純情オニオン

    作者:大神鷹緒

     それは、玉葱畑広がるとある地方の、学校帰りの出来事だった。
    「おまえらっ!! なんでそんな「玉葱嫌い」だなんて言うんだよっ!!」
    「だって玉葱って辛いじゃん! うまくねーじゃん!」
    「カレーの玉葱は甘いだろ!」
    「えーっぬるぬるしててアタシやだーっ」
     玉葱好きを主張する少年に対し、玉葱嫌い派の少年少女は一歩も譲ろうとしない。
    「玉葱って切ると涙出るでしょー、あれもイヤー」
    「それにさー、あの捨てられてる玉葱、ちょーくせーしなー!」
     たしかに、その少年の言うとおり、畑の隅には、間引かれた玉葱が山積み状態で腐っていて、独特の悪臭を放っていた。
    「けどなぁっ! 玉葱はこの町の特産品なんだぞ! 授業でもそう教わったじゃないか!」
     少年は、プルプルと肩を震わせた。
     肩を震わせ、玉葱嫌いな友人達を睨みつけた。
    「でもやっぱり苦手―」
    「なーっ」

    「おまえら……おまえら……っ! 玉葱を……玉葱をバカにすんな!!」
    「あっ黄太!」
     黄太と呼ばれた少年は、ランドセルを投げ捨てると、広大な玉葱畑の中心に向けて走り出した。
     そして───
    「純ッ! 情ッ! オニオン!!」
    「えっ、黄太くん……!?」
    「うわぁぁあ変身したァァ!!」
     地元の玉葱を愛する少年は、玉葱愛を拗らせて、玉葱怪人となってしまった……!

     
    ●純情オニオン
    「俺もガキの頃、玉葱って苦手だったよなぁ……今は全然普通に食うけど」
     オニオングラタンスープのパイをスプーンで砕きながら、姫之崎・兵多(高校生エクスブレイン・dn0045)は、ふと幼い頃の記憶を巡らせた。
    「今は寧ろ好きかもしれねぇ……ってか、まぁそれはいいんだ。それより、札幌で、玉葱好きな小学生が闇落ちしちまってな」
     少年の名は、東・黄太(あずま・こうた)。小学校5年生。
     玉葱栽培が盛んな地で産まれ育った為か、幼い頃から玉葱が好きで、特に自分の名前と同じ「黄」の字のある、地元産玉葱「札幌黄」が大好きだった。
     しかしある日、友達に、玉葱は嫌いだと言われてしまった。
    「言った方も、別に悪気があったワケじゃねぇんだろうけど、黄太にとっちゃ大ショックだったんだろうよ」
     闇落ちし、自らを「純情オニオン」と名乗る黄太は、いま、玉葱畑で玉葱嫌いな友達を追い回している。畑にいた何人かの大人が気付き、慌てて子ども達を助けに向かったのだが、ダークネスの力の前では、徒に犠牲を増やしてしまうだけにもなりかねない。
    「けどな、黄太はまだ、完全にダークネスになっちまったワケじゃねぇ」
     まだ間に合うと、兵多は言った。
     そしてその為には、灼滅者達の力が必要だとも。

     さて、問題の黄太なのだが、自身を「純情オニオン」と名乗り、現在、収穫を終えた玉葱畑で、玉葱嫌いな友達2人を追い回している。
    「まぁ今はまだ泣きながら追いかけ回すだけなんだけど、ちょっとでも間違ってみろ、大惨事だ」
     もし純情オニオンが本気の泣きに入ってしまえば、その泣き声は衝撃波となり、周囲に甚大な被害をもたらすこととなるだろう。
     また、投げつけてくる玉葱は、腐っていて、臭い。そして当然ながら当たると痛い。
    「あとはなんだ、アレ、葱坊主っていうのか。あいつでブッ叩いてくるくらいだ」
     正直、実力の程は大したことはない。
     しかし、彼はまだダークネスではない。
    「黄太がもし、灼滅者の資質を持ってんだとしたら、完全に堕ちちまう前に、お前らの力でどうにか救ってやって欲しいんだ」
     しかし、もし完全なダークネスとなってしまうようであれば……。
    「もし、ダークネスになっちまうようだったら……その前に、灼滅してやってくれ……」
     兵多は、低い声でそう呟いた。
    「色々とさ、頼むな……」
     そして、テーブルに両手をついて、静かに深く頭を下げた。


    参加者
    百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)
    風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)
    不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)
    小清水・三珠(茨城沙悟浄・d06100)
    藤佐・萬司(登頂戦士フジサンマン・d06246)
    高野・ひふみ(殺人鬼・d11437)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    ソフィ・ルヴェル(カラフルキャンディ・d17872)

    ■リプレイ

    ●玉葱畑で捕まえて
     秋晴れの玉葱畑に、子ども達の声が響く。
     それは、一見すれば、鬼ごっこをしてはしゃいでいるようにも思えたかもしれない。
    「うわぁぁーーん! 玉葱バカにすんなぁーーー!!」
    「いやぁー! 黄太くんやめてー!」
     黄太……いや、純情オニオンと化した少年は、泣きながら葱坊主をブンブン振り回していた。
    「あっ、おいっ! 何やってんだ!」
     近くにいた大人達が異変に気付き、止めようと追いかける。
     だがそれより早く、彼らの間に割ってはいる影があった。
    「行けっ、あらかた丸!」
    「バウッ!」
     しゅばーんと飛び出したのは、パニックテレパス展開中の狼幻・隼人(紅超特急・d11438)の霊犬、あらかた丸だった。
     自主的に、というよりは、隼人に首根っこ掴まれて無理矢理にな感じもしないではなかったが。
    「タマネギを武器にするもんじゃないぜ、タマネギが泣いてるぞ!」
     突然のことに驚き、足を止めた純情オニオンの前に、すかさず小清水・三珠(茨城沙悟浄・d06100)が立ちはだかる。更には、ライドキャリバーのボルケーノ二号を駆る藤佐・萬司(登頂戦士フジサンマン・d06246)も、赤いマフラーを靡かせて、颯爽と。
    「玉葱は俺も好物だぜ。似た者同士、仲良くやろうや」
    「な、なんだよおまえら!」
    「青空の下、畑で鬼ごっこ。やはり子供は元気が一番じゃのぅ」
    「うるせー鬼ごっこじゃねー!」
     腕組みで頷く不知火・読魅(永遠に幼き吸血姫・d04452)に、純情オニオンから突っ込みが入った。
     だがその隙に、百瀬・莉奈(ローズドロップ・d00286)と高野・ひふみ(殺人鬼・d11437)は、子ども達を素早く純情オニオンから遠ざけることに成功した。
    「え、わっ……お姉ちゃん……」
    「大丈夫コン。安心してこっちに来るコン」
     片手に狐のパペットを装備した莉奈は、もう片手で女の子の手を握り、引いた。そしてひふみは、男の子の手を引いて走る。
     一方、子ども達を助けようとしていた大人達へは……。
    「ここは私達に任せて」
    「えっ、嬢ちゃん……!」
    「あ、あんた達は?」
    「……通りすがりの正義のヒーローです!」
     ソフィ・ルヴェル(カラフルキャンディ・d17872)は、ライドキャリバーのブランメテオール……通称ブランに跨ったままそう言って大人達の行く手を阻むと同時、ニコッと可愛らしい笑顔を向けた。
    「皆さんは、この子達を連れて安全なところまで逃げてください」
     無感情にスッパリと放たれたひふみの言葉に、大人達はどうしたものかと一瞬顔を見合わせたが、ここは彼らに任せるが得策と理解したか、子ども達と共に、玉葱倉庫の向こう側まで走り出した。
     そして、彼らと純情オニオンの距離が十分に離れたのを見計らい、読魅が殺界を形成する。
    「あっ、待てー!」
     純情オニオンは、逃げる友達を追いかけようとした。
     けれど、そうはさせじと、風花・クラレット(葡萄シューター・d01548)が叫ぶ。
    「止まりなさい! 止まらないと畑の玉葱がとんでもないことになるわよ!」
     その手には、畑に落ちていた、間引かれた玉葱がしっかりと握られていた。
    「玉葱は悪くない!!」
     純情オニオンの持つ葱坊主が、灼滅者達に向けられる。
     やはり、戦いは回避できそうにないらしい。
    「大っ噴っ火ー!」
    「その悲しい力を……私たちが止めます、変身!」
     声高く、解除コードを叫ぶ萬司。ソフィはデッキを前方へ掲げながらポーズを取る。
     少年の心に、真の玉葱愛を取り戻す為の戦いが、今まさに始まろうとしていた……!

    ●君の玉葱愛は本物か
     6人の灼滅者達は、サーヴァント達と共に純情オニオンを取り囲んだ。
    「読魅ちゃん、それは?」
     囲みながら、すちゃりとゴーグルとマスクを装着する読魅に、三珠が奇妙な視線を向ける。
    「涙の元の刺激成分は、鼻からも侵入してくるからの。ゴーグルだけでは意味がないのじゃ」
     そういうものなのか。
     はたしてそれは、サイキックにも有効なのかどうなのかと、灼滅者達の頭上にクエッションマークがいくつか浮かんだ気もするが、今はそんなことを考えている場合ではない。
    「玉葱嫌いな子を追い回してどうするのよ。嫌いな子を好きな子にしてこそ純情オニオンの真の力なんじゃないの!?」
    「だってあいつら……!!」
     クラレットの取りなす言葉も、泣き叫ぶ純情オニオンにはまだ届きそうにない。
    「それなら……ずんだキーック!」
     ならばお仕置きとばかりに、枝豆パワーを秘めた踵落としで先制攻撃を仕掛けるクラレット。
     間髪入れず、読魅の黒死斬に三珠のフォースブレイク。
    「釈迦に説法かもしれねえが、タマネギの糖度ってのは果物に匹敵するんだぜ」
    「知ってるよそんなこと!!」
     死角からの斬撃に足の自由を奪われながらも、純情オニオンは葱坊主をブンブン振り回してきた。
    「ッわ危なっ!」
     ちょっとちくちくもふもふした葱坊主の先端が、隼人の鼻先を掠る。
    「くそっ……行くぞあらかた丸!」
    「バウゥ!」
    「いくら収穫終ったいうてもたまねぎの畑で暴れとったら来年に悪影響あるかもしれんやろ? ちょっと落ちついたれや」
     息のあった、紅蓮斬と斬魔刀。
    「悲しみを救う為に……いきましょう、ブラン」
     自分の好きなものが嫌いと言われるのは、確かに辛い、悲しい。
     しかし、だからといって、闇におちていいはずなどない。
     ソフィは、飴ちゃんの力をダイナミックに純情オニオンに叩き込んだ。
    「ッうわぁ!」
    「これが、ほんとのヒーローパワーだ!」
     今度は、萬司の富士山パワーがダイナミックに炸裂する。逆方向からは、ボルケーノ二号もフルスロットルで詰めていた。
    「くっそぉ……玉葱は……タマネギぅわあぁあぁーーーッ!!」
     純情オニオンの慟哭が、灼滅者達に襲いかかる。
    「この声、ッ……!」
     空気がびりびりと振動する。
     灼滅者達にとって、それはさほど大きな衝撃ではなかったかもしれない。
     けれどもし、これを、あの子ども達が浴びていたなら、おそらく最悪の事態を避けることはできなかったろう。
    「男の子は泣いちゃダメですよ! その悔しい気持ちと思う気持ちを前に進む力に変えないと!」
     ソフィは痛む耳を押さえながら訴えた。
     けれど、今の黄太……純情オニオンに、その言葉はまだ遠い。
    「玉葱で人を傷つけたら、玉葱が可愛そうでしょ!」
     クラレットは、ひらりと身を翻した。
    「クラレットビーム!」
     軽やかな回転とともにロッドを振れば、瑞々しい葡萄色のビームが迸る。
    「やれやれ、仕方ないのぅ」
     読魅は軽く嘆息しながら、緋色のオーラを宿した龍砕斧を振り下ろし、先程の鳴き声で削られた体力をいともあっさり奪い返した。そして隼人は、純情オニオンの動きを鈍らせようと影を伸ばす。
    「っうわぁぁーーーん!! ばかーーー!!」
     純情オニオンは、腐った玉葱を投げてきた。
    「あらかた丸バリアー」
    「バウッ!」
     それは故意か、はたまた偶然か。
     玉葱は、隼人を守る盾のように立ちはだかった……というより無理矢理盾にされていた風なあらかた丸の口へクリティカルヒットした。
    「いかんっ! 玉葱中毒やっ!」
    「あっ、ちょっ……待て!」
     玉葱を吐かせようと、今にもあらかた丸を振り回そうとする隼人を、三珠が慌てて止めた。慌てて止めて、癒しの光をあらかた丸に施した。
     そんなドタバタなうちに、避難誘導を終えた莉奈とひふみがやってくる。
    「お待たせっ! どう、黄太君は!?」
    「うむ、これがなかなかどうして意固地な子でのぅ」
     まだ折れてくれそうにないと眉を寄せる読魅に、莉奈は軽く唇を噛んで頷いた。
    「あまり使いたくはないんだけど……」
     これも彼を救う為と、莉奈は鋭い打撃と同時に、純情オニオンの体内に強い魔力を流し込んだ。
     コンコン。
     ひふみがよいつのボディーを叩く。
     それに呼応し、よいつはエンジン音を響かせると、彼女のブレイジングバーストに合わせるよう、機銃掃射を行った。
    「ッうわぁぁ!!」
    「……」
     炎にまかれる純情オニオン。
     どことなく漂う甘い香りに、焼玉葱……という思考がちらりと浮かんだような、いないような。
    「……っくぅぅ……」
     純情オニオンの身が傾ぐ。
    「よし、今楽にしてやる」
     萬司はザッと地面を蹴った。そして、跳んだ。
    「目を覚ませ、大富士キィィイック!」
    「うわぁぁーーーッ!!」
     ザッシャーーーッ!
    「黄太さん!」
     慌てて駆け寄るソフィ。
     吹っ飛ばされた純情オニオンにソフィが慌てて駆け寄ると、きゅぅぅんと目を回し、倒れる黄太の姿があった。
     大丈夫、玉葱を愛する少年は、まだ闇に染まりきってはいなかった!

    ●正義の玉葱
     目を覚まし、治療を終えても、黄太はまだえぐえぐと泣いていた。
     おそらくそれは、傷が痛む所為ではなく、玉葱への愛故に。
    「ねえ、黄太くん」
     莉奈は、黄太と目線を合わせるようにして話しかけた。
    「玉葱の良さ、黄太くんが誰よりもよく知っているよね」
    「そんなの……当たり前じゃないか……!」
     生で食べた時のシャキシャキ感、加熱した時の甘さ、どんな料理にも使える万能性。
    「あんなすごい野菜、他にないんだ!」
    「あぁ、辛味成分が強いが、加熱すればそれが溶けて甘味がハッキリわかる。更に、肉におろしたタマネギを浸ければ柔らかくなる」
    「うんっ、お肉との相性だって最高なんだ!」
     三珠からの同意を得て、力強く頷く黄太。
    「最高だよね。どんな料理にも合うし、体にもいいし、工夫次第でお菓子にもなるし!」
    「だろっ、だろっ? ……なのにみんな、辛くて不味いって言うんだ……」
     莉奈の言葉に、黄太は嬉しそうに瞳を輝かせる。しかし、友達の言葉を思い出し、またも意気消沈してしまった。
    「きっと玉ねぎが嫌いな子は、美味しくなかったから苦手になってしまったと思います……」
    「……!」
     美味しくなかったから……と言われ、黄太は、ぎっとソフィを睨み付けた。
     けれどソフィは、彼に飴ちゃんを差し出しながら、はっきりと言葉を続けた。
    「ですが、玉ねぎには色んな料理で様々な使い方があります。その中できっと美味しいものもあるはずです!」
    「それはっ……!」
     ハッとする黄太。そこに、クラレットも優しい口調で付け加える。
    「私だって子供の頃は玉葱苦手だったけど、今は好きよ。私のお母さんはハンバーグに入る玉葱の量をばれないように数年かけて増やし続けたの……」
    「えっ……」
     そう、いきなり押しつけてはいけない。
     どうすれば美味しく食べられるかを模索する、これも大事なことなのだ。
    「タマネギを武器にする前に、そういう魅力を伝えるんだ。タマネギ嫌いが振り向くような美味いものを、食わせてやろうぜ!」
     お前ならできるはずと、三珠は黄太の肩を強く叩いた。
    「私は、丸焼き玉葱はとても美味しい食べ方のひとつと思っています」
     ひふみは、よいちのボディを撫でながら、素材を生かした玉葱の丸焼きが、いかに美味なものであるかを、切々と黄太に説いた。そして、姿煮や、品種によっては丸囓りでも美味しく頂けるということを。
    「けど、生はイヤだって友達多くって……」
    「んーまぁ美味いッちゃ美味いけど」
     俯く黄太に歩み寄ったのは、生玉葱をバリムシャと囓る隼人だった。
    「ほら、たまねぎって大人の味なんや。子供の頃は嫌われる事もあるのに、お前見所あんなっ!」
    「そ、そうかなっ……!」
     幾人かの仲間達は、その食べ方はどうなんだと、内心ツッコミを入れたくて仕方なさそうな表情を浮かべた。
     しかし、誰より黄太が嬉しそうなので、それはそれで良しとした。
    「どれ、そろそろ良いかのぅ?」
     頃合いを見て、読魅が連れてきたのは、倉庫裏に避難していた黄太の友達だった。
    「黄太……」
    「きみたち、玉葱ってそんなにイヤ?」
     まだしゅんと俯いたままの少年少女に、クラレットが話しかける。
    「うん、なくなっちゃえばいいのにって思う……」
    「おまえ……ッ!」
     カッとなる黄太。それを制するようにして、クラレットは彼らに問いかけた。
    「玉葱なくなったらハンバーグ消滅するけど本当にいいの?」
    「えっ……」
    「それは……」
     それは困ると、顔を見合わせる子ども達。
    「要は調理法だ。ちょっとこれ食ってみな?」
     萬司は、持参したオニオンリングフライを、子ども達に差し出した。
    「あっ、何これ甘くておいしい」
    「ほんとだー!」
     そして、嬉しそうにおかわりに手を伸ばしたところで、萬司は、これが玉葱であることを彼らに教えた。
    「えっ、そうなの?」
    「あぁそうだ。なぁ?」
    「うんっ! 玉葱のフライはおいしいんだぞ!」
     黄太も、嬉しそうにオニオンリングフライに手を伸ばす。
    「だったら、もうこれで仲直りできるよな?」
    「うんっ!」
    「黄太くんごめんね、玉葱まずいなんて言っちゃって」
    「んーん、でもさ、おいしいって分かってくれたっしょ」
    「ねー、もう一個食べていい?」
     子ども達は、すっかり仲直りしたようだ。
    「さて」
     けれど、まだこれだけでは終わりではない。
     黄太には、灼滅者の素質がある。
    「ねえ黄太くん、その力を莉奈達と一緒に、誰かを助けるために使わない?」
    「ぼくの力?」
     莉奈に声をかけられて、オニオンリングフライを食べながら、きょとんと首を傾げた。
    「誰かを傷つけ悲しませたりしないで、いい事に力を使えば、玉ねぎ達も喜ぶと思うなっ」
    「えっどういうふうに……」
     黄太は、不安げに灼滅者達を見つめ返した。
    「そうね、まずは武蔵坂学園に来てみない?」
     学園には、同じような能力を持った少年少女が沢山いる。
     ファミレスでオニオングラタンスープを食べるヤンキーもいる。
    「一緒に真のオニオン使いを目指しましょ」
     そう言って、クラレットは笑った。
    「どうじゃ、妾達と来てみぬかえ?」
    「お前なら、きっとほんとのヒーローパワーを身につけられるぜ!」
    「玉葱、大好きなんやろ? なっ!」
     灼滅者達は、黄太を強く勇気付けた。
    「できるかな、ぼくに……」
    「出来るって!」
     誰よりも玉葱を愛する黄太が、その力を正しく使うなら。
     きっと、素晴らしいヒーローになれる。
    「次はその力を皆の役に立つように使ってくださいね」
    「う、うんっ!」
     微笑むソフィに、黄太はグッと笑顔で頷いた。
    「ところで……」
    「ん?」
     三珠の声に、皆が振り向く。
    「オレ、カレー食いたいなぁ。札幌黄を使ったカレーが美味いって聞いてさ」
     一体どれ程の風味を引き出してくれるのかと、三珠はごくりと生唾を飲みこんだ。
    「だったら、学園に帰って皆で作りましょう!」
    「あっいいなそれ!」
    「ぼく、最高の玉葱用意するよ!」
    「お願いします。札幌黄はまだ食べた事の無い品種なので、食べ頃の見分け方を教えて頂きたいですね」
    「うんっ、任せて!」
     ひふみの言葉に、黄太は、嬉しそうに笑った。
     力ではなく、味と心で、玉葱の素晴らしさを広めるために!
     ここに、新たなご当地ヒーローが誕生した!!

    作者:大神鷹緒 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 4/キャラが大事にされていた 4
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