澄んだ夜空に中秋の名月

    作者:相原あきと

    ●魔人生徒会、お月見を企画する
     魔人生徒会とは謎の基準によって選出される謎の生徒会である。
     その権限は学園のイベントに影響を与えるほどであり、メンバーは学期ごとに入れ替わると言われている。
     そして事実、夏休みが終わって新しい学期が始まり、魔人生徒会のメンバーも人知れず新メンバーへと移行していた。
    「2013年の中秋の名月が何日だか知っていますか?」
     黒髪のロングヘアにごく普通の高校女子制服を着た新メンバーが発言する。
     9月19日だと誰かが言う。
     どこから見ても普通の生徒にしか見えないそのメンバーがコクリと頷くと続ける。
    「中秋の名月、せっかくの機会ですし『お月見』をしませんか?」
     お月見。
     それは9世紀ごろから日本の宮中で月見の宴として伝わる風習。
     この季節は空気が澄みはじめ、月の高度もちょうど良い。
    「お月様を見たり、月見だんごを食べたりしましょう。一人でも友人との参加も良いし、恋人との参加も有りです。もちろん、RB団で恋人達の邪魔をしたり、義勇軍でRB団と対決しても大丈夫。みんなで楽しみましょう」
     そうして、魔人生徒会の鶴の一声により、武蔵坂学園にてお月見が開催される事となったのだった。

    ●『お月見の誘い』
     日時:9月19日(木) 雨天中止。
     場所:武蔵坂学園屋上
        屋上の場所によって風情が違います。
     食事:魔人生徒会権限にて月見だんごは無料配布します。
        その他の料理・飲み物の持ち込みは自由。

     その1『東屋』
     屋上の半分側には、魔人生徒会の指示により突貫作業で「東屋」が建てられています。結構広いです。純日本風の風情で、縁側から見える名月は格別です。

     その2『自由』
     屋上のもう半分側は、ベンチやテーブルが持ち込まれている以外は普通の屋上です。持ち込みたい物があれば自由に持ち込んで下さって構いません。

     その3『校庭』
     普通のグラウンドです。
     なんか校庭が良いなって場合はこちらを使って下さっても構いません。


    「ふ~ん……お月見ねぇ。兎さんとか連れ込めないかな……」
     武蔵坂学園の掲示板に張られたその参加者募集のポスターを見て、学園の生徒が足を止める。
     中秋の名月まであと、数日。


    ■リプレイ

    ●観月の宴
     武蔵坂学園の屋上に造られた東屋の一角、兎の焼き模様がつけられたみたらし団子を囲んで楽しげなのは【13の魚】の面々だ。
    「この兎の団子、瑞樹センパイの手作りなんだよな」
     白・彰二(d00942)が驚きを声に出せば、声も出ず見惚れているのは獺津・樒深(d13154)。
    「ほら、シキミもしょーじも食べないと全部食べちゃうよ?」
     アストル・シュテラート(d08011)が幸せそうに頬張りつつ言えば。
    「食べ損ねは嫌だぞー!」
    「え、やだ食うし。何処だ俺の分」
     慌てて食べ始める。
     そんな皆の様子を見ながら穂村・瑞樹(d18610)が顔をほころばせ。
     ――また、作ろう。
     心の中で呟いた。
    「鮎飯とよもぎ団子、それとお茶、ボクにもくださいな」
     瑞樹の兎団子だけでなく、羽嶋・草灯(d00483)と彰二の姉が作ってきた鮎飯とよもぎ団子もまた人気だ。
     原・鈴蘭(d19083)はその2つを受け取ると、お茶をコクリと飲んでから。
    「心もお腹も満足! お月さまもキレイだし、最高に幸せなんだよ!」
     そんな仲間達の様子に、浴衣に狐のお面を付けた草灯が。
    「……花より団子の方が多かったみたいね」
     と笑みを浮かべる。
     やがて橘花・透(d10853)が皆で写真をと誘う。
    「月を見るたびに思い出せるように」
     彰二は笑顔でピース、樒深はひょいと団子をくわえ、瑞樹は恥ずかしげに、鈴蘭はにぱぱーと、そして草灯は誰かさんに悪戯を……。
     その1枚を見るたび彼らはきっと思い出す。
     お団子の美味しさ、見上げた月の美しさ、そして……皆の笑顔を。
     東屋のテーブルには蓮と紫苑が活けられ、さつま芋のオレンジ煮、里芋の衣かつぎ、いも餅、カボチャ餅、カステラに兎りんご、様々な料理を持ち寄ったのは【料理研究同好会】の4人。
    「さすが太治くん、プロの味よね」
    「サツマイモはオレンジで煮てあるのー?」
    「柑橘なら何でも使えるが……発色はオレンジが一番だと思う」
     水沢・安寿(d10207)と波織・志歩乃(d05812)に太治・陽己(d09343)が答える。
     やがて食事も一段落。
    「ふぅ、凄く良い気持ち!」
     オリヴィエ・オーギュスト(d20011)が満腹になりつつ月を見上げ、 他の皆も空を仰ぐ。
    「まんまるお月さま」
    「こんな風情のあるステキなことも、あるもんだねー」
    「……おい、オーギュスト?」
     見ればハリセン片手に駆けていこうとするオリヴィエ……まぁ、食後の運動もあり……かな?
     縁側に腰掛けるのは【桜堤中2C】の3人。
     置かれたたくさんのお菓子を、お菓子スナイパー・ギュスターヴ・ベルトラン(d13153)が嬉しそうにパクパク。
    「ウサギのおまんじゅう? カワイイってこういうのを言うんだよね。ニホンのおかしすごい!」
    「ギュスターヴ君はちょっと落ち着こう……」
     月村・アヅマ(d13869)が言いつつふと桜井・夕月(d13800)を見れば、夕月はサイダーを飲みつつ夜空の月に見ほれていた。
    「桜井さん?」
    「あ、ごめんなさい。月見酒みたいな事をやってみたくて」
    「ああ」
    「つきみざけ?」
     疑問の声に2人が微笑み答えた。
    「ヒャッハーッ!」
     まだRB団パートでは無いが、テンション高く叫ぶのは【三鷹北高3年4組】で参加しているゴンザレス・ヤマダ(d09354)だ。
     その横では弐之瀬・秋夜(d04609)が「リア充になれますように」と流れ星でも無いのにお祈りしている。本人曰く、気にしたら負け、らしい。
    「即席のぜんざいの出来上がりだよ!」
     月見を楽しむ皆に水城・恭太朗(d13442)が配る。
     恭太朗はこのクラスが楽しい、できれば冬も皆でどこかに……。
    「なぁ、今年も残り半分だけど、またみんなで遊びに行こう!」
     代弁するかのように越坂・夏海(d12717)が言い、そのまま4人で記念撮影。
     このクラスは楽しく、心地よく、大好きだ。
    「私は……良いに恵まれました」
     落ち着いた感謝を誰かが呟いたが、その声は屋上の秋風にまぎれるように……。
     【猪鹿蝶】の3人は眺めの良い縁側に陣取り。
    「今年の中秋の名月は珍しく満月らしいぞ」
    「つまり一番キレイってこと?」
     殿宮・千早(d00895)にオデット・ロレーヌ(d02232)が嬉しそうにはしゃぐ。
     確かに今年の月はまんまるで白く煌々と輝いている。
     縁側の上には姫乃井・茶子(d02673)の用意したワールドワイドなお茶菓子達。
     たわいのない会話に、ふと先日潜り抜けた死線が幻のように感じ、千早が一首詠えば、オデットと茶子も同じく一首。
     全部は無理なので一つだけ。
    『東屋で桂の月を眺む友顔に銀波の寄せては返す』
     茶碗の水面に月が浮かぶ。
     東屋で雅なお月見……それを実践しているのは【仮眠部】の4人だ。
     キング・ミゼリア(d14144)などお殿様の格好だ、超雅!
     いつものバケツをかぶったヴァーリ・シトゥルス(d04731)はともかく、獅堂・凛月(d00938)も今日は夜空柄の浴衣姿。
    「普段の月と変わらないと思うけど、皆で観るのは良いもんだよねぇ」
     兎の団扇で仰ぎつつ凛月が言うも。
    「つっても月見っつったらダンゴだろ?」
     ばくばく食いまくる辻堂・ケイジ(d17641)に思わず苦笑。
     ケイジが「だろ?」と烏を見ると、烏は他のサーヴァント達と無言で月見会中のようだった。
    「む! 一句浮かんだわよッ!」
     キングがさらさらと短冊に。
    『月明かりアタシの美にはかなわない』
     その短冊を、他のメンバーがのぞき込もうとし……。
     さて、今回のお月見は多人数やペア参加もいれば、もちろんお一人様もいる。
     ラシェリール・ハプスリンゲン(d09458)は「1人でゆっくりしたかっただけよ、別に寂しくないんだからな!」と呟くも周囲の空気はラブラブで……。
     とりあえず、他の1人参加に月餅でも配ろう……かな?
     逆に1人だからこそ考え込むのは無常・拓馬(d10401)だ。
     昔の自分が大切にしていた心の強さと、今の自分が繋いだ絆は、どれ程の重みが違うのか。
     月はただ静かに拓馬を照らしていた。
     縁側に座る御風・七海(d17870)を、カミが心配そうに見上げるも彼女は無反応。
     人々はどこか遠く、目の前の光景は無声映画。
     隣にあの人がいないから……。
     七海は1人、月へと手を伸ばす。
     東屋で東当・悟(d00662)の煎れた抹茶を待若宮・想希(d01722)が静かに一口。
     素直においしいと誉めてくれる想先輩に、軽口で返す悟だがその頬は僅かに赤く染まっていた。
    「君と一緒にのんびり月を見て、好きな和菓子を食べて、抹茶を頂いて……こんなに幸せなことはありませんよね」
    「ほんま、ひと山越えたからこその贅沢な時間や」
     生きている事を実感しつつ、2人は自然に月を見上げた。
     月を見上げているのは桜田・紋次郎(d04712)と八握脛・篠介(d02820)も同じだった。
     サシは初めだったが、お茶と団子を食べればいつも通りに……。
    「なぁ篠介、こういう場には楽があっても良いんじゃねぇか? とはいえ楽器はねぇし……よし、なんぞ歌っちゃくれんか」
    「何ぼ何でも唐突じゃろうよ」
     呆れる篠介だが、珍しく人懐っこい笑顔を向ける紋次郎に、苦笑しつつも一曲口ずさむ。
     アスル・パハロ(d14841)に引っ張られるまま東屋へとやってきたのは十六夜・ミツル(d12554)だ。
     アスルは「ほわー」と東屋からの満月に感嘆の声をあげている。
     1人じゃない事がなんだか嬉しくて、思わず微笑むミツル。
     2人でお団子を食べ、満月について違いを語る。
    「ミツル! 見えた、ウサギさん!」
     頭に手で耳を作り喜ぶアスルに、ミツルは再び笑顔になるのだった。
     畳に障子、縁側に月見団子と薄、後ろに名月。
     綺麗だねぇと呟くは稲荷坂・里月(d13837)、横に座る細音・氷雨(d13838)も頷く。
     と、氷雨が「作ってきたのですが」と取り出すは、栗団子に鬼饅頭、栗金団にスイートポテト、冷抹茶汁粉に梅昆布茶。
    「あ、美味しい」
     食べてくれた里月の言葉に、ホッとする氷雨。
     白い満月は煌々と、時間がゆっくりと進んでいるようだった。
    「月でウサギさんがお餅をついてるのに、きりん達はお団子なんだね」
     呟く天瀬・麒麟(d14035)に椎宮・司(d13919)がきょとんとし。
    「……言われてみればそうだね。気づかなかった」
     すごいね、と誉められ、麒麟は少しびっくり。
     ふわほわな2人。
     やがて並んで寝そべり月を見る。
     もっときりんさんと遊びたいな……。
     司の口に出せないその想いを、お月様だけが知っていた。
    「もうお月見の季節だなんて、時間が経つのは早いわね」
     月を見つつミルラ・ミネルヴァ(d00889)が呟き、横のロイド・テスタメント(d09213)も同意する。
     ふとロイドが視線を感じてミルラを見ると。
    「今日は特別なものになりそうだわ」
    「私も、今日は特別な日になりそうです」
     一緒に来てくれてありがとう――続く言葉は2人揃って同じもの。
     優しく微笑み2人は再び月を観る。
    「膝枕したげよっか?」
     足をぽんぽんとして黒瀬・夏樹(d00334)を誘うのは八絡・リコ(d02738)、とても良い笑顔だった。
    「(この笑顔の時は……素直に従うのが身のためな……)」
     なすがまま頭を乗せる、その姿勢で話し続け……。
     ふと、夏樹の髪にリコが手櫛を入れてみる。
    「ああ、その、そろそろ交代しましょうか?」
     思わず起きあがる夏樹に、楽しそうに交代するリコであった。
     冷茶に冷やし白玉ぜんざい、自家製アイス、さらに膝掛けまで準備万端なのは無月・蒼衣(d00614)だ。
     蒼衣に誘われたセリル・メルトース(d00671)はすぐ横で月を観ている。
    「(綺麗だ……)」
     との言葉を飲み込む蒼衣。
     一方、セリルは。
    「(細やかな心遣いも有る。オマケにイケメンと来た。女子は放っておかないんだろうねぇ)」
     などと心の中で何度も頷いているのだった……。
     月を観ながら話をするのは夜舞・リノ(d00835)と志賀神・磯良(d05091)の2人。
     会話が途切れたタイミングで、リノが意を決したように口を開く。
    「今日は楽しかったやんね、ありがとなの! い、磯良さん!」
     恋人だから名前で呼びたい、そう思いつつ、今まで呼んだことがなかった……嫌な顔されたら。
     だが、磯良は優しく微笑み、リノは胸が締め付けられるように幸せに満たされるのを感じるのだった。

     屋上でお月見をする者もいれば、校庭でそれぞれが好き勝手に楽しむ者達もいる。
     そんな賑やかな皆を見て、ほんわり幸せな気分に浸っているのはルエニ・コトハ(d21182)だ。
     故郷では1人で星や月を見ていた……。
     ふと、今日のお月様は暖かい、そう思うルエニだった。
     月と雲柄の薄紫の着物を着た茅薙・優衣(d01930)が、佐々・名草(d01385)にホットの麦茶を渡す。
    「月が綺麗だね」
     そう呟いた名草が横を見れば、月に照らされ幻想的な――。
    「……優衣ちゃんと見ているから、かな」
     言ってしまってから顔が熱くなる。
     だが、そんな名草にそっと寄り添い。
    「いつも美味しそうに食べてくれるあなたが好きです、よ」
     さらに赤くなる名草だった。
     1人静かに月を楽しむ者もいる。
     花澄・陽芽香(d19768)もそんな1人だ。
     こんなに月が綺麗だと昔のことを思いだしそうになる……。
     かぶりを振って意識を戻す、その為にここに来たのだ、と。
    「なんで冷たいの買ってくるかな!」
     冷たい缶コーヒーを渡され怒る氷咲・六花(d18091)に、氷咲・十夜(d18090)が飲み途中のホット緑茶を見せる。
    「なんで自分だけホット買ってんだよぉぉっ!」
     間接キスになるけど容赦無く奪う。
     一通り騒ぎ終わり2人でタンデムシートに座って空を。
    「良い夜だよな」
    「んだね」
     十夜に寄り添い、やっぱり好きなんだなぁ、と再確認する六花であった。
     校庭にシートを敷いてお月見をするのは【がれ庭】の5人だ。
    「……小さい時は月を眺めるとかしたこと……いや、する暇が無かったな」
     煌々と輝く月を見ながら黄昏るのは無銘・夜ト(d14675)。
     実は大食いの夜トが黄昏ている間に、団子やサンドイッチをもしゃもしゃ食べているのは神堂・律(d09731)だ。やがて気づいた夜トも食べ始め……。
    「2人とも全部食べちゃったりしないで下さいよ?」
     ディートリヒ・エッカルト(d07559)に釘を刺される。
     お月見団子に月餅にサンドイッチ、どれも水瀬・ゆま(d09774)の手作りだ。
    「きっと良いお嫁さんになれるな」
     と夜トが言えば。
    「こんなヤツ嫁にしたら一生後悔しますって」
     律がちゃかす。
     ともに来ていた森沢・心太(d10363)が、ふと皆から離れる。
     月を背景に友達を見る。これもまた風流……そう思わなくも無いが、何かが足りない。
    「……今度はあの馬鹿も連れてくるさ」
     律の言葉は静かだが、誰もがしっかりと聞き取ることができた。
     彼もどこかの空の下、この月を見ているのだろうか……。

     屋上でのお月見はフリースペースも確保されていた。
    「こちらですよ~♪」
     水色の浴衣を着た星野・えりな(d02158)が手を振り、同じく場所取りをしていた椎那・紗里亜(d02051)がお茶の用意を始める。ちなみに紗里亜は藍地に薄柄の浴衣だ。
    「お月見~♪ うれしいな~♪」
     白地にピンクの兎柄の浴衣の榊・くるみ(d02009)が持ってきたタッパーを開ければ、一口サイズの月見団子が……あれ? でもこの量で皆足りるの?
    「ふふん、抜かりはないで~」
     ドシンとクーラーボックスを置き、そこから団子やらわらび餅やらと取り出すのは藍色の浴衣を着た蕨田・優希(d20998)、どんどん豪華になるテーブルを見ながら黒地に桜柄の浴衣の西園寺・奏(d06871)が。
    「うわぁ、おいしそう。僕も何か作ってくればよかった……」
     並べるぐらいは手伝うよ、と。
     そして始まる【星空芸能館】のお月見会。
     そんな中、ファルケ・リフライヤ(d03954)は黒い盆に水を張って……。
     それは? と聞くと、昔は水面に映った月を楽しむのが風情があると言われていたと説明するフォルケ。
    「あ、お月様にお願いごとをしませんか?」
     えりなの一言で、思い思いの願い事をするメンバー達。
     けれど、皆の願いは――。
    「私のお願いは……来年も皆と一緒に、です♪」
     えりなの言葉に皆が顔を見合わせ、一斉に笑うのだった。
     屋上遊具のようにライドキャリバーに乗り団子を食べていた錦織・仁來(d00487)は、鈴懸・珠希(dn0064)に声をかける。
    「勉強ばっかしとるとな、つむじが増えるぞー」
     冗談で言ったのだが、確認して欲しいと言う珠希。
    「1個か……やっぱり勉強が足りないのね」
     落ち込む珠希に慌てる仁來。
    「良かったらぴー助枕無料貸し出しするけどどう?」
     ハスキーの霊犬ぴー助を伴いやってきた江東・桜子(d01901)の言葉に、珠希は頬を紅潮させ元気になる。
     流れで仁來&一輪も一緒にござの上でお月見に。
    「ぬいぐるみ……ありがとう、ね」
     桜子が見ればぴー助をもふりつつ珠希が言ったっぽい。
     素直でない少女の背に笑いかけ。
    「やっぱり誰かと一緒だと楽しいし美味しいものなのです☆」
     桜子の言葉に皆が微笑み月を見上げた。
    「満月か……初めて闇堕ちした時も、こんな夜だった気がする」
     呟く枝折・優夜(d04100)に、共に来ていた梓奥武・風花(d02697)は何も言わずに緑茶を渡す。
    「……でも、綺麗な月ですよ?」
     優しく言えば、優夜も頷く。
     今ここにいられる事も不思議だけど、それでも……。
    「今は、楽しいと思う、思えてる」
    「私も、そう思います」
     静かな時間はゆっくりと。2人は月見を楽しむのだった。
    「お月サンとキョーコの瞳に乾杯みたいな!」
     そう言った月島・立夏(d05735)が望崎・今日子(d00051)とコップで乾杯する。
     2人でのお月見デート。
     いい雰囲気が出てきたところで立夏が。
    「キョーコにはこれダァ!」
     取り出したるはウサ耳ヘアバンド。
    「わぁ、元気一杯だからリツに似合いそうだね」
     笑顔でマジボケする今日子。
     なんというか……楽しそうだなぁオイッ!
     楽しむ皆を見ながら、1人緑茶のアイリス・アレイオン(d18724)。
     1人で見ていた頃とは違う。
    「中秋の名月に乾杯……なんてね」
     昔と比べ月が優しくなった、そんな気がするアイリスだった。
     お茶と団子を食べながらのんびり月を観るは花月・鏡(d00323)と本条・亜僉(d18256)。
    「……のんびりするのは嫌いじゃないわ」
     亜僉の言葉に嬉しそうな鏡。
     鏡の上着に入り込み、寄り添い月を眺めていると心地良い睡魔が亜僉を襲う。
     やがて亜僉の頭が下がっていき鏡の膝に。
     眠ってしまった亜僉に帰りは背負って帰ろうと決意する鏡。
     けれど、今はもう少しだけ……。
     汐崎・和泉(d09685)は気づいてしまった。
     自分の髪を誉める桜塚・貴明(d10681)が、どこか寂しそうな表情を浮かべたのを。
    「だから……なんだよな」
     自嘲気味に言葉を吐く。
    「何が?」
     和泉の問いに僅かに貴明は微笑み。
    「去年までは月は独りで見るもので、誰かと見るなんて考えてもいなかった……」
    「……一緒にいるンだよな」
    「……ああ」
     男2人、それ以上、言葉はいらなかった。
     綿貫・砌(d13758)とアルベルティーヌ・ジュエキュベヴェル(d08003)は喧噪から離れた一角で、砌のお弁当を食べていた。
    「お母さんが手伝ってくれたんだ」
     母と仲良く作ったお弁当を2人で食べ、今度は静かに月を見る。
     ふと、アルベルティーヌが視線を感じて振り向けば、こちらを見つめる砌がいて。
    「あ、いや、その……えっと、つ、月が綺麗ですねっ!?」
     ――まだまだ淡い恋もある。
     初々しさならこちらにも……アルヴァレス・シュヴァイツァー(d02160)とユエファ・レィ(d02758)は、拳2個程空いた距離でベンチに座り、2人で作ってきたお弁当を広げながら月を観る。
    「こんな景色をずっと……その、来年も……見ていきたいですね」
    「できれば来年よりも……」
     恥ずかしさは声にならないけれど、お互いの気持ちが伝わっている……そんな気がした月下の夜。
    「お誘いありがとう……もしかして『答え』が見つかったの?」
     浦波・梗香(d00839)が屋上の片隅で待っていたアイン・コルチェット(d15607)に声をかける。
     振り返ったアインはどこか吹っ切ったような表情で――。
    「今までオレは孤独だった。笑顔も何もかも、失くしたと思っていた」
     黙って聞く梗香。
    「だが、お前といると、なんだか安心できる……お前は迷惑かもしれんが……」
     言葉に詰まり躊躇うアイン。
    「遠慮は無しだよ。私はなんでも受け止めるから、だから……言って、アイン」
     その言葉にアインは――。
    「梗香……好きだ」
     月に照らされた梗香の笑顔はこれ以上無く。
     物言わぬ月だけが、粛々と2人のこれからを祝福していた。

    ●RBの宴
     東屋の屋上で周囲のリア充を睥睨するはディーン・ブラフォード(d03180)。
    「良い……月夜だからな」
     立ち上がるディーンの横に夏炉崎・六玖(d05666)が並び、2人して頷くと突撃を開始する。
     だが視線の端には義勇軍の姿。
     スイッチを取り出すディーン。
     六玖も頷き。
    「RB団万歳ィ! あはははははは!」
     ドカーンッ!
     いろいろ巻き込み大爆発。
     かくしてカオスの幕が開ける。
     椅子に拘束されたリア充・ジョニー&リンダに、いろいろ上手いこと言いつつ鍵穴を溶接したシルビア・ブギ(d00201)。
     薄二刀流で腋と顔をくすぐるアイスバーン・サマータイム(d11770)。
     そしてカップルの頭と膝に兎を。
    「ふっふっふ……これで身じろぎすら――ああ、兎ちゃん、逃げちゃダメですの!?」
     兎追う鮎宮・夜鈴(d04235)。
     ちなみに横で餅をつく全身黒タイツに満月の被り物男(素破・隼(d04291)です)が何か言ってるが、異様だったので無視するジョニー&リンダ。
     と。
     ガシャン。
     見れば溶接機に杵が打ち込まれパチパチと爆発の準備を開始していた。
    「逃げられてしまいましたわ」
     戻ってくる夜鈴。
    「ぁ゛」
     チュドーンッ!
     秋空に飛ぶ満月男と夜鈴。
     燃えながら走り回るアイスバーン。
     そして……。
    「いつもこんなのばっかりじゃー……じゃぁー……ぁぁー……」
     飛んでいく【ちょーほー部】達を眺めながら、彼女達を狙っていた義勇軍の時雨・翔(d20588)は唸る。
    「RB団も侮れないね……まさか自滅とは」
     どうやら翔の出番はまだ先のようだ。
     仲間割れを狙い、助けたRB団の手を引き逃げるは風輪・優歌(d20897)。
     問題は――。
    「この出会いは運命さ!」
     モブRB団の心を本気にさせてしまった事だろうか。
     本当、どうしよう……。
     もっと直接的にRB団を狩るのは熊谷・翔也(d16435)。
    「爆発させることができるのは、燃やされる覚悟のある奴だけだ」
     と、バンバン蹴散らしていく。
     なんだこのウサミミ執事!
     ところで、観月の宴パートが静かだったのはなぜか……それは紅羽・流希(d10975)にある。
     サウンドシャッターを乱発する流希。
     だが、次々と発生する戦場に彼の苦労は最後まで続く。
    「ニホンのお月見は楽しいなぁ、いつものRB団も見てて楽しいしねっ!」
     東屋の縁側で足をぶらぶらさせつつアッシュ・マーベラス(d00157)が笑う。
     ちなみに明らかに日本を勘違います。誰か早く教えてあげようよ。
    「たまには、息抜きも良いと思いませんか?」
     流れ玉を払いつつ、誘った珠希に火土金水・明(d16095)が言う。
    「うん、魔人生徒会の人は感謝ね」
     そう珠希も同意し、2人して月を眺めるのだった。
    「恨みは無いけど人間サウンドバックが可能なら遠慮しないわ」
     ドフッ、バギッ!
     気分良さげにRB団を倒し、去っていくのは叢雲・秋沙(d03580)。
     その後、倒されていたRB団、風真・和弥(d03497)が目を開ける。
    「ひ、酷い目に遭った……」
     そんなボロ雑巾の和弥に、慌てて駆け寄るは若生・めぐみ(d01426)。
    「その、めぐみでは、癒す事はほとんど出来ないかもしれないですけど……」
     殺気が高まる。
    「今夜は……めぐみが一緒にいます。だから、お月見、しませんか?」
     ドッカーン!
     周囲のRB団達により和弥は夜空へ。
     最後に見えたのは。
    「ああ……月が綺麗……だな……」
     一方、校庭。
     ライドキャリバーに乗ったフィン・アクロイド(d11443)が、リア充を轢き轢き逃げていると。
    「君には何の恨みも無いが……」
     立ち塞がるは義勇軍、鈴鹿・美琴(d20948)。
     目の前の相手は自爆戦法を確立させた有名RB団の1人、相手にとって不足は無い。
    「覚悟」
     美琴に対しフィンはにっこり微笑むと……ドーンっ!
     躊躇無く自爆したのだった。
     煙が晴れ目覚めたフィンの前にチェーンソーを持つレイス・クラリス(d18446)が立つ。
    「爆発して終わりだと思っていたのか?」
    「さぁな……だが、相手が悪かった」
     ドカーンッ!
     再度自爆するフィンであった。
     孤軍奮闘するのはフィンだけではない。
    「吸血鬼の力、とくと見なさい!」
     天倉・瑠璃(d18032)だ。
     多種多様な文具系刃物をリア充に投げつける。
     と、そこにフィンを回収した若生・若(d20457)が駆けつけ「一度本部へ」と。
     RB団本部、それはある人物によって校庭に作られた仮設テントだ。
    「指示通り爆弾を設置してきたのだよ」
     本部にいたのはRB団の凄い書記――。
    「軍師です」
     丹下・小次郎(神15614)だった。
    「か、囲まれてるっすよ!?」
     本部に駆け込んで来たのはアナスタシア・ミルキーウェイ(d18556)と、彼女に助けられたRB団同志・富山・良太(d18057)だ。
    「(おかしいなぁ、月を見にきたのに星しか見えないよ……)」
     一方、本部の外ではモブ義勇軍と数名が、激戦を繰り広げており。
     そんな中。
    「まさか3回続けて最後が爆発オチとかないよねー!」
     叫んでいるのは竹尾・登(d13258)だ。
    「それよりこっちを手伝って下さい」
     身の丈平方メートルはある何か装甲のようなモノを持った秋山・清美(d15451)に言われ、清美と共にソレを持って本部へ突撃を行う2人。
     そして……本部内で相対するRB団と義勇軍。
    「RB団に連携は不要。しかし、個々人の目標が解っているなら陽動ぐらいは可能です」
    「それはどういう……」
     小次郎が扇子を閉じると同時、若が周囲に仕掛けた爆弾を爆発させ、本部ごと義勇軍の大半を炎の檻に閉じこめる。
    「さぁ、同志達よ。今のうちに」

     校庭で大きな爆発が起こる中、虎ロープで縛り上げたRB団を屋上から吊した神乃夜・柚羽(d13017)が、横で同じくRB団にガトリングガンを撃ち放っている病葉・眠兎(d03104)に声をかける。
    「いつの間にか他の義勇軍の方々がいないのですが……」
    「そう言えばさっき、本部がどうのとか言っていた気がします」

     そして――。
     屋上へ続く階段をその集団は一気に駆け上がる。
     バンッ!
     屋上の扉を開けると。
    「こんばんは、ネームドのみなさん」
     銃沢・翼冷(d10746)、串団子を食べつつ手には爆弾。
    「無差別……ね、今回だけは邪魔させてもらうよ」
     ひょいと現れたのは柿崎・法子(d17465)。
    「まぁ、『いつものこと』だからね……じゃあ、後は任せたよ」
     法子が爆弾を取り出し突っ込むと同時、RB団達が駆け抜ける。
     背後で爆発音が轟くが、振り返る者はいない。
     次に立ち塞がるはツンツン黒毛とチャラ男っぽい2人組。
    「やはり来やがったかRB団!」
    「ミハイルさんの結婚式を邪魔するなら、オレ達を倒してから行くんやなっ!」
     高坂・月影(d06525)が拳を構え、府頼・奏(d18626)は月見団子を指の間々にはめていた。
     見るからに強敵風の2人に、RB団の騎士長が前に出ようとするが。
    「ここは私が……」
     三角頭巾のサバト服、言わずと知れたRB団は霈町・刑一(d02621)が前に出る。
     圧倒的な嫉妬の炎。
    「やるじゃねぇか」
     月影が不敵に笑う。
    「師匠、私も一緒に戦うのです」
     弟子の紫宮・樹里(d15377)も刑一に並ぶ。
     この人に任せれば……RB団達は一様に頷くと、騎士を先頭に先へ進む。
     ちなみに……4人の戦いは偽装月見団子(トリモチ)と激辛カラシ月見団子が乱れ飛び、超カオスになった事を明言しておきます。
     見えてくる目的地、屋上の一角に教会風の十字架が見える。
    「こんないい夜にRBとか、月の兎にぺったんされてもしらないよ~」
     スチャっと現れるは安藤・小夏(d16456)とその霊犬のヨシダ。
    「ここは拙者の番でござるな」
     クルリと回転しつつ小夏の前にハリー・クリントン(d18314)が降り。
     バンッと団子型爆弾を投げつけ一気に煙と白い粉がまき散らされ。
     RB団達はその隙に走り抜けるも、後ろからハリーの悲鳴が響く。
    「人の恋路に手を出す奴は、犬に噛まれてフォーク刺されるってね!」
     ……そういうことらしい。
     だが、式を守ろうとする者達の層は厚い。
     次に立ちはだかるは十文字・天牙(d15383)と片囃・ひかる(d16482)。なんか良い雰囲気的にアイコンタクトとかしている。
    「こちとらキャッキャウフフ描写がある度に悔しい思いをしてきたんだ!」
     なんか我慢が限界に来たように飛び出すはRB団榊・セツト(d18818)、さらにモブRB団達もこの2人には何かピンと来たのか、一斉に襲いかかる。
    「月見に来たんだろうが……太陽を見せてやるぜ!」
     月をバックにして炎を纏った轟炎ご当地キックがセツトに炸裂し、さらにモブRB団達も、RB制圧用にひかるが準備していたトラウナックル的ハリセンにより次々に撃沈して行く。
     だが、だが!
     仲間の犠牲は無駄ではない。
     その隙に1人のRB団が突破し式場へと乱入する。
     そこはベンチを教会風に並べ、中央正面に一段高い台座をもうけた簡易的な教会だった。
    「RB団近衛騎士団長、ナイト=リッター! 今こそ正義の鉄槌を下してくれる!」
     皆の期待と嫉妬を背負ってたどり着いた最後の男、ナイト・リッター(d00899)。
     ナイトはそう宣言すると、荷物から七輪と炭と大量のサンマを取り出し、内輪を装備して炭に火を――。
    「そこは勢いでやるべきでしょう!」
     思わずつっこみつつエリ・セブンスター(d10366)がナイトの腰をホールドすると、そのまま投げっぱなしジャーマンをプレゼント。
    「くっ、冷凍秋刀魚ブーメランにすれば良かったか!」
     悔しがりつつ、そのまま屋上から投げっぱなされ外へ消えていくナイト。
     そして――。

     ベンチには2人を祝福しようと集まったメンバーが座る。
     ゴーンゴーンゴーン。
     台上で待つミハイル・オルダノフ(d00534)の元へ、月の光に照らされたヴァージンロードをウェディングドレスを着た東郷・香澄(d00028)がゆっくり近づいていく。
     それは2人で決めた簡易結婚式。
     粛々と進む式は、月光の下、幻想的に進んでいく。
     やがて、式は誓いのキスへ――。
     煌々と輝く月の下、2人の影が1つになり盛大な拍手が。
    「私、今日という日を迎えることができて嬉しいです」
    「ああ、俺もだ」
     立会人のお月様が、2人の未来を照らすように、白く優しく輝いていた。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月27日
    難度:簡単
    参加:124人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 18/キャラが大事にされていた 15
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