自分自身を隠し続けて

    作者:時任計一

     人気のない昼の河川敷に、1人の少女が立っていた。彼女は手に持ったりんごを空中に放り投げると、地面に落ちる前にりんごをバラバラにしてしまう。しかも、手刀でだ。
     彼女は同じ要領で、次々と物をバラバラにしていく。果物だけではなく、本やトロフィーなどの代物も同様だ。用意した物を全てバラバラにした彼女は、大きく息を吐いて『よし』とつぶやく。
    「この程度は楽勝のようね。じゃあ次は、本番の『殺し』と行きますか。誰を殺そうかな……口うるさい親や先生もいいし、うっとうしいクラスの連中でもいいわね」
     物騒なことを口走りながら、少女はその場に座り込んで休憩する。
    「みんな……みんなうっとうしいんだもん。誰もあたしの事なんて考えないで、好き勝手言って……だから、みんなあたしが殺してあげるんだから」
     声と手を震わせ、少女はそうつぶやいた。


    「一般人が闇堕ちしかかっているのが分かった。しかも厄介なことに、六六六人衆になろうとしている。暫定的な序列は六六四位だ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)が、真剣な表情でそう言う。
    「だが、そいつはまだ元の人間の意識を残している。素質があれば、灼滅者として助けることもできる。だが、そうでなければ……灼滅するしかない」
     救出か灼滅か。そのどちらかを実行するのが、今回の目的である。
    「問題の一般人の名前は、佐倉・鈴(さくら・りん)。小学6年生の女子だ。気さくな優等生という印象を受ける奴だが、実際は親や友達から見放されるのが怖くて、いい子の皮をかぶっているだけらしい。その反面、誰も本当の自分を理解してくれないと思い込み、他人に対して苛立ちを感じているようだ。どこか矛盾してるがな」
     しかし、そういったストレスを吐き出さずに積み重ねていった結果、自分の中のダークネスを呼び覚ましてしまったのだろう。
    「鈴は今の所、自分の力を試すという名目で様々な物を壊し、ギリギリの所で殺人衝動をやり過ごしている。しかしそれが終われば、殺人を実行に移すだろう」
     彼女を助けるなら、そうなる前に彼女と接触するしかない。
    「鈴がいる河川敷は、広くて見通しもいい。すぐに鈴の姿を見つけられるだろうし、一戦やるにもちょうどいい」
     彼女を闇堕ちから救うためには、戦闘をしてKOするしかない。素質があれば灼滅者として生き残り、そうでなければダークネスとして灼滅されるだろう。
    「鈴と接触するのは、彼女が力試しを終えて、一時休憩しているタイミングがいいだろう。その時が一番、鈴の人間の心に呼びかけやすい」
     彼女の心に呼びかけて説得することで、戦闘中の彼女の力を下げることができる。戦略的にも、彼女のためにも、説得は重要になってくるだろう。
    「鈴は、周囲の人間に不満を持っている。誰も自分を理解してくれないと思い込んでな。その思い込みがダークネスを呼んだんだが、本当の自分を見せようとしないのにそんな不満を持つのは、どこかおかしいよな。自分を理解してほしいなら、まず自分を理解してもらうようにする。それを教えてやるのが、一番いい説得になると思う」
     また、溜め込んだ不満を全て吐き出させようとするのも有効だろう。
    「鈴は、殺人鬼と縛霊手のサイキックを使ってくる」
     ポジションはクラッシャー。衝動のままに襲い掛かってくる可能性が大だ。
    「仮にも相手は六六六人衆だ。厳しい戦いになるかもしれないが、頑張ってほしい。今にも堕ちようとしている、鈴のためにもな」


    参加者
    二階堂・冰雨(~ミゼリコルド~・d01671)
    由津里・好弥(ギフテッド・d01879)
    明月・満稀(明星の魔法図書館・d02879)
    小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)
    薛・千草(ダイハードスピリット・d19308)
    灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818)
    小此木・情(おしゃべりジョー・d20604)
    メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)

    ■リプレイ

    ●堕ちかけた少女
     8人の灼滅者が、河川敷で辺りを見回している。この辺りのどこかに、ダークネスに闇堕ちしかけた少女がいるはずだった。
    「その子、まるで少し前の私のように思えてきますわ……」
    「お姉ちゃんもなんだ……私も、そんな気分」
     二階堂・冰雨(~ミゼリコルド~・d01671)と明月・満稀(明星の魔法図書館・d02879)が、そんな会話を交わす。嫌われないように、本当の自分を隠す。そんな少女の思いに、どこか感じるものがあったようだ。
    「……いた、あそこ」
     メリッサ・マリンスノー(ロストウィッチ・d20856)の目が、座り込んで震えている少女の姿を捉える。彼女が佐倉・鈴に間違いなさそうだ。
    「じゃあここはひとつ、あの子を救ってみせますかねぇ」
     小野屋・小町(二面性の死神モドキ・d15372)はそう言って、ESPで殺界を形成する。同時に薛・千草(ダイハードスピリット・d19308)がESPのサウンドシャッターで音を遮断した。そして灼滅者達は、鈴とのコンタクトを試みる。
    「こんにちは。少しお話しませんか?」
     まずは、灰神楽・硝子(零時から始まる物語・d19818)が彼女に話しかけた。驚いた様子の鈴は素早く動き、灼滅者達から距離を取る。
    「あ、あなた達、誰!?」
    「アンタの理解者か敵のどっちかだよ」
    「……意味が分かんないんだけど」
     小町の言葉に、首をひねる鈴。そんな彼女に硝子は、鈴の体に起こっていること、そして自分たちも同じような力を持っていることを話す。鈴はどこか苛立った様子で、しかし律儀に硝子の話を聞いていた。
    「ふーん……で、あたしは殺されるの? 助けられるの?」
    「どちらになるかは、アンタの『本当の心』次第さ」
    「そしてもうひとつ。私達はその、あなたの『本当の心』知るためにここに参りました」
     小町と薛・千草(ダイハードスピリット・d19308)はそう言い、千草は更に言葉を続ける。
    「あなたのこと、私達に教えていただけませんか?」
     そう言って千草は、鈴に手を差し伸べた。鈴はポカンとした顔で彼女を見ていたが……次の瞬間、鈴は千草に手刀での攻撃を仕掛けた。
    「散々話しておいて、最後がそれ? 訳わかんない」
    「……危ないなぁ。殺したい衝動が溢れて堪らないって感じだねぇ」
     確かな殺意をもって振るわれた手刀は、小此木・情(おしゃべりジョー・d20604)のガンナイフの峰でがっちり受け止められた。突然の事に、彼の顔に冷や汗が流れる。
    「その攻撃がキミの望み? ……違う。殺したって、キミを見てくる人がいなくなるだけ……」
    「言いたいことがあったなら、まず言葉にしなよ。心なんて、普通は読めない。自分から話さなきゃ、何も始まらないのさ。他の人との付き合いも、そうじゃないかい?」
    「全てを話す必要はないですが、言葉を尽くして下さいな。それから逃げて一方的に人のせいにするのは筋違いですよ」
     メリッサ、情、そして由津里・好弥(ギフテッド・d01879)が、次々と言葉を投げかける。どうやら、鈴は理解したようだ。好弥の言葉が、周囲の人間にいらつく自分自身を指していることに。
    「……なんかむかつく人達だなぁ。決めた。最初に殺すのは、あなた達にする」
     鈴は素早く灼滅者達と距離を取り、殺気をまき散らし始めた。それを見て、情は帽子を深くかぶり直し、にやついた顔を引き締める。
    「さてと……彼女が堕ちるのを、止めてあげなきゃな」
    「えぇ、戻れる内に連れ戻します」
     情の言葉に好弥が続き、戦いが始まった。

    ●言葉を尽くして
     先に動いた冰雨は、ヒーリングライトを自分に使い、自身の回復能力を高める。
    「私には、回復くらいしか取り得がありませんから……」
    「いえ、十分頼りになります。では……!」
     硝子は冰雨にそう返して、千草と共に鈴に接近した。周囲の殺気に体力を削られながらも走り抜け、硝子はシールドで、千草は異形化させた腕で鈴に殴り掛かる。しかし鈴は、それらの攻撃をあっさりと避けた。動きが早すぎる。これでは、説得どころの話ではない。
    「じゃあ、トップギアで行かせて貰うわよ?」
     満稀はそう言って預言者の瞳を使い、確実に当て、削る体勢を整える。メリッサも無言で同じ対応を取った。
    「こっちの目的は説得だけど……悪いけど、やらせてもらうよ」
     そして、いつの間にか鈴の死角に入り込んでいた情が、鈴の足の腱を狙って切りつける。動きが鈍った鈴に、好弥は槍で追撃し、小町は鋼糸で縛りつけ、動きを止めた。
    「よっしゃ、捕らえたで! 今や、みんな!」
    「聞いて! あなたが誰かに自分を理解して欲しいと願うなら、まずは自分から言い出しなさい! でないと何も変わらないわ!」
     小町の作った隙を逃さず、硝子は鈴の説得を始めた。
    「そ……そんなの無理だよ!」
    「どうして?」
    「……え?」
     問いかけたのは千草だ。彼女は言葉を続ける。
    「相手に自分のことをより理解してもらうためには、その理由を言った方がいいんです」
    「何を、何故、どうして欲しいのか。それを口にして、初めて世界は変わっていく……」
    「それで意見がぶつかったって良いの。ううん、ぶつかるからこそ人は分かり合えるんだと、私は思う。だからこそ、ぶつかる事を恐れて動けなくなってる今の貴女を、放っては置けないわ」
     千草の言葉に続いて、メリッサと満稀が、自分の思いを口にする。
    「怖がらないで。思いの限りを、蓄積した闇をどうぞ吐き出してください」
     最後に、千草はそう伝えた。鈴はそのまま、しばらく押し黙り、ややあって、彼女は動きを縛る小町の糸を断ち切り、自由を得る。
    「怖がってなんかない……あたしは何も怖がってなんかないっ!!」
     そして感情を爆発させながら叫び、すぐそばにいた小町を、手刀で切り刻もうとした。
    「危ないっ!」
     しかし、硝子はその攻撃から小町をかばい、代わりに攻撃を受けた。堕ちかけの一般人とはいえ、ダークネスの攻撃をまともに食らい、硝子の口から小さな苦しみの声が上がる。
    「すぐに回復します!」
     冰雨は素早く反応し、硝子に回復の札を投げる。自己強化の甲斐もあり、多くのダメージを回復させることができた。そして硝子は、その体勢のまま、続けて鈴を説得する。
    「本音を伝えるのも、認めたくないことを認めるのも、とても勇気がいるとは思うけど……でも、あなたも自分の心に正直になってみて。ね?」
     そう、笑顔で言う硝子。それを聞く鈴は、見るからに動揺した様子だ。それは、灼滅者達の言葉の全てを、しっかりと受け止めている証拠でもあった。
    「う……うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!」
     しかし、鈴は突然、そう繰り返し叫び始め、再び周囲に殺気をまき散らし始める。
    「……癇癪起こして、考えるのやめたって感じやな、これは。ここはもう説得を打ち切って、攻撃に専念した方がええかもしれん」
    「いえ、攻撃をしながらでも、説得を続けた方がいいと思います」
     小町の言葉に、好弥が反論する。
    「鈴さんには、言葉の大切さを教えてあげなければいけません。懇々と伝えましょう。決して諦めず言を尽くしましょう」
    「……そうやな。ならあの子に、それを徹底的に教えてあげようやないか。なぁ、みんな!」
     小町の言葉に、全員がうなずいた。

    ●灼滅か、救出か
    「(きっと私は、鈴さんの気持ちを分かることができるのでしょう)」
     鈴が殺気をまき散らす中、冰雨はそう考えていた。彼女も以前は、人に嫌われないように振舞う事を続けてきたのだ。
    「(ですが、私は説得に回ることができません。なら、私にできることは……)」
    「皆さん。できる限りの支援をします。ですから……彼女を、頼みます」
     冰雨はそう言い、仲間を覆う殺気を、清めの風で払う。
    「分かりました。きっと助けだしてみせます」
     そう言って千草は、鈴を見据えて狙いを付ける。
    「その衝動に流されちゃあいけないよ。流されたら最後、嬉しいことも楽しいことも、何も感じられなくなっちゃうからね。そんなの嫌だろう?」
     情はそう言いつつ、援護射撃で鈴の動きを止める。それを受けて、千草は風の刃を撃ち出し、鈴を攻撃した。
    「考えるのをやめないでください。どう伝えれば、本当の自分を他の人に理解してもらえるのかを考えてください。そうすれば、きっとあなたの思いは伝わります」
     千草が更に説得を重ねる。最初と比べて、鈴の動きはかなり鈍っている。今の説得で、更に鈍った。説得は効いている。そして今も、鈴はしっかりと灼滅者の言葉に耳を傾けてくれている。
     続いて小町は、糸の結界を作り、鈴の周囲を覆う。それに合わせて、満稀が裁きの光を撃ち出し、更にダメージを重ねた。
    「正直に生きて、人に嫌われるのは、そりゃ怖いやろうな。アタイだって少し怖いよ。でも、そこで自分を隠してもどうにもならんやろ?」
    「それに、自分を分かってくれないと苛立つのは、隠した自分自身をさらけ出したいと、心の奥で願っているからなんでしょう? それなら私は、あなたにそうしてほしい」
     攻撃に続いて、小町と満稀が説得を続ける。
    「うるさいっ! 黙っててっ!」
     かけられた言葉に動揺した鈴が、満稀に向けて殴りかかる。しかし、間に割り込んだ硝子のライドキャリバー、スーパーカーボが、代わりに攻撃を受け止めた。そして攻撃後の一瞬の隙を突き、メリッサと好弥が、鈴に対して一斉に射撃サイキックを叩き付ける。
    「そうやって壊すんじゃない。変えるんだ、世界を……キミが正しく望めば、きっと変えられるから……」
    「鈴さん。皆さんの言葉、聞こえてますよね? なら、鈴さんも応えて下さい。今度はあなたから、あなたの言葉で」
     メリッサと好弥は、そう声をかける。しかし鈴は、まだ動きを止めようとしない。
    「貴女があの時震えていたのは、貴女自身が理解しているからよ? あなたが持つ力の恐ろしさ、そして人を殺めても何も変わらない事を」
     硝子はそう言って、スーパーカーボの射撃と共に漆黒の弾丸を放つ。鈴はもう大分弱ってきているようだったが、ダークネスの衝動はまだ彼女を動かす。
    「それでも衝動を押さえられないのなら……私達に全部ぶつけてみなさい! 全部、受け止めてあげるから」
    「硝子さん!?」
     そう言って硝子は、無謀にも鈴の前にその身を投げ出した。
    「う……わぁぁぁっ!!」
     鈴は硝子の行動に乗り、彼女に対して手刀での連撃を仕掛ける。
    「まだまだ伝わって来ないわよ!」
     煽る硝子。前に比べてかなり弱々しい攻撃だったが、それでもダークネスの攻撃は重い。
    「貴女の事、もっともっと私達に伝えてみなさい!」
    「……テストでどれだけいい点取っても、親も先生もほめてくれない。もっと点を取れって言うだけ……」
     ぽつりと、鈴が言葉を発し始めた。
    「学校でも、何かあったらみんなあたし頼り……あたしだったら何でもできるって。いつも仕事と勉強ばっかりで、楽しい話や遊びに全然ついていけない! あたしだってみんなと遊んだりしたいのに! みんな勝手で! だから、だからっ!!」
     思いの丈を全てぶつけるように攻撃を繰り出す鈴。そして攻撃が終わった後、硝子は大の字に倒れてこう言った。
    「どう? 少しは自分の事、伝える練習になった?」
    「あ……」
     鈴は一転して黙りこくる。どう見ても、これ以上戦う気は無さそうだ。だが彼女は、まるで何かに操られるようにして硝子にとどめを刺そうとする。ダークネスの衝動が、まだ残っている。
    「……鈴ちゃんの中のダークネスさん。どうやら今は、あんたの出る幕じゃないみたいだ。ちょーっと引っ込んでてもらえる?」
     そう言って情は、鈴に零距離から攻撃を加えた。小さな体がわずかに吹き飛び、地に落ちる。とどめとなりうる一撃だった。
     少し経っても、灼滅が起こる様子は無い。そこにはただ、静かに涙を流す少女が1人いるだけだった。

    ●新しい灼滅者
    「どう、落ち着いた?」
    「……は、はい」
     冰雨に介抱されていた鈴が、涙を拭いて起き上がった。彼女に対し、メリッサが質問する。
    「人を殺したいって……まだ思う?」
    「あ、いえ、今は全然……えーと、結局あたしはどうなったんですか?」
    「多分、灼滅者になったのよ。私たちと同じね」
     鈴の質問に、満稀がそう答えた。
    「灼滅者……なんか実感ないなぁ。あっと、皆さん、本当にありがとうございました。なんか、助けてもらっちゃったみたいで……」
    「いいんですよ。それに灼滅者も、一概にいいとは言えないものですし……」
    「それでも……ありがとうございました」
     硝子の言葉も構わず、鈴は頭を下げ、改めて礼を言った。
    「そうです、鈴さん。私たちと武蔵坂学園に来ませんか? あなたを知りたがっている素敵な方々が、たくさん待っていますから」
    「え……えぇっ!?」
     思わぬ千草の一言に、驚く鈴。小町はすぐに言葉を繋げた。
    「驚くことはないで? 武蔵坂学園は、主に灼滅者の学園。アンタも灼滅者になったんやから、資格は十分アリや」
    「で、でも……」
     おろおろする鈴に、冰雨は笑顔でフォローを入れる。
    「貴女はどうしたいのですか? 大事なのはそこですわ。言ってごらんなさい?」
    「え、あたしは……うん、行ってみたい、かな」
     鈴は、静かにそう答えた。
    「ちなみに、それはどうして?」
    「え?」
     千草は更なる質問を投げかける。鈴は一瞬、ぽかんとした顔をするが、すぐに思い直して答えた。
    「みんなと一緒に、学校に行きたいから、です。両親とかには……ちゃんと話してみれば、いいんだよね?」
    「はい、よくできました」
     千草は笑顔でそう返す。戦闘中に教えられたことを、鈴はしっかり覚えていた。
    「じゃあ、これからよろしくお願いするわね」
    「ま、さっきは生意気言ってすみませんでしたね、鈴先輩?」
    「……あぁ、学年的にそうなるのかぁ。なんか不思議な気分」
     満稀と好弥が、一足早くそう言う。鈴も、少し困惑しながら答えた。
    「じゃ、新しい仲間もできたところで、みんなでどこか食事にでも行かない?」
     話がまとまったところで、情はそう提案した。
    「え、でもあたし、お金なんて持ってないし……」
    「大丈夫、大丈夫。そのくらいなら、僕が出してあげるから」
     陽気に請け負う情。しかし、その一言が命取りだった。
    「お、太っ腹やないか。じゃ、ありがたくご馳走になろか」
    「……え?」
     小町のその一言で、話が一気に進んでいく。
    「悪いですわね、情さん。じゃあ、お言葉に甘えさせていただきますわ」
    「メリッサも、少しお腹が減った……」
    「鈴さん、この辺りでお勧めの店、ございますか?」
    「……えぇ!?」
     この場には、女が8人に男が1人。誰も情に助け舟を出してくれない。孤立無援の状態だ。
     うろたえる情。その様子を見て、鈴は彼らの前で初めて、そして恐らく久しぶりに、心からの笑顔を見せた。

    作者:時任計一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 9/感動した 2/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 1
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