魔天楼への逃亡

    作者:相原あきと

     パリっとしたスーツを着こなした30代後半の英国風ビジネスマンが、多くの人が行き来する国際空港のロビーを歩いていた。
     クールな表情でいかにもな雰囲気を醸し出している。
     ……だが、男は内心、切羽詰まっていた。
     女性が大好きでいろいろナンパをしまくっていたら、そのうちの1人に複数人と付き合っている事がバレ、あまつさえ、いつの間にか盗られていた携帯から全ての女性に、ある事ない事(ほぼ事実だが)連絡を回されて情報を共有されてしまったのだ。
    『全員であんたを殴りに行ってやる!』
     連絡を回した女性は、そう啖呵を切って男への電話を切った。
     もう日本にはいられない。
     急ぎ故郷のアメリカへ帰らなければ……。
     腕時計を確認する。出発まであと1時間。
     頭の中では、日本で手を出した学生から子連れの人妻まで、さまざまな女性の顔が浮かんでは消える。
     その誰かが今にも背後から迫って来ているのではないか……。
     そんなプレシャーを感じてしまう。
    「ふぁ……っ!」
     欠伸が出そうになり噛みころす。
     そう言えば、昨日の夜はまったく眠れなかった。
     早く、早くアメリカへ……。

    「みんな、シャドウが国外脱出をはかっている事件のことは勉強してるわよね?」
     集まった灼滅者達に鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が聞く。
     それはシャドウの一部が日本から脱出しようとしている事件だった。
     シャドウは日本から帰国する外国人のソウルボードに入り込み、国外に出ようとしているのだ。
     もちろん、日本国外はサイキックアブソーバーの影響で、ダークネスは活動することができない。
     最悪の場合、日本から離れた事でソウルボードから弾き出され、国際線の飛行機の中で実体化……というケースも考えられる。
     もしそうなったら、飛行機が墜落し乗客が全滅という可能性もありうるのだ。
    「シャドウの目的は未だわからないし、本当に国外に移動できるかも不明だけど、放っておくわけにはいかないわ」
     珠希が言うにはソウルボードの中では特に事件は起こっていないらしい。
     だが、灼滅者が侵入してくるとさすがにシャドウも黙っておらず迎撃に現れる。
    「そこでそのシャドウを撃退してくれれば依頼は成功よ」
     ちなみにそのソウルボード内の風景は夜のニューヨーク、ビル群の屋上らしい。
     夜の魔天楼をバックに、ビルの屋上を駆け廻る……そんな風景だ。
    「今回、シャドウが潜んでいるのは遊び人のアメリカ人で、名前はボブ、飛行場で接触可能な猶予時間は1時間。それを越えると飛行機に乗ってしまうわ」
     ボブは英国風ビジネスマンな格好をしているらしい。
     空港のロビーで人ごみに紛れてうろうろしているから、行けば見つけるのは容易いだろう。
     問題は、ボブの性格と状況だ。
     ボブは日本で学生から子連れの人妻まで、複数の女の人に手を出して遊んでいたが、つい先日その事が全ての女性にバレてしまい。潮時だろうとアメリカに帰る事にしたらしい。
     急いで帰国する事にした背景には、その女性たちが復讐にやってくるのでは……と疑っているようだ。
     怪しい相手が近づいてくれば、ボブは人ごみに紛れて逃げようとするし、もちろん、1人っきりになりそうな場所は、女性たちに襲撃されるかもと考え、なるべく大勢がいる場所を選んで行動する。
     つまり……ボブは小心者なナンパ師という事だ。
     人が多い飛行場で、ボブをどうやって周りに気付かれずに眠らせるか、それがポイントになるだろう。
    「それとソウルボード内で戦う事になるシャドウについてなんだけど……」
     シャドウは大きなコウモリ……っぽい姿らしい。
     使ってくるのはシャドウハンターとガトリングガン、解体ナイフに似たサイキックを使用するが、近くの相手用の攻撃方法は無いらしい。
     ただ常に飛行状態なのは注意だ。
    「シャドウはそんなに強くないわ。それに劣勢になれば勝手に撤退してくれるからの、向こうも無理に最後まで戦う気は無いみたい」
     そこまで説明すると、珠希は最後に皆を見回し。
    「今回の依頼、最悪の事態が起こったら本気で大参事になる可能性もあるから……気を引き締めて向って欲しいの。それじゃあ、お願いね」


    参加者
    千布里・采(夜藍空・d00110)
    黒山・明雄(オーバードーズ・d02111)
    狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)
    シルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)
    綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)
    野々宮・ノエミ(トリッピースプリー・d10340)
    三澤・風香(森と大地を歩く娘・d18458)
    菊水・靜(ディエスイレ・d19339)

    ■リプレイ


     多くの人が行き来する国際空港の一角で、その3人の学生が何やら紙袋から洋服を取り出しつつ相談していた。
    「まぁ可も無く不可も無く……やなぁ」
     そうぼやくのは千布里・采(夜藍空・d00110)だ。
     采と同じく袋から服を取りだす菊水・靜(ディエスイレ・d19339)。それは小奇麗なパンツにグレーのシャツだった。空港の清掃員の制服があればと学園に願い出た所、時間の都合で渡されたのはこれだった。演技や雰囲気、小道具によってはほぼ誰もが清掃員だと勘違いしてくれそうではあるが……。
    「一抹の不安は残りゅのぅ」
     腕を組んでシルフィーゼ・フォルトゥーナ(小学生ダンピール・d03461)も呻る。
     と、そこに現れたのは今まで姿を消していた黒山・明雄(オーバードーズ・d02111)だった。
    「制服をどう用意するか……それが成功の鍵の一つだろう」
     そう言って取り出したのは、この国際空港の清掃員の正規制服だ。
     驚く3人に明雄が説明する。――こういう時の為の闇纏いだろう? と。
     僅かに口の端だけで微笑む明雄。
    「あとは任せたぞ」
    「それでは行きゅかのぅ」
     采と靜が清掃員の服へ着替え、明雄とシルフィーゼはもしもの時用に闇纏いを発動させる。そして……4人は空港のロビーへと向かって行った。

     一方、部屋を先に確保しておく為に動いた3人は、すでに小さめの休憩室を確保していた。それっぽい服を着てプラチナチケットを発動、掃除の為にと言うと、別に疑う事もなく休憩室を使っていた一般人は素直に出て行ってくれた。疑われる事もない状況だからこそのスムーズさだ。
    「日本に来ようとしているダークネスがいる一方、離れようとしているものもいる……何が起きてるのでしょうか?」
     狩野・翡翠(翠の一撃・d03021)が呟くが、部屋にいる三澤・風香(森と大地を歩く娘・d18458)が、わからないと首を横に振る。
    「でも、シャドウの国外逃亡を許すわけにはいきません」
    「同感ですね」
     鞄から『清掃中』の貼り紙を取り出しつつ野々宮・ノエミ(トリッピースプリー・d10340)も同意する。
     これでこちらの準備は整った。
     あとは……――。

    「あっ」
    「ッ!?」
     人通りの多いロビーのベンチで2人の声が上がる。
     ジュースを片手に歩いていた男が転んだ拍子に、ベンチに座っていた男にそのジュースを被せてしまったのだ。
     転んだ(演技)でジュースを掛けたのは綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886)、ジュースまみれになったのは今回のターゲット・ボブだ。
     急いでハンカチを出す祇翠だが、その目の前でボブは予想外の行動に出た。
     祇翠の顔を見るやいなや、そのまま何事も無かったように去ろうとしていたのだ!
     闇纏いしつつ様子をうかがっていた明雄とシルフィーゼにも緊張が走る。
    「すまない。クリーニング代か、せめて拭かせて貰えないだろうか」
     慌ててボブに声をかける祇翠。
    「……ボーイ?」
     去ろうとしていたボブが疑問符を浮かべた顔で祇翠を見る。
     背が高いとはいえ中性的な顔立ちに長髪の祇翠だ。どうやらボブは勘違いしたらしく、祇翠が説明すれば何かホッとしたように大きく溜息を付いた。
    「フゥ、失礼。チョット訳アリデネ。女性に追ワレテイルンダ、HAHAHA」
     笑いながらジュースをこぼした事を許してくれるボブ。
     逆に女性に間違えてすまないと謝罪までしてくれた。
     どうやら、女性は同性の友達を使って何かやってくる可能性があるらしく、どうもボブの口ぶりから今回のような事は過去にも経験があるらしい。
    「お客様、至急片付けます、着替えの服を至急ご用意しますので此方の部屋に来ていただけますか?」
     軽い雑談後に、今度こそ去りそうなタイミングで駆けつけたのは清掃員(に扮しプラチナチケットを使った采と靜)だ。
    「10分もあれば急ぎクリーニングも可能です」
    「オー! ソレハ助カリマス」
     まんま清掃員の言う事や誘導に無理は無く、是非そうさせてくれと2人について行くボブ。もし、接触が女性だった場合、こうも上手くは行かなかっただろう。
     ふと胸をなでおろす灼滅者達であった。

    「オゥフ……zzz……」
     案内された部屋に入るなり、翡翠の魂鎮めの風により夢の世界へと旅立ち崩れ落ちるボブ。すぐ側に用意しておいた並べた椅子にボブを寝かせ。
    「ナンパさんは、あまり褒められませんけど今はお休みください」
     翡翠がタオルで作った簡易枕をボブの頭の下へ入れつつ呟く。
    「もっと一途になった方が素敵ですよ」
     と、風香も寝ているボブに耳打ち、届く届かないの問題では無い、何股もしたというこの男に、とりあえず言っておかないと気が済まなかったのだ。
    「これでしばらくは時間がかせげます」
     扉に『清掃中』の貼り紙を張って戻って来たノエミが言い、闇纏いを解いた明雄とシルフィーゼ、清掃員姿の采と靜が頷く。
    「それでは、いきましょう」
     ノエミがソウルアクセスを発動させ、灼滅者8人は夢の世界へ旅立つ。
     ここまで灼滅者達の行動はノーミスだった。
     そう……ここまでは。


     そこはどこかのビルの屋上だった。
     時刻は夜、空には大きな満月が浮かび、周囲を見回せばまるで空を削るように高層ビルが幾つも建ち並び、窓に光る人工的な幾千幾万の灯りが幾何学的で、また幻想的な雰囲気を醸し出していた。
     灼滅者達がいる屋上はその中でも高いビルらしく、周囲や眼下に他のビルの屋上がちらほら見え、どの方角を見ても1枚の写真を見るように美しかった。
     バサバサ、バササ……。
     見惚れるような空気を破る上空からの羽音。
    「何故、この人に潜んだのですか!」
     キッと上空を睨むように叫ぶ翡翠。
     その声を無視して羽ばたき続けるのは……なんと表現するべきか、ハート型の黒い物体に1対のコウモリ羽根が生えた存在、シャドウ。
    「私達は眼中に無さそうですね……なら」
     翡翠はスレイヤーカードを取りだし。
    「貴方の魂に優しき眠りの旅を……」
     殲術道具を解放する。
    「バサバサと目障りな奴だ。始めようか、『狩りの時間』をな──」
     明雄も掲げたカードを解放、同時に背中から炎の翼が顕現し、仲間達に破魔の力を付与する。
    「行くで!」
     側に控える霊犬が采の言葉にコクリと頷く。
     采はシャドウに名前を聞いてみたかったが、翡翠とのやりとりを見て思い直す。今聞いても無視されるのがオチだ、なら……。
     采の不可視のシールドが大きく広がり、前衛達の前に壁として展開され。霊犬はシャドウへ六文銭を打ち放つ。
     クルリと空中で六文銭を回避したシャドウが、灼滅者達に気が付いて身体ごと向きを変え――ゴウッ!
     紫色の衝撃波が灼滅者達を襲う。
     さらに。
    「毒か」
     威力自体はサーヴァントを含め前衛に8人いるだけあり個々人に来る分は弱まっているが、毒までは防ぎようがない。
     これで倒れたか、とばかりにどこかに飛んで行こうとするシャドウだが、その真下から黒い影が立ち上がる。
    「喰ろうて見よ」
     それは靜の影、屋上の端から伸びあがるようにシャドウを包む。
     ほう……とばかりに再び向き直るシャドウ。
     どうやらやっと、こちらを敵だと認識したようだった。
    「やっとこっちを見たか。これでやっと戦えるなあ!」
     嬉々としてシャドウに叫ぶはノエミだ。
     現実世界と性格一変、テンション高く大げさな身振りを咥えて楽しそうに笑う。
     世話役のナノナノが竜巻を起こし、その風に乗るようにノエミは影縛りをシャドウへと撃ち込む。
     楽しそうなノエミとは対照的なのはシルフィーゼだ。
    「くぅぅ! おにょれ!」
     屋上から夜空で滞空するシャドウを睨み、地団太を踏む。
     シルフィーゼは今回、攻撃用のサイキックは全て近距離のものを活性化して来ていた。
     これでは攻撃したくとも空中ポジションにいる相手には届かない……。
    「シルフィーゼさん、今は……やれることをやりましょう!」
     グッと胸元で拳をぐーにし風香が言う。
     シルフィーゼは唇を噛みつつ、ヴァンパイアミストを発動させた。
     空のシャドウを再び六文銭が襲う。
     今度は祇翠の霊犬紫雲だ。
     シャドウはお返しとばかりに一度大きく羽ばたくと、黒い弾丸を雨あられと連続で撃ちだしてきた。
     前衛の仲間達が庇われ、庇い、耐える中、祇翠だけはアクロバティックに踊るように黒い弾丸(よく見れば小さなシャドウの分身体達だ)を回避し。
    「コウモリには音波ってな、ストリート仕込みのダンスライブといくぜ」
     激しくノリの良いソニックビートがシャドウへカウンター気味に叩き込まれる。
     空中で一時的に不規則に飛び回り、シャドウがゆっくりと灼滅者の方へ向き直る。
     それはまるで、まずはこいつらを倒すか、そう思い直したかのようであった……。


    「名もしらにゅシャドウよ、悪いがその程度で倒りゅわけにはいかにゅでの」
     魔天楼の上方、高層ビル屋上でシャドウの猛攻にシルフィーゼが耐えきる。
     先ほどまでなら耐えられなかっただろう。
     だが、攻撃出来ないならやれることは一つと、ポジションをディフェンダーにチェンジしたのだ。
     ドンッ!
     シルフィーゼに気が言っている隙に、シャドウにオーラの塊が直撃する。
     グラリと落ちそうになるが踏みとどまるシャドウ、見れば靜が冷静にオーラキャノンを撃った格好のままこちらを睨んでいた。
     シャドウが滑空するようにビルの周囲を飛び周り、2週目に入ろうかという位置から紫色の衝撃波をぶつけて来た。
     だが、灼滅者サイドは潤沢なディフェンダー層のおかげで、その陣形が崩れることは無い。シャドウもその点に気が付いたのか、滞空し灼滅者を見極めるように睥睨。
     だが、考える隙も与えないと六文銭が飛び、僅かに下降気味にシャドウが回避。それを待ってましたと身体を捻りながら祇翠が言う。
    「型は螺旋遠心、放つは己が闘志……俺の豪速球で吹き飛びな」
     祇翠が身体を回転させ、遠心力の勢いをつけた豪速のオーラキャノンがズガンッとシャドウへ直撃する。
     ユラユラと体勢を崩すが、そのままビルを伝うように飛びながら下へ下へと逃げて行く。
     体力を回復させるつもりだろうか?
     眼下には中層ビル群の屋上が見えるが……。
    「けっこう距離……あります、よね?」
     風香が端から覗きこむように言う。
     事実、一番近いビルの屋上まででも、ここから飛び降りるには数階分の高さがある。
     と、下を見る風香の横、屋上の端に立つのは明雄だ。
    「え?」
    「何を企んでるかは知らないが、逃がすわけにはいかないだろう」
     クールに、けれどその内面の激情がのぞくような言葉と共に、明雄は屋上から飛び降りる。
    「あっ!」
     風香が驚く間もなく、一番近い中層屋上へと降り立ち、さらにシャドウを追って次に近い屋上のビルへと……。
    「まぁ、逃がしたないしな」
     再び横から声がし、次に飛び出したのは采、突き従うように即座に采の霊犬も主人の後を追って行く。
    「行きましょう」
    「お前も行くんだろ?」
     翡翠とノエミが風香に。
    「はい!」
     次々へと屋上の端を蹴り、灼滅者達は魔天楼の空へと飛び出していった。


     低層ビル群が連なる屋上を、灼滅者達とシャドウは移動しながら戦い続けていた。
     先ほどまでが魔天楼の天辺ステージなら、ここは魔天楼と夜空の満月を背景にしたステージだ。
     飛びながら動き回るシャドウを、次々に足場を変えながら、屋上を駆けてサイキックを撃ち合う。
    「ナノナノ~……」
     ノエミを庇ってエンジェルさんがビルの谷間へと消えて行く。
     すでに敵の範囲攻撃で3体いたサーヴァントは誰もが落ち、さらに――。
    「あとは……任せる、ぜ……」
     祇翠が風香を庇ったまま倒れ動かなくなる。
     少し前に倒れて戦線離脱したシルフィーゼに続き2人目だった。
     元々防御を主体に考えていなかったシルフィーゼと違い、祇翠まで倒れる事になった原因は灼滅者達の戦術にあった。
     それは。
    「……すまない」
     苦々しいニュアンスを含みつつ簡潔に靜が呟く。
     潤沢なディフェンダー、後半になればなるほど効果を発揮するジャマー、つまりは長期戦向きの陣形だったが回復は靜1人。
     追いつかないのだ、回復が。
     もちろん、壁役達も回復を行うが専門に比べればそこまででは無い。
     もし今回のように相手が弱いダークネスでなかったのなら、この時点ですでに半数以上が致死ダメージで削られ重傷になっていてもおかしくは無かった。
     屋上を飛ぶシャドウに並走するように疾駆する灼滅者達。
     シャドウの足元で影が起き上がり牙と爪となって襲いかかる。
     それは采の斬影刃だった。
    「そろそろ教えてくれん」
     ピタリとシャドウを指差し采が。
    「ザ・クラブのお仲間やろ?」
     だが、返事も無くシャドウは采から逃げるように別の灼滅者達へと向かう。
     ドシャッ!
     その鼻っ柱を影の刃が切り裂く。
     シャドウの動きを予想していたかのように靜が背後から斬影刃を放っていたのだ。
    「それでは、こちらの番だ」
    「はい」
     靜の台詞に風香が返事し、未だ身もだえするシャドウに向かって高純度に圧縮された魔法の矢が一直線に飛び、その胴を刺し貫いた。
     シャドウはグラリと落下しそうになり、しかし撃墜ぎりぎりで再び急上昇すると、シャドウの正面に黒い球体が生まれギュルギュルと大きくなり――。
     ドンッ!
    「下がってな!」
     シャドウに狙われた明雄の前にノエミが立ち、黒い球体をその身に受け、ぐらりと膝を付くノエミ。
    「燃える血潮……高鳴る鼓動……楽しい、やっぱ楽しいな……もっと、もっとやりあいたかった……ぜ」
     心の底から湧き出るような笑みを浮かべ、ノエミが仰向けに倒れる。
     倒れるノエミの代わりに、その後ろにいた明雄の姿に月光があたる。その姿は照準をシャドウに合わせるように掌を付きだしており。
     ド、ガッ!
     明雄の掌から飛んだ渦巻く風がシャドウを切り裂き、ついにその身が屋上へと落下する。
     落下したシャドウが再びを翼を動かし、飛翔しようとした……その時。
     シャドウを照らす月光が遮られる。
     上!
     そこには魔天楼を背景に、満月を背に背負って、巨大な斬艦刀を振りかぶる少女の姿。
     懸命に翼を動かすが間に会わない。
    「ここで滅んでいただきます!」

     ――斬っ!!!

     翡翠の無敵斬艦刀がシャドウを真っ二つに切り裂いた。
     決着は付いた。
     これでこのシャドウが海外へ逃亡する事は阻止できた。
     長い……長い戦いが、終わったのだ。

    作者:相原あきと 重傷:シルフィーゼ・フォルトゥーナ(菫色の悪魔・d03461) 綾木・祇翠(紅焔の風雲・d05886) 野々宮・ノエミ(三流狂人・d10340) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月3日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ