ディメトロドン~脊椎尖鋭バズソー~

    作者:那珂川未来

     古いトンネルの中へと、中年夫婦が歩いていく。
     辺りに民家もないただの山道だが、この時期だけ人の通りが目立つようになるのは、紅葉が美しいからだろう。
     さほど長くはないトンネルの中、酷く猫背の男が向こう側から歩いてきていた。
     夫婦は、自分達と同じく紅葉を見に来た人間だと思っていたのだが――なんだろうか、彼の背に波打つように揺れている細い棒の連なりは。
     そんな疑問を抱いていくらもせず、シャーッと蛇が威嚇したような音がトンネル内に響いた時には、目の前にありえないほどの速さで接近していた件の猫背の男――まるでハ虫類のような体温の感じさせない肌の色と、鋭く尖った瞳孔と。
     そして、背骨に沿って並ぶ鋭い針の様な骨の羅列。
     ああそれは、古代生物ディメトロドンのような、脊椎のディスプレイが生えていて――。
    『ぎゃっ、ぎゃぎゃっ!』
     男は爛々と目を輝かせ、夫人の首にかみつくなり、ぶんと首を振った。
     引っ張っただけで、内臓がべろりと引きぬかれるなんて、そんなことありえるのだろうか。
    『まっじぃ肉だなぁ、おい』
     ペッと食いちぎった肉を吐き捨て、脊椎より生える刃をゆらりと波打たせた。
     未だ租借を続けている目の前の男を凝視したまま、そんな意味のわからない現実に、夫は恐怖のあまり思考停止し、呆然と立ち尽くし、そして。
     レイピアのように突きだした背骨の椎弓、それ一本一本に、さらに細かな刃が高速で動いているのだと――夫が理解できる間もなく、綺麗に真っ二つになり、暗いアスファルトの上に横たわった。
    『ぎゃ、ぎゃぎゃ。旨味もねぇ』
     べろべろと手に付いた血を舐めると、爬虫類が鳴くような声で笑いながら、また猫背の男――ダークネスはふらふらと歩きだした。
     更に山を登ってくる、老夫婦の影を見つけて。
     
    「六六六人衆が、とある山のトンネルに現れる」
     基本は机の上に座って依頼を語る仙景・沙汰(高校生エクスブレイン・dn0101)も、今日はきちんと椅子に着座して。固い顔つきからもわかる、今回の六六六人衆も強敵なのだと。
    「六六六人衆の名前はミゲル・バジョナ。序列六二六」
     沙汰によると、脊椎を変形させて、それを武器としている六六六人衆。脊椎の突起部分となる椎弓がレイピアのようにとがって背筋にたくさん並んでいるので、すぐにそれだとわかる。
     まるで太古の生物ディメトロドンを彷彿させる。
    「残念ながら、老夫婦が殺されてしまう未来は変えられなくて――。でも、後続で山を登ってくる別の夫婦は殺される前に何とか対処できる」
     そのタイミングは、老夫婦がトンネルの中へはいって10秒後。
     この瞬間に、トンネル内に入って老夫婦の飛び出し庇えば、なんとか命を守ることはできるらしい。
    「ミゲルの初撃を反らしたら、すぐにトンネル内から脱出させてあげないと、的にされる」
     戦闘班が抜けられないように注意することも必要だ。
    「ミゲルは鏖殺領域、黒死斬の他、騒音刃 、BS耐性を高めながら脊椎の刃で遠列を狙い、ドレイン効果のある遠距離攻撃を使用してくる」
     能力的にはかなり面倒なタイプだ。
     そして、トンネルという地形を利用して、壁や天井を使い狙いをつけてくることもだろう。
     爬虫類のように壁に張り付き、奇妙な声をあげて。
    「序列的に、上手くいけば灼滅できるかもしれない」
     しかし逃走には長けているのが六六六人衆。うまく追い込まなければ逃げられるだろう。しかし功を焦ったせいで後ろへ抜けられて、逃がしたはずの一般人が狙われるようなことになってもいけない。
    「難しい依頼だけど」
     皆が無事に帰ってくるよう、沙汰は祈りながら灼滅者を送り出す。


    参加者
    外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)
    黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)
    彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)
    夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)
    立見・尚竹(貫天誠義・d02550)
    聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)
    フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)
    阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)

    ■リプレイ

     薄青に紅葉が流れゆく山奥を、老夫婦が手を繋いで歩いている。
     ただ、危険へと飛び込んでゆくことを知りながら、今は見送ることしかできない焦燥感。
    (「六六六人衆め、相変わらずの悪行だな……」)
     険しい表情で、老夫婦の動きをしかと追う立見・尚竹(貫天誠義・d02550)。同時に敵の気配を掴むべく、草葉の影より覗いて。
     しかし、トンネルの中に六六六人衆ミゲル・バジョナの姿が見えない。きっと天井にでも張り付いているのだろう。
     だが姿が見えなかろうが、相手の攻撃ポイントが明確にわかっている以上、むざむざ殺させてしまうわけにはいかなくて。
    (「絶対に、守って見せるよ」)
     その強みを最大限生かしきろうと、彩瑠・さくらえ(宵闇桜・d02131)は、粛々と進む時と夫婦を重ね、最善の時に飛びだせるよう身構える。
     そして。
     蛇が威嚇する様な音が響くと同時に、バベルの鎖の隙間を掻い潜る灼滅者達。
     鮮血がオレンジ色の光の中を舞う。
    『ぎ?』
     灼滅者の登場にミゲルは目を見開いて。尖鋭な脊椎が尚竹の肩に深い切り込みが入ったものの、夫婦は無事。
    「彩瑠さん」
     尚竹が王者の風を展開し、夫婦の避難を優先。怪力無双で夫婦を抱え上げるさくらえ。即座にトンネル内から脱出する。
     尚竹から脊椎のバズソーを引き剥がすように、フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509)が斬りかかる。
    「その刃に掛かる犠牲者を増やす訳にはいかぬ!」
     刃をバックステップでかわすミゲルは、べろべろと顔に付いた血を舐めながら、
    『老い先短けぇ家畜逃がしに来たってか、半端モン共』
     音を立てながら口角が避け、鋭い奥歯まで露見させ威嚇するミゲル。人の骨格を持ち合わせているように見えるけれど、地を這えばそれこそ蜥蜴の如き敏捷性を発揮し、自分の横をすり抜けてゆく――そんな危険を、聖・ヤマメ(とおせんぼ・d02936)がひしひしと感じるほど、不気味な何かがミゲルにはあった。
    (「どんなことがあっても、後方へは絶対に行かせませんの」)
     カミの力を纏い打ちこみに入る黒洲・叡智(迅雷風烈・d01763)に合わせ、ヤマメは空間の隙間を埋める様に、蛇腹剣を振るって。
    「戦いを更に楽しむ為に一つゲームをしようでござる」
     攻撃の殆んどをかわしきったミゲルへと、堂々とした態度で阿久沢・木菟(灰色八門・d12081)は提案を投げかける。
     救出班から気を反らし、話術で時間を稼ぐつもりだと他の灼滅者も悟ったものの、すでに雪崩れ込んだ戦いは止まらない。もとより攻撃の手を止めるのも危険である。木菟も止む無しと判断し、戦闘を続行したままミゲルに誘いを入れる。
     ダメもとではあるものの、何らかの効果を期待して、木菟はアイテムポケットで事前に仕込んでおいた黒い箱を取り出しつつ、
    「拙者を倒すか闇落ちさせられれば、この中身やるでござる」
     持ち出した提案が闇堕ちゲームなだけに、驚いたものがいても不思議ではないだろう。
     木菟なりに、一般人を逃がし易くするため気を惹くための知恵を絞ったのだろう。ただ木菟自身が自己のみで完結させ、万が一の最悪な想定の責任を取るつもりだとしても、これによって戦の目的の方向性にブレが生じれば、チーム全体の作戦にも関わるし、そうなってしまった場合、残された者達の心情は辛いものになることを忘れてはいけない。
    『ぎゃぎゃっ! なんだぁ~? 群れなけりゃロクに戦えねぇ家畜の分際で、タイマン誘ってんのかぁ?』
     箱に興味もねぇし、片腹痛てぇと、ミゲルはそら可笑しそうに笑って。
     単純な挑発とはまた違う、ミゲルから言わせれば上から目線の提案など完全に無視。陰険な舞台の整っていないゲームなど、六六六人衆としてはつまらないのだろう。
    『喰われっしか先のねぇ哺乳類のくせによ! くだんねぇ中身ぶちまけてみろや!』
     箱の中身ごと腹裂く勢いで、木菟へと突撃するミゲル。唸りを上げ高速回転する脊椎に並んだ細かな刃が、左肩に深々と裂け目を入れた。腕が千切れなかっただけましなのかもしれないが、そのダメージは軽視できない。
    「みみずく様っ!」
    「くっ……」
     注意していても易々と攻撃が避けられない現実に膝をつく木菟。ヤマメがすかさず清浄な歌声を響かせている間、スナイパー陣がミゲルを縫い付けるように攻撃を繰り出すが。次なる刃も木菟へと。
     フランキスカが咄嗟に前へと飛び出して。黒死斬の一撃に、腱を切断され膝をつく。完全に一点突破の切り崩しにかかるミゲルの視界へと躍り出たのは、夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486)。
    「正直コッチは、六六六人衆でもアイツじゃねーってのがガッカリなんだわ」
    『あん?』
     耳に付けた因縁との繋がりが橙を弾く。
    (「殺し合いじゃ無けりゃ楽しめるんだけどな」)
     目の前が格上だとわかっていても比べてしまう。命を掛けているのに、心を震わすものがない。治胡の目は不気味で格上の相手を爛々とした目にも怯まず、
    「悪趣味さではイイ勝負だがな――だがどう比べてもアイツの方がテメーよか全然早ぇ。かかってこいよ、気色悪ィトカゲヤロー。その背ビレに風穴空けてやんぜ」
     そしてわざと、笑って見せた。
     挑発行為によって程よく気を散らせ、全体にダメージを分散させることで隊列維持を図る作戦はもともと組み込まれていた。治胡としては、これを繰り出すのも想定より早い。しかしここで出し惜しみする状況ではない。現状一人切り崩されるのは後ろに逃がすきっかけにもなりえるから避けたいところ。もちろん役目を簡単に手放すつもりもない。
     矢を番え攻撃してくるのかと思いきや、打ったのは癒しの矢。癒しきれなかった傷を補助。
     その虚を突いた様に、初手に受けた命中補正により磨きがかかった叡智の鬼神変。カミの力に増幅した一撃がミゲルの腹を穿った。
    「アンタの相手はボク達。OK?」
     まとめて相手できるんでしょと、叡智は相手の列攻撃を誘うように挑発を入れて。
    「その背ビレ。ちょーダサーい」
     にぃと嘲りを浮かべる外法院・ウツロギ(毒電波発信源・d01207)。敵に対しての小生意気な語調は、ウツロギのもともと性質でもあるのだろうが。
     世の中には、流れというものがある。
    「なのでいっちょ死んでみる?」
     挑発に自分も一枚噛んでみるウツロギ。どうせ分散狙うならそっちの方が効果的でしょ、だ。
     挑発というものは、場合によっては最悪な展開になりえなくもない行為。
     ただ少なくても今回は、最低限の目標が明確であり、それに対しての指針もあって、挑発が安易や軽率なものではなく目的を持って行っているからフォロー等が入り易く、作戦の致命的な隙にはなりにくいと思われる。勿論怪我はありえるが。
     ヤマメは格上相手に内心はらはらしつつ。自分はトンネルを抜けられないための要として在らなければならぬ役目。今は回復に専念するため、フランキスカへとシールドリングを飛ばす。
    「ちょっと立ち話でもしようよ」
     滑るように回り込み、黒死斬で斬りつけるウツロギ。ミゲルは鬱陶しいスナイパー陣を斬り払おうと、自らも高速回転させながら一直線に切り裂いてゆく脊椎のバズソー。
     ミゲルが六六六人衆として扱う得物であり、自身を誇示しているものが変形脊椎。それから繰り出される攻撃は、彼の最大の特徴であり得意技であるといえて。
     フランキスカが咄嗟にヤマメの庇いに入るが――想像していたより鋭い一撃。叡智は防具の恩恵もあってどうにか。どちらかというと一般的な六六六人衆とは真逆の能力値。
     叡智は意外性の中にも納得できる要素を感じながら、皆へと周知させて。
    『でかいこと言ってる割には、ヘタレなことばっかしてんじゃねっぜ!』
     矢を番えた治胡の腕に、腐臭纏うその牙を深々と差し込んで捻じり、食い千切ろうと力を込めれば。癒しの矢で補佐された反応力で、木菟が組み付きにかかる。
    (「跳ね回りを少しでも止められれば――重畳」)
     さすがに予定していたイズナ落としは相手の形状と序列的に至難だが、デッドブラスターを胸元へ零距離で押し込みながら瞬間的に体勢を崩そうと。
    「今でござる!」
     姿勢の崩れたミゲルへ、ウツロギの氷華撒き散らす一撃。叡智もミゲルの負けず劣らずの身軽さで外壁を利用しつつ鬼神変を打ちこまんと。
    『ぎっ!?』
     噴出する血が都度凍り付き、皮膚を割って。
     反撃に姿勢を低くしたミゲルが、驚いたように後ろへと跳ねた。
     一筋の矢が暗黒切り裂き、次いでカミの風がトンネル内の不浄を吹き飛ばす勢いで。
    「待たせたな、避難は完了した。この一矢が反撃の嚆矢だ! 貴様に『誠の義』見せてやる!」
     灼滅体勢へとシフトを済ませていた救出班が、すぐに前へと。
    「行くよ!」
     漆黒の気を纏い、さくらえが刃を解き放つ。
     今までは押され気味の防戦だったが、ミゲルの追い込める可能性が広がって。
    『ぎゃぎゃっ! 余計なの戻ってきたってか』
     攻撃をかわすと壁に張り付き、奇声をあげるミゲル。
    『そろそろテメーは屠殺してやっぜ』
     笑いながら、更に裂けてゆく口。本気で丁寧に始末していかないと面倒臭いと判断したようだ。
    「させぬ!」
     痛みに軽く息を上げながらも、フランキスカはサイキックソードを構え直し、先祖の名に恥じぬよう、間断なく刃を振るう。
    「すぐに手当いたしますの」
     メインの癒しを担う責任を全うするため。ヤマメは只管癒しの歌を織り成し続け、カミの力をも味方につけようと。
     トンネル内に一陣の風が吹き抜け、ヤマメの声に調和する。
    「祓魔の騎士・ハルベルトの名に於いて、汝を討つ!」
     強力な治癒の力に支えられ、フランキスカの怖れなくレーヴァテインの炎を打ち込む。
    『ぎゃっぎゃっ! 意気込みだけは認めてやっぜ!』
     広がる炎も嘲笑い、次ははずさねぇと、死肉を食んだ不浄の顎が木菟へと容赦なくめり込んで。
    「すまぬでござる……」
     初回から狙いを付けられていた木菟は、橙の光の元崩れ落ちる。
    『ぎゃーっぎゃっぎゃ!』
     齧り取った肉を壁に投げ付け、裂けた口に木菟の腹の皮をぶら下げながらミゲルは笑う。
     すぐに隙間を埋めようと、治胡が前へと走りだすのを叡智が確認。隙を突かれるのも心配だが、何よりあの爬虫類が戦闘不能者を追撃しない保証はない。
     地を蹴る。
     そして間合いへ飛び込み槍を旋回させて、
    「噛みつきたいなら来なよ。タダじゃヤらせないけどね!」
     闘いの流れに絶対はないが、予測できる対策は練っていたから。ポジションチェンジは危なげなく行えるよう。
    『家畜は大人しく屠殺されろや!』
     鬱陶しいと、薙ぎ払うように震えるバズソーの刃。今出来る最大の連携を駆使して、ミゲルを抑えようとヤマメが蛇咬斬を巡らせれば、そこにさくらえも加わって。
    「邪魔させませんの!」
    「今の自分に、できる限りのことを――!」
     治胡や、その進路を守る叡智へ返しの刃が来ぬように。二人が操る風、螺旋を描きトンネル内を揺るがせた。
    「触手プレイとかどうよ?」
     遅れて放たれた、ウツロギの影から伸びる揚羽蝶。漆黒巻きつきミゲルは奇声を上げる。
     その間に叡智は木菟の肩を引っ掴むと地を蹴って、安全圏へと投げ込んで。
    『家畜が偉そうによォ!』
     怒りに引きずられ、叡智を襲う異形の顎。続く攻撃はズタズタに切り裂こうとバズソーを唸らせるが。それを治胡が素早く受け止め、回復の要を守り切る。
    『ぎ……きぎっ』
     ミゲルは間違いなく追い詰められていた。耐性を高めても打ち砕かれ、積もる戒めに思うように立ちまわれなくなってきて。
     忌々しげに顔を歪めると逃走を図る。明らかに近い出口は、老夫婦の方向。ミゲルが様々な有利を考慮して選ぶのも当然だ。
     決して逃がさない、邪悪討つ可能性があるならば。叡智が黒死斬で阻止に走り、ヤマメがその隙間をフォローする。
    「出口間違ってるよ」
    「ここから先は行かせませんのね!」
     向かう先は生命の終焉。蛇咬斬にて空を封鎖するよう張り巡らせ。
    『ぎぎぎぎきっ! うぜぇうぜぇ!』
     ミゲルが変形脊椎を激しく震わせ口を開け、ヤマメの心臓を引きずり出してやろうと。
    「守れずして何が騎士か!」
     フランキスカは先に展開させた不死の炎を背にはためかせ、ミゲルの動きに合わせるかのように壁を蹴って。
    『うぜぇぇぇ!』
     ガッと鈍い音がして、フランキスカは吐血する。
     ずっと皆を守っていたのだ。むしろ今まで立ち続けたのは意思の強さ。
    「さっきの威勢はどうしたよ」
     逆に喰われるのは重々承知で、治胡もミゲルの阻止に掛かる。とにかく其処へ行かせないその一心で。そんな治胡もダメージは半端ではなく。吹き上がる血の炎が全身を覆うほど。
     燃え盛る獅子の前足が、下賤な蜥蜴を踏み潰すかのように振るわれる。
    「火蜥蜴ってか、似合いだぜ」
     弾ける炎に飲まれる蜥蜴へ嘲笑零し、やるならやれと。その代わり逃がしゃしねーと。
    『うっせぇ!』
     完全に背中まで貫いたミゲルの腕。
     ずるり。
     おびただしく零れ落ちる不死の炎の中へ落ちる治胡。
     しかし攻撃によって動きが止まった瞬間、
    「首チョンパ」
    『ぎ――!?』
     血に濡れ、もう半身がズタボロになっているというのに、ニィと笑うウツロギの顔が見えた時には、
    『ぎゃぁぁ!!』
     血管が噴火した。
     身を呈してミゲルを止め続けた結果、ウツロギの研ぎ澄まされたティアーズリッパーが、頸動脈を狙い通りに切り裂いたのだ。
    『クソッ! クソッ! このクソブタ共がぁ!』
     下衆らしく足掻き叫ぶミゲルへと、瞬間的に冴え渡る尚竹の剣技。
    「はぁっ!」
    『ぎひっ!?』
     鮮血が弾け、肉の色が浮く。
     今まさに薄くなった、来た道を引き返すしかもう逃走の可能性が見えないミゲルは、苦し紛れに内壁を破壊して、煙幕の中逃げようと。
    (「最後まで……諦めるものか!」)
     さくらえは紅蓮の引金に手をかけて。
    「この一矢必中させる――我が弓矢に悪を貫く雷を、彗星撃ち、轟雷旋風!」
     連携して、尚竹が気合いと共に弦を弾けば、輝きは暗雲打ち払い、下賤な姿をさらけ出す。
    「紅蓮に、散れ!」
     彗星轟き、漆黒の闇より堕つる紅の弾丸。
     弾ければ裂かせる、紅蓮の華。
     奈落に落ちてゆく様な錯覚の中、土煙に響くのは爬虫類の悲鳴。
    『ぎ……ぎぎっ……』
     排煙されてゆく世界に佇む影も、虚ろな光の中へ崩れ消えてゆく。
    「これが誠の義だ」
     尚竹は完全に消滅したことを確認して、得物を収める。
     さくらえは未だ両手に残る手応えを感じながら、はぁはぁと大きく肩を揺らす。そして無事勝利した安堵と、並々ならぬ覚悟のからの緊張から解き放たれ、べたりと冷たいアスファルトへと崩れる。
     思いのほか長期戦になり、疲弊激しかったが。
     それでも。
     自分達は、勝ったのだ。
     今はただ戦いに疲れたその身を休め、静かに流れる紅の世界を見つめた。

    作者:那珂川未来 重傷:夜鷹・治胡(カオティックフレア・d02486) フランキスカ・ハルベルト(フラムシュヴァリエ・d07509) 阿久沢・木菟(トレジャーハンター・d12081) 
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月30日
    難度:やや難
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 16/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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