月見て跳ねる

    作者:立川司郎

     そこは古い宿場町の一つであった。
     町並み保存地区には今でも木造の建物が並び、石畳は通った跡を残すように真ん中がへこんでいる。
     本陣や旅籠、醤油倉などが今も残り、町外れには神社がぽつんと残っている。
     冷泉・朔夜(ダブルキャスト・d19296)はのんびりと宿場町の通りを歩きながら、やがてその社へとやってきた。
     普段は使われていないが、祭りとなれば石段の灯籠に灯りがともるという。
    「月夜見神社」
     地図には、そう書かれていた。
     百段ほど上った所に拝殿があり、さらに少し登ったところに神楽舞台があった。神楽舞台は町を見下ろすように作られており、とても見晴らしがいい。
     町の人が言うには、月読が祭神なのだという。
     月読は夜を支配する神。
     つまり『そういう町』だったから、夜の神を祭っているのだと含んだ言い方で町の年寄りは教えてくれた。
     朔夜にはその意味がよく分からなかったが、いずれにしてもやらねばならない事がある。
    「……ここに、都市伝説が出るんだね」
     夜間となると、ここの神楽舞台に都市伝説が現れる。
     月夜の晩に、神楽舞台を躍る薄着の女性が現れる。彼女はとても楽しそうに、跳ねて躍り、笑う。
     ここに立つ者はみな、笑わねばならない。
     笑って躍って跳ねて、そうして騒いで笑い死にしてしまうのである。
     笑って死ねるなら、と来る者がある。
     肝試し目的で来る者もある。
     いずれにしても、秋になって祭りが始まるまでに片付けなければなるまい。
     
     エクスブレインの相良・隼人(高校生エクスブレイン・dn0022)は、話に聞いた宿場町の観光マップを開いていた。
     朔夜が言う宿場町の神社は、町を見下ろす山腹にあった。
    「確かに、ここに都市伝説が出るようだな。出没するのは、神社の神楽舞台だ」
     月夜の晩に、神楽舞台で躍って歌って騒いで笑えば出没するのだと言う。髪は漆黒、肌は白く薄着姿で跳ねて躍る。
     彼女はたった一人、躍り狂いながら攻撃を仕掛けてくる。
    「……重要なのは、彼女の攻撃だ。手に短刀を持っているが、彼女の歌声はこちらを歓喜させる。つまり、躍って唄い笑いたくなるって事だ。こうなったら解除するまでなにも出来なくなる」
     他にもナイフを使った接近戦を行う。
     彼女を一気に倒したい所だが、体力とスピードがある為身長にいかねば倒すのは難しいだろうと隼人は言う。
     月見て跳ねる、彼女は月読命?
     話を聞いていたクロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)が首をかしげる。よくそんな事を知っていたな、と隼人が感心したが、恐らく隼人もこの宿場の意味を知っては居るまい。
     ふ、と隼人は笑った。
    「何も考えず、笑って戦えばいい。月読は夜の祭神、きっと月夜の晩には楽しく躍りたくなるのだろうさ」
    「この人は神サマなの?」
     朔夜が聞くと、隼人は首を振った。
     いや、神サマの影。
     ……神サマを願った人々から生まれた、都市伝説さ。
    「さ、とっとと支度しろ。……そして片付いたら、お前達も月見をして来るといい」
     月夜はとても、綺麗だ。


    参加者
    椿森・郁(カメリア・d00466)
    草那岐・勇介(舞台風・d02601)
    月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)
    二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690)
    戒道・蔵乃祐(酔生夢死・d06549)
    月原・煌介(月梟の夜・d07908)
    冷泉・朔夜(ダブルキャスト・d19296)
    フレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)

    ■リプレイ

     長い階段を上がると、ぽっかりと月が見えた。
     ザア、と風が吹いて郁の長い髪を舞上げてゆく。目を細めるようにして空を見上げると、雲ひとつない夜空が目に写る。
     ああ、本当に綺麗な夜だ。
     ほっと溜息まじりに、椿森・郁(カメリア・d00466)が呟いた。
     神楽舞台の周囲には古びた石灯籠があり、中に電気が通っているのが分かる。舞台に足を踏み入れた草那岐・勇介(舞台風・d02601)は、舞台の端に駆け寄ると手を伸ばした。
     郁は舞台天井の灯りを勇介に任せ、自分は石灯籠の方へと向かって行った。ふ、と思い返して舞台を振り返る。
    「よろしくお願いします」
     郁が頭を下げると、冷泉・朔夜(ダブルキャスト・d19296)がそれを見て自分もと頭を下げた。
    「これから舞台で楽しく躍るんだもんね、最初に神様に挨拶ってことだよね」
     比較的穏やかに準備が進む様子を、朔夜はどこか楽しそうに見ている。郁や勇介が灯りの準備をしている間、他の仲間は作戦や舞台での話の打ち合わせを行っている。
    「郁ちゃんはジャズがやりたいって言ってたよ。オレ、ヴァイオリンなら出来るんだけど」
    「神楽でジャズって珍しいね」
     月詠・千尋(ソウルダイバー・d04249)は、ちらりと郁の背を見ながら朔夜に聞く。
     月を歌う優麗なジャズソングを奏でよう、という事らしい。千尋は感心したように声をあげ、空を見る。
     せっかくだから、ジャズにあわせて見るのも面白い。
     灯りで舞台の準備が整うと、朔夜はヴァイオリンを取り出した。フレナ・ライクリング(お気楽能天気残念ガール・d20098)は朔夜の楽器を見て、嬉しそうにタンバリンを取り出す。
     しゃらりと乾いた音が、神楽鈴のようで軽やかである。
    「ジャズミュージック、その曲ワタシ知ってマース! みんなで躍るの、とても楽しいヨ」
     待ちきれない様子のフレナは、舞台の準備を手伝いはじめる。舞台の端に座った戒道・蔵乃祐(酔生夢死・d06549)は、踊りに関しては丁重にお断りをした。
    「踊り? 僕はマイムマイムとドジョウ掬いくらいしかレパートリーがないんですよね」
     まあ、騒ぐのは他の仲間に任せておこう、と蔵乃祐はひとまず様子を見守る。気付いている者が居るのかどうかは分からないが、蔵乃祐はこの社の正体が何なのか、なんとなく気付いていた。
     人は生き方は選ぶ事が出来るが、生まれとその環境は選べない。
    「必要だった…と言うは易しだが」
     そう言う蔵乃祐は、落ち着いた顔をしていた。
     舞台の準備が終わってふと立ち尽くすクロム・アイゼン(高校生殺人鬼・dn0145)に、こっそりフレナが囁く。
    「クロム、ワタシカグラについて調べてきましたデス。アマノイワトという所に閉じこもった神サマの為に躍った神サマがいるのデス」
    「おお、知ってるぜ。まっぱで躍った神サマな」
    「ホントですか? じゃあワタシ達も裸ですか?」
     何だか微妙におかしな二人の会話を耳にして、蔵乃祐はふと笑った。月夜に優しいヴァイオリンの音色が響き、祭りの準備は整ったようだ。
     柔らかでゆったりとした音色は、荘厳な神楽舞台によく馴染む。郁の歌声と音楽に合わせ、千尋はゆるりと舞い始める。
     こんな舞台があっても良いかもしれない。
    「なんか、本格的っすね」
     月原・煌介(月梟の夜・d07908)が千尋の舞を見て聞いた。
     彼女が言うには、これは彼女が以前一度見た事のある神楽であるらしい。
    「月読命が天照大神の命で保食神(うけもちのかみ)を訪ねる話だよ。……見よう見まねだけどね」
     保食神の逸話は、アジア各地に見られるタイプの神話である。農耕民族故の、作物に関わる神とその信仰だ。
    「合わせていいっすか?」
     それだけ言えば、お互いの動きは合わせられると千尋は派手に踊り始める。言葉にしなくても合わせてくれる煌介も、そして曲調を少しアレンジして歌ってくれている郁や朔夜、フレナ。
     気になってやってきた璃乃は、傍で見ていた二階堂・空(高校生シャドウハンター・d05690)に声をかけて舞台にあがる。
    「お邪魔にならへん程度に舞わせてもろうてもええやろか?」
    「ああ、大勢の方が楽しいし」
     そう言われ、璃乃は煌介を見た。舞台にいる煌介は、なんて感情豊かに躍っているのだろうと見とれる。
     勇介は皆の様子を見て、舞台の端にいた空を振り返る。
    「…いくのか?」
    「うん。オレも舞台に上がらなきゃ」
     階段の方を振り返ると、陽桜と想希がやって来たのが見える。軽く手を振り、勇介は舞台に踊り出た。
     笑いながら戦うというのはどんなものなのか、不安もあったけれど勇介はこの舞台に混じりたいと思った。
     ただ血に濡れ、消すのではなく踊り歌いながら消える。
     フレナとクロムも混ざり、舞台は舞うヒト歌うヒト、声と舞躍る音が溢れる。ちらりと蔵乃祐を振り返ると、空も立ち上がった。
    「神を願う人々から生まれた……明るいようで、少し物悲しいね」
    「願ったのは赦しか、それとも守護だったんでしょうかね」
     蔵乃祐が空にそう言い返すと、弓を手に構えた。
     舞に混じるように、ぽつりと月の光が落ちる。それは白く羽衣のような布を纏って躍る、一人の女性の姿を取り舞い始めた。

     ころころと良く笑い、よく跳ねる。
     彼女は舞台に降り立つと、手にした扇と袖を振り乱して躍りはじめた。
    「曲が終わるまで…待ってくれないよね、やっぱり」
     残念に思う郁の声が、細く零れる。
     じゃあ、終わってからまた後でと煌介が言った。
    「また後でお月見、するんすよね?」
     その時を楽しみに、まずはそれまで場を収めねばと煌介は周囲の音を弾いた。煌介に続き、蔵乃祐は殺界形成で一般の参拝客が上がらないように力を使う。
     だが、一般の者は上がらずとも…。
     ちらりと振り返ると、何人か上がっているのが見えた。
     階段を上がる昭子は既に結界が張られたのに気付き、ぐるりと顔を巡らせる。咲結に手を引かれたふわりは二人、立ち止まった昭子の横を抜けて舞台ある所まで階段を上がった。
    「大丈夫だよ、咲結たちの他には誰も来ないよ」
     ここでこうして、舞台を見守ろうと咲結はふわりを振り返る。
     跳ねる月読の姿を見て、昭子はゆるりと笑みを浮かべた。月の光に照らされた月読は、とても楽しげで美しい。
     髪に包まれシャラリと昭子の鈴が鳴り、踊り出す。
     舞台に降りた月読は、月の光のようにゆるりと舞いフレナに身を寄せる。彼女を囲む朔夜とフレナに、甘い香りが漂う。
     とても楽しそうに躍る彼女の様子に、心が誘われる。
     ころころ笑う彼女の笑顔に、フレナの心もまた揺れる。
    「ワタシは…みんなの盾デス!」
     足を止めたフレナに、声がかかる。
    「手拍子が足りないと見えるな」
     舞台の袖で百合が音を奏でると、燐音は風を起こして舞台の中央に送り込む。一人二人と舞台の傍に集まると、声はいつしか楽しげに。
     フレナはふっと体の力が抜けるのを感じた。
    「ワタシ、自分で笑えるデス」
     セイバーを抜き出し、フレナは弾かれたように月読に飛びかかった。自然と、ダンスに合わせるようにセイバーを奮う。
     深紅の血を振り乱しながらも、月読は舞続ける。袖が、そして扇が千尋や煌介の体を切り刻むも、その舞にまた惹かれる自分があった。
     千尋は暗器を手の内に握り、うっすら笑みを浮かべる。
    「もしかしたら、ご先祖様」
     こうして月に纏わる神社で、月見をしながら待っているなんて。千尋は躍りたくなる気持ちを堪え、舞台の袖に居る仲間の支援を感じて呼吸を整える。
     するりと躱すと、何時の間にか身を寄せて扇で切り裂く月読の動きに、朔夜やフレナも翻弄されているようだった。
     庇いきれずに煌介は、腕から血を流している。
    「多分、螺穿槍の方が当たりがいいっすよ」
     煌介に言われて、千尋が自分の手を見下ろす。
     自分が掛かったら、それに合わせて同時に攻撃と言う事らしい。千尋はこくりと煌介に頷き、チャンスを狙った。
     月読がぴたりと朔夜に寄り、扇を翳す。舞いながらその勢いに飲まれ、力がみるみる失われていく。
     朔夜はそれでも笑い、へたりと座り込んだ。
    「躍ってほしいの? ふふ、楽しいね」
     月読ちゃんもたのしい?
     朔夜の問いかけに、彼女は笑う。
    「しっかり立って!」
     そこに聞こえたのは、郁の声だった。
     凛とした声は、朔夜や月読を取り囲む仲間に向けたものであった。風で舞台を包みながら、仲間を叱咤する。
    「無理矢理笑わされたり躍らされたり、楽しくなさそうだよ。自分も楽しくなきゃ、駄目」
    「じゃあ、こっちが既に楽しんでたら月読サンも強制し甲斐がないね」
     郁にそう返すと、クロムがナイフを構えた。
     からりと笑いながら、月読の元に駆ける。行くよ、と声を掛けたのは傍にいた勇介に対してであろう。
     笑って戦って、クロムの心に何があるかは分からないが、それもまた勇介が自分の中に探していたものの一つ。
     月読の力であっても、自分の意志であっても今勇介も楽しい。
    「弱い所、見せらんねーもんな!」
     勇介は剣を構えると、光を放出した。飛びかかったクロムの影がくっきりと舞台に写り、勇介の力とともにクロムのナイフが月読を切り裂く。
     するりと攻撃をかわそうとした月読の体には、蔵乃祐の縛霊手が食らいついていた。
    「都市伝説は人の心の残像、なのかもな。…ここに残った人の笑顔の名残」
     空は月読を見ながらそう考え、影を放った。
     月の光が照らした影は空の下にくっきりと残り、そして月読の体を捕らえる。蔵乃祐の霊縛手と空とが捕らえた月読に、煌介は静かに槍を構える。
    「……貫け」
     煌介と千尋の槍とが風を切り、月読を貫いた。
     ゆらりと姿が揺らぎ、舞うようにふわりと月読の姿が光に溶ける。それはゆっくりと、月に返るように消えていく。
     月を見上げ、ほっと空は息をついた。
    「…笑いながら現れて、笑いながら去る。儚い、けれど」
     それでも、何故だろう。
     なんだか心がほっとしていた。

     じゃーん、月見団子!
     郁がコンビニ袋から団子とお茶を取り出すと、フレナは目を輝かせた。お団子を持参したのは郁だけではなく、空や蔵乃祐も。
     朔夜や勇介は、それぞれ戦いを見守り支えてくれた人達と、舞台の端でお月見を楽しんでいる。何だ、みんなちゃんと持ってきたんですかと蔵乃祐が呟くと、フレナがパッと手を伸ばした。
    「これがお約束のお団子デスね!」
    「月を眺めながら食べるんだからな。…あーホラホラ、お団子喉に詰まるから!」
     喉に詰まりかけたフレナに、空がお茶を差しだす。
     先ほどまでの騒ぎと打って変わって、舞台ではみなのんびりと月見を楽しんでいた。空はその様子を眺め、ふと視線を月に向けた。
     この社を建てた頃の人々は、この月に何を見たのだろう。蔵乃祐が言うように、赦しなのか…それとも。
    「綺麗だ」
     その一言はきっと誰も変わりはしないだろう。

     戦い終わり、陽桜はひとしきり感想を勇介に話し続けた。最中は懸命に手拍子を合わせていた陽桜は、手が真っ赤。
    「ゆーちゃん、お月様のよーせいさんみたいだったの!」
    「よーせいさんかぁ」
     照れたように笑う勇介の頭をわしわしと撫で、想希はお団子を差しだす。カスタードにチョコ、栗餡、南瓜、芋餡。
     みんな陽桜とで作ったお団子である。
    「お勧めは何?」
     ちらりと想希が陽桜を見て聞くと、陽桜は考え込んだ。
     お勧めは、一つになんて決められない。
     三人が楽しそうに談笑している光景に目を細め、煌介は璃乃の傍に腰を下ろす。煌介は何も語らず、何も聞かず。
     璃乃は微笑む。
    「煌介さん、楽しそうに躍ってはった」
     璃乃に言われ、煌介は小さく頷く。
    「実はね、ほんに楽しそうに躍る都市伝説さんが少し羨ましくもあったんよ」
     うっとりと月を眺めながら、璃乃は言った。

     舞台の端から眺める月は、静かに傾いていく。
     眺める昭子の所に、差し入れを持って優歌がやってきた。
    「サンドイッチに唐揚げ、スナック、それからウサギリンゴです」
    「美味しそうですね」
     クーラーボックス入りのサンドイッチも全部、ESPで美味しく保存してある。開始前にも配っていたのだが、みんな躍ったり見たりに夢中だったらしい。
     優歌もちょこんと横に座り、持ってきたサンドイッチに手を伸ばす。それじゃあこっちも、と静樹がお団子を出してきた。
    「サンドイッチだけじゃなくて、お月見にはお団子もセットですから」
     お手製のお団子は、昭子や優歌にも好評。
     戦いに加わって人達にも、と静樹が配って回るとクロムは既に何やら口にしている。首をかしげるクロムに差しだすと、差し向かいで座っていた錠が静樹にも杯を差しだした。
    「これも水杯ですか?」
    「いや、ラムネ」
     ビンで飲んでいたけど、クロムが杯に入れたらしい。
     差しだされ、静樹も座ってラムネを喉に流す。
    「月見つくね買ってきたんだけど、やっぱ団子の方がいいな」
    「え? 月見って丸い形だから団子食うんじゃねえの?」
     錠が笑うと、クロムは嬉しそうに団子を頬張った。終わった頃合いに来た錠であったが、皆の様子からすると楽しく終わったのだろうと察する。
    「俺は神仏に祈ったりってのは性に合わねぇが、神さんがどっかに居て観てるって発想は好きだぜ」
     そうだとすると、お前のタイプかもなと錠はクロムに笑って言った。
     丸いから団子…ふむ。
     団子をマジマジとみながら、クロムの声を燐音は横で聞いた。
    「あながち間違ってはいないだろう」
    「百合姉様?」
     ふと燐音が顔を上げて百合を見つめると、百合はふ、と笑った。
     やはり笑うのはいいが、何事にも適度が必要だと百合の微笑を見ながら燐音は思う。躍りたくなるような、そんな気持ちにならなくなもないかなと思いながら笑うのだ。

     どうやら今日は、貸し切りみたい。
     階段から下を見下ろしていたふわりが、咲結を振り返る。
     お月見の為に持ってきたほうじ茶はまだ温かく、やや冷たい秋の風には丁度良い。咲結がティータイムにと持ってきたお茶とお団子は、ふわりを笑顔にした。
    「こんな風にお月様を見るのは初めてです」
     楽しそうにしているふわりを見て、咲結もついほほえみが零れる。
     皆の様子を見まわし、朔夜は悠の傍に座る。
     皆で歌い踊るのも楽しいけど、こうしてゆったりと話しているのも楽しい。
    「月読ちゃんは楽しかったのかなぁ」
     月読は笑顔をもたらしたとして、彼女自身は笑顔を貰ったのだろうか。
     悠はほうじ茶を入れて差しだし、朔夜の言葉を考える。
    「月読という都市伝説に、ヒトが与えたもの…ですか」
     思案する悠の傍で、、朔夜のヴァイオリンが音色を奏でる。月読、キミだけに奏でる月夜のレクイエムを、と。
    「笑顔が見たいなら、楽しい曲にしてはどうですか?」
     御一つ、とお団子を差しだしながら悠が言うと、お団子を受け取った朔夜は、パクリと口にした。なるほど、それでは月に捧げる曲を。

    作者:立川司郎 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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