フリフリしっぽにご用心

    作者:望月あさと


    「せ~の!」
     可愛い二つの掛け声が聞こえた博多の繁華街の裏道を覗いてみれば、フリフリフリフリフリフリフリと、ウサギのしっぽが2個、左右に揺れている。
    「あ~ん、腰の振りがあ・ま・いかしら」
    「もっと、ひねるようにしたらどう~?」
     そう話すのは、バニースーツを来た16歳くらいの少女、二人。
     バニースーツの白いしっぽを揺らしていた本人だ。
     思わぬ光景を見てしまった、4人の男子大学生は、少女たちの素敵な格好と腰の動きに釘付け。
     思わず、最高です! もっと見せてください! と言えば、少女たちはにっこりと笑って男子大学生のリクエストに応える。
    「しっぽ、もとい腰からの曲線美……もっと、近くで見ていいですか!」
    「え~~、どうしよっ・か・な」
    「ワタシたち、ファンの人以外には、特別サービスしないのよ~」
     バニースーツの少女が、困り顔を斜め45度に傾ければ、男子大学生はいちころ。
    「ファンです! 思いっきりファンになりました!!」
    「名前、教えてください!! 会いに行きます!」
    「じゃあ、ファンになってくれたみんなには、と・く・べ・つ、に、この黒いカードをあげる」
    「キスもあげちゃうね~」
     ちゅっ、と頬にキスをして黒いカードを手渡せば、男子大学生たちの目の色が狂気へ堕ちる。
     2人のバニースーツの少女は声を揃え、
    「「さあ、欲望のまま、人を殺して殺しまわってね、き・た・いしているよ~」」
     

    「みんな、臨海学校で騒ぎを起こしたHTK六六六人衆が、また博多で事件を起こすみたい。今度は、ただの一般人じゃなくて、武器を持ってサイキックに似た攻撃をしてくる一般人だよ。ちょうど、ソロモンの悪魔や淫魔の配下みたいにね」
     須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)は黒いカードを持った4人の男子大学生の存在を告げた。
     サイキックに似た攻撃が黒いカードの新しい能力なのか、別の力なのかはわからない。
     ただ、この男子大学生たちの殺戮行為を止めなくてはならないのは確かだ。
    「だから、みんなには、男子大学生たちをKOして黒いカードを回収してきてほしいんだ。
     男子大学生たちは、一度倒されれば正気を取り戻すから心配いらないよ」

     4人の男子大学生は、ビル内にある飲食店を襲撃する。
     しかし、襲撃する前に灼滅者たちがビルの前に立ち、男子大学生の標的になり続けていれば襲撃は免れる。
    「ただ、ビルの入り口は、繁華街の通り道に面しているから、そこで戦うと歩いている一般人を巻き込んじゃうと思うんだ。男子大学生は、とにかく人を殺したがっているからね。
     どこで、どう戦うかはみんなに任せるけど……できれば、被害は少ないほうがいいよね」
     ビルは4階建て。入り口から螺旋を描いた階段を上りきれば、誰もいない広い屋上にでる。
     そして、ビルの入り口からすぐ横へ入れば、3人並べる横幅の裏路地がある。そこは、奥に進めば繁華街の通りを歩く人の目に触れることはない。
    「4人の大学生は、繁華街で拾った鉄パイプや割れた空き瓶を持っているから、一目でわかるはずだよ。
     みんな、繁華街にいる人たちや、男子大学生たちを助けてね!」


    参加者
    小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)
    凪・美咲(蒼の奏剣士・d00366)
    黒曜・伶(趣味に生きる・d00367)
    水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)
    月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)
    芦夜・碧(無銘の霧・d04624)
    笙野・響(青闇薄刃・d05985)
    天野・白蓮(斬魔の継承者・d12848)

    ■リプレイ

    ●1
    「ひゃほー! まずは、あのビル内を血祭りにするぜっ!」
    「バニーちゃんの期待に応えて、特別サービス!!」
    「おっ?」
     鉄パイプや割れた空き瓶を振り回しながらビルへ一直線に走っていた男子大学生たちは、ビルの入り口で立ち話をしている3人の少女たちに片眉をあげた。
     顔を向けた凪・美咲(蒼の奏剣士・d00366)と目が合うと、男子学生たちの口がまがまがしく笑み、大人しそうな優等生風の少女の目が驚きに変われば、殺戮者たちは優位を確証して少女たちに襲い掛かる。
    「きゃあ!」
     美咲は、切り付けられた腕を見せつけるように倒れ込み、笙野・響(青闇薄刃・d05985)は恐怖で足元をふらつかせたように見せかけて男子大学生の刃を受けた。
     攻撃をわずかにかわして軽傷をと思っていたが、傷は思いのほか強く体にダメージを残す。
     しかし、これが男子大学生の気をよくする。
    「フハハハ、まずは、こいつらからだ!」
    「どんなふうに殺してやろうか?」
    「女の子たちが危ない――うっ!」
     男子大学生に襲われる3人を救おうと走り出したサラリーマンの足が止まった。
     水瀬・瑠音(蒼炎奔放・d00982)が殺気を放って一般人が近づかせないようにしたのだ。
     周りにいる一般人たちが、顔を青くしながら少しずつ離れていく。
    「きゃっ! やめてください!」
     瑠音は、いつもの低い声のトーンを高めにして叫び、普段からは想像もできないぶりぶり少女を演じた。
     かよわさを見せつければ、男子大学生たちは調子に乗り、どんどん殺意を向けてくる。
    「な、何するんですかっ!」
    「きゃああぁぁ!!」」
     響のスカートがざっくりと切り裂かれて、しなやかな太ももがあらわになった。
     男子大学生の矛先は完全に彼女たちへ向く。
    「バニーちゃんの特別サービスッッッッ!!!!!」
    「響さん、瑠音さん、あ、あの階段を上って逃げましょう……!」
    「ハハハ、どこへ行くっていうんだ?」
     傷口を押さえながら頭を振った美咲が、ビル内の螺旋を描く階段へ逃げ込めば、瑠音や響も階段を駆け上がり、その後を男子大学生たちが追う。
     激しい足音がこだまする螺旋階段。
     しかし、これが灼滅者たちの作戦だということに――瑠音と美咲がつかず離れずの距離を保ちながら逃げているということに、男子大学生はまったく気づいていなかった。

    ●2
    「外が静かになったわね」
    「そろそろ、この屋上へ来るかもしれないっすね……」
     外の気配に耳を傾けていた芦夜・碧(無銘の霧・d04624)の言葉を受け、小坂・翠里(いつかの私にサヨナラを・d00229)は密かに震える指を握り込んだ。
     そろそろ男子大学生を出迎える配置につく。
     彩歌たちのいうように、息をひそめ
     障害物の少ない広い屋上を吹き抜ける強い風は冷たく、黒曜・伶(趣味に生きる・d00367)は、なびいた髪を押さえると、閉じられた螺旋階段の扉を見入った。
    「囮になってくれた人が、無事に来れるといいですが……」
    「そうですね、このビルの屋上までは連れて来てくださるとは思いますが、皆さん、かよわい少女を演じてくれていますから、怪我の具合も心配です。私に演技の自信がないためにお願いしてしまったので、より気になります」
     伶と月雲・彩歌(幸運のめがみさま・d02980)は、男子大学生を連れてくる3人を気遣う。
     しかし、天野・白蓮(斬魔の継承者・d12848)は大丈夫だと自信に満ち溢れ、一直線に先を見ながら言った。
    「全てが成功する。そのために、万が一の時の案はないんだ」

    「行き止まりだぜ!」
    「観念しろ!」
    「観念するのは、あなたたちっす!」
    「かかりましたね! accensione!」
     屋上へたどり着き、男子大学生へ体を向いた美咲は、カードを手に叫ぶ。
    「な、なんだ、こいつら!」
    「可愛い女の子と思った? 残念! か弱い子には毒があるんだぜ。知らねぇ女の子にホイホイ付いていくと、ひでぇ目に合うぜ!」
     女っ気ゼロに戻った瑠音が、やる気全開モードに入る。
     武器を手にした灼滅者たちを前に、男子大学生たちは狼狽する。
     それもそうだろう。丸腰だと思っていた相手が夜でも冴えわたる輝きを見せているのだ。
     言葉を失った彼らの背後に現れた彩歌は、サウンドシャッターを広げて静かに入り口をふさぎ、
    「騙まし討ちのような形になって申し訳ありませんが。これにて鬼ごっこは、終わりということにしましょう」
    「これは、俺たちをおびき出す罠か!」
    「お察しの通り、罠よ」
     扉の上にある給水塔から飛び降りてきた碧が、華麗に着地をして彩歌の前に立った。
    「おっと此処は一方通行だ、帰りたきゃ通行料を渡しな。 例えば、誰かからもらった黒いカードとかな」
    「何?! お前も、バニーちゃんからカードをもらったヤツか?!」
    「くそー! あのしっぽと曲線美は俺の物だ!!」
     男子大学生たちは、屋上のドアを閉じた白蓮へ口々に悔しさをぶつけてくるが、お門違いもいいところだ。
     1人が空き瓶をふりおろしてくれば、白蓮は体を横へすべらせ、
    「殺戮ってのは簡単に起こして良いものじゃないぜ?  仮にどれだけ衆目美麗な姫様に頼まれても、なぁ……。刀将・天野の名において命ずる……胎動せよ、金剛の刃牙!」
    「――ふざけんじゃねぇ! 皆殺しだ!」
    「そう簡単にさせませんよ!」
     扉を背にしていた伶が憤る男子大学生の側をかけぬけ、ディフェンダーとして陣形にできた大きな隙間をその身で埋めた。
     そして、男子大学生を包囲し、後衛への道筋を断った壁は、鉄パイプで襲い掛かってきた相手をシールドバッシュで殴りつける。
    「そんな攻撃、力任せだけでは当たりませんよ」
    「わたしのせくしー姿をみたんだもの。お礼くらいはしていいわよね?」
     響は、髪をかきあげて冷酷な瞳をむければ、碧が無抵抗な一般人を狙う相手に侮蔑の視線を向けて、手をくいっと動かし挑発する。
    「戦いたいなら応じてあげる。掛かってきなさい」
     怯え、恐れをなして、命乞いをすればいい。それを、今は許す――。
     鮫のように笑えば、
    「それでは……狩りを始めましょうか」

    ●3
    「さっきのお礼よ!」
     相手の死角に入り込んだ響がティアーズリッパーを斬りつけて薄い笑みをこぼした。
     男子大学生がくぐもった声をあげれば、翠里がトラウナックルを男子大学生のダメージを確実に蓄積させていく。
     瑠音は殴りつけた相手に魔力を流し込んだが、振り向かれざまにガラス瓶を向けられた。
    「っ! やるね」
     瑠音は、頬からにじみ出た血をすくうと、内から熱く燃え上がってくる感覚を感じた。
     戦いの中で沸き立つ熱い意志。
    「ちっと大人しくしてもらうぜ!」
     身の丈より大きい黒き無敵斬艦刀、EXUSIAが空を裂き、男子大学生の体がくの字に曲がる。
     伶が、仲間の攻撃があたりやすくなるよう、足止めや捕縛などを与えるサポートに徹しているのも功を期しているだろう。
     響が全力で男子大学生へ挑んでいると、男子大学生たちも激昂していく。
    「バニーちゃんたちの特別サービスを、もっともっともらう!」
    「殺して殺しまくれば、バニーちゃんのしっぽにスリスリすることも可能ではない!」
    「そして、あれやこれや、そんなこともするんだああぁぁぁ!!!!!」
     男子大学生が、一気にちらばって攻撃を仕掛けてきた。
     美咲は、攻撃の手が分散する穴をついた一人に気づき、
    「包囲の突破など許しません!」
    「させない――ハッ!」
     緊急を察した碧がすぐに反応したが、目の前に鉄パイプが振りかざされていた。
     鈍い音が響いたが痛みはない。
    「大丈夫か、碧お嬢? ここはまかせときな! こいつらにはお仕置きが必要だ!」
     攻撃からかばってくれた白連の行為は無駄にしないと、碧は居合切りで抵抗している美咲の相手へ刃を向ける。
     態勢がままなっていない美咲に不利は歴然だが、二人して連携すればすぐに持ちこたえられるはずだ。
     碧がティアーズリッパーを振りかざして、男子大学生が悲鳴をあげたとき、目覚めの悪い事態を回避するため美咲に目を向ける。
    「手加減攻撃を」
    「わかっています。――眠っていてください」
     みね打ちをくらった男子大学生が白目をむいて倒れた。
     灼滅者たちは、最後の一撃に手加減攻撃をしていた。
     攻撃力が弱く、致命的な一撃を与えられないことはわかっているが、それでも男子大学生を殺さずに守ろうという意志からだろう。
     そんな仲間の援護する彩歌は前衛を中心に防護符で治癒を続け、倒れていく男子大学生の姿を見守る。
    「元を断たなければ終わりませんが、根本的解決の一歩としてカードを回収させてもらいます」
    「蒼!」
     また一人、男子大学生が倒れると、碧は残る男子大学生のもとへ霊犬とともに立ち向かった。
     霊犬がくわえた刀で一撃をくらわせれば、翠里はふらついている男子大学生にとどめの一発を叩き込む。
    「これで、終わりにするっす!」
     男子大学生は、全員、手加減攻撃によって敗れた。

    ●4
    「これが黒いカード……。見たところ、特に変わったところはなさそうですね。触っても何も感じませんし」
     回収した黒いカードを点検する美咲は、想像通りの展開に小さなため息をつく。
     やはり、何もわからない。
    「黒いカードも没収したし、他は何かわかることはないかしら。勢力拡大ってわけでもなさそうだし、そろそろ、HKT666の目的の手がかりくらいはつかみたいところよね」
    「手がかりか。こいつらで何かわかるのかねぇー」
     響が考え込むと、瑠音は伸びている男子大学生の頬をムニッとひっぱっる。
    「自業自得っちょーか、仕方ねぇ奴らだな」
    「……ん……」
    「起きたか?」
    「あれ? ここは……」
    「気が付いたのね。それなら、聞きたいことがあるの」
     目を覚ました男子大学生へつめよった碧は、バニーの格好をした彼女たちに繋がる手がかりがないか尋問を始めた。
     無駄のない短い言葉で繰り出される問いに、男子大学生は歯切れ悪く、ぼそぼそと答えるが、決まっていう言葉は「よくわからない」。
     目覚めた全員に尋ねても同じ答えだ。
    「誰に頼まれたんだ?」
    「わからねぇっていってるだろう!」
    「天野さん、大丈夫っすか?!」
     1人が、質問していた白蓮を突き飛ばした。
     翠里が慌てて白蓮に駆けつけて、息を荒くしている男子大学生へ口を開く。
    「何をするんっす!」
    「うるさい! もういいだろう! さっきからなんなんだ!」
    「こいつら、放って行こうぜ!」
     尋問と質問に耐え切れなくなったのか、男子大学生たちは逃げるようにして屋上を後にした。
    「今回も記憶はなしのようね」
    「少しでも黒幕へと近づければよかったのですが……残念です」
     碧は一言に彩歌も肩を落とすが、それでも気を失っている間に治癒を施した男子大学生が元気に走っていく姿を見たら安堵も抱いた。
     彼らも被害者なのだ。
     もう、するべきことはない状況に伶は仲間に声をかける。
    「さてそろそろ帰りましょうか。子どもがこんな時間まで出歩くのは問題ありと思われちゃいますよ?」
     最年長としての責任からか、繁華街という場所に最後の問題を提示した。

    作者:望月あさと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月29日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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