひきつけようとしてのことだ。
「度胸のある奴ァ好きだぜ」
おそらくセレスティの狙いはわかっていて、真逆は乗った。拳を包み込むオーラが更に大きくなり、閃光のような速さで連撃が繰り出される。
「く……!」
狙い澄まして同じ箇所を打たれ、セレステイの膝が崩れた。ディフェンダーの立ち位置を取っていなければ倒れていたかもしれない。自らの手に装備したWOKシールドを展開し、間をおかずシェリルが飛ばしてくれたふわふわハートとで、なんとか衝撃をやり過ごし立ち上がる。
「カハハ、おめーら、そろそろヤベエだろ?」
「……あなたは厄介。だからここで、壊す」
哄笑する真逆に、ライラはブラックフォームでダメージを癒しながら、鋭い殺気を漲らせた。胸の前に浮かんでいたダイヤのスートが消えた時、淡く紫色を帯びていたバトルオーラが、元の天空のような蒼色へと戻り、漲る。
「おし、上等だ! 楽しいなァ、おい!」
「全く。それは同意しようかの」
源一郎は真逆の前に飛び込み、青鬼の手でジグザグと相手の傷口を広げた。
「しかしそろそろ、お仕舞いにしませんか? 終わりがあってこそのお楽しみですから」
矧もまた、ふつふつと胸の内から湧く戦闘狂としての喜びを口の端の笑みとしてあらわしながら、ジグザグスラッシュで斬り込む。と。攻撃を成功させた直後、ゾッとするような風圧を感じて矧は後方に跳んだ。
「ふぅ。そろそろ鈍ってきましたか?」
矧は回避に成功し、一息吐く。
「あ!? クッソ、やりやがったな!」
ふるった拳をうまく当てられなかった真逆は、忌々しげに舌打ちした。真逆は攻撃一辺倒で、最初の1度以降回復を行っていない。そろそろ、重ねてきたバッドステータスがものを言い始めたのだ。
「プレッシャーをかけられるのがお嫌いですのね」
ソフィリアが引き金を引く。バスタービームの光条を避け損ね、真逆が不機嫌に唸る。
「ネチネチ縛らんのもな。やっぱよー、当たんねェと。なァ!?」
真逆は傷を――というよりは己の行動を阻害するものを取り払うべく、おぉと吠えた。
折角重ねたバッドステータスの数々が緩む。しかし、一手を消費させることができた。その間に、灼滅者たちは体勢を整える。間に合わない者は一度後衛に下がってから回復するという奥の手を使った。
相手の様子を見る慎重さと、サーヴァントたちや途中でポジションを変えた源一郎を含めるとディフェンダーの多い布陣のおかげで、なんとかまだ全員が立っている。
「なァるほど。チエと工夫か…………。ンなもん、叩き壊してやるァ!」
ぐるりと肩を回し、叩き込まれる拳。矢面に立ち、食らったのは霊犬の小さな体。
「シキテ!!」
霊犬の姿が掻き消え、チセは声を上げたが、嘆きはしない。シキテは思う存分に戦ったのだから。
「……ぎりぎりの戦いは燃えるんよ!」
チセは眦を決し、影技を唸らせる。
影が走り、拳が唸り、刃が閃き、炎が赤々と輝く。
戦闘の混沌の中、蓮爾は戦いにのみ集中していたのだが、共に舞い踊っていたゐづみが真逆の拳によって消えた時、我に返った。そこで初めて、いつの間にか忘我の境地に入っていたことに気付く。
「蒼き体だった頃のことを思い出していたのでしょうか……あゝ、何のことは無い。僕も、飢えていたのですね」
蓮爾は呟き、赤き番(つがい)を失ったまま、独り舞うのだった。
「全てを超えて、唯ぶつかり合った果てに何が見えるのか。あなたは教えてくださいますか?」
「ぁあ!? ムツカシーこたわかんねーよ! やんのは楽しい! それだけだろーがよ!」
蓮爾からの問いに吠え返した真逆に、凄まじい殺気を纏った異形の巨腕が叩き入れられる。
紫色の筋繊維に牙が多数生えた怪腕の主は、ライラ。
「っ、ガハ! ……いいのくれたな、おいィ!」
腹に食い込んだ巨腕を払わず、そのまま前に脚を踏み出し、真逆は拳を突き出す。
「……ぐ!」
殴り飛ばされ、ギリギリのところで立っていたライラは倒れ伏した。動けず、顔だけを辛うじて上げた瞳に宿す光だけは強い。
「まずは1人。次はどいつにしようかな、っと」
ゲホゲホとうるさく咳き込みながら、真逆は血走った目をして、前衛たちを順繰りに指さす。
「さすがに強い……けど、舐めてもらっちゃ困るな!」
飛び出したファリスの足元に、ザァと音を立てて影が立ち昇る。黄昏色の十字架が並び立つようなそれは、地面に突き立つ剣の形をした影業だった。
「お!?」
幾本もの影の剣を地面から引き抜いての連撃から、真逆は後に跳ぶことで逃れる。跳んだ先は、崖の際。
「とっ、と」
崖から落ちかけて、ぐるぐると腕を回して体勢を立て直す。
「っぶねえ…………」
その間のおかげで頭が冷えたのか。真逆は灼滅者たちを見回した。その1人1人の、顔を記憶にとどめようとしているかのように。
「やーめた」
そして、炎のごとく揺らめいていたオーラを消し、脱ぎ捨てていた上着を地面から拾い上げて羽織りなおす。
「もう少し、お楽しみいただけると思いますが?」
真逆のどこか不貞腐れたような表情に、このまま立ち去られては厄介だと、蓮爾は戦闘の延長をもちかけた。しかし、真逆の返事はふるわない。
「楽しいだろうけどよォ……今日はやめた」
「ご満足頂けませんでしたか?」
「いんや。新しい目標が見つかったことに関しちゃあ台満足だァ!」
矧の問いに頭を振った真逆は、歯を見せてニヤリと笑うと、嬉しげに語り始める。
「レンケイとか、チエとか工夫とか……けっこうやるもんだ。でもよ、そんなチマチマしたもん、俺の拳はガツンとぶっ飛ばせねェといけねえ。じゃねえと、気持ちよくねえ。沁みねえ。ムツカシーことはわかんねえけどよォ……沁みる勝ちと沁みねェ勝ちはわかんだよ、俺ァ」
だから、次はお前らがどういう作戦を打って来ようが全力でもって圧倒してみせる。それが自分の望む、五臓六腑に沁みる勝利である、と。
「いつの日か、また……必ず、今よりずっと、強くなって……みせますから」
「ガキどもに何ができるってなあ、油断してたのァ悪かったからよー、またやろうぜ」
息を整えながら言ったソフィリアには、満足げに頷き、真逆は灼滅者たちに背を向けた。
「今日みたいな力比べやったら、いつでも相手するんよ」
勝手なことを言うだけ言って走り去ってゆく真逆に、チセは声をかける。
「なんとか、なりましたね」
「面白い相手……だったかのう……?」
ファリスに源一郎は頷いたが、複雑な表情である。
「……次会った時は必ず、塵にする」
矧に癒しの矢を使ってもらい、なんとか立ち上がったライラは拳を握りしめて小さくなってゆく白い上着を見つめていた。
「強くならないといけないですね」
セレスティの呟きに、仲間たちは頷く。
静かになった断崖を照らす太陽の光は、いつの間にか夕日の色に変わっていた。
作者:階アトリ |
重傷:ライラ・ドットハック(蒼き天狼・d04068) 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年9月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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