諸君、ブルマだ! ブルマなのだ!

    作者:雪神あゆた

     新潟県のある中学校の教室。その教室にいるのは、少女一人だけだった。
     次の時間は家庭科で、同級生は先に家庭科室に向かっている。
     少女はロッカーの中を漁る。家庭科の授業に必要なものを出そうとして。
    「これは……何だ?」
     少女はロッカーにいつの間にか入っていた、紺の布を取り出す。それは――。
     見つめていた少女の目が、くわっ、見開かれた。
    「そうか、これがブルマか! 機能的でシンプル、しかも美しさと愛らしさを秘めた存在! すなわち、ブルマっ!」
     そして、ブルマと体操服に着替え終えた少女は廊下に飛び出た。
     廊下をさまよい、そして空き教室の一つに飛び込む。
     そこには、授業をさぼるつもりだろう、不良少年たちが五名。
     目を丸くする彼らの前で、少女は胸を張る。
    「諸君! ブルマこそ至高! ブルマこそ偉大! ブルマブルマ!」
     
     武蔵坂学園の教室で。アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)は顔を曇らせていた。
    「こういうこともあるのではないかと思っていましたが……まさか、本当にあったなんて……」
     胸の前で、両手をぎゅっと握りしめる、アリス。
    「ヤマトさん……お願いします」
    「まかせろ」
     神崎・ヤマト(中学生エクスブレイン・dn0002)は、アリスに親指をたて、説明に入る。
    「集いし灼滅者たちよ。お前たちに告げよう。今回の相手は、ブルマンド体操服の持ち主だと」
     力づよく話す、ヤマト。
     不思議なブルマと体操服を着てしまった少女、中学二年の由梨絵が、強化一般人となってしまって事件を起こしてしまうというのだ。
     由梨絵は、新潟県のある中学校の空き教室で、生徒五名にブルマの良さを語っている。
     放置しておけば、他の生徒にブルマを布教しようとし、あるいはブルマの良さを分からない者を攻撃するだろう。
    「そうなる前に、彼女と戦い、ブルマと体操服を破壊して欲しい。
     まずは午前10時に、校内に侵入し、空き教室に行ってくれ」
     既に授業が始まっていることもあり、校内に人の気配は少ない。侵入や戦闘、脱出の間に、他の一般人と遭遇することはない。
    「空き教室の扉は鍵がかけられている。
     壊して入ることも容易だろう。
     が、部屋の外から中に話しかけ、開けてもらうこともできるかもしれない。
     特にブルマに関する話題なら、ブルマ好きになっている由梨絵はのってくる。油断もするだろう。
     ブルマを褒めたり、ブルマをはいたり、ブルマに関する情熱をぶつけてみたり……お前たちの知恵の、出番かもしれない」
     由梨絵は戦闘になれば、ディーヴァズメロディに相当するブルマソングを歌ったり、腰を振り立てるパッショネイトダンスを踊ったりする。
     また、生徒たち五人も強化一般人となっていて、由梨絵と共に闘う。学生鞄を武器にロケットスマッシュのように叩きつけたり、マルチスイングのように振り回したりする。
     由梨絵にダメージを与えれば、体操服とブルマにダメージが行くことになる。最終的には破壊できるだろう。由梨絵自身は傷つかない。
     ブルマと体操服を破壊すれば、由梨絵も配下の生徒たちも力をなくし、ブルマを着ていた時の記憶もなくす。
    「彼女にしてみれば、気がつけば突然、服はビリビリ。そして傍に見知らぬお前たちがいる……そんな状況になるわけだ。ごまかす必要があるだろうな」
     大変そうだ、とヤマトは肩を竦める。
    「ともあれ、この事件を野放しにはできない。そう思わないか? 思うだろ?
     ならば灼滅者よ、出発だ! お前たちの成功を、俺は祈る!」


    参加者
    狐雅原・あきら(アポリア・d00502)
    向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)
    鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    大業物・断(一刀両断・d03902)
    アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)
    三園・小次郎(カキツバタの花言葉・d08390)
    火伏・狩羅(蛍火・d17424)

    ■リプレイ

    ●諸君のブルマ魂に、少女は震えた!
     灼滅者たちは学校の廊下に立っている。校庭側の窓から、日ざしが降り注いでいた。
     目の前の教室からは、一人の少女と少年達の、話し声。
     鈴鹿・夜魅(紅闇鬼・d02847)は中に呼びかける。
    「おーい、誰かいるのか?」
     夜魅は白い体操服姿。下半身につけているのは、紺色のブルマ。そう、腰のラインと足を大胆に見せるブルマ。
     話し声が止んだ。中にいた者が扉の方に近づいてくる。
     扉についたガラスから彼女の姿が見えた。ブルマ姿の少女――フライングブルマの所有者・由梨絵だ。由梨絵は扉越しに灼滅者達を見る。
    「どうしたね、君達? ……って、君達もブルマか! ブルマ愛好家なのか? ブルマが大好きなのか?」
     そう。灼滅者の内、女性6人プラス男子1人がブルマ姿だったのだ!
     大業物・断(一刀両断・d03902)も体操服姿。胸に『おおわざもの』と書いたゼッケンを縫いつけてある。
     下半身にはやっぱりブルマ。伸縮性の高い、スクールブルマ。
     断は扉の向こうの相手に、コクリと頷いた。
    「そう……それがしたちもブルマ……ブルマの素敵なお姉ちゃん……それがしたちも部屋の中に入っていい……?」
     アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)は俯いていた。ブルマが気恥ずかしいらしく顔を赤く染めて、もじもじ体を揺らしていた。
     アリスは顔をあげ語りかける。扉の向こうにしっかり届けるよう懸命に話す。
    「えっと、ブルマって動きやすくて、可愛くて……だから、由梨絵先輩に、ブルマのこと、教えていただきたくて、ここに来たんです……」
     部屋の中で、由梨絵は相槌を打つ。
    「ほう……ブルマの話を聞きに?」
     アルカンシェル・デッドエンド(ドレッドレッド・d05957)はすかさず、スカートをたくし上げた。
     スカートの下には何がある? ブルマがあった。
    「これは実に運動がしやすい形状じゃ!」
     下に履いていたブルマを由梨絵に見せつける
     向井・アロア(お天気パンケーキ・d00565)は弾んだ声で、
    「やっぱブルマってちょーテンション上がるし」
     そして、キャハハと声をあげ笑う。
    「ほら、コッジもさっきから電話で、ブルマの話してるよ」
     と、アロアは、仲間の中で唯一ブルマを履いていない、三園・小次郎(カキツバタの花言葉・d08390)を指差した。
     小次郎は、携帯電話へ話しかけている。自分に由梨絵の注意が向いたのを知り、声量を上げる。
    「ブルマって最高だよな? 男子のロマンが詰まっているって言うかさー、女子が履いてるだけで白いご飯三杯はいけるわ!」
     それはエア会話。電話は実際には繋がっていないのに、あえて語る。ブルマの良さを語るために!
     火伏・狩羅(蛍火・d17424)は恥ずかしそうに、長身の体を縮こまらせていた。
     小次郎にちらっと眼をやり、数秒で逸らす。
    「小次郎くんも絶賛しています……やっぱり、男の子ってこーいうのすきなんでしょうね」
     あはは、と何かをごまかすように、作り笑い。
     狐雅原・あきら(アポリア・d00502)はいつものぼんやりとした目で、仲間に相槌を打っていた。
     あきらは男性だが、しかしブルマ姿。
    「今まで履いたコトなかったケド……いっそこれを普段の制服にしても、きっと面白いヨ!」
     面白いのか?! カオスじゃないのか?!
     つっこみたそうな仲間達に、んー? と首をかしげるあきら。
     がらっ。
     教室の扉が開いた。
     中にいた由梨絵が扉を開けたのだ。
    「同志よ! 超ブルマ好きがこんなにもいるなんて。私は嬉しい。感涙にむせびそうだよ。ああ、ブルマばんざーいっ」
     教室の入り口に由梨絵がいて、奥には配下らしき男子五人がいた。灼滅者は顔を見合わせる。

    ●涙をブルマで拭う間もなく、開戦!
     由梨絵の瞳は潤んでいた。
    「さあ、入ってくれたまえ。そしてブルマのことを語り尽くそう。ブルマの事をブルマしく!」
    『ブルマしく』は由梨絵が作った言葉らしい。
     ともかく、由梨絵は教室の奥に行こうと、灼滅者に背中を向けた。
     断も後に続いて、教室に足を踏み入れ、
    「油断大敵……みんないく! ――抜刀!」
     封印を解除。
     断は走る。由梨絵の横を通り過ぎ、ポカンとした表情の男子の前で、右腕を振る。手に持つ淡雪清麿で、ティアーズリッパー!
     他の者も断とほぼ同時に封印を解いていた。
    「了解、まずは男子からとっとと眠って貰うぜ!」
     夜魅は腕に巻いていた茨――いや、鞭剣の刀身を伸ばす。そして振りまわす。刃を竜巻の如く回転させ、男子達を攻めたてる。
     男子五人の口から悲鳴。
    「さあ、ドンパチの時間デスよ!」
     あきらは弾んだ声で宣言。そして愉快そうな顔のまま、あきらは青い縛霊手を嵌めた拳で男子の腹を、打つ。
     どさり、男子が倒れる音。
    「ど、どういうことだ?」
     由梨絵は油断しきっていたのだろう。まだ事態を把握できていないようだ。
     アリスが口を開く。声をふるわせつつも、強い意志をこめて話す。
    「……今の由梨絵さんは、間違っています……だからっ」
     アリスの言葉を、アルカンシェルが引き取り、きっぱりと言う。
    「じゃから、妾たちがお主を倒す」
     言い終えると、二人は動く。
     アリスは禍々しい影を動かす。アリスの操る影は、獣の如く素早く動き、男子生徒の足を払う。
     足を打たれバランスを崩した男子に、アルカンシェルが急接近。武器の柄で男子の顎を打ち据える。
     二人の連携に耐えきれず、男子が床に崩れた。
     手下二人を倒され、由梨絵はようやく事態を悟ったようだ。臨戦態勢をとる。
     息を大きく吸い込み、
    「今はピンチだ♪ とてもピンチ~♪ けどもブルマがここにある♪」
     ブルマソングを歌いだす。
     アロアは呆れながら歌を聞いていたが、『!?』、苦痛に顔を歪めた。歌の力がアロアに痛みと催眠効果を与えている。
     さらに男子三人がアロアに殴りかかるが、
     二匹の霊犬、きしめんと倶利伽羅が、アロアを庇い攻撃を受けた。
    「ブルマソングはやめたほうがいいって! 聞いてるこっちが恥ずかしいっ」
     小次郎は由梨絵へ怒鳴りながら、掌をアロアに向けた。『慈愛の一撃』から淡い光を放ち、アロアの傷と異常を回復させる。
     狩羅は、
    「はい。ちょっと……恥ずかしいかなって思います」
     眉を寄せた顔で小次郎に同意するが、すぐに真剣そのものの顔に戻る。WOKシールドを叩きつけ、男子の体をよろめかせた。
     アロアは仲間のフォローで体勢を立て直す。
    「そうだよ。コッジと狩羅の言う通り。同じ中二のコなのに、ブルマソング歌っちゃうとか、マジありえないし!」
     言いながら、ナノナノ・むむたんに目で合図。
     むむたんにしゃぼん玉で男子を牽制させつつ、一方でアロア自身は杖を振る。杖からデコアートを飛び散らせつつ、男子の後頭部を打って意識を奪う。
     残りは、男子二人と、由梨絵だ。

    ●ブルマダンス鑑賞の間もなく、激闘!
     二分後。
     灼滅者たちは既に、手下の男子五人を倒していた。最初に油断させたのが功を奏し、灼滅者はほとんど、傷を負っていない。
     灼滅者たちの前で由梨絵は不敵に笑う。
    「先ほどブルマソングは嫌だと言ったね? では、ブルマダンスなら文句あるまいっ」
     由梨絵は腰に手を当てた。そして、腰を振り始める。
     右にフリフリ、左にフリフリ。ブルマを強調するブルマダンス!
     怪しげに踊りながら、由梨絵は動き、灼滅者たちに体当たり!
     アロアも体当たりを受けふらついていた。それでも突っ込みを入れる。
    「ブルマダンスのほうが絶対恥ずかしいって」
     むむたんに自身を治療させつつ、閃光百裂拳を実行。踊り続ける由梨絵の顔面に拳をめり込ます!
     渾身の打撃に由梨絵は怯んだ。後ずさる。
     あきらは白いチェロの形したガトリングガン、その銃口を由梨絵に向ける。
    「じゃあ、もっと頑張って踊っテネ、熱い魔法の炎で盛り上げてあげるカラ! 気に入ると良いケド!」
     からかうように言いながら、あきらは弾丸を発射。弾丸は爆発し、由梨絵を焼く。
     灼滅者が次々攻撃を当てていくが、由梨絵はまだ倒れない。
    「私が倒れないわけ。それは信じているからだ。ブルマの可能性を!」
     そして、歌いだす。ブルマ~~♪
     音波が小次郎を襲うが、由梨絵と小次郎の間に、狩羅が滑りこむ。
     歯を食いしばって、痛みに耐える狩羅。
     サンキュ、小次郎が礼を言うが、狩羅は視線を由梨絵から逸らさない。 由梨絵は歌うことに夢中になっている。好機だ。
    「いえ――それより、私の後に追い打ちをお願いしますっ!」
     狩羅は由梨絵の正面に立つと、由梨絵の顎を殴る。鳩尾を殴る。腹を殴る。激しく連打。
     歌を止めた由梨絵の背に、小次郎が回りこむ。
    「了解だ、狩羅。いっくぜーっ!」
     彼女の体を掴み、投げ飛ばす。ご当地ダイナミック!
     投げ捨てられ、床に転がる由梨絵。彼女に立ちあがる間を与えまいと、きしめんと倶利伽羅が六文銭を投げつける!
     それでも由梨絵は立ち上がった。が、足がふらついている。二人と二匹の猛攻が、由梨絵を大きく消耗させたのだ。
    「負けん。負けんぞ。ブルマが負ける筈がないっ」
     夜魅は肩をすくめる。呆れた声でぼやく。
    「オレの姉様もフェチだと思ったが……こいつはまた別の意味で……」
     そして夜魅は息を止めた。夜魅の腕が膨れる。巨大化する。その腕の拳を、由梨絵の顔面へ叩きつける。
     かろうじて踏みとどまる由梨絵。
    「なんて強い……けれど、まだだ、ブルマを広めるためには……っ!」
     断は彼女の懐に潜りこむ。
     断は青の瞳で由梨絵を見つめる。
    「お洒落はそれがしも好き……でも……おしつけはだめ……」
     断の影が動き、立体化した。断の影が由梨絵の体を包み込む。
     由梨絵は悲鳴をあげた。そして、かろうじて影から脱出。
     由梨絵は一分かけて体勢を立て直し、再び腰を振る。ブルマダンスでアリスに迫る。
     だが、アリスは一歩後ろにとびのき、踊る由梨絵をかわした。
     アリスは長大な金の鍵を構える。
    「由梨絵さんっ、これで、目を覚ましてくださいっ!」
     腕を突き出した。鍵の先を由梨絵の左胸に当て、大量の魔力を叩き込む。魔力で由梨絵の体内の内側を傷つける!
     由梨絵は膝をつくが、それでも目から狂気と闘志は消えていなかった。
    「ぶ、ぶ、ぶる……」
     歌おうとする由梨絵の前で、アルカンシェルが首を振る。
    「体操服をそこまで愛好するとは実に奇怪な夢じゃが……ともあれ、覚める時じゃぞ!」
     アルカンシェルは緋色のオーラを放出。由梨絵から体力を奪い尽くす!
     ブルマと体操服が破れ――ただのぼろ布へと変わる。

    ●ひとまずさらば、ブルマよさらば
     戦闘が終わったのを確認すると、夜魅は魂鎮めの風を吹かせ、由梨絵を眠らせた。
     すやすや。由梨絵の口から寝息が聞こえてくる。
     夜魅は倒れた男子達を見下ろし、腕を組んだ。
    「後はっ、折角だから、男子達をお互いに抱き合うような形にしておくか?」
    「ハレンチなのはいけないと思いマース!」
     あきらが素早く突っ込んだ。それより、由梨絵の服をなんとかしないと、と女性陣を見回す。
     アリスと断は男子に退室してもらってから、用意していた制服を由梨絵に着せた。
     やがて「うーん」と由梨絵が目を覚ます。瞬きする彼女に、アリスは、
    「大丈夫ですか……あ、えっと、私達は、丁度体育の授業で通りかかりまして……」
     相手を気遣うように微笑んで見せる。
     断はプラチナチケットを使いながら、眉を寄せて、
    「そこに……お姉ちゃんが倒れていたから……心配した……もう大丈夫……?」
     と由梨絵の顔を覗き込む、
     アルカンシェルは由梨絵が問題ないのを確認した後、仲間の顔を見て頷く。
    「ふむ。大丈夫そうじゃの。では、失礼しようかの。……さらばじゃ!」
     背中を向け、出口へ歩いていくアルカンシェル。仲間も彼女に続く。
    「ありがとう」灼滅者の背中に声。お辞儀をする気配。
     狩羅とアロアは出口を目指し廊下を歩きながら、小次郎に問いかける。
    「さっき電話する振りをしながら話してたこと……本心なんですか?」
    「そうそう。男子的には、ってゆーか、コッジ的にはブルマってどーなの?」
     狩羅は小次郎を見下ろしながら小声で、アロアはブルマの魅力について首をひねりながら。
    「俺的には……まあ、嫌いじゃないかな、ウン……って俺に話し振るのやめよ……」
     困った顔でぼそぼそしゃべる小次郎。彼の顔はなんとも気恥ずかしそうで。
     数人が思わず、くすくす、笑い声を洩らした。

    作者:雪神あゆた 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月16日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 1/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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