跳梁するうさぎ、反復横跳びを添えて

    作者:黒柴好人

    「――でさー、あの時の俺ってばもうアレでさ」
    「待て、何の脈絡もなく『でさー』とか言い出すのはどういう了見だ?」
    「随所にこういうしゃべり方を挟んでいくと、きっとどこかで物語が始まる気がするんだよ!」
    「またファンタジーなことをいうね……」
     博多の街を意志を燃やす少年と冷静な少年、そして少しばかり気弱そうな少年が歩いていた。
     彼らは友人であり、気心の知れた中という関係にあった。
    「始まるのはいいが、お前の場合はきっとモブ扱いになるだろうな」
    「モバイルオブジェクト?」
    「お前はモンスターか」
     他愛のない話で盛り上がる3人が建物と建物の隙間。すなわち路地に差し掛かり、そして通り過ぎた時の事である。
    「……ね、ねぇ。今何か見えなかった?」
    「何か見た気がするな」
    「俺よりもファンタジーな奴を見た気がする」
     路地に得体の知れない何かがいる。
     本来、こんな場所にいるはずのない、何かが。
    「数歩下がって確認してみようか?」
    「待て、何か厄介事に巻き込まれたらどうする」
    「そんときゃ……望む所よ!」
     燃える意志を持つ少年がバックステップで路地への分岐まで下がり――数瞬の後戻ってきた。
    「うさぎさんがいた」
    「ああ、そうだろうな」
     若干頬を赤らめている燃え少年に、クールな少年が静かに頷く。
     そう、彼らは何の変哲もない路地で『バニー服』を着た少女を見たのだ。
     今更バニー服についての説明は不要だろうが、もし知らない者がいればお父さんにでも聞いてみよう。
     お母さんには内緒だぞ。
    「で、でもどうしてこんな所に?」
    「それっぽい店はこの辺にないしなぁ」
    「どんな店だ」
    「とにかく、これもいいチャンスだ。ガン見すると怪しまれるからチラ見して行こうぜ!」
    「何をバカな」
    「そ、そんなのダメだって!」
    「大丈夫。俺は反復横跳びをするだけさ。そう、あの建物とその建物の間で……な」
    「「!!」」
    「いやぁ、反復したいと思ってたんだよね俺。丁度いい路があってよかったわ!」
    「「!?」」
     何もかもが不自然だ。
     だが、ケンゼンなる少年たちの目の前に現れた不自然は好奇心を刺激しない筈がない。
    「そ、それなら仕方ないよね。反復横跳びなんだからね」
    「運動とあればやむなしか」
     好奇心はキャラをも崩壊させる。
     結局。
    「ほああああああ!!」
    「アイ! アイ! アイ!」
    「ふっ、ふっ、へあー!」
     路地に視線を集中させながら反復横跳びをする3人組が誕生した。
     奇っ怪にて珍妙。即通報も不可避な状況であるが、そのリスクをもものにしない光景が目の前にあったのだから仕方がない。
     年の頃は10代半ばといったところか。髪をツインテールに結び、頭にはウサ耳を乗せ、そして体のラインを全力でアピールする水着のような露出の多いスーツのものすんごい可愛い少女を拝むことが出来たのだから。
    「あのー、きみたち。ちょっといいです?」
    「「「ふぁい!?」」」
     声を、掛けられた? バニー少女に?
     少年らは身を、お互いの顔が隠れないように微妙に位置を調節しながら硬直させ、一様に情けない声を発した。
    「わたし、実はアイドルな活動をしていまして。折角なのでわたしのファンになってくれないかなーって」
    「アイ」
    「ドル」
    「!?」
    「さっきからわたしのことチラ見してるし、気になっちゃってるのかなーって」
    「バレ」
    「てた」
    「!?」
     台詞を分割してしまう位に少年たちは動揺していた。
    「今ファンになってくれると、なんと! わたしのすぐ目の前で反復横跳びをする権利をあげちゃいます!」
    「「「なんと!!」」」
    「それだけじゃありません。特別にこのいかがわしい……もといすっごくカッコいい黒のカードもお付けしちゃうんですよ!」
    「「「それはお得!!」」」
     何の疑いもなくそれらを受け取った3人は。
    「それでは、思う存分楽しんできてくださいね! 殺人を!」
    「「「おお!! ……えっ」」」
     何を言っているんだこの子はと思えたのは一瞬のコト。
     そのままのテンションで凶行に繰り出すのだった。
     
    「時が、来たようだな」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は傍らにラジオを置き、腕時計に視線を落としている。
     そして、例の言葉を紡いだ瞬間、彼は竜頭を回した。
     時報が鳴ったのだ。
    「これで時間の狂いは消え去った。そしてお前たちに消して貰いたい狂いを今から説明しよう」
     ヤマトはうまい事を言いたい年頃だった。
    「臨海学校に次いで、HKT六六六人衆がまた騒ぎを起こしているようだな」
     以前のように『黒いカード』を何者からか受け取った少年たちが無差別に殺人を犯そうとする……ところまでは同じようだが、今回はそれよりも厄介な事態になっているという。
    「黒いカードを持った者たちは武装し、そしてサイキックに似た攻撃を行ってくるのだ」
     カードが強化されたのか、あるいは別の何かが影響しているの……そこまではまだ不明だ。
     安心したいのはカードを取り上げれば正気に戻るという点だろうか。
     もっとも、一度打ちのめさないとならないが。
    「今回は3人。友人関係にあって、それぞれをあだ名というかコードネームのようなもので呼び合っているらしい」
     コードネームとはまた格好良い要素であり、かつ中学生くらいの時期に誰もがやりそうな遊びである。
     誰もがやる……よね?
    「熱血漢の『ヒート』、冷静な『クール』、そして心優しき『ハート』……以上だ」
     この語感を似た感じに統一するあたり、仲良しトリオに違いない。
     という認識でいい……よね?
    「ヒートはファイアブラッド、クールはダンピール、ハートは……ストリートファイターに近いタイプの攻撃を仕掛けてくるようだな」
     存外肉弾派のようだった。
     それぞれが日常的に武器になり得るあれやこれを手に表通りへと飛び出していくのだが、時間帯は夕方。
     多くの人が行き交う場所での凶行を止めるのは、灼滅者とあってもなかなかに難しい。
    「彼らがそこに到達する前にどうにかして欲しいわけだ」
     少年らが最初にいる裏路地に接している道路はまだ人通りは少ないが、そのもう1本隣が主要な路となっている。
     つまり、裏路地から1本隣の路地で接触し、戦闘を行うのがベストだろう。
    「ちなみに、カードを渡した人物とは今回遭遇する事は出来ない。目の前の相手だけに集中して欲しい。他に注意すべき点は……そうだな、3人はそれぞれ『バニー! バニィィィ!!』と叫んだりするようだが……ついでに反復横跳びのスピードが尋常じゃないらいいぞ」
     想像するだに恐ろしい光景だ。
    「以上を頭に入れて、しっかりと彼らを助けてやってくれ!」
     ヤマトは決められた宿命のようにルービックキューブを取り出すと、
    「俺も、すっかりコイツに魅入られてしまったようだな……」
     それは今更な事だし、救い出す事も出来ない気がする。


    参加者
    艶川・寵子(慾・d00025)
    刻野・晶(高校生サウンドソルジャー・d02884)
    天咲・初季(火竜の娘・d03543)
    音鳴・昴(ダウンビート・d03592)
    西園寺・奏(想いを得た少年・d06871)
    エデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814)
    霧野・充(月夜の子猫・d11585)
    ドリルコ・メガロック(一角獣・d19502)

    ■リプレイ

    ●バニーインザ路地
     謎のカードを手にした3人の少年はまさに今、残酷にして無残な結末へと踏み出そうとしていた。
    「「「ヒャッフゥゥ! 狩り尽くすぜェェェ!!」」」
     反復横跳びで。
     だが、それをそれを阻止せんと立ち上がる者たちがいた!
    「やあ君たち。ちょっといいかな?」
    「「「む!」」」
     建物の壁に背中を預け、目を閉じ腕を組む刻野・晶(高校生サウンドソルジャー・d02884)が少年らに声を掛けた。
    「見たところ、君たちは『ウサギ』が好きみたいだね」
    「ナゼそれを。お前からヒャッフゥしてやろうか!?」
    「それなら……こっちにも、かわいらしいウサギがいるよ」
    「!」
     晶に促され視線を動かしたその先には。
    「えっと、この服装でいいんですよね?」
    「そう、それでいいの! はぁ……眼福ね」
     バニー服姿の西園寺・奏(想いを得た少年・d06871)と艶川・寵子(慾・d00025)の姿が!
     奏は白に近いグレーの髪に同じ色のウサ耳がぴょこんと跳ねさせ、やはり同系色の丸いしっぽがぴっちりとしたスーツに包まれたお尻の上に乗っけている。
     一方の寵子は金髪碧眼。礼服を改造した事もあり、黒を基調とした大人な雰囲気で勝負。出る所は出ていて、まさにバニーガールのお手本のような格好だ。
    「こんなに可愛い子がバニー服って、もう現実世界ではありえないシチュエーションよね! 似合いすぎて色々怖いくらい!」
    「え、と……その……ありがとうございます」
     黒くて長い耳をぴょこぴょこさせながら寵子は舐めるように奏を眺め回している。
    「貴方達もそう思うでしょ?」
     目を輝かせる寵子に話を振られた少年らは「はぁ」とか「そっすね」とか曖昧に応える。
    「なに、これでも不満だというの? こんなに可愛い『オトコノコ』なのにね?」
    「「「なん……っ!?」」」
    「妙に食いついたね、君たち」
    「だが俺は男の娘には興味ない!」
    「僕だって!」
     通称ヒートとハートは一瞬で揺さぶられた心を取り戻した。
     だが。
    「……」
    「おいお前、まさか……」
    「……そういうのも、悪くないと思うが、な」
     わぁい、1人釣れたぞ。
    「こういうの、好きなんですか?」
     奏の追い打ちに悶絶と苦悶を織り交ぜた表情で悶えるクール。
    「馬鹿野郎! 俺たちのアイドルバニーには及ばん!!」
    「そうだよ、僕たちのアイドルバニーにはね!」
    「我々のアイドルバニーか……!」
     とはいえ、謎のカードの制御を振り払うには至らなかった。
    「俺たちはあの子のために!」
     捨て置き、駆け出そうとする面々だったが。
    「ちょーっと待ったー!」
    「むう!?」
     制止する声が聞こえども、その姿はなし。
     あたりを見渡す少年らをからかうように声の主は、
    「ここだってば!」
     なんと彼らの直上から現れた!
    「ひゃっほーい! 月よりのアイドル・バニーホワイト参上! 月に代って――死にさらせーっ!」
     隣接するビルの上階から登場したバニーホワイトことドリルコ・メガロック(一角獣・d19502)は着地と同時にポーズをキメる。
     よく鍛えられているのだろう。その四肢は力強く躍動し、一点の歪みもなく固める。
     これまた露出度の高いバニー服ではあるが、不思議と違和感はない。むしろこれが正装なのではと思える程のフィット感を人々に抱かせる。
     いや。注目すべきはそこではない。ドリルコは。
    「「「ばるんばるんしよるー!!」」」
     ばるんばるんしていた。
    「見事ね。アレを見せつけられて動けるオトコノコなんているものかしら。いいえ、いないわ。後で私にも見せてくれないかしら」
    「さり気なく何を言っているんですか?」
     寵子はブレなかった。
     いや、ブレるかブレないかで言ったら寵子も揺れるでしょうけれどね?
     閑話休題。
    「キミたちの見事な反復横跳び、見させて貰ったのだ!」
     大きな動きを伴いつつべた褒めするドリルコ。
     その度にドリルコのが激しく揺れ動く。
     これを奇跡のモーメントと呼ぼう。
    「ボクからも、目の前で反復横跳びする権利をこの白いカードと一緒にプレゼント!」
    「!?」
     ドリルコは少年らに白いカードを突き出した。
     そのカードは、おむねにはさんで、あるよ。
    「一体いくら……いくら積めばそのカードとカードホルダーを独り占めする権利を得られるの!?」
    「寵子さん落ち着いてください!」
    「しかも! また今度ではなく! 今すぐ此処で反復横跳びしていいのだ!」
    「……!」
     自信に溢れた表情、そして態度でカードをずずいと前に出す。
    「さあどうするのだ? こんなチャンス、もうないかもしれないぞー?」
     両腕でむにゅんと挟み込み、縦に変形するドリルコのカードホルダー。
    「ぐ……黒の方がカッコいいし」
    「我らがアイドルバニーを裏切るワケには」
    「でも折角だから反復横跳びだけはさせてもらおうかな!」
     彼らが下したのは最も贅沢な選択。
     いかにドリルコであろうと、3人がかりの反復横跳びに耐えられるハズが……。
    「はいそこまで。ここからは私たちがお相手しますよ」
    「ああもう、良い所だったのに何奴!」
     アブない状況に待ったを掛けたのは天咲・初季(火竜の娘・d03543)。
    「さっきから見てたが、めんどくせー連中だな……おい」
     そして首に手をやり、一つ奥の路地から気だるそうに出てきた音鳴・昴(ダウンビート・d03592)に、
    「凶器を捨てて投降しなさ~いっ!」
    「楽しい日常会話は元に戻ってからもできますよ。だからそちらからは動かないようにお願いしますね」
     マテリアルロッドを横に倒した形で持ち、精一杯の大声で降参を促すエデ・ルキエ(樹氷の魔女・d08814)と、彼女とは対照的に落ち着いた物腰の霧野・充(月夜の子猫・d11585)。
     4人はESPを使い周辺の人払いを済ませて合流のタイミングを見計らっていたのだった。
     補足しておくが、初季たちは残念ながらバニー服ではない。
    「さて、これで役者は揃ったね」
     そこに晶も加わり、包囲するような陣形が完成する。
    「謀ったな!」
    「そういう事になるかな。でも、かわいらしいウサギがいたのは間違いなかっただろう?」
     くすりと笑う晶に歯噛みする少年たち。
     一触即発の空気に、クールが吠えた。
    「ならば、我らがアイドルバニーと貴様らのウサギ、どちらが絶対正義か……この場で決してくれよう!」
    「そういう勝負なんですか!?」
    「望む所よ!」
    「望むんだ……」
     イキイキしている寵子に初季はツッコミを放棄した。

    ●バトルオンザバニー
    「ゾクゾクさせてあげるのだ!」
    「「「ブヒィー!!」」」
     分かり切っていた事だが、戦闘に突入してもテンションに変化はなかった。
     ドリルコの体感的にゾクっとくる妖冷弾や彼女のライドキャリバー、ティオに跳ね飛ばされたりしても、それは彼らにとってはご褒美であるかのように居住まいを正している。
    「俺たちの心にはアイドルバニーがいる。いるが」
    「目の前の『可能性』がある以上、それを見逃せん!」
    「その瞬間は……近いよ!」
     この場の物理現象が正常に働いているのなら、それは必ずやって来る。
    「さあどんどんいくの……だ?」
     ドリルコは走っていた。跳んでいた。動きまくっていた。
     そして、いつの間にか体に当たる風が随分とダイレクトに感じられるような気がしてふと、視線を落とした。
    「「「うおお見え」」」
    「うわぁ! この人たち気持ち悪いなぁ!」
    「「「グフォガアアア!!」」」
     眼前のイケナイ光景に反復横跳びを開始した少年らをあんまりな、しかしその通りな一言と共に吹き飛ばす初季。
    「あ、思わず本音とセブンスハイロウが出ちゃった。大丈夫……って心配するのも無駄かな」
    「この程度で」
    「我らは」
    「止められな」
    「豊かな胸が見られるのはここかしら!?」
    「「「ゴハァッ!」」」
     さらに飛び出してきた寵子により、ピンボールのように跳ね返される一行。
    「服のサイズが合ってなかったのだろうかー」
    「チィ、出遅れたわね」
     寵子が駆け付けた時にはドリルコは元の状態に戻っていた。
     しょんぼりと後衛に戻っていく寵子を見送りながら初季は腕を組んで思案する。
    「なんかそそのかされて操られているのはわかるんだけど、この人たちに罪がないとは言えないような気がするな……」
    「はは……それには同意したくなるかもね」
     苦笑する晶の後ろで嘆息する昴。
    「なんかもう、そいつら放っておいてもいいんじゃねーの?」
    「いくら面倒だなって思った相手でも、そうはいかないですよっ!」
     年下のエデにたしなめられ、少し罰が悪そうにしながらも昴は天星弓を構えた。
     昴は自分の霊犬に「あいつらを気を付けて見といてくれ」とバニー服の仲間たちを指を差し向ける。
     了解したと頷き駆け出した霊犬を見届ける間もなく、
    「あー……なんだっけお前。なあ、そこの角材さ……」
    「誰が角材だ!」
     敵の珍しく正当なツッコミをも意に介する事にない昴は言葉を繋げる。
    「反復横跳びをする権利もらっといて、その程度か……」
    「なに?」
    「正直期待はずれっつーか……そんなん権利なくてもできるだろ……」
    「見くびるなよ小僧!」
    「多分同じくらいじゃねーの……」
     昴の呟きを聞くやいなや、クールは反復横跳びの姿勢からギルティクロスのようなものを発射してきた。
    「はいはい……すごいすごい」
     が、限りなく感情をフラットにした昴は難なく避けてみせた。
     そしてお返しとばかりに彗星撃ちをお見舞いしてやる。
    「ぐぬ! まだまだ速さが足りないのか!」
    「そういう問題じゃ……まあ、もうどーでもいいか」
     敵に対しての思考をやめる事にした昴に対し、充は速度を増して反復横跳びし続ける少年らに素直に感動しているようだった。
    「まるで本物のうさぎさんみたいですごいですね! 前に跳んだりも出来るのでしょうか」
    「愚問! それじゃ普通だろう!」
    「コードネームで呼び合っていることもありますし、変わった方向に進み続ける……なんだか格好いいのです」
     ぱちぱちと拍手する充を他の仲間たちは心配する。
     将来妙な方向に成長してしまわないかと。
    「でも、このままだと攻撃が当てにくいですね……」
    「正面からだと、ね。そういう時は――」
     困ったように立ち尽くす充を手招きする晶。
    「ははは、我々を捕捉できるものならしてみ」
    「じゃ、遠慮なく」
    「ンナー!?」
     宣言通りに晶と、それに続いた充の一撃が炸裂する。
    「なるほど、横に回り込めばいいのですね」
    「そう。横から見れば前後ろにしか動いてないのだから。ところで」
     動きが止まった少年らに晶は問う。
    「あなたたちにカードを渡したバニーってどんな人?」
    「あれはまさに」
    「天使」
    「!」
    「名前は知らないんですか?」
    「「「……」」」
     ついでに初季も質問してみたが、3人は一様に「しまった」という顔になった。
    「……いろいろやった後、どこかに来てねって言われたんでしょう?」
    「天使との会合に乱入するつもりか!?」
    「このいやしんぼめ!」
    「…………聞き方が間違っていたみたいね」
     晶はビハインドを伴い、ゆらりと大鎌を構えた。
     激しい攻防の末、何とか晶から逃れた少年らは次の策を打ち出す。
    「常に相手に向かって正面を向き続ければ、無敵!」
     その手があったか!
     これでは対処のしようも、
    「反復横跳び、破れたりっ!」
     あった。
     エデの紅蓮斬がいい感じに直撃し、最早無言で吹き飛ぶ野郎共。
    「な、ナゼ……」
    「反復横跳びは往復の動き……右へ動いたら左に戻って来る! それを予測して動く先を狙えば。ね、簡単でしょう?」
     小学生にもわかる弱点だった。
    「それに3人とも肉弾派じゃなくて、1人くらいは支援を担当した方がいいと思うんですよ」
    「全員突撃!」
    「何故なら間近で反復したいから」
    「支援なんてありえない!」
     エデの助言も無駄なようだった。
    「聞く耳を持たない感じですね……」
    「でも、いいんです。貴方達はもう二度と戦う必要はありませんから」
     何度も戦いたくはない相手には違いない。
     それにしてもとエデは肩を落とす。
    「バニーさんが可愛くて、ってのはわかるんだけどなー。私もバニーになってみたかったけど……」
    「こんな事もあろうかと、用意しておいたわ!」
     迂闊! エデの独り言は寵子に筒抜けだった!
     丁度体操服にブルマという姿だったエデに手際よくウサ耳にウサしっぽを装着する。
     するとどうか。バニーブルマの誕生ではないか!
    「完璧、ね」
     寵子はごくりと喉を鳴らした。
    「これがバニーさん!? なんだかちょっとぴょんぴょんしたくなってきたかもです」
    「生幼女バニーなんて一生のうちにどれだけ拝める事か。奇跡がここにあるわ」
     これには少年らも気になる様子だが、しかし寵子が独占して見えない!
    「眼福で癒されたんだもの、おねーさんもサービスしちゃうわ!」
     と、寵子は超近接戦闘を挑みかかった。
    「ちょ、あ、当たって……!」
    「『当ててんのよ』」
     むにむにとサービスをしつつ、
    「当てながら反復横とびだって仕留めちゃうわよ鬼ぱーんち☆」
     攻撃も怠らない。業界においては一級品のボーナスだろう。
    「しかし」
    「そんなサービスには」
    「屈しな」
    「……いい加減、邪魔」
     大人しそうだった奏だがブラックフォームを使用すると一変。サドっ気に満ちた視線に射抜かれながら、まとめて片付けられてしまった。
    「ショタに負けるとは」
    「これもまた運命……」
    「違うと思、う」
     一連の戦いを見てドリルコは思う。
    (「奏、横からはみ出たりせんのか?」)
     なにがでしょうね。

    「可愛いうさぎさんとか描いてあると思ったんだけどなー。ただ黒いだけみたい」
     倒した3人から取り上げたカードをまじまじと観察するエデだが、それには何の力も感じられなかった。
    「やっぱりこのカード……早くなんとかしないと」
     だからこそ危険であると奏は思う。
     一般人を唆して、というやり方も許せるものではない。
    「吸血捕食をする必要もないようですし、それは良かったのですが……逆に言えば何の情報もないのですよね」
     充も少し残念そうに肩をすくめ、そして振り返る。
     既に彼らは目覚めており――ドリルコの膝の上で同時に気がついた3人は「おっぱぁぁぁ!」とか愉快なリアクションで飛び起き、それを見た寵子が「私も気絶すれば……」とか本気で悔しそうな顔をしていたりしたのだが、概ね何事もなかった――今はどこまで覚えているのかという尋問タイムになっていた。
    「では、どうしてあそこで倒れていたのかも覚えていないんですか?」
     初季が念を押すように尋ねても、一向にわからないとの事。
     初季はちらりと昴の方を見やるが、昴もまた首を振る。
    「テレパスでも駄目、か」
    「それで分かったらラクでいいよなー……」
     小声の晶に昴はあくびをしながら壁にもたれる。
    「ああ、でも何だろう。頭の奥で……」
    「何か思い出せそうですか!?」
     身を乗り出す初季にヒートは告げた。
    「何故かバニー服が怖い」
    「……そう、なんだ」

    作者:黒柴好人 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 8
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