殺人は夢の中で

    作者:天木一

     マンションの一室で、一人の少年がソファーで眠っていた。
     長い間掃除もしていない部屋。埃をかぶったテーブルの上には、食べかけの弁当とペットボトルのジュースが置かれている。
     眠る少年は胸の上に新書サイズのボタンのついた謎の機械を抱き、深い眠りに就いていた。

    「へっへっ……なんだ雑魚ばかりじゃねぇかよ!」
     何もない真っ白な部屋の中、そこで頭に黄色いバンダナを巻いた少年がナイフを振るう。その度に周囲に血飛沫が舞う。
    「ブタどもが何匹いようがムダムダ!」
     二足歩行でブタの顔をしたモンスターの集団が突き出す槍を軽々と避け、交差するナイフがモンスターの首を刎ねる。
    「さーて次はどいつだ~」
     最後のモンスターを刈り取り、少年は笑う。
     既にスライムやスケルトンとさまざまなモンスターを倒し、凶悪な敵を倒すほどに少年は殺戮に慣れていった。
     だが次に現れた敵は、よぼよぼの老人の集団だった。
    「……あ? ちょっ冗談だろ? オレは爺婆だけには親切にしろってばあちゃんに育てられたんだよ!」
     少年が躊躇っていると、お爺さんがゲートボールのスティックで殴り掛かり、お婆さんは包丁で襲い掛かって来た。
    「チクショウ! どうしろってんだよ!」
     手が出せずに逃げ惑う少年を老人達が追いかけ始めた。
     
    「みんな集まってくれたね」
     教室に集まった灼滅者に能登・誠一郎(高校生エクスブレイン・dn0103)が話かける。
    「博多で謎の機械を受け取った一般人が、悪夢に囚われるっていう事件が起きるみたいなんだよ」
     また博多での事件だと誠一郎が説明を続ける。
    「事件を起こしている犯人は、シャドウの協力を得た六六六人衆らしいんだけど、どうも悪夢を見ている人を新しく六六六人衆として闇堕ちさせようとしているみたいだね」
     六六六人衆の新しい活動のようだ。
    「悪夢を見ているのは、HKT六六六人衆の研修生で、自ら望んでその悪夢を見ているみたいだね」
     だがこのまま六六六人衆の勢力が増えるのを放っておく訳にもいかない。
    「夢の中では殺人ゲームを行っているようだね。それによって殺しの訓練をしているんだと思うよ」
     禁忌を簡単に繰り返させる事で、闇堕ちへと導いているようだ。
    「夢に入ってこの一般人のやっているゲームを止めて欲しいんだ」
     ソウルアクセスを使わなくても、眠る一般人が抱く謎の機械を媒体に、夢の中に入る事が出来るという。
    「少年は苦手な相手を前にして、戦意を消失しているみたいだね。そこを助けてあげて欲しい。敵自体はお年寄りをベースにしているから強くはないみたいだね」
     だが気をつけてと言葉を付け足す。
    「助けるだけだと、そのままゲームを続けてしまうと思うんだ。彼がゲームを辞めるように説得して欲しいんだよ」
     可能なら2度とHKT六六六人衆と関わり合いにならないよう説得できればベストだろう。
    「少年の両親は共働きで殆ど家には居ないみたいだね。よく懐いていたお祖母さんが亡くなってから、少年は部屋に引き篭りがちになったみたいだね」
     そのあたりの事を踏まえれば、説得もしやすいかもしれない。
    「今ならまだ夢の中でモンスターを殺しているだけで済むんだ。まだ戻れるうちにみんなの力で連れ戻してあげて欲しい。お願いするよ」
     そう言うと誠一郎は頭を下げて灼滅者達を見送った。


    参加者
    泉二・虚(月待燈・d00052)
    函南・ゆずる(緋色の研究・d02143)
    東谷・円(乙女座の漢・d02468)
    姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)
    字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)
    楯縫・梗花(さやけきもの・d02901)
    真白・優樹(あんだんて・d03880)
    御来屋・なめき(小学生ストリートファイター・d20547)

    ■リプレイ

    ●不思議な機械
     マンションの一室に灼滅者は忍び込む。手入れがされていない埃のかぶった汚い部屋。そこには少年がだらしなくソファーで寝ていた。
     その胸には玩具のような機械を抱いている。
    「よく寝ているようだな」
    「HKT……変な機械まで使って、何が目的、なのかなぁ……」
     そっと少年に近づく泉二・虚(月待燈・d00052)が寝ているのを確認して声を出す。
     少年が胸に抱く怪しげな機械を見ながら、函南・ゆずる(緋色の研究・d02143)は迷惑な敵組織の行動を思案する。
    「六六六人衆にも候補生制度があったとはな……。まぁンな事ァどうだっていいんだ、とりあえずこのガキの性根を叩きなおしてやる」
     東谷・円(乙女座の漢・d02468)が眠る少年を覗き込み、どうやって気合を入れてやろうかと、じろりと少年を観察する。
    「シャドウと組んでの新人教育とか、ダークネスも色々手の込んだことやってるね。身内で殺し合いしてる六六六人衆が新人教育とかあんまりピンとこないけど」
    「そうだな、わざわざ育てるところから始めるとはな……その辺の六六六人衆じゃ想像も出来なかったが、HKT六六六人衆か……厄介な連中だ。奴らの思い通りにはさせない、必ず救う」
     感心したような呆れたような、そんな複雑な感情を乗せて真白・優樹(あんだんて・d03880)は溜息を吐くと、その隣で字宮・望(穿つ黒の血潮・d02787)は、夢にうなされる少年を見て呟くように言った。
    「六六六人衆は、宿敵ではないけれども……引っかかる存在だね。なんだか、わかりあえないような気がするんだ」
     楯縫・梗花(さやけきもの・d02901)はそんな相手だからこそ、いったい何をするのかと怖さを感じる。
    「一時間以内にことをすませて撤収するのですよね。がんばりましょう」
     御来屋・なめき(小学生ストリートファイター・d20547)は、碌でもない輩同士が手を組むとさらに碌でもない結果が生まれるものだと、溜息を吐く。
    「ご老体を大事にという気持ちは尊重致します。そこが最後の砦であるのなら、守っていきましょう」
     祖父を看取った事のあるなめきは、少年の気持ちに共感し必ず助けようと手に力を込めるた。
    「力とは使い手次第で善にも悪にも染まる純粋なるもの」
     少年が悪に染まるのを放っては置けないと、姫宮・杠葉(月影の星想曲・d02707)は瞳に強い意思を宿す。
    「佳き信念を抱かぬ者に力を行使させる訳にはいかない……止めさせて貰うよ」
     灼滅者達は準備は出来ていると頷くと、少年の抱く機械に触れる。その瞬間、世界は書き換えられる。一瞬の意識の空白。白く、真っ白に全てが塗り潰された。

    ●夢の中
     真っ白に塗られた大きな部屋。何も無い空間を少年が逃げる。その後ろにはゲートボールのスティックや包丁を持った爺婆が追いかけて来ていた。
    「クソッ! とんだクソゲーじゃねえか!」
     悪態を吐きながら黄色いバンダナを頭に巻いた少年が、襲い来る老人達の攻撃を必死に避ける。
     老人の動きは鈍い、今までに出会った敵の中でも弱い部類だ。だが少年は手が出せない。防戦一方で次第に体の傷が増えていく。
    「チクショウ! 爺婆相手にどうしろってんだよ!」
     包丁が少年に届こうとしたその時、お婆さんの振るう包丁よりも速く、杠葉は疾風のように駆け寄ると、腕を異形化させて振り抜く。拳はお婆さんの顔面を捉えた。
    「力とは護る為にあるべきもの……この悪夢は砕かせて貰うよ」
     殴られたお婆さんは地面に叩きつけられ転がる。その隣からお爺さんがスティックを振り下ろして来た。だがその攻撃は杠葉に届かない。宙を舞う符によって防がれていた。
    「ふーん、ソウルアクセス無くても夢ン中に入れるとは……。この技術力もっとイイ事に使えよ」
     周囲を見て、うんざりと呆れたように円は声を出す。その手には符が握られている、それを次々と放ち仲間を守る盾とする。
     お爺さん2人がスティックをかざして少年に襲い掛かる。
    「そこまでだ、それ以上近づけさせないよ」
     霧が辺りを漂う。その中から姿を現した望が、槍で振り下ろされるスティックを弾き、もう一つ横薙ぎで襲い来るのを受けて防いだ。
     そこに、ゆずるがお爺さんの脇腹に杖を叩き込む。更に追撃としてナノナノのしまださんがしゃぼん玉を飛ばし、お爺さんを吹き飛ばした。その横からもう一人のお爺さんが殴り掛かってくる。
    (「あんまりあっさり助けちゃうと、ゲームだって思われちゃう、から」)
     ゆずるは倒してしまわないよう、攻撃を杖で受け止めながら距離を取る。
     その空間にお婆さんが包丁を腰に構えて、少年目掛けて突っ込んでくる。
    「僕が必ず、守ってみせるから」
     梗花が力強く言葉を発すと、お婆さんと少年の間に割って入り、エネルギーの盾を広げ、障壁を張って包丁を弾き返す。
    「こんにちは。あなたの名前を聞いてもいいかな」
    「……真司だけど。あんたたちはなんだ?」
     緋色に染まった刀で敵の攻撃を捌きながら、のんびりと名前を尋ねる虚の態度に、呆気に取られながらも少年は答えた。
    「困っているならば手を貸すが?」
    「マジかよ! 手伝ってくれんのか。あれかお助けキャラって奴か?」
     喜ぶ少年に忍び寄るお婆さんに向け、なめきは魔導書を開き、爆破の禁呪を唱える。衝撃にお婆さんは吹き飛んだ。
    「今はゲームでしょう。しかしここから先はゲームではありません。本当に人を傷つけることに、殺すことになりますよ」
    「な、何言ってんだ? そんなマジになるなよ、これってゲームなんだぜ?」
     なめきの真剣な言葉に少年は困惑するように眉をひそめる。
    「人を殺すってどういうことなのか、自分の目でしっかり見てなよ」
     優樹は少年に向かいそう声をかける。拳に雷を宿し、先程の爆発で地面に伏せているお婆さんに向かい、拳を振り下ろした。夢とは思えない感触が腕に伝わる。ぐちゃりと、頭を砕き血が溢れ広がる。真っ白な床を赤い染みが染めていく。
    『ぎゃぁああ!』
     老婆の断末魔が響き渡る。
    「あ、あ、あんた何してんだよ!」
     そのあまりに生々しいシーンに少年は口を押さえながら叫ぶ。
    「今はゲームで済んでるけどね。これをクリアしたら次のステージは現実の世界で相手は生身の人間だよ。当然その中にはお年寄りもいるよ」
     その言葉に驚愕の表情で優樹を見る少年。
     動きの止まった少年へ向かう爺婆達、だが虚の放つ強烈などす黒い殺気に飲み込まれ足が止まる。
    「あくまでゲームとはいえ、大切にせねばらならぬ者に対して自制を貫いているようだな。ここまでに生き、育んできた事や保持してきたことは守り続けるがいい」
     死体から目を逸らす少年を見て、虚は言葉を続ける。
    「殺してからでは遅い、殺されてからでは遅い。ゲームでも現実でも人の命の重さは重いものだ、自分でわかっているならば再確認することだ」
    「そんな事言われたって、これゲームのはずだろ、リアル過ぎだろ! こんなのゲームじゃねぇよ!」
     目を逸らしたまま少年は呻く。そこにお爺さん達が近づく。
    「ここで踏み止まってくれて良かった。もし君がこのままモンスター扱いとはいえお年寄りを手に掛けていたら、きっと元には戻れなかったと思う。こんな敵も出るんだ、君の為にもこのゲームはやめることを奨めておくよ」
     望は少年に告げながら、放つ赤いオーラの逆十字がお爺さんを切り裂く。そのゲームにしてはリアル過ぎる光景に少年の顔が歪む。
    「血ぃ出すぎだろ! こんなのモンスターじゃねぇじゃん! どうしろってんだよ!」
    「戦いはね、血が流れるんだよ……自分も相手も、こうして血を流すんだよ」
     梗花が迫るお婆さんと対峙しながら少年に話しかける。
    「君は、どんな相手を前にしても、相手を傷つけて血を流させることができる? たとえば、こんなおじいさんやおばあさん相手でも」
     迫るお婆さんに向け、梗花は異形化した腕を叩き込む。鈍く砕ける感触と共にお婆さんは顔を変形させて地面を転がる。その異形の手には真っ赤な血がへばりついていた。それを敢えて少年に見せつけた。
    「ひっ」
     それを見て少年は脅えたような声を漏らす。
    「誰かを傷つけたい衝動、わからなくもない、よ。だって、わたしも殺人鬼、だから、さ」
     ゆずるは襲い掛かるお爺さんのスティックを刀で受け止める。
    「けれどね、誰かを殺すってことは、その人のこれまで生きた人生や、そのあと生きるはずだった人生を、背負うこと。もう一人分の人生を背負って生きるのはね、すごーく重たい、よ」
     鍔迫り合いをしながら少年に言葉を届ける。そしてお爺さんを押し返すと、袈裟斬りに斬り捨てた。真っ赤な線から血が噴出す。
    『死にたくないぃ!』
     お爺さんは最後の叫びを上げてそのまま仰向けに倒れた。
     それはまるで少年に殺す事の意味を見せ付けるようだった。

    ●人を殺すということ
    「う……うぇ」
     少年は転がる死体を見て胃液を吐く。そこにお婆さんが包丁を持って走ってくる。少年は殺されたくないとナイフを構えた。
    「『爺婆だけには親切にしろ』って、ばーさんの言葉を忘れたのか? 殺しがやりたいだけなら、マジでゲームの中だけにするんだな」
     そう言って少年の射程に入る前に、円がお婆さんを盾で止める。
    「もし実際に人を殺したりしたら……お前はもう、その言いつけすら守れなくなるかもしれねぇんだぞ?」
     少年に背中を見せ、守ってやると盾を構える。
    「オレ……どうしたら……」
    「己が欲や快楽の為のみに行使される力はあってはならないもの。理不尽な力を行使され逃げ惑う今の貴方ならば……今まで貴方がモンスター相手にした事は堅気の者達にしてはいけない事だと解るはず」
     敵の攻撃を舞うように捌きながら、杠葉は魔力を込めた杖をお爺さんに叩き込んだ。心臓を打たれ、口から血を吐き出して崩れ落ちる。
    「老人を大切にする心があるならばそれを堅気に生きる者達にも抱いて欲しい」
     杠葉の言葉は裏の世界で生きる者の実感が籠もっていた。
    「これ以上進んだらもう後戻りはできなくなっちゃうよ。一度殺し合いの世界に踏み込んじゃったら自分が殺されるまで殺し続けるしかなくなる。それでもいいの?」
    「ゲームと続けるなら恐らく、貴方が大事にしたいと思っているものから殺すことになるでしょう。そうなってもよいのですか?」
     優樹となめきの問いかけに少年は力なく首を振った。そして手に持つナイフが零れ落ち、床でカランカランと甲高い音を立てて転がった。
    「オレはばあちゃんとの約束を破りたくねぇ。爺婆なんて殺せねぇよ」
    「よく言った。安心しろ、俺達が絶対無事に帰してやる」
     顔を上げて覚悟を決めた表情を見せる少年に、円は安心するように自信を持った笑みを見せてやる。
    「あとは、倒す、だけ、だね」
     ゆずるは刀を上段に構える。向かってくるお爺さんの振るうスティックと閃光が交差した。スティックは両断され、お爺さんもまた二つに断ち斬られ崩れ落ちた。
     お爺さんとお婆さんの攻撃を望は受ける。左肩に打撲を、右腕に切り傷を受けながらも、次々と来る攻撃を凌ぐ。
    「ゲームを終わらせよう」
     お爺さんの足を虚の影が伸びて刃のように貫く。動きが止まった瞬間、望が仕掛けた。
    「奪い取らせてもらうぞ……!」
     望の槍が緋色に輝き、お爺さんを貫く。槍から血が滴りその血を、生命力を吸い上げる。
    「例え化け物に見られようとも、誰かを守れるのなら……」
     そこへお婆さんが望の首を狙って包丁を薙ぐ。梗花はその刃の前に割り込み、槍で弾き上げる。その隙に槍から放たれるつららでお婆さんの胸を貫いた。
     よろめくお婆さんに、なめきの本から放たれた魔力の光線が傷ついた胸を更に射し貫いた。胸に穴を開け、お婆さんは倒れ込む。
    「独り抱える寂しさはあれど、ゲームは普通のゲームだけで留めておきましょう」
     なめきはこの異常なゲームを終わらせようと、次の魔法を放つ。だが攻撃を受けながらも、残った爺婆達は少年に向かって突撃する。
     望と梗花はその前に立ち塞がり、数々の攻撃を鉄壁の壁として受け止める。
    「おい大丈夫か!? ったく、数が多いとメンドクセーな」
     円が弓を引く。放たれた矢は望に当たり吸い込まれるようにして消えると、受けていた傷を癒した。しまださんもハートを飛ばし、梗花の傷を癒していく。
    「舞うは夢幻、刻むは影……我が暗殺戦舞の前に消えると良い」
     杠葉は気配も無く敵の背後を取ると、オーラを纏った手刀でお婆さんの足を切り裂く。バランスを崩しながらもお婆さんは反撃に包丁を振るう、それを跳躍して躱すと頭上から杖を振り下ろした。その一撃はお婆さんの頭を打ち砕く。
    「後一人」
     優樹がお爺さんにオーラを纏った右拳を放つ。お爺さんはスティックで受け止めようとするが、拳で撥ね上げ、次の左拳がお爺さんの体に叩き込まれた。

    ●ゲームの終わり
    「ここでゲーム終了するよ」
     敵が消えると、疲れたように少年は座り込んだ。
     周囲を見ると、真っ白だった部屋がペンキをぶちまけたように赤く汚れていた。
    「お年寄りを大事にする事は良いことだ。これからもその心を大切にするといい」
     望が少年の目を見て言うと、少年もしっかりと見返して頷く。
    「こんなゲームもうしちゃダメだよ」
    「こんな目にあったんだ、これで懲りただろ?」
    「わかってるよ。もうこんなのこりごりだよ」
     優樹と円の言葉に、少年はもうゲームは暫くやりたくないと返事をした。
    「力とは護る為に行使するものであり奪う為のものではない。己が欲や快楽の為のみの殺戮など言語道断と貴方の胸に刻むと良い」
    「誰かを殺せば、その人を失った誰かが、悲しむんだ。おばあさんを亡くしたキミなら、その気持ち、わかる、よね」
     杠葉のゆずるの真剣な言葉に、少年もまた真剣な表情で頷いた。
    「わかった。もうばあちゃんが悲しむようなことはぜってーしねぇよ」
     少年の目は真っ直ぐと灼滅者達を見ていた。その目を見てこの少年はもう大丈夫だと、灼滅者は安心した表情を見せる。
    「もう大丈夫みたいだな」
     虚の言葉に皆が頷き、任務は終わったと灼滅者達は少年の夢から立ち去る。
    「貴方は、人でいて下さい」
     人ならざる者の相手は、人ならざる者が努めますと、なめきが別れ際に呟く。
    「どうか、彼が平穏な夢を見られますように」
     梗花は優しくそう告げると背を向けた。
    「……その、ありがとうな」
     少年の照れくさそうな感謝の言葉を最後に、灼滅者達は夢から消え去った。
     少年もまた夢から覚める。周りを見ても部屋には誰もいない。変わりない現実。変化があるのは手にしていたはずの機械が無くなっている事だけ。だが祖母が亡くなってからずっと淀んでいた心が洗われたような気持ちだった。
    「ばあちゃんが部屋を見たらどやされるな……よし! 部屋の掃除からするか!」
     元気良く声を出し、少年は起き上がった。

    作者:天木一 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月5日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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