お腹が減るの!

    作者:奏蛍

    ●魅惑の料理たち
     食べたくて食べたくてしょうがない! 優奈は食べることが大好きだった。
     いろんな味を味わって、さらに美味しいものを追求する。しかしその求めすぎる心に夢中になり過ぎて、他のことが見えなくなってしまったのだった。
     そんな優奈にシャドウが目をつけた。本人は悪夢と気づかないまま、ただ座っている。
     目の前には、回転寿司のように料理が次から次へと流れていく。食べたいのに、優奈は椅子から立ち上がることができない。
     腕さえ上がったら届くのに、腕さえ上がらない。食べたいものがそこにあるのに、手が届かない。
     優奈は次から次へと流れていく料理に釘付けになってしまっていた。いつまでも食べることのできない拷問は、優奈の命が尽きる時まで続くのだった。
     
    ●二つの方法
    「今度は食べたいのに食べられないんだよね」
     少女と見間違えてしまいそうな四季・彩華(銀碧のトリックスター・d17634)が小首を傾げた。そして須藤・まりん(中学生エクスブレイン・dn0003)からの情報を話し始める。ダークネスの持つバベルの鎖の力による予知をかいくぐるには、まりんたちエクスブレインの未来予測が必要になる。
     食べることが大好きな優奈が、目の前に美味しそうな料理がたくさんあるのに食べられない悪夢に苦しめられている。食べないのも良くないが、食べ過ぎも体には良くない。
     やめなければと思いつつ、美味しそうな料理に手を伸ばしてしまう優奈の心の弱い部分にシャドウが付け込んだのた。みんなには優奈を悪夢から救い出してもらいたい。
     ソウルアクセスして夢の中に入ったら、まずは身動きできなくなっている優奈を解放してもらいたい。これが夢なのだと気づかせることが出来れば簡単に解放されるだろう。
     その後、優奈は目の前にある料理に飛びつく。ここで、料理を食べて幸福を感じさせれば、おかしいと思ったシャドウが現れてくれる。
     けれどここで二つの選択肢がある。食べさせることでシャドウを出現させて撤退させる方法。これで優奈を救い出せば、今まで通り食べたければ食べてしまうままだ。
     逆に料理を食べさせることを止めて、食べ過ぎがいかに危ないかを教えることが出来れば、目覚めた時に成長した優奈がいるだろう。この場合、説得後に料理をみんなで食して頂けたらと思う。
     そうすることでシャドウが現れてくれる。もちろん、どちらの方法でも優奈を救い出せることに変わりはない。
     シャドウはシャドウハンターのサイキックとチェーンソー剣 を使ってくる。そして一緒に出現する配下は五人。三人は無敵斬艦刀を、二人はリングスラッシャーを使ってくる。
     配下を倒しさえすれば、シャドウは撤退してくれるだろう。
    「優奈ちゃんのためにどちらを選ぶかはみんなしだいだね」
     にこりと彩華が微笑んだ。


    参加者
    ギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)
    一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)
    アリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)
    マリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)
    下総・文月(夜蜘蛛・d06566)
    柏葉・宗佑(灰葬・d08995)
    ベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)
    安藤・小夏(色々詐欺・d16456)

    ■リプレイ

    ●夢の中の料理たち
    「食べるのは大事だけど、過ぎたるは及ばざるが如しって昔の人も言ってるよね?」
     囁くような声でマリーゴールド・スクラロース(小学生ファイアブラッド・d04680)が、仲良しのナノナノの菜々花に話しかける。少し菜々花には難しいようだが、きっと優奈なら判ってくれるとみんなの方をみる。
     深夜に物音を立てずに忍び込んだ優奈の部屋。下総・文月(夜蜘蛛・d06566)がソウルアクセスした瞬間、灼滅者たちの視界が一変した。
     どんどん流れていく料理たち。その目の前に優奈は微動だにせず座っていた。
     食いたいものが食えない悪夢。分かるような分からないような。
     文月に言えることと言えば、お腹が減っている時に食べられないのはつらいということだった。
     すぐに料理と優奈の間に柏葉・宗佑(灰葬・d08995)が滑り込んだ。料理が視界から消えた優奈が驚いたように瞳を見開いた。
    「動けないのも料理がぐるぐる回ってるのもこれが悪い夢だから」
     皆で優奈の目を覚ましに来たと告げながら、慌てて霊犬の豆助を抱える。迷わず料理に飛びつこうとしてしまったのは、豆助も宗佑も食い意地が張ってるいるからなのだった。
    「こらまめ駄目だよ今からお仕事だよ!」
     目の前で繰り広げられるどこか愛らしい光景に優奈は瞬きする。流れる料理を見続けていたのが嘘のようだ。
    「君を助けに来たよ。実はここは夢だからその拘束も幻なんだ」
     そんな宗佑の後を引き取って、一之瀬・暦(電攻刹華・d02063)が表情を変えないまま口を開く。だがしかし決して無表情な訳ではない。
     感情の機微があまり表に出ないくらいクールなのが、暦なのだった。
    「優奈さん、大丈夫ですか……?」
     可愛らしくアリス・クインハート(灼滅者の国のアリス・d03765)が小首を傾げるのと同時に、頭の上のリボンがふわりと揺れる。よく考えてみれば、どうして自分がここに座って流れる料理を見ているのかもわからない。
     しかし、体は動かないしいろいろおかしい。瞳が彷徨うに何度も動くのを見たギィ・ラフィット(カラブラン・d01039)が話しかけた。
    「優奈さん、落ち着いてくださいな。ここは夢の中っすよ」
     そうでなければ、流れてくる料理の数々を食べる機会もあるはずがない。そして動けない理由も説明が付く。
     けれどそう簡単に夢と言われて納得できないのも心情だった。そんな優奈の視界に黒い物体が揺れる。
     息を飲んだ瞬間、それが文月の影から伸びて動いていることに気づく。影はいろんな動物の姿に変化して食物連鎖を見せる。
     無駄に高いクオリティで、食う側が次の瞬間食われる側になる一大スペクタクルを演じてみせる。最初は恐怖を感じていた優奈の瞳も食い入るように文月の影を見つめる。
     見終わった時の感動を瞳に漂わせた優奈がふと止まる。そう、現実で影が自由自在に動くはずがないのだ。
     そんな影を自分は見たことがない。
    「本当に、夢なんだ……」
     気が抜けたように呟いた瞬間、優奈の体がかくんと落ちる。その体を受け止めたのはベリザリオ・カストロー(罪を犯した断罪者・d16065)だった。
    「大丈夫ですの?」
     190に届きそうな高い身長でありながら、中性的な顔立ちそして口調のせいでどこか性別が迷子になってしまっているベリザリオだが中身は女好きのスペイン男だ。女子に警戒されない自分を自覚しているおかげで誘い方もスマートだったりする。
     おっとりと笑いかけられた優奈も警戒心を持つことはない。そしてとあることに気づく。
     夢であろうが現実だろうが、とにかく目の前に料理を堪能したいということに。すぐに料理に飛びつきそうな勢いの優奈を暦が強引に止める。
    「欲望のままに食べていたら、直ぐに体を悪くして大好きな食事も自由に成らなくなる事を理解している?」
     手を伸ばす優奈を抑えながら暦が話しかける。
    「こんな夢の中で、1人で食べる食事なんかより、大切な人たちと食べるご飯の方が美味しいよ?」
     安藤・小夏(色々詐欺・d16456)が目の前にある料理から視線を離させるために必死に話しかける。男なのだが、ノリで女装している小夏だった。
     そして男なのだが、女の子に対して食で迫るという外道っぷりがどうしても許せないのだった。

    ●料理のお味は?
    「ただひたすら食べるだけーなんてのじゃなくて、皆で、楽しくわいわい騒げるご飯の方が、あたしは好きだな」
     もちろん、マナーは大事だし健康は第一だ。けれど、ただ食べれば満たされるというのは間違っていると思う小夏だ。
     まずは情に訴えかけて、ただ食べたいという気持ちから小夏が引き離していく。それにギィが同意を示す。
    「そうっす。ご飯は、皆と食べるのが一番美味しいっすよ」
     そして食べるペースも皆に合わせることが出来れば、自然と食べ過ぎないですむ。
    「家でご家族と食べる時はどんな風景っすか?」
     ギィに問われて優奈は首を傾げる。食べることに夢中になってどんな会話をしていたかすら覚えていない。
     優奈を抑えていた暦が、誰にも気づいてもらえないが安堵の表情を浮かべる。力が抜けた優奈は闇雲に料理に突進することを止めたらしい。
    「美味しいお料理は、程々の量を召し上がるからこそ美味しいんです……」
     優奈のように食べたいからと言って無闇に食べ過ぎては、美味しい料理を味わえないどころか命の危険にも繋がりかねない。美味しいものをたくさん食べたいという気持ちがわかるが、料理の楽しみの半分は待つことなのだ。
    「空腹は最高の調味料です♪」
     料理を嗜む身としてアリスには、料理で命を落としたり不幸になることは絶対に止めたいのだ。
    「食べ過ぎは健康にも良くないです」
     アリスの言葉にその通りと言うように菜々花とうんうんと頷いたマリーゴールドがまっすぐ優奈を見る。
    「それに、お腹がいっぱいの時に、もっとって食べても、あんまり美味しく食べられないと思います」
     ナノ~と愛らしい声をあげて菜々花も優奈の説得に全力だ。ただ食べるのではなく、美味しいものをより美味しく食べる方法を考えるのがいい。
    「本当に……それではどんどん舌も空腹感も、幸せだって鈍って来ますわ」
     美味しく食べるには健康な体と健康な感覚を保つべきなのだ。
    「その方がずっと楽しくおいしく食べられますわ」
     そんなベリザリオの言葉に豆助を抱えたままの宗佑も頷く。
    「何でもそうだけどやりすぎちゃ身体を壊しちゃう」
     食べ過ぎているかも、こんなに食べちゃ駄目だ。そんな罪悪感を抱えながら食べても美味しくないし、食事を楽しむことも出来ない。
    「でも食べたくてたまらなくなってしまうの」
     悲しそうに瞳を伏せた優奈に文月が具体的になにが怖いかを伝える。事前に医療系の雑学本で仕入れた知識だった。
     食べ過ぎることによって、血糖値やコレステロールが上がる理由。上がるとどう体に悪いのか。
     確かに食べ過ぎは体に悪いとは漠然と理解していた優奈だ。でもちゃんと順序を立てて話されると恐怖が湧いてくる。
     食べ過ぎることによって引き起こされる数々の病気。
    「……食べないようにする」
     震えた声を出す優奈に、みんながそれは違うというように首を振る。食べることがいけないのではないのだ。
     適度に楽しく美味しく食べれば問題ないのだ。
    「一人で食べるより大勢の方がおいしいからね」
     それではと言うように暦が流れる料理に向かう。
    「フレンチはあるっすかね?」
     出来ればボルドー風とギィも料理に向かうのだ。解放された豆助も非常に嬉しそうである。
    「私もお料理を作ってきましたので……どうぞ召し上がって下さい♪」
     ハロウィンも近いということで、南瓜の料理を差し出したアリスがにこりと笑う。自然と優奈にも笑顔が広がっていく。
     美味しいという意味が優奈には何となくわかってくる。ただ食べるだけでは満たされない何か……。
    「何邪魔してくれてんのよ!?」
     ガンっという音ともに、流れていた料理が跡形もなく消えていく。優奈が驚きの声を上げる中、灼滅者たちの動きは早い。
    「殲具解放」
     力を解放したギィが超弩級の一撃を現れたばかりのシャドウの配下にお見舞いした。

    ●現れたシャドウ
    「善悪無き殲滅」
     ヴァイス・シュバルツと口にして暦が力を解放する。そしてシャドウが攻撃してくる前に、先制をお見舞いした。
     鍛え抜かれた超硬度の拳でシャドウを撃ち抜く。
    「くっ……! 何なのよ!?」
     突然の攻撃、突然の乱入者にシャドウの口から悲鳴が上がる。困惑するシャドウを横目に、小夏はシールドを広げ周辺の味方ごと防御していく。
     同時にヴァンパイアの魔力を宿した霧を宗佑が展開していく。ギィの攻撃から立ち直った配下をアリスが狙う。
     赤いオーラの逆十字が出現したかと思うと、配下を引き裂く。
    「よう。そこ、通ると危ないぜ」
     引き裂かれた体を後方にずらそうとした配下に向かって文月が呟いた瞬間、体が斬り裂かれた。配下だった形は空気に溶けるように消えていく。
    「よくも私の邪魔を……」
     シャドウが呟くのと同時に、漆黒の弾丸が放たれる。避けることが叶わなかった文月の体を撃ち貫いていく。
     瞬時に小夏の霊犬のヨシダが回復させていく。
    「優奈さんは、もうご飯の事だけ考えるのは止めたんだから、こんな悪夢は意味がなくなったよ!」
     マリーゴールドのさっさと出て行けと言うような声に菜々花がすぐに動いた。シャボンが配下を攻撃するのと同時に、マリーゴールドが体内から噴出させた炎を武器に宿し叩きつける。
     さらにベリザリオが石化の呪いを放つと、リングスラッシャーが狙ってくる。ふわりと避けたベリザリオが着地する。
     前列にいる仲間に向かって、七つに分かれたリングスラッシャーが薙ぎ払おうと迫って来る。これをそれぞれ避けたギィの元に、無敵斬艦刀を構えた配下が迫る。
    「剥守割砕とどちらが強力か勝負っすよ」
     そう言って武器を握り直したギィが超弩級の一撃を避けて、そのまま同じく超弩級の一撃を振り下ろす。確かな手応えに吹き飛ばされた配下が空気に溶け込んで音もなく消えた。
     予想を的中させた彩はギィの恋人。恋人からとなれば見過ごすわけにはいかない。
     しかし、口説いて振られた小夏が一緒だとは思わなかったギィなのだった。ひとまずは恋人の彩のためにも、シャドウを撤退させる。

    ●夢のカロリーはいかほど?
     あらゆるものを断ち割るような振り下ろしが灼滅者を襲う。さらにチェーンソー剣の刃でシャドウが小夏を斬り裂き傷口を広げる。
    「っ!」
     痛みに声をあげた小夏にヨシダがすぐに回復に回る。さらにベリザリオが指先に霊力を集めて撃ち出す。
     小夏を攻撃したシャドウの瞳は怒りに溢れている。
    「解体されとけ」
     巧みに操られる文月の鋼糸が、斬り裂き配下をばらばらにして消していく。宗佑が原罪の紋章を刻み込むのと同時に豆助が動いた。
     さらにマリーゴールドが炎を叩きつけて、配下を燃やす。とどめとアリスが緋色のオーラを宿した武器で配下を消し去る。
    「さっさと、優奈の中から消えて無くなると良いんだ」
     雷を宿した拳と強く握り、暦が身を沈める。飛び上がりながらのアッパーが配下に決まり体が浮かぶ。
     浮かんだ体めがけてギィが剥守割砕で超弩級の一撃を叩きつける。床にぶつかるのと同時に、粉々になるように配下が消える。
    「これでもまだやるっすか?」
     ギィの言葉にシャドウが不愉快そうに眉を寄せた。しかしすぐに軽く床を跳躍する。
     そして溶け込むように優奈の中から消えていく。お騒がせしたっすと優奈を振り返ったギィが笑みを作る。
     しかしダークネスの目的は人間を闇堕ちさせて同族を増やす事だと思っていた。殺してしまえばそこで終わりな気がする。
     シャドウは何か違うのかと言うように微かに首を傾げた。まだ事態を把握できていない優奈は震えていた。
    「や、やっぱり食べるのは……」
    「沢山食べるより、時々贅沢した方が美味しいと思う」
     食べることを否定しようとする優奈を暦が静止させる。体調面や健康面を本気で心配していた暦だけに、食べ過ぎも食べないことも良くないとしっかり伝えたい。
    「もし良かったら、お料理を作る方もやってみませんか……?」
     初めて見た時のように可愛らしく首を傾げたアリスに優奈は思わず笑みを返した。
    「良かったら、お教えします♪」
     自分で作った料理もまた格別なのだ。
    「誘惑に打ち勝ってこそ真に美味しい物が食べられるとおもうよ!」
     だからもう、誘惑に負けないでというメッセージを込めた宗佑が笑う。
    「美容と健康にいい食事法とオススメのお店を知ってますの」
     よかったら今度一緒にと誘うベリザリオに、やはり警戒心が生まれてこない優奈なのだった。夢から覚めたら、誰かと食事に行こうと思う優奈だった。
     ただ食べたいからではなく、美味しく食事を楽しむために。
     現実に戻った宗佑が腹八分目に美味しいものを食べに行こうと言った瞬間に、とあることに気づき年頃の悩みを小夏が発動させるのはもう少し後のこと。果たして夢の中で食べた分はカロリーになってしまうのか……。
     体重を気にしてしまう小夏なのだった。

    作者:奏蛍 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月23日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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