強盗は、どうする?

    作者:陵かなめ

    「あっはっは。今日は250万か! これでしばらく遊べるな」
     真夜中の廃工場にて、高校生らしき青年が一人、上機嫌で金を数えていた。
     彼、五島・奪(ごとう・だつ)は、銀行の夜間金庫に預けられた金を盗んできたばかりだ。
     盗む、とは言うが、盗賊が器用に金庫破りをするものではない。彼はいつも力任せに金庫を破壊し、持てる力を使って逃げ切るだけだった。
    「はぁい、景気がいいねぇ」
    「誰だ!!」
     人払いをしたはずなのに、いつの間にか奪の背後に少女が立っていた。
    「あ、誤解しないでね。私別に、戦いに来たんじゃないし。敵でもないつもりだよ」
     親しみやすい笑みを浮かべ、少女が奪に近づく。
     奪は警戒しながら、少女の話を聞いた。
     
    ●依頼
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は早速話し始めた。
    「皆さん、デモノイドロードのことはご存知ですよね?」
     デモノイドロードとは、普段はデモノイドヒューマンと同じ能力をもっているのだが、危機に陥ると『デモノイド』の力を使いこなし、デモノイドとして戦うことができる。まるで、自分の意志で闇墜ちできる灼滅者、という厄介な存在だ。
    「さらに厄介なことに、デモノイドロードが事件を起こした場所に、ヴァンパイアが現れ、デモノイドロードを連れ去っていくという予知があったんです」
     姫子の言葉に、教室は騒然とした。
     まさに、クラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)の『デモノイドロードを自勢力に取り込もうとするダークネスが現れる』という懸念が現実のものになってしまったようだ。
    「現時点では、ヴァンパイア勢力との全面戦争は避けなければなりません」
     事件を穏便に解決するには、デモノイドロードが事件を起こしてから、ヴァンパイアが現れるまでの短い時間に、デモノイドロードを倒さなければならない。
    「とても厄介な状況なのですが、よろしくお願いします」
     ひとつ間を置き、姫子が詳しく状況の説明を始める。
    「今回のデモノイドロードは、五島・奪と名乗る青年です。彼は、銀行の夜間金庫に目をつけ強盗を繰り返しています」
     銀行業務が終了した後に店を閉める店舗は、あらかじめ契約していた夜間金庫に売上金を預けることがあるという。
     奪は、その金を狙って強盗を繰り返しているのだ。
    「彼と接触できるのは、彼が廃工場で成果を確認している時です。ちょうど、商店街と商店街の間にできた寂しげな場所ですね」
     真夜中、ということもあり、辺りに一般人の気配はない。ただ、商店街近くなので、あまりに騒がしいと一般人が寄ってきてしまうかもしれない。その点は、気をつけたほうがいいだろう。
    「廃工場とはいえ、造りのしっかりした建物です。唯一の出入り口さえ気をつければ、逃がすこともないはずです」
     戦いになれば、敵はデモノイドと同様のサイキックを使ってくる。体力があり、打たれ強いようだ。
    「ヴァンパイアが現れるのは、戦闘開始から10分前後になります。確実を期すなら、8分以内にデモノイドロードを妁滅し撤退を目指したいですね」
     また、今回現れるヴァンパイアは、朱雀門高校のヴァンパイアだ。
     それも、以前、私立至高ヶ上高校の数学教師・金村をそそのかしていた山田・愛姫(やまだ・あき)だという。彼女は私立至高ヶ上高校の支配を目論んでいた。しかし、妁滅者達の行動により、それが不可能と知って去っていったはずだ。
    「まともに戦闘になれば勝利は難しいでしょう。しかも、その後の情勢も悪化すると思われます」
     ヴァンパイアとの戦闘は、万が一にも避けるようにしたい。
     デモノイドロードを妁滅する前にヴァンパイアが現れた場合は、戦闘を中断して撤退するのが正しいだろう。
    「厄介な任務ですが、皆さんで力を合わせて頑張ってきてください」
     姫子は、そう締めくくった。


    参加者
    千菊・心(中学生殺人鬼・d00172)
    糸崎・結留(さやこんぷれっくす・d02363)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)
    綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)
    一宮・光(闇を喰らう光・d11651)
    天道・奈落(堕落論・d16818)
    白河・陸奥(食鬼人・d19594)

    ■リプレイ

    ●真夜中の廃工場前にて
     得た力を使っての強盗。力を正しき方向に使える人ばかりではないのは、人の性と言うものなのかもしれない。と、アルファリア・ラングリス(蒼光の槍・d02715)は思った。
    「悪事を悪事と思わない人と、ヴァンパイアの接触は、阻まなければなりませんね、必ず」
    「デモノイドロードとヴァンパイアか……。結ばせたくない勢力同士だね」
     姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)も同じ意見だ。
     隠形や暗殺は得意だし、恐怖をたっぷりと刻んであげるのもまた一興だ。杠葉は近くに居る綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)へ視線を向けた。今回は共に戦いなれている祇翠も居る事だし、遠慮なくやらせてもらうとしようと思う。
     視線を向けられ祇翠が小さく頷いた。
     己が欲の為に力を行使する、今回の敵。力ある者の責務として護る戦いを信条とする祇翠とは相容れない存在というわけだ。
    「阿佐ヶ谷地獄の時は不覚を取っちまったが、今回は紫雲もいるしそうはいかないぜ」
     辺りに人影はなく、風の音だけが耳に残る。
     廃工場の中では、おそらくデモノイドロードである五島・奪が今日の成果に酔いしれていることだろう。
    「ヴァンパイアのことが無いにしても、強盗などするダークネスは見過せませんね」
     千菊・心(中学生殺人鬼・d00172)がきりりと口元を引き締め廃工場の入り口を見た。
    「二度と悪いことが出来ないようにしましょう」
    「そうですよね」
     糸崎・結留(さやこんぷれっくす・d02363)がこくこくと同意する。
    「とにかく、悪いことしてるなら退治するまでなのですよ!」
     実はデモノイドロードのことは初めて知ったわけなのだが、その決意に変わりはない。
    「しかし、銀行強盗が逃げ込む先が廃工場とは。まるで刑事ドラマですね」
     一宮・光(闇を喰らう光・d11651)はそう言うと、体から殺気を立ち上らせた。これで、一般人がこの現場に近づくことはないはずだ。
    「行きましょう」
     光の殺気を確認し、天道・奈落(堕落論・d16818)が皆を促す。その言葉に、皆が廃工場へ足を進めた。
     じゃりじゃりと、廃材を踏む足音だけが響く。誰も言葉を発しない。
     何故なら、入り口から広がる最初の部屋で、青年が腕組みをして灼滅者達を見ていたから。
    「ひでぇ殺気がぷんぷんすると思ったが……、俺に何か用でも?」
     青年は値踏みするような目を灼滅者達に向ける。五島・奪だ。
     本来なら、奪は成果を確認しているところだった。だが、殺気を感じ取り廃工場へ侵入してくる者に気づいたのだ。
     奇襲をかけるつもりはなかったが、相手が構えているとは。一瞬、仲間達に緊張が走る。
    「別段、ロードだろうとヒューマンだろうとさしたる違いは感じないな」
     その空気を振り払ったのは白河・陸奥(食鬼人・d19594)だ。どうせ戦うことは同じなのだから。
    「だが今俺が居る場所では連中を殺す名分が立つ。時間は少ないが狩りと行こう」
     堂々としたのは奈落も同じだった。
    「……貴方は”やりすぎた”んですよ。身に覚えが無い……とは、言わせませんよ?」
     デモノイドロードの存在が許せないと思う。
     奈落は半ば本気の据わった目で、相手をにらみつけた。
    「は、俺を狩りに来たってわけか」
     そう言うと、奪が全身に力をこめた。すぐに灼滅者達も行動を開始する。
    「では、灼滅を始めましょう」
     槍を構えオーラを纏う。心の言葉を引き金に、戦いが始まった。

    ●開戦、1分
    「行くぜ、紫雲」
     戦いがはじまり、すぐに祇翠が音の遮断を図った。戦場の音が漏れない限り、一般人が近寄ってくることはないだろう。霊犬の紫雲を従え、退路を塞ぐ様に位置を取った。
     最初に仕掛けたのは杠葉だ。
     踏み込んだスピードを最大限乗せ、大きく異形化した腕を正面から叩きつけた。
    「力勝負は趣味じゃないけどね……挨拶代わりに受け取ると良いよ」
     めいっぱい力をこめた一撃を、奪は手にした盾で受け止める。砕く力と受ける力は、一つも譲らず押し合った。
    「ちっ、ガキが。図に乗るなよ」
     ぶつかり合う力を逸らすように、奪は盾の力を一瞬緩め、力の均衡を崩す。力の行き所を失い、杠葉がたたらを踏んだ。だが、次に奪がなぎ払うようなしぐさを見せた時には、杠葉は走り出していた。汚い金で満足してるあたり小物だが……戦闘力はありそうだ。杠葉は冷静に相手を評し、攻撃を避けた。
     奪の盾が空振る。
     間髪を入れず、心が奪の懐に飛び込んだ。
    「ダークネスになってしまったことは残念です。が、その力を悪いことに使うのは許せません」
     オーラを拳に集め、次々とすさまじい打撃を繰り出す。
    「はぁ? つーか、正義の味方気取りかよ、うざっ」
     勢いに押され、奪の背が壁に近づいた。瞬間、奪はくるりと体を反転させ、心の足を払う。
     心はとっさに壁に腕を伸ばし、傾いだ体のバランスを取った。
     攻撃の姿勢を取らせまいと、結留と陸奥が己の利き腕を巨大な刀に変え、切り込んでくる。
     今度はいなされないように、二人別の方向から奪に迫った。
    「金の為の行いが悪いかは分からん。俺も欲の為に行動するのは同じだからな」
     陸奥のそれは、すなわち食欲。
    「だが、お前さんは久しぶりの食事になりそうだ。死んでもらおうか」
     勢いをつけて、敵を斬り裂く。
    「合わせて行きますよ!」
     銀行強盗がどれだけ多くの人に迷惑をかけたか。悪いことは、駄目だ。
     結留もまた、刀と変えた己の腕を、綺麗に振りぬく。確かに相手に傷を負わせた感触があった。
     軽く舌打ちをし、奪が大きく後方に跳んだ。
     奪は傷を受けた箇所を確認すると、盾を使い傷を回復する。同時に、盾の障壁が展開された。
    「随分と、業を重ねているようですね……っ!」
     踏み込んだ奈落は、力いっぱいWOKシールドで敵を殴りつけた。
    「俺は好きなようにやらせてもらうぜ? せっかくの力だからなっ」
     奈落の攻撃を跳ね除け、奪が笑う。
     そこに迫ったのはアルファリアの槍だ。
    「どうやら貴方は『奪う』という意味をご存知ないようですね。他人の一切を気にせず、思うままに我欲を通すというのならば、我々もその流儀に倣って貴方の命を奪いに行くまで……!」
     冷気のつららに変換した槍の妖気を撃ち出す。
     自分達に与えられた時間は8分。
     さっさと片付けヴァンパイアには地団駄を踏んでもらうとしよう。正直、2連戦になるのはまずい。
    「行きますよ」
     光は影を伸ばす。
     影は大きく膨らみ、奪を飲み込んだ。

    ●~6分、そして
     戦いは続く。
    「お前ら、まとめてあの世行きだっ」
     奪が毒の風を巻き起こし、竜巻が妁滅者達に襲い掛かってきた。激しく渦を巻く暴風に、体をすくわれないよう各々が踏ん張る。
     一瞬動きの止まった前衛の後ろから、祇翠が踏み込んできた。
    「力には自信があるんだろ? ならお互い戦を楽しんでいこうぜ」
     真正面から向かい合い、奔麟紅蓮大斧を叩きつけるようにして攻撃する。
     奪はその攻撃を腕で受け止めた。ぶつかり合った瞬間、衝撃で粉塵が舞う。
     斧は受け止めた奪の腕をも削り取り、破れた服の繊維がひらひらと飛び散った。
     畳み掛けるように、アルファリアも龍砕斧を手に踏み込む。
    「力で押すばかりが戦いではありません。こうした搦め手が有効であることを教えて差し上げましょう」
     反対側から一撃を放つと、さらに奪の装備が削り取らていく。
     これならば、与えるダメージも増えるはずだ。
     心は槍を構え、再び奪に迫る。
    「他人に迷惑をかけるダークネスなど生かしておけません」
     突き出す槍の動きは螺旋のごとし。
    「……っぐ」
     奪は上手く防御の姿勢がとれず、うめき声をもらした。だが、まだまだ余裕があるのか、一瞬崩れた表情には、すぐに薄笑いが浮かんだ。
     それからは互いに譲らない攻防が繰り広げられた。
     4分、5分、6分……時間は過ぎていく。
     奪が怒りを向け奈落にDCPキャノンを発すれば、すぐさま光が回復をする。
     仲間の受けた毒の効果は、紫雲が回復することにより解除できた。
     結留、祇翠、杠葉が一斉に連打を繰り出すと、たまらず奪が距離をとった。だが、逃走の可能性を考え立ち回っていた灼滅者に隙はなく、陸奥が鋼糸を伸ばすと奪の足が止まった。
     ここを逃すはずがない。
    「皆さん、チャンスです」
     アルファリアが、奪の盾ごと打撃ち抜くような、強力な一撃を放つ。奪を守っていた盾の障壁が掻き消えた。
    「さあ、回復します。動けますか?」
    「大丈夫だ。まだ行ける」
     光が陸奥の傷をすばやく癒すと、陸奥は再び己の腕を巨大な刀に変えて、奪に向かっていった。
    「もう一息、もう一押しです」
     自身の傷を小まめに回復していた奈落には、まだ体力に余裕がある。仲間を鼓舞するよう声を上げ、ぐっと腰を落とした。
     己の腕を巨大な刀に変え、地を蹴る。勢いよく敵に斬り込んで行った。
     二人の刃が、容赦なく奪を斬り裂く。
    「く……そっ」
     奪の顔が怒りで歪んだ。
    「私も、続きます」
     二人に続き結留もDMWセイバーを繰り出す。
     ついに奪の身体が壁まで吹き飛んだ。
     だが、奪はうめき声を上げながらも、自身の腕を巨大な砲台に変える。
    「くそ、くそ、くそ、馬鹿にしやがって……! たかが数百万だろ?! 何が悪い、ええ?」
     悪態をつきながら、死の光線を放った。
     間一髪で毒の光線を避け、心が奪の懐に飛び込む。
    「覚悟しなさい」
     苛烈な連打を浴びせた。
     奪の身体がはっきりとぐらつく。
     それを見て、祇翠と杠葉が動いた。

    ●戦いの終わりに
     最初に紫雲が上空から旋廻、斬魔刀で強襲をかける。
    「ぐ、ぁ」
     完全に守りに入った奪に祇翠が迫る。
    「欲に塗れた力じゃ信念で力を使う俺達には敵わないぜ?」
     言うなり、零距離からの必殺ビームを放った。
    「ば、か、な……」
     吹き飛ばされ、奪が愕然としたの表情を浮かべる。完全に、意識が祇翠に集中している。
    「今だ、杠葉」
     祇翠が杠葉を呼ぶ。
     彼女がどこから現れたのか、奪は知ることができなかった。
     完全に気配を消していた杠葉が、突如奪の後方に現れたのだ。
     そして、現れたと認識したときには、終わっていた。
    「力を己が為のみに使う者に容赦する道理なし……刹那にて爆ぜると良い」
     マテリアルロッドを真横に振りぬき一閃する。
     デモノイドロードは、最後の言葉もなく内側から爆ぜて消えていった。

     時間にして7分。
    「急いでここから離れましょう」
     心の言葉に、皆が頷いた。誰も異論はない。
    「深追いは禁物だね」
     杠葉が言う。
     これ以上とどまっていると、ヴァンパイアと相対することになってしまうだろう。
    「長居は無用ですね」
    「速やかに撤退しましょう」
     アルファリアが言うと、光が頷いた。
     灼滅者達は速やかに撤退を始めた。
    「歩けないやつは……居ないようだな」
     祇翠が仲間を確認する。それなりに攻撃を受けそれなりに傷ついたが、重傷者は居ない。皆しっかりと自分の足で歩いている。
     帰還までが戦と思えばこそ、祇翠は気を引き締めた。
    「どうやら、周辺に敵はまだいないようです」
     奈落は周辺の様子を伺い、敵と鉢合わせしないよう気を配る。
    「時間を守れたんですね」
     結留が胸をなでおろした。
     ふと、陸奥が廃工場を振り返る。
     デモノイドロードは全て跡形もなく消えてしまった。その肉を、手にすることができなかった。
     それが、少し残念だと感じた。
     ともあれ、灼滅者達はヴァンパイアに遭遇することなく、安全に帰還した。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月24日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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