●望まぬ独裁
荒れた森のままでは紅茶が濁ってしまうから、雰囲気を損なわぬ庭園を造ることにした。
紅茶と一緒に花の香りも楽しみたい。そうだ、花壇を植えよう。
水のせせらぐ音が欲しい。ならば、中央に噴水を設置しよう。
地面に座ってお茶をするのは無作法だ。――それなら、花壇の傍にテーブルセットを置こう。
誰も立ち入ることのない。踏み込むことなど無いだろう、『西洋かぶれ』に相応しい庭園。
……けれど、どうして?
秋風が涼しさと共に噂を運んでしまったのか、知らない誰かが庭園へ訪れる。
「まあ。このケーキ、とっても美味しいわね」
「そう? 良かった。頑張って手作りしてみたの」
夕暮れ時、彼女等は友人を引き連れてやって来た。
西洋かぶれと呼ばれ続けた自分のように、独りぼっちではないのだ。
お互いが持ち寄った茶菓子や紅茶を褒め合い、理解し合い、会話を弾ませ、仲睦まじく。
――ああ、あれが、本当のお茶会というものなの?
瞬間。鎌の刃が振るった一閃は花を散らし、紅茶が淹れられたティーカップを断ち切った。
談笑が潰え、響き渡るは甲高い悲鳴。
汚れたテーブルクロスから滴る紅茶は水たまりを作り、暮れゆく夕陽と――独りの少女の泣き顔を映した。
●伝わる毒彩
「或る庭園でお茶会を楽しんだ女性達を襲う『西洋かぶれの有子さん』――という都市伝説の灼滅をお願いします」
五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は軽く頭を下げ、話を切り出した。
「西洋かぶれ……ですか?」
全員分のティーカップを用意して紅茶を淹れながら、神前・ミランダ(朝露の歌・d18727)が訊ねる。
『西洋かぶれ』――西洋文化が日本へ知れ渡った現在では、あまり聞きなれない言葉かもしれない。
姫子はミランダからティーカップを受け取った後、彼女の問いにゆっくりと頷いた。
「散切り頭を叩いてみれば、文明開化の音がする……という言葉はありますけれど、その音が日本中に響き渡るまでには、少なからず偏見もあったのだと思います。
生前の有子さんは西洋文化を愛していたようなのですが、周囲の人々はその趣味を理解できず、彼女のことを『西洋かぶれ』と蔑んでいました。
故に有子さんは毎夕、誰も立ち入らない森の奥でひっそりと紅茶を楽しむようになり――いつの間にやら、森奥へ行ったきり行方不明になってしまったのです」
都市伝説の境遇をひとまず語り終え、姫子は紅茶の香りを楽しんだ後に口に運んだ。
温かなアールグレイが喉を潤し、心に癒しをもたらす。
ほっと安らかに一息零し、姫子は説明を続けた。
「都市伝説と化した有子さんが標的にするのは、『仲良くお茶会を楽しんでいる女の子達』のようです。
その性質を利用して彼女を誘き出すには、最低でも女性は二人ほど必要かもしれません。
有子さんは出現する際、奇襲を掛けてくると予想されますのでどうかご注意ください」
都市伝説が姿を現せば、男性陣と合流して戦闘を仕掛けると良いだろう。
相手は一体。戦闘能力も鎌を用いた単純な攻撃がほとんどだが、どうか注意して戦って欲しいと姫子は補足する。
「都市伝説と化した有子さんが出現する庭園も、人々の噂話によって創り出された産物です。
有子さんを灼滅すれば、庭園も一緒に消失するかと思います」
都市伝説が灼滅されたら、後に残るのは荒れ果てた森の姿のみ。
華やぐ庭園を壊してしまうことになるが、致し方ない事だろう。
するとその時、静かに説明を聴いていたミランダが、翠の眸を揺らしてそっと口を開いた。
「姫子さん……その有子さんは、誰かとお茶会を楽しみたかったのでは……?」
対するエクスブレインは目を伏せ、紅茶の最後の一口を飲み干してから静かに告げる。
「そうですね……心が荒れた有子さんは、自分自身の心すら知らないままなのかもしれません。
もし皆さんと出逢って、最期に彼女の心が潤うことができるのなら――とても、素敵なことだと思います」
そう一つの希望を溢したのち、改めて姫子は灼滅者達へ頭を下げた。
参加者 | |
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シェリー・ゲーンズボロ(白銀人形・d02452) |
シェレスティナ・トゥーラス(夜に咲く月・d02521) |
室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135) |
虚中・真名(緑蒼・d08325) |
彩辻・麗華(孤高の女王を模倣せし乙女・d08966) |
五十嵐・匠(勿忘草・d10959) |
モア・ミュー(星綴・d18442) |
神前・ミランダ(朝露の歌・d18727) |
●秋めく森にて
ひゅう、と吹き込んだ涼やかな風が、テーブルに敷かれたレースのクロスを揺らす。
心地の良い秋日和の下、森奥の庭園では少女達によるお茶会の支度が始まっていた。
噴水の周りを囲むように飾られているのは、カボチャを型どった幾つものランタン。それらの灯火や暮れる太陽に照らされ、噴水の水面は光を帯びてきらきらと揺らいでいる。
「素敵な庭園……このような場所で、お茶会ができるなんて……」
改めて庭園を眺めながら、神前・ミランダ(朝露の歌・d18727)は溜め息と共に想いを溢す。
周囲に咲き乱れる花々を見渡し、澱みなくせせらぐ水の音に耳を澄ませた。
無意識に鼻歌を奏でつつ、テーブルに広げたのは人数分の焼菓子やティーセット、様々な種類の茶葉。これ等はミランダが今日という日の為に持参したものだ。
アンティーク調の英国陶器や、純銀のカトラリー。持参してきたそれ等をテーブルに並べる室本・香乃果(ネモフィラの憧憬・d03135)は、自然と穏やかな笑みを湛えている。
お茶会を愛しているからこそ、心から楽しく感じるのだ。こうして皆と共に準備をする時間をも。
テーブルの中央に花を生けた花瓶を置いた後、香乃果は甘やかな香りを仄かに感じ取る。
振り返ってみると、シェレスティナ・トゥーラス(夜に咲く月・d02521)がタルトをテーブルまで運んできていた。
「わあ、さくらんぼのタルトですか? とっても美味しそう」
「うん、キルシュクーヘンって言うんだよ。ドイツでお馴染みの焼き菓子なんだー」
手作りしてきたんだよ、とシェレスティナは少しばかり胸を張りながらも笑顔で談笑する。
庭園の周りに照明を飾り終えたモア・ミュー(星綴・d18442)は、手際良くティーカップに紅茶を淹れていた。
王道たるダージリン・ティーの中でも選りすぐり、用意したのは秋摘みの上質な茶葉。
瞬く間に香りが広がり、テーブルを彩る茶菓子の存在も相まって、さらに空気が華やいだような気がした。
まるで、この庭園という空間そのものが喜んでいるかのような――。
「後は、有子さんがこの席に着て頂ければ完璧ですのに」
お茶会の準備も整ってから、彩辻・麗華(孤高の女王を模倣せし乙女・d08966)がぽつりと呟く。
麗華の視線の先にあるのは、ぽつんと空いた一つの席。
五十嵐・匠(勿忘草・d10959)がその席に、『有子様』と記されたネームプレートをそっと置いた。
「(――独りで飲むお茶というのは、悲しいね)」
ふと、匠は想う。この庭園が生み出される前、荒れ果てた森の中で過ごした『彼女』の孤独はどれほど心細いものであったか。
ぼんやりとした彼女の無表情の裏で、匠は心から『彼女』の幸せを願っていた。
一方、何処から『彼女』が出現しても対応できるよう、虚中・真名(緑蒼・d08325)が物陰から庭園の様子を窺っていた。
麗華が名前を呼んでから、徐々に強くなっている気配。しかし、ハッキリと姿が認識できるまで油断は禁物だ。
身を構え直し、再びよく目を凝らす。――すると、ぼんやりと小さな人影が音もなく顕現される。
庭園に飾られた幾つもの照明は、背後から忍び寄る『彼女』の影法師を浮かび上がらせていた。
「――ッ! シェリーさんの後ろからです!」
真名が声を張り上げる。都市伝説『西洋かぶれの有子さん』は、今まさにシェリー・ゲーンズボロ(白銀人形・d02452)の背中を切り裂こうとしていたのだ。
鎌の刃が大きく振り下ろされた、その刹那――彼女の貌は崩れることなく、柔らかく微笑んでいた。
彼女はその奇襲をしなやかに受け流す。有子の一閃は大きく逸れてしまい、花壇の花弁が僅かに散っただけで被害は済んだ。
狼狽している様子の有子に対し、シェリーは優雅に頭を下げたのちに落ち着いた声音で語りかける。
「有子さん――だね? みんな、君を待っていたよ」
●きみが望んだ午後のひととき
『私、を……?』
まさか彼女自身、好意を以て歓迎されるとは予想だにしていなかったのだろう。
シェリーの温かな言葉に驚きながらも、有子は灼滅者達を睥睨する。
どうやら言葉は通じているようだが、すぐに警戒を解いてはくれないらしい。
それを見かねて一歩、控えめに前へと出たミランダも礼儀正しく一礼し、有子をお茶会へと誘う。
「有子さん、いらっしゃいませ。私達と一緒に、お茶会……しませんか?」
「此処には貴女とお茶会する事を心待ちにしてる者ばかり。――さあ、美味しいお茶とお菓子をどうぞ」
『お茶、会……』
辿たどしく単語を反芻する有子に、香乃果も深々と頷きながらテーブルを手のひらで指し示す。
『……!!』
我を忘れて有子は息を呑んだ。ちょっぴり贅沢に揃えられた紅茶や茶菓子、そして食器から飾り付けに至るまで。
寂れた空間で紅茶を啜っていただけの彼女にとっては、余りに新鮮に感じられたのだろう。
「西洋文化はとても素敵だと思うよ。アンティーク食器で飲むお茶は、格別の美味しさだろうね」
皆で持ち寄ってきたんだよ、と匠はさりげなく補足する。
ちらりと有子に視線を向けると、其処にはただ瞳を輝かせる年相応の少女の姿があった。
「(西洋かぶれ、かー……。今はどこでも自国の存在を感じ取れるようになったら、ある意味いい時代なのだと思うけど――)」
有子の表情が和らいでいく様子を見守りながら、シェレスティナはふと想いを馳せた。
難しいことまでは分からないけれど、きっと眼前の少女の時代では相容れない事もあったのだろう。
けれど、これで皆と一緒にお茶会を楽しむことができる。
シェレスティナがほっと安堵の息を吐こうとした――その時。
『ああ……違う。私は、……一人だ……ッ!』
悲痛な声と共に、有子は大鎌を大きく旋回させた。
前衛に属す5人の灼滅者達が突風に巻き込まれる――だが幸いにも、危険を察知した殲術道具が自動的に解放されいた為、5人の傷は浅い。
都市伝説となって重ねてきた過ちは、彼女自身の本心を塗り替えるにまで至っていたのだろう。
然れど、灼滅者達と出逢えたことで、有子は本来の自分を取り戻しかけている。
彼女を縛るのは、人々の噂話が生み出した負の思念。それを弱める為には、やはり――。
「戦うしか、ないのですね……。待っててください、有子さん」
光を宿したアズライトの眸で、香乃果は確りと前を見据える。
彼女の細い腕を鎧う縛霊手が大きく伸び、殴打と共に霊力を放って有子を捕らえた。
「(有子さんを攻撃したくないのが正直な所ですが……結末は、私達が伝える想い次第ですね)」
澄んだ青い瞳を閉じ、モアは胸に下げたロザリオへと祈りを込める。
願うは有子の救済。彼女の心を満たし、笑顔で楽しいひとときを過ごせるように。
モアの華奢な身体からは想像もつかぬ程の膂力を以て、異形化した鬼の腕は有子を大きく地面に叩きつける。
「匠さん、お願いします――!」
「任せて。ろくたも、頼んだよ」
モアの掛け声に応じ、匠が霊犬の六太へと指示を送る。
両手に光を纏って飛び込み、目指すは有子の懐。拳を幾度も振るいながらも、匠は静かに語りかける。
「あなたは一人ではない。少なくとも、ここにいる皆は有子嬢と一緒にお茶を楽しみたいと思っているよ」
『そん……なッ……』
有子の口から、掠れた声が漏れ出した。まるで信じられないとでも言うように再び頭を横に振った。
否定の代わりに再び、大鎌を振り回して激しい風を起こす。
然れど灼滅者達は真っ先に灼滅をしようとはせず、出来うる限りの声を投げかけていた。
――しかし、灼滅者達の声は決して無駄な行いではない。
有子は幾度も攻撃を繰り出し続けたが、次第にその手は弱まっていったのだ。
ここまで戦闘が長引かなかったのは、灼滅者達が初めから彼女へ好意的に接すことを選択したおかげだろう。
結果として、有子は自分自身が抱く本来の想いと向き合うことができたのだから。
「西洋かぶれが何ですの。私は寧ろ、敬意を感じますわ」
艶やかな黒髪と真っ白なドレスを翻し、凛とした瞳のまま有子を見据えるのは麗華だ。
時代は変わった。今や西洋文化は、身近な存在として色んな人々に親しまれている。
こうしてこの庭園へ訪れ、お茶会をする女性達が居るのが何よりの証拠だ。
「有子さん……怯える必要はありませんのよ」
「それに……お茶会を楽しんでる人を傷つけて、君の気持ちは本当に満たされる?」
麗華の跡を引き継ぎ、シェリーが諭すように言葉を紡ぐ。
「本当に自分が望んでることは、ついさっき気づいたんじゃないかな。もう一度、よく考えてごらん」
答えは案外、すぐ傍にあるものだから――そう、イタズラっぽく微笑んだ。
からん、と音を立てて、有子の手から大鎌がこぼれ落ちる。
『……そう、だった。私、は……誰か、と……』
ゆっくり、ゆっくりと。都市伝説としてではない自らの本心を探って、負の思念に抗う。
「好きなことをしたいって気持ちは……大切です。どうか自分を、見失わないでください……」
有子の元へ駆け寄り、そっと肩を置いてミランダは語りかける。
誰に何を言われようと自分を持ち、好きなものを好きだと貫き続けた彼女が、とても素敵だと感じたから。
そして徐々に力が抜け、地面へと座り込んで頭を抱えた有子へと、真名がそっと手を差し伸べた。
「確かに……1人は寂しいですよね。だってさっき、僕も1人で隠れてて少し寂しかったですし」
都市伝説が出現する条件を満たす為と言えど、できることならばお茶会の輪の中に入ってみたかったのだ。
しかし、真名は確信していた。有子は心から、女性達を逆恨みしていた訳ではないのだと。
彼の手を取って、何とか有子はその身を起こす。戦意はいったん鎮まったようだが、身体はひどく衰弱してしまっている。
せっかくの手厚いもてなしを受けていながら、どうやら庭園の主はあまり長く出席できないらしい。
然れど、シェリーの力を借りてやっと席に座れた有子の顔は――すぐ傍の花壇に植えられた花以上に、明るい笑みを綻ばせていた。
●秋彩ティータイム
幸いにも、テーブルの被害はそれほど荒れてはいなかった。席に置かれたネームプレートが、ほんの少しばかり傾いた程度だ。
そして皆でテーブルを囲んで、真名と有子を交えてのお茶会の仕切り直しが和やかに始まった。
手前の皿に盛られていたのは、シェリーが焼いてきたスコーンだ。この季節に相応しく、リンゴとクランベリーがたっぷりと練り込まれている。
「ジャムやクリームを添えても美味しく味わえるよ。どう召し上がるかはお好みで――ね」
「こちらは秋摘みのダージリンです。まろやかで、深い味わいの中に甘みもあるんですよ」
淹れたばかりの紅茶をそっと有子の元へ置き、どうぞとモアが勧める。
小さくぺこりとモアへお辞儀をしたのち、有子は音を立てぬよう気をつけて紅茶を啜った。
染み渡るような温かさとコクを味わい、ほっと息を零す。
「僕もお菓子、用意してきたんです。そのまま食べても良いし、お茶に入れて砂糖代わりにもどうでしょうか」
真名はそう語りながら、カボチャの形をした陶器の蓋を開ける。中には小さな金平糖が詰め込まれていた。
わあと感嘆したのちに、有子は試しに1粒を紅茶の中へと沈めてみた。金平糖は宵空に浮かぶ星のように輝いて、ゆっくりと時間をかけて溶けてゆく。
そんな様子をじっと見つめて心を躍らせる有子の姿は、平凡な少女とそう変わりない。
一方、麗華は糖蜜パイもどきをテーブルに並べ、人数分に切り分けてゆく。
「糖蜜は用意出来ませんでしたけど……代用品でパイを焼きましたの。皆さんも、どうぞ召し上がって」
ざっくりとしたパイ生地と、糖蜜の代わりである蜂蜜と黒糖が濃密な甘さを醸し出していた。
「私はシブーストをご用意しました。今は秋……丁度、林檎の季節ですしね。是非召し上がってみてください」
香乃果もにこやかに手作りの一品を皆へ振舞った。
林檎の爽やかな酸味に、香ばしいカラメルのほろ苦さ。そして何より、一口頬張ればふんわりとした口溶けを味わえる。
まずはどれを食べようか――目移りしている有子は、色彩溢れる幾つもの焼菓子に視線を留める。
「これ、マカロンっていうんだ。見た目も味も、紅茶にぴったりだよ」
匠はそう簡単に説明し、淡い桃色のマカロンを一つ、口へと運んだ。
テーブルからはみ出してしまいそうな程に並べられた、何種類もの茶菓子たち。
しかしお茶会の場に9人も揃えば、それらもいつしか綺麗に平らげられていった。
有子はもはや『普通の少女ではない』――ということもあり、饒舌にお喋りすることはできない。
しかし、それぞれが持ち寄った茶菓子のレシピや美味しい紅茶の淹れ方などの話には、興味津々な様子で耳を傾けていた。
しかし、楽しい談笑に花を咲かせていたティーパーティーも――別れの時が、近づいていた。
都市伝説の灼滅するには、サイキックによるトドメが必要不可欠である。
苦しくもあったけれど、最優先事項は有子の灼滅だ。
「……有子さん。私、貴女と会えて嬉しかった。素敵なティータイムをありがとう」
香乃果は有子の手をそっと握って、心からの感謝を告げる。
時間の流れを感じさせない程に心地よく過ごせた、皆とのティータイム――このひとときを、決して忘れることはないだろう。
灼滅者達との別れを薄々と気づいたのか、いつの間にか有子の眸からは涙が一筋、溢れていた。
『私達……とも、だち……?』
「ええ……勿論です。私も、皆さんも、れっきとした有子さんのお友達ですよ」
だから、泣かないで――と、ミランダは有子の小さな雫を拭って、彼女の問いに答えながら笑い返す。
「では皆さん……それに、有子さん。宜しいですか?」
護符を用意した真名が、皆を見回して訊ねる。
ゆっくりと無言で頷く灼滅者一同と、頷いた後にうつむく有子。
覚悟を決めて、都市伝説『西洋かぶれの有子さん』へと導眠符を発動させた。
眠るように瞳を閉じて、サイキックエナジーで創り出した庭園と共に消えていく小さな都市伝説。
「生前、叶わなかった一時。秋の彩美しい綾衣をまとった木々の下でのお茶会――彼女もきっと、満足してくれたよね」
8人揃って森を出ようとする直前、シェレスティナの歌うような言の葉が風に乗ってふわりと消える。
荒れ果てた森の奥には、ダージリン・ティーの残り香が仄かに漂っていた。
作者:貴志まほろば |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年10月22日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 9/キャラが大事にされていた 1
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