宵闇からの使者

    作者:刀道信三

    ●深夜のファミレス
    「オイオイ、さっさと飯持って来い、飯!」
     客も少ない深夜のファミレスで、一人の男がテーブルの上に脚を乗せながら、店員を煽るように大きな音を立ててテーブルを蹴る。
    「終わったらカネだぞ。こうなりたくはないよなぁ?」
     男を恐れて震えていた他の客に向かって男は寄生体で作った砲身を構え、躊躇なく死の光線を撃ち放つ。
     撃たれた客は悲鳴を上げる暇すらなく絶命した。
     店内を見回せば犠牲者は一人二人ではなく、何体もの死体が転がっていることがわかる。
    「汝の邪悪なる所業見せてもらった。我が僕となるに相応しい!」
     恐怖に支配されたファミレスのドアを勢いよく開いて一人の少女が現れた。
    「な、何なんだ。お前は……!?」
    「我が名は宮代藍花! 我が眷属が汝を同胞として迎え入れることを決めた」
    「俺を仲間に引き入れようってえのか……?」
    「我が意を得たり!」
     宮代藍花と名乗った少女の勢いに呑まれて、デモノイドロードの男はしばし逡巡するのだった。

    ●武蔵坂学園の教室
    「お前達はデモノイドロードの存在を知っているか?」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は灼滅者達を教室に集めると、今回の事件について語り始める。
    「普段はデモノイドヒューマンと同じ能力を持っているが、危機に陥ると『デモノイド』の力を使いこなし、デモノイドとして戦うことができる」
     まるで自分の意志で闇堕ちできる灼滅者という厄介な存在である。
    「そのデモノイドロードが事件を起こした場所に、ヴァンパイアが現れ、デモノイドロードを連れ去って行くという未来が俺の全能計算域によって導き出された」
     まさに、クラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)の『デモノイドロードを自勢力に取り込もうとするダークネスが現れる』という懸念が現実のものになってしまったようだ。
    「現時点で、ヴァンパイア勢力との全面戦争は避けなければならない。事件を穏便に解決するには、デモノイドロードが事件を起こしてから、ヴァンパイアが現れるまでの短い期間に、デモノイドロードを灼滅しなければならない」
     デモノイドロードはデモノイド化すればデモノイド同様の戦闘能力を持っている。
     普通に戦えば強敵だが、未来予測によって相手の能力はわかっており、事前に作戦を立ててから挑める有利を活かせば灼滅することも可能だろう。
    「デモノイドロードとの接触は、奴が狙っているファミレスの店内で待ち伏せすることで可能だ」
     戦場となる店内から事前に店員や客を避難させておけば、一般人の被害を出さずに済む。
    「ヴァンパイアが現れるのは、デモノイドロードとの戦闘を開始してから、10分前後になる」
     確実を期すならば、8分以内にデモノイドロードを灼滅して撤退を目指したい。
    「今回現れるヴァンパイアは、宮代藍花と名乗る朱雀門高校のヴァンパイアだ」
     朱雀門高校の制服ではなくゴスロリに身を包んだ少女のヴァンパイアである。
    「宮代藍花は強力なダークネスであり、まともに戦闘になれば勝利は難しい。更にその後の情勢も考えれば、万が一にも宮代藍花との戦闘は避けるべきだ」
     デモノイドロードを灼滅する前に藍花が現れた場合は、戦闘を中断して撤退するのが正しいだろう。
    「厄介な事件だが、お前達なら無事生存できると信じているぞ。よろしく頼む」


    参加者
    長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)
    砂原・鋭二郎(中学生魔法使い・d01884)
    ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)
    嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)
    焔城・虚雨(フリーダム少女・d15536)
    ルーウィン・アララギ(愚直なまでの信念・d18426)
    春夏秋冬・那由多(中学生ダンピール・d18807)

    ■リプレイ


    「あー、ここら辺にあるもん食べていいー? 腹ごしらえっスよ、腹ごしらえ」
     灼滅者達は殺界形成やプラチナチケットなどのESPを使用して、未来予測でデモノイドロードに襲われると予知されたファミレスから人払いを済ませ、デモノイドロードがやって来るのを店内で待っていた。
     焔城・虚雨(フリーダム少女・d15536)はそう言いながら厨房にあった作りかけのデザートをつまみ食いする。
    「ヴァンパイア絡みかあ。この前のヴァンパイア学園の活動も勢力を増やすためだったよな。今度はデモノイドを取り込む気なのかも。二重の意味でデモノイドロードを見逃すわけにはいかないね」
     春夏秋冬・那由多(中学生ダンピール・d18807)はビハインドの刹那と客席に隣り合って座りながらヴァンパイアの思惑を案じた。
    「ヴァンパイアがデモノイドロードを配下にすべく動き出したようですわね。奴等の企みは阻止致さねば」
     ミルフィ・ラヴィット(ナイトオブホワイトラビット・d03802)は給仕のように立ちながらファミレスの入口を見張る。
    「朱雀門の上層部も厄介な事を考える……なるべく灼滅まで持っていきたいものだ」
     砂原・鋭二郎(中学生魔法使い・d01884)も那由多とは別の客席に腰かけながら、デモノイドロードとの戦いに使用するタイマーを手に油断なく構えた。
    「朱雀門学園の動きも気になりますが、ひとまずは目の前のデモノイドロードを灼滅しないとっすね」
     長久手・蛇目(地平のギーク・d00465)は軽い調子でありながら、ヴァンパイアが来るまでの短い間にデモノイドロードを灼滅しなければならないという難しい戦いへと、内心で沸々と闘志を燃やしている。
    「寄生体に憑かれた事には同情はしますが、非凡な力を天命とせず外道に走るとは許せませんね」
     未来予測によって知らされたデモノイドロードによる一般人に対しての残虐な行為を思いヴォルフガング・シュナイザー(Ewigkeit・d02890)は静かな怒りと使命感を胸に抱いた。
    「奴も被害者と呼べるのかもしれないが、どのみち化け物として力を振るい続ける道しかないのなら……終わらせる、ここで」
     ルーウィン・アララギ(愚直なまでの信念・d18426)はDSKノーズでデモノイドロードの接近を警戒しながら、口を引き結び厳しい視線を扉へと向ける。
     そして調度ルーウィンの言葉に呼応するように、ファミレスの入口側の窓ガラスが一斉に盛大な音を立てて割れた。


    「なんだなんだ店員はどうした? お前ら何者だ?」
     デモノイドロードがファミレスに入ってくると、想像していた恐慌する一般人達の姿はなく、殲術道具を構えた灼滅者達が待ち構えており、大袈裟に驚いたような身振りをする。
    「隙あり! さっさと死ぬっすよ」
     ファミレスの出入り口付近のテーブルの下に隠れていた嶋田・絹代(どうでもいい謎・d14475)が飛び出し、店内へと歩み入るデモノイドロードの背後から影の刃で低い姿勢から足許を斬りつける。
    「チッ、少なくとも敵であることは確かみてえだな」
     絹代の斬撃で脚から血の筋を引きながらデモノイドロードは店内の中央へと跳び退いた。
    「邪魔するっていうならぶっ殺すまでだ!」
     灼滅者達に取り囲まれながらデモノイドロードが殺気を放つと、寄生体があっという間にデモノイドロードを包み込み、そのシルエットが二回りほど肥大化するが、手足は太いながら引き締まっており、鈍重な印象は与えない。
    「仲間を守ることが勝機に繋げるための私の務め。やらせはしません」
     デモノイドロードは着地した時に振り返り、最初に攻撃を仕掛けてきた絹代を正面に捉えており、無造作に腕を持ち上げながらDCPキャノンを放ち、その行動を先読みしたヴォルフガングが間に入って展開したシールドで受ける。
    「ファミレスとはいえ美味い店だったらどうする気だ。飲食店で暴れる奴は許さん!」
     光線を潜るようにデモノイドロードに駆け寄った虚雨のマテリアルロッドが竜巻のように振り抜かれ、デモノイドロードを吹き飛ばしテーブルやイスに激突した。
    「罪もない一般人に危害を加えるヤツには容赦しねーぞ!」
     転がったデモノイドロードに馬乗りになると蛇目は容赦なくオーラを纏った拳でデモノイドロードを滅多打ちにする。
    「暴虐には報いがあると言うことだ。思い知れ」
     鋭二郎がファミレスの床を指すように殲術道具を構えると、蛇目を払い除けて体勢を整えようとするデモノイドロードを無数の影の刃が追い立てた。
    「…………」
     更に無言で冷たい視線を向けながらミルフィはガンナイフでデモノイドロードの動きを縫いつけるように射撃を続ける。
    「クソッ!?」
     鋭二郎とミルフィの攻撃で身動きを封じられていたデモノイドロードは、そこを狙い澄ました那由多のウロボロスブレイドに足をすくい取られて転倒した。
    「…………!」
     倒れたデモノイドロードをルーウィンは強く睨みつけ、ルーウィンの影業がデモノイドロードを捕らえようとするが、デモノイドロードは転がってそれを回避する。
     そこへルーウィンのビハインドが続いて霊撃をデモノイドロードに叩き込む。
    「調子ニ乗リヤガッテ!」
     衝撃に身を跳ねさせながらデモノイドロードはなんとか立ち上がりつつ忌々しげな声を上げつつ腕を異形の刃へと変化させた。


    「死ニヤガレ!」
     デモノイドロードはDMWセイバーを振り被ると、シールドで防いだとはいえ負傷しているヴォルフガングに踊りかかる。
    「シュヴール!」
     霊犬のシュヴールが主を襲う凶刃を斬魔刀で受け止めるが、刃の大きさの差で押し込まれる。
    「邪魔ダ。消エロ!」
     デモノイドロードは寄生体を刃から解除すると、手にした長ドスのような得物で即座にシュヴールを消滅させるべく一閃した。
    「…………」
     シュヴールが両断される直前にルーウィンが横から割り込み、寄生体で覆った諸刃の大刀を盾のように構えて防ぐ。
     デモノイドロードの凄まじい斬撃に諸刃の大刀越しにもかかわらずルーウィンは堪らず膝をつくが、デモノイド寄生体の力は守るために使えるのだという強い意志を込めた視線をデモノイドロードに真っ直ぐぶつけ続ける。
    「別に恨みがあるわけじゃないけど、お前の存在が気に食わない!」
     追撃に入ろうとするデモノイドロードより更に果敢な勢いで虚雨は炎を宿したマテリアルロッドを振り回し、ルーウィン達からデモノイドロードを引き離した。
    「無抵抗な一般人を相手にしているわけじゃないんだ。よそ見してる余裕なんてねーですぜ」
     テーブルやイスを利用してデモノイドロードの死角から飛び出した蛇目のフォースブレイクがデモノイドロードに突き刺さる。
    「惑え。8人と3体とは言え、子供に苦しめられる。お前が手に入れたのはその程度の力でしかない」
     影業で包んだマテリアルロッドを銃身のように操りながら鋭二郎は導眠符をデモノイドロードに放ち、淡々と呪詛のような言葉でデモノイドロードを追い込んだ。
    「ウ、ウルセエ!」
     正面から戦えば圧倒できるだろう己の暴力が灼滅者達に絡め取られるようにして力を発揮することが出来ず、その焦りを煽るようにミルフィの歌声がデモノイドロードの心の隙に入り込んでいく。
    「いくよ、刹那」
     那由多のビハインドの刹那がデモノイドロードに肉迫し、霊撃で隙を作ったところへ那由多のオーラキャノンがデモノイドロードの脚部を狙い撃った。
    「おまたせ。回復いくっすよ」
     那由多の攻撃に再びデモノイドロードが体勢を崩した隙に絹代は負傷した二人と一匹に近寄って魔力の霧を展開する。
    「皆さん、この調子で押し切りましょう!」
     ヴォルフガングは霊犬のシュヴールと共に回復サイキックを使いながら声を出す。
     戦闘開始と同時にカウントダウンを始めたタイマーはまだ6分以上を残していたが、灼滅者達は十分な打撃をデモノイドロードに与えているように見えた。


    「残り3分!」
     一人タイマーを6分に設定していた鋭二郎のタイマーが鳴り、鋭二郎は攻撃の手を休めないまま仲間達にそれを伝える。
    「クソガ、一体ナニヲ言ッテヤガル!」
     灼滅者達の猛攻を前にデモノイドロードは今の発言について冷静に考える余裕もなく、動きも明らかに精彩を欠いていた。
    「さっさと死ね死ね死ねー!」
     虚雨のバーサーカーのようなフォースブレイクによるラッシュが寄生体で覆われたデモノイドロードの被弾した部分で魔力爆発を起こし、その肉を抉り抜いていく。
    「そろそろトドメっすね。これで決めさせてもらいますぜ!」
     蛇目が虚雨とスイッチするように入れ替わって閃光百裂拳でデモノイドロードを壁際に磔にするように打ちのめす。
    「お前なんか身体は化け物でも中身は所詮人間、後悔して死ぬっすよ!」
     蛇目の連撃に合わせるように絹代の魔力の霧で十分に強化された拳が何発も突き刺さりデモノイドロードが呻き声をあげる。
    「…………」
     ミルフィがデモノイドロードの間合いに踏み込み、作業機械のように淡々と正確に上段から振り下ろした刀で鎖骨を断った。
    「グォオオオオオォォォオオオオオ……ッ!!」
     ミルフィの太刀筋をなぞるようにルーウィンのDMWセイバーがデモノイドロードを叩き斬るように両断し、デモノイドロードは断末魔の叫びをあげて絶命した。
    「……お前はこの力の使い方を誤ったんだ」
     同じデモノイド寄生体にその身を蝕まれた者として、その力の使い方を行動で示そうとしてきたルーウィンが、デモノイドロードの亡骸に向かってそう呟く。
    「よし、時間にも十分余裕があります。撤収しましょう!」
     ヴォルフガングの号令に従い灼滅者達は素早く撤収の準備を始める。
     余裕があると言っても1、2分である。万が一にも宮代藍花と遭遇するわけにはいかない。
    「……しかしヴァンパイア達は、デモノイドロードを配下につけて、単に戦力の増強を図ろうとしているのですかしら……奴等の真意は一体……?」
     従業員用の裏口に仲間達が向かう中、ミルフィは最後に一度振り返りぽつりと疑問を口からこぼしてから、仲間達を追って戦場となったファミレスを去る。
     灼滅者達の的確な作戦と戦闘によって、ヴァンパイアの少女がファミレスに訪れた時には、もうそこはもぬけのからであった。

    作者:刀道信三 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 12/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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