『G』との遭遇

    作者:九連夜

     ベッドと小さなタンス以外には何も無い、殺風景な部屋。
     汚く乱れたベッドの上に同じような薄汚れた普段着のままで横たわるのは高校生になったかどうかぐらいのまだ若い娘だ。両目を閉じて寝息を立てる娘の胸の上には新書版ぐらいの大きさの奇妙な機械があり、赤や緑や黄色のランプを不規則に明滅させている。
    「あはははは!」
     唐突に、娘が眠ったまま笑いだした。寝言というには若干けたたましいその声とともに、年頃の娘としては妙にすさんだ感じの顔つきがさらに歪む。
     そして。
    「あははははは! はは! はは!」
     夢の中の娘は、現実と変わらぬ顔で笑っていた。暗い部屋の中で笑いながらスライムを踏み潰し、巨大なキノコのような姿のモンスターを手にしたナイフでえぐって体液を撒き散らす。
    「バケモンだろうが人間だろうが……」
     返り血ならぬ緑の体液で汚れた自分の凄惨な姿を気にする風もなく、足元で断末魔のような痙攣を続ける軟体物質に娘は足を振り下ろした。
    「アタシに逆らうヤツは容赦しねぇんだよ。わかったか、このクズモンスターが!」
     振り下ろした足の下で粘液が飛び散り、スライムの残骸が完全に動きを止める。それから数秒、周囲の空気が一気に変わった。世界が暗転し、続いて仄暗い光のなか、何かの影が前方に映る。
    「次のステージってか? なんでもこいよ、たとえ先公だろうがクソマヌケな先輩だろうがまとめてぶっ殺して……ああ?」
     禍々しい笑顔を浮かべた娘の表情が凍り付いた。
     カサカサ。カサカサ。
    「え……ちょ、ちょっと」
     カサカサ。カサカサ。カサカサ。
    「まて、まてって、まさか、いや」
     カサカサ……ガサ!
     乾いた奇妙な音と共に娘の前に姿を現したそれは、妙に黒光りする平たい全身を持っていた。前に突き出した二本の触覚がぶいんぶいんと揺れていた。しかも本州四国九州の台所で時折目撃される通常のそれより、当社比20倍ほど大きな姿だ。
    「い……」
     カサカサっとさらに闇の中から黒いお仲間が出現、合わせて4匹。
     完全に凍り付いた少女の足元に這い寄る混沌もとい黒く平たい何かは一瞬動きを止めると、いっせいにその羽を広げて空中に飛び上がった!
    「いやぁぁぁっっっ! くるなぁぁぁっっっっ!」
     そして夢の中に絶望的な絶叫が響き……。
    「皆さん、『G』が出ました……ではなくて、『HKT六六六人衆』に関する予測が出ました。対処をお願いします」
     五十嵐・姫子(高校生エクスブレイン・dn0001)は何やら妙な表情で言い間違いを訂正しつつ、集まった灼滅者たちに向かって軽く頭を下げた。
     彼女が言うには、博多で謎の機械を受け取った人間が悪夢に囚われる事件が起きているらしい。事件を起こしているのはシャドウの協力を得た六六六人衆で、HKT六六六人衆の研修生となった一人の娘に悪夢を見せて、新たな六六六人衆を誕生させようともくろんでいるらしいのだが。
    「悪夢の正体は殺人ゲームです。最初はスライムとかの軽い敵から始まって、最終的には本人にとっても大事な人間を夢のなかで殺させて、人としての禁忌を失わせて闇堕ちさせようというものです。自ら望んで悪夢を見ているその葛城・葉子(かつらぎ・ようこ)さんという方は、家庭の事情とかいろいろあってかなり荒れていて、問題無くゲームをクリアするかと思われたのですが」
     しかし彼女には強烈な弱点があった。姫子の言う『G』、すなわち北海道にはあまり出ないがそれ以外の日本各地にあまねく分布し、台所の片隅などの暗いところを音を立てて這い回り一匹見れば三十匹などと言われるアレだ。
    「夢の中で巨大『G』に遭遇したときの彼女の反応があまりに強烈だったので、いろいろデータを解析してみたところ……」
     幼稚園の頃、大きなGに追いかけられた→よちよち逃げ回ったあげく、柱によじ登って回避→仕返ししてやろうと振り返って「や~い、ここまでこれないだろう」と無駄に挑発→いきなりGが羽を広げて飛翔。顔面に激突→柱から落下して気絶。
    「とまあ、そんな感じのことがあったらしいのです。羽を広げて視界いっぱいに迫るGの姿は、幼心に本当に怖かっただろうと思います」
     怖いというかトラウマ確定だろ、と誰かが呟いた。苦笑を浮かべつつ姫子はなおも説明を続けた。
    「ともかく、敵として二番目に出て来た巨大『G』の前で彼女はパニック状態になっています。キレて暴れる余裕すらなく完全に戦意喪失状態ですので、代わりに『G』を倒して守ってあげて下さい。ただし」
     彼女が「助っ人キャラ」の皆さんに感謝だけして、調子に乗って次のステージ進めば本末転倒になってしまう。ここは戦闘を始める前に何らかの形で「説得」を行い、彼女にゲームをやめさせなければならない。
    「二度とHKT六六六人衆の誘惑に乗らないように更生させてあげるのが最善ですが、とりあえずはゲームを放棄させれば十分です。具体的な方法は皆様にお任せします」
     そこでちょっと間を置いて姫子は付け足した。
    「彼女を悪夢から解放したら、それを察知した六六六人衆がソウルボード内に現れるかもしれません。その場合は適当なタイミングで悪夢から撤退していただいて問題ありません。それではくれぐれもお怪我をなさらぬように……」
     軽く会釈をしてそこで話を打ち切ろうとした姫子に対し、灼滅者たちは出現する敵の能力に関する説明を要求した。
    「ああ、そうそう、夢のなかの『G』ですね。ええと、強さ自体は大したことはありません。でも這い回ったり這い回ったり飛んだり体当たりとか体当たりとか体当たりとか」
     ブツブツ呟きつつ視線を宙に彷徨わせかけた姫子は、そこでハッと気付くと慌ててもう一度頭を下げて表情を隠した。
    「その、嫌悪感と意外と大きな体力以外にはほとんど気をつけるべき点はありません。一匹見ればその影にもう一匹的な幻覚をちょっと見る程度です。ですが、その……なるべく早く片付けていただけるよう、個人的にもお願いします!」


    参加者
    笠井・匡(白豹・d01472)
    皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)
    狼幻・隼人(紅超特急・d11438)
    天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)
    椎名・澪(誰そ彼の朱・d13674)
    木元・明莉(楽天陽和・d14267)
    御印・裏ツ花(望郷・d16914)
    塚地・京介(タンパク質・d17819)

    ■リプレイ

    「いやぁっ! やめろ!」
     カサカサ。
    「く、くるな、くるなぁぁっっ!」
     カサカサカサ。
     自ら道を踏み外し、闇に身を投じた娘を正しき道に戻らせるべく、謎の機械を経由して悪夢の世界に入り込んだ8人の灼滅者たち。だが現実と夢の境界を突き破った瞬間に彼ら彼女らを迎えたのは、しゃがみ込んで目をつぶり耳を押さえた娘の絶望的な絶叫と、何か名状し難いというかしたくないモノが這い回る奇妙な乾いた音の合奏だった。
    「あれが噂のG……初めて見るな。よく掃除をしているから、家の中に沸いたことが無かったのだ。が……う、うむ、想像より……」
     視界が切り替わった瞬間に5メートル先を這い回るGの姿をまともに目撃してしまった天地・玲仁(哀歌奏でし・d13424)が呻くように言葉を洩らした。クールで通るその表情の口の端が微妙に引き攣っている。
    「まぁそんなに怖くは……ないけど、やっぱり殺虫剤とか効かないんだろうな」
     その傍らで同じ光景を見る椎名・澪(誰そ彼の朱・d13674)の表情もどこか退き気味で、語調にも現実逃避の色がうかがえた。
    「蟲…うざい…煩わしい…さっさと…燃やして…帰る…」
     一方、敵の姿を正面から見据えて正直な感想を口の中で呟いたのは皇樹・零桜奈(漆黒の天使・d08424)だ。無表情な顔にわずかに嫌悪の色が浮かんでいる。
    「ああ、とにかくとっとと終わらせよう。できれば色々と飛び散らないように!」
     笠井・匡(白豹・d01472)が激しく同意した。おそらく零桜奈以上の嫌悪感を浮かべているであろうその顔はゴーグルとマスクで完璧に覆われており、服装も口にしたくない汚れの発生を予想しての作業着だ。
     その一方で。
    「あーこんだけでかいと迫力あんなー」
     いきなり羽を広げて飛び上がり、目の前をかすめて飛び去るGをのんきに評したのは狼幻・隼人(紅超特急・d11438)だ。特に嫌悪感とかはないらしい。
    「スッゲェ……」
     さらに夢の中にダイブするのは初めてという塚地・京介(タンパク質・d17819)に至っては、材質の知れぬ床に無限の奥行きを持つ夢空間をあちこち見回しては感動の面持ちだった。視界の端を走り回り飛び回る巨大Gの姿もまったく気にしていないようだった。
     そんな仲間たちの様子を眺め、木元・明莉(楽天陽和・d14267)は小さく溜息をついた。極力Gを視界に入れないようにしつつ、しゃがみ込んだままの娘に声をかける。
    「とにかく、まずはゲームを放棄させないとな……おーい、大丈夫かー?」
     明莉の声に、初めて灼滅者たちの存在に気付いたらしき娘……葉子はこわごわと振り向きかけ、その途中で再び這い回るGの姿を目にしてヒッと小さな声を上げて再び目を固くつむった。どうやら一瞬見るだけでもダメらしい。
     ふう、と御印・裏ツ花(望郷・d16914)が続いて溜息をついた。
    「自業自得とはいえ、ここまで来ると軽蔑すら通り越して哀れに思えますわね。ほら皆さん、壁を作って差し上げて」
     裏ツ花の指図に従い8人とそのお付きの3体はぞろぞろ歩き、しゃがみ込んだ娘を取り囲んだ。それによってやや視界を遮られてGが見えにくくなったらしく、娘はこわごわと目を開けると裏ツ花たちを見回した。
    「何だ、あんたら……助けにきてくれたのか?」
    「それは葉子次第」
     零桜奈が娘を見下ろしつつ簡潔に答える。
    「一言だけ言わせてもらおう。やめるなら今、だ」
     澪が言葉に力を込めていった。そのまま叫ぶように本音を漏らす。
    「とっとと帰るぞ、俺も帰りたい! というか帰ります!!」
    「こら、正直も大概にしなさい。ともあれ」
     裏ツ花は胸を張り、指をピッと葉子に向かって突きつける。
    「このゲーム、これは貴女の力を利用とする者の罠ですわ。望んで見ている悪夢だとお思い? このGを見てもそれが言えるのかしら」
     葉子はしばしとまどい、身体を起こしつつ顔をしかめて問い返す。
    「あんたら、アタシの味方じゃねえのか? あんたらいったい何なんだ?」
    「そんなことはどうでもいい! 状況をよく考えろ! 増える一方だぞ、こんなのが!!」
     澪が鬼気迫る表情で葉子に迫った。2割は演技だった。
    「このステージで回避できたとして、この先こいつらの仲間がどんだけ潜んでると思う?」
     深々とうなずいた匡が完全防備のマスクを少し下げて放った言葉に、葉子は明らかに動揺した。それまで考えていなかったというよりは、考える余裕さえなかったらしかった。玲仁が淡々とした風を装いつつ、視線をGのいない方に向けて語った。
    「そう、1匹見たら30匹、それが奴らだ」
     零桜奈が軽くうなずく。
    「次のステージでは30×4の120匹と戦うことになるけど」
    「ちなみに俺らはあれが片付いたら全力で逃げるので、やるなら一人で頑張れ」
     そう言いつつ玲仁はわずかに身体をひねり、葉子の正面を空ける。視界を黒光りするものが横切り、葉子はヒッと声を上げて硬直した。
    「ちょっと油断したら生きたまま齧られるよ? こういう虫ってそういうもんじゃん?」
     匡が声の震えを隠しつつ無情に畳みかけると、葉子はそのままへたり込んだ。恐怖心が限界を突破したようだった。それでも持ち前の強気な性格が出たのか、弱々しくも悪態をつく。
    「お、脅すんじゃねえよ、こん畜生ども……」
    「お前、そーやって無駄な挑発とかするからゴキブリとか周りの人に攻撃されるんや。もうちょっと丸まってみいや」
     さすがにちょっと可哀想な気もしてきた隼人が、優しげな口調で訥々と語った。
    「このままだと人生総ゴキブリやで。そんなんでいいんか? ちょっと黙って我慢しとったらあの時のゴキだって飛んでこおへんかったかもしれんやんか」
    「……なんで、アタシの昔のことを知って……」
     エクスブレインの解析のことなど知るよしも無く呆然とした娘に向かって、明莉は穏やかに説得の言葉をかけた。ちょうど自分の背後で足を止めた(?)Gには極力意識を向けないようにしながら。
    「夢の中でもこんな事象が出てくるぐらいだ。現実でもあんたにとって乗り越えられない事ばかりがあったんだろうけど、このGの群れに比べたら大抵なんとか乗り越えられるんじゃないかな。頑張れよ」
     隼人が肩を竦める。
    「ま、いいや。諦めへんならここでどんどん増えるG相手や。諦めるんなら今回だけは駆除したる。どないするんや?」
    「この先進んだら当然どんどん強くて大きくなってくだろうなぁ……耐えられるか?」
    「Gに埋もれて死ぬが良い、ですわ」
     さらに明莉と裏ツ花の脅迫の言葉が重なり、娘は完全に戦意を喪失した。
    「わかった、わかったよ、アタシが悪かったって言やいいんだろ! ここでリタイヤするからさ……その、あ、アレを……」
     ちらりと目を向けて、こわごわと匡と澪の間の黒いモノを指さす。
    「よし、ようやく出番だなっ!」
     それまで説得にかかる面々を尻目に、一人で夢世界の中を駆け回ったりGにちょっかいをかけたりして遊んでいた京介が、パシンと拳と掌を打ち合わせた。
    「なーんか、ずっと見てたら可愛いく思えてきたっス。……ごめんな、お前ら」
     わしゃわしゃと震える触覚に向かって軽く頭を下げる彼に非難の視線を浴びせかけつつ、澪が向き直って皆に短く告げる。
    「やるぞ。極力短時間で片を付ける」
    「了解……そういや、暗ってG平気だったっけ?」
     明莉がお付きのビハインドに尋ねるも答えは無い。続いて敵に向き直った零桜奈がポケットからスレイヤーカードを取り出し。
    「ソノ死ノ為ニ、対象ノ破壊ヲ是トスル」
     呟きと共に、その身を戦いの装束に包む。
    「じゃあ始めるか」
     作業着の下で冷や汗の量が倍増するのを感じつつ、匡が手にした槍を構えたその瞬間。不穏な気配を察した4体のGは一斉に動きを止め、そのままカサカサカサカサっと這い寄ってきた!

    ●炎のG
     Gは素早かった。
     とても素早かった。
     灼滅者たちが襲いかかる前に、黒光りする硬質の背が、トゲだらけの脚が、その間を縦横無尽に走り回る。かすったところでかすり傷にしかならないが、しかしそれはただ存在するだけである種の強力な精神攻撃と化す。ちなみに4体は微妙に姿形が違い、仮に「クロG」「ワモンG」「チャバネG」「ヤマトG」と呼称するが、体長は小さなもので1m弱、大きいものは1.5mを越える。
    「くうっ!」
     ある意味、魂に食い込むプレッシャーを感じつつ、匡が槍を繰り出す。螺旋の軌跡を描いたそれは見事にチャバネGの横腹に突き刺さり。
    「!!!」
     匡は横っ飛びに飛び退いた。というか逃げた。プシュウと奇怪なクリーム色の体液が噴き出してきたのだ。
    「直接触るなんざゴメンだっ……! でも……」
     耐性効果を身に纏うため、明莉は嫌な予感を感じつつも歯を食いしばって地摺りのアッパーを繰り出す。ワモンGの顔に命中し、キチン質の甲殻が砕ける嫌な手応えと共に崩れかけたその顔から奇怪なクリーム色の(略)、明莉は思わず全力で手を振って手についたおぞましい液体を跳ね飛ばした。
    「分かっていたとはいえ……好きでこんな物と戦いませんわよ、まったく誰のせいだと」
     心底嫌そうな声と共に元凶の葉子をGを見るような眼で見、裏ツ花は己の影を伸ばす。そこに暗の放った霊力の奔流と、隼人の駆る霊犬のあらかた丸の牙が加わり、一気にチャバネGを包み込む。片方の触覚がもげ、奇妙な破砕音と共に二本の脚があり得ぬ方向に曲がったが、しかし。
     カサカサ。シャカシャカ。
     Gは大して気にした風もなく這い回り続けた。元から定評のある生命力は、その体格に合わせて確実に強化されていた。
    「G〜、こっちこっち」
     元気に走り回る京介が適当なGの脚を掴んではぶん投げるが、やはりさほどのダメージは無さそうだ。
    「早く墜ち……ちゃくれねえか。Gだしな」
     ナイフでなるべく体液を噴き出させないようにクロGの解体を試みつつ、澪が呟いた。
    「それなら炎で体力を削る…レーヴァテイン…」
     即座に戦法を切り替え、一歩踏み込むなり振るった零桜奈の一刀は過たずチャバネGに命中し、さらに玲仁と隼人の炎の弾丸の掃射の競演によって、ワモンGとヤマトGも同時に燃え上がる。
    「……って、あれ?」
     だが危機を感じたのはGも一緒だったらしい。隼人が見入る前で、炎に包まれた3体のGは一斉にその羽を広げて。
    「落ちつけ落ち着くのだあれはただの虫取って食われるわけではないが来るなッ!」
     玲仁の自己暗示の叫びも虚しく、一斉に宙に舞い上がり。
    「あ、飛ぶとかズリぃ!」
     のんきな京介の声が響く中、火の粉とキチン質が燃える嫌な匂いと傷から漏れる体液と、その他よく分からないものを上空からばらまきつつ灼滅者たちに襲いかかる。
     悪夢の空間は阿鼻叫喚の地獄と化した。

    ●決着と改心(?)
     そして十数分後、惨状はさらに拡大していた。
     物理的なダメージはほとんどない。あっても玲仁が発する風や歌が即座に皆の傷を癒してしまう。削られているのは、むしろ皆の「やる気」という意味での精神力だった。
    「このっっ、無礼者っっ!」
     気持ち悪くしつこい敵にブチ切れ気味の裏ツ花が、手にした杖で足元に這い寄ってきたワモンGを叩き潰す。すでに脚の4本が千切れ飛び、羽の半分が剥がれ体液をジクジク染み出させているが、それでもGはなお生きていた。
    「いい加減に……しろって……お?」
     目の前に飛んできたチャバネGのおぞましい顔(?)のアップに一瞬気が遠くなりつつも、匡は持ち替えた杖を逆手に握り全力で突き下ろす。グシャという嫌な手応えと共にGの頭と胴体が別れて四散した。
    「よし、やった! いける!」
     なおもピクピク動く脚を無視して声を上げると、仲間たちが一気に活気づいた。無尽かと思われたGの生命力の限界が見えたからだ。
    「よっしゃ、俺もやったるわ。殺虫パンチッッ!!」
     隼人は這い寄る敵の動きをあえて無視し、右手に気を集中した。ヤマトGの腹への体当たりを気合いで耐え、光輝く拳を打ち下ろす。
     ぐじゃ。
     半分潰れた巨大Gの頭部と間近でご面会&その体液まみれの拳というある種の報復(?)はあったが、ついに二匹目のGも葬り去られる。
    「燃やして…帰る…」
    「同感だ」
     相変わらず表情を変えぬ零桜奈と、玲仁のタイミングが見事に揃った。玲仁が撒き散らす炎の弾丸の中を零桜奈が突進、再び羽を広げて炎の空飛ぶGと化そうとしたクロGは、零桜奈の刃に刻まれ、燃やされ、焦げた悪臭を周囲に広げつつその寿命を終える。
     そして残る一匹に皆の攻撃が集中する。
    「さっさと墜ちろ!」
     澪の一刀が胴を薙ぎ。
    「とうりゃ!」
     京介の投げが、残った3本の脚をまとめて引きちぎり。
    「仕合、終了!」
     明莉が手にした湯もみ板が、宙に浮いたチャバネGの胴体を見事に輪切りにし、そして全てのGがバラバラになって床に散らばった。
     数秒後。
    「お……終わった?」
     戦いの物音が消えたのに気付き、それまでひたすら屈んで目と耳を塞いでいた葉子が身体を起こした。
    「…終わらせた」
     零桜奈が冷静に事実を告げる。
    「本当に終わったんだな? もういないんだな?」
    「ああ、この通り」
     念を押す葉子に対し、軽く答えた京介が床から何かをひょいと拾い上げる。
    「こら、やめ……」
     彼が何をしようとしているか気付いた明莉が止める間もなく。
    「ほら、カワイイっしょ?」
     でん。
     こわごわと振り向いた葉子の面前に、京介は潰れかけのGの頭部を笑顔で突きつけた。
    「…………」
     娘は顔を背けなかった。言葉すら発しなかった。ただ両の目の玉が綺麗に裏返り、そのまま仰向けにぶっ倒れた。
    「あれ? どうしたの?」
     京介が軽く腰をかがめて突っつくが、葉子は白目を剥いて地面に横たわったままピクリとも動かない。ただの気絶というより悶絶とか昏倒とか表現すべき状態だった。
    「んー、そんなに怖いかな、これ。汚いから嫌だってならわかるけど」
     京介は首を傾げると巨大Gの生首(?)をつくづく眺め、わからないな~という風に空いた方の手で頭を掻いた。
    「まあいいや、とにかくこれで任務完りょ……」
     言いながら振り向きかけた瞬間。
    「『まあいいや』じゃねぇっっ!」(澪)
    「馬鹿ッッ、何考えてんだよ!」(匡)
    「お前、人としてやっていいことと悪いことがあるだろう!」(玲仁)
    「女の子になんてことするんですの、この鬼畜!」(裏ツ花)
     なぜか仲間たちから蹴りと拳まじりのツッコミを受けた。

    ●20倍
     かくして闇に堕ちかけていた娘は灼滅者たちの導きによって己の選択の過ちを悟った。彼女が再び闇への道を歩む可能性はもはや無く、その魂の更正を願った8人の目的は見事に達成されたのだ。
     ただし、まだ若く未来のある娘に『G』への当社比20倍のショックを叩き込み、おそらく一生消えないだろう激烈なトラウマを負わせたことが、人として許されるのかどうかはまた別の話だが。

    作者:九連夜 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 2/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 12
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