怪物を惑わす瞳

    作者:天木一

     夏の終り、美しい夕日の映る海を見に来たカップルに悲劇が訪れる。
    「ほら死ねよ。お前らが絶望して死ぬ姿が見たいんだよ、ほらほら泣け! 叫べ! グハハハハハハッ!」
     巨大な影が2人の男女を覆う。それは青い怪物。哂いながら逃げる2人を追い立てる。
    「ひっ化け物!?」
    「こっちだ、車まで戻れば……!」
     女性の手を引く男が必死に車まで戻ろうとする。だが女性がこけてしまい足が止まる。
    「ん~どうしたもう鬼ごっこは終りか? それじゃあどっちから死ぬ? 選ばせてやるぜ」
    「やめてくれ! 俺達が何をしたっていうんだ!」
    「た、たすけて……」
     追いかけごっこを楽しむ怪物に、2人は涙を流し必死に懇願する。
    「そうだなぁ、じゃあ選択肢をやろう。どちらか一人、そう一人を殺す。二人で相談してどちらが死ぬか決めるといい」
     邪悪な笑みを浮かべて怪物は哂う。二人のカップルは顔を見合わせた。
    「お、俺を殺せ!」
     震えながら男が怪物を見て言う。その手を掴んで女性も叫ぶ。
    「私を殺してください。この人を助けて!」
     そんな2人の姿を見て怪物は溜息を吐いた。
    「あ? なんだそりゃ。お前らふざけてるのか? 違うだろ違うだろぉ! そこは自分が助かりたいって言うところだろうがぁ!!」
     歯をむき出しにして怪物が唸る。
    「もういいや、つまらん。二人とも死ねッ」
    「待て、話が違うじゃないか。殺すなら俺だけに……」
     次の瞬間、怪物の腕から生えた刃が無慈悲に二人を一緒に貫き串刺しにした。
    「ばーか、どっちにしろ二人とも殺すつもりなんだよ。クソッせっかくの余興をぶちこわしやがって」
     ぐりぐりと傷を抉るように広げ、刃を抜き取る。カップルは抱き合うように絶命した。
    「あなた強いのね」
     その時、惨劇とは場違いな穏やかな女性の声が響く。
    「ああ? テメェは誰だ?」
    「私は浅野友美。あなたにもっと素敵な狩場を提供できるわよ」
     制服姿の少女は美しい栗色の髪をなびかせ、射抜くような眼差しが怪物を捕らえる。
     怪物は言葉もなくその瞳に魅入る。
     夕日に反射する瞳が赤く輝いた。
     
    「みんなデモノイドロードの事は知っているよね?」
     能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が教室に集まった灼滅者に依頼の話を始める。
     デモノイドロードとはデモノイドの力を使いこなし、自分の意思で闇堕ちしてデモノイドとなって戦える存在の事だ。
    「そんなデモノイドロードだけでも厄介なのに、そこにヴァンパイアが接触するみたいなんだ」
     ヴァンパイアの勢力がデモノイドロードの力を利用しようとしているのだ。
    「ヴァンパイアの勢力が大きくなるのは阻止したいんだよ。けど、ヴァンパイアと全面戦争する訳にもいかない」
     現時点で戦争になれば勝てるかどうかも分からない。
    「だからヴァンパイアが現われる前にデモノイドロードを倒してしまって欲しいんだ」
     そうすればヴァンパイアとの関係が悪化せずに事は穏便に済むだろう。
     そこで貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)が話を受け継ぐ。
    「倒すべきデモノイドロードは、殺戮を楽しむような相手だ。何としても灼滅してしまいたい」
     強い意思を見せてイルマは状況説明を始める。
    「一般人が襲われるのは人気の少ない海岸だ。地元には有名なデートスポットらしい。デモノイドロードはどうやらそういう幸せそうなカップルを狙い打ちしているようだ」
     幸せな人間を、絶望させて殺すのが趣向のようだ。
    「カップルは夕方にやって来る、デモノイドロードはその後すぐに現われる。そこを叩きたい」
     敵は危機だと思えばカップルを人質にしたり、逃亡したりする可能性もある。対する作戦を練る必要があるだろう。
    「デモノイドロードとの戦闘からおよそ10分ほどでヴァンパイアが現われるよ。姿を見られないようにするには8分以内に撤退をするのが安全だよ」
     誠一郎がデモノイドロードと接触できる時間から、ヴァンパイアの現われるまでの時間を告げる。
    「もし時間をオーバーするようなら灼滅を諦めて撤退して欲しい。もしヴァンパイアが加われば勝利も難しいだろうし、情勢が一気に悪化してしまうかもしれないんだ」
     短期決戦。これしかこちらが取れる方法はない。
    「ヴァンパイアは朱雀門高校の生徒だよ。以前にも人間を支配しようと高校に現われたのと同一人物なんだ」
     前回で失敗した朱雀門高校の新しい戦略なのだろう。
    「今回はわたしも同行させてもらう。これ以上の悲劇が起きる前に、敵を倒そう」
     イルマが真剣な表情で頭を下げる。
    「大変だろうけど。ヴァンパイアの勢力の伸長を阻止する為にも、お願いするよ」
     そう言って誠一郎は足早に現場に向かう灼滅者達を見送った。


    参加者
    天上・花之介(緋鳴・d00664)
    九条・都香(凪の騎士・d02695)
    碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)
    西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)
    吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)
    杜乃矢・善文(高校生ファイアブラッド・d09927)
    柊・司(灰青の月・d12782)
    綺堂・ライ(狂獣・d16828)

    ■リプレイ

    ●享楽の怪物
     空が暁に染まり、青い海がオレンジに輝く。目の前には黄昏時の美しい景色が広がっていた。
    「朱雀門高校の奴らも気にはなるが……」
     それよりも許せないのは人が絶望する様を楽しむアイツだと、天上・花之介(緋鳴・d00664)の声に感情が籠もる。
    「あのアモンが作り上げた技術、まだ進化を続けるのじゃろうか」
     以前アモンとの戦いで闇堕ちした経験を持つ西洞院・レオン(翠蒼菊・d08240)は、今回の事件に因縁めいたものを感じ、これ以上被害が増えないよう禍の血脈を止めてみせると誓う。
    「こんな外道の類で戦力増強とはぞっとする話だぜ」
     だが最悪の場合、一般人を無視してでも敵を倒す覚悟を固めている吉沢・昴(ダブルフェイス・d09361)は、夕日の映る海を見ながらどこか自嘲気味に呟いた。
    「カップルが現われたみたいね」
     やって来た車から降りる男女を見て、九条・都香(凪の騎士・d02695)が周囲を警戒して、いつでも動けるように準備する。
     平和そうにカップルは手を繋ぎ並んで砂浜から海を眺める。
    「チッ……悪趣味な奴もいたものだな……」
     無表情のまま舌打ちをした碓氷・爾夜(コウモリと月・d04041)は、これから起きる事件を思い言葉を吐き捨てる。
    「俺にとっちゃ初めての依頼……なんだけどな。何かそういう気分にひたってらんねー感じだな」
     杜乃矢・善文(高校生ファイアブラッド・d09927)は首を振り、何にせよカップルを守り、デモノイドも連れて行かせはしないと闘志を胸に宿す。
    「ちぃとばかりほっとするよ。こういう悲劇しか巻き起こせねぇ下種野郎が相手ならな」
     綺堂・ライ(狂獣・d16828)はこれなら気兼ねなく戦えると、戦意を言葉に滲ませる。
    「これ以上怪物に好き勝手にはさせない」
    「怪物ですか。まあ、そうかもしれませんね。能力でも、姿でもなく。心が」
     拳を握って貴堂・イルマ(小学生殺人鬼・dn0093)がカップルを見る。そこに死角から近づく男の影。
     怪物ならば倒さなくてはならないと、柊・司(灰青の月・d12782)は穏やかに言うと、仲間達と視線を合わせ、カップルの元へと移動を開始する。

    ●残り8分
    「よお、お二人さんお楽しみみたいだなぁ」
     下卑た笑みを浮かべて男がカップルの背後から話しかける。
    「何か用ですか?」
     カップルの男性が振り返り、警戒するように女性の前に立って問いかけた。
    「いやなに、俺もお楽しみの仲間に入れてもらおうと思ってね」
     そう言うや、男の体が膨張する。肉が服を突き破り、その肉体は青く染まっていく。カップルの目の前に現れたのは青い怪物。
    「ひっ」
    「そーら、逃げないと死んじまうぞぉ!」
     威嚇するように笑いながら怪物が腕を振るう。
     その時、カップルと怪物の間に飛び込む人影。怪物の巨大な質量を持った腕を受け止めた。
    「悪いけど、私たちの相手をしてもらうわね」
     それはライドキャリバーのハーレイに乗った都香だった。エネルギーの盾を構え怪物と対峙する。
    「なんだぁお前は! お楽しみの邪魔をするなぁ!」
     怪物は拳を握り叩き付けようと振り下ろす。その腕にオーラの塊が撃ち込まれ、拳は軌道を変えて砂浜を叩いた。
    「ふん……下衆が。救いようがないな。灼滅してやっても足りないくらいだ」
     オーラを放った爾夜が僅かに侮蔑の表情を浮かべた。
    「助けに来ました。もう大丈夫。……良く、頑張りましたね。後は任せてください」
     司はカップルを守るように、柄に鱗の模様が描かれた朱塗りの槍を構え、穂先からつららを撃ち出す。
    「次から次へと邪魔をしやがる!」
     怪物は大きく踏み込み、腕から生やした刃でつららを薙ぎ払い、更には司を両断しようと迫る。司はその一撃を下段に構えた槍で撥ね上げるように受け流す。その時、怪物の踏み込んだ足を刃が貫いた。
    「邪魔なのはお前だ」
     いつの間にか怪物の後ろに近づいていた昴は、鎬が無い無骨な太刀を引き抜く。どろりと青い液体が傷口から溢れた。
    「殺戮を楽しむデモノイドロードか。幸せな人間を絶望に陥れようとするお前の企み、阻止してみせる」
     レオンは学生帽を深く被り直し怪物の前に立つ。
    「弥栄」
     解除コードと共に現われた槍を構える。全身から放たれた殺気が周囲を覆う。カップルは脅えたように震え、その場を離れようとする。
    「さっさといけ」
     そんな2人にライが声をかける。
    「見ての通りの化け物だ。撮影とかそういうどっきりじゃねぇぜ」
     その言葉にカップルは怪物から離れるように手を繋いで走りだす。
    「逃げるんじゃねえ!」
     怪物がカップルを追いかけようと足を踏み出すと、意思とは逆に足が止まる。見れば影が豹の形をとり怪物の足に喰らい付いていた。
    「行かせはしない、ここからきさまはどこにも行けはしない」
     影を辿れば、夕日に照らされ長い影を作るイルマが居た。
    「こんのっ!」
     怪物は怒りに任せて腕を振るう。丸太のような腕が風を切る。都香が盾の障壁を張ってその一撃を受ける。そこに更に一枚重ねて障壁が張られた。腕は勢い失い弾かれる。
    「援護は任せろ。だから全力で攻撃してくれ!」
     善文が仲間を守るように光輪で前衛の前に障壁を張る。
     逃げるカップルに、手伝いに集まった灼滅者達4名が近づく。
    「カップルの避難は俺達に任せてよ」
     戦う祝滅者達にそう言いながら、殊亜がライドキャリバーに乗って守るように割って入る。
    「こちらへ来て」
    「安全なところまで、付き添いますね」
     優歌と咲結が先導してカップルを逃がす。
    「必ず、守るから」
     透流が怪物を警戒しながら、最後尾に着いた。
    「よろしく頼む」
     イルマが怪物から目を離さずに、背中越しに声をかけると、4人は任せてとカップルを警護して戦場を離れる。
     遠ざかるカップルを睨みつけ、怪物は忌々しそうに舌打ちし視線を周囲の灼滅者へと移す。
    「クソッ、さっさとお前らをぶち殺して獲物を追うとするか……」
     怪物がそう言って殺意を向けた時、足に熱い痛みが奔る。振り向けば太股の裏に横一閃の刀傷が出来ていた。
    「覚悟しろ。抜いた以上、必ず殺す」
     花之介の抜き放った刀が夕日を映し、血のように輝いた。

    ●5分の命
    「テメェ!」
     激昂した敵が振り向き様に腕の刃を振るう。花之介は俊敏に間合いを開けて攻撃の間合いを外す。
     だが振り抜く腕から青い水のような物が飛び散った。それは砂浜に落ちると砂を溶かし煙を上げる。怪物の体内で作られた酸の液だった。
     花之介に襲い掛かる液体の前に、ハーレイに乗った都香が割り込み両手の盾で液体を防ぐ。しかし防ぎ切れなかった分が服を溶かし体を焼く。
    「このまま行く! 点ではなく、面で打ち抜く! 避わしにくいはずよ!」
     痛みにも怯まず、ハーレイが突撃を掛ける。腕を振り体勢を崩していた怪物の体に、都香は速度を付け展開した盾をぶち当てる
    「ぐおぉ!」
     怪物の巨体が弾き飛ばされる。そこへ追うように矢が飛ぶ。
    「さっさと消えてくれ。お前の寿命は8分以下だ、覚悟しろ」
     爾夜の放った魔法の矢は怪物の胸を貫く。青い液体を流しながら怪物は着地する。それを待ち構えていたレオンが槍を突き出し、冷気を放つつららを撃ち出す。つららは怪物の右腕に当たり凍りつかせた。
    「それがどうしたぁ!」
     だが怪物はその腕に力を込め、レオンに向けて振り下ろすようにストレートを放つ。まるでハンマーで撃ち付けるように叩き込んだ拳は目標を誤り、砂浜を抉ると衝撃に砂が周囲を舞う。
    「大丈夫か?」
     イルマから伸びた影の獣が尾を怪物の腕に絡みつかせ、その軌道を変えていた。
    「すまんのう、助かったのじゃ」
     レオンは槍で敵の動きを牽制しながら間合いを離す。
     暴風のように振り回される拳を潜り抜け、昴が間合いを詰める。無言の気迫と共に縛霊手で殴りつけ、霊力が網となって怪物の体を縛る。
     そこにライが酸の液体を撃ち込む。怪物の青い体が嫌な臭いを発して溶けると、怯んだ怪物は一歩下がった。
    「どうしたよ? 手前の業で嬲られる気分はどうだ?」
    「隙あり、ですね」
     その隙に司がオーラを纏い接近すると、拳の連打を浴びせる。重い一撃が怪物の体を打ち砕いていく。
    「……っちょろちょろと邪魔だ!」
     怪物は攻撃を受けながらも地面に拳を打ち込む。衝撃波に砂が波のようにうねり、近づく灼滅者達の体を貫き衝撃を与え足を止める。
     身動きが出来ない間に怪物の刃が襲う。司は槍で受け止めるが、勢いに押され肩に刃が喰い込む。
    「外道は消えろ」
     昴が滑るように間合いを詰めると、大上段から刀を振り下ろした。その一閃は怪物の腕から生える刃を斬り落とした。
     刃を受け止めていた司は解放され、刃の間合いから離れる。
    「そのくらいの傷ならすぐに直せるぜ」
     善文が光輪を放ち、司の肩の傷を癒す。そして時計を見て仲間に時間を伝える。
    「3分経った! このまま押して行くぜ!」
     司と入れ替わりに、刀を鞘に収めた花之介が駆け寄る。
    「血反吐をぶちまけて死ねぇ!」
     怪物が迎撃の左拳を打つ。丸太のような腕を花之介は蹴って跳躍すると頭上を取る。
    「お前がぶちまけろ」
     飛び越しながら鞘で後頭部を打ち据えると、怪物はふらつき膝を突く。
    「邪悪なる者は滅びよ」
     そこへ一条の光が怪物を照らす。爾夜の放つ光が怪物の体を焼く。
    「なんなんだよお前らはあ!」
     体液を体から流しながら、怪物は咆える。怒りに濁った瞳で睨みつける。また衝撃波を起こそうと、高く上げた右拳を地面に向けて振り下ろした。
    「そうはさせないわよ!」
     都香がその下に入り込み、両手の盾で受け止める。強烈な一撃に砂に足を埋めながらも耐える。だが怪物は体重を掛け押し切ろうとする。
    「馬鹿力だな。だがこれならどうだ?」
     善文の投げた光輪が分裂し、都香の盾となって怪物の攻撃を押し返す。
    「クソが! 邪魔すんなぁ!」
     怪物は左の拳を上げて動けない都香に叩き付けようとする。
    「悪いがここで灼滅する! 凍て付き、刻み込め……散れっ!」
     振り下ろされる腕に、レオンが魔力を込めた杖を振り抜いて迎え撃つ。腕と杖がぶつかり合い僅かな間力が拮抗する。だが次の瞬間、塊が数メートル離れた場所に落ちた。それは千切れ飛んだ怪物の腕だった。
    「ぎいぃぃあああああああ!!」
     無くなった左腕を見て悲鳴を上げた怪物は、大きく飛び退く。そのまま距離を取ろうとしたところへライが立ち塞がる。
    「なぁ選択肢をやろうか? 悲鳴を上げて死ぬか、助かりたいと懇願し続けて死ぬか好きに選びな?」
    「嫌だ嫌だ! 何で俺が死ななくちゃいけないんだよ! 俺が殺す側だ! 殺されるなんてふざけるな!」
     ライが構えたガトリングガンから炎の銃弾を撃つ。雨のように降りしきる攻撃を怪物は右腕で受けながら駆け出す。
    「見切った」
     昴が突進してくる怪物の呼吸を読み、一歩横に躱すとすれ違い様に右足首を刀で斬り裂いた。怪物はバランスを保てなくなり前のめりに転倒する。
    「きっと今までに殺された人も同じ事を思ったんじゃないかな」
     穏やかな表情で司は槍を突き出した。穂先が怪物の胸に刺さると、ぐるりと捻り傷を抉る。
    「痛ぇ! 痛ぇよぉ!」
    「その痛みはきさまが今までに与えた人々の痛みだ」
     這いずり逃げる怪物。その背を射す夕日をイルマの影が遮る。影の獣が背後から組み付き、怪物の首筋に牙を突き立てる。
     そこにハーレイが突撃し、怪物にぶつかり上体を撥ね上げる。
    「逃がさないわ。ここで終わりよ!」
     都香は静かに踏み込むと鋼の如き拳をすっと打ち込む。怪物の鳩尾を打つと、そのまま横を抜けてすれ違う。
    「ごふっ」
     その一撃は怪物の内臓を打ち破り、口と目から怪物は青い液体を垂れ流した。
    「……嫌、だ!」
     怪物は最後の力を振り絞り逃げようとする。
    「あぁ……すまないお前のことを見ているのが嫌になってきたよ」
     爾夜がその背中にオーラの塊をぶつける。背中が抉れ骨が覗く。
    「終わりにしてやるぜ」
     善文がその傷口に光輪を投げつけ傷を深くする。
    「お前をここから逃がすわけにはいかんのう」
    「もう楽にしてあげますね」
     レオンの腕が鬼のように異形化する。振り抜いた腕は怪物の胸を貫き大穴を開けた。
     そこに司が拳の連打を浴びせる。肉が吹き飛び骨が砕かれる。
    「ああ! なんなんだよ! なんなんだよ! 俺は死なない、こんなところで死ぬはずないんだ! だから邪魔すんな!」
    「いいや、ここできさまは消えるんだ」
     右腕を振り回しレオンと司を吹き飛ばす怪物に、イルマの影が絡みつく。影の獣の尻尾が鞭のように怪物に巻き付き縛りあげた。
    「自分が殺られる覚悟はしてなかったか? ま、そーだろーが……こういうのは因果応報っていうもんだ……諦めな」
     動きを封じられた怪物に向け、ライのガトリングが火を噴く。無数の炎の銃弾が怪物の体を穿ち燃やす。
    「アツィ! 死にたく、ないぃ助けてぇ……」
    「駄目だ、ここで死ね」
     冷たい声と共に昴の刃が煌く。首を狙った必殺の一撃は咄嗟に上げた怪物の右腕に阻まれた。だがその腕も肘から先が永久に失われた。
    「言ったはずだ。必ず殺す、と」
     両腕を失った怪物に、花之介の抜き放った刀が一閃する。砂浜には恐怖と絶望に染まった怪物の顔が転がった。

    ●赤い夕日
    「はあ。くそ、手こずらせやがって。ここまでくれば大丈夫だろうな?」
    「ああ、この場所なら大丈夫なはずだ」
     決着からすぐに戦場を離れ、人気の無い砂浜で花之介は振り返り仲間に声をかけると、イルマは周囲を見渡し頷いた。
    「余裕を持って時間内に終わったし、カップルも無事みたいだし、作戦は成功ね」
    「そうですね。ヴァンパイアのお嬢さんと顔を合わせずにすみました。大成功ですね」
     ハーレイから降りた都香が時刻を見ると、ちょうど戦闘開始から8分が経過したところだった。
     そろそろ吸血鬼が現われた頃だろうかと、司は微笑んで遠くここからでは見えない戦場の方を見た。
    「しかし救いようのない奴だったな」
     戦った怪物の醜態を思い出し、爾夜は不快そうに言葉を吐き捨てる。
    「願わくば灼滅が救いとなっておればいいんじゃがの」
     これで少しでもデモノイドの犠牲者が減ってくれればいいと、レオンは帽子を被りなおした。
    「ま、なんにしろ初めての依頼が上手くいって良かったぜ」
     安心したように肩の力を抜き、善文は重かった空気を振り払う。
    「なあ、飯食って帰ろうぜ」
    「そりゃいいな。ちょうど腹も減ったところだ」
     気分転換にと昴が誘うと、ライも乗って賛同する。そこにご当地グルメが食べてみたいと即答する善文も加わり、他の仲間も行こうと笑みを浮かべる。その言葉に戦いの終わりを実感し、皆の緊張が解けた。
     灼滅者達は落ち往く赤い日に照らされながら歩き出す。その時、見えない戦場の方へライが顔を向ける。
    「誰にもデモノイドは利用させねぇ」
     そう呟く声は、吹き抜ける潮風に流され消えさった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月26日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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