秋の足音

    作者:日暮ひかり

    ●intermezzo
     夏が終わり、武蔵坂の新学期が始まった。容赦なく遂行された定期テストもどうにか過ぎ去り、そろそろ秋らしい遊びにも興じたくなる折である。
     イヴ・エルフィンストーン(中学生魔法使い・dn0012)はその日、大層機嫌が良さそうだった。教室から出てきた鷹神・豊(高校生エクスブレイン・dn0052)に何かを夢中で話している。
     何事かと聞けば、気になるお店を見つけたので今週の休日に行ってみるのだという。
    「とってもかわいい紅茶とカップケーキのお店なんです。今、秋の味覚フェアをやっているんだそうですよ。皆さんもアフタヌーン・ティーをしに行きませんか?」
     イヴはそう言って、皆にチラシを見せる。
     東京の街中に最近出来た、口コミで話題のカフェなのだそうだ。
     ヨーロッパでお菓子作りを学んだ日本人の女店主が、手作りのカップケーキと紅茶を提供している店らしい。北欧モダン風のシンプルなインテリアでまとめられた店内は、明るく居心地が良いと評判だ。
     木製のまるいテーブルとイスに座り、のんびりお茶をしながら好きなケーキを食べ、好きな話をする。
     カウンター席も用意されているので、一人で立ち寄ってもいい。
     
     気になるカップケーキだが、秋の限定メニューがいまの一押しだという。
     栗の甘露煮入りケーキの上に、モンブランクリームを絞ったもの。
     さつま芋入りの生地を焼き上げ、スイートポテトクリームを乗せたもの。
     ざく切りりんごのケーキに、チョコのヘタを立てりんごに見立てたもの。
     甘酸っぱいぶどうを生地に練り込んだ、砂糖控えめのシンプルなもの。
     フルーツケーキに梨のコンポートを乗せたもの、などだ。
     くるみやチョコチップなど、ポピュラーなケーキもあるので、好みでそちらを頼んでもいい。
     セットでついてくるセイロンティーはお代わり自由。アイス、ホットを選べ、ミルクティーにもできる。
     注文したケーキや飲み方に、最も合う茶葉を選んで提供してもらえるようだ。
     シンプルな白地をベースに、素朴な草花のペイントが入った北欧ヴィンテージの食器もこだわりの一つ。
     煌びやかさよりも、安らげる空間作りを重視しているのが写真から伝わってくる。
     『かわいい』と評するのは微妙に違う気がするが、イヴはとても楽しそうに瞳を輝かせ、そんなことを語った。
     鷹神はというと『行けたら行く』とお決まりの台詞を言って、すたすた去って行った。
     彼の事なので、本当に『行けたら行く』だけかもしれないが。
     
     一足早い秋の足音を感じながら、のんびりと紅茶を飲んで過ごす午後。
     仲間と、一人で、訪れてみてはいかがだろうか。


    ■リプレイ

    ●秋来たる
     萌黄の着物に蘇芳の袴。秋らしい萩の襲で装ったいろははカウンターに座り、自分へのご褒美に栗のケーキを堪能。レシピを聞くと店主も快く教えてくれた。甘露煮の甘みを味わいながら和菓子に応用できないか考えを巡らせる。
     食欲の秋、芸術の秋の幕開けだ。
     流希は隅の席でケーキを食べ比べ、手製のレシピノートに味やポイントをメモしていた。部活仲間や寮仲間のおやつにカップケーキは丁度良い。帰ったら早速アレンジして作ろうか。
     優歌はカウンターへ座る人々を観察する。どんな人になにを出せば喜ばれるのか、おもてなしの秘訣が知りたい。厨房を覗きこんでいると、興味がありますかと店主に声をかけられた。
     林檎の下ごしらえ、パイ生地の作り方……秋の実りは知識にも降りそそぐ。
     依子の話を聞いた店主は、お持ち帰りも包みますよと微笑んだ。漂う紅茶の香りに包まれながら、モンブランケーキを待っていただきます。広がる栗の素朴な甘みがミルクティーに交わって、
    「……あ、美味しい」
     このお店、お気に入りの場所になりそうな予感。

    ●学ぶ秋
    「テスト終わった~~!!」
     【井の頭中一C組】の四人は解放感で弾けていた。ケーキも全部美味しそうに見えるから、体重より財布より今は食欲優先。全注文決行の希紗と天花、控えめなリコでも二つ。葵も食べる気満々だ。
    「テストどうだった?」
    「わたしはテスト勉強だけに勝負を賭けてるからね~!」
     学年158位の希紗は鼻高々。葵も平然と言う。
    「日頃からしていれば平均にはいけるだろう?」
    「え~……」
     苦手科目ないコンビの無情な言葉に天花とリコはため息をついた。
    「英語とか音楽は習ってたから楽勝なんだけど、理科とか社会がさ」
    「ボクも社会が……興味持てなかったらまるでダメなんだよね」
     山盛りのケーキを食べながら、話題はマラソン大会の裏技へ。四人で囲むと狭いテーブルは、秘密を守るには丁度良い。

     気軽でお洒落に楽しめるってのが良いよなと、静樹と途流は辺りを見回す。
     今日はテスト明けの息抜き男子会だ。敷居の高さを感じない店で、ゆったりケーキに舌鼓。葡萄の粒を噛みしめ、静樹は一口分を途流に取り分けた。美味いから、と。
     確かにお芋の暖かな甘みとはまた違う美味しさ……何だろうこの視線は。
    「……そっちのも気になるんで先手必勝って事で、な?」
     ぐぬぬ、そういう魂胆か。そういや菓子作りしてたっけなと思いだし、途流もお返しを。
    「このクリームちょー美味いかんな、食ってびびんなよ?」

     るりかが期末試験頑張ったので俺が奢る。
     何故だ。因果関係がわからない。テーブルにケーキが5つ乗っている現実も。
    「眼の錯覚か……」
    「これがホントの秋の味覚祭りだよね。いただきまーす」
     あまり元気良く食べるので、頬にクリームついてるぞと指摘するのも躊躇う。どれが一番美味しいか聞けば、るりかは全部一番と言い栗のケーキを切り分けた。美味しいから半分あげる、と無邪気に瞳を輝かせて。
    「関島さん、ボクが一緒でよかったね」
     確かに一人では来れない、と思う。悪い気がしないのはだからだろうか。

     気になっていた。ももちゃんの胃にどれ程甘味が入るのか。
    「期間限定全種と、人気あるやつ上から5種。あと1番高いやつ」
     奢りだからってこれはない。よく注文通ったな。円理は次々千尋の胃袋へ消えるケーキを眺めた。7号ホールケーキ完食したって話、服のサイズじゃないよな。
    「いま何考えたコラ」
    「いや、桃色に可愛い紅茶とカップケーキが映えるなあと」
     財布VS胃袋の勝負は何とか財布が勝ったが、胃の健闘ぶりには拍手を送るしかない。清々しさと若干の後悔を胸に残し、明日からダイエット勝負が始まる。

     再会から共に戦い、学び、遊んだ。梗花と南守は一年を思い返す。
    「あっという間だったよな。中身は盛り沢山だったけど」
     今日の秋の味もふたりで分け合おうと、林檎と葡萄のケーキを交換する。『テストのご褒美』だから奢ると梗花が言えば、次は俺がと南守は言う。
    「……一年経って、また秋がきたんだね」
     次の未来へ投げた約束が、いつまでも繋がりますように。

    「ほんとオメーは期待を裏切らねぇな」
     千波耶はしゅんと頭を垂れる。葉に奢ってもらう予定の筈が、テストの点のせいで立場逆転だ。千波耶の奢りの林檎ケーキをつつきながら、葉は外を眺める。雲ひとつない秋晴れに、今年も逢えた。
     葡萄の香りと暖かい紅茶は千波耶の心も満たす。体の奥で固まっていものが、ゆるんと溶けていく。澄んだ氷の音。彼の持つ飴色のグラス。夏の威を幽かに残す、秋の窓。
     散歩して帰ろうと葉が言うので、一緒に席を立つ。
     ――あ。伝票がない。
    「恩赦ありがとうございます、お奉行様」

    ●分つ秋
     季節限定の字に惹かれ、今日は懐かしい空気の店で羽根休め。カップケーキをうっとり眺める燐音と百合の顔は、一口食べれば更に蕩けるよう。
    「日頃の疲れを癒す甘味の誘惑、ほんと反則……」
    「甘く煮込んだ梨と素のままのフルーツの丁度良いバランス……これは止められんな!」
     つられてモンブランをもう一口。やっぱり……美味しいしか出てこないのと燐音は暖かい紅茶を啜った。梨のコンポートが乗ったケーキの欠片をフォークに乗せて目先に差し出せば、青い瞳はたちまち輝いた。素直な反応に百合もにんまり笑う。

     可愛いケーキが並べば心も弾む。蕩けるような依鈴の瞳も常より輝いている気がして壱は頬を緩ませた。
     不意に交わる視線。お誘いありがと、言葉と共に緩く弧を作る唇。射抜かれた心を伏せる為、壱は咄嗟に紅茶のカップを頼る。
     たまにいきなり笑うの、ズルい。目の前をふらふら彷徨う一口分のさつま芋ケーキ。時々大胆な所、ズルい。
    「……いらない? なら、鈴の胃袋へダイブ……」
    「……た、食べる! 食べます!」
     勝てるわけない。壱がぱくりと噛みついて、二人の間に笑顔が咲いた。一緒の思い出、また一つ。

     あたしが選んだの一口食べると聞かれ、重巳はノートに肯定の言葉を綴る。林檎のケーキを一口あげ、アイリスはほにゃりと笑う。お礼に差し出された栗のケーキも一口切り取れば、幸せが胸を満たす。
    「……えへへ、ありがと」
    「………あり、がと………」
     重巳もノートを置き、想いを言葉に。誰かと何かを交換して食べるのは、こんなにも嬉しかったんだ。

     林檎、栗、さつま芋。携帯のカメラに秋を収め、兄妹三人仲良くいただきます。
     小さなエニエは斎の膝に乗り、紅茶をふーふー冷ましている。その様子をもう一枚パシャリ。凪の待ち受けの中の斎は、家より『兄』らしい。
    「文明の利器を扱うのは大変だ。故にあにじゃとあねじゃに手となってもらうのだ」
     尊大な妹猫様の可愛さに、凪は頬を緩めケーキを食べさせる。微笑ましげに見守る兄にも不意打ちで、
    「斎お兄ちゃんもあーんしてね?」
     敵わない。仕返しあーんをしても、妹達は喜ぶ一方でこちらが照れてしまう。
    「……ちぇっ、少しは動揺すると思ったのに」
     ピアノが繋いだ家族との一時は、甘くて幸せな初めての贅沢だ。

     【梅が香】の6人は男女に分かれ隣席に座る。
    「カップケーキ、アメリカではすっごく流行ってるって。蒼真先輩は南瓜のケーキ?」
    「ウチ、シンプルなのが食べたかってん」
     シンプルな南瓜ケーキにほんのり甘い生クリーム。秋の自然の旨みを堪能し、陽鞠の乙女心も大満足だ。そういえばもうすぐハロウィンだもんねと、貴子と鈴蘭はさつま芋のケーキに舌鼓。
    「んーっ、クリームまろやかでおいしーい!」
     ケーキも食器も拘りを感じて素敵と、瞳を輝かせる鈴蘭。
    「おなごはこういったの好ぎだよなぁ」
     華やぐ声と紅茶の香りに焔も口元を緩め、葡萄ケーキを一口。店主お勧めの暖かいストレートティーは梅生の栗ケーキに合わせた物。茶葉に種類がある事も初めて知った青に違いは解らないが、偶には紅茶も悪くない。林檎の自然な甘みが胸にすっと落ちて。
    「……うん、美味い」
     こんなに居心地の良い店ならはしゃぐ気持ちも解る気がすると焔。
    「栗ケーキ食べたい人がいたらどうぞ」
     最後は女子も男子も一緒にケーキ交換会。梅生はそっと皆に感謝した。ケーキと紅茶の甘い温もりは、初めてのお出かけの嬉しさに似ている。

     南瓜に柿にさつま芋。色んな秋の中に、一番可愛い子を見つけた。
    「美味しそうな赤林檎があったんだもの」
     あーん、と差し出されたケーキは林檎とシナモンの味がした。戯れに突かれた頬はどれ程赤いのだろう、だって先輩が笑顔でそんな事言うから。恥らいがちに返された煉のあーんを、ハナは迷わずぱくり。カップケーキは半分こだけれど、幸せは二倍。
    「また、来たいですね……ハナ先輩」
     初めて名前で呼んでくれたから、いえ、それ以上!

    「こういうカフェでお茶するの、ずっと憧れてたの」
     理志の言葉に一織も頷く。
    「私のもあげるから、まーくんのも一口頂戴よ」
     お洒落な食器に美味しいケーキ。梨と林檎をフォークに刺し交換して、二倍幸せ。関節キスの意識もすっかり忘れていて、後々気付いた一織を恥ずかしさが襲う。
     自分で言い出した癖に可愛いわね。理志のからかいに、思わずばかっと叫んだ。

     乙女の悩みは楽しいけれど深刻。林檎とモンブラン、どちらか一つなんて選べない。俺が片方頼もうかという冬人の申し出で、ラーナはぱっと笑顔になる。冬人も笑う。彼の笑顔の優しさが心地よい。
    「んー、おいしーい♪ 冬人も一口食べる?」
    「こっちも一口どうぞ」
     冬人の口には栗の優しい甘さが、ラーナの口には瑞々しい林檎の甘みが。幸せを一口ずつ分け合って、美味しさに緩むラーナの瞳は林檎のように愛らしい。妹みたいなんて思ってしまうのも、気の置けない関係の証。
     また一緒に。その約束も、自然と出た。

     【地☆雷☆原】の三人は不思議な様相だ。そわそわする当麻、ご機嫌な音々、にやにやと二人を見守るハガネ。
     モンブランを食べる音々と当麻の目が合う。悪戯っぽい笑みと共に差し出されたフォーク、その先のケーキ。彼女の筆談用スケブをふと見れば。
    「あ、あーんってお前!? く、楠木!?」
     その狼狽えようにハガネは大笑いする。確かにシェアしようとは言ったけど――真っ赤な顔の当麻が可愛くて音々も笑った。
    「俺からもしてやろーか。おら、あーん?」
     ハガネのチョコケーキまで押し付けられ、まだ自分の梨が食べれない。でも、悪くない。

    「あーんして?」
    「 ……アタシ、子供じゃなかよ」
     シンの甘い囁きが導くまま緒璃子は一欠の林檎を口に含む。シナモンと大人の味がした。
    「あ、これ美味しい!」
     ちらつく体重計も今日は忘れ二人で追加注文。罪の果実を半分齧ったなら共犯者、道連れだと笑う。
    「私のお気に入りを教えてあげる約束だったからね」
     緒璃子の笑顔がなくちゃ、足りないんだ。柔かな陽光に彩られた緒璃子の頬が染まる。垣間見えた淋しさも、笑顔の中に溶けた。

    「センパイ、ケーキ何食べます?」
    「これだけ種類があると悩むよなぁ……」
     ねむと狭霧は一緒にメニューを覗きこむ。秋と言ったら甘いお菓子と優しい時間。あれこれ悩む時も緩やかで楽しい。
     届いたケーキを食べていても、視線はつい相手の手元に。笑ってしまう。どうやら考えは同じらしい。
    「狭霧、一口交換しねぇか?」
    「断る理由はないっすね!」
     無花果と栗の優しい甘さに話も弾む。甘味は頭を活性化させてくれる、嘘ではなさそうだ。

     どうして私なんかを誘ってくれるんだろう。きっとボランティアだ。それでもケーキの優しい甘さに触れたちゆは、少しだけ幸せだった。
    「このケーキ美味しいです、食べますか?」
     このはは微笑み、フォークを置く。頬に触れた指先、彼の指に絡むクリ-ム。頬についていた物だと恥じる間もなく、クリームは彼の口へ。
    「大事な子が元気ないと、僕も不安だからね」
     勘違いしちゃ、いけない。
     真っ赤な顔で俯くちゆに、このははケーキの追加を勧めた。好きなだけ奢るよ。君に笑顔が戻るまで、紅茶を飲んで待っている。

     まるでヴィネットみたいなケーキは、食べてしまうのが勿体無い。結理はさつま芋、錠は栗。素朴で甘い秋の味だ。
    「そうだ、俺のモンブランと一口ずつ交換っこしようぜ?」
    「えっとじゃあ僕のも……はい、あ、あーん……?」
     少し照れくさくて、幸せな時間。それにこれ程美味しそうに食べてくれる人が居れば、作り手も幸せだと知っている。はしゃぐ錠を見て、結理ははにかんだ笑みを浮かべる。
     だからという訳でもないけれど、今夜は二人で手作りの栗ご飯を食べよう。暖かいのは、大切な君が隣で笑ってくれるから。

    ●歩む秋
     秋の雲は、魚の鱗なのだと誰かが言った。涼しい秋風は今年も夏を攫い、切なさを運んでくる。
    「イヴさん、どうしてでしょう?」
    「きっと夏に置いていかれたお魚さんの気持ちです、アリスさん」
    「Helo,Hello! ねぇ、イヴは何が好きなのかしら」
     あたしは甘い甘い林檎のケーキと、ラヴがメニューを指す。
    「林檎が一番可愛いですよね。でも……」
     届いたのは林檎と梨、これなら交換できる。織子がケーキと椅子を持ってきた。劇団を宣伝する小道具の案を考え中なのだという。
    「キミならどんな物が欲しい?」
     ラヴを見て、イヴは宝石箱と答えた。魔女と道化が寄りあい、夢を広げつつケーキに舌鼓。女の子同士のお喋りはやっぱり格別ねとラヴが言う。織子も思う。次の両親への手紙に、この事を書こう。

     南瓜ケーキを食べる香乃果へ豊はいつも有難うと呟く。多分誘った事への礼も含まれるのだろう。
    「同じ場所に向かって、そこで会えるって嬉しいです」
    「だな。待つだけはつまらん」
     勝気な答えも、味見した葡萄ケーキの甘さもまた思い出に。メニューを押し付け、一つ位奢らせろと彼は笑った。

    「この服、全部アンカーが私のために選んでくれたんだ」
    「まあ! お二人はその……そういう仲なのですか?」
     イヴの食いつきにアンカーは内心冷や汗だった。いや、彼女の普段着は大胆すぎるから――とは言えない。誤解だとは言っておいたが信じてくれたかどうか。
     ワンピースとボレロ、帽子にサングラス。休日の女優さんみたいと言われ、ローラは嬉しげだ。注文は、ミルクティーお代わり。
    「イヴちゃんも? 気が合いますね!」
     アイドルならミルクティー。アンカーが唱えた魔法の言葉を、イヴは笑顔で復唱する。
    「テスト、どうでしたかっ?」
     敬厳の一言でイヴは固まる。彼の輝かしい成績に、偉いですねぇとため息一つ。でもそんな事より今はケーキだ。『終わったことは終わったこと』だから!
     唯はその光景をカウンターから見守る。マグから覗くクリームは夏の雲、うつろう季節を底から窺う秋のいろ。カプチーノそっくりの南瓜ケーキを食べ、陽光に微睡む。
     ペンも剣も置いて、秋の足音と歌おう。今日は特別にとっておきな、何でもない日。

    作者:日暮ひかり 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月28日
    難度:簡単
    参加:58人
    結果:成功!
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