歪んだ日常

     小川・晴美(ハニーホワイト・d09777)は、こんな噂を耳にした。
     『ダサすぎて着てもらえない水着達の怨念が都市伝説と化してしまった』と……。
     都市伝説は沢山の水着が人の形を取ったような姿をしており、なんやかんやする事によって、相手にダサい水着を着せてしまうらしい。
     しかも、都市伝説は相手を選ばす、それが子供であっても、老人であっても、気にせずダサい水着を着せてしまうようである。
     そのため、都市伝説が現れた地域は、視覚的に危険な状態にあり、見た者は両目を焼かれるほどの衝撃を受けるほど。
     もちろん、実際に目が見えなくなってしまう訳ではないのだが、『太ったオッサンに紐水着はあり得ない』、『筋骨隆々の漢が葉っぱ一枚で歩いているんだが……』と言った感じで、一度見てしまうとトラウマになってしまうほどのレベル。
     しかも、水着を着ている者達は、都市伝説の催眠状態にあるため、その違和感には気づかず、街はカオス状態にあるようである。
     おそらく、都市伝説が確認された地域を歩いていれば、都市伝説が現れると思うが、ダサい水着を着せられてしまう覚悟だけはしておいた方が良いだろう。


    参加者
    蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)
    佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)
    小川・晴美(ハニーホワイト・d09777)
    九重・木葉(贋作闘志・d10342)
    加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)
    氷野宮・三根(神隠しの傷跡・d13353)
    篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)
    月詠・哲弥(ホークアイ・d21289)

    ■リプレイ

    ●譲れない思い
    「ダサい水着の供養って話を聞いてきたのに、何で人に危害を加えるレベルの変態に仕上がるのかしら……」
     小川・晴美(ハニーホワイト・d09777)は納得のいかない様子で、仲間達と共に都市伝説が確認された場所に向かっていた。
     都市伝説が確認されたのは、これと言って特徴のない街の通り。
     故に、誰もが気にも留めずに、行き来している場所であった。
     今のところ、都市伝説が人に危害を加えるようになった理由は分かっていないが、噂が広まっていく過程で尾ひれがついた事が原因である可能性が高かった。
    「……とは言え、老若男女かまわずダサイ水着を着せて回る都市伝説って迷惑だよな」
     ダサい水着を着た自分自身の姿を想像してしまい、月詠・哲弥(ホークアイ・d21289)が青ざめた表情を浮かべる。
     もしも自分が思い浮かべていたような水着を着せられたら……、シャレにならない。いや、それならばまだ救いがある。もしも、それ以上にダサくて恥ずかしい水着を着せられたら……。
     想像するだけでも、鳥肌が立ってきた。
    「羞恥心と言うのは見られるから感じるのであって、影が薄いならだいじょ……駄目です、自分を騙せません」
     そう言って加賀見・えな(日陰の英雄候補生・d12768)が恥ずかしそうに頬を染める。
     しかし、誰も気づいていない。
     そのため、『ここにいますよ』と手を振ってみたが、やはり誰も気づいてくれなかった。
     もしや、自分は霊的な存在では、と思った事もあったが、そんなはずはないので、おそらくみんな気付いていないだけだろう。
    「こんな事もあろうかと、服の下に水着を着てきました! 私服がダサいといわれ続けてきた私の、ここが勝負所……! しかも、水着が暴れている近辺では高度なHENTAIが見られるようですし、中には堂々と紐水着や葉っぱを着用されている殿方もいらっしゃるとか……。これはカメラとスケッチブックを用意せざるを……ゴホン」
     途中で仲間達がドン引きする音を聞き、佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)が小さくコホンと咳をした。
     危うくまわりの空気も気にせず、己の欲望に身を任せて、取り返しのつかない事態を招くところであった。妄想臨界点を突破したら最後。仲間達を置いて妄想の海へとダイブしてしまうところであった。
    「それにしても、ダサい水着を着なければならないなんて……。背中がでるのは断固として拒否なのです!! 女の子は可愛い水着じゃないといけないのです!!」
     半ばパニックに陥りながら、氷野宮・三根(神隠しの傷跡・d13353)が頭を抱える。
     この時点で嫌な予感しかしない。嫌な予感がマイムマイムを踊っている。
     無言コインの如く危険なフラグを立てた音が、立て続けに聞こえてきた。
     そのため、このままではシャレにならないと思ったが、覚悟を決める以外に選択肢が残されていなかった。
    「なんという事でしょう、戦闘前に最大の試練です!」
     蒼月・悠(蒼い月の下、気高き花は咲誇る・d00540)は、戦う前から負けていた。そもそも、こんな戦いに勝っても嬉しくはないのだが、自ら負けを求めれば、どんなダサい水着を着せられるのか分かったものではない。
     悠は覚悟を決めた服の下に肌色ベースのワンピース水着を着込んできた。
     その上、ビキニ柄がプリントされているダサい水着。
     これならば、例え都市伝説であったとしても、『ダサい!』と思わず声を漏らしてしまう事だろう。
    「都市伝説に勝ちたければ、プライドを捨てろって事ね」
     篠歌・誘魚(南天雪うさぎ・d13559)が、キッパリと言い放つ。
     ただし、中途半端にダサい水着では、都市伝説は納得しない。
     それこそ、一瞬にして自らのプライドがズタボロになってしまうほど、ダサい水着を着せられてしまう事だろう。
    「んじゃ、もうちゃっちゃと終わらせて帰ろうか」
     そして九重・木葉(贋作闘志・d10342)は仲間達に声をかけて、戸惑う気持ちを吹っ切った。
     色々と思う事はあるのだが、ここで考えていても意味がない。
     それこそ、自らの恐怖心が目に見えぬ敵を作り出し、都市伝説との戦いで障害になる可能性だってあるのだから……。

    ●ダサい水着
    「こ、これは……!?」
     都市伝説が確認された現場に辿り着いた誘魚は唖然とした。
     そこにいたすべての人々がダサい水着を身に着けていた。
     しかも、都市伝説の催眠化にあるため、みんな自然。
     それどころか、まるでファッションショーの如く、堂々とした態度で街を歩いていた。
    「と、とにかく、みんなを正気に戻さないと」
     ハッとした表情を浮かべ、悠がまわりにいる人達に声をかけていく。
     だが、都市伝説の催眠が利いているため、悠がいくら説得しても、意味が分かっていないようだった。
     そのおかげで、悠がダサい水着を着ていても、全く驚く様子がなかった。
    「ククククッ……、無駄だ。ここは俺のテリトリー。故に、お前が何を言っても、無駄だ!」
     そう言って都市伝説が指をパチンと鳴らす。
     次の瞬間、まわりにいる人間達の恰好が、ダサい水着姿になった。
    「……あれ? 別に悪くないんじゃない? 宣伝柄だからよく見ないとわからないし」
     某食品会社の宣伝が入ったぴっちり競泳水着姿になった哲弥は、あまり驚いていない様子で首を傾げた。
     しかし、その言葉が逆に命取りとなった。
     いつの間にか、哲弥は象さんパンツを穿いていた。
     しかも、リアル路線の。
     自分でも何が起こったのか分からない。微塵も理解する事が出来なかった。
     もしかすると、単なる錯覚なのかも知れない。錯覚故に気づく事が出来なかったかも知れない。
     だが、この時点でそれを知る術はない。
    「あ、危ないところだったわ。まさか、こんなところでコレが役立つなんて……」
     晴美は内心ホッとしていた。
     頭、胸部、腰の三箇所に白いまんまる型の着ぐるみに近い水着を纏い、都市伝説の催眠に抵抗を試みてみたのだが、見事に退けて何の影響も受けていなかった。
     しかし、なぜだろうか。その瞳から流れ落ちる水の正体は。嬉しさと悔しさと恥ずかしさの狭間にいるような感覚。まるで、その三国がせめぎ合い、今にも滅び落ちそうな小国的な気分。
     そもそも、こんな事を誇ったところで、冷静になって考えてみれば、指をさされて笑われるだけである。
    「諦めるしかないよ、色々な意味で」
     赤白ボーダー柄のブーメランタイプの水着姿で、木葉が晴美の肩に手を置いて小さく首を横に振る。
     それは晴美にも分かっていた事だった。分かり切っている事だった。
     それでも、涙が止まらなかった。
    「これで色が紅白だったら、めでたいですね」
     一方、えなは囚人服のような全身を覆う緑と紫のストライプ水着になり、少し残念そうにした。
     その上、水着は体にラインがクッキリと出てしまう恥ずかし水着。
     だが、全体的に小さく纏まった体系であったため、恥ずかしさよりも、悲しさと虚しさを感じるのであった。
    「にゃー、これは催眠状態の方がマシなのではないのでしょうか、つらいのです。こ、この格好は……」
     黒と白の囚人ルック的な水着姿になった三根が、酷く困った様子で頭を抱える。
     出来る事なら、どこかに隠れて今すぐにでも着替えたいが、都市伝説の力が及んでいる限り、何度着替えても恥ずかしい恰好のままだろう。
    「でも、象さん……可愛いですよ?」
     そんな中、志織は象さんの水着姿で、不思議そうに首を傾げた。
     水着を見るまではダサいと思って拒絶反応を示していたのだが、実際に着てみると……悪くない。
     もしかすると、モデルが良いせいなのかも知れない。
     しかし、都市伝説は信じられない様子で、『な、何故だ』と呟き、目を丸くさせるのであった。

    ●都市伝説
    「こ、これはみんな夢です! こ、こんな格好しているのは、夢の世界だからなのですよ!! だから目が覚めたら、忘れていろなのです」
     三根が何度もそう自分自身に言い聞かせつつ、魂沈めの風を発動させた。
     その途端、まわりにいる人達が倒れ込むようにして深い眠りについた。
     だが、状況がよく判っていないため、ある意味で危険な賭けであった。
     もしも、彼らが来ている水着が幻ではなく、本当に着ているのだとしたら……その時こそ、本当の地獄を味わう時だろう。
    「はははっ、夢か。一瞬、ヒヤッとしたぜ」
     都市伝説は何処か安心している様子であった。
     ……とは言え、まだまだダサい水着のストックがある。
     サルマタ水着にふんどしスタイル、腹踊りタイプ
     これを着せられて、慌てふためく姿を想像すると、それだけで笑いが止まらない。
     もちろん、催眠効果によって違和感がないようにする事も出来るが、そんな事をすれば楽しみが半減してしまう。
     本当は強がっているだけなのだから、相手の化けの皮を剥ぐまで止められない。
    「泳ぎに行く時につけていく訳にはいかないけど、結構ぞうさん、気に入っちゃったな。パオーンしよ、パオーン。都市伝説さん、いいおもちゃをありがとう」
    「な、なんだと!?」
     哲弥の言葉に都市伝説が動揺した。
    「き、貴様、正気かっ!?」
     都市伝説には信じられなかった。信じる事が出来なかった。
     最初は強がりを言っているだけだと思ったが、哲弥の表情を見る限り、そうとも言い切れない。あの表情は間違いなく、心の底から喜んでいる。
    「ゾウさん、やっぱり可愛いです」
     そう言って志織がてへっと笑う。
    「そ、そんなはずは……。あ、あり得ない! ひょっとして、俺は無意識のうちに、アイツらを催眠で……いやいや、そんなはずはない。だったら、マジか。本気か。あり得ない」
     都市伝説は現実を受け入れる事が出来ずに崩れ落ちた。
    「―ふっ切ってもさ、やっぱダサいもんを強制されて嬉しい、わけが、ないでしょ普通」
     それが木葉の本音であった。
     途端に都市伝説の顔がぱあっと明るくなったが、その顔めがけて木葉が閃光百裂拳を叩き込んだ。
     都市伝説は何が起こったのか分からず、口をパクパク。
     必死になって自分の身に降りかかった出来事を理解しているようであったが、それよりも早く晴美が放ったご当地ビームが炸裂した。
    「こんな目にあわせて……万死に値します! 地獄の底で悔い改めなさい!」
     すぐさま悠が都市伝説の懐に潜り込み、近距離から斬影刃をぶち当てる。
     一瞬、都市伝説が地獄に行けるのか疑問に思ったが、その答えを出す間もなく都市伝説が消滅した。
    「終わった……ようね」
     都市伝説が消滅した事を確認した後、誘魚がホッとした様子で溜息を漏らす。
     やはり単なる錯覚であったらしく、都市伝説の消滅と共に、服装が元に戻った。
    「は、恥ずかしい……!」
     だが、えなはその事に気づかぬまま、両手で顔を押さえて、その場を後にするのであった。

    作者:ゆうきつかさ 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月1日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 0/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 7
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