奴は奪う命すらも

    作者:飛翔優

    ●ウバウモノ
     血飛沫を浴び、男は人だったものを投げ捨てる。
     口元に笑みを浮かべながら振り返り、店内の物色を開始した。
     客も、店員も、等しく命を奪われたコンビニ内。男が集めるは食物類や飲み物類……命をつなぐために必要な品物だ。
     金を払う必要などない。店員も、警察も、全て等しく握りつぶせばいい。
     その力が、男にはある。
     気づいたら手に入れていたデモノイドロードの力がある。
     男は全てを奪い尽くす。己の欲望赴くままに……。

    「ふふーん、あれが噂のデモノイドロードですかっ」
     血に染まるコンビニを眺め、朱雀門学園の吸血鬼・三宅藍は楽しげに鼻を鳴らしていく。情報をまとめたメモを確認しつつ、楽しげに思考を巡らせる。
     欲望のままに全てを、命すらも奪い尽くす男。危険がないわけではないのだが、思考が純粋な分、己等の望む方向へ誘導するのも容易いだろう。
     何、もしも牙をむくようなことがあるのなら叩きのめせばいい。力の差を思い知らせればいい。あるいは……処分してしまっても構わない。
     故に……。

    ●放課後の教室にて
     集まった灼滅者たちと挨拶を交わし、倉科・葉月(高校生エクスブレイン・dn0020)は説明を開始する。
    「皆さん、デモノイドロードはご存知ですよね?」
     デモノイドロード。デモノイドヒューマンと同じ能力を持っているが、危機に陥るとデモノイドの力を使いこなし、デモノイドとして戦うことができる。まるで自らの意思で闇堕ちできる灼滅者……という厄介な存在だ。
    「更に厄介なことに、デモノイドロードが事件を起こした場所にヴァンパイアが現れ、デモノイドロードを連れ去っていく……そんな光景が見えました」
     まさにクラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)の懸念、デモノイドロードを自勢力に取り込もうとするダークネスが現れるというものが現実のものとなった形だ。
     しかし、現時点ではヴァンパイア勢力との全面戦争は避けなければならない。
     事件を穏便に解決するには、デモノイドロードが事件を起こしてからヴァンパイアが現れるまでの短い期間に、デモノイドロードを倒さなければならない。
    「厄介な状況ですが、どうかよろしくお願いします」
     頭を下げた後、葉月は地図を取り出した。
    「皆さんが赴く当日、深夜零時頃。デモノイドロード……奪を自称する男は、このコンビニへとやって来ます」
     望みは一つ、欲望赴くままに品物を奪うため。
     ついでに、コンビニに居る全てを殺すため。
    「幸い、コンビニの出入口近くで張っていれば、事件を起こす前に接触することができるでしょう」
     場所としては住宅街の中のコンビニ。一車線の道路がある他に道はない、少々狭い場所。
     デモノイドロードは悪人としての性質が強く、人質や逃亡のおそれがある。故に、待機中にコンビニ内の人々に対処したり、接触の際の陣形を工夫したりと、逃亡などを許さぬ策を取るべきだろう。
     肝心のデモノイドロード・奪の力量は高い。
     性質としては破壊力に特化しており、攻撃力をも削ぐ握り潰しと防具をも砕く斬撃を使い分けてくる。
    「また、ヴァンパイアが現れるのはデモノイドとの戦闘を開始してから十分前後。ですので、確実を期すならば八分以内にデモノイドロードを灼滅して撤退する必要が有るでしょう」
     ヴァンパイアは、朱雀門高校のヴァンパイア。名を、三宅藍。
    「もしかしたら、中には以前に遭遇したことがある方がいるかもしれません。とある高校を、センセーショナルなデマで支配しようとしていたヴァンパイアです」
     正義を為すという錦の旗のもとに信奉者を増やし、学校を支配しようとしていた少女。
     力量も、一人で八人を十分に相手どれるほど高い。デモノイドロードとの戦いで消耗した状態では、勝利することは難しいだろう。
    「ですので、奪を灼滅する前に彼女が現れた場合、戦闘を中断して撤退して下さい」
     以上で説明は終了と、葉月は地図を渡しながら締めくくる。
    「相手の力量が高く、制限時間もある戦い。厳しいものになると想いますが、皆さんならば達成できると信じています。そして何よりも……皆さん無事に帰ってきてくださいね? 約束ですよ?」


    参加者
    鷲宮・密(散花・d00292)
    土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)
    天衣・恵(無縫・d01159)
    佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)
    葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857)
    回道・暦(放蕩家出娘・d08038)
    ハイナ・アルバストル(憂鬱の秋風・d09743)
    鈴木・昭子(グリート・d17176)

    ■リプレイ

    ●人々の集うコンビニにて
     深い眠りについた住宅街に抱かれて、休むことなく営みを続けているコンビニエンスストア。
     意気揚々と訪れた天衣・恵(無縫・d01159)は、まっすぐにレジへと足を運んでいく。
    「肉まん下さい!」
     目的は、戦い前の腹ごしらえ。
     首尾よく肉まんを受け取って、会計を済ませた上で仲間と合図を送り合う。
     刹那、店内の空気が変化した。
     灼滅者たちの放つ力が、抗う術を持たぬ者たちに逃亡の意思を植えつけたのだ。
    「店内、入口付近は危険です! 裏手へ避難してください!」
    「包丁を持った変質者があっちから来てます、反対方面に逃げて下さい!」
     鈴木・昭子(グリート・d17176)や佐藤・志織(高校生魔法使い・d03621)店員も他の客も分け隔てなく裏側へと誘導し、当座の安全を確保する。
     更に力を広げたなら、戦っている最中に近づいてくるような一般人はもういない。
     準備を終え、コンビニ前など逃亡場所を塞ぐ形で灼滅者たちは陣を敷く。
     回道・暦(放蕩家出娘・d08038)もコンビニ前の一本道に立つ電柱に身を隠しながら、静かな溜息を吐き出した。
    「……ちょっとコンビニ行く、感覚で暴力振るわれたら困っちゃいますね」
     前にも、コンビニの駐車場で羅刹とやりあった経験を持つ暦。強い意志を秘めた瞳で、デモノイドロード・奪がやって来るという道に意識を集中させていく。
     五分ほどの時が経っただろうか? 車が通ることなど考えてもいないのかのように、一人の男が道の中心を歩いてやって来た。
     情報通りなら、デモノイドロード・奪。
     ヴァンパイアとの接触を厭うため、許された時間は八分間。
     早々に決着をつけるため、灼滅者たちは奪が陣の中心に到達するや皆一斉に飛び出した!

    ●蒼き力を抱きしもの
    「現れましたね、悪の使徒! 魔砲少女・真剣狩る☆土星! 土星に代わってジェノサイドです!」
     名乗りを上げながら、可愛らしいポーズを取る土御門・璃理(真剣狩る☆土星♪・d01097)。
    「あっ?」
    「問答はいたしません! 疾風怒濤! 疾風迅雷! 今日の私達はスピード勝負☆全力全壊で奪を叩き潰すのです!」
     睨まれてもひるまず突貫し、握りしめた拳で殴りかかる。
    「打撃という名の魔砲です! 必殺! 閃光百裂拳!!」
     一撃、二撃と重ね押さえつける中、葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857)が後方へと回り込んだ。
    「あなたの街の殺人鬼! 葉月十三只今参上!」
     デモノイドロードを灼滅する、吸血鬼との戦闘も避ける。
     言うは易し、するは難し……されど両方やらねばならぬのが灼滅者の辛い所。
    「あなたは覚悟できていますか? 私は出来ている!」
     穂先で足元を切り裂いたなら、奪が表情を顔をしかめていく。
     思考するヒマなど与えぬと、鷲宮・密(散花・d00292)が白き錫杖を叩き込んだ!
    「こんな住宅街で事件を起こされるわけには行きませんからね」
    「っ……」
    「そこっ! だよ!」
     魔力が爆発する瞬間に呼吸を合わせ、恵が盾による突撃をぶちかました。
     怒りを誘うこともできたのだろう。戸惑いの視線が定まる場所に、後方へと退避していく恵がいた。
    「こっちだ」
     すかさずハイナ・アルバストル(憂鬱の秋風・d09743)が割り込んで、繰り出された右ストレートを受け止める。
    「ちっ、てめえらは何もんだ……?」
    「……さあな」
     影とオーラを重ねてなお、衝撃が骨身を軋ませる。
     治療を含めれば三度。四度以上は連続で受けること叶わぬだろうと算段しつつ、ハイナはその場に留まった。
     問題ない。
     自身のみで三度。他の仲間の行動も考えれば、それだけ受け止められれば十二分。
     静かな息を吐くと共に、拳を防いだ影を奪の懐へと入り込ませる。
     瞬く間に刃へと変化させ、下から上へと切り裂いた!

     植え付けられた怒りに誘われるまま、奪は恵へと視線を向けた。
     させぬと間に割り込むは、浄化の加護を施し終えた暦。
     ライドキャリバーのキャリオを奪の背後へと向かわせながら、懐へと入り込む。
    「……」
     仕掛けることはせずに手招きし、奪の注意を惹きつけた。
     肥大化した腕が己を握り潰さんと迫ってくる!
    「これくらい……!」
     逃れることは叶わず、暦は巨大な手の中に。体中にオーラを巡らせ必死に抵抗しているけれど、骨の軋む音が周囲にも届き始めている。
    「これくらい……なんだ? この程度っ!?」
     奪が口元をにやりと持ち上げた刹那、キャリオが突撃をぶちかました。
     暦は拘束が緩んだ隙に脱出し、呼吸を整え始めていく。
     追撃は許さぬと十三が氷弾を射出し牽制した。
    「奪うってことは奪われる覚悟もしてるんですよね? 自分だけが特別…だなんて虫のいいことはないんですよ?」
    「ちっ」
    「マジカル・クルエル・エクスプロード! 逝くよ、爆殺!フォォォッスブレイク!!」
     反論の隙も与えぬと、璃理が背中にフルスイング!
     インパクトと共に爆裂させ、一歩、二歩と前に進ませていく。
     されど倒れることはない。
     まだ、討伐には程遠い。
    「てめぇら……邪魔なんだよ!」
    「そこだ」
     闇雲に振るわれた拳を、ハイナが受け止め競り合った。
     腕から鈍い痛みが広がっていくのを感じつつ、ギラつく瞳を静かに睨みつけていく。
     偶然力を手にした奪。
     力を手にした割には、略奪の仕方がみみっちい。
    「……」
     自分が言えたことではないかもしれないと自嘲しつつ、気合を入れて押し返す。全身に伝わっていく痛みを癒し、後一撃、できれば二撃受けることができるよう、深い呼吸を紡いでいく。
     対する奪は憤怒に染まり、周囲をせわしなく見回していく。
     恐らくは、たやすく叩ける獲物を探るため。
     見つからなければ恵を狙うため。
    「……」
     ギラつく瞳の先、ロックオンされたのは……。

     奪の名を持つデモノイドロード。
     分かりやすい悪だと。事実、人質を取る可能性のあるゲスだと断罪し志織は今、ここにいる。
    「っと」
     恵へと向かった拳を受け止めて、骨身を激しくきしませる。
     眉根を寄せながらも距離は取らず、瞳に意識を集中させた。
    「この程度では負けませんよ」
     本音を言えば、朱雀門のヴァンパイもやっつけたい。
     力不足が恨めしい。
     それでも、戦い続ければいつか討てるチャンスも訪れるから、彼女は勝利を目指すのだ。
     一助として、直接勝利には繋がらずとも万全の状態を保ち続けるため、昭子は光輪を差し向ける。
     治療を横目に捉えながら、鈴の音を響かせながら奪へと向き直った。
    「あなたはそうして、物も命も奪うのですか」
    「あ?」
     ギラつく瞳睨まれても、怯まない。
     ただ淡々と、昭子は告げていく。
    「違いますよ、あなたが悪だと言って止めるのではありません。殺したら殺し返されるのが道理でしょう。ただそれだけのおはなしです。あなたのいる場所から何が見えるか、教えていただけませんか」
     最後も問いかけることはしない。
     ただただ静かに見据えたまま耳を済ませていく。
    「……」
     返答はない。
     あるいは、持ち合わせていないのか。
     肩をすくめることもなく、昭子は仲間たちへと向き直る。
     恵を庇ったハイナを癒やすため、光の輪を差し向けて……。

     よろめき膝をついた隙を見逃さず、密はオーラを解き放つ。
     打ち据えられた奪が震える様子すら見せたから、ただ淡々と問いかけた。
    「痛いですか?」
    「……ちっ」
     舌打ちが、解答。
    「ではもっと痛くした方が良さそうですね」
     ただ淡々と、密は杖に魔力を込めて行く。
     奪が攻撃を受け、あるいはいなし、立ち上がっていくその時も。
    「俺は負けねぇ……お前らからも、奪ってやる!!」
     憤怒に染まる表情が、青く青く塗られても。
    「――!!」
     腕を足を全身を青く肥大化させ、デモノイドと化した奪。
     すべきことは変わらぬと、密は杖を足元めがけて振りぬいた!
    「自由になどさせませんよ」
     爆裂する魔力が巨体を揺さぶっている最中に、十三の拳が青く硬い頬を捉えた。
     開放された霊力が幾重にも奪を縛り付け、行動の自由を奪っていく。
     刹那、ひときわ大きなアラームが響き渡る。
    「っ! 後一分……一気に決めましょう」
     一分の時を刻む度、音色を奏で続けていたアラーム。
     終幕を告げる鐘が鳴り響いたと、十三は一時だけ守りを捨てた。
     目前の奪も満身創痍。霊力で、影で縛り続けることができたなら……!

    ●奪うものは奪われる
     拘束を引きちぎり、青きストレートが放たれた。
     オーラを盾代わりに真正面から受け止めて、志織は骨身をきしませた。
    「ですが……この程度……!」
     治療を考える必要などありえないと、勢いを反転させて懐へと入り込む。
     杖で熱い胸板を強打したならば、撤退を視野に入れながらも今、この一時のみ治療を捨てた昭子が背中めがけてフルスイング!
    「さようなら。まいごはかえる、お時間です」
    「――!」
     前後で爆裂する魔力を浴び、奪が声にならぬ悲鳴を上げていく。
     もはや長くはないと断定し、恵が天高く飛び上がった。
    「あなたに恨みはないけど、私らがアンタから奪うわ」
     回転ノコギリを唸らせ振り下ろし、脳天から一刀両断。
     グズグズの液体と化していく奪に視線を向けることもなく、仲間たちの方へ振り向いた。
    「それじゃみんあ、さっさと……っ」
     明るく輝く瞳の中、シャリオに跨る暦がハイナを呼び寄せていた。
    「落ちないようしっかり捕まっていてくださいね――」
    「こんな感じかな」
    「あ、わ……お腹とかじゃなく、か、肩とかでお願いしますね」
     エンジンを唸らせ、加速していく暦たち。
    「うわっずっけえいいな!」
    「ぱらりらぱらりら」
     瞳を輝かせながら逃げ出す恵の瞳の中、ハイナがとぼけた音を口ずさみなから街中へと消えていく。
    「お疲れ様でした。私達もヴァンパイアが来ない内に帰りましょう」
     見送りながら、密が穏やかな声音で残る仲間たちを促した。
    「そうだね! でも、その前に……」
     璃理は果たし状をデモノイドの傍に置き、一足遅れる形で仲間たちの後を追っていく。
     後数分もすれば、ヴァンパイアがやって来る。
     失敗を悟ったヴァンパイアが撤退する頃には人も戻り、コンビニもあるべき姿を取り戻すのだろう。
     眠り続ける住宅街を照らす明かりとして、人々の暮らしを守る一助として、明日もまた役目を果たすために……。

    作者:飛翔優 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月12日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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