忘れられない過去の罪

    作者:奏蛍

    ●悪夢の殺人ゲーム
     廃屋と化したような部屋で一人の少女が眠っている。自らの寝る場所など気にしていないのか、ゴミの中で埋もれて目を瞑っている。
     その胸の上には、しっかりと抱きしめられた変な機械がある。レトロな昔はやったゲームのような見た目だ。
     赤、緑と謎のランプが点滅している、大きさは新書版の小説くらいだろうか……。
     非常に満足した表情で夢を見ているようだ。夢の中の少女は……。
    「あっはははははは! 弱い、弱い!」
     軽やかにゼリー状の物体を斬り刻み、さらに襲ってきたゼリーを踏み台に空中に飛び出す。そしてゼリーの真上から刀を突き刺した。
     どろどろと溶け出してゼリーが消えていく。刀の汚れを振り払うことで跳ね飛ばした少女が楽しそうに笑う。
    「ふふ、ふふふふふ、アイリってば最強! どんな奴でも来いって感じよね」
     刀に反射する自分と目を合わせてアイリが醜く歪んだ笑みを浮かべる。すると、ステージが変わったのか新たな敵が現れる。
     今度も余裕と振り返ったアイリの顔が凍りついた。虫だ。
     虫の大群がうようよと迫ってくる。
    「ひっ!」
     アイリは虫が大嫌いだった。ただ嫌いなだけではないトラウマなのだ。
     子供の頃、遊んでいて古い洞穴に落ちてしまった。一緒に遊んでいた男の子、祐太も一緒に。
     そこには大量の虫がいたのだ。あまりの恐怖にパニックを起こしたアイリは、持っていた虫捕り網を無我夢中で振り回した。
     ともかく自分の傍から虫を追い払いたかったのだ。何にあたっているかも気にせず振り回し、必死に落ちた洞穴から這い出した。
     そして気づいた。
    「祐太くん……?」
     虫捕り網には大量の赤い液体が付着していた。
    「いやぁああああああああああああ!」
     あの時と同じ絶叫の声を上げたアイリが必死に虫から離れようと夢の中で駆け出した。
     
    ●アイリの罪
    「シャドウの協力を得た六六六人衆が事件を起こしているみたいなんだ」
     深刻な顔をした須藤まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)が灼滅者(スレイヤー)たちを見渡した。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、彼女たちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     またもや博多で六六六人衆絡みの事件が発生した。謎の機械を受け取った六六六人衆の研修生が自ら望んで悪夢を見ているらしい。
     この悪夢を見た者を、新たな六六六人衆として闇堕ちさせようとしているのだ。一般人が闇堕ちさせられるのを黙っているわけにはいかない。
    「悪夢を見ているアイリちゃんの夢に入って、殺人ゲームを止めてもらいたいの!」
     なお、今回はソウルアクセスせずとも謎の機械を媒体にして悪夢の中に入ることができる。余談だが謎の機械によって悪夢を見ている一般人にのみ有効なので、誰の夢にも入れるものではない。
     そして一般人が目を覚ませば、機械は機能を停止する。
    「悪夢の中のアイリちゃんは戦意損失……というか助けてもらいたがってるんだ」
     どうやらこの殺人ゲーム、強くなる過程がちゃんとあるようでステージによって敵が変わる。その一つのステージで現れた大量の虫のようなモンスターにアイリは苦しめられている。
     悪夢の中で虫を倒すのは簡単だろう。ただ、大群と言うだけあってかなりの虫が襲って来ることになるので、心してもらいたい。
     しかし倒すだけではゲームの助っ人キャラが自分を助けるために現れたと思ったアイリが、再びゲームをスタートさせてしまうのだ。
     そのため、虫を全部倒す前にゲームを再開させないように説得することが必要になってくる。すでに目の前の虫に戦意損失状態になっているアイリのため、そのことを踏まえた説得をすればゲームを再開しようとはしないだろう。
     さらに可能ならば、アイリが二度と六六六人衆の誘いに乗らないようにしてもらえたらと思う。
     アイリがどうして六六六人衆の研修生になってしまったかと言うと、子供の頃の事件が関わっている。
    「自分のせいで、片目の視力をほとんど失わせてしまったみたいなんだ」
     落ちてしまった洞穴で、祐太は振り回される虫捕り網によって怪我をした。そのことをアイリは十年たった今でも悔い続けている。
     何をするにも、自分なんかがと思ってしまい進めない。幸福を感じるなんて以ての外だと思う。
     世界で自分はクズみたいな人間で、自分が幸せに出来るものなんてない。だったら誘われるままに堕ちるとこまで堕ちしてまおう……。
     そう思ってしまっているのだ。そんなアイリを心配して祐太は、メールや電話をよくかけているらしい。
     そんな優しい祐太にだからこそ、アイリはさらに罪を感じるのだ。
    「この罪の意識から解き放ってあげられたらきっと……」
     判断はお任せすることとになるが、まりんの瞳はみんなを信じているようだ。そして、顔色を変えたまりんが再び口を開く。
    「アイリちゃんを目覚めさせると、察知した六六六人衆が現れる可能性があるんだ」
     しかし、すでにアイリを助けるという目的を達成しているためすぐに撤退してもらって構わない。また可能性があるというだけで、必ず精神世界に現れるわけでもない。
    「目的達成後も、帰ってくるまでは気を抜かないでね!」
     いつもの笑顔を作ったまりんが、みんなを送り出すのだった。


    参加者
    蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)
    源野・晶子(うっかりライダー・d00352)
    村上・忍(龍眼の忍び・d01475)
    詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)
    マリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)
    小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)
    赤秀・空(死を想う・d09729)
    花鶏・イスカ(高校生殺人鬼・d21017)

    ■リプレイ

    ●虫の大群
     作られた夢の空間に侵入した灼滅者たちは周りを見渡して、瞳を見開く。走ってくる少女がアイリであることは間違いない。
     その後ろからは大量の虫たちが迫って来ている。正直、一般人ならアイリじゃなくても逃げ出したくなる光景だ。
    「任せたよ!」
     作戦通り、花鶏・イスカ(高校生殺人鬼・d21017)がまずは虫の撃退に向かいながら仲間に声をかけた。愛用の眼鏡から覗く赤茶色の瞳が虫をとらえる。
     そしてすぐに虫の大群に原罪の紋章を刻み込み最前線に迫った虫を一掃した。けれど最前線にいた虫を飲み込む勢いで迫っていた虫たちは減ったようには見えない。
     禁呪を放った蒔絵・智(黒葬舞華・d00227)が迫る虫たちを爆破させた。大切な人を傷つけ、自分を責める罪悪感の痛みを智は知っている。
     自分の力に抗えず、大切な家族を失ってしまった智だ。しかしアイリの相手はまだ生きている。
     まだどんな贖いだって出来るからこそ、智はアイリを救いたいと強く思う。爆破によって粉々になった虫がばらばらと転がっていく。
     不気味な声を上げて飛び出してきた一匹の虫が発射された源野・晶子(うっかりライダー・d00352)の魔法光線によって貫かれ地面に落ちる。さらに飛び出した虫に晶子のライドキャリバーが突っ込み倒した。
    「っ……」
     ありえないくらいの数の虫に、詩夜・沙月(紅華の守護者・d03124)は思わず息を飲んだ。実は虫が苦手なのだ。
     それでも軽やかなステップを踏み、向かってくる虫たちを必死に倒していく。沙月もまた、過去に大切な人を自分のせいで失っていた。
     自分は幸せになる資格が無いとまだ考えている。さらにその事で妹に対して負い目を感じ、妹の為に生きる事で存在を許されると思っていた。
     そんな自分がアイリに対して言えることではないと思っている。けれどだからこそ沙月はアイリに幸せになって欲しいと願わずには居られないのだ。
     ほんお少しでいいから幸せになる事を自分に許してあげて欲しいと思うのだ。ふわりと軽やかに着地した沙月がすぐに後方に下がった。
     沙月を襲おうとした虫ごと構築された結界が一掃する。
    「……」
     逃れようと暴れた虫たちが力尽き、地面に落ちた。普段なら身も蓋もない物言いをしてしまう赤秀・空(死を想う・d09729)だ。
     けれど柄にもなく偽善的な行動をしていると思っているせいか、飄々とした態度が息を潜めている。脳裏に浮かぶ手を掛けてしまった特別な存在の面影に空は微かに首を振る。
     今は虫を倒すことに専念しなけばと言うように……。無自覚に引き摺っている過去が空を感傷的にさせているのだった。
     仲間が虫を抑えてくれている間にと、村上・忍(龍眼の忍び・d01475)が口を開いた。
    「もう続けるのはお止しなさい。続ける程虫は多く、状況も陰湿になりますよ」
     現れた灼滅者たちに、自分を助けるために現れた助っ人キャラだと思っていたアイリが首を傾げた。なぜ止めるように言うのだろう?
    「助けじゃ、無い。貴女が、堕ちるの、止めに来た」
     こんばんはと挨拶したマリア・スズキ(悪魔殺し・d03944)が落ち着いた声で静かに言葉を続ける。
    「アイリは、良い子。自分がした事、忘れられなくて……ずっと、苦しんでる」
     けれど落ちる方が楽だからと逃げてはいけない。その為なら助けてあげると常に無表情無感動なマリアがアイリに告げた。
    「今は僕らがこの虫から君を守ってやれる」
     温和な雰囲気で穏やかな話し方。そして微笑みを絶やさない小鳥遊・葵(ラズワルド・d05978)が優しくアイリを見た。言葉通り、仲間たちは次々を虫を地面に倒れさせている。
     けれどこのまま続けたらもっと恐ろしいものが襲いかかってくる。助っ人なんて来るゲームではないのだ。
    「助っ人なんて、来ない。ひとりきりで耐えられる?」
     葵の言葉にアイリの瞳が揺れる。罪の意識は彼を思う気持ちの裏返しだと感じる葵だった。
     自分を責める程、本当は優しい人なのだろうと思う。彼もきっとわかっているからこそ……。
     闇堕ちなんてしてしまったら、ゲームなんて比じゃないほどもっと辛く苦しいことになるのは目に見えている。
    「もうこのゲームは終わりにしていいだろう?」
     揺れたアイリの瞳をしっかり受け止めて葵が優しく問いかける。アイリにはもう一人で虫に立ち向かう勇気はない。
     どこか茫然自失のような表情を見せたアイリが小さく頷く。その瞬間に飛び跳ねた虫に葵が魔法の矢を飛ばす。
     さらにアイリが禁呪を放って、虫をいっきに爆破させた。同時に飛び出した霊犬が攻撃から逃れた一匹を斬り裂いた。
     虫がアイリに届かないように、忍もまた毒の風を竜巻にして放つのだった。

    ●全てに終止符を!
     一箇所に止まっていた灼滅者たちとアイリを虫がぐるっと取り囲む。アイリを守るように円になった灼滅者たちは虫を見据える。
     次から次に迫ってくる虫を斬り裂き、殴り、爆破させるがぞろぞろと虫が寄ってくる。一回でも取り逃がせば、虫はアイリに届いてしまう。
     飛びかかってきた虫を葵が殴りつける。転がった虫は体内から爆破して吹き飛んだ。
     今にも飛び出しそうな虫にイスカが影の触手で絡め取った。逃れようと暴れている虫を踏みつけて、さらなる虫が這い寄ってくる。
     風の刃で斬り裂いた沙月が残りの虫を見てあともう少しと気合を入れる。無尽蔵にどす黒い殺気を放ち、智が突っ込んできた虫たちを一掃した。
     晶子が撃ち出した魔法弾が、虫を撃ち抜く。禁呪を放った忍が爆破によりさらに虫を一掃した。
     積極的に倒すことよりも、虫の動きを狂わせることを狙っていた空が影を向かわせる。もうすでに残り数匹になった虫の一匹を影の触手で絡め取る。
     暴れもがく虫が力尽きて地面にぽとりと落ちた。葵が両手に集中させたオーラを虫に向かって放出する。
    「これで終わりだね」
     マリアが結界を広げるのに合わせたイスカが声をあげる。結界とイスカに刻まれた原罪の紋章が残った虫に不気味な声を上げさせた。
     そして、力尽きた虫たちが地面に気持ち悪い音を立てて落ちていく。大群とは聞いていたが、本当にありえないくらいの虫の量に内心ため息をついた灼滅者たちだった。
     トラウマである虫がいなくなったことで、アイリは脱力した。約束した通り、ゲームを再びスタートさせる気はない。
     しかしこのまま目覚めさせたのではまりんが言っていた通り、また六六六人衆の誘いに乗ってしまう。
    「初めまして、俺は赤秀空」
     脱力しているアイリに空が声をかけた。共感能力が低く他者の感情の理解力が低い為、手探りで空は話す。
     今回は闇堕ちを防げたが、次はわからない。アイリが何もかも振り捨てる前に、伝えたかった。
     自分の存在が他人を幸せにするという利己的な考え方は出来ないかもしれない。
    「けど、自分を失って不幸になる誰かが居る事、考えてみた事はあるかい?」
     アイリは瞬きした。自分がいなくなったところで不幸を感じる人がいるのだろうか?
    「私達以外にも、アイリを助けてくれる人、いるはず。……違う?」
     誰のことを言っているのかすぐに理解してしまったアイリは瞳を見開く。けれどすぐに瞳が陰る。
    「……これが貴女の罪悪感ですか。安いものですね」
     倒れた虫を見て忍が言った。ゲームなどして、自暴自棄になるにも程がある。
    「悪いことをしたと思うなら、出来る事をして償うものです」
     そして償える償えないはアイリが決めるものではなく、相手が決めるもの。幸せになるのはもっての他と言うアイリの態度を一喝する。
     アイリが不幸になればなるほど、同じように裕太も不幸を感じている。
    「……貴女は向合う事から逃げているだけです。相手がいなくなってからではもう遅いんですよ……?」
     厳しい忍の言葉の中には、闇から救ってくれた妹を死なせてしまった自分への痛みと後悔が込められている。
     どうしていいかわからないと言うようにアイリは拳を握り締めるのだった。
    「……相手が自分を責めない、それどころか優しくされたら尚更辛いですよね」
     沙月が瞳を伏せる。裕太の優しさがアイリを救い、苦しめるのだ。けれど裕太は傷つけられてもなお、アイリの傍に居ようとしている。
    「その人を悲しませない為にも、自分から不幸いなろうとするのは止めるべきです」
     お互いの心を知る為に、逃げずに向き合うように沙月はすすめるのだった。

    ●心が目覚めるとき
     告げられた言葉にアイリは考えさせられる。けれど、今さら何を言ったとしても自分が犯した罪は変わらない。
     なかなか心を開けないアイリに智が拳を強く握る。
    「私ね、大事な人を自分の力のせいで失ったことがあるんだ」
     だからこそ、簡単に堕ちてしまった弱い自分が大嫌いな智だ。けれどアイリの大切な人はまだ生きてる。生きてるのだ。
    「こんなことよりするこがあるでしょ!」
     くだらない殺人ゲームなんてプレイして最強を語ってる暇などない。大切な人を幸せにする努力もしないで、逃げているアイリは誰よりも弱い。
     傷つけたのなら、その分誰よりも大切にすればいい。生きている裕太になら出来ることだ。
    「投げ出して堕ちればいいなんて臆病者のやる事だ!」
     言い切った智にアイリの体は震えた。逃げる事で、不幸になることでしか償えないと思っていた。
     相手をその分、幸せにすればいいなんて考え思いつきもしなかった。
    「でも今さら……」
     もう裕太は自分を見限ってしまったかもしれない。昨日はメールをくれたけど、今日はもう心変わりしてしまったかもしれない。
    「逃げないで、本気で向き合って、ちゃんと謝ったら大丈夫、元通りになりますよ!」
     逃げてしまいそうになるアイリを晶子が後押しする。
    「それに、悪いと思うなら、これ以上大事な人に心配かけちゃだめじゃないですかっ!」
     またこんなゲームに囚われたり、誘いに乗ってしまったらもっと裕太は心配するだろう。強くならなきゃ、しっかりしなくちゃ、アイリは必死に心の中で自分を励ます。
     こんな自分に声をかけてくれる人のためにも……。そんなアイリの葛藤に気づいたのか葵が変わらない穏やかな声で話しかける。
    「最強な人間なんていない、皆それぞれ辛い事に向き合って生きてる」
     でもそれを支えようとしてくれる人が誰にでもいる。
    「何故そんなにも罪に囚われているのか……」
     そんな辛い気持ちを一番理解できて、受け止めようとしてくれている人がいると言うのに……。
    「勇気を出して……貴女が本当に唯のクズなら、幾ら優しい彼でも根気強く声をかけ続けてくれるものですか」
     自分の出来る事を、良い所をもっと苦労して探すように忍は助言する。
    「逃げるか立ち向かうかは任せるよ」
     過去の罪を痛く思うのはアイリがまともだからだと空は思う。けれど逃げるなら今度こそ何もかも失うことになるかもしれない。
     まっすぐ空がアイリを見つめる。逃げるか立ち向かうか……。
    「私……出来るかな」
     小さな声が震えている。
    「ほら、手を出して」
     天真爛漫なイスカらしい笑顔がアイリの目の前に迫る。おずおずと伸ばしたアイリの手をイスカはいっきに引っ張り上げる。
     驚いてふらついたアイリの背に、転ばないようにマリアがそっと手を添える。支えてくれる誰かがいるという事実に思わずアイリは涙をこぼした。
    「大丈夫、出来るよ」
     イスカの優しい声と笑顔、自分を見守ってくれる全員の顔を見てアイリはしっかりと頷く。夢から目覚めていくアイリは下ではなく上を見つめていた。

    ●現実への帰還
    「お目覚めですか? 今のは夢でしたが、現実でもあったんです」
     忍の言葉、そして目の前にいる灼滅者たちを見て、夢の中の出来事だったのだが夢じゃなかったことをアイリは再認識する。そんなアイリに智が交渉を始める。
    「これ、私達に関係がある物っぽくてさ。譲ってもらえないかな?」
    「もう、必要ないから……」
     その言葉に智は思わず笑みを作っていた。
    「もう簡単に自分を貶めようなんて考えないで。アンタを大切にしている人はちゃんといるんだから」
     ね? とさらに笑みを深めた智にアイリは噛み締めるように頷く。
    「ちゃんと、頑張るための、第一歩」
     ずいっと掃除道具を渡されてアイリは瞬きする。汚い部屋が綺麗になるまでは寝かさないし帰らない勢いを見せるマリアだった。
     しかし自分も一緒に掃除する気のマリアにアイリもやる気を見せる。じゃあ自分もと手伝いながら晶子がにやにやしながらアイリに近寄る。
    「裕太さんのことどう思っているんですか?」
     コイバナに興味津々の晶子の言葉にアイリがきょとんとした後、頬を染めた。あわあわしている姿を葵が穏やかな微笑みで見る。
     もうアイリのことは心配なさそうだ。綺麗になった部屋にアイリの笑い声が響く。
    「もう祐太さんには会えないかも知れなかった……その事を今改めて考えてみて下さい」
     去る前に忍が今一度アイリに告げる。どれだけ危ない所だったのか、どれだけ軽はずみなことをしていたのか。
     眠る前のアイリだったらきっとわからなかった。でも今のアイリはその言葉の意味をしっかりと理解出来た。
     そんなアイリの様子に沙月は自然と微笑んでいた。きっと幸せになれる。もう自らを不幸にしようとは思わないだろう。
    「頑張るんだよ!」
     にこっと笑ったイスカに続いて空も部屋を後にする。まだいつもの飄々とした空には戻れていないようだった。
     一人になった部屋の中で、アイリは夜明けを心待ちにする。夜が明けたら裕太に会いに行こう。
     忘れていた笑顔と一緒に……。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年9月28日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 5/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
     あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
     シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。
    ページトップへ