濡れそぼった狂犬、いくら足掻けど狼にはなれぬ

    作者:なかなお

    ●小さき者、弱き者
     雨が降っている。
     しとしと、ぽたぽた。しとしと、ぽたぽた。
     決して弱い雨ではないのに、降り注ぐ音が静かなことが不思議だった。
     水を吸った体は重たくて、肌に張り付く服は気持ち悪い。でも、それでも。
    「なんで……消えてくれないんだよ……!」
     クラスメイトを、ファーザーを、おれの存在を焼いていく、この紅蓮の炎は――

    ●強くあろうと願う者
    「イフリートに堕ちかけている、山波・つづりの相手を頼みたい」
     集まった灼滅者達に、周東・晴(中学生エクスブレイン・dn0130)はどこか哀しげな声音で切り出した。
     机の上に地図やら写真やらを並べ、一人の男の子が映った写真を指し示す。
    「それがつづりじゃ。見ての通りちょいと派手な子なんじゃが、地元教会の熱心な信者でもある。そのギャップとでも言うのか……それが、クラスメイトにはおかしかったらしくてのう」
     両親が共働きのつづりにとっては教会が第二の家で、神父はもう一人の親だった。それを執拗にからかわれて、それでも最初のうちは、笑って受け流していたのだ。
     あるいは、それこそが間違いだったのか。
    「もちろん、故意にではない。じゃが、つづりの中に積もった闇がイフリートの力を呼び、その炎がクラスメイトの一人を焼いてしまった」
     幸いクラスメイトが命を落とすことはなかったが、その左肩から背にかけて、ひどい火傷を負ったという。そして、つづりの炎はそれだけでは納まらなかった。
    「動転したつづりは、教会に逃げ込んだ。そして、なんとか宥めようとした神父の右手も焼いてしまったのじゃ」
     そして、つづりは心を閉ざした。今は神父が匿っていると言うが、それも長くはもたないだろう。
     そこまで告げると、晴は一度目を伏せた。
    「つづりはファイアブラッドの力をめちゃくちゃに使う。灼滅者になる可能性もあるじゃろうが――はっきり言って、かなり難しいじゃろうな」
     第一に、イフリートに堕ちかけているつづりの理性は、それこそ雀の涙ほどしか残っていない。防御のみで声を掛け続けたとして、それでも声が届くかどうかは怪しいところだ。
     第二に、つづりは自分が傷つけた二人から、それぞれ憎悪と赦しを向けられていることに気付いている。そしてその両方が、つづりにとっては辛いのだ。
    「クラスメイトには許してほしいじゃろうし、神父には恨んでほしいじゃろう」
     ――人間ゆえに傲慢で、人間らしく我儘に。
    「じゃが、その二つはどちらも叶わない。ならどんな言葉を掛ければいいのか――わしにはまるで分からんのじゃ」
     じゃから、と晴は言う。寂しげに、はっきりと。
    「あるいは説得をなしに、灼滅することも一つの手じゃ。その方が、危険もずっと低くなる」
     しん、と室内が静まり返った。
     僅かな間をおいて、尚も晴の話は続く。
    「どちらにせよ、今のつづりは神父が匿っておるからの。おぬしらはまずこの教会に行き、神父を説得せねばならん。そして裏の空き地に入ったら――その後の判断は、おぬしらに任せよう」
     どんな選択をしようと、そこに『想い』があったのなら、間違いではないはずだから。
    「おぬしらが無事に帰ってくるのを待っておるぞ」


    参加者
    斑目・立夏(双頭の烏・d01190)
    マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)
    華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)
    月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)
    ヘキサ・ティリテス(カラミティラビット・d12401)
    千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)
    永舘・紅鳥(焔黒刻刃・d14388)
    久次来・奏(凰焔の光・d15485)

    ■リプレイ

    ●一緒に、雨に濡れに来たの
    「おや……どうか、したのかな?」
     しんと静まり返った教会内に、静かな雨音が舞い込む。
     突然の来訪者も穏やかな微笑みで迎え入れた神父は、しかし歳も性別も統一性のないその一行をどう認識すればいいのか、少々戸惑っているようだった。
     行き成りすまぬのう、と久次来・奏(凰焔の光・d15485)が前に出る。
    「己れ達は特別な加護を受けておっての。つづりの事を知らせてくれた者がおる」
     つづり、という一言に、柔らかかった神父の目がす、と細められた。
    「武蔵坂学園――それが、私達の通う学校の名前です」
     相手の真意を探ろうとする強張った瞳を、華槻・灯倭(紡ぎ・d06983)が真っ直ぐに見返して言う。
    「学園には、つづりくんと同じような思いをした人が沢山います。つづりくんのような子を見つける事もできる……つづりくんに、会わせてもらえませんか」
    「俺らはその奥にいる少年と、同じ力を持ってるんだ。できれば、この場は俺らに任せて欲しい」
     きゅっと眉を寄せる灯倭に、真摯な声音を重ねる永舘・紅鳥(焔黒刻刃・d14388)。
     神父は言葉を選ぶように、ゆっくりと口を開いた。
    「つづりのような子、とはどういう意味かな。同じ力、とは?」
     その問いには、奏と月夜・玲(過去は投げ捨てるもの・d12030)が身を以て応えた。
    「……つづりと己れは同類、での。見ておれ」
    「っ何を――!」
     言うや否や自らの腕にナイフを押し当て、爪を立てた二人に、神父が引きつった悲鳴を上げる。
     だが神父がそれ以上を叫ぶより早く、血を零すはずの二人の傷口は周囲を照らしだす灯火へと変わった。
    「…………そ、れは」
     空気の流れに揺らめく炎に、神父が掠れた声を零す。
    「つづりは、ただ待ってるだけじゃ、助からない」
     飾り気のないマリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)の言葉に、神父の体が目に見えて分かるほどにびくりと震えた。
    「でも、ソイツにはまだ希望がある。その力を制御して堂々と生きられンだ! 頼む、つづりに会わせてくれよォ!」
    「神父様お願い……つづりお兄さんに会わせて下さい……。私たちはお兄さんを助けたい、元に戻ってほしいだけなの……」
     必死に言い募って一歩前へと踏み出すヘキサ・ティリテス(カラミティラビット・d12401)に、千歳・ヨギリ(宵待草・d14223)もぐっと小さな両の手を握りしめて訴える。
     この子達の言葉に嘘はない。それは分かる。だが、真実であればいいという問題でもない。
    「君達の言う『希望』――『助ける』、とは、つまりつづりに何をするということかな?」
     平淡な口調は、それまでで一番張り詰めたものだった。
    「彼の者を覆う闇を振り払うのじゃ。其の為に、少し荒っぽい事になるやもしれぬ。だが、己れ達はつづりを、救いたい。その気持ちに嘘はあらぬ」
    「どうなるかは分からないけど、やれるだけはやるから案内してくれない?」
     つづりと同じ、炎を宿す奏と玲の言葉。
    「わいもなった事あるさかい、辛いん解るねん。せやから出来るなら助けたいんや。わいらに任せてくれへんか……?」
     同じ思いをしたのだと、柔らかにさえ聞こえる声音で告げる斑目・立夏(双頭の烏・d01190)の声。
    「今、必要なの、赦しじゃない。赦せる貴方じゃ、つづりを、救えない。……信じて。私は、つづりを助けに来た」
     まるで正しいマリアの言葉すら跳ね除けてこの子達を退けたとして、一体自分に何ができると言うのだろう。
     ――願わくは、雨の中に佇むあの子が、これ以上傷つくことのないように。
     神父は、静かに頭を下げた。

    ●まだ、君の眸が見えるうちは
     キィ、と小さく鳴いた柵が、来客を告げる。
     荒涼とした空き地の中心で雨降る天を仰いでいた山波・つづりは、ゆっくりと音のした方を振り返った。
    「……、……ざー……」
     ファーザー。なんでいるんだよ。ちがう。ちがう匂いがする。誰だよ、それ。
     常ならば琥珀色に輝くつづりの目が、今は紅蓮の炎に包まれて赤く染まっている。左目はかろうじて琥珀色を覗かせてはいるが、今にも炎に呑まれてしまいそうだった。
    「つづり……」
     苦しげに名前を呼んで歩み寄ろうとする神父の体を、奏がそっと遮る。黙って頭を振れば、ぐっと唇を噛みしめながらも神父は大人しく身を翻した。
     戦闘に、つづりの炎に巻き込まれないように、自分の身を守る。それが、今唯一自分にできることなのだ。
    「風邪、ひくよ」
     落ち着いた声色で、マリアがつづりに向けてタオルを差し出す。
     ただぼんやりとその光景を眺めていたつづりは、しかしマリアが静かに一歩踏み出すと、すぐさま体ごと向き直って威嚇するような唸り声を上げた。
    「ふぅうう、ウウウウウ」
    「つづり、聴こえとるか」
    「ウウウウ!」
     タオルを渡すことを諦めたマリアに代わって呼びかける立夏の声にも、つづりは一歩後ずさって唸り声を返す。
     ここで緊張状態に陥るのなら、まだ良かったのだ。
     だが、つづりは一刻も早く他者を自分から遠ざけたがった。焼きたくないから、だから――遠ざける手段がまた炎であることも、考えられないまま。
    「ウウウ、ゥオオオオオオ!」
     天を裂くような咆哮と共に、紅蓮の炎が容赦なく灼滅者達へと放たれた。
     灯倭と霊犬・一惺が、それぞれヘキサと立夏の前に出てその炎を受ける。
    「我が前に爆炎を」
     解除コードを唱えた玲は燃え上がる炎を駆け抜け、つづりの目の前でガトリングガンを天高く放り投げた。空いた掌で雷を握りしめ、つづりの顎にアッパーを繰り出す。
    「つづり、聞いているのかね!!」
     そのまま突き上げた拳でガトリングガンをキャッチすると、ちょうど上体を仰け反らせたつづりが体勢を立て直したところだった。
    「あのさ、何ていうの? 難しく考え過ぎだと思うんだ。小学七年生の癖に、許して欲しいだの恨んで欲しいだの、面倒臭いったらないよ。もうちょっとアホで、気楽でいいんだよ」
    「ぅ、オオオオオオ!」
     突き付けられた銃口に、つづりは炎で形作られた腕を振り上げる。
     ――だって、だって今も聞こえるんだ。劈くような悲鳴が、苦しそうに零れた吐息が。
     玲に叩きつけられた炎を、マリアはすぐにオーラで弾き飛ばした。
    「大丈夫独りぼっちじゃない、よ」
     妖の槍・白薔薇を向け、ヨギリが優しく語りかける。
     怖くて苦しくて、誰かに助けてほしくて泣いている、闇の中で怯えるつづりに。ここにいるよ、と言うように。
    「神父さんや被害者への謝罪も、全部貴方一人が背負わないで……」
     槍の切っ先から撃ち出されたつららは炎の中でもその冷たさを失わず、つづりの頬をひやりと掠めた。
    「つづりの力はオレたちみてェに制御出来ンだ、絶望するコトなンて無ェ!」
     冷えた温度に一瞬動きを止めたつづりに、ヘキサの蹴りが叩き込まれる。
     ずざざざ、と大きく後ろに引きずられたつづりの両手が、ぺたりと地に着いた。その全身は殆ど炎に包まれ、外見は既に獣に近い。
     それでも、まだ琥珀色に煌めく左目が、残っている。
    「てめぇが大切な人を傷付けちまった悲しみはあるだろう。だがよ、そのまま力に溺れて大切な人に心配かけるってのは……もっと不孝者だと思うぜ?」
     紅鳥の放ったどす黒い殺気が、つづりの周りを焼き尽くす炎を抑え込む様に辺りを包み込んだ。

    ●例えば涙で炎が消えたら、君の声も聴こえたかな
     闇の出所に気が付いたのか、つづりの赤い右目が後方に立つ紅鳥を捉える。
     蔓のように飛び出した炎の奔流が、次の瞬間には紅鳥の腕に絡みついていた。
    「っ……」
     振り払おうと顔を歪める紅鳥の腕に、つづりのそれとは別の炎がふわりと寄り添った。
    「見えておるか? 炎は、人を傷つけもするが、癒しもするのじゃ。焔、舞え!」
     癒しの炎を燃え上がらせる奏が、つづりの炎を絡め取り、紅鳥から引き剥がしていく。代わりに紅鳥の腕に触れる奏の炎は、しかし紅鳥を傷つけることはしていないようだった。
    「戻って来て。怖がらないで。私は、傷付いたり、しない。つづりを、憎む事も。自分を、責めさせる事も、しないから」
     食い入るように奏の炎を見つめていたつづりの体を、マリアの影が絡めとる。
     さらに玲の爆炎の弾丸が撃ち込まれ、つづりは仕方なく炎の双翼を造りだした。
    「つづりには、大事な奴が居るんやろ?」
     その頭上で、立夏の妖の槍・Heart of Mammonが弧を描く。
    「わいん場合は他人の人生壊してしもたねんけど……後悔してもな、時間て戻らんのや。せやから、自分のした事きちんと向き合って……そん後は自分が出来る事してけばええんとちゃう?」
     自分が闇に堕ちた時は、大事な人はもう誰一人居なかった。でも、つづりにはまだいる。だったら、絶対に大事な人の場所に戻してみせる。
    「自分の事大事に思ってくれとる奴居るんやから泣かせたらあかんで」
     振り下ろされた切っ先はつづりの肩を穿ち、その体を地面へと縛りつけた。
     尚も迫りくるつづりの炎を、灯倭が魔法弾で弾き返す。
     灯倭は一度ぎゅっと左手で右手を握り締め、それからゆっくりと右手のグローブを外した。
    「私も、大事な人を、この力で殺めてしまった。死んでも赦さないで欲しい、自身を認めて赦してほしい――コインみたいな複雑な二つの心。私も、気持ち、解るんだ」
     闇堕ちした親友を、覚醒と同時に殺めた過去。グローブがあった場所には、その時に付けられた傷がある。ずっと消えない、罪の証。
     無くして、傷つけて、護れなくて。でも。
    「今はこの力を、一番大切な人を護る為にって、それが私が私に与えた『赦し』。君にもどうか、見つけて欲しいの。自分に『赦し』を与える、向き合うための在り方」
     琥珀色の瞳が、静かに瞬いた。
    「てめぇを必要としてくれる人がここに居るんだ! 少し暴れてスッキリしたら、しっかりこっちに戻ってこいよ!!」
     壁を駆け上るようにして、紅鳥が炎でくるんだ槍を振りかざす。
    「神様は乗り越えられる試練しか与えないって……ヨギは聞いたわ……神様を信じるお兄さんはどう思う?」
     紅鳥の槍も、ヨギリの刃も、つづりは避けようとしなかった。なのに、どうしてだろう。
    「オレたちで支えて、引っ張り上げてやる……だから、テメェの足で立ち上がれよォ!」
     叫びながら繰り出すヘキサの蹴りは、いとも簡単に当たるのに。
    (「やめろ、やめてくれよ……ッ! そんな――!」)
     そんな凪いだ瞳を、しないでくれ。そんな全てを諦めたかのような、死にに行くような目をしないでくれ。
     ヘキサは全身で訴えるように体を震わせた。
     ぱちり、琥珀色の瞳が瞼の下に隠される。風が吹いて、つづりを形作る炎が舞い上がる。

     ――人を傷つけない、優しい炎の色を見た。
     できるなら、あんな炎が欲しかった。もっと早く、この八人に会いたかった。
     でも、もう遅い。
    (「全テヲ委ネロ、捨テテシマエ」)
     今更泣いても、燃え盛る炎は消えやしない。

    ●他の何でもない、君の心を信じてる
     一瞬炎に隠された琥珀色の瞳が、次に姿を現した時には右と同じように赤いそれへと変わっていた。
    「ちっくしょォ……!」
     凛然とした態度でこちらを睥睨する、一匹の狼。
     そんなものは見たくなくて、まだ諦められなくて、ヘキサは喉を嗄らしてがむしゃらに狼の体を蹴り飛ばした。
    「なンで、なンで声が届かねェンだ!」
    「つづりお兄ちゃん」
     億劫そうに起き上がる狼に、ヨギリがそっと呼びかける。
     その優しい声に、ヘキサははっと息をのんだ。諦めていないのは、ヘキサだけではなかったのだ。
    「つづりくん」
     灯倭もただ、その名前を呼ぶ。
     たとえ闇に呑まれたとしても、その名前はただ一つ、つづりの命を呼ぶための音だ。だから、言葉が届かなくても、この音だけは届く――そう、信じて。
    「傷も罪も、全てを背負わなくて、良いんだよ」
    「どうしたら罪が償えるか、みんなで一緒に考えるよ……貴方は一人じゃない」
    『グルルルルルル』
     無防備に歩み寄る灯倭とヨギリに、狼は地を震わせるような唸り声を上げる。
     狼の口から二人に向けて炎が放たれそうになったその時、炎を纏った玲の足が狼の視界に飛び込んで来た。
    「別にどうなろうと、私には関係無いけど……」
     反射的に飛び退いた狼を、玲の言葉が追いかける。
    「でもさ、君を助けたいって必死に喉を枯らしてる人の声は、ちゃんと聴くべきだと思うよ」
     最初に言ったでしょ、『聞いているのかね!!』って――玲はにっと口端を引き上げた。
     玲にとっては、人型だろうと狼型だろうと大差はないのだ。細かいことはどうでもいい。
    「その通りだぜ……聴こえるかよ! つづり!」
     紅鳥のロッドが生み出した雷が、狼の体を撃ち抜いた。びくん、とその体が震えたのは、雷のせいか、それとも。
    「自分を責めたい時、叱ってあげる。辛い時、慰めてあげる。貴方の苦しみを、一緒に、背負ってあげる。……大丈夫。私の荷は、軽い」
     びくん。マリアの声に、また狼の体が震える。
    「ウ、ウウウ……ぁ、」
     ――つづり。私の目には、貴方は高価で尊い。
     マリアの声に重なって聴こえたのは、神父の声。聴いたのは、『つづり』の耳。
     炎の中できらりと光った瞳を、立夏は見逃さなかった。
    「なあ、戻ってこいや……っ」
     影で飲み込むようにして狼の体を引き倒し、その上に圧し掛かって、叫ぶ。
    「大事な奴、居るんやろ……なあ!」
    「……ぁー……ざー……」
     そう、ファーザーだ。大事な人。大切な人。
     もしここで『つづり』が死んだら、ファーザーはどうするだろうか。
     それでもつづりを許して、クラスメイトの罵声を代わりに受け止めて、そして、それすらも受け入れて。
     この場所で、つづりのために祈るんだろうか。

     それは、なんて哀しい姿なんだろう。

     ――人間ゆえに傲慢で、人間らしく我儘に。
     なら、神様。もう一度、もう一度だけ、人間として生きてもいいでしょうか。
     もう二度と傷つけたりしないと、叶うかどうかも分からないちんけな誓いを、それでも死ぬまで掲げていくから。
    「傲慢に望むのも、人間の証じゃ。お主はそのまま怪物として果てるつもりかのう? ……決めるのはお主じゃ」
     最後に炎を打ちつけた奏の声色には、確信にも似た切望が込められていた。
     だから、その炎が雨に消えたとき、ぼろ雑巾のような琥珀色の目を持つ少年がその場に横たわっていたのも、当然と言えば当然のことだったのだ。

     おかえり。

    作者:なかなお 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 0
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