●2013年キャッチフレーズ大賞受賞(嘘)
男が居た。名前は知らん。
彼は常人ではまず屈すると言われる過酷な試練に耐えきり、幸福に満ちあふれた光の道を進んでいた。
だが彼の歩んできた道はあまりに過酷すぎたものだった。幸福のロードは長くは続かず、今はこうして病院のベッドにねじ込まれている。
窓の外で風に吹かれる枝を見て、物思うものだ。
汗を流し、苦しみに耐え、吠え盛ったあの日に戻りたい。
願わくば……そう、願わくば。
そんな彼に、ある女がこう問いかけてきた。
自分の眷属になるなら、その身体をかつてのように……いやそれ以上に強靱なものにできると。
男の判断は一瞬であった。
ベッドに正座し、三つ指と額をつけ、魂のそこからこう叫んだ。
「そのピンヒールで、踏んでくださァイ!」
男の叫びは、三千世界にとどろいた。
●ピンヒールっていうのはすごいとがってるヒール靴のことだよ
「淫魔、ですよね? ですよね?」
エクスブレインの人が疑惑のまなざしで自己確認みたいなことをしていた。
聞くに、どうやら淫魔が出たらしい。
それも、最近よく見る『いけないナース』とかいうやつらしい。なんだそのいやらしネーム。AVかよ。
エクスブレインは眼鏡をクイックイッしながら語った。
「どうやら『苦痛を我慢するのが趣味』という人たちが苦痛に身を投じすぎて身体を壊してしまったようで、彼女はそんな連中をピックアップしては自らの眷属に仕立て上げていくという具合ですね」
「……なんでさ」
「趣味じゃないですか?」
あなたにもそういうお友達いませんか、と聞かれて灼滅者は無言で首を振った。
「アジトは突き止めてあります。病院ですね。しかし既に廃墟の病院のようです。その中のリハビリルームのような所で、男たちをピラミッドにして腰掛けているのが今回の淫魔で間違い無いと思います」
「腰掛けてるんだ……」
「もしくは踏んでますね」
「一緒だよ」
再び眼鏡をクイッてやるエクスブレイン。
「まあそういうわけですから、よろしくお願いします」
参加者 | |
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一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609) |
ヴィラン・アークソード(闇夜を駆ける影狼・d03457) |
桃地・羅生丸(暴獣・d05045) |
淳・周(赤き暴風・d05550) |
輝鳳院・焔竜胆(獅子哭・d11271) |
榊・セツト(蒼空の螺旋・d18818) |
竹間・伽久夜(高校生エクソシスト・d20005) |
イシュタリア・レイシェル(小学生サウンドソルジャー・d20131) |
●マゾヒストの本質は求道者のそれと同じ迷いと非誘導欲求なのでいじめられるより命令されることの方がグッとくるんだってこの前見ず知らずのオッサンが話しかけてきたんだけど通報したほうがいいかな?
「理解しかねるわ……」
読んでいた本をパタンと閉じて、一之瀬・祇鶴(リードオアダイ・d02609)は眼鏡を指で押した。
「踏まれて何がいいのかしら。私だったら純粋な怒りが涌くと思うんだけど」
「まっ、世の中男も女も十人十色ってことだ。俺のような――イケメンがいるようにな!」
一回視線をそらしてからもう一度こちらへ顔を向け、親指でグッと自分を指さす桃地・羅生丸(暴獣・d05045)。顔も動作もくどい男だ、と祇鶴は氷の視線を送った。
「反応薄いな。しかしなんだ、このイケナスっていうのは全年齢ゲームに出ちゃあイケナイ格好してるよな。どう思う」
「えっと……あ、はい。そうですね。頑張ります」
榊・セツト(蒼空の螺旋・d18818)はアルカイックスマイルで頷いた。すごく善良なオーラが出ていた。
この人は真面目なのかなという目で見やる祇鶴。
そのまま視線をスライドしていくと、竹間・伽久夜(高校生エクソシスト・d20005)が回転砥石にピンヒールの先端金具を押しつけていた。
想像しにくい人は高速回転するタイヤに押しつけて火花をシャーって出してるのを想像するといい。ついでに、その光で下から顔を照らされる三つ編み女性も想像して頂きたい。それが伽久夜さんだよ。
「……こうすると、刃物はよく切れるようになるんです」
「うん……」
この子はやばいなって顔で、祇鶴を含めた三人が一斉に顔をそらした。
『そんなマニアックな靴どこで買ったんですか』とは、さすがに聞けなかった。
で。
顔を知らしたその先に、両足を投げ出して虚空を見上げるイシュタリア・レイシェル(小学生サウンドソルジャー・d20131)の姿があった。
鞭と蝋燭、あと『はじめてのことばぜめ』とかいうミニ本、そして真っ白な紙が悲しく周りに散乱していた。関係ないけど白紙の裏には赤文字で『パーリナーイ!』と書いてあった。
白目のまま呟くイシュタリア。
「……やってしまったのです」
「な、なにをやってのかは分からないが、大丈夫だ!」
「そ、そうですよ何のことかは分からないですけど僕らが代わりに考えますから」
「たとえばどんなです……?」
「『うートイレトイレ。今豚奴隷を探して全力疾走しているイシュちゃんは武蔵坂学園に通うごく一般的な女の子なのです。強いて違うところをあげるとすればSMに興味があるってところかナ』」
「『ウホッ、いい雄豚』」
「やめやがれなのです!」
イシュちゃんの本気を見るのですとか言いながら乗馬鞭をぶん投げるイシュタリア。
羅生丸の顔に当たって跳ね返ってきた鞭を空中でキャッチしつつ、輝鳳院・焔竜胆(獅子哭・d11271)は小さくため息をついた。
「最近、まともな敵とやりあっておらんなあ。ブレイズゲートでも回るか……」
「いい考えだが、まずはこっちの相手からだな」
腕組みして歩く淳・周(赤き暴風・d05550)。
ドアの前に立つと、片足を大きく上げた。
「あんな奴らを野放しにしちゃあ倫理的にやばい。っつーことで」
ここに逃げ込んだか家具どもォーと言いながら扉を蹴破る周。
すると、オッサンたちがピラミッドを作っていた。組み体操のアレである。
しいて違うところを上げるとするなら、全員ギャグボール加えてたってこところかナ!
その頂点で優雅に足を組み替える淫魔いけないナースさん(略称イケナスさん)。
「フ、灼滅者ね。さあものども、やっておしまい!」
「「フゥー!」」
その様子を見ていたヴィラン・アークソード(闇夜を駆ける影狼・d03457)は、食べていたタイヤキを頬張って飲み込んでから、ぱしぱしと手をはたいた。
「たいした事件だ。これは一日ツッコミ役をしなきゃならんだろうな」
みなさん。この台詞をよく覚えて置いてくださいね。
●これがきっかけでなんかに目覚めても当方は一切の責任を負いませんがついでに当方を踏んで頂いてもよろしいでしょうか。
眼鏡が宙を舞った。
回転したそれが頂点に至った頃、エネルギー粒子へと分解。キラキラとした粒子をあびながら、祇鶴は優雅に歩き始めた。
「その足、いらないわよね」
膝に弾をうけてしまって跪く男。そんな彼の頭にトゥーキックを入れると、流れるように顔を踏みつけ、床へとたたき付けた。
「どこを見てるのかしら。次にいらないのは何? 汚らしい視線しかできない目? 請うことしかできない舌? それとも豚のように鳴る鼻かしら。ねえ?」
足をずらし、機関銃を顔に突きつける祇鶴。
「ふっ、ふぅ、ふぅ……!」
「痛いのがいい。ああそう。なら叶えてあげる。何が欲しいの? 苦痛?」
「ふぅうううううううううう!!」
白目を剥いてビクンビクンする男。
これが眷属と灼滅者の戦闘シーンなんだよって説明したら、信じてくれるだろうか。
どうか信じて欲しい。あと通報するのはやめてほしい。
きっと祇鶴さんのS心に火が付いてしまっただけだし、元々ストイックな焔竜胆さんなら普通にやってくれる筈だから。
ほら。
「ここを潰して欲しいんだろうっ、どうだ糞虫ども! 綺麗に並べ、次はお前だ!」
「ふっ、ふうっ! ぶひいいい!」
……焔竜胆さんが男たちの急所を燃えるような足で踏みつけてはねじり、踏みつけてはねじりして回っているじゃないか。
はは、ね、戦闘シーンだよね。そうだよね。
「嬉しいか。『ありがとうございます』といえ」
「ぶっぶひい!」
「誰が『啼け』と言った」
踏みにじった足を上げ、今度は雷を纏わせて踏み抜いた。かなりリアルな音で潰れた。何がとは、言えないよ。
「次はフォースブレイクをしてやる。『おねがいします』はどうした?」
「ぶひいいいいっ!」
白目を剥いてニヤニヤする男。焔竜胆は汚物を見る目で舌打ちすると、同じ所へフォースブレイクした。むろん爆発した。何がとは、言えないよね。
もしかしたらこう、手に持った電話でどこかに連絡したくなったかもしれない。
だがもう少し待って欲しい。彼女らはきっと何かが暴走しただけなんだと思う。
伽久夜さんはそうじゃないはずなんだ。自らの経験があるから、入院患者の心につけこむ淫魔をとても憎んでいるはずだし、私情を挟むことはあっても趣味に走ることは絶対無い筈なんだ。冒頭でピンヒール削ってたのも……あれだよ、そういう仕事をしてるんだよきっと。靴屋さんなんだよ。
だから。
「動かないでください。動けは、しないでしょうが」
ダイナマイトモードで『先をとがらせたピンヒールで人を踏むのに最適な格好』に爆裂チェンジした伽久夜さんが封縛糸で半裸の男を亀甲縛りしつつ頬にヒールの踵をねじ込んでいるのは……あっ、あのっ、ええと、仕事……じゃないよね。違うよね。靴屋さんでもないよね。知ってた。
自分のプレは自分で決めるのですと言って亀甲縛りの男を鞭でべしべし叩き続けるイシュタリアでも見て和んで欲しい。彼女の出番が妙に少ない理由についてもあんまり聞かないで欲しい。
「ああ、なんでこうなってしまったのでしょう……この気持ちをどこに向ければ……」
『順番待ち』の札に並んだ男を片手間に駿河問いにかけつつ、伽久夜は自らの顔を覆った。片手で覆ったので、なんか見た目が恐かった。
挿絵申請、お待ちしております。
通報って言葉は悪い子だ。だって相手を悲しませるもの。
どうしてもって言うなら、彼女を見て決めて貰おうじゃないか。
きっとそんな気は無くなるはずだ。
ほら。
「オラァ! 椅子は踏むもんじゃねえだろうが!」
椅子になった男に踵を入れながら座る周の姿を!
「ふっ、ふう……ぶひい……」
「何だ、あぁ? テメェはアレか、自分が踏まれる価値のある男だと思ってんのか。それならもっと昂ぶらせろや。アタシを楽しませろって言ってんだよ!」
「ブヒイ!」
踵で男の手を踏みつける周。炎が出ているのかじりじりと手の甲が焼た。
手を踏むってところで気づいたと思うが、彼女は男の方に両足を垂らすように座っているのだ。いわゆる馬乗りの亜種だ。
周は鼻息を荒くする男に舌打ちすると、自分の指を歯で少しだけ噛み千切った。
ぽたぽたと垂れる血が炎に変わり、男の首や頭にかかっていく。びくびくと身体を震わせる男。
それを周はじっと見下ろしていた。
なんだろうね、このマニアックなプレイは。
血液プレイとキャンドルプレイの融合? 初めて見たよこんな使い方。
ほんとうに、灼滅者っていうのはすごいね!
悪かった。嘘をついたことはあやまる。だから通報だけはやめてほしい。
これは灼滅者として大事なことだし、相手に対して柔軟に姿勢を変えるという彼女たちなりの積極性なのだ。性的な趣味だとか、性的欲求の発露とかじゃない。
今から紹介する男たちが証明してくれる。
さあ。
「淫魔の相手は俺に任せろ、なに心配はいらなぐあああああああっ!」
イケナスにパルドライバーをくらった羅生丸のサングラスがパリーンと砕け、次のカットには窓の外に見える青空に彼の顔が浮かんだ。
『ナースに踏まれるたびに俺の斬艦刀が戦神降臨するんだ。そして隙を見て見上げるとナースの誘うような太もも。更にその先には神々しく輝くおパンティがあった。それこそが男のロマン。夢に描いた小宇宙(コスモ)。普段からイケメンでいる俺へ天からのご褒美だと思ったぜ。どれだけ踏まれようがこの幸福な世界を堪能できるなら、悔いは無い。俺は全てをやりとげた。そんな気になるのさ』
「桃地さぁぁぁぁぁぁん!」
身を乗り出して叫ぶセツト。
その後ろでは、瀕死の羅生丸がヴィラン式回復法を受けていた。
具体的には猫耳と腰布しか着ていないヴィランの演歌ライブ(武蔵坂雪月花)をマス席で聞くというものである。
もう一回言おうか?
猫耳と腰布しか着ていないヴィランのライブである。
ちなみに色は黒である。
羅生丸は『ああ、イケナスと一緒だ……』と言いながらサングラス(復活した)の奥で涙を流した。なんの涙かはよく分からない。
あとイシュタリアが後ろでマラカスとタンバリンを上司の接待カラオケかってくらい必死に振っていたけど、その理由はできれば聞かないで欲しい。
そんな光景を背に、セツトはぐっと拳を握った。
「桃地さんが回復するまで、ここを一歩も進ませません。あなたは僕ひとり……灼滅者ひとりに押さえ込まれるんです。さあ――!」
全身から膨大なオーラを噴出させ、セツトは叫んだ。
「その白くて薄いタイツとそれを引き上げるガーターベルトとしてなにより内包された細く白い足でこの僕を踏み続けてくださいお願いしまああああああああああああすっっっ!!!!」
あ、おまわりさんこちらです。
●『所詮エロ枠と舐めてかかると痛い目を見るぞ』っていうのは『足を舐めると踏んで貰えるぞ』って意味で間違いないですよね?
突然だが。
「そう僕は仕方なくイケナスに踏まれているんですそう仕方なくであ゛~っ!」
男性としてはまず踏まれちゃいけない所を踏みにじられて、音声で聞いたらどん引き間違いなしの声と共にセツトは泡を吹いた。
そして次のカットには青空に顔が浮かんだ。
『ナース服とピンヒールの組み合わせはまさに絶妙といわざるをえません。これがバニー服ましてやボンテージであれば当たり前すぎて『でっていう状態』でしょう。だからといってメイド服に合わせるには違いすぎる。そうです、ナース服のもつ医療従事者の清らかさと献身、そこに裏表で存在する背徳的なエロスを象徴する露わな脚。これにピンヒールを合わせることで献身の裏に存在する背徳をより際だった形で表現することができるのです。僕はそんなピンヒールが好きです! ナース服が隙です! 生足が、大好きです!』
「「セツトおおおおおおおおおおおおお!!」」
握り拳で叫ぶ羅生丸。
握り拳をきかせて歌うヴィラン。
何とかその間で見切れようと頑張るイシュタリア。
とかなんとかしていると、泡を吹いて気絶した男を祇鶴がゴミのように蹴り捨てた。
「全く。こんなのが好きだなんて理解できないわね。それより、抵抗する相手を身も心もへし折るほうが何倍も甲斐があると思うんだけど、っと――待たせたわね」
機関銃を構えて向けてくる祇鶴。
「そんな貴様も、たまにはなぶられる側に回ってみてはどうだ」
同じく槍を担いで背後に回る焔竜胆。
ここは逃げるべきかと焦ったイケナスだが、地面を鋭く打つ金属音に振り返った。
そう、踵とつま先を金属加工した伽久夜様である。様付けで呼べ。お前も封縛糸されたくないのか。
「雑魚は片付けました」
「そんじゃ、ヤりますかっと!」
拳をパァンと打ち合わせた。拳から手に付いた血が炎に変わり、ぶわりと燃え上がる。
炎は更に広がり、腕や足に炎のうずが絡みついていく。
飛びかかる周。
激しい蹴りが炸裂し、同時に焔竜胆の槍が足下を水平打ちしたことでイケナスは転倒。伽久夜から飛んだ糸が手首と足首に絡みつき、どたんと横倒しになったイケナスに祇鶴の容赦ない銃撃が襲った。
「フ、そろそろイケメンらしくドドメをさしてや――」
斬艦刀を担いで大股で歩み寄った羅生丸。
その股間にイケナスの揃え蹴りが炸裂した。
次のカットで青空に浮かぶ羅生丸の顔。
『男ってなあ馬鹿な生き物さ。場合によっては効率よりロマンを求めたくなる。考えてみな、あんなおっぱいを前にしたら一つしか答えは無いだろ。俺の覚悟は出来ている。既に全裸待機さ。普通踏まれりゃ痛みを感じるが、それが快感になるのさ。そいつはもう絶頂モンのな。だがここは我慢だ。男の生き様を伝えるのが俺の役目だからな。あと、おパンティ見えて本当に良かったぜ!』
「モモチーさぁぁぁぁぁぁん!」
『祝顔アップ』の垂れ幕と共に窓へ身を乗り出すイシュタリア。
そんな彼女らをよそに、ヴィランは懐(どこだよ)から取り出した眼鏡を装着した。
「今から俺は、眼鏡のドSだ」
そう呟くと、イケナスの腹を思い切り踏みつけた。
「最初はみんなに譲った。だからここからは俺の時間だ。意味は分かるな?」
「意味……?」
「俺も楽しませて貰うという意味だ。誰にでもな、難しいことを考えないではっちゃけたい時があるんだよ!」
うつ伏せに蹴り転がしたイケナスを踏むと、ヴィランはより一層の力を込めて言った。
「言ってみろ。踏まれる側になるのは、どんな気分だ?」
「いっ……」
イケナスは白目を剥いて言った。
「めっちゃキモチイイです!」
灼滅されたイケナスは、ダブルピースで青空に顔を浮かばせた。
それはもう、イイ顔だったという。
作者:空白革命 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年10月1日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 14/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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