力の使い方

    作者:日向環


    「これで全部か」
     周囲を見渡し、男は物足りなそうに呟く。
     夥しい量の血が、天井、壁、そして畳を不気味に染め上げていた。
     男の足下に、かつて「人間」であったものが転がっている。だが今は、見る影も無く、ただの肉の塊と化していた。
     いったいここで何人の命が奪われたのだろうか。その残骸だけで判別することは、もはや不可能だった。ただ、体の大きい猫だけが、その原型を辛うじて留めていた。
    「んじゃ、次ぎに向かうか」
     男がそう言って踵を返した時、か細い鳴き声が耳朶を打った。
    「ニー、ニー……」
    「ちっ。まだいやがったのか」
     吐き捨てるように言い、男は耳を澄ます。
    「そこ、か」
     よたよたとおぼつかない足取りで、生後2週間くらいの子猫が部屋の入り口をうろついていた。お腹が空いているのだろうか。母親の姿を捜しているのかもしれない。
    「飼い主のところに送ってやるよ」
     男がニタリと笑って足を踏み出した時、子猫を抱き上げる人影があった。
    「……お前も一人ぼっち。わたしのとこにおいで。友達、いっぱいいるよ」
     少女のようだが、襖が灯りを遮ってしまってる為、表情がはっきりと見えない。どこかの学校の制服を着ていた。愛おしそうに子猫を抱き上げ、その頭を優しく撫でていた。
    「お前、誰だ? この家のモンか?」
    「……この人たち、きっと痛かった。きっと、怖かった。その腕は、痛みと悲しみを生む」
     少女の視線は、畳の上に散らばっている、かつて人間だったものに注がれていた。悲しそうに、その長い睫を伏せたのが分かった。
    「あ? なに言ってんだ?」
    「あなたのその力は、こんなことのために使うもの?」
    「こんなこと? ああ、そうだよ。お前も肉片にしてやるぜ」
     男は異形へと姿を変えた。毒々しい青色の肌。悪魔の力によって生み出された、殺戮のための生物。デモノイド。
     野太い腕が、唸りを上げて少女に襲い掛かった。しかし、少女は動じず、左手一本でその腕を受け止めた。
    「!?」
     息を飲む異形に向かって、少女は顔を向けた。真紅の瞳が、薄闇の中で異様な輝きを放ったように感じた。
    「……その力を使いたいのなら、使うべき場所と相手を提供してあげる」
     蛇に睨まれた蛙の如く、恐怖に身を固めている男に向かって、少女は静かにそう言った。
     

    「デモノイドロードが事件を起こすのだ。って、デモノイドロードのことは知ってるよね?」
     木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)はタブレットPCの画面をタップし、情報を呼び出す。
     人間の善の心がデモノイドよりも強く、デモノイドに打ち勝った存在が、武蔵坂学園に加入したデモノイドヒューマンであるなら、デモノイドロードは人間の悪の心がデモノイドよりも強く、デモノイドに打ち勝った存在だといえた。
     デモノイドロードは、通常状態ではデモノイドヒューマンと同等の能力を持って行動し、尚かつ、いつでも好きな時に闇堕ちして『デモノイド』の力を振るう事ができるばかりか、好きな時に通常状態に戻る事が可能だった。いわば、自分の意志で闇堕ちできる灼滅者という厄介な存在だ。
    「自分の意志で闇落ちをコントロールできるって、凄いことだよね」
     みもざの素直な感想だった。
     厄介なのは、デモノイドロードは、普段は、灼滅者と同等の力で行動している為、サイキックアブソーバーによる予知に引っかかりにくい特性を持っているということだ。
     なら何故、今回は頻繁に予知に引っかかるのか。
    「ヴァンパイアも同時に行動を起こしているのだ」
     デモノイドロードが事件を起こした場所に、ヴァンパイアが現れ、デモノイドロードを連れて去っていくという。
    「ヴァンパイアが、自分たちの勢力にデモノイドロードを取り込もうとしているみたいなのだ」
     みもざがキュートな八重歯を覗かせ、ニッと笑ってみせた。
    「みーもーじゃーは、ヴァンパイアじゃないよー」
     言われなくても分かってる。
    「現時点でヴァンパイア勢力との全面戦争は避けるというのが、学園の方針なのだ。だから、事件を穏便に解決するには、デモノイドロードが事件を起こしてから、ヴァンパイアが現れるまでの短い期間に、デモノイドロードを倒さなければならないのだ」
     強力な相手との時間制限のある戦いは、相当のリスクを伴う。危険な任務だ。
    「みんなに倒してもらいたいデモノイドロードは、救世・太門(くぜ・だいもん)ていう男の人。田舎町の民家に押し入って、一家の惨殺をすることを趣味にしてる悪いやつなのだ」
     既にかなりの犠牲者が出ているという。残念ながら、今回の事件を未然に防ぐことはできない。
    「事件が起きる民家はここだよ。みんなが到着する頃には、デモノイドロードによる惨殺は終わっちゃってるの。間に合わないけど、気を落とさないでね」
     いつも明るいみもざの表情が、少しだけ翳る。だからこそ、これ以上の悲劇が起こらないように、救世・太門を倒してきて欲しいと。
     救世・太門が押し入る民家は、古びた日本家屋のようだ。一階に6畳の部屋が2つと8畳の部屋が1つ。二階に6畳の部屋が2つ。救世・太門は8畳の部屋にいるという。
    「古い家なんで、畳のサイズはちょっと大きめだよ」
     なので、8畳の部屋はかなり広く感じるとだろうということだった。戦うには充分なスペースだ。
    「ヴァンパイアが現れるのは、デモノイドロードとの戦闘を開始できるようになってから、10分前後だよ。撤収する時間を考えると、8分以内にデモノイドロードを灼滅するのがベターかな」
     万が一灼滅できずとも、デモノイドロードに『一般人に危害を加えようとすると、武蔵坂学園によって灼滅される』という恐怖心を植えつけられれば成功と言える。
    「だから、時間内に灼滅できなかったとしても、デモノイドロードを充分に追い詰めてやればいいので、ヴァンパイアが来たら、戦闘を中止して撤退してね」
     現れるヴァンパイアは、朱雀門高校のヴァンパイアだということだ。
    「名前までは分かんないんだけど、女の子ってことは分かってる。朱雀門高校の制服を着てるから、見たらすぐに分かるかな。髪型はサイドテールね。こんな感じなのだ」
     みもざは自分の髪をいじくって、サイドテールを作って見せた。背はあまり高くなく、小柄で華奢な感じの女の子だという。
    「とにかく、このヴァンパイアの女の子との戦闘は避けてね。今のみんなの力では、どう頑張っても勝てないから。それに、その後の情勢も悪化しちゃうので、とても良くないのだ」
     今はまだ、朱雀門高校と事を構える状態に無い。倒すべき相手は、デモノイドロードである。
    「気を付けて、行ってきてね」
     みもざは激励の言葉を掛けて、灼滅者たちを送り出した。


    参加者
    皇・ゆい(始まりの刃・d00532)
    王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644)
    天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)
    夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)
    鳳・紅介(ブラッディエッジ・d15371)
    ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)
    久条・統弥(未熟な怪物・d20758)
    天月・神影(機械仕掛けの鳥籠少女・d21060)

    ■リプレイ


     陽は西に傾いていた。
     灼滅者達は事件が発生している民家の前に辿り着くと、無造作に開け放たれたままの門扉を潜った。
     玄関から、堂々と家の中に足を踏み入れる。
     ムッとするような血の臭いが鼻を突いた。皇・ゆい(始まりの刃・d00532)は、僅かに顔を顰めた。
     廊下に肉片が転がっていた。男女の区別も、年齢も分かりようもないほどに崩れた肉の欠片だ。
    「――ひどいね」
     惨状を目の当たりにした王子・三ヅ星(星の王子サマ・d02644)は嘲笑し、呟いた。胸の痛む光景だった。しかし、自分達には彼らを弔ってやる時間は与えられていない。今回は、時間制限のある戦いだったからだ。
    「ニーニー……」
     廊下の突き当たりから、か細い鳴き声が聞こえた。子猫のものだろう。どうやら、まだ子猫は無事らしい。
    「……何だ? まだ、いやがったのか?」
     くぐもった声が聞こえた。この声の主が、デモノイドロードの救世・太門(くぜ・だいもん)だと思えた。
     廊下に向かって移動しようとしているのが、気配で分かった。
     灼滅者達は、その進行を妨げるように、部屋の入り口に立ち並んだ。
    「何だ、お前ら? この家のモン……てわけじゃなさそうだな」
     灼滅者達に対し、無遠慮に物色するような視線を浴びせながら、救世・太門は不機嫌そうに鼻を鳴らした。
    「このひとたちもこわかったでしょうね、きっといたかったでしょうね」
     子猫を保護し、天月・神影(機械仕掛けの鳥籠少女・d21060)は大きな瞳を伏せた。
    「さっさと始めようよ」
     既に戦う準備ができている鳳・紅介(ブラッディエッジ・d15371)が言った。のんびりとしいたら、この場の空気に酔ってしまいそうだった。そうなる前に、戦闘を開始したい。
    「とりかごのかぎをここに」
     神影もスレイヤーカードを解放した。
    「私が時間を見ておく」
     天宮・黒斗(黒の残滓・d10986)は腕時計を確認した。暗闇でも時刻が見えるようにと、発光機能のある腕時計を持ってきていた。家の中が薄暗いので、その選択は正解だったようだ。
    「今回は時間に追われた戦闘かな。ふふ……それはそれで、ヤリ甲斐はあって良いよね」
     紅介は武器を構えた。ヴァンパイアが到着するより先に、何らかの結果を出さない。戦闘開始から8分の間に結果が出せなければ、9分に突入した時点で撤退すると決めていた。
    「何モンか知らねぇが、やる気満々だな。こいつは楽しめそうだ」
     救世・太門は、ぺろりと唇を舐めた。
    「ボクには理解のできないご趣味をお持ちの様で。少し痛い思いをしてもらわないと」
    「はん? 何言ってやがる」
     三ヅ星の言葉を、救世・太門は笑い飛ばした。
    「何故、俺が痛い思いをしなけりゃならん?」
    「因果応報っていうだろう?」
    「馬鹿馬鹿しい」
     畳の上に、救世・太門は唾を吐き捨てた。
    「いままでかよわいひとたちをいじめてきたのですから、天月たちがいじめかえしてさしあげます。天月は、あなたをゆるしません」
     銀の鳥籠型のランプを、神影は戦闘の邪魔にならない場所に置いた。淡く優しい白い光が、ふわりと周囲に広がる。
    「どう許さないって言うんだ?」
     神影の言葉を聞きながら、救世・太門はへらへらと笑う。やれるものなら、やってみろと。
    「お前の力の使い方、別に否定する気はないけど」
     黒斗が凄んでみせる。
    「狩る者は狩られる覚悟を持っていないといけないんだぜ。弱肉強食。殺し続けてきたんだから、充分知ってるよな?」
    「分かってるぜ。だから、次はお前らの番だ」
     ハノン・ミラー(ダメな研究所のダメな生物兵器・d17118)がサウンドシャッターを展開しながら前へと踏み出し、夢代・炬燵(こたつ部員・d13671)は僅かに後ろに下がる。
    「これ以上被害者がでないように灼滅してしまいましょう」
    「死にたいやつから掛かってこい。肉片に変えてやるぜ」
     炬燵の言葉にニタリとした笑いを返すと、救世・太門はその体をデモノイドへと変化させた。


     相手は1人。対して、こちらは8人。
     時間さえ気にしなければ、有利に戦いを進めることができる。しかし、時間制限のある戦いでは、それ相応の戦い方が必要になってくる。
     救世・太門の視線が、自分の正面に回り込んできた久条・統弥(未熟な怪物・d20758)を捉える。
    「いよう、ご同輩。何でそっちにいるんだ?」
     異形の体から救世・太門の姿へと戻り、笑い混じりに統弥に問い掛けた。統弥から自分と同じ力を感じ取ったからであろう。
    「ボクはお前とは違う」
     統弥は中段の構えから、重い斬撃を繰り出した。
    「おっと」
     救世・太門は戯けるような仕草でそれを躱すと、再びデモノイドの姿へ変化した。自分の意志で闇落ちを自在にコントロールすることができるのが、彼らデモノイドロードの特徴のひとつだった。
    「遊んでやがる……」
     紅介は舌打ちした。戦闘開始から、既に3分が経過していたが、有効打を与えていない状況だった。
     ディフェンダーとして最前列で戦っているハノンは、強烈な攻撃を2回もまともに食らってしまい、早々に危機的な状態に陥っていた。
    「人を殺すことはそんなに楽しいの?」
     ハノンの問い掛けに、デモノイドは表情を歪めた。笑っているような表情だった。肯定しているのだろう。
     神影の祭霊光が、即座にハノンの傷を癒す。
    「力の使い方は人それぞれだけど……殺す為だけに使う力は、ただの暴力に過ぎないわ……」
     ゆいの放った影が、鋭い刃となって救世・太門に襲い掛かる。更に、炬燵の投じた眠りへと誘う符が飛来してきた。
     デモノイドは符は回避したものの、影の刃までは躱しきれなかった。それでも咄嗟に体を捻り、まともに食らいはしない。その巨体に似合わない機敏な動きだった。
    「俺は、大切なものを守るためにこの力を使う!」
     巨大な刃へと変化した統弥の腕が、デモノイドの腹部に深々と突き刺さった。
    『ぐっ』
     デモノイドが痛みに呻く声を上げた。
    「君が力の使い方を間違う度、君を正しに来るよ」
     バスターライフルの銃口をデモノイドの青い肌に押し付け、三ヅ星は零距離でバスタービームを打ち込む。
     まともに食らったデモノイドは、思わず半歩後退した。
    『があああ!!』
     デモノイドが反撃してきた。
     野太い腕が、唸りを上げて振り下ろされる。
     追撃を伴う強烈な一撃だ。
     直撃を食らった炬燵が、その場に崩れ落ちた。


     5分が経過していた。
     ディフェンダーの枚数が足りないと感じたゆいは、キャスターの位置から前線へと飛び出す。
     デモノイドは執拗に神影を狙っていた。彼女が守りの要だと分かったからだ。
     既に深手を負っているハノンは、彼女を庇える状態に無い。それ以前に、味方を守ろうという意識が乏しかった。なので、自分が盾になる必要があると、ゆいは判断したのだ。
     決定打を与えられぬまま、悪戯に時間だけが経過していく。
     優勢なのはデモノイドの方だった。最低限の目的である、恐怖を与えることすらできていない。
     灼滅者達の間に、次第に焦りが広がる。
     このままではまずい。
    「6分経過」
     黒斗が仲間達に時間を伝えた。残り2分で、何らかの結果を出さなければならない。
     深手を負っていた紅介だったが、自身の傷を癒すより、相手を攻撃することを選択した。時間が無いのだ。傷の治療は後回しにせざるを得ない。
     デモノイドの脇腹目掛け、紅介は閃光百裂拳を叩き込む。
    『おおお!!』
     猛烈な唸り声を上げながら、デモノイドは腕を振るった。巨大な刃が、紅介の胸を深々と斬り裂く。
    「!?」
     大量の血を噴出させながら、紅介がその場に倒れた。
     三ヅ星が掌に闘気を集中させ、閃光を撃ち出す。直撃したが、致命傷を与えるには至らない。だが、黒斗が死角に飛び込んでいた。ティアーズリッパーで、デモノイドの強固な皮膚を抉る。
     それでも、デモノイドには決定打ではなかった。
     残念なことに、灼滅者達からは意志の疎通があまり感じられなかった。一丸となって攻撃を加えることができたなら、もっと高いダメージを与えられたかもしれない。しかし、現状は彼らの攻撃は散発であり、それ故に、敵にも見切られやすかった。
    「1分前よ」
     ハノンが時間を確認する。
     紅介と炬燵は既に戦える状態に無い。
     あと1分で結果が残せるのか?
     灼滅者達の脳裏に、絶望の二文字が浮ぶ。


    『ぐおぉぉぉ!!』
     統弥が繰り出したDMWセイバーを野太いその腕で弾くと、デモノイドは雄叫びを上げた。振り上げた腕を、三ヅ星目掛けて振り下ろす。
    「がはっ!?」
     影業とバトルオーラが彼を守るべく前面に展開したが、デモノイドの腕はそれを突き破り、三ヅ星の胸に痛打した。一瞬、呼吸が止まる。遠のく意識を、無理矢理にその場に留め、三ヅ星は辛うじて踏み止まった。
    「だんざいのかぜですよ」
     攻撃を優先すべき時間帯に突入していることを察知した神影は、デモノイドに神薙刃を見舞う。
     ゆいが、黒斗が、渾身の一撃を叩き込む。ノーガードの殴り合いだ。
     だが、無情にもその時が来てしまった。
     戦闘開始から9分。撤退の時間だ。
     撤退の気配を感じ取ったのか、デモノイドが追撃の構えをみせた。その前に、ゆいが立ちはだかる。
    「すまない」
     黒斗はゆいの背中に一声掛けると、気を失っている紅介の体を抱え上げた。炬燵は統弥が抱えた。
    「あうっ」
     デモノイドの凄まじい攻撃を、ゆいはその体で受け止めた。皆が逃げ切るまで、この場を引く気はなかった。
     意識が白濁の中に埋もれていく。体がふわりと浮いたような気がした。
     その瞬間、ゆいは意識を失った。


     完敗。
     救世・太門を灼滅することはおろか、彼に恐怖を与えることすらできなかった。
     相手は自在にデモノイドに変化することができるデモノイドロードだ。デモノイドの戦闘能力は、灼滅者約8名分。それは、初めから分かっていたことだ。
    「……悔しいな」
     意識を取り戻した紅介が、ポツリと呟いた。
    「ああ……」
     三ヅ星が応じた。彼の傍らには、意識を失ったままのゆいが横たわっていた。仲間のために負傷した彼女を担ぎ上げ、デモノイドの追撃を振り切って撤退したのは、三ヅ星だった。
     幸運にも、救世・太門は民家の外までは追い掛けてこなかった。
     民家を脱出した際、視界の隅にどこかの制服を着た女生徒の姿を捉えたが、それ以上の確認をしている余裕はなかった。
    「お前が狩りを続ける限り、私達はお前を追い続ける。何処に居ても見つけ出してやる」
     黒斗は、民家がある方向を見詰めた。恐らく、今頃はヴァンパイアと接触しているだろう。救世・太門と再び見える機会があるのかどうかは分からなかったが、次に出会ったときは確実に灼滅してやると心に誓った。
    「わたしは知っている。死ぬことは怖いことなんだと」
     ハノンが言葉を零す。傍らで意識を失っている炬燵は、しばらくはまともに動けそうにない。
    「ニーニー……」
     か細い猫の鳴き声が聞こえた。
    「良かった。この子は救えたんだね」
     統弥が神影の腕に抱かれている子猫を覗き込んだ。
    「ごめんね。かたきをとってあげられなかった……」
     神影の声は、消え入りそうだった。
     救えなかった幾つかの命は、彼らの責任では無い。だが、ひとつの小さな命を救うことができた。
     苦い経験も、成長するためには必要なことだろう。
     陽は西の空に沈みかけていたが、灼滅者達はなかなかその場を離れることができないでいた。



    作者:日向環 重傷:夢代・炬燵(こたつ部員・d13671) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月7日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:失敗…
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