Bloody bride

    作者:四季乃

    ●Accident
    「また、ブラッディブライドが出たらしいよ」
     しめやかに語り出した友人の言葉を耳にして、純白のウェディングドレスを返り血で染め上げた一人の女を、脳裏に思い描いた。
     ブラッディブライドと呼ばれるその女。心無い浮気を繰り返し、女性を手酷く傷つけた男をめった刺しにして絶命させると恐れられている、巷で噂の花嫁である。
     狙うのは決まって下腹部。何でもその花嫁、結婚式直前に愛する男の浮気と言う裏切りによって、心神喪失。マンションの屋上から投身自殺を計ったのだが、なんとお腹に子を宿していたらしい。
     友人は泣き腫らした真っ赤な瞳を自分に向けると、先日浮気が原因で別れた元カレの名を、か細く呟いた。
    「あいつも、ブラッディブライドに殺されちゃった」

    ●Caution
    「作り話なんです。この花嫁の存在は」
     自分のお腹にそっと手を当てて、五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は呟いた。
     今時「浮気」等と言う話は、そう珍しいものではない。どこぞで男に捨てられた女が腹いせで作り上げた、幻の自分の姿だったのか、人を惹き付ける話題が欲しくて生み出した登場人物なのか、それは分からない。
     しかし、恐怖は伝染する。
     そうした人々の恐怖から、この都市伝説は生まれた。浮気を行う男を殺戮する花嫁として、この世に現れてしまったのだ。
    「既にその地域での被害者は幾人にもなっており…つまりそれだけ浮気性の男性が居ると言う証じゃな…」
     姫子の隣で、つつましく佇んでいた神音・葎(月黄泉・d16902)が、睫を伏せた。最後の方は、独り言にも近いように思える言葉である。
    「皆さんどうか、これ以上の被害者を出さない為にも、灼滅して下さい」
     そうして姫子は都市伝説について、詳しい情報を話し始めた。

    「この都市伝説は、浮気の現場、あるいは修羅場に現れるらしいのです。それは決まって、発覚した浮気に対して開き直った男性に限るようで、つまり反省の色が無い事が必要条件になります」
     今回は囮組を作り、「修羅場」を演じてもらいたい。
     事が大きく、そして浮気をした男が、より不誠実に、悪役に見えれば都市伝説を誘き出すのも、そう難しくは無いだろう。
     現場は郊外の公園。遊具は勿論、木々も多く、奇襲する為に潜伏する事に関して言えばうってつけである。
    「二股…三股、四股。はたまた二人の男によるW浮気の修羅場。折角なので、派手にしてみると、良いかもしれませんね」
     姫子と律は顔を見合わせると、微笑みあった。
    「都市伝説は枝きり鋏で切り付けたり、刺したりといった攻撃手段を用います。どうかくれぐれも、お気を付けください」
    「浮気な男は許されざる存在…けれど、死んで良いと言う訳ではありません。皆さん、どうぞよろしくお願いします」
     深く頭を下げる律の言葉に頷いた姫子も、そっと頭を下げた。そうして二人は、灼滅者達の姿が見えなくなるまで、見送ったのだった。


    参加者
    姫城・しずく(優しき獅子・d00121)
    来栖・立夏(来栖の巫女・d00188)
    東雲・由宇(神の僕・d01218)
    巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)
    青柳・百合亞(一雫・d02507)
    早乙女・ハナ(諷花・d07912)
    志藤・遥斗(図書館の住人・d12651)
    東屋・紫王(風見の獣・d12878)

    ■リプレイ

    ●逢
    「風が冷たいな。寒くないか?」
     青い瞳を優しげに細めて巨勢・冬崖(蠁蛆・d01647)が問うと、そろりと顔を上げた青柳・百合亞(一雫・d02507)は「大丈夫」と、ふんわり微笑んだ。
     笑みを受けた冬崖は大きな身体を少し横にずらし、吹き渡る冷たい夜風が彼女に当たらぬようにと壁となってやれば、百合亞は一層嬉しそうに顔を綻ばせた。
     その様子を少し離れた遊具の影から見守っていた東屋・紫王(風見の獣・d12878)は、辺りの暗闇に視線を巡らせ、『ソレ』が現れるのを静かに待ち構えている。
    (「二兎追うものは一兎をも得ず、器用な人はその限りじゃないのかな。うーん、俺には出来そうも無いや」)
     浮気は良くないと思うのだが、男の自分が口にしても信憑性に欠けてしまうだろう。紫王は大人しく沈黙を貫く事にした、そんな彼の視界の端では、楽しげに笑う二人が居るのだが――。
    「男は浮気する生き物とも聞きますが、やるならばれないようにするべきだと思います。でも本命さんを蔑ろにする事だけはいけません」
     冬崖にだけ聞こえるように声を潜めた百合亞は、まるで内緒話をするように、小さくそう囁いた。とてもカップルが囁きあう内容ではない。
    「浮気がばれて開き直る? 言語同断! 誠意を持ってお付き合いしていただきたいものですね!」
    「ああ。…そうだな」
     百合亞の口から零れる相反する言葉の数々に、冬崖は思わずと言った風に小さく笑い、静かに穏やかに頷いてやる。
     傍から見れば仲の良さそうなカップルで、雰囲気は円満そのもの。
    「……その人、誰?」
     そこへ走る、亀裂が一つ。

    ●遇
    「私以外にも声をかけてた…って事は…浮気?」
     突如現れた東雲・由宇(神の僕・d01218)の刺々しい言葉を耳にして、百合亞は冬崖を見上げ、「どういう事?」と眉根を下げて問うた。
    「さぁ、こんな女知らねぇな」
    「ちょっと何よそれっ! しらばっくれるつもり!?」
    「知らねぇって言ってんだろ」
     首の裏を掻きながら素知らぬ顔をして答えるものだから、由宇は頭にきたようで、グイッと距離を詰めた。
    「私とあなたがどんな風にこれまでの時間を過ごしてきたのか、今ここで話しても良いのよっ?」
     その言葉を耳にして、それまでそっぽを向いていた冬崖が、鋭い光を込めた瞳でギロリと彼女を見下ろし、酷く面倒臭そうに吐き捨てた。
    「うるせぇな…少し遊んだくらいで彼女面してんじゃねぇよ」
     それを聞いて、酷く傷付いた表情を浮かべたのは百合亞だ。
    「…浮気しないって、私だけだって言ってたのに嘘だったの?」
     百合亞が震える声で何とか搾り出すように訊ねるが、冬崖の口から出てきたのは「遊びだ」と言う非情な言葉。
    「私には貴方しかいないのにどうして!」
    「ねえ、なんでそんな事したの? ねえってば! すっとぼけたりしないで、ちゃんと目を見て話してよ!」
    「私を見て理由を教えて。私はこの人より劣っていたの?」
    「私本気だったのに、貴方は遊んでただけって事!?」
    「喚くな、耳が痛ぇ。たかだか一度や二度の浮気くらい気にすんな」
     その瞳の、言葉の、あまりの冷たさに、二人の少女は息を呑む。豹変した愛する男の姿に、暫し言葉を失っていると、新たに少年が一人、こちらに近付いてくるのが分かった。
    「おい、その男は誰だよ!」
     焦りを滲ませながら、由宇に向かってそう問いただす志藤・遥斗(図書館の住人・d12651)の姿を、来栖・立夏(来栖の巫女・d00188)は霊犬の一兵衛と共に暗闇の影から覗き見ていた。
    「うわー…修羅場ですねー…って、演技だけれど」
     遥斗が冬崖に向かって「俺の彼女に何をしたんだ」と怒りの矛先を向けて絡み出し、その脇で悪化していくばかりの状況に耐え切れずに百合亞が泣き出したのを目にして、立夏は呟いた。
    「一兵衛さんはどう思う? 浮気って」
     問いかけてみるが、一兵衛はきょとんとした顔で、当然答えが返ってくるはずもない。
    「…あはは。一兵衛さんに聞いても仕方ないか」
    「わたし一人を愛してくれると言っていたじゃない!」
     立夏が小さく笑ったのと、早乙女・ハナ(諷花・d07912)がそう叫んだのはほぼ同時だった。立夏がその方を見やれば、ハナが柔らかな茶色の髪を靡かせながら修羅場に飛び込んでいく所だった。
    「愛していたのに裏切るなんて許せないの…。あなたを殺してわたしも死ぬわ! そうしたらずっと一緒でしょう!」
     どこから取り出したのか、鋏を握り締めて冬崖に詰め寄るハナ。
     彼女の言葉を聞いて、由宇が「今はっきり決めてよ、誰が一番なのか。嫌とか言わせないわ、絶対に!」と叫び、百合亞は「貴方にとって私は何?」と冬崖に問いかけ、遥斗は「良くも俺の彼女に手を出してくれたな」と怒りをあらわにする。
     ヒートアップしていく仲間達の修羅場を、木の上から見下ろしていた姫城・しずく(優しき獅子・d00121)は、現れるならそろそろだろう、と辺りを一層注視する。
    (「浮気は良くないよね。確かに少しくらいは痛い目にあった方が良いかも」)
     だが、それは決して殺される理由にはならない。
    (「都市伝説、僕達が止めなきゃ、どんどん被害が増えちゃう!」)
     必ず灼滅しなくてはならない。
     だから。
    「これくらいの事で喚くんじゃねぇよ。女なんか欲求満たすだけの存在だろうが。大体浮気される方が悪いんだよ。俺は何も悪くねぇ」
     冬崖の背後で揺らめくその『影』を、逃がしはしない。
    「剣は怖じず、躊躇わず…」
     密やかに呟かれた立夏の言葉が、闇夜にとろけていった。

    ●遭
     ウェディングドレス――。
     そう認識するのと、暗闇の中で刃渡りがギラリと怪しく光ったのと、どちらが先だっただろうか。
     冬崖の背後で、ゆらりと煙が立ち昇るように現れたその女は、長い枝きり鋏を垂直に構え、彼のその肉体を、後ろから突き刺そうとしたのだ。
    「伏せて!」
     遠くから聞こえた声に咄嗟に反応したのは遥斗だった。
     彼はすぐさま殺界形成を展開すると、隣に居た由宇の腕を引き、冬崖が自身から離させる為に優しく突いた百合亞の身体をハナが受け止め、左右に割れるように冬崖を残して四人は散った。
    「わうっ!」
     そこへ茂みから飛び出してきたしずくの霊犬ジンが、冬崖と女の間に割り込んで斬魔刀で女を斬り伏せた次の瞬間。
     音もなく女の死角に現れた紫王が、黒死斬でその足の腱を絶って地面に膝を突かせた絶妙なタイミングで、爆炎の魔力が込められた大量の弾丸と、符が織り交ざるように飛来して来、それは両目を見開く女の胸部を真っ直ぐに撃ち抜いた。
     ぐらりと後ろに傾いた女の手から枝きり鋏が落ちるのを見た冬崖は、振り向きざま大きく振り上げた拳を胸部へと叩き込んだ。その凄まじい一撃に女の身体が地面に倒れ込む。
    「浮気はダメ、でもそれは殺されるまでの理由にはならない」
     木の上から飛び降り、着地したしずくが静かに口にすれば、女――都市伝説は砂まみれのウェディングドレスを露とも気にする素振りも見せず、ただ「ウウゥゥゥゥ」と獣のように、低く唸った。
     そんな哀れな花嫁の姿に、そっと目を細めた立夏が静かに言う。
    「まぁ、浮気されちゃったらさ。カッとなって、ワケがわからなくなって。思い詰めて何も見えなくなってさ。――――刺すよね」
    「え」
    「えっ」
    「……え? 刺さない?」
     仲間に驚かれて、逆に驚きの表情を見せる立夏を横目に、由宇は妖の槍「Laudate Dominum」を構える。
    「でもさ、残念ながら貴女には居てもらっちゃ困るのよね」
     タンッと軽やかに地を蹴った由宇は、起き上がろうとする都市伝説目掛けて螺旋の如き捻りを加えた槍を突き出し、その右肩を穿つ。パッと赤い血が舞うと、それは純白のドレスに斑点の模様を描いた。
    「浮気をする男性も少しは痛い目を見た方がいいとは、わたしも思うの」
     ハナが妖気を冷気のつららに変換し、由宇の後に続くように撃ち出す。
    「でもそれも、やり過ぎは良くないものね」
     赤く錆びた枝きり鋏を握り締めた都市伝説の痛ましい姿に、ハナはそっと唇を結ぶ。一体その刃はどれだけの数を奪ってきたのだろう。人の噂、恐怖から生まれた存在が、人の命を奪うなどあってはならないはずだ。
    「貴女は間違った鋏の使い方をしてらっしゃるみたいですね」
     影業を鋏の形に形成し、手には針と糸を握った百合亞が、都市伝説を真っ直ぐに捕らえる。
    「お針子をなめないでいただきたいです」
     百合亞が影喰らいを放って黒々とした影にて都市伝説を飲み込めば、立夏の傍らから飛び上がった一兵衛が斬魔刀にて攻撃を繋げて、休む暇を与えない。
     都市伝説は身体中から血を垂れ流しながら起き上がると、枝きり鋏を握り締め、それをそのまま水平に凪いでみせた。
     空中を引っ掻いた刃は、風を生み出し、細く研ぎ澄まされた鋭い風が灼滅者達目掛けて真っ直ぐに飛んでいく。
    「いたっ」
     パシンッと乾いた音を立てて、遥斗の右脚から大粒の血が飛び散ったのを見て、立夏が即座に清めの風を放ってその傷を癒す。
    「大丈夫?」
    「はい。ありがとうございます」
     遥斗はにこりと笑みを浮かべ、立夏もこくりと頷く。
     その時、掠れるような音量で女が何かを呟いている事に気付いた。
    「…さない……許さない……浮気……裏切っ、た…」
     唇の端を切ったのか、たらりと赤い血を流しながら、女はそう繰り返していた。
    「都市伝説、君は噂のまま消えて行けば良かったのにね」
     しずくがぽつりと呟いた。彼は自らの心の深淵に潜む暗き想念を集めると、漆黒の弾丸を形成し、鋏を振り上げる都市伝説目掛けて撃ち出した。
    「ジン、キミも攻めて!」
     叫ぶとジンは主に呼応するかのように、六文銭射撃で応戦。しずくが放ったデッドブラスターと絡み合うように真っ直ぐと飛んでいく。
    「必ず今夜、灼滅するっ!」
     力強いしずくの言葉に唇をギュッと真一文字に結んだ冬崖は、その拳に雷に変換した闘気を宿す。肩口に攻撃を受けた都市伝説は、「痛い」「痛い」と真っ赤な涙を流しながら、それでも長い刃渡りをギラつかせて振りかざそうする。
     そうして、冬崖を目にした都市伝説は、まるで己の憎き恋人でも見るかのような目つきをして、転がるように飛び出して来た。
    「花嫁衣装を着て、そんな事をするもんじゃないぜ」
     ビュオッと風を切るように突き出してきた枝きり鋏をひらりと交わし、冬崖は抗雷撃にてその細い身体を空中へと突き上げた。そこへ由宇が再び螺穿槍で下から背を穿ち、遥斗がフォースブレイクで都市伝説を地面へと叩きつける。
    「よし、このまま畳み掛けますよ」
    「許さない! 許さない! 男なんか! 男なんか皆一緒! 悪くない! 私は悪くない!!」
    「駄目だよそんな事。誰も喜ばない」
     都市伝説とは対照的に、穏やかな口調で言ったのは紫王だ。彼は体内から噴出させた炎を纏い、赤い羽織りの裾をはためかせながら見るも無残な女に視線を落とす。
    「本当は被害者は都市伝説の方なのでしょうけれど…でもごめんなさい、これもわたし達のお仕事だから」
     緑色の瞳に悲しみの色を湛え、ハナも炎を纏わせると、紫王と共に左右から挟みこむように二人はレーヴァテインを叩き付ける。紅蓮の炎に包まれた都市伝説から金切り声が上がり、それはまるで耳を貫かんばかりの凄まじさである。
     思わず耳を塞ぎたくなる悲鳴に、灼滅者達の顔が歪む。
    「喚いても、何も変わらないんですよ。何も、良い事なんか、無かったはずです」
     しかし、百合亞は鋼糸を操ると、暴れる都市伝説の全身を絡め取り静かな口調で語りかける。
    「花嫁に枝きり鋏なんて似合いませんよ」
     封縛糸を喰らった都市伝説は、最早持ち上げるのも必死な形相で枝きり鋏を握り締めると、百合亞目掛けて振り下ろす。細い街灯の光をギラギラと怪しく照り返す刃に、ハッと目を見開いた。
     咄嗟に左に避けようとした百合亞だったが、それよりも素早く動いた冬崖が彼女を庇い、敵の攻撃を受け止めた。
    「巨勢さん」
     直撃は免れたが、腕から血を流す彼の姿を見て思わず名を呼ぶと、冬崖はちらりと視線を落とし「大丈夫だ」と力強く頷いた。
     と、そこへ一兵衛が浄霊眼にてすぐさま回復を行ってくれ、傷を癒してもらった冬崖は「ありがとな」と優しく声を投げかけた。気持ちが通じたのか一兵衛は鳴き声を一つ。
     都市伝説が身に纏うウェディングドレスの面積は、今や血の赤の方が多い。ボロボロに擦り切れた裾から覗く細い足は、地面に立つのがやっとなのか、ふらりふらりと、足元がおぼつかない様子で左右に揺れている。それでも、枝きり鋏は、決して離そうとしなかった。
    「その物騒な武器ごと浄化してあげる!」
     颯爽と駆け出した由宇は真正面から都市伝説に突っ込んで行き、その血塗れた赤い頬を力の限り殴り飛ばすと同時に、体内に魔力を流し込む。その衝撃によって都市伝説の手から枝きり鋏が弾け飛んだ。
    「うぐっ……!!」
     地面に倒れこんだ都市伝説は、身の内に流れる異変に気付いたのか、細い身体が、ビクンビクンと打ち上げられた魚のように激しく揺れる。
    「うぁ…うぁあああぁ、あああああッッああぁああ!!!!」
     そして次の瞬間!
     ボゴォッと鈍く大きな音を立てて、女の身体が、内側から破裂した。四方八方へ飛び散ったと思われた都市伝説の肉体は、既に塵と化し、空から降ってきたのは、白と赤の二色のそれであった。
    「せめて安らかに眠って。次はどの方も素敵な男性と巡り会えると良いわね」
     ハナの囁くような言葉が、静寂の闇夜の中で優しく響いた。

    ●了
    「凄い熱演だったね、これで都市伝説も一区切りだ」
    「わたし、本当はあんな事絶対にしないのよ!」
     しずくが皆に激励を送るとハナが浮気男を演じてくれた冬崖へ、鋏を持ち出して詰め寄った事を深く謝罪しだした。その隣で、百合亞と由宇が優しく笑っている。
    「この噂のお蔭で、少しは浮気をする男が減ればいいんですけどね」
     遥斗の言葉を聞きながら、自分も実際浮気したらこうなるんだろうと思いつつも女の恨み辛みは恐ろしいと考えた。冬崖は慣れないキャラを演じた事に、今回は随分と疲労した様子だった。
     その傍らで眼鏡を押し上げ、袴の埃をサッサッと払っていた立夏が、一兵衛に向かってぽつりと零した。
    「私はね…許せないんだ。言わずに浮気した男って。裏切るなら、別れようよ。先に、さ」
     しかし一兵衛はやはりきょとんと首を傾げるだけだ。立夏はよしよしとその頭を優しく撫でる。その様子を見ていた紫王が吐息を一つ。
    「人の噂か幽霊か、何にせよ後味は良くないな。もう彼女が現れる事も無いし引き上げようか」
     そうして灼滅者達は、自分達が演じた修羅場を笑い話にしながら帰路についた。心には、どこか小さな引っ掻き傷が残っているような、そんな気もする夜だった。

    作者:四季乃 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月30日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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