WonderDystopia~怪奇洋館ファンタジア

    作者:犬彦

    ●廃迷宮
     古く錆びついた観覧車。鏡の割れたミラーハウス。
     首を失くした馬達のカルーセル。寂しく並ぶオブジェ。枯れ果てた庭園広場。
     いまや誰にも思い出されず、誰も足を踏み入れない地。その場所は建設半ばに計画が頓挫した遊園地の跡地だった。
     いつしか、その土地の中心には人々が及び知らぬ不可思議な地下迷宮が形成される。
     エクスブレインの予知がきかぬ未知の領域――その名は『ブレイズゲート』!
     迷宮内部は不条理と危険に満ちた領域。
     先陣としてエントランスゲートを開いた灼滅者の力により、廃遊園地のブレイズゲートの更に奥に進むことができるようになっていた。
     そして、今――君達は謎が謎を呼ぶ迷宮に挑むことを心に決め、廃遊園地の第二階層に足を踏み入れた。

    ●第二層『ホラーハウス』
     地下迷宮の奥に進んだ君達の前に現れたのは、洋館風の建物だった。
     しかし、窓ガラスはひび割れており、あちこちに蜘蛛の巣が張っている。周囲にはコウモリが飛び交い、窓の一部には血が滴った痕があり、更には子供の手形のような汚れまでついている。まるで此処は――ホラー映画にでてくるようなお化け屋敷だ。
     君達がわずかに戸惑っていると、不意に屋敷の扉が動いた。

     ギィ、と不気味に軋む扉。
     其処からひょこりと顔を出したのは、エプロンドレスを着た少女だった。
    「ごきげんよう。怪奇に満ちる洋館ホラーハウスにようこそ!」
     ツギハギだらけの人形を腕に抱き、ぺこりとお辞儀をした彼女が顔を上げると、ツーテールに結われた長い髪も揺れる。
    「私は六六六人衆・四一五番、館花・亜璃子。今日はこの不思議なお屋敷、『恐怖幻想館』の主人なの。なーんてね、キャハハ!」
     勝手に自己紹介をして、勝手に笑いはじめた少女は君達の意見も聞かずに話し出す。
     曰く、この洋館は見た通りのホラーハウスらしい。
     元々古びた装飾で作られている上、遊園地が廃墟に成り果てているので雰囲気は普通のお化け屋敷以上だ。
    「ねえ、アナタ達。ここに居るって事は洋館に挑戦に来たのよね」
     有無を言わさぬ様子で問い掛けた亜璃子は、こちらが聞いていないというのに内部の説明をはじめた。
    「このお屋敷の地下には秘密の部屋があって、そこにはあるモノが隠されているの。でも、秘密の部屋を開けるには屋敷の何処かにある鍵がなくちゃいけないのよ」
     そういった亜璃子は薔薇装飾の銀鍵を君達に見せた。
     スペアキーだというそれをポケットに仕舞った少女は、これと同じ鍵が屋敷内部に隠されているのだと告げる。
    「だからアナタ達はまず鍵を探して……それから、秘密の部屋においでなさい」
     キャハ、と可笑しそうに笑った亜璃子はウインクを投げかけた。
     おそらく、元のアトラクションもそういった設定だったのだろう。つまりはこの館を制覇することがブレイズゲートの謎を解く鍵となる。そう判断した君達は互いに頷きあい、お化け屋敷への挑戦を決めた。
    「でもね、洋館にはコワーイお化けがいっぱいいるわ。そいつらを切り抜けて生き残れるかどうかも面白いところよね! キャハハハっ!」
     せいぜい頑張ってね、と話した亜璃子は、君達が止める暇もなくするりと扉の中に身を滑らせ、姿を消した。きっと、彼女はスペアキーを使って先に地下の秘密の部屋に向かう心算なのだろう。
     六六六人衆だと名乗った彼女がただ待っているとは考え辛い。
     秘密の部屋に入れば十中八九、襲われると予想されるので警戒が必要だ。
     そうして、君達が心を強く持った時――。
    「いやああぁッ!? お化けえええぇ!」
     洋館から明らかに亜璃子のものであろう叫び声が響いてきた。
     それほどにホラーハウスの仕掛けやお化けは怖いものなのかもしれない。不安が過ぎりながらも、君達は洋館の扉に手を掛けた。
     この先には何が待っているのだろう。そして今、未知への好奇心と恐怖が巡ってゆく。


    参加者
    葛木・一(適応概念・d01791)
    八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)
    高瀬・薙(星屑は金平糖・d04403)
    ユークレース・シファ(ファルブロースの雫・d07164)
    新沢・冬舞(夢綴・d12822)
    鴛海・忍(夜天・d15156)
    ヴィンツェンツ・アルファー(自己破壊衝動持ちの自己愛者・d21004)

    ■リプレイ

    ●階段の先へ
     扉が軋む音を背にした仲間達は洋館の中へ進む。
     薄暗く、おどろおどろしい雰囲気の館内部はいかにも何かが出そうな気配がする。珍しさに辺りを見渡す者、怖くて震えそうになる者。それぞれの思いを抱きながら、一行は地下の秘密部屋に入る為の鍵をさがすため、先ず二階を目指す。
     そんな中、八握脛・篠介(スパイダライン・d02820)は階段を登りながら眉をしかめた。
    「うぅ……この雰囲気、どうも好きになれん」
     ギシギシと鳴る床の音さえ今は恐怖のもと。篠介は怯えを隠しきれぬまま、仲間達と共に進んだ。
     ユークレース・シファ(ファルブロースの雫・d07164)もナノナノのなっちんを抱き締め、恐怖と戦っていた。かすかに震えるユークレースの姿を見遣り、葛木・一(適応概念・d01791)はにやにやと口許を緩める。
    「おや~? ユルちゃん、お化けが怖いのかなぁ?」
    「そ、そんなこと……っ」
     からかう一にユークレースがおろおろと戸惑う中、横から別の声が加わる。
    「正直、ワシは怖い」
    「八握脛くん、ギャップ萌え。じゃなくて……いや、僕に任せといて」
     己の心境を正直に告白した篠介に対し、エリアル・リッグデルム(ニル・d11655)は仄かな感情を覚えた。館の雰囲気に怖がる仲間を眺める高瀬・薙(星屑は金平糖・d04403)もどうやら面白がっているらしく、不意に怖い話を始める。
    「そういえば、洋館といえばこんな話がありまして――」
    「高瀬、その話は興味深いがまた後で頼む。……来たぞ」
     だが、新沢・冬舞(夢綴・d12822)が不意に薙の話を止めた。何故なら、冬舞が真剣な眼差しを差し向けた先にボロボロの燕尾服を纏ったゾンビが居たからだ。
    「階段の上でお待ちかねなんてね」
     ヴィンツェンツ・アルファー(自己破壊衝動持ちの自己愛者・d21004)は身構え、ビハインドに呼び掛ける。ヴィンツェンツの制約の弾丸が打たれると同時に霊障波が放たれ、続いた鴛海・忍(夜天・d15156)が石化の呪いを紡ぐ。
    「ゾンビもそれほどものではないようですね」
     冷静に敵の分析を終えた忍は動じることなく、呪力を解き放った。
     更に一が影で敵を穿ち、一気に階段上まで駆けた霊犬の鉄が斬魔刀を振りかざす。
    「鉄、やっちまえ!」
    「ワシも少しは格好良い所を見せんとな」
     鉄の刃がゾンビを斬った直後、気を引き締めた篠介も螺穿の槍を穿つ。薙が彗星の一矢を打ち、ゾンビの後ろに回り込んだ冬舞がナイフを斬り上げた。
     次の瞬間、ゾンビは戦う力を失くして倒れる。
    「みなさん、おみごとです」
     ぱちぱちと拍手を送ったユークレースは、仲間の見事な連携に瞳を輝かせた。
     そして、亡骸を乗り越え、階段を登ったヴィンツェンツはふと立ち止まる。続く二階廊下には扉が並んでおり、部屋名が記されたプレートが掛かっているようだ。
    「薔薇の間に百合の間、桜の間。間違いないようだね」
     エリアルは扉に近付いて内部の様子を窺う。すると、扉の向こう側には何か潜んでいるような気配がした。更なる戦いへの思いを強め、仲間達に視線を送った忍は小さく頷く。
    「ここから先は三班で別行動ですね。行きましょう」
     何よりも、仲間の無事を。
     そして、この奥に鍵が見つかることを願い、忍達はそれぞれの扉を開いた。

    ●百合の間
     部屋に入ると、何故だかふわりと甘い香りがした。
     花の匂いなのだろうか。不気味な館に不釣り合いな香りの中、ユークレースは猫に変身してぴょこんと床に降り立った。
    「みー」
    「ナノ、ナノナノ!」
     こっちを探しますと告げたらしき猫ユークレースの後ろ、なっちんもふよふよと続く。冬舞もぐるりと部屋を眺め、調度品に手を伸ばしてみた。
    「こういう机の引出しも怪しいよな」
    「個別に探してみる価値はありそうですね」
     同意した忍も棚に近付き、気になった引き出しを開けてみる。同時に冬舞も別のクロゼットを開けたのだが、そこには無数の腐りかけた腕のオブジェが生えていた。
    「これは、手?」
    「ど、どうも」
     されど、二人は驚かない。忍はそれが作りものだと分かっており、冬舞に至っては思わず握手までしてしまった次第だ。しかし、これが仕掛けなのだと冷静な反応を示す忍達の背後、ひとつの影が消えていた。
     冬舞が辺りを見渡すが、ナノナノと一緒だった少女猫の姿は何処にもない。
    「あれ、なっちんさんだけ? ユークレースは?」
    「みー……」
     すると、ベッドの影に隠れていた少女が顔を出し、ぷるぷると震えながら返事をした。
     きっと腕の仕掛けに心底恐怖したのだろう。忍はそっと歩み寄ると、やさしく少女を抱きあげた。
    「大丈夫ですよ。暫くこうしていますから」
     忍が毛並みを撫で、冬舞も怖かったな、と少女を宥める。
     結局、この部屋では何も見つからず――ユークレースは部屋の探索の始終、忍の腕の中での見張り役に収まっていたのだった。

    ●薔薇の間
     同じ頃、薔薇の間に踏み入ったエリアル達は中に潜んでいたゾンビと戦っていた。
    「いきなりお出迎えだなんて、ご挨拶だね」
     炎の弾丸を撃ち込み、エリアルはゾンビに視線を差し向ける。向かって来た敵の一撃を得物で受け止め、衝撃に堪えた彼は更なる一撃に向けて間合いを取った。
     その横手から篠介が駆け、ひといきに魔力を叩き込む。
    「お化けでないのなら怖がる必要もなさそうじゃな」
     敵の体内を伝い、篠介の魔力が迸る。鋭い光が部屋に閃き、ゾンビの体勢が大きく揺らいだ。その隙を見出し、ヴィンツェンツはエスツェットと合図を交わしあう。
    「時間を掛けてはいられません。終わらせて貰います」
     エスツェットによる霊撃がゾンビを打ち、間髪いれずにヴィンツェンツが放った影が敵を覆った。きっと、あと一歩で敵を倒せる。
     そう感じた篠介はエリアルを呼び、勝負を付けようと呼び掛けた。
    「今じゃ。往くぞ、リッグデルム――ひっ」
     だが、その言葉は途中で驚きの声に変わる。何のことはないのだが、篠介の視線の先には時間差で発動したビックリ箱式に飛び出るお化けの仕掛けがあったのだ。
    「了解。というか、ホラー感もこう露骨だと愉快だよね」
     驚いた篠介に可愛さを感じながら、エリアルはゾンビに止めを刺すべく身構えた。
     気を取り直した篠介も閃光を拳に集中させ、エリアルも血の力を刃に宿す。そして、二人の攻撃が交差した次の瞬間。屍は本当の屍となり、その場に倒れた。
     やがて――戦いを終え、部屋を調べたヴィンツェンツ達は大まかな探索を終える。
    「此処には鍵は隠されていないのかな」
    「綺麗な小箱にでも入ってると思ったんだけどな。残念だよ」
     エリアルは小さく溜息を吐き、篠介も次の場所に行こうと仲間を促した。しかし、移動をするということは新たな仕掛けや脅かしがあるということだ。
    「あー! 何もありませんように!」
     心からの願いを言葉にし、篠介達は薔薇の部屋から出た。

    ●桜の間
     一方、桜の間には敵も仕掛けも存在しなかった。
    「こちらには何もありませんね。シフォンは何か見つけましたか?」
     隅々を探していた薙は、狭い部分を探していた霊犬に問い掛けてみる。しかし、それらしいものがあれば持ってくるはずの霊犬は何も見つけられていないようだった。
    「ちぇ、この部屋はハズレか。次行こうぜ、次!」
     一はつまらなさそうに両腕を頭の上で組み、開いた扉の外を顎で示す。
     そのとき、開いている扉の向こうをゾンビが通った。一瞬は身構えた薙達だったが、ゾンビはこちらに気付いていながらも、敢えて無視をして廊下を歩いて行ってしまう。
     顔を見合わせた二人はきょとんと首を傾げた。
    「何だったのでしょうか」
    「驚かせやがって。でも、アイツの首に何か……あ!」
     不意に一が気付く。
     今しがた通ったゾンビが首から下げていたもの、それは――亜璃子が持っていた薔薇の鍵と同じものだったのだ。慌てて薙が部屋の外に出たが、ゾンビは階段を下りて行こうとしている。
    「なるほど。これでは部屋をいくら探しても見つからない……まさに盲点ですね」
     薙はゾンビを追い、一は大声で仲間達を呼んだ。
    「鍵を見つけたぜ! ゾンビが鍵を持って歩き回ってるんだ!」
     ずるいよな、と文句を零しながらも一は鉄を伴って駆ける。
     こうなったら仲間を脅かす計画も台無しだ。逃げるゾンビ、追い掛ける一達。少年の声を聞いた仲間達も部屋から駆け付け、そして――ホラーハウスでの逃走劇が始まりを告げた。

    ●地下の戦い
     それから暫く、灼滅者達は地下の秘密の部屋前に訪れていた。
     逃げるゾンビを追う最中、一達は数々の仕掛けに遭っていた。髪の長い女の人形、何処からともなく聞こえる赤ん坊の声、窓ガラスを叩く無数の手などなど。それにより一部の、もといユークレースと篠介が恐怖の限界を越えたり――その辺りの洋館活劇は仲間達の心の中に深く刻まれているはずなので割愛するとして――ともかく、秘密の部屋の鍵は無事に手に入れることが出来た。
    「亜璃子さんがお待ちです。急ぎましょう」
     鍵穴に差し込んだ鍵を回し、忍はドアノブに手を掛ける。
     扉が軋んだ音を立てて開いてゆく。そうして、あらわになった秘密の部屋には八人分の棺桶が並んでいた。
    「これは……棺でしょうか?」
     薙が疑問符を浮かべると、棺桶の前に立っていた六六六人衆・亜璃子が口を開く。
    「やっと来たのね。秘密の部屋……いいえ、アナタ達の墓場にようこそ! アナタ達はこの場所で死ぬ為に鍵を探していたの。ふふ、ナンセンスで素敵でしょう?」
     キャハ、と笑った亜璃子を見据え、冬舞はナイフをぱしりと掌におさめた。
    「俺は冬舞。是非、手合わせ願いたい」
    「言われなくてもその心算よ。さあ、死のゲームを始めましょ」
     銃刃を振りかざした亜璃子が床を蹴り、戦いは一瞬にして幕をあける。
     敵が下ろした刃と冬舞のナイフが鍔迫り合いになり、烈しい衝撃が迸った。
    「なっちん、いくですよ!」
     ユークレースはナノナノに呼び掛け、癒しの矢を放つ。冬舞が体勢を立て直す合間、エリアルは影の手で敵を絡め取ろうと動いた。
    「きゃ! 何よこれ、お化けみたいで嫌ぁ!」
    「恐がりなのかい? 可愛い所があるね」
     驚いて悲鳴をあげる亜璃子を見遣り、エリアルはくすくすと笑む。
     だが、これは真剣な戦いだ。亜璃子は影を振り払い、すぐに気を取り直した。きっと彼女は一筋縄では敵わない。忍は盾輪で仲間の護りを固め、矢を打ち出した薙もシフォンに敵を引き付けるように願った。
     ヴィンツェンツも赤き逆十字を出現させ、亜璃子を狙い打つ。
    「エスツェット、行くよ」
     彼がその名を呼べば、息を合わせるようにしてエスツェットも霊力を紡いでいった。連続攻撃に敵も一瞬は怯むが、亜璃子は篠介に狙いを定める。
    「私の全力、受け切れるかしら!」
    「ふむ、来る気ならば迎え打とう」
     篠介は槍をくるりと回し、少女が撃つ弾丸を次々と弾き返した。だが、そのうちの何発かは急所を貫いている。それでも篠介は怯むことなく、痛みを堪えて槍撃を見舞い返した。
     拙いと感じた一は盾を広げ、仲間を護るように防御を固める。
    「舐めんなよ! 親分は子分を守ってやるもんなんだよ!」
     少年は敵をきつく睨み付け、歯を食いしばった。
     相対する少女はとても強いが、決して負けたりはしない。そう決めた一は、続いてゆく戦いへの覚悟を固めた。

     攻防は続き、灼滅者の痛みは蓄積してゆく。
     傷付き、押されながらもときには反撃を見舞い返し、戦いは長引き始めていた。
     だが、冬舞達の息のあった攻防は徐々に亜璃子を追い詰めていく。
    「なかなかやるな。だが、俺達も負けてはいない」
    「私、アナタみたいな強い人は好きよ。それから、それを嬲り殺すのもねッ!」
     亜璃子は冬舞の刃を受けつつ、歪んだ笑みを返した。
     しかし、既に敵の息も荒くなっている。自分達も酷くやられているが、誰も倒れてはいない。ユークレースが漆黒の弾丸で少女を穿ち、篠介とエリアルが左右から回り込んで其々の魔力を叩き込んだ。
    「ワシらは殺されなどせんよ」
    「その通りだね。割と楽しかったけれど、そろそろ終わりにしようよ」
     二人の言葉に続き、ヴィンツェンツと薙も同意を示して頷く。
     弱っていく少女に弾丸による麻痺を与え、ヴィンツェンツは視線を仲間に向けた。それを察した一は皆に呼び掛けながら、鉄と共に攻撃に転じる。
    「一気に畳み掛けるぞ!」
    「う……くぅ……」
     霊犬の刃と影撃を受けた少女は苦しげに呻いた。何故だかそれが哀れに思え、忍はふと思った事を言葉へと変える。
    「亜璃子さん、一人でこんな所に居るのだったら一緒においでなさいな」
    「ふん、冗談はやめてよね」
     しかし、返されたのは拒否だった。忍は一瞬だけ目を瞑り、鋭利な影を具現化させる。
    「ならば、致し方ありません」
     刹那。忍の刃が亜璃子の胸を貫き――そして、勝負はついた。

    ●洋館探検譚
     少女が崩れ落ち、膝をつく。
    「あら、負けちゃったのね……。だけど楽しかったわ。キャハハハっ!」
     その瞬間、亜璃子の姿が幻のように揺らぎ始めたかと思うと、瞬く間に消えた。
    「わ、ありすさんが消えちゃいましたっ」
     ユークレースは驚いてなっちんをぎゅっと抱き、目を瞬かせた。
     しかし、ダークネスはブレイズゲートの内部では分体化されるという。おそらく今の現象はその影響によるものであり、倒した亜璃子が本体というわけではなかったのだろう。
    「まぁ、ひとまずはクリアしたってこと、だよね?」
     エリアルが息を吐き、自分と同様に疲れ果てた仲間達に問い掛ける。
    「多分、そうかな。それにしても疲れましたね」
    「ええ。冗談ではなく、立っているのも辛いほどですね」
     ヴィンツェンツと薙が答え、これ以上は戦えないことを示した。
     これでまたブレイズゲートの先に進めるようになったようだが、激しい戦闘は皆の体力は限界に近かった。帰還を選んだ灼滅者達は互いの身体を支え合い、出口を目指す。
    「亜璃子さんは寂しくはないのでしょうか」
    「どうだろうな。しかし、また手合わせしてみたいと思う実力だったな」
     忍は密かに亜璃子を思い、冬舞も彼女と交わしあった刃の感触を思い返した。それぞれに様々な思いを抱え、仲間達はホラーハウスを背にする。
     そんなとき、不意に一の耳に聞き慣れない声が届いた。
    『――またきてね』
    「ん? ……うわっ」
     振り返った先、洋館の内部。窓ガラスの向こう側にびっしりと並んだ謎の影が手を振っており――不気味に思った一は全力で見なかったフリを決め込む。
    「どうしたんじゃ?」
    「いや、な、何でもない。早く帰ろうぜ!」
     気付いていない篠介が首を傾げるが、一は首を振って仲間達を促した。
     それよりも、帰りを待ってくれている皆に今日の不思議な探検をどう話そうか。
     共に戦いを潜り抜けた仲間達のことを大切に感じながら、一行は廃遊園地をあとにした。

    作者:犬彦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月9日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 7/キャラが大事にされていた 0
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