見て欲しくないのに見て欲しい

■リプレイ

●その欲望は誰のため？
　風が肌寒く感じられるようにもなってきた、秋。
　放課後、一日の営みから開放された学生が見せる笑顔からは少し離れた場所、ひと気のない公園で、雨宮和葉が一人ベンチに座っていた。
　灼滅者たちが遠目に眺める中、唇より紡がれるのはため息ばかり。
　悩みに蝕まれ尽くしてしまう前に……と、女性陣が先発隊として歩み寄る。
　先陣を切ったのは、チョーカーがさり気なく視線を誘導する水島・佳奈美（わがままボディ・d20264）。
　彼女は和葉の隣に腰掛けて、ひとりごとのように語りかけた。
「ちょっとお話し聞いて貰っていいですか？　悩みと言うか愚痴に近いかもしれませんが聞いて貰えますか」
「……あ、わ、私でしょうか？　ええと……はい、私なんかで良ければ……」
　契を取り付け、佳奈美は心の中で安堵の息。雲ひとつない青空を眺めながら、本題を切り出していく。
「見ればわかると思いますが私の身体ってぽっちゃりしてるんです。何故かしら人は私の身体を凝視する人達がいるのです」
　和葉が持つものと、似た悩み。
　今は少し慣れてきたけれど、やっぱり嫌。
　少し前から急激に……とも付け加えた時、ポツリ、ポツリと、和葉が語り始めていく。
　私も同じだと。視線が嫌で仕方ないと、嫌なはずなのに……と。
「……」
「どうして異性ってそんな目で見るのでしょうね。その気持ち私もわからないでもないですがやっぱり嫌ですよね……」
「人に自分を見て欲しいと思うことは別に自然なことアル。もちろん恥ずかしいと思うのも自然アルヨ」
　二人揃って沈黙の渦へと入り込もうとした時、続いて近づいて来た諸葛・明（三国志アイドル・d12722）が声を上げた。
　驚いて顔を上げた和葉の手を取り握りしめ、瞳を見据えながらさらなる言葉を重ねていく。
「でも、今のアナタは自分の意志で行動しようとせず、他人に委ねようとしているアル。それはいけない事アル」
「え……」
　和葉の抱く、闇。
　淫魔というなのダークネス。
　さり気なく知っていると伝えつつ、明は一度締めくくる
「アナタが何しようと、それが自分の意志で決めたのなら誰も文句いわないアルヨ」
　決意を促すため。
　先へと歩ませるため。
　押し黙る和葉に、続いてアルカンシェル・デッドエンド（ドレッドレッド・d05957）が語りかけた。
「年頃故、男の目が気になるのは当然と言うものじゃ。そう恥じることではなかろう？」
　別の方向からの説得を。
　更に一歩先へと進ませるため。
「試しに男と向き合って話をしてみんか？」
「え……？」
　手を叩き、男性陣へと合図を出す。
　入り口の方角から、男性陣が彼女たちの元へと歩いてきた。
　大丈夫、と更に力強く明が手を握りしめる中、アルカンシェルも力強く頷いていく。
　先だっての言葉が功をなしたか、幸い逃げ出す気配はない。男性陣も交え、更なる言葉を重ねていこう。

　男性陣も含め、計八人。
　決していやらしい意味ではなく……それでも視線を受ける和葉が萎縮してしまったのは致し方のないことか。
　せめて嫌な想いをしないよう、普段と変わらぬ眼差しと共に瑠璃垣・恢（皆殺半径・d03192）が切り出した。
「嫌らしい眼で見られたくはない、けれど焦がれるような眼差しが欲しい。それは誰だって同じ事さ。悪いことじゃない」
　相反する思いが自分の中で凝ってしまうのはよくあること。
　しかし、その欲望を自分の力に任せず他に仮託することだけはしてはいけないから。
「ただ、きみは、きみのままで充分に魅力的だ」
　だから言葉を重ねていく。
　想いを強く連ねていく。
　消えぬよう、久遠・翔（悲しい運命に抗う者・d00621）も引き継ぎ語りかける。
「見られる事に抵抗がある……俺だってそうだよ。どう思われているかわからない視線は怖くてたまらねえ……けど、そこから逃げていたら何にも始まらないと思った…だから俺は毎日自分の心と戦っている」
　二つの心、何となく分かる。
　灼滅者は誰もがダークネスを抱えているのだから。
　そんな思いを肯定しつつ、綾河・唯水流（雹嵐の檻・d17780）が静かな怖苗で切り出した。
「大丈夫。君はおかしくなんてなってない。ただ、強く意識しすぎて身動きが取れなくなっちゃっただけ……ゆっくりでいいから、吐き出してみて……」
　他人の視線は気になる。
　けれど、異性の視線を惹きつけたいって気持ちはおかしな事じゃない。だから……。
「意識しすぎて自分に否定的にならないで……見られたい、見て欲しいは愛情の一種なんだよ？　だから、怯えなくて大丈夫」
　自分に帰って来るのだから、心地よかったり、恥ずかしかったり、嫌だったりすることも当たり前。
「異性に自分の事を見て欲しいっていう感情は誰もが持っているものです。それを無理に押さえ込めば余計に膨らんじゃうよ」
　だからこそ少しずつ開放し、爆発しないよう調節する。
　心が壊れてしまわぬよう、自分の想いと向き合うのだ。
　優しい眼差しを浴びて、和葉はうつむき押し黙る。
　横顔に、不安の色はある。
　怯えている様子はない。
　男性陣は頷き合い、再び、女性陣に主導権を投げ返した

　自分に注目して欲しい、自分を見て欲しい。
　理解できるかなと思っていたけれど、やはりできない。誰でも皆に……って点が特に分からない……と、葉新・百花（お昼ね羽根まくら・d14789）は和葉を静かに見据えながら、一人心のなかで想い抱く。
　自分をさらけ出すのは、大好きな人一人だけ。
　彼だけに見て欲しい。
　だから、また別の方角からの言葉を投げかけるのだ。
「私は、こう思うんです。見られたいのは悪い事じゃないけど、一番大切な人の為に取っておくほうが、不特定多数の人に大盤振る舞いするよりずっと、幸せな気持ちになれると思うの」
　和葉にも、いつかはそんな風に思う人ができる。
　その時のために……絶対、闇落ちから救いたい。
「……私は」
　心の整理がある程度完了したのだろう、想いも心に染み入ったのだろう。
　小さくうなずき返した後、和葉が顔を上げていく。
　未だ瞳は揺れていた、唇も小さく震えていた。
　……先の言葉は紡がれない。未だ悩んでいるのか、あるいは……。
「お主は人の目を気にしすぎじゃ。その視線が誰のものであれ、もっと堂々としておればよい」
　見かねて、アルカンシェルが言葉を投げかける。
　二重の意味を含めた言葉で、和葉の背中を教えていく。
「魅力的なら人の目を惹くのは当然、そして磨いた躯を人に見られたいと思うのも当然。恥ずべきことはひとつもないぞ！」
「和葉さん、三つほどお伝えしたいことがあります」
　脇坂・朱里（胡蝶の館の女主人・d00235）も優しい微笑みを浮かべながら、静かに、諭すように語りかけた。
「まず他人は自分が思うほどこちらを見ていないですよ」
　偶然視線に入ってしまうことはある。しかし、基本的には注目を集めようと思わなければ早々ひと目を引くなどといった事はない。
「次に折角おしゃれをしたら見て欲しいと思うのは自然ですよ」
　おしゃれは何のために行うのか。
　自分をより良く見せるため、自分を勇気づけるため。人は己を磨き続けるのだ。
「そして最後に出来れば自分の全てを見せるのは特別な相手にしましょう」
　百花も語った、大事なこと。
　自分の体を大事にする、その心。
「そんな相手を見つけに学園に来ませんか？」
　最後にイタズラっぽい笑顔で締めくくり、和葉の反応を待ち望む。
　小さく、でもしっかりと頷き返してくれたから、後は任せて欲しいと伝えていく。
「……はい、お任せします。えっと、その……私も、頑張ります……！」
　揺れていた瞳が空を仰いだ時、表情が怒りに似た色に変化した。
　淫魔として覚醒したのだと確信し、灼滅者たちも武装し身構える。
　抑えてくれているからか、淫魔は言葉を紡がない。灼滅者たちは頷き合い、さあ、救うための戦いを始めよう！

●欲望を抑え昇華する
　最近、魂を改竄したと語っていた明。
　前との違いがよく分からない。そんな疑問符を浮かべながらも、華麗なステップを踏んでいく。
「アナタは闇に抗える。頑張れるアルヨ」
　淫魔の中にいる和葉に呼びかけながら、自身にも活力を与えていく。
　気に入らぬのか一歩踏み出そうとした淫魔の体は、佳奈美の撃ち出す砲弾が押し返した。
「今度は和葉さんを救出したいと思いました。闇に負けないでくださいね」
　自身も、体の変化をきっかけに闇堕ちし、お姉さま型に救出してもらった経験を持つ佳奈美。
　だからこそ救うのだという強い思いが、次弾にも込められ精度を増すか……。
　……力強い連打を前に無理に進むことを諦めたのだろう。淫魔は近づいて来た唯水流の頬を、思いっきり引っ叩いた。
「っ……女の子のビンタって精神的なダメージの方がでかいや……」
　じんわりと浮かぶ涙を拭い、けれど懐に踏み込むことは恐れない。
　盾を掲げたままの突撃で、更に力強く押さえつけていく。
　もちろん、頬の腫れを無視したまま。
　鈍い痛みに耐えたまま。
「大丈夫ですか、落ち着いてくださいね」
　倒れぬよう、少しでも痛みを和らげることができるよう、朱里が歌声を響かせる。
　和葉を救済するとの想いを詩に込め、戦場たる公園を飾っていく。
　士気も駆り立てられていくほどに、戦いは順調。
　故に滔々と、優しい微笑みを口元に、恢は囁きかけていく。
「――さあ、もう一頑張りだ。雨宮！　俺たちに、きみの素顔を見せてくれ！」
　淫魔と言う名の仮面を剥がすため、影によって形成された異形の巨腕で力任せに殴りかかる。
　インパクト共に爆裂させ、休む暇を与えない。
　和葉が目覚める、その時まで、灼滅者たちは走り続けていく……。

　近づいて来たアルカンシェルに放たれる、ビンタ。
　石突きを軸に受け流し、手首を返した。
「その程度か……ま、それほど和葉が頑張っているということだろう」
　穂先に紅蓮のオーラを宿し切り上げて、勢いのまま後方へ。
　動きが淀んでいない様子を鑑みて、百花は鋭い光を淫魔めがけて解き放つ！
「あなたに、邪魔させはしない！」
「俺達はお前を救う！　だからお前も自分の心と向き合って戦え！！　頼む和葉！　負けないでくれ！！」
　声を上げ、翔も駆ける。
　オーラを両の拳に宿し、鋭く、激しく連打する。
　背後から、唯水流も拳を突き出した。
「そろそろ終わり……だね」
　ビンタも、誘惑も、全て受け流し応対した。
　もはや、灼滅者たちの勝利は揺るがない。
　後は……。
「……」
　翔のナイフが炎の軌跡を描いた時、淫魔は瞳を閉ざして崩れ落ちる。
　地面へと叩きつけられそうになった体は、武装を解いた恢が優しく支えた。
　温もりと、静かな吐息が伝わって……。
「成功、だな」
　安堵の息を溢すとともに、和葉への回帰を伝えていく。
　後は起床を待つばかり。灼滅者たちは介抱の為に動き出した。

●いつか、大切な人にだけ
　会得したばかりの力に慣れるため、明がステップを踏み始めた頃。
　優しい風に誘われて、和葉は目覚めた。
　寝ぼけ眼で現状を確認した後、紡がれしは感謝。
　受け止めた上で、佳奈美は説明する。
　灼滅者の事、ダークネスの事、学園の事……世界のことを。
「……そうだったんですか。そんなことが……」
「でも、もう大丈夫。和葉さんは乗り越えたんですから」
「……はい、……あ……」
　和葉が笑顔で頷いた時、翔が優しく頭をなでた。
「少なくても淫魔じゃなくても和葉は綺麗だよ」
「あ、えと、そんな……私なんて……」
　否定しつつも、頬を赤らめまんざらでもない様子。
　学園への合流を問いかければ、しっかりと頷き返してくれた。
　だからだろう。朱里は静かに話しかける。
「では、そろそろハロウィンもありますから、思う存分見てもらいましょうか？」
「え？」
「来年になればまた水着コンテストもありますしね。好みのタイプの男性を捕まえて、。念願叶えれば良いと思いますよ？」
　私も相手が居ないので偉そうなことは……とイタズラっぽい笑みとともに付け加えたなら、楽しげな笑顔がこぼれていく。
　優しく暖かな心が満ちる中、百花は一人、静かな願いを捧げていた。
　――和葉にも、素敵な彼氏ができるように。
　……百花は一人先に帰路へとつく。
　大好きな彼が待つ家を目指し。
　一緒の時を過ごすため。
　あるいは、そう。いつか訪れる恋物語の手本として。青空が、太陽が、明るく祝福してくれるから……！

作者：飛翔優	重傷：なし 死亡：なし 闇堕ち：なし
種類： 公開：2013年9月24日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 0／感動した 1／素敵だった 11／キャラが大事にされていた 1
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