
大阪城に現れたブレイズゲート。
その地下に豊臣方の敗将達が彷徨っているという噂話。
そして調査に向った灼滅者により、都市伝説『石田三成』は討伐された。
彼の将が陣幕を張りし穴は石垣の下へと埋もれ、それ以上の探索は不可能となる。
これでブレイズゲートは消えるかと思われたが、エクスブレインの目に大阪城は、依然白き炎の柱に遮られたままだったのである。
休日の大阪城公園。
ランニングする人や家族連れ、思い思いに人々が過ごす公園の北東側に、水上バス『アクアライナー』の船着き場があった。
その船着き場に虚無僧の様な編傘を被った船頭が櫂を握る一艘の船が止まっている。
「やはり、まだ……」
その姿を見た灼滅者はそう呟いて踵を返す。
他にも通りすがりにそれを見て、首を傾げる者はいるものの、船に用のある者はそうそういるものではない。観光船とも違う船に近付く者など、まずいないのだが、それでも、船頭は船の上で微動だにせず船に乗る者を待っている。
何かの間違いなどで乗ってしまうと、船はゆっくりと川面をすべり大阪城の地下に続く穴へと消えてゆく。不思議な事にこの穴は、この船が通る時しか姿を現さない様だ。
第二寝屋川から穴を抜け北外堀へと到り、石田三成の居た場所を通り過ぎた舟は、天守閣の北西側に新たに開いた穴へと向う。
船が着く先はまたもや陣幕。
『下り藤』の家紋も鮮やかなその陣幕の中央、床几に座するは廻り鉢六十二間星兜を被る偉丈夫。
「やはり城に取り付かれたか、だから打って出るべきだと申したのに……ここに至っては是非もない。我、後藤隠岐守基次、全力を以ってお相手させて頂こう」
剛槍を引っ提げ床几から立ち上がったのは、『黒田八虎』や『大阪城五人衆』の一人に数えられた後藤基次……通称、後藤又兵衛その人であった。
| 参加者 | |
|---|---|
![]() 神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012) |
![]() 神護・朝陽(ドリームクラッシャー・d05560) |
![]() ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689) |
![]() 駒瀬・真樹(深層アネクメネ・d15285) |
![]() リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973) |
![]() 七代・エニエ(吾輩は猫である・d17974) |
![]() 金剛・ドロシー(ハイテンション風小動物娘・d20166) |
![]() 天凶院・真夜(脳天直撃ロケットガール・d20656) |
●前略、舟の上より
「ここは天下に名高い大阪城! 財宝の1つや2つ余裕で転がってるに決まってるんだよ! わたし……財宝を見つけたらロケットを買うんだ……」
「希紗ちゃん、それ脂肪フラグ……じゃなかった、死亡フラグだよ」
大阪城の天守閣を見上げ目を細めた神泉・希紗(理想を胸に秘めし者・d02012)が言うのに、舟から見上げる天守閣に想いを馳せていた天凶院・真夜(脳天直撃ロケットガール・d20656)が、思わずツッコミを入れる。
宇宙部の8人を乗せた舟は大阪城の外堀をゆっくりと進んでいた。
「けど、守りが居るという事は、その先に『何か』がある証拠よね」
「だな、お宝があるから守らないといけないんだぜ。何も無ければ守る必要ないじゃん」
ヴィントミューレ・シュトウルム(ジーザスシュラウド・d09689)が川風にその赤茶色の髪を靡かせて小首を傾げると、神護・朝陽(ドリームクラッシャー・d05560)が左の掌を右拳で叩く。
「しかし都市伝説による模倣トハイエ、戦国の武将と戦えるトハ、なかなかない体験デスネ」
朝陽の気合を見た金剛・ドロシー(ハイテンション風小動物娘・d20166)が相好を崩すと、
「偽物とは言え、名高い『センゴクブショー』に会えるだなんてワクワクしちゃう。それに日本のキャッスルには『ドンデンガエシ』とかいう仕掛けがあるって聞いたわ……これを見ずには帰れないわね」
「然り然り……まやかしとは言え、是非とも武勇伝を拝聴したい所であるな」
リリー・アラーニェ(スパイダーリリー・d16973)がドロシーの方へ顔を向け微笑むと、七代・エニエ(吾輩は猫である・d17974)が頷いてその蒼い瞳を細めた。
(「一騎打ちとか出来たらかっこいいんだけどなー、でも怖いから皆といこう。子供には手加減してくれないかな?」)
その会話を聞いた駒瀬・真樹(深層アネクメネ・d15285)も、城の北西に開いた穴をくぐり、エニエの頬をむにむにさせつつ、この先に待つ武将に想いを馳せる。
舟はゆっくりと穴の中にある岸に着き、8人は警戒しながら舟から降りる。
『下り藤』の家紋鮮やかな陣幕の中央。床几に座り此方を睥睨していた廻り鉢六十二間星兜を被った武将が、ゆっくりと立ち上がった。
「其にいずるは誰ぞ? 汝ら豊家に仇成す者か?」
武将……後藤又兵衛が、伏兵などを警戒し、周囲に視線を向けるヴィントミューレやエニエを見咎め誰何の声を上げる。
(「ええっと、石田三成……って聞いたコトあるかも? 後藤又兵衛は知らないなぁ。う〜ん、歴史系はさっぱりだよぅ」)
「吾輩は――臥竜窟の猫。名前は……まだ無い」
「聞かれてるぞ希紗、名乗ってやれよ」
その姿を見てもさっぱり誰か判らず眉を顰める真夜。その後ろに立つエニエが名乗るのを無視し、朝陽が希紗へ視線を向けると真樹が希紗を守る様に傍らに寄る。
「わたしは武蔵坂学園宇宙部部長、神泉希紗! 大空の遥か彼方……大宇宙に飛び出す者だよっ!」
希紗の名乗りに首を傾げる又兵衛。
「納得してない顔だねっ。いいでしょう、そもそも宇宙とは空の彼方にあり……」
「空より城を攻めると申すか! 城を攻めるとあらば豊家に仇成す者に相違ない。我が槍の錆としてやろう」
「最後まで話を聞きなさい! 又兵衛さんとあろうお方が、話しを途中で遮るなど……」
宇宙について懇々と説明しようとしたところを遮られた希紗が、少しだけ声を荒げるがその言葉が最後まで続かない。又兵衛の傍らに地面から槍が沸き出し、それを掴んだ又兵衛が大きく振りかぶったのだ。
「散れっ!」
「希紗ちゃん!」
希紗の後、後ろ手に腕を組み仁王立ちしていたエニエの短い声に、一行は散開し又兵衛を包囲する形をとり、希紗の名を呼んだ真樹の展開したシールドリングが、又兵衛の投じた槍の穂先を逸らす。
逸れて壁に突き刺さった槍の柄がエネルギーを殺し切れず震える中、戦の火蓋は切って落とされたのである。
●驍将の誉れ
「聞く耳持たぬようならば、仕方あるまい。総員、猫鍋の陣を取れ、にゃー!」
「鍋島の手の者か!?」
少しだけ残念そうに色紙を仕舞い、代わりに取り出した扇子を振るうエニエの号令に合わせ地面を蹴る前衛陣。迫り来る前衛を前に又兵衛が声を上げる。
猫と鍋という単語から鍋島軍の揮下の者と勘違いした様だ。鍋島の化け猫騒動は又兵衛の死後の話な気がしないでもないが、ここはブレイズゲートなので気にしてはいけない。
「宇宙を目指す者のチームワーク……思い知るといいよっ!」
「無双の豪傑なんだろ? その力、見せてくれよ!」
希紗と朝陽の腕が異形巨大化し連続で又兵衛に叩き付けられ、その衝撃に蹈鞴を踏む又兵衛。左右へと跳び退いた2人の後ろから、
「まだまだだよ。何時まで耐えれるかな」
「あなたが何を守っているか、確かめさせてもらうわよ」
もう1発異形の巨腕を叩き付ける真樹とガンナイフを手にガンカタよろしく接近戦を仕掛けるヴィントミューレ。その間に左右に跳んだ2人は、そのまま又兵衛の背後へ回り込もうとする。
「しぇいらッ! 小娘供がぁ!」
裂帛の気合のこもった一閃。砂塵も巻き上げた一閃が真樹とヴィントミューレを押し返すと、紅いオーラに包まれた又兵衛は、そのままの姿勢で地表を滑る様に動き奥の壁まで後退し希紗と朝陽に背後を取らせない。
「今の動きは何であるか? ……兎に角、ここは火攻めぞ」
「折角の来客なんだから、お茶くらい出して欲しいものだけれど……問答無用って言うなら仕方がないわね。二度目の死を味わうといいわ」
エニエの背から炎の翼が広がり自身とリリーにEN破壊のエンチャントを付与し、それを受けたリリーは又兵衛に燃える蜘蛛糸の如き炎を叩き込む。
「背後をとらせないトハ、マタベーさんなかなかやりマスネ。ヒエイさん、カバーデス」
朝陽の更に外を回り背後を取ろうとしていたドロシーは、回り込むのを諦めると、ライドキャリバーの『ヒエイさん』を又兵衛に向けて走らせ、愛用のギター『クリムゾンビート』掻き鳴す。ウェーブの掛ったストロベリーブロンドの髪を激しく揺らすドロシーの隣、
(「教室の事件に挑戦するのは初めてだけど、宇宙部のみんなと一緒ならきっと大丈夫っ!」)
口をきつく結んだ真夜が押し戻された真樹とヴィントミューレを見て、回復はまだ大丈夫と判断し、又兵衛の紅いオーラを破壊すべく弓に矢を番える。
又兵衛は後退した事により背後からの攻撃手段を封じたが、反面壁際に追い込まれた事にもなる。しかし……、
「そらそらどうした?」
中衛、後衛陣の攻撃を受け、その身を焼きながらも余裕をもって剛槍を振り回し、前衛陣と攻防を繰り返している。
●鼎の軽重
「いくよ朝にー」
「OK、行くぜ!」
拳にオーラを集束させた希紗が地面を蹴り、朝陽が縛霊手で除霊結界を張る。
「せいっ!」
その動きに旋回させた槍を腰に溜、気合と共に繰り出す又兵衛。
槍から迸る妖気が幾重もの氷柱となって希紗を襲う。その氷柱そ先端が刺さるより早く氷柱の側面にオーラを溜めた拳をぶつけて逸らす希紗。それでも幾本かが刺さりキャットスーツに血が滲むが、駆けた勢いのまま拳を振るう。
「そこだ!」
後ろから駆けて来たエニエの声。希紗の攻撃を防ぐ為槍を動かした又兵衛の脚を影の触手が駆け登りその手を縛る。
「なにっ!」
「お宝Getしてロケットォー!」
回避行動を阻害された又兵衛の顔の前に希紗の拳。それでも尚、ギリギリのところで体を捩ったのは、流石戦国の世を生きた男と言うべきか!
希紗の拳で、左肩の『大袖』と呼ばれる肩から上腕を防御する盾状の部位が吹っ飛ぶ。
「畳み掛けるのである」
「ちぃ、惜しい。だが……」
距離をとりながらエニエが噴出させた炎を叩き付け、朝陽も影の触手を伸ばして又兵衛を壁へと縫い付ける。
「俺は……負けん!」
「気をつけ……」
又兵衛がドン! と左手で陣幕に隠れた壁を叩く。蒼い瞳を見開いたエニエの声が終わらない内に壁が淡く光り、前衛陣は不測の事態に備え跳び退いた。
だが、それは攻撃では無く、又兵衛に掛っていたバッドステータスが全て消え、その傷が塞がる。
「なんだそりゃ、聞いてないぜ!」
朝陽が歯噛みする。だが、よく見ると殺傷ダメージまで回復された訳では無さそうだ。
「回復を上回る攻撃を加えればいいだけ、みんな一緒に行くよっ!」
希紗の声に宇宙部の皆は再び得物を構え攻勢に転じる。
「回復だよ」
真夜の喚ぶ清めの風が前衛陣の傷を癒すと、
「もう、あれは反則じゃないのかしら? ハッ! もしかしてアレが『ドンデンガエシ』?流石は日本のキャッスルね。それともブレイズゲートだからかしら?」
神辱の織り糸を手に斬弦糸を繰り出そうとしていたリリーは、又兵衛がバッドステータスを掻き消した事に僅かに頬を膨らませると、エニエの攻撃に合わせその手に飾られる輪環から呪いを飛ばす。
「肩当てみたいなのが飛んだけど、斬影刃で服破りができれば、ダメージが通りやすくなるかも!」
真夜は緑の羽の様なリボンを揺らすと、己の影を刃に変えて又兵衛に飛ばし、ヴィントミューレと真樹が、それに合わせて踏み込むのが見てとれる。
「エニエ、もう一度炎を浴びせましょう」
リリーはエニエと共にレーヴァテインにて又兵衛に炎を浴びせ、又兵衛のその炎に身を焦がす。
その間にも前衛との攻防は続いており、真夜が今度はギターを掻き鳴らし、リバイブメロディで前衛陣の傷を癒し戦線を支える。前衛陣は善戦しているものの、こと戦においては相手に一日の長があるのか、手負いとなった又兵衛の豪勇の前に、じりじりと押され始めていた。
(「ふふ、いつまでも同じ攻撃パターンでいくと思わないでね」)
「フォーメーション変更よ!」
又兵衛が押し出し壁から離れたのを見てヴィントミューレが声を上げると、真樹達が又兵衛の後ろへと回り込む。
「させるか!」
「ワタシの激唱を聴ケ、デスヨ!!」
又兵衛も意図を察し壁際に戻ろうとするが、ドロシーが掻き鳴らすギターより発され、叩き付けられる音圧に思わず耳を押さえた所に、彼女のライドキャリバー、ヒエイさんがターンし突っ込んだ。
「さっきの技はもう使えないよ」
小さな光の輪を纏わせ完全に後ろに回った真樹が、斬艦刃の巨刃を叩き付ける。……がギリギリのところで体を回転させ、その刃を槍の柄で受ける又兵衛。その又兵衛の背に幾重にも突き刺さる魔法の矢。
「良い反応だけど、四方八方からの攻撃。何時まで防げるかしら?」
其を放ったヴィントミューレが微笑み、エニエとリリーの放つ炎が更に又兵衛を焼く。
「マヤさん、いきマスヨ!」
「うん、一気に決めようね」
ドロシーが掻き鳴らすギターの音色に合わせ、真夜の影が踊る様に又兵衛の鎧を裂いた。
それでも尚、芝居を踏み大きく薙いだ又兵衛の槍が希紗の胸元を裂く……直前に朝陽が割って入り鉄パイプでその一撃を受ける。
勢いを殺し切れず朝陽は裂傷を負うが、
「構うな、行け! むかつくけど殴るのは任せるぞ」
「剣は飾りだと思った? 残念でした」
朝陽は心配そうに顔を向けた希紗を叱咤し、希紗はこの戦いで初めて斬艦刀を手に取り、渾身の力を込めて又兵衛に叩き込む。間断ない息の合った連続攻撃に又兵衛の体が揺らぐが、槍を支えに踏み止まる。
「この戦いがあなたにとって正しいのかどうか、裁きを受けてみなさい。そう、この光がどう映るのか自身で確かめるといいわ」
その声に振り返った又兵衛の眉間を一条の光が貫いた。又兵衛の視線が捕えたのは己に手を向けるヴィントミューレの姿。次の瞬間、又兵衛の眼がぐりんと白目に変わると、両膝が地面につき身を包む炎が消える。
「……次勝てばそれでよし……」
又兵衛は小さな声でそう呟くと、そのまま前のめりに崩れ落ちたのだった。
●陣落ちて
「ミッション、コンプリートデスヨ!」
ドロシーが飛び跳ねながらVサインをすると、
「せっかくだ。勝鬨ってやつ? あげちゃえよ」
「それより、先の穴では敵を倒してそれ程立たない内に、穴が崩れたって聞いたんだよ。この場所、調べれるだけ調べよう」
大きく息を吐いた朝陽が希紗に微笑み掛けるが、真樹がそれを制す。
「財宝があるかもって話したしね」
真夜が頷き、ヴィントミューレは、情景を描き止めようとゴーストスケッチで筆を動かしていた。
皆は手分けして『下り藤』の描かれた陣幕をめくり上げ、調査を始める。
「!! 皆さん『ドンデンガエシ』よ」
リリーの声に皆が集まる。めくり上げた陣幕の向こう。大きな岩に花の様な家紋が描かれている。
「『太閤桐』……豊臣家の定紋である」
「えっ?」
それを見たエニエが博学ぶりを披露した瞬間。その紋が岩にしみ込む様に消え、ドロシーが驚きの声を上げた。そして徐々に大きくなって来る地響き。
「拙い、逃げるぞ!」
「ああ、まだ勝鬨上げてないんだよ!」
叫んだ朝陽が悔しがってる希紗の手を取って駆け出し、皆もそれに続く。
「あっと……」
エニエは振り返り、又兵衛の隣に転がる剛槍を拾い上げ、リリーの後に続いた。
「ひやあぁ~~」
そして最後の真夜が脱出して10秒も経たぬうちに、穴は崩れた石垣に埋もれてしまったのだった。
「ロケットを作る為の財宝が……」
「残念だったわね」
本当にあったのかどうかわからないが、大阪城ホール前の噴水広場で項垂れる希紗を慰める真樹。
「では、気晴らしと今後の為に大阪城を見学する事を提案する」
「ムムム、大阪の陣デスカ? ワタシも戦国時代には一家言アリマス」
エニエが言うと、ドロシーも応じてドヤ顔をする。
「ふっ……この賢猫たる吾輩が、大阪の陣のあれやこれやまで、余すところ無く解説してやるでな」
「ワタシもエニエさんの説明をお手伝いシマスヨ!」
こうしてエニエとドロシー、ノリノリの2人に引きづられる様に、宇宙部の一行は大阪城の天守閣へと消えていったのだった。
| 作者:刑部 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
![]() 公開:2013年9月29日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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