コワスモノ

    作者:飛翔優

    ●コワスモノ、誘う女
     ――最後の支柱を、男は砕いた。
     天井が落ちて行く。
     恐怖に囚われ動けに人々へと向かっていく。
     断末魔すらかき消す轟音が、男の頬を緩ませる。
     崩落した建物の各所を染める赤を眺め、くっくと喉を鳴らしていた。
     気づけば手に入れいていた、強大なデモノイドの力。
     破壊し、破壊し、破壊する。破壊のためだけの力と認識し、男は破壊し続けた。
     小屋を、家を、アパートを。橋を、獣を人間を!
     破壊し、破壊し、破壊し尽くす。それこそ男が望むこと……!

     ……だからこそ容易いと、破壊の美酒に酔いしれている男の元へとやって来た朱雀門高校の吸血鬼・風祭香織はほくそ笑む。
     破壊の矛先を、望む方向へと導けば良い。
     自らへと牙を向くようならば、その時に処分すれば良いだけなのだから……。

    ●放課後の教室にて
     集まった灼滅者たちを前にして、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は切り出した。
    「皆さん、デモノイドロードのことは知っていますね?」
     デモノイドロード。普段はデモノイドヒューマンと同じ能力を持っているが、危機に陥るとデモノイドの力を使いこなし、デモノイドとして戦うことができる。
     まるで、自らの意思で闇堕ちできる灼滅者……という厄介な存在だ。
    「さらに、厄介なことにデモノイドロードが事件を起こした場所にヴァンパイアが現れ、デモノイドロードを連れて去っていく……そんな光景が見えました」
     まさに、クラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)の懸念、デモノイドロードを自勢力に取り込もうとするダークネスが現れる、というものが現実になってしまった。
     現時点で、ヴァンパイア勢力との全面戦争は避けなければならない。
     事件を穏便に解決するには、デモノイドロードが事件を起こしてから、ヴァンパイアが現れるまでの短い期間に、デモノイドロードを倒さなければならない。
    「厄介な状況ですが、どうかよろしくお願いします」
     頭を下げた後、葉月は地図を取り出した。
    「皆さんが赴く当日、深夜零時頃。デモノイドロード……壊を自称する男は、この場所にある古びた民宿にやって来ます」
     壊の望みはただひとつ、破壊。
     民宿の支柱や壁を破壊し、人々を押しつぶして殺そうとしているのだ。
    「幸い、壊が民宿へと辿り着く前に接触することができます。場所としては……この道路ですね」
     道としては車が悠々とすれ違えるほどに広いため、戦いに関して気になるような点はない。
     しかし、デモノイドロードは悪人としての性質が強い。
     今回の場合、誰かが倒れない限り人質の心配はないものの、逃亡のおそれは依然として残る。左右が塀になっているという地形を活かして、簡単に逃走できない状況を作り出すべきだろう。
     肝心のデモノイドロード・壊の力量は高く、性質は破壊力特化。
     技はデモノイドヒューマンも同質のものを用いることができるが、特に刃による一撃を好んで使用してくる。反面、護りの甘いところがあるようだ。
    「また、ヴァンパイアが現れるのは、デモノイドとの戦闘を開始してから十分前後と思われます。ですので、確実を期すのならば、八分以内にデモノイドロードを灼滅して撤退する必要があるでしょう」
     肝心のヴァンパイアは、朱雀門高校のヴァンパイア。名を、風祭香織。
    「もしかしたら、以前に遭遇したことがあるかもしれません。とある高校を、色香で籠絡しようとしていたヴァンパイアです」
     特徴は、艶やかな黒髪を持ち柔和な笑みを浮かべている、一見優しそうな優等生。しかし、内実は男を惑わす魔性、色香で男を支配する悪女。
     力量も、一人で十分八人を相手取れる程高い。デモノイドロードとの戦いで消耗した状態では、勝利することは難しい。
    「ですので、壊を灼滅する前に彼女が現れた場合、戦闘を中断して撤退して下さい」
     以上で説明は終了と、葉月は地図を渡しながら締めくくる。
    「相手の力量が高く、時間制限もある戦い。厳しい物になると思います。しかし、皆さんならば達成できると信じています。そして何よりも……皆さん無事に帰ってきて下さいね? 約束ですよ?」


    参加者
    鵺鳥・昼子(トラツグミ・d00336)
    小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)
    朧木・クロト(ヘリオライトセレネ・d03057)
    焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    仁科・あさひ(明日の乙女・d19523)
    金剛・ドロシー(ハイテンション風小動物娘・d20166)

    ■リプレイ

    ●コワスモノを壊す者
     午前零時前。
     一日の営みを終えた商店街を抜けた先、民宿へと繋がる、塀を持つ建物が立ち並んでいる道でのこと。
     塀の裏に潜み息を潜めている仁科・あさひ(明日の乙女・d19523)は、肩を落としながらひとりごちた。
    「いろんなダークネスがデモノイドを利用しようとしてるって事だよね。……あんまり気分よくないなぁ」
     風に乗り仲間たちの耳へも届いたが、返事はない。する余裕が無い、というのが正しいか。
     物陰から見つめる先。浮ついた笑みを浮かべた男がやって来たのだから……。
    「行くぞ!」
     時間も同一。
     デモノイドロードの壊であると断定し、焔月・勇真(フレイムアクス・d04172)がいち早く飛び出した。
     動きを止めた男に対し、オーラで固めた拳を叩き込む。
    「っ!」
    「勝手に壊そうったって、そうはいかねえからな」
     両腕をクロスさせて受け止めた男……壊へと、勇真のライドキャリバーが全力突撃をかましていく。
     右足で押し返されていく様を見るや、自身のライドキャリバーに跨り背後の側から飛び出した鵺鳥・昼子(トラツグミ・d00336)が、回転ノコギリを唸らせながら斬りかかった。
    「不意打ちで悪いがきっちり灼滅させてもらうぜ、コワスモノ!」
    「ちっ」
     度重なる攻撃を、受けきれるはずもなく、壊の体が大きく揺さぶられていく。
     体勢を整える隙など与えぬと、同様に後方へと回った小碓・八雲(鏖殺の凶鳥・d01991)が下から上へと切り上げた!
    「まずは動きを殺すッ……!!」
     動きの自由を奪えば、それだけ攻撃は容易く通る。
     もっとも、反撃まで抑えられるわけではない。
     壊は体中に力を込めると共に灼滅者たちを押し返し、腕を巨大な刃へと変質させた。
    「なんだか知らねぇが、俺のじゃまをするなら容赦はしねぇ。破壊だ、破壊してやる!」
     朧木・クロト(ヘリオライトセレネ・d03057)を切り裂いて、口元に薄い笑みを浮かべていく。
     流れる血の勢いは、概ね想定していた通り。
     一度だけ横目に捉え、ハルトヴィヒ・バウムガルテン(聖征の鎗・d04843)は壊に向き直る。
    「手加減すると、面倒なので――本気で行きます」
     気合を入れ、影を縄状に変えて伸ばしている。
     手首を、足首を縛り付け、動きの自由を阻害し始めて……。

    ●Limit Battle
    「アナタの手筋は全て読みきっていマス。……灼滅者をなめてはいけマセンヨ?」
     クロトを癒やすため、金剛・ドロシー(ハイテンション風小動物娘・d20166)がギターを掻き鳴らす。
     心も体も弾むような、軽やかで明るい戦の歌を響かせて、エンジンの軋みを修正する。
     改めて全力を出せるようになった状況で、あさひは改めて言い放った。
    「さてデモノイド君。君のやろうとしていることはすきっとお見通しだよっ!」
    「ほう?」
    「絶対、させないんだから!」
     もしも好きにさせてしまったなら、道の先にある民宿が破壊されてしまう。たくさんの命が、壊の手によって奪われてしまう。
     それだけはなんとしても避けなければならないと、ガトリングのトリガーを引いていく。
     爆煙の弾丸で打ち据え、想い高なるままに熱き炎を燃え上がらせた。
    「ちっ」
    「そこだ!」
     陽炎に身を委ねつつ、クロトが杖を突き出した。
     胸を押し戻すと共に魔力を爆裂させ、更に一歩、後方へと退かせることに成功する。
     衝撃を逃しきれぬか、足元も未だおぼつかない。
     好機、と片倉・純也(ソウク・d16862)が瞳を光らせて、氷の弾を発射した。
    「一応聞いておこう。名をなんという」
     壊は短く吐き捨て、打ち払う。
    「壊、だ」
     勢いのまま八雲へと向き直り、刃と化した腕を左肩に食い込ませた。
     腕を落とさんと、ギリギリと食いこんでいく巨大な刃。
     させぬと背後へ回り込んだのは、薙刀のように反った宝飾を持つ杖を掲げるハルトヴィヒ。
    「吹っ飛べ、デモノイドモドキ――!!」
     何度暴れようとも止める決意はある。
     けれど、倒しておくに越したことはない。
     強い思いを込めた杖は右肩へと食いこんで、爆裂により八雲から引き剥がす事に成功する。
     ならば……と、壊は勇真へと向き直る。
     電灯に鈍く光る刃を掲げ、力任せに振り下ろし……。

     自身のキャリバーが放つ機銃に合わせ、勇真は光輪を射出した。
    「勝手に壊そうったって、そうはいかねえからな」
     討伐へと繋がる強い思いを紡ぎだしながら。
     少しでも早く、少しでも確実に壊を倒すため。
     機銃をさばくので精一杯だったのだろう。光輪は刃に阻まれることもなく、両脇腹を切り裂いた。
     が、壊の動きは淀まない。
     振り返り際に放たれた斬撃が、ハルトヴィヒを打ち据える。
    「みなさん、士気は絶やさずいきマショウ!」
     すかさずドロシーが歌の行く先をハルトヴィヒへと切り替えて、流れ出る血を止めていく。
    「ヒエイさん、ガードです!」
     同時にライドキャリバーのヒエイにもかばうよう命令し、当座の安全を確保する。
     もっとも……それでなお、残るダメージはある。
     二撃はまだしも、三撃目は回復が間に合わない可能性もある。
     次は治療に回るべきか? 魔力の矢を放ちながら、クロトは思考した。
     時間制限は八分。既に四分を過ぎているこの状況、手を緩めれば倒しきれない恐れもある。
     元よりその可能性も視野にいれてはいるものの、やはり灼滅したいと思う者は多い。
     クロトもその一人である。
    「……いや」
     細められた瞳の中、壊の刃が純也のライドキャリバーを打ち返した。
     今までの光景も重ねあわせ、攻撃に回り続けると結論づけていく。
     三撃受けられないのなら、二撃に止めればいい。
     サーヴァントを含めて一人一回、時間制限まで交代して受ければ良い。
     疼く痛みを力に変えて、クロトは杖に魔力を込める。
     もちろん、時間を逐一確認しながら……。

     ライドキャリバーを軋ませた凶刃が、今度は純也の右肩を打ち据えた。
     刃へと変貌している腕に血を走らせてなお、純也はどこか涼しい顔。
    「此方の刃、折り壊せるか」
     淡々とした声音で言い放ち、左腕を巨大な砲台へと変化させていく。
     酸の砲弾を浴びせかけるとともにライドキャリバーを突撃させ、肉体の崩壊を加速させていく
    「ちっ、仕方ねぇ」
     故にだろう。壊は瞳を見開いて、己の体を肥大化させた。
     蒼き皮膚を持つ巨人となり、更なる力を獲得する。
     即ち……。
    「壊すつもりが壊されていく気分はどうだ? この眼に映る殺戮経路がアンタを逃がさない!」
     追い込んでいる証左だと、八雲が漆黒の弾丸を打ち込んだ。
     変貌してなお変わらぬ砕けた肉体の内側に、更なる毒素を送り込んだのだ。
     そしてなお、炎は盛り続けている。氷もまた、攻撃を重ねる度に壊を蝕み続けている。
     増幅させると、昼子がライドキャリバーを軽く蹴る。
    「折角だ、派手にやろうぜ!」
     エンジン全開全速全開! 左の脛へとぶち当てると共に跳び上がり、巨大な胸板を稲妻状に切り裂いた!
     蒼き巨体が大きく揺らぐ。
     炎も勢いを増していく。
    「っし、この調子で……!」
     昼子はライドキャリバーに着陸し、一旦後方へと退いた。
     苦し紛れに振るわれた刃はヒエイを捉えたけれど、勢いはない。
     正面から受け止めたヒエイの体に、大きな傷は刻まれず……。

    ●勝利を我が手に
     残り時間、一分。
    「切り開きます、続いて下さい!」
     ハルトヴィヒが大鎌と槍を足したような得物で弧を描き、皮膚を斜めに切り裂いた。
     すかさずあさひが酸の砲弾を浴びせかけ、堅き筋肉をも破壊する。
    「さて、私達から逃げられると思わないでよね? ……何度だって、来るから。同じ事をしようとする限り」
     いざとなれば逃げる。
     ならば精神的に追い詰めるとの文言は、果たして壊に届いただろうか?
     少なくとも、壊は未だ逃げはしない。
     刃へと変えた右腕で、昼子のライドキャリバーを打ち据えた。
     が、破壊された様子はない。
     治療も――。
    「最後デスし……攻めマスヨ!」
     ――いらぬと、ドロシーがギターを掻き鳴らす。
     激しきビートに乗せられて、ヒエイが体当たりをぶちかました。
     体勢を整える隙など与えぬと、勇真のライドキャリバーが巨体を機銃で打ち据える。
    「……デモノイドロードにも、ヴァンパイアにも勝手な真似はさせるわけにはいかねえからな!」
     勇真自身も機銃の合間を駆け抜けて、炎を纏う。
     熱き想いの赴くまま、更なる火力にて打ち据える。
     ついには影にも囚われ、動きを止めた壊。
     もはや言葉も紡げぬ存在を、昼子は楽しげな笑みで見据えていく。
    「ほらよ!」
     再びライドキャリバーから飛び上がり、体を回転させていく。
     反対側へと回り込んだライドキャリバーが突撃をかました後、下からえぐり込むようにしてアッパーカットをぶちかました。
    「こいつでトドメだ!決めてやれ!」
    「錐穿つッ! アンタの動きは見切っている!」
     呼応する八雲の得物は、刀と同様の金属で構成された、杖。
     一瞬の後に上空へと跳び上がり、脳天へと叩きつける。
     内包する魔力を爆裂させ、肉体をも縦に打ち砕いた!
    「……」
     静寂が、僅か八分も過ぎていない戦場を満たしていく。
     涼しげな風が、戦いの終わりを告げていた。

    「良い経験になった、壊」
     静かな息を吐きながら、純也がズブズブに溶けていく壊に手向けの言葉を向けていく。
    「しかし、出来るものだな」
     仲間たちへと向き直り、ねぎらいの言葉も投げかけた。
     もっとも、長く留まっていられるわけではない。
    「それじゃ、ちゃっちゃと引き上げよう。ヴァンパイアが来る前に」
     治療は退散した後に……とクロトが促し、みな商店街の。そして交通機関がある場所目指して走りだす。
     見送りは、空を満たす優しい月明かり。
     煌めく星々が、完全勝利を祝福してくれている。そんな気がした。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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