モチイーター

    作者:聖山葵

    「え、何が当たっ」
     ビニール袋を片手にぶら下げたその女性は足に触れたものを確認しようとして、固まった。
    「あ、あぁ」
     濡れたビニールホースか何かだと思ったそれは、太く葉のついていない植物の蔓。そう、蔓ではあるのだが足首に絡みつきながらゆっくりと腿をはい上がりつつあって。
    「何、これ……ドッキリでしょ? ねぇ?」
     こんな事があって良いはずがない、日本に人間を捕まえる植物なんて生息していないはずと、理性を総動員し、カメラという名の救いを求めて首を巡らせ。
    「ひっ」
     見つけてしまった。大人一人を丸ごとぱっくり食べてしまえそうな大きさをした緑の球体を。しかも球体には大きな裂け目があり、ギザギザとした歯がそこから覗いているのだ。
    「嫌ぁぁぁっ」
     捕食される、それ以外の単語が思いつかず絶叫しながら投げつけたのは、手に持っていたビニール袋。
    「助けて、助けてぇ、誰……え?」
     だが、女性もとっさに投げただけのビニール袋に巨大肉食植物のとった反応は。
    「なにそれ?」
     女性を解放すると、触手っぽい蔓二本で合掌し、ビニール袋からこぼれ出たお餅を食べ始めると言うものだった。
     




    「誰が呼んだかその名も『モチイーター』。夜な夜なお餅を持った人が通りかかると襲いかかり、奪った餅を食すというはた迷惑な都市伝説だ」
     ちなみに、人肉に興味はないらしく、襲われた人々は例外なくお餅を奪われるだけで解放されているという。
    「都市伝説についての説明は今更必要ないかもしれないが、人々の畏怖や恐怖とサイキックエナジーが混じった一般人では対処不可能な存在だな」
     ちょっとだけ端折ってそう説明した座本・はるひ(高校生エクスブレイン・dn0088)は画用紙にクレヨンで描いたらしい巨大肉食植物のイラストを教卓に置くと、更に説明を続ける。植物にどこかで見たような赤い髪の男の娘が襲われている様に見えるのだが、きっとツッコんだら負けなのだろう。
    「流石にこのままにしておくのは迷惑だ。迷惑以外の何物でもないっ!」
     そも、噂が元になって存在する都市伝説の性質上、噂が変質して更に犠牲者が大きな被害に遭う可能性も否定出来ないのだ。
    「故に君達には退治を頼みたい。遭遇に関して何らかの餅をもって夜中、出現場所である路地を通れば良いだけだからな」
     幸いにも噂のせいか、夜になれば人通りも少ないらしく、はるひの指定時刻に赴けば一般人と戦場でかち合うこともないとのこと。
    「ついでに言うなら街灯があって明かりも不要。実に好都合だと思うよ」
     後は行って討って帰ってくればいい。
    「戦闘になれば影業のサイキックに似た攻撃で応戦はしてくるだろうが」
     餅を好むこの都市伝説は近接攻撃の範囲内にお餅があればそちらに気をとられて攻撃の手を止めることもあるとか。まぁ、HPが50%を切ってしまうと生存を優先する為見向きもしなくなるらしいが。
    「餅についてはここにきな粉とあんこをトッピングした餅がある。これを持って行くといい」
     君達はこれを使っても良いし、自分で餅を用意しても良い。もち肌の灼滅者が囮になっても良いが、もち肌だけでは呼び出すには居たらずせいぜいもち肌の主が優先的に狙われるぐらいだろう。
    「私も赤ん坊の肌にはある種の興味を覚えるがね」
     危険な発言に、健闘を祈るよと続けたはるひから見送られ、灼滅者達は教室を後にする。敢えてノーコメントで。


    参加者
    アッシュ・マーベラス(アースバウンド・d00157)
    神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)
    竜胆・きらら(ハラペコ怪獣きららん☆ミ・d02856)
    天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)
    ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)
    塚地・誇(淡碧・d19558)
    白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)
    風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)

    ■リプレイ

    ●出会い
    (「……まぁ、餅が好きじゃということ自体は別段よいとは思うが。何がどうなってそんな都市伝説が出てきたのやら」)
     元々の噂が少し気になってしまうところじゃな、と神楽・美沙(妖雪の黒瑪瑙・d02612)は嘆息する。
    「変な都市伝説よねぇ……まぁ、都市伝説は基本的に変なのが多い気がするけれど」
     ルナエル・ローズウッド(葬送の白百合・d17649)も美沙の心の声が聞こえていたならそう乗っかってきたことだろう。
    「外傷がないとはいえ人を喰らいそうな植物に遭遇するのは一般人にとってはトラウマになりそうね……早く手を打ちましょうか」
    「アブラーカタブラーッ!」
     呟くルナエルの視界内では、人々を襲って餅を食う都市伝説をおびき寄せる為、アッシュ・マーベラス(アースバウンド・d00157)が盛大に餅をばら撒いて。
    「うっ、く……」
     反射的に餅へ飛びつきかけた竜胆・きらら(ハラペコ怪獣きららん☆ミ・d02856)はピンと立った所謂アホ毛をへにょりと垂れさせつつ未練の籠もった視線をアスファルト上のそれに投げる。
    (「私もお餅食べたいな」)
     思わず餅に視線がいってしまったという意味では、どことなくぼーっとした塚地・誇(淡碧・d19558)も同じか。
    「お餅……投げたり下にばら撒くのは勿体無いと思うの」
     と、口には出さなかったが、目は口ほどにものを言う。
    「餅でも団子でも何でもよいが、これだけあると見ておるだけで食傷気味になるのぅ……」
     だが、食傷気味になるほど転がっているから誘引の意味があるのかもしれない。
    「これで準備万端です!」
     サウンドシャッターによって戦いが始まった後の防音対策をしつつ、きららは待った。
    (「人様のお餅を奪うだなんて言語道断! なんて羨ま、いや、意地汚い都市伝説なのでしょう!」)
     胸中で語るに落ちかけながらも、ここは何としても成敗してお餅を守らなければと決意を固めて。
    (「餅を求める都市伝説ですか……いただきますとごちそうさまが出来るのはいいことですが、盗みはよくないですの!」)
     そう言う結論に至った白牛・黒子(とある白黒の地方餅菓・d19838)も風輪・優歌(ウェスタの乙女・d20897)からスキンケアを受け、手にしていた布教用のべこ餅を持ち替える。
    「来ましたわね」
     結果から言うなら、灼滅者達はあまり待たされなかった。
    「ワォ! ニホンに変わった植物が……じゃなくて都市伝説なんだよねこれ……」
     ずりずりと身体を引き摺りながら現れた見た目巨大肉食植物へアッシュは大げさに驚いて見せ。
    「見かけは食人食物に見えるわね、思いっきり。予備知識なく捕まったら吃驚しそうだわ」
     アッシュが言い間違えるのも無理はないと頷きつつ、ルナエルもそれを眺めた。
    「……こうして見ると、お餅がどうとか以前に、普通に気色悪いね」
     なんで植物がお餅を食べようとしているのかという疑問を抱きながら天瀬・麒麟(中学生サウンドソルジャー・d14035)の見つめる先には。
    「ドーモ、初めまして。べこ餅ヒーロー白牛黒子ですの」
     丁寧にお辞儀する黒子と、しゃべらないものの口のついた巨大な球体部分を傾けてお辞儀っぽい動作をする都市伝説。やはり、行儀は良いらしい。
    「……都市伝説もお餅の味って気になるのかな?」
     そして、挨拶を終えた肉食植物風味な都市伝説が蔓を伸ばした先にあったのは、優歌がおいしくなあれとおまじないをかけアッシュのばらまいた餅の幾つか。

    ●喰らうもの
    「……きりん、色黒いし、もち肌じゃないよね? お醤油かけた後のお餅っぽいかもだけど、白くないともち肌って言わなかったような……?」
    「もぐもぐ……」
     モチイーターにとっては、もち肌より実際のお餅なのだろう。色黒のきりんどころか、化粧品のクリームでスキンケアされた黒子にさえ挨拶が終われば背を向けて、都市伝説はアスファルト上の餅を食べ出ている。
    (「それにしても、餅に意識が向かうというのは、可愛げがあると見るか阿呆と見るか」)
     美沙達よりも「いただきます」をして食べ始めた餅の方へ注意を傾けているのは、元になった噂に縛られているからかもしれないが。
    「お餅、ね。喉に詰まらせて死者が出るとか」
    「喉はないみたいだけどね、モッチィ」
    「ある意味日本のお正月の風物詩よね……お正月の前に彼岸だけれど」
     誇の指摘をさらりと流し、ルナエルはスレイヤーカードを手にする。
    (「モッチィ、ちょっと可哀想。お餅が好きなだけなんだし……、もう少し小さかったら家で飼ったのに……」)
     少なくとも餅の供給がある内ならば、見た目はさておき人畜無害そのものの都市伝説。誇が胸中で呟いたようにモチイーターことモッチィが飼えるかどうかは別として。
    「しょうがない……PKUnlock!!」
     ただ、ニホンのお餅を守るためにも放置は出来ず、アッシュは予告ホームランでも言うかのように影鏡のバットをそれに突きつける。
    「ごめんなさい」
     そもそもこの都市伝説を倒す為に灼滅者達は足を運んだのだから、相手がお食事に夢中であっても黙って見守る理由はない。短く謝罪の言葉を紡いだ優歌も魔力を宿した霧を展開しつつ、バトルオーラで身体を覆った。
    「いくよーっ!」
     戦いの始まり、次のお餅に手を伸ばそうとしたモチイーターの蔓を張り巡らせた鋼糸の結界が阻んだ。
    「アイエエェ!」
     殲術道具に触れた蔓から汁を噴き出し、都市伝説は悲鳴を上げ。
    「食らいなさい! 必殺・べこ餅スリケン!」
     イヤーッとかそんな感じのかけ声と共に黒子が塗布された毒でぬらりと光る手裏剣を乱れ投げる。
    「グワーッ!」
     狙い違わず突き刺さる手裏剣に苦痛が上がり。
    「ここが埼玉県でないのが無念でなりませんの」
    「……訳がわからないわよ」
     何故か悔しそうな顔をする黒子へルナエルが真顔でツッコミを入れるが、むろんツッコミだけで終えるつもりもない。
    「外傷がないとはいえ人を喰らいそうな植物に遭遇するのは一般人にとってはトラウマになりそうね」
     今のところは不意打ちされて苦痛にのたうっているだけだが、街灯に照らされたそれのヴィジュアルは確かに一般人へ恐怖を与えるに充分すぎた。
    「……早く手を打ちましょうか」
     真顔でマテリアルロッドを振り上げ、タンッとアスファルトを蹴ればモチイーターとの距離は随分縮んで。
    「アイエエェ!」
    (「戦う身としては楽になるのはよいことではあるが……いや、深く考えずに片付けてしまうとしようかの」)
     サウンドシャッターがあるが故の戦場に限定された悲鳴が響く中、餅を囮にして始まった集中攻撃に加わるべく美沙は頭を振りながら拳にオーラを集中させた。
    「可愛げ? 知らぬ」
     問われたらそうとぼける程度に容赦する気は更々なく、美沙の両拳は踊らせるのだ、そこに餅がある故に決定的な隙を作り出してしまった巨大肉食植物もどきを。
    「……急所とかないのかなぁ?」
     ひたすら仲間が打ちつけているパンチが弱点的な場所にあたることでも期待しているのか、誇はぼーっと眺めるモッチィへとガンナイフを向けた。
    「……ごめんね」
     銃口が火を噴いたのは引き金を引いたから、都市伝説が悲鳴を上げたのは撃たれたから。
    「きりん、お餅はそのまま食べるより、チーズを乗せて食べるのが好き」
     だが、それでもモチイーターは雷を引き起こす麒麟の言葉に反応し、球体部分をまるで首を巡らすかのように動かした。チーズをのせた餅でも探そうとしたのかもしれない。
    「え、チーズ?!」
     釣られてきららまでが一瞬餅を探して周囲を見回したような気もするが、きっと気にしてはいけないのだろう。
    「お餅がほしくても、盗むのはダメです!」
     一瞬そちらに気をとられつつも、断罪の意思を露わに風の刃を渦巻かせたのだから。

    ●おやくそくてきななにか
    「……モッチィ焼いたら美味しいかなぁ?」
     誇が抱く疑問の回答へ至る道筋を、アッシュは実演という形で作って見せた。
    「植物には炎で決まりかな……?」
     風に刻まれ、拳で殴られ、マテリアルロッドで殴打された数カ所に内側から爆ぜたような傷を作った都市伝説は、餅に執着することを止めたのだ。
    「あ、お醤油かけてあげてみよ」
     と攻撃の合間に地面に散らばっていたお餅を拾い、醤油につけ海苔を巻いて差し出した麒麟へ敵にもかかわらず有り難うとお辞儀していた余裕も、もうモチイーターには残っていない。
    「満足して……貰えたでしょうか」
     自分で誕生を選べた訳でも無ければ噂に逸れた行動も許されない、優歌からすると罪のない哀しい存在が食べていた餅の幾つかは、せめて消滅前にすこしでも楽しんで欲しいからと優歌自身が用意しおまじないをかけた餅だった。バリエーションの豊かさも討つしか道のない優歌に出来るせめてもの気持ち。
    「回復はおまかせだよ♪」
    「何というか、本当に酷い目に遭いましたわ」
     きららの招いた優しい風に精神的疲労さえ隠せず髪を揺らす黒子の身体には、「つい先程まで容赦なく肌を堪能されたあと」が地味に残っている。
    「餅肌ってどんな肌なのか良く分からなかったけど、もういいわ」
     真顔で独白したルナエルの言を翻訳するなら「そんなことより同じ目に遭いたくない」だろうか。
    「……きりん、もち肌じゃなくて心から良かったと思えている」
     都市伝説に世話を焼いていたからか、手頃な囮が居たからか、ここまで麒麟が触手も同然の動きをした蔓に襲われることはなかった。
    「あれは、ない」
     肌の感触を確かめる為、邪魔な衣服を蔓に生やした葉っぱの刃で切り裂かれ、蔓に絡み取られて動きの鈍ったところで全身の触感チェックをされたりしていれば、麒麟も全力で反撃していたことだろう。
    「……きりん、もち肌じゃないのに……、お前なんて、お餅をのどに詰まらせて死んじゃってよ」
     とか言いながら。
    「アイエエェ!」
     もちろん、犠牲にならなくても攻撃にはきっちり参加して、ゼロ距離から繰り出される斬撃と蹴りにモチイーターは宙へと投げ出され。
    「シールドバッシュがあったなら黒子の負担も減らせたかもしれないけれど」
     倒してしまえばルナエルを含む灼滅者達へこれ以上の被害が出ることもない。
    「審判の時間ですの!」
     都市伝説の死角に回り込んだ黒子の斬撃に私的な恨みが籠もっていても、驚く者は居なかっただろう。
    「ふむ、明日は我が身と迄は言わぬが……のうっ」
     実際、美沙も例に漏れず、開いた扇子で口元を隠したまま餅喰いに襲いかかるもち肌の図を見届けると、扇を持たぬ方の手を巨大化させて繰り出す。
    「く」
     押し潰さんと叩き付けた腕に違和感を感じたか、美沙が顔をしかめれば、巨腕を這い出す様に絡み付きだした蔓が異形化した腕自体を持ち上げ脇へとのけた。
    「ワォ! 思ったより粘るね」
     もはや餅に気をとられていた時とは違うとばかりにまだ残っている餅には目もくれず、都市伝説は刃の葉を生やした蔓をアスファルトに踊らせる。
    「っと」
     狙いは、アッシュではない。
    (「まさか、私? 自覚がないだけでもち肌だったとか?」)
     攻撃一つとってももち肌探しゲームの態を帯びてきた戦いのさなか、一瞬だけ自分を向いた蔦の先をルナエルはじっと見て。
    「っ、やっぱりこちらですのーっ?!」
     ある意味当然の帰結に黒子は悲鳴を上げた。都市伝説側からすると、既にそれっぽい存在を確かめた後なのにわざわざもち肌かも定かでない相手に蔓を伸ばす必要があるかとかそんな判断だったかもしれないが、襲われる方はたまったものでもない。
    「……あり?」
     蔓の行く手を遮るように放出した誇のオーラをかいくぐった蔓の一本が、更に黒子へ近づいて。
    「そこまでだよ」
     気づかずアッシュの結界へ踏み込んでいた部分が、鋼糸に両断される。
    「アイエエェ!」
     悲鳴を耳にアッシュの引き戻す殲術道具はまるでヨーヨーの如く。ぱしっと軽い音を立てて球のように纏まった鋼糸を掌中に収め。
    「終わらせようぞ」
     かわりに進み出ながら美沙は仲間を促し、オーラを集中させた両手を握り込む。
    「傍迷惑な存在は、即刻地獄へ参るがよい」
     地を蹴って繰り出すは、執拗な拳打。
    「まだやるんだ?」
     翻弄されてアスファルトを転がったボロボロの都市伝説は、身を起こしつつ半ばから断ち切られた蔓をノロノロとあげつつ葉を生やす。生存するには灼滅者達を倒さなくてならないと思っているのか、攻撃されるが故反射的に応戦しているのか。
    「アバーッ!」
     どちらでも結果は変わらない。魔術によって引き起こされた雷に打たれたモチイーターは断末魔を上げながら崩れ落ち、死という形で戦いの幕を閉じたのだから。

    ●相伴
    「制裁完了ですの!」
     無事だったべこ餅をかじり、頑張った後はべこ餅が美味しいですのねと黒子は笑みを浮かべた。都市伝説へ大盤振る舞いはしたものの、残った餅はそれなりにあったのだ。
    「皆さんもい」
    「余ったお餅、食べていいですか?」
     いかがと薦める前に挙手したきららが質問してきて。
    「お餅余ったら下さい……っ」
     きららの言で思い出したように続いたのは、つい先程までぼーっとしていた誇。
    「……美味しい」
    「本当ですね」
     早速受け取って食べ始めた誇の横では、アホ毛でハートマークを作りつつきららが相づちを打ち。
    「今度はボクも餅食べるかなっ」
     でも帰ったらね、と付け加えたアッシュは荷物にそれをしまい込む。今ここで全てを食べてしまう必要もない。
    「……そういえば、都市伝説が食べたお餅ってどこに行ったんだろう?」
    「言われてみれば。どこかに落ちてるんですか?」
     呟いて周囲を見回す麒麟に倣い、きゅぴんとアホ毛を立てお餅を探し始める辺り、きららはまだ食べたり無いのかもしれないが。
    「まぁ、何にしても……終わったわね」
    「ですわね」
     そう、終わったのだ。巨大肉食植物もどきも消滅し、残されたのは何の変哲もない路地だけ。
    「モッチィ、ちょっと可哀想。お餅が好きなだけなんだし……、もう少し小さかったら家で飼ったのに……」
    「そうですね、困ってる人からお餅をもらったらその人を助けるとかの噂だったらよかったのに」
     同情ともに口から出した誇の願いに優歌も感想を口にして。
    「帰ったらモチイーター描くかっ」
     しんみりする優歌の背中を眺め、アッシュは独言する。もう、ここに留まる理由もない。
    「では、帰るとしようかのう」
    「……だね、お疲れさま」
     やがて帰路に着き歩き始めた灼滅者の中、誇は夜空を仰ぐ。
    「あぁ楽しかった……」
     都市伝説を哀れんだのも事実だが、口にした思いもまた事実だった。街灯に照らされた影は揺れ、涼しげな秋の風が路地を通り抜ける。草むらから聞こえる虫の声をのせて。

    作者:聖山葵 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月18日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 10
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