金こそ全て、と赤毛の女は笑う

    作者:雪神あゆた

     山のふもとの町。その町のコンビニで。
     髪を赤く染めた女が、カウンター内側に立っていた。
     女の足元に、店員が倒れている。店員から血が流れていたが、女は気にせず、レジを漁っている。
    「えへっ、コンビニにしちゃ、結構おいてるじゃん!」
     女は一万円札を掴むと、口づけする。
    「あぁ、お金。お金って素晴らしいわあっ」
     女は金をトランクに詰め込んだ後、右腕をさする。
     腕がぐにゃと歪み伸びる。腕は、女の身長よりも長い刀になった。
    「お金はとても素晴らしくて、だから金を盗られたアンタには価値がなーい!」
     女は腕を振りあげ、倒れる店員の体を――切断した。高笑いする女。
     しばらく時間が経過して。
     女はトランクを片手に山道を走っていた。
    「今日も大収穫ーっ!」
     上機嫌で喚く女。その女の前方に、
    「初めまして初めまして。あなたにいい話を持ってきました。聞いてくれたら私はハッピー、ハッピー!」
     高校の制服を着た、三つ編みの少女が立っていた。
     赤毛の女は、少女を訝しげに見やる。
    「金になる話?」
    「もちろんもちろん!」
     少女の答えに、女は興味深そうな表情を浮かべた。
     
    「お金が全て……そんなの」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は険しい表情をしていたが、灼滅者達に気がつき、頭を下げる。説明を開始した。
    「デモノイドロード。
     普段は、デモノイドヒューマンと同じ力を持っていて、危機に陥ると『デモノイド』の力を使いこなし、デモノイドとして戦える。
     まるで、自分の意志で闇堕ちできる灼滅者のような存在。このことは、皆さん既にご存知だと思います。
     そのデモノイドロードの近くにヴァンパイアが現れ、デモノイドロードを連れていくという事件、そんな厄介な事件が発生します。
     クラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)さんの『デモノイドロードを自勢力に取り込もうとするダークネスが現れる』という懸念が、現実になってしまったようです。
     現時点で、ヴァンパイア勢力との全面戦争は避けるべきでしょう。だから、この事件も穏便に解決しなくてはいけません。
     そのために、デモノイドロードが事件を起こしてからヴァンパイアが現れるまでの間に、デモノイドロードを襲撃し倒さなくてはいけません。
     厄介な状況ですが、どうか引きうけて下さらないでしょうか?」
     
     デモノイドロードの名前は、左門(さもん)・くるり。外見年齢は20代後半。
     これまでデモノイドロードの力を使い、強盗などを繰り返して、多くの金銭を不当に手に入れている。
    『金こそ全て!』が彼女のモットーだ。
    「左門は、富山県にあるコンビニを襲撃。その後、山中にある隠れ家を目指します。
     残念ですが、コンビニ襲撃を止めることはできません。
     皆さんは山の中の道で、隠れ家を目指してやってくる左門を、待ち伏せし襲撃してください」
     姫子は地図を取り出し、皆が待ち伏せするのは道のこの辺り、と指差してみせる。
     道は車が三台くらい通れる広さ。両側には木々がうっそうと生い茂っている。
     左門は灼滅者が到着してから、5分程して現れる。
     左門は戦闘になればデモノイドとガトリングガンの技を使う。
     特に強いのが、DMWセイバー相当の技だ。腕を二メートル以上の長さの刀に変化させるこの技は、特にダメージが高い。
    「でも、長い時間をかけるわけにはいきません。
     皆さんが左門と遭遇し、およそ10分経過すると、ヴァンパイアが現れるからです」
     ヴァンパイアは女子高生の姿をしており、長髪。とにかく陽気。が、その実力はけして侮れない。灼滅者八人がかりでも勝つのは困難だ。
    「それに、彼女と戦えば、後の情勢も悪化するでしょう。
     ですから彼女とは戦わないでください」
     そのために、ヴァンパイアが来る前に、左門を倒さなくてはいけない。
     確実を期するために『8分以内の灼滅と撤退』を、目指すべきだろう。
     説明を終えた姫子は、皆の目をじっと見る。
    「簡単ではない仕事です。十分ご注意を。
     でも。皆さんなら成し遂げられると、信じてます!」


    参加者
    因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)
    御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)
    皆守・幸太郎(微睡みのモノクローム・d02095)
    威鷹・玖狼(鬼哭魔刃・d02396)
    大高・皐臣(ブラッディスノウ・d06427)
    五十嵐・匠(勿忘草・d10959)
    草凪・遥(ほのかなエロキング・d19690)
    フィーネ・シャルンホルスト(終焉の旋律・d20186)

    ■リプレイ

    ●待ち伏せ
     風が吹く。枝や葉が揺れ、音を立てる。
     木々に囲まれた道を赤毛の女、左門くるりが走る。その顔に浮かぶのは笑み。
    「今日も大収穫ーっ! 金かねカネッ!」
     喚く左門。
     灼滅者たちは道脇の木陰に隠れていた。左門がきたのを確認し、姿を現す。
     威鷹・玖狼(鬼哭魔刃・d02396)と因幡・亜理栖(おぼろげな御伽噺・d00497)は左門の正面に立ちはだかった。
    「そんなに金が欲しいってんなら、三途の渡り賃でも持たせてやるさ」
    「キミのことは、絶対に止めてみせるよ」
     芝居がかった口調の玖狼。真剣なまなざしの亜理栖。
     左門は警戒するように目を細めた。
    「はん? アンタたち、なにを言って……」
     問いながら、あとずさる左門。
     彼女の後ろに、大高・皐臣(ブラッディスノウ・d06427)、御子柴・天嶺(碧き蝶を求めし者・d00919)、皆守・幸太郎(微睡みのモノクローム・d02095)の三人が回りこむ。
     左門はいきりたつ。足を地面をたたきつけ威嚇してくる。
    「分かった。私の金が目的なんでしょ? 私の金を取る気なんでしょ、させるものか、ぶっこ……」
     皐臣は、左門が言い終わるのを待たない。仲間に、
    「……とっとと終わらせちまおう」
     天嶺は皐臣の言葉を聞き、駆けだしていた。腕に力をこめ、手で強く槍の柄を握る。
     天嶺の視線の先で、左門は体を巨大化させていた。肌が青く染まる。
     デモノイドの姿となった左門へ、天嶺は槍を突き出す。螺旋槍!
    「槍よ。螺旋を描き、敵を貫け……一閃!」
     穂先が左門の胴を貫く。
     直後、前衛と中衛が一斉に動いた。
     玖狼は刀を投げつける。刀は左門にぶつかり落下。玖狼は落ちた刀へと走り、柄を掴んで――黒死斬。
     皐臣は左門の胸に、杖の先で触れる。大量の魔力を左門へ流し込む。
     中衛の幸太郎は普段と同じく眠たげな顔をしていた。口の中に残った飴を、噛み砕く。
     幸太郎は皐臣の肩越しに人差し指で、左門を指す。
    「隙だらけだぜ」
     幸太郎の指先から、黒の弾丸が出現。
     はたして、玖狼の刀が左門の足を切り、皐臣の魔力が体内で爆発、さらに幸太郎の弾丸が額に刺さる。
    「はっ、少しはやるよう……え?!」
     不敵に笑う左門に、亜理栖が突進する。駆ける勢いを載せて、鋭い刃の斬艦刀で突く。ただの突きではない。刃の先から炎が出て、左門の体を焼き焦がす。
     左門は上半身をのけぞらせた。笑みが消えている。
     後衛にいた草凪・遥(ほのかなエロキング・d19690)はにやりと笑う。悪役めいた口調ではやし立てる。
    「どうしたどうした? 俺様達を倒さないと、この道は通れないぜえっ」
     霊犬の厳霊丸も、わおん! 強く吠えた。
     厳霊丸は跳んだ。口に咥えた刀で切りかかる。
     遥も相棒に合わせ、ライフルの引き金を引く。銃口より放つ光で左門を牽制。
    「――なら、ぶっつぶしてあげるっ!」
     左門は息を大きく吸い込んだ。そして口をあける。口から光が発射される。
     左門はダブルの動きでさらに攻めてくる。右腕の形を刀に変化させた。2メートルを超える巨大な刀、その刃を振り回す。
     標的となったのは、玖狼と亜理栖。玖狼は光を浴び毒に蝕まれ、亜理栖は腹を刃で裂かれた。
     後衛のフィーネ・シャルンホルスト(終焉の旋律・d20186)は、自分が攻撃を受けたかのように、体を小さく震わせた。回復したほうがいいのか、一瞬迷い、隣を見た。
     同じ後衛の五十嵐・匠(勿忘草・d10959)は表情を変えず首を振る。今回は時間との戦い。攻撃を優先しよう、という意味をこめ、匠は己の武器、ロッドを目で示す。
     フィーネは匠に頷く。
    「そうだね。――ロッキー、攻撃をお願いなの」
    「ろくた、シャルンホルスト嬢に合わせろ」
     二人の言葉に応じ、二匹の霊犬ロッキーと六太が、左門へ跳びかかる。
     フィーネは、エレキギターの弦を掻き鳴らし、激しい音波を飛ばした。
     匠は精神を集中。そして姿勢を低くして、疾走。漆黒の髪を揺らしながら、杖を突き出し、フォースブレイク。
     二人と二匹の連携攻撃に、左門は目を見開く。血走った眼で灼滅者を凝視する。

    ●畳みかけろ!
     亜理栖は痛みを感じていた。が、唇を噛みしめるだけ、それ以上は痛みを顔に出さない。
     亜理栖は、ぶつけるような強い視線で、左門を見た。
    「何度も強盗がうまくいくと思う? そんなわけないよね。今だって、僕達がキミの前に立っている」
     亜理栖は刀に緋色のオーラを宿し、上段から振り落とす。刃が敵の腹を裂いた!
     一撃は左門の体力を大きく奪ったようだ。
    「くっ……小賢しいんだよッ!」
     左門は顔をしかめたが、止まらない。反撃してくる。亜理栖は、肩を刀の腕で深く切られ、尻餅をついてしまう。
     左門は追い撃ちを掛けようとするが、その背を、厳霊丸が襲う。
     同じタイミングで、遥は体中の気を輝かせた。気のかたまりを放出する。左門の背へ叩きつける! 左門の体がふらついた。
    「今だ、怯んでいる内に畳み掛けろ!」
     遥が飛ばす言葉に、天嶺が頷く。
     天嶺は左門の懐に潜り込む。腕の筋肉を盛り上げた。
    「無数の拳の前に打ち砕かれよ……喰らえ!」
     紫の闘気を宿した拳。その拳を天嶺は、敵の腹に叩きこむ。二発三発四発……!
     拳に押され、左門が地に片膝をつけた。
     匠は六太に亜理栖を治療するように指示すると、自身は左門へ接近する。
     匠は腕を刃に変え、膝をついた相手の脳天へ、振り落とした。
    「ぐあああっ」
     悲鳴をあげる左門へ、匠は冷酷に告げる。
    「痛いか? でも、学園を敵に回し続けるなら、この程度じゃすまない」

     灼滅者は攻撃を浴びせ続けるが、左門を倒すには至らない。膝をついていた左門は立ち上がる。
    「くそくそくそっ、クソ餓鬼どもっ」
     苛立った声をあげると、腕から毒の光を飛ばす。
     光は玖狼めがけて飛ぶが――玖狼の前に、ロッキーが立ちはだかった。
     庇って光を浴びるロッキー。
    「ロッキー、ありがとう。もう少し、がんばってね……私も、がんばるから」
     フィーネはロッキーを褒めると、重機甲腕『鉄』をつけた手を握りしめる。技を放ったばかりの左門へ気を投げつけた。
     気は左門の体に激突する。左門はフィーネに顔を向けた。
     玖狼は左門がフィーネを見た隙をつき、右側面に回り込む。
    「俺を前に余所見をするか……貴様じゃ衝動はそそられれんが――始末させてもらう」
     玖狼は左門の脇腹にナイフを突き立てた。ジグザグに変形させた刃で、相手の体を深く裂く!
     左側面には幸太郎が立つ。気だるげな声色で、
    「そう、確実に始末する。――俺はお前を葬るのに、一片の躊躇も抱かない」
     幸太郎の足元の影業、『go 2 sleep』がうごめき、左門の死角から足の腱を掻っ切った。
     皐臣は苦痛にゆがむ左門の顔をじっと見つめる。一瞬だが、強く。次の瞬間には、皐臣は地面を蹴った。
     雪の如く白い気を膨れ上がらせながら、皐臣は相手の顎を殴りつける。鳩尾に拳をめりこませ、顎を殴り今度は肘を打ちこむ。
     皐臣は何度も敵を殴ったあと、後ろへ跳び一旦距離をとる。
    「いける。だが、最後まで侮るな」
     仲間へ告げる皐臣。

    ●傷つけ傷つけられ、そして決着
     幸太郎は時計を確認する。戦闘が始まってから、五分が既に経過していた。
     霊犬三匹の防御と回復を活かし、灼滅者は戦線を維持し続けている。
     もちろん、無傷ではない。しかし、左門により大きな傷を与えることにも成功していた。さらに、左門は体勢を大きく崩している。
     今も、幸太郎を攻撃しようとしたが、その拳は空を切った。
     幸太郎は左門の肩をつかみ、敵を自分の方へ引き寄せた。そして自由のきく手で顔面を容赦なく連打!
    「言っただろ? 一片の躊躇も抱かないって」
     左門は顔に打撃の痕を作りながらも、強引に幸太郎の手を振りほどく。慌てて後ろへ下がる左門。
     その左門の背に、三本の刀が突き刺さる。ロッキー、厳霊丸、六太、彼らが斬魔刀を刺したのだ。
     パートナーの活躍を見ながら、フィーネは後衛の仲間に声を飛ばす。
    「チャンスなの。二人とも行こう?」
     匠と遥が頷き、そして左門に告げる。
    「左門嬢、受けてみるがいい。俺たち学園の力のほんの一端を」
    「デモノイド野郎、くらいやがれっ!」
     匠は前進した。息を止める。そして拳を目に見えぬ速度で繰り出した。打撃は次々に命中し、左門の動きが止まる。
     遥は後頭部へビームを放った。フィーネもタイミングを合わせて射撃。遥のバスタービーム、フィーネのオーラキャノン、二種の力が左門の頭部へ炸裂!
    「ひぎいいいいっ」
     悲鳴をあげる左門。
     灼滅者たちはさらに攻める。幾つかの攻撃で左門を消耗させていく。
     左門は傷口から体液を、口から荒い息を零しつつ、首を動かす。道脇に目をやった。
     天嶺は錫杖『khakkhara』の先を左門にむける。
    「逃げ道を探しているのですか? 無駄ですよ」
     亜理栖は斬艦刀の柄を強く握り、駆けだす。
    「逃がさない。逃がす訳にはいかないんだ」
     そして天嶺と亜理栖は、武器の先から炎を噴出した! レ―ヴァテインの炎で、左門の全身を焼き尽くす!
     左門は両膝を地面につけた。が、瞳にはまだ闘志が灯っていた。
    「今の私なら、いくらでも金を盗れる。なのに邪魔して! ゆるさない、ゆるさない、がきどもおっ」
     左門は膝をついた体勢のまま、どこかから銃を取り出す。弾丸を撃つ。
     無数の弾丸が前衛の灼滅者を襲う。
     玖狼は上半身を左右に動かすことで、回避に成功。
    「まだ反撃できるか。だがっ」
     玖狼は両掌をひらく。手刀を作る。そして、相手の両肩へ振り落とす。相手の腕を斬りおとさんばかりの勢いで!
     手刀をうけ、うつ伏せに倒れる左門。
     左門は顔をあげる。牙をがちがちと鳴らしながら、両手を地面につけ、起き上がろうとする。
     皐臣は彼女の前に立った。
    「お前はもう立ち上がることはない……。これで、終わりだ……」
     皐臣は杖で彼女の額に触れた。そして――フォースブレイク。
    「いや……もっと金がほしいの……いや……いや……ぁ」
     皐臣の魔力が、呻く彼女の生を断ち切った。

    ●戦い終えて、帰路へ
     戦闘が終わった山道に、風が吹く。戦闘前と同じ、葉や枝の音。
    「辛い戦いでしたが……なんとか時間内に終わらせられましたね」
     天嶺は力を抜き、構えを解いた。
     亜理栖は山のふもとに目を向ける
    「店員さん……仇はとったよ……でも、助けてあげられなくて、ごめんね……」
     と、口の中だけで呟く。
     フィーネは、左門がいた方向を見つめていた。
    「お金、たくさんあると幸せだって、私も思うよ。でも……お金だけじゃ本当の幸せはこないって思うの」
     匠はフィーネの言葉を聞き、軽く目をつぶる。小声でフィーネに同意する。
    「ああ。金以外だって、素晴らしいものはたくさんある」
     だが、被害者やデモノイドロードに思いを馳せ続ける時間は、ない。
     遥は時間を確認し、
    「よし! ぼやぼやしている暇はないな。ヴァンパイアっ娘が来る前にずらかろうぜ」
     皐臣と玖狼が頷いた。
    「そうだな……ヴァンパイアに見つかるのはまずい」
    「道路は避けた方がいいだろうな。行こうか」
     灼滅者たちは、ヴァンパイアに遭遇しないために、道脇の木と木の間に入り、道なき道を走る。
     幸太郎は片手で枝をかき分けつつ、懐から缶コーヒーを取り出した。
    「俺にとっちゃ、こっちの方が意味がある」
     缶コーヒーを見ながら、誰にともなく言う。
     その言葉は、金にこだわり、身を滅ぼした左門に向けられたものか。
     カァ。どこかでカラスが鳴く。灼滅者はそれを聞きながら、下山し続ける。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月2日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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