夢の中でも面接が怖い

    作者:陵かなめ

    「へへ、こんなの、簡単じゃんっ。スライムとか雑魚の定番だし。あ、次は、ゾンビ? どうせ見た目だけっしょ? ははは。今度は幼児体偽装? ガキなんてウルセーだけだし。俺は躊躇なく殺すね」
     青白い顔をした不健康そうな少年は、次々と襲い来る敵を倒していった。モンスターだろうが、人間の子供だろうが容赦しない。
    「へへっ。何これ面白い。さぁ、次は誰が相手――」
     しかし、次に目の前に現れた敵を見て、少年は真っ青になった。
    「あ、あんたは、め、め、め、面接官……」
     途端に、勢いをなくす。
     少年の目の前に立ったのは、かっちりとスーツを着こなし履歴書を確認する面接官だった。
    「……え、いえ……その、あの、……俺……あ、働きたいとは、思って……あ、その容赦なく、不可みたいな目が、怖い……」
     彼は面接が苦手で、まだ一度も働いたことがない。バイトですら落ちてしまう。きちんと就職し、真面目に働く気持ちはあった。だが、いざ面接となると気後れしてしまい、きちんと目を見て話すことができなくなってしまうのだ。結果、だらだらと家で遊び暮らす毎日。
     面接官がため息をついて、持っていたペンで少年を串刺しにしようとした。
    「ひぃ……、ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ば、ば、バイトしないと、か、母さんが、もう、家に入れないって……あ、あ、あ、面接嫌だ。部屋でゲームだけしたかったです。あ、ひっ……。来ないで。すみませんすみません」
     面接官と向かい合うことができない彼は、逃げ回るしかなかった。
     
     
    ●依頼
     園川・槙奈(高校生エクスブレイン・dn0053)が説明を始めた。
    「あの……、博多で、謎の機械を受け取った人達が、悪夢に囚われる事件が起きているようなのです」
     事件を起こしているのは、シャドウの協力を得た六六六人衆で、悪夢を見ている人間を新たな六六六人衆として闇堕ちさせようと目論んでいるようだ。
    「今回悪夢を見ているのは、HKT六六六人衆の研修生で、名前を引田・守(ひきた・まもる)さんと言います。彼は、自ら望んで悪夢を見ているみたいです」
     しかし、一般人が闇落ちさせられようとしているのを黙ってみている事はできない。
    「夢の中では、守さんは殺人ゲームを行っています。ですから……、悪夢を見ている守さんの夢に入って、殺人ゲームを食い止めてください」
     槙奈は説明を続ける。
    「夢の中の守さんは、敵を前に戦意を喪失しています……、ですから、彼を守って、現れた敵を撃破してほしいんです」
     敵は、非常にリアリティのある姿かたちをしている。倒した時の感触などは、本物と区別がつかない。
     だが、特徴はそれだけで、それほど強い敵ではない。
    「けれど、簡単に敵を撃破してしまうと、守さんは『助っ人が自分の代わりに苦手な敵を倒してくれた』と考え、ゲームを再開させます。……そうなると、次の敵を呼び出して戦闘が再開されます」
     それを防ぐには、敵を倒す前に、これ以上のゲームを行わないように説得することが必要になる。
    「守さんは、目の前に現れた面接官風の敵に対して、戦意を喪失している状態ですので、その点を踏まえて説得すれば……」
     そうすれば、ゲームをやめさせる事は難しくないだろう。
    「守さんは、小さな子供には強気のようですし……、もしかしたら、自分よりも弱そうな子供のほうが実は強い……という現実を見せる荒療治も有効かもしれませんが……、説得の方法は、皆さんにお任せします」
     可能ならば、彼が二度とHKT六六六人衆の誘惑に乗らないように更生させてあげれば、なお良いだろう。
    「それから……、彼を目覚めさせると、それを察知した六六六人衆がソウルボード内に現れるかもしれません」
     確率は高くないと言うことだが、その場合も、六六六人衆が現れた時点で目的はすでに達成しているので、戦わずに撤退しても問題ないだろう。


    参加者
    不動・祐一(天祐神助・d00978)
    水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)
    遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)
    梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)
    化野・周(ピンクキラー・d03551)
    山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)
    水城・恭太朗(おでん・d13442)
    ラナーク・エンタイル(アウトロー・d14814)

    ■リプレイ

    ●介入
     奇妙な機械を手に眠りにつく少年、引田・守。
     その姿を山田・菜々(鉄拳制裁・d12340)が覗き込む。
    「機械を使って闇堕ちさせるって、なんか斬新っすね」
     しかし、そんなお手軽感覚でダークネスを増やされたらたまったものではない。
    「とりあえず、この人だけでも絶対止めるっすよ」
     ぐっと拳を握り締め、決意を新たにする。とは言ったものの、面接官が怖いと言われても、自分も面接などほとんど経験はないのだが。
    「夢で殺人ゲームをさせるのは、予行演習ってところ、かな?」
     遊木月・瑪瑙(ストリキニーネ・d01468)が柔和な笑みを浮かべ、誰にともなく呟いた。
    「夢の中で殺人ゲームか」
     その言葉に、化野・周(ピンクキラー・d03551)が首を傾げる。夢を使って闇堕ちさせようなど、悪知恵が働くというか何と言うか。
     灼滅者の訪れに気づかず、守は眠り続けている。
    「まあねー引きこもりたいときってあるよねー」
     部屋に散乱したゲームや漫画を眺めて水城・恭太朗(おでん・d13442)が苦笑いを浮かべた。
    「でもまぁ、人生やってみて損することって無いし。明るく失敗していこうぜ、少年。みたいな?」
     言いながら、機械に手を伸ばす。
     仲間も次々に、それに続いた。
     瞬間、世界が変わる。
     テレビ画面も、ゲーム機も、延びたコードもない。
     ここは暗くて壁が妙につやつやしていて、生活感も全くない。壁の落書きでさえ、デジタルで描かれた記号のようだ。
    「今回のはなんか人の手が入ってる感がするな」
     不動・祐一(天祐神助・d00978)が辺りを確認しながらそう言った。まさに、ゲームのような夢の中だ。
    「俺もホラーゲームとか怖いゲームは結構好きだけど、これはただのゲームじゃないもんなー」
     周も辺りを見回す。
    「とりあえずさっさと目を覚ましてもらいましょ」
     その時、壁の向こう側から情けない悲鳴が聞こえてきた。
    「ひぃ……、ご、ごめんなさい……すみません」
     皆が顔を見合わせ、急ぎ壁を跳び越す。その先に、面接官に追われる少年の姿があった。びくびくと面接官の顔色を伺いながら、四つんばいで後ずさる。
     今にも面接官が手に持ったペンを振り下ろそうとしていた。
     そこへ白の特攻服を翻し水無月・弥咲(アウトサイダー・d01010)が割り込んでいった。
    「天魔外道降臨っ」
     Rugiet heresisを構え、面接官と向き合う。特攻服の背には龍と天魔外道の文字が見えた。
    「な……! お、俺を助けに来てくれたのか?!」
     守は驚いたように弥咲を見たが、弥咲が面接官と向き合うと知ると、途端にほっとした表情を浮かべた。
    「言っておくが、私はお助けキャラではないぞ」
    「えぇ?!」
     弥咲の答えに、守が情けない声を上げる。
     とはいえ、とりあえず面接官から守を守らなければならない。
     守をかばうように、梓奥武・風花(雪舞う日の惨劇・d02697)も面接官との間に体を滑り込ませた。
    「それほど、面接官が怖いのですか?」
    「こえーに決まってんじゃん! あの、人を機械的に選別しまくる目がこえぇよ」
     風花の背中に隠れるようにうずくまりながら、守はそう主張する。
     そんな震える守の頭に、急にげんこつが飛んできた。
     痛かったのか、守は頭を抱えて蹲った。
    「うし、事件解決。帰るか」
     守の背後に仁王立ちするラナーク・エンタイル(アウトロー・d14814)。やり遂げた達成感のあふれる顔をしていた。
    「……ってぇ~! 何しやがるっ」
     すぐに復活した守が頭を抑えながら、がばりと起き上がった。
    「あ、生きてた?」
    「全然死んでねーよ!!」
     騒がしくなってきたところで、面接官がふぅと息を吐いた。
    「君たちも面接希望かね? 邪魔をするなら帰りたまえ」
     冷たい声に、守がびくりと肩を震わせる。
    「はいはい、ちょっとストップ。面接は中断な」
    「申し訳ないんですが、先に他の方を見ていただいても?」
     周と瑪瑙が面接官と守の距離を取らせる。
     ここで面接官を倒してしまうことは造作もない。けれど、と。一同は震える守を見据えた。

    ●説得1
    「面接官が怖い、というのはなかなかに面白い話だな」
     面接官と距離を取りながら、弥咲が守を覗き込んだ。
    「多少の緊張は必要だが怯えることはなかろう」
    「……いや……普通に、面接とか、嫌だし……」
     守は顔を引きつらせながら、視線を泳がせる。その肩をラナークがぽんと叩いた。
    「どう見てもゾンビよりザコだろ。さっきまで倒してたやつと同じノリでやっちまえよ」
    「……。面接官は、ゾンビじゃねぇよ……。嫌なことばかり言いやがるだろ……」
     煽る様な口調にも、いまいち反応が返ってこない。
     守はますます顔をしかめてそっぽを向いた。
    「……怖がる要素がわからないけど」
     瑪瑙が守を見る。人の良い笑みが消えていた。代わりに、つまらないものを見る顔で言い放った。
    「何でこんな下らないことしてるの」
    「……何でって……別に、ゲームだし……」
     スライムやゾンビを難なく倒すゲームだったと、守は言う。
     だが、いざ面接官という現実的な敵にぶち当たり、守は逃げることしかできなかった。
     そんな様子を見て、祐一は呆れ返る思いだった。
     努力することなく、都合の良い夢で暴れ、面接官という壁に当たっては逃げるだけ。むしろ、怒りさえ覚えてる。
     だから、黙って動向を見守っていた。
     もし守が他のメンバーの説得で立ち直らなければ、容赦なく切り捨てる。そんな思いをこめて。
    「つーか。お前ら、何しに来たの? 面接官を倒してくれる、お助けキャラじゃねぇんだよな?」
     守が自分を囲む灼滅者達から一歩身を引いた。
    「あー、そう。アレだ。俺のこと、馬鹿にしに来たの。はっ。まぁそーだろうよ。すいませんねー、ひきこもりでー」
     目の前の灼滅者達が、面接官の最初の一撃から自分を守ってくれた。
     そんな事など無視して、守はわざと小馬鹿にしたような声色を出す。
    「いや、そういうことではなくて。強くなりたいんでしょ? じゃあ、ここで自ら手を汚して人を殺してるのは何なの」
     普段の穏やかな瑪瑙とは違う、ともすれば冷たい印象を与える声に、守が下を向いた。
    「いくら力を得て強くなっても、あれを怖いと思うんだったら。それは今の引田さんが必要としてるものとは、違うと思うんだけど」
     つまり、今守に必要なのは、精神的な強さでは? と。
     それを聞いて、守はすっと表情を無くし、淡々と語り始めた。
    「ああ、そうだな。強いヤツなら、面接官に当たっても乗り越えるっつうんだろ? 別に? 俺は、強くねぇんだよ。つか、ガンバって強くなるヤツなら、引きこもってねーツーの」
     もっともらしい言葉だったが、ただの逆ギレのようにも聞こえた。

    ●説得2
     さて、黙り込んでしまった守に周が近づいた。
    「でもさ、ゲームして現実逃避したってなんの解決にもなんないよ」
     結局、それだ。
    「お母さんにも怒られるし、いいことないって」
    「……たしかに。いいことは、……ねーけど」
    「こんなクソゲーやってて殺されかけるんだ、普通に生活して普通にバイトでもしてるほうがよっぽど安心だぜ?」
     恭太朗も合わせて声をかけた。
    「あー。……俺、やっぱり殺されかけてたんだ」
     改めて自分の置かれた立場を知り、守が肩を落とした。
     普通の面接官は、ペンで襲ってこない。そうだ、普通ではない面接官に、守は殺されかけていたのだから。
     だから、こんな殺人ゲームなどやめて欲しい。
     菜々がずいと前に出た。
    「こんな、気色悪いゲーム続けるんすか? 引田さんを苦しめようとしてるだけっすよ」
    「そーだそーだ。ゲームならテレビゲームくらいにしとけ」
     ラナークも、畳み掛けるように殺人ゲームをやめるよう説得する。
    「でも、じゃあ、どうすれば……」
     守が説得の勢いに押され始めた。
    「やっぱり、面接官に立ち向かったほうがいいと思うっす。頑張るっす」
     菜々は励ますように、守に声をかける。
    「そうですね。私達もお手伝いしますから」
     隣から、風花も言う。風花がHKT六六六に関わるのは二度目になる。研究生って何だろうか。そんなに仲間を増やしたいのか。許せない。これを企てた者も、それに乗る者も。
     だからこそ、風花は説得も力をこめて手加減なしの心積もりだ。
    「あー、……はぁ……」
    「面接も、数こなしてれば結構慣れてくるしさ」
     面接の質問はパターンが決まっているらしいし、目を見ずに鼻や口や首の辺りを見ると良いとよく言うよと、周が最後に一押しした。
     目の前に迫る面接官。
     無表情の相手を前に、守は緊張した面持ちで棒立ちになる。
    「面接なんてとりあえず元気重視でいいんだよ」
     そんな様子を見て、恭太朗が明るく声をかけた。
    「いや、元気にったって、お前……」
    「水城恭太朗、17歳です。今回この依頼に参加したきっかけは、困っている人を助けたいからです!」
     ほら、こんな風になと。守の先に立ち、恭太朗が大声を上げる。
    「好きな食べ物はラーメンです」
     さらに元気よく自己アピールを続ける。その姿を、守は確かに見ていた。
    「奴らは言葉で何かと言ってくるかもしれないが、キミはキミの心を見せつけてやれば、それでいいだけのことだ」
     弥咲が気合を入れるようにバシバシと守の背中を叩く。たったそれだけの事で、殺しのゲームなどしなくても打ち負かせる相手なのだから。
    「心を、見せ付けるって……どうやって……」
     そうはいうものの、と。守は助けを求めるように周囲を見た。
    「でも、面接といっても。バイト、したこと無いんですよね。あ、でも」
     それに答えたのは風花だった。
    「……あのですね、口角を上げて、大切な自己紹介をしてみる」
     言いながら、風花も口角を持ち上げた。
    「ほら、無表情の私でも笑って見えるでしょう?」
    「お……おぅ」
     笑顔は相手に良い印象を与えるし、自然と元気が出てくると。
    「怖いなら、一緒に面接受けるっす!! でも、おいらも、面接ってやったことないから緊張するっす」
     ついに面接官の正面に立った守に合わせるように、菜々も面接官の前に立つ。
    「面接よろしくお願いするっす!! お、おいらは、とにかく、頑張ってるっす。必ず力に……たぶんなるっす。ふぁいとっす!」
     右手と右足を同時に出して、なんとなく勢い任せの自己アピールを行った。正直、緊張でガチガチだった。
    「……ふ」
     しかし菜々の様子を見て、初めて、守が素直に笑った。尖った感じもない、自然とこぼれた笑みだった。

    ●そして、面接へ
    「……おし。……俺も、やる。……つーか、そろそろ働かねーと、いろいろヤバイ。家での立場も、正直危うい。……面接……受けるぞ」
     守はようやく、そういう結論に達した。
    「茶番はそろそろ終いにしてくれないか? で、君、志望動機を簡潔に述べたまえっ」
     その時、距離を取って様子を見ていた面接官が、急に踏み込んできた。ペンを持つ手を突き出し、一直線に守を狙う。
     一瞬の出来事に、守は全く対応できていない。
     間に割って入ったのは祐一と迦楼羅(霊犬)だった。
    「そもそもゲームでしか強く出れねー人間が働けると思ってんの? って、言おうと思ってたんだけどなぁ」
     正直、心をへし折る荒療治が必要かもしれないと思っていた。だが、守は一応立ち直ったといえよう。
     ならば、守ってやる。そして、面接という現実は、そこまで怖くないのだと見せる。
     祐一は無敵斬艦刀を構え、面接官と向き合った。
    「ま、立ち直ったら手助けはしてやるかね」
     全身をバネにして、無敵斬艦刀を振り下ろす。
    「面接なんて、怖くねーぜ、案外なっ」
     勢いそのままに叩きつけると、面接官は声もなく吹き飛んだ。
    「ちぃ。そのような対応では、採用は程遠いなぁ――っ」
     だがそれだけでは倒れない。面接官はよろけながらも体勢を立て直し、再びペンを構えた。
    「安物のボールペンっぽいですねそれ」
     違う方向から恭太朗が面接官に声をかける。
    「言い忘れてた、嫌いなものは、人を襲う怖い面接官です!」
     面接官の気を引くように、力いっぱいシールドで殴りつけた。
    「大丈夫っす。おいらの背にまわるっす」
     菜々は守をかばうように動く。
    「圧迫面接はお断りですよっと!」
     敵の死角をつくように回り込み、周がチェンソー剣を振るう。すでに守は決心したのだから、後は遠慮なく面接官をやっつけるだけだ。
    「ぐ……、ぁ」
     面接官の口から、苦しげな息が漏れた。
     だが、まだ攻撃の意思があるのか、面接官がペンの突きを繰り出してきた。
     周は、その突きをナイフで器用に受け流す。
    「おいおいおい。ボールペンで人を突くとは、貴様何を考えているのか! 危ないだろうが!」
     前衛として攻撃をしていた弥咲が、それを見て勢い良くライフルで面接官を殴打した。頭から、遠慮なしに、ガツンと大きな音が鳴るほどだ。
     後、緋色のオーラを宿した武器で、ざくざくと斬り刻む。
     同じく、紅蓮斬で面接官に迫り風花がふと首を傾げた。
    「それにしても、変わった趣向ですね。何を考えているんでしょう」
     何を考えて、HKT六六六は、このようなことを?
     だが、それに答える敵が現れる気配はない。
     一つ分かるのは、
    「だって、敵ですからですね。きっちり撃破しないと」
     と言う事だけ。
     すでに立っているのがやっと、という雰囲気の面接官に、容赦なくラナークが炎をぶつけた。回復が必要な仲間はいない。ならば、自分も攻撃に回るのみ。
     菜々に守られ面接官と距離を置いた守は、瑪瑙の近くまで来ていた。
     瑪瑙は思う。
     面接に怯まなくなれば、守は真っ当に働く人なのだと。
     だから。
    「手を貸すくらいはできるよ、多分ね」
    「……え?」
     守が疑問を口にするのと、瑪瑙が動いたのはほとんど同じだった。
    「こういうのって、相手を騙すことも時には必要だよ。自信の無さくらいは隠してみれば?」
     表情少ない素の状態から一転。
     面接官に向けた瑪瑙の顔には、柔和な笑顔が浮かんでいた。
    「梓奥武さんも言っていたでしょ? 笑顔って結構便利だと思うんだけど」
     面接官に笑顔のまま一礼する。そして、淀みなく足元から影を伸ばした。
     絡めとるように動いた瑪瑙の影は、難なく面接官を消し去った。

     ゲームの世界が薄れていく。
    「はぁ。あんたら強ぇなあ。……ゲームはお終いだ」
     守は納得したように灼滅者達を見た。
    「おー。わかってんなら、こんなつまんねえ遊びはもうやめとけ」
     なんか分かってくれたかと、ラナークがニヤリ笑う。
    「それからよぉ」
     ポリポリと頭をかきながら、守が瑪瑙に声をかけた。
    「何か……逆ギレして、すまなかったな」
     図星を突かれて、冷静ではいられなかったのだ。
     瑪瑙が首を振る。自分達の説得が届いたのならと。

     もうじき夢が終わる。
     今の守なら、再びこのゲームに戻っては来ないだろう。
     現実に面接へ向かうと言う守の言葉を信じ、灼滅者達は帰路に着いた。

    作者:陵かなめ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 8
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