●
「ふん! ふん! ふん! ふん! ふん!」
何故かコサックダンスを踊りながら、田舎道を突き進む、変な風体の大男がいた。
全身、真っ白い体毛に覆われ、その姿はさながらイエティのようだ。そのイエティ、頭の上にスープ皿を乗せていた。その皿には、とても美味しそうなボルシチが盛られていた。
芳醇な香りが、周囲に広がってゆく。
「ニホンにはオヤジという食べ物があると聞く」
「おじやです。ボルシチ・オヂヤン様」
同じく、コサックダンスを踊りながら、頭の上に皿を乗せた男たちが続く。
「ニイガタには、ニホンを代表する米、シリヒカリがあると聞く」
「コシヒカリです。ボルシチ・オヂヤン様」
「……どうでもいいのですが、普通に歩けないのでしょうか、ボルシチ・オヂヤン様。太股が、もうパンパンです」
「軟弱者が」
手下達を罵ったのち、ボルシチ・オヂヤン様と呼ばれた、頭の上に皿を乗せたイエティは、畦道をこちらに向かって歩いてくる老夫婦の姿を見付けた。
「ズドラーストヴイ!」
「ずぼらがなんだって?」
陽気に挨拶するボルシチ・オヂヤンだったが、お爺さんもお婆さんも耳が遠かった。というか、それ以前にロシア語で挨拶されても分かるはずもない。
「まずは、コレを食べてもらおうか」
ボルシチ・オヂヤンが差し出したお椀の中には、ボルシチで煮込まれたお米が入っていた。ボルシチ風雑炊とでも言おうか。
「変わったおじやじゃな。……ん、んまい。んまいぞ、婆さん」
「あら、本当に」
ボルシチ風雑炊をぺろりと平らげた老夫婦は、ボルシチ・オヂヤンに御礼を言いながら去って行った。
「ぬふふふふ……。せ、成功だ。この料理をこの土地で広めるぞ。この土地のおじやというおじやを、ボルシチ風味にしてやるのだ!」
「ボルシチ・オヂヤン様。因みに、ここは小千谷市(おぢやし)という名前であります」
「ふふふっ。ならばこの料理を広め、この土地の名前をボルシチ市に改めさせようぞ」
「こういう字面で如何でしょう? 『母流七』。これで、ボルシチと読みます」
「よく分からんが、それでいこう。ゆくぞ、この共」
手下たちを連れ、ボルシチ・オヂヤンは意気揚々と畦道をコサックダンスをしながら進軍していった。
●
「普通に美味しいと思うのだ」
取り敢えず作ってみたと、木佐貫・みもざ(中学生エクスブレイン・dn0082)は灼滅者たちの机に、お椀に盛ったボルシチ風雑炊を配った。
「こう見えても、みもじゃは料理が作れるのだ!」
威張るみもざ。
「食べながらでいいので、聞いて欲しいのだ。淳・周(赤き暴風・d05550)先輩から報告があった通り、新潟に上陸したロシア怪人の動きが活発化しているようなのだ」
ロシアから流氷に乗って日本に向かったロシア怪人は、業大老による攻撃で散り散りになってしまう。
その後、なんとか日本に上陸しようとしたロシア怪人だったが、アンブレイカブルによる迎撃を受けて、その多くが失われてしまった。
「だがしかし、生き残った者たちがいたのだ!」
ぐぐぐっと、みもざは拳を握り締めて熱弁を振るう。
「アンブレイカブルに迎撃される事無く、日本に上陸する事ができたロシア怪人たちは、日本に満ち溢れる『ロシアンパワー』を求めて日本をさまよい、そしてついに新潟へと到達したのだ。新潟に確かなロシアパワーを感じた彼らは、新潟のロシア化を推し進めるべく活動を開始したのであった!」
しかし、悲しいかな、灼滅者達はボルシチ風雑炊を食べるのに夢中で、みもざの熱弁をまともには聞いていたかどうかは、定かではない。
「このままでは、新潟のロシア化が進み、ゆくゆくは世界が征服されてしまうかもしれない。それを阻止するには、灼滅者の力が必要なのだっ! ……おかわり? あるよ。食べる?」
いそいそと、お椀にボルシチ風雑炊を盛るみもざ。
新潟県小千谷市に、頭の上に皿を乗せたイエティのような怪人が上陸したという。名は、ボルシチ・オヂヤン。現地で調達した5人の強化一般人を従えているようだ。
「ボルシチ・オヤヂンじゃなくて、ボルシチ・オヂヤンね。もふもふの雪男のような怪人なのだ。頭の上に、ボルシチが入ったお皿を乗っけてるのだ。因みに、どんなことがあっても零れないのだ」
配下の強化一般人は、地元の食堂のご主人たちらしい。ボルシチの味に魅せられ、配下となってしまったのだそうだ。
「ボルシチ・オヂヤンは、小千谷市にボルシチ風雑炊を広めているのだ。次の市長選挙に立候補して、名前をボルシチ市に変更するつもりのようなのだ」
小千谷市のロシア化に成功した暁には、その後新潟県知事に立候補し、ゆくゆくは国政に乗り出していく計画になっているという。
「このままでは、小千谷市がロシアになってしまうのだ。ボルシチ・オヂヤンから小千谷市を取り戻す為に、頑張って欲しいのだ!」
ボルシチ・オヂヤンは市民をとても大事に思っているので、市民を人質に取ったり傷付けたりすることは絶対にしないという。
「ボルシチ・オヂヤンは、田んぼの畦道をコサックダンスしながら闊歩しているのだ。市民のフリをしてコサックダンスを踊っていれば、喜んで近寄ってきてくれるのだ」
市民にボルシチ風雑炊の試食をさせているところを襲撃することも可能だという。
「でも、コサックダンスを踊っていれば、本場のボルシチを食べられるはずなのだ」
みもざはどうしても、みんなにコサックダンスを踊らせたいらしい。
「それじゃ、頼んだのだ!」
参加者 | |
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神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456) |
モーリス・ペラダン(入れコ人形・d03894) |
園観・遥香(モリオン・d14061) |
真咲・りね(花簪・d14861) |
紫宮・樹里(文豪の地を守る椿姫・d15377) |
小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441) |
フェルト・ウィンチェスター(夢を歌う道化師・d16602) |
空本・朔羅(うぃず師匠・d17395) |
●
小千谷市は新潟県の中越地方に位置し、市街地近郊には信濃川が蛇行するように流れている。
「新潟、久しぶりです」
相変わらずの無表情ながら、空気を懐かしむように周囲を見渡しているのは 園観・遥香(モリオン・d14061)だ。
初めて参加した依頼が、お隣の魚沼市でのお米怪人・うおぬまコシヒカリン撃退であった。
戦いの場面を思い起こしていた遥香は、思わず赤面。恥ずかしい場面を思い出してしまったのだ。だがこの子、懲りてない。今日もひらひらフリルが可愛い、お気に入りのメイド服だ。でも今日は大丈夫なはずだ。あの日は雪が積もっていたので足元が滑りやすかったが、この時期、雪は降っていない。
「新潟とロシア、実は結構繋がりがあったりするらしいの」
小早川・美海(理想郷を探す放浪者・d15441)が、仲間達にうんちくを披露する。新潟市はロシアの幾つかの都市と姉妹関係を結んでいたり、現在の阿賀野市にはかつて、ロシアの魅力を紹介するテーマパークである新潟ロシア村も存在していた。
道すがら、美海の話に耳を傾けていた一同だったが、
「レディース・アンド・ジェントルメン!」
モーリス・ペラダン(入れコ人形・d03894)の声に、その場で足を止めた。
「…レディーが多いデス!」
大きく両手を広げた体勢のまま、モーリスは嘆いた。圧倒的にレディーの比率が高かったのだ。ジェントルメンは自分を含めると、相棒のビハインドのバロリだけ。
「おっと失礼。アナタもデスネ」
モーリスは、空本・朔羅(うぃず師匠・d17395)の横から、ちょっと不満そうな視線を自分に向けていた彼女の霊犬に気づいた。シルクハットを取り、軽く腰を折る。
「ぼるちちってどんな食べ物っすかね? 楽しみっすねぇ~!」
朔羅はというと、ボルシチを頬張る自分の姿を妄想中。うまく言えずに「ぼるちち」になってしまっている。
霊犬がそんな朔羅の様子に気づく。
「あ、いや、師匠違うっす。食べ物目当てじゃな…いたたたっ! ちょっ噛みつかんでよ~」
だから師匠じゃないんだってばと、霊犬の「師匠」は、勘違い娘のふくらはぎをはむはむしている。
「たしかシチューみたいなのなんだよね」
フェルト・ウィンチェスター(夢を歌う道化師・d16602)は、今までボルシチを食べたことがないらしい。なので、とても楽しみだ。
「この辺りで良いみたいだな」
神山・楼炎(蒼き銀の堕人・d03456)は周囲を見渡す。一面にのどかな田園風景が広がっていた。市街地から少し離れただけなのだが、かなり景観が違うものだと、楼炎は思った。
「因みに、コサックダンスってどんなダンスですか?」
踊ったこともなければ、よくも知らない。真咲・りね(花簪・d14861)は仲間達に尋ねた。
「バロリ。やって見せてあげるデース」
急に振られたバロリは一瞬慌てたが、レディーの為ならばと徐に胸の前で腕を組み、足の筋を伸ばし始めた。なかなか様になっている。
「…これ、ダンスなんですか?」
りねの表情が、ちょっと引き攣る。ダンスというより、筋力トレーニングをしているようだ。
『もうやめていい?』
バロリが涙目で訴えているのだが、仲間達にコサックダンスのうんちくを始めたモーリスは、そんな彼に背を向けていた。
『お前も苦労してるんだな』
と、「師匠」が同情の視線を送ってくる。
「とりあえずコサックダンスを頑張って、ボルシチを食べさせてもらうのです」
お腹も空いたのでそろそろ始めようと、紫宮・樹里(文豪の地を守る椿姫・d15377)は仲間達を促した。
「では皆サン。準備はよろしいデシュカネ?」
ロシア楽器のバラライカを準備しながら、モーリスが皆に確認する。ちょっと噛んでしまったけど気にしない。バロリはひとまず、スレイヤーカードの中に戻した。
「園観ちゃんはオッケーです」
遥香はやる気満々だ。というか、本当にメイド服のままコサックダンスを踊る気らしい。
モーリスがロシア民謡の演奏を始めた。うまくコサックダンスから逃げたような気もするが、彼の演奏に乗って、7人の灼滅者達が並んでダンスを始めた。
傍目にはちょっと異様な光景である。散歩中の老夫婦がひそひそ話をしながら遠ざかっていった。
「恥ずかしいが…これも平和を守るためにやっているんだからな!」
楼炎の声は、逃げるように去っていく老夫婦の耳には、残念ながら届かなかった。
●
「うっくっはっ」
「キツイですー」
コサックダンスを懸命に踊る女子達。そう。このハードなダンスを踊ってるのはレディースなのである。ジェントルメンズはといえば、霊犬の「師匠」がダンスを踊れるわけもなく、バロリは只今スレイヤーカードの中でお休み中。モーリスはバラライカでロシア民謡を演奏している。
「レディーファースト、デース」
いや、何か間違っている気がする。
「ふにゃあっ」
べちゃっ。
バランスを崩して、遥香が地面に顔から突っ込んで倒れた。どうやら新潟は鬼門らしい。
のろのろと起き上がると、メイド服に付いた砂埃を払い、何事もなかったかのようにダンスを再開した。スカートがひらひらし、白く陶磁のような太ももがチラチラ見える。
「ぎゃー!」
何かが転がる音と共に、別の悲鳴が響く。見ると、朔羅が横の田んぼに落っこちている。
「あたた…ちょっと擦りむいたっすよ」
ちょっぴり泥んこになった朔羅が、道路に這い戻ってきた。
踊り続けること10分。
そろそろ体力……というより太ももが限界だった。
「ズドラーストヴイ!」
へろへろになっている一同に、底抜けに明るい声が掛けられる。真っ白い体毛に全身を覆われ、頭の上に皿をのせた怪人――ボルシチ・オヂヤンが、5人の手下を引き連れて登場する。
「ふん! ふん! ふん!」
灼滅者達に対抗し、彼らは豪快なダンスを披露し始めた。
「若人よ、見事なコサックダンスだ。ご褒美に、この料理を振る舞ってあげよう」
怪人がパチンと指を鳴らすと、配下の強化一般人達がいそいそと鍋を運んできた。とても美味しそうな香りが漂ってくる。
「ぼるちち! ぼるちち!」
まるでご飯を待っている子犬のように、朔羅は目をキラキラさせている。「師匠」が呆れたような顔をしているが、この際気にしてられない。今日は、このぼるちちを食べる為に来たようなものなのだ。
「おぉ~これがぼるちちっすか! おいしそうっすね~いただきまっす!」
がっつく朔羅。夢中になって食べている。
「ボルシチ、美味しそうなのです」
待ちきれないという風に、樹里はお椀の赤っぽい液体を覗き見している。スープ皿ではなくお椀なのは、日本人に配慮してのことらしい。普通のボルシチではなく雑炊でもあるので、日本人からすればお椀の方が食べやすいだろう。
「さあさあ、暖かいうちにたんとお食べ」
どことなく口調が怪しげだ。昔話に出てくる、人を騙すもののけのようだ。ま、実際、もののけのようなものなのだが。
「…もふもふしてもOK? …あ、ボルシチは食べるの」
後で好きなだけもふもふして良いと言われたので、美海は素直にお椀を受け取った。ついでにお土産用にパック詰めしてもらう。
「おかわりしていいっすかね?」
ようやく仲間達も食べ始めた頃だというのに、朔羅はもう二杯目に突入だ。
「うん、皆で食べるボルシチは美味だな。しかし、熱い…」
湯気がほわほわと立ち上っているボルシチ風雑炊を、楼炎はふうふうと息を吹きかけて冷ましている。ついうっかり、猫舌だったことを忘れていた。
「ボルシチオヂヤ、ハラショー」
ボルシチオヂヤを上品に食しながら、モーリスは賞賛の言葉を口にする。実際、美味しいのだ。お世辞で言っているわけではない。
「パパとママにお願いして作ってもらおうかな」
初めての味に感動したりねは、家に帰ったら両親に作ってもらおうと、気のよさそうな強化一般人のおじさんにレシピを教わっている。
「お、美味しい…お米とも合うんですね、ボルシチって」
樹里は舌鼓を打つ。強化一般人さん曰く、お米は魚沼産コシヒカリなのだそうだ。
「トマトじゃない?!」
この赤い色合いがトマトのものじゃないと知り、樹里が愕然としている。確かにトマトピューレも使われているが、この独特の赤色を出しているのは、テーブルビートという甜菜の一種である。がんや高血圧の改善、持久力アップに効果があるという。
「ご馳走様でした」
「ご馳走様でした。とても美味しかったです」
お椀をボルシチ・オヂヤンに返し、樹里と遥香は丁寧にお辞儀をした。同時にスレイヤーカードを解放。
「…では、すみません。殴りますね」
ばきっ。
その言葉通り、遥香はグーでオヂヤンの顎を殴った。
「痛いっ。痛いじゃないのっ。」
「ボルシチ・オヂヤン様、お気を確かにっ」
何故か突然オネエ言葉になり涙目のボルシチ・オヂヤンの様子に、配下の強化一般人達がオロオロしている。
「なんだかすごく熱血でお馬鹿そうな敵だけど、このまま新潟のロシア化計画を放っておくわけにはいかないしね」
フェルトが諦めたような表情で、大きく肩を竦めた。放置していても害はないような気もするが、新潟をロシア化されてしまっても困る。
「さぁ、喚け…叫べ…そして、懺悔しろ!」
楼炎もスレイヤーカードを解放した。ユーリスはバロリを呼び出す。
「ハラショウ! ハラショウ! 張り切ってまいりマショウ!」
「何なのっ!? 何なのよっ!?」
なよなよっとした腰つきで地面に倒れているオヂヤンが、状況を飲み込めず困惑していている。
「いくっすよ!」
両手を元気良くぶんぶんと振り回しながら、朔羅が最前列に飛び出した。後方で見守ってくれている「師匠」の前で、みっともない戦いはできない。
「ご馳走様っした!でも、それとこれとは話は別なんっすよね。師匠に怒られるから戦うっすよ」
「よ、よく分からんが、このボルシチ・オヂヤン様の野望を阻もうとする市民は許せん! 即刻このボルシチ市から退去してもらおう。市民に相応しくない、このいたいけな少年少女たちを強制排除だ」
「ハラショー!!」
戦闘開始だ。
●
「さあ、みんなで一緒にー! れぇぇぇぇっつ。コサーーークッ!! ふん! ふん! ふん!」
ボルシチ・オヂヤンが強化一般人達と共にコサックダンスを踊り出す。
「負けません」
「勝負っす!!」
対抗精神をメラメラと燃やし、遥香と朔羅が腕を組み、腰を落として交互に足を伸ばし始めた。
「相手の思う壺のような気がするぞ、2人とも」
「そういう神山さんだって」
「はっ!?」
呆れる楼炎だったが、遥香の指摘で自分もコサックダンスを踊っていることに気付いた。まんまと敵の策に填まってしまったらしい。
「えいっ」
このままではマズイと、りねが強化一般人の一人を昏倒させた。もちろん手心を加えてある。
「毒の風、吹き荒ぶの」
美海のヴェノムゲイルが、強化一般人達を包み込む。
踊りには踊りをばかりに、フェルトが情熱的なダンスを踊りながら、ボコボコと強化一般人達を殴った。
バロリが素顔を晒し、一人を撃退。
一人、また一人。強化一般人達は脱落していく。その間、モーリスがリバイブメロディで、コサックダンスが止まらない3人を元に戻してやる。
「ハラショウ! ハラショウ! ボルシチにはクロコショウ!」
「やってくれたな、コンチクショウ!」
やはり、ノリが良い。
「それにしても、頭に乗っているボルシチが気になります」
遥香は、ボルシチ・オヂヤンの頭の上の皿をジッと見つめる。美味しそうに湯気が立ち、食欲をそそる香りが漂ってくる。しかし、さすがにイエティだけあって、怪人は2メートル近い巨体を持っていた。お皿を下から見上げる形になっているので、実際がどうなっているのかが分からない。
「あれは食べられるのだろうか?」
楼炎も気になっているようだ。
「頭の皿を攻撃したら弱体化とかしないかな?」
フェルトが顎を撫でる。河童じゃないんだからそんなことはないと思うが、試して見ても良さそうだ。とはいえ、なかなか踏ん切りが付かない。反対に逆上されても困る。
こうこうしているうちに、強化一般人の数も減ってきた。残りはたった一人だ。
「こいつは踊ってるから無視」
コサックダンスを踊っているバロリを無視し、他の連中をダンスに巻き込もうとした強化一般人だったが、踊りながら近寄ってきたバロリの蹴りを股間に食らって悶絶しながら気を失った。
何を隠そう。バロリは相手の術に填まってコサックダンスを踊っていたのではなく、モーリスの無茶振りで踊りながら戦っていただけだったのだ!
「強制コサックダンス、破れたりデース」
「おのれぇぇぇっ。ボルシチZビーム!!」
並べた人差し指と中指から、鏃のような赤色の光線が放たれる。
樹里は体を捻って、それを躱した。
「こんなに美味しいものと出会わせてくれてありがとうございます。さすが怪人になってもご当地の友。見事でございます」
樹里はオヂヤンの正面に立つ。
「だからこそ、私もその想いに答えましょう。我こそは文京区本郷のご当地ヒーロー! いざ、文豪の地の力を見よ!」
溜め込んでいたパワーを解放した。
「受けて立とう。ゆくぞ、ちびっこ」
「ちびっこ言うな!」
地団駄を踏んでいる樹里を目掛けて、ボルシチ・オヂヤンが跳躍した。
「仲間に手出しはさせないっすよ!」
朔羅がカバーに入る。
一度蹴り込み反動を付け、反転してもう一度蹴りを放つ大技が炸裂した。
「味方を庇うとは、見事! しかし!!」
着地したオヂヤンが、即座に次の体勢に入る。
「ボルシチレッドフラッシュ!」
手刀を横に薙ぎ、赤色の斬撃を繰り出した。
「遅いな…」
だが、楼炎がいつの間にか背後に回り込んでいた。
「その頭上に乗っているボルシチをよこせぇぇぇ!」
ティアーズリッパーが無防備な背中を斬り裂いた。
「うぬっ。…って、何してんの、お嬢ちゃん?」
「…良いもふもふ、なの」
戦闘中であるにも関わらず、美海は自分の欲求が抑えられなかった。怪人の足にしがみついて、もふもふしている。
「…新潟のロシア化、諦めてロシアに帰るつもりは無いの?」
「無い」
「仕方ないの。必殺・もふビーム、なの」
「ぐわっ」
仰け反った怪人の眼前に、樹里が飛び込んだ。
「最高学府の力を見よ!」
必殺の赤門ダイナミックだ。
「さ、最後にこれだけは教えてくれ。おじや旨かったか?」
こくりと肯く灼滅者達。
「そうか。なら、それでいい…」
「あの…ボルシチ市って名前は全然いけてないと思います」
りねの指摘に残念そうに眉を下げ、ボルシチ・オヂヤンはバタリと倒れると、美味しそうな香りを放ちながら消滅していった。
「…あなたのもふもふとボルシチの味、忘れないの」
美海は怪人との別れを惜しんだ。
こうして灼滅者達は、小千谷市のロシア化計画を防いだのであった。
作者:日向環 |
重傷:なし 死亡:なし 闇堕ち:なし |
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種類:
公開:2013年10月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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