俺様に傷をつけたけりゃ

    作者:相原あきと

     パンッ!
     工事途中の人気のない工事現場に拳銃の音が響きわたる。
     見れば複数のチンピラが1人の大きな体の青年を取り囲んでいた。
     その中の1人が拳銃で青年を撃ったのだ。
    「はっ! 何が『俺様には何も効かねー』だ。タフさには自信があったようだが、コレにはさすがにかなわなかったようだな!」
     拳銃を持つチンピラが笑う。
     チンピラ達は買い物袋を下げた大柄な青年が道を譲らないのに腹をたて、この工事現場に連れ込んで世間の厳しさを教えてやろうとしたのだが……がたいの良さは伊達でなく、青年はいくら殴っても蹴っても微動だにしなかった。
     結果、虎の子の拳銃を抜いてしまったのだが……。
    「お、おおい、嘘だろ、今、確かに命中したーーがびゅばっ!?」
     コキコキと首を流しながら、青年が無造作に腕を振り回し、拳銃を持ったチンピラの首が吹き飛ぶ。
    「おいおい、俺様に傷をつけたけりゃ、バズーカやミサイルでも持ってくるんだな!」
    『う、うわあああああっ!?』
    「チッ! 骨のねぇ臆病者どもが!」
     ーー……そして。
     シャリ、シャリ、もぐもぐ。
     青年は死体だらけの工事現場で、廃材に腰掛けながら買い物袋から取り出したリンゴを堪能していた。
     元々タフさには自信があったが、この『力』を得てからは無敵だった。
     大好きなリンゴも最近は特にうまいと感じる。
    「死体の真ん中でリンゴとは……悪趣味な奴だな」
    「誰だ」
     リンゴタイムを邪魔され、がたいの良い青年が立ち上がる。
     見ればいつの間にか、銀髪の高校生が入ってきていた。
    「劉・來(りゅう・きょう)だな? お前を迎えに来た」
    「なんで俺様の名前を……って、だから、誰だって聞いてんだ!」
    「俺か? そうだな……俺は、ヴァンパイアだ」

    「みんな、デモノイドロードのについては勉強してある?」
     教室に集まった灼滅者達を見回しながら鈴懸・珠希(中学生エクスブレイン・dn0064)が皆に聞く。
     デモノイドロード、普段はデモノイドヒューマンと同じ能力を持っているが、危機に陥ると自分の意志でデモノイドの力を使いこなし、デモノイドとして戦う事ができる存在。
    「今回、このデモノイドロードに……朱雀門高校のヴァンパイアが接触してくるみたいなの」
     まさにクラリス・ブランシュフォール(蒼炎騎士・d11726)の『デモノイドロードを自勢力に取り込もうとするダークネスが現れる』という懸念が的を得ていた、という事だ。
    「でも現時点でヴァンパイア勢力との全面戦争は避けないといけないわ。だから、事件を穏便に解決してほしいの……具体的に言うなら、デモノイドロードに接触してから、ヴァンパイアが現れるまでの間に、そのデモノイドロードを灼滅して」
     珠希がきっぱりと宣言する。
    「そのデモノイドロードは劉・夾(りゅう・きょう)っていう名前の18歳、大きな体で喧嘩三昧の日々だったみたいだけど……デモノイドの力を得てからは好き勝手に喧嘩をしては人を殺しているわ」
     劉夾は自分のタフさに自信があるらしく、防戦主体で相手が疲れた頃にゆっくり痛ぶって殺しに来るらしい。またデモノイドヒューマンとサイキックソード、それにシャウトに似たサイキックを使ってくる。劉夾が得意な能力で攻撃した場合、相当狙いを付けなければ当たりすらしない可能性もあるという。
    「みんなにはある工事現場に向かってもらうわ。ちょうど到着する頃、チンピラ5人がそこで劉夾をリンチにしようとしてるから……そこで劉夾に戦闘を仕掛けて欲しいの」
     現場には5人のチンピラがいるが……珠希はそれ以上言わなかった。
     今回の依頼はあくまでヴァンパイアにデモノイドロードを接触させずに灼滅することなのだ。
    「朱雀門のヴァンパイアが現れるのは、みんなが劉夾に接触してから10分前後よ。確実を期すならば8分以内にデモノイドロードを灼滅して撤退して」
     もしヴァンパイアが到着してしまったら……灼滅者は連戦となる。まず勝利はできないと思って良いだろう。また情勢も悪化する可能性が高いので、ヴァンパイアとの戦闘はできるだけ避けて欲しい。
    「もし、デモノイドロードを灼滅する前にヴァンパイアが現れた場合、戦闘を中断して撤退した方が良いわ。やってくるヴァンパイアは……」
     もし皆が見つかれば、ヴァンパイアは攻撃してくると言う。知性派らしく深追いはしないらしいが、最悪の事態は避けられないかもしれない。
    「どこまでリスクを取るか、それにタイムリミットもある難しい依頼かもしれないけど……大丈夫、みんなならできると信じてるわ」


    参加者
    黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)
    空井・玉(野良猫・d03686)
    五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)
    黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)
    イシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)
    百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)
    片倉・純也(ソウク・d16862)
    夏渚・旱(無花果・d17596)

    ■リプレイ


     数人のチンピラが、がたいの良い若者を人気のない工事現場へと連れて入っていく。
     普通、なら見なかったことにして立ち去る者が大多数だろうが……その8人は後を追うとうに工事現場へと入っていった。
    「おい、なんだガキども! 見せ物じゃねーぞ!」
     がたいの良い若者――劉來を囲み、これからリンチを開始しようとしていたチンピラの1人が、灼滅者達が入ってきたのを見咎め怒鳴り散らす。
     もちろん、そんな脅しに屈する者はここにはいない。
     チンピラの視線を受け流し、劉を顎で差しながら黒木・摩那(昏黒の悪夢・d04566)が。
    「そっちに用があるのはこの私達よ。悪いけど、ここは譲ってくれないかな」
     眼鏡がきらーんと輝き、同時に発動する殺界形成。
     数人が無意識に後ずさるも、面子で生きている連中である、「ふざけるな」と青筋を立ててがなり散らしだした。
     こちらに近寄ってくるチンピラに微動だにせず摩那が冷徹に言う。
    「あんまり駄々をこねるとお仕置きしちゃいますよ」
     メガネが遮光し、その瞳がいつのまにか冷たいソレに変わっていた。
    「おいおい、これから俺様の見せ場だってのに、邪魔すんじゃねーよ」
     やりとりに手持ちぶさたになったのか、來が茶々を入れてくる。
    「邪魔ではない」
     五十里・香(魔弾幕の射手・d04239)がチンピラを無視して若者に断言し、スレイヤーカードを解放して殲術道具のガトリングガンを構える。
     ギョっとするチンピラ達。
     そして、ニヤリと笑みを浮かべる劉から、目に見えて嬉々とした殺気が膨れ上がっていった。
     ――少し、怖いですの……。
     発せられる殺気と悪意に、ぐっとこぶしを握って耐えるのはイシュテム・ロード(天星爛漫・d07189)だ。それでも、皆の足を引っ張らないように頑張ろうと決意する。
     明らかに異常な空気が漂っていた。それはチンピラ達も感じており、できればこの場から離れたい……けれど肩で風を切って生きてきたプライドがそれを邪魔して、強がりとどまる。
    「とりあえず、そいつらを殺してから仕切り直すか?」
     來がチンピラ達を視線だけで指す。
    「好きにすれば? その間に私たちは攻撃させてもらうけどね」
     チンピラ達には興味がないというそぶりで空井・玉(野良猫・d03686)が言う。事実、他の灼滅者も同じ態度だ。劉も察する、本当にチンピラを殺しにかかれば、こいつらはその隙をついて攻撃してくる……。久しぶりにやりがいのありそうな相手だ。
    「とはいえ、うるさいのは嫌いです」
     そう夏渚・旱(無花果・d17596)が言うと共にパニックレテパスをチンピラ達に発動させ。
    「邪魔なので消えて下さい」
     だが、それでも混乱したままギャーギャー言うチンピラ達。
    「二度は言わねぇっすよ――」
     それを制するように黒鐘・蓮司(狂冥縛鎖・d02213)の静かな声が響きわたる。
    「――消えろ」
     無表情で、それでいて淡々と感情のない台詞は、最後まで残っていたチンピラの心を折り、情けない声をあげて工事現場から去っていった。
     ゴプッ……片倉・純也(ソウク・d16862)の変異した腕がガンナイフを飲み込みさらなら変異を開始する。
    「ほう、お前もかよ」
     劉が同じルーツであると知り楽しそうに笑うが、純也は無反応に己の変異を続ける。
    「ケッ、つまんねー奴だ」
    「それはこっちの台詞だよ」
     百舟・煉火(キープロミネンス・d08468)がビシリと指を突きつけ宣言する。
    「力に溺れた途端に弱きをいたぶるとは小者の証拠!」
    「あぁん!?」
     顔を歪めて睨んでくる劉だが、煉火は気にせず。
    「罪なき者を殺す権利が何処にあったと言うんだ。その身にヒーローによる報いを受けてみろ!」
    「はっ! 報いを受けろだぁ? いいぜ、俺様には何も効かねーってことを、思い知らせてやるよ!」
     殲術道具を手にする灼滅者達を普通でないと見抜き、即座にデモノイド化する劉。
     その蒼き怪物の雄叫びが、戦闘開始の合図となった。


     さて、今回の戦いはヴァンパイアがやってくる前にデモノイドロードである劉を倒すことが目的である。
     正解を先に言うなら、クラッシャー7・8人で立ち向かえば時間内に灼滅できただろう。もちろん、それは重傷者も1・2人出ることになる力押しな作戦だったが……。
     灼滅者達はその選択はしなかった。誰もが重傷にならず、それでも倒せる道を模索したのだ。
     その結果……。

     ザッ!
     飛び込みざまに放った摩那の黒槍が劉に回避され、体勢を崩した摩那に向けて劉の蒼い手の平がピタリと向けられる。
     キュイイィィィンと劉の手の平に光が収束。
     だが、それは摩那に放たれる寸前、別の影が飛び込んでくる。
     純也だ。
     しかも劉と同じポーズ、手の平に光が収束しており、劉より早くビームが解き放たれる。
     バシュンッ!
     発射態勢を解き、腕で純也のビームを払いのける劉。
     たいしたダメージは与えられた感じは無いが、払った手から細く煙があがっているところを見るに、決して効いていないわけじゃないのだろう。
     圧倒的なタフさ、それはデモノイド寄生体の支配するデモノイドロード、劉特有の力だ。純也は右腕を押さえる、目の前のデモノイドロードを見ていると、どうしてもうずくのだ。
    「ホントはジワジワやりてぇトコだけど……」
     そう呟きながら姿勢を低くし劉の懐に飛び込んだのは蓮司。勢いを殺さぬよう死角たる真下を滑るように魔槍・無哭兇冥―穿―で劉の右太股を切り裂く。
    「まぁ、偶にはこんなのもいいっすかね」
     蒼い化け物と化した劉と視線が合う。だが、蓮司は眠そうにゆっくり首を傾げると……。
    「残念、俺は囮っすよ?」
     瞬後、劉の無傷な左足が一瞬で氷づく。
     劉が攻撃されたと知りそちらを向けば、こちらに狙いをつけ妖冷弾を放った玉がいた。しかも――。
    「まだまだ行くよ」
     玉が余裕の表情で言い、それと同時に右腕が、左肩が氷づけになる。
     
     バキバキバキバキ……。
     3カ所を起点に氷が劉を覆っていき、数秒で巨大な蒼い氷の彫像ができあがる。
     わずかに静寂が訪れる工事現場、玉のライドキャリバー・クオリアのエグゾースト音がやけに大きく聞こえる。
     そんな中。
     ――カッ!
     氷の彫像が内側から蒼く光ったかと思うと。
    「ガアアアアアッ!」 
     劉の叫び声とともに砕け散る。
     水蒸気をあげて再び動き出す蒼き怪物は、先ほど蓮司が与えた太股の傷すら完治していたのだった。

     戦闘開始後数分、灼滅者達は少しずつだが確実に劉へダメージを重ねていた。なるべく氷のバッドステータスを付与するようサイキックを選んでいただけあり、キュア仕切れない氷が蒼い怪物の体表に残っている。
     それでも、劉はまるで効いてないかのように時に攻撃し、時に蒼い寄生体の力でその体を再構築する。
    「……怖い。何だか、この人には、『躊躇』が無いですの」
     劉の自分から攻撃を受けに行くような戦い方は異常なのだ。
     純粋なイシュテムにとっては。
    「……あ、貴方は……ヒトじゃない、ダークネス、ですの」
     理解できないナニカである劉、ダークネスであることを言葉に出すと、胸が締め付けるように苦しくなる。
     それでも、自分の役割を忘れるわけにはいかない。
     ぐっと我慢し仲間達へ防護符を飛ばす。
     回復に専念することが自分の役目なのだ。
     そんな中、理性的に劉を観察していた旱が、何かを思案しながら蛇腹剣を構えると、その刀身に炎を纏わせレーヴァテインで攻撃する。
     しかし、スナイパーとして狙いに特化していたにも関わらず、その炎の刃は劉の脇腹をわずかに切り裂いただけだった。
    「……やはり、コレが得意属性ですか」
     旱の検証結果にほかの皆もコクリと頷く。
     気魄での攻撃は効果的では無い……それなら。
     灼滅者達の攻撃属性が、劉に効果的な2つに絞られた。


    「(頑丈なデモノイドロードは……本当、厄介な相手ね)」
     心の中で一人ごちながら摩那が、後ろから劉の足を切り裂く。
     螺旋槍で付与した自己エンチャントは劉の攻撃によりブレイクされ、いまいち最大威力を発揮できていないが、少しずつ蓄積した足への攻撃が効いてきている気がする。
     劉が摩那を追うように拳を振るうが、そこに飛び込むように蓮司が走り込み、カウンター気味に摩那が切り裂いた足を再び斬りつけ、さらに刃を突き立て肉を抉る。
    「刻んで抉れりゃ十分だ」
     無表情に言い切る蓮司。だが――。
    「それで十分ってわけには、いかないよ」
     蓮司に答えるように玉が言い。
     スッと息を吐くと必殺の技を放つよう足を踏ん張り構えを取る。
     さすがの劉も大きなのが来ると感じたか、警戒するように玉へ向き直る。ことによっては相殺か回避か……。
    「自信があるんでしょう?」
     眼光鋭く玉が挑発する。
    「耐えてみてよ。ちょっと死ぬまで抉るだけだからさ」
    「グルルルルルァア」
     ゆっくりと怪物の口の広角が持ち上がる。
     それはまるで、受けて立つ、と。
    「そうこなくっちゃ」
     大げさなほど大仰にニヤリと笑うと、玉が一瞬で劉の目の前へ。
     拳を光らせたまま凄まじい連打が劉を襲う。
     自己エンチャントも乗った玉の連撃が終わった時、蒼い怪物は体中に小さなクレーターを作っていた。
     だが――。
    「ガアアアアアアアッ!」
     叫びと共に劉の腕が光輝き刃と化し、即座に振り下ろす。
     その瞬間……光が、爆発した。
     劉の周囲にいた前衛たちが軒並み吹き飛ぶ。
     体が悲鳴をあげ、骨が軋む。
     それでも灼滅者たちは攻撃の手をゆるめはしない。
     吹き飛ばされたその場から、香が魔法の矢を放ち、旱が蛇腹剣の刃を伸ばして劉を斬る。
     仲間達が即座に攻撃を開始する中、唯一回復を任されていたイシュテムだけが、前衛全員に夜霧で傷を回復させる。
     回復は自分だけ、それは仲間からの信頼の証。
     優先順位やディフェンダー役への治癒、しっかり見極め、目を配ることは多い。
    「もう……こんな時間ですの!?」
     ちらりと確認した時計の針は、すでに戦闘開始から7分を過ぎようとしていた。蒼い怪物は……まだ、倒れない。

     灼滅者達がとった作戦は強引な力押しではなく、バッドステータスを利用してダメージを増やす作戦だった。だが、自己キュアを行い、近接の灼滅者のエンチャントをブレイクしてくる劉は相当にタフだ。
     長期戦こそ本領を発揮するバッドステータスに頼る作戦は……。
    「もう後先考えてらんないよ……総攻撃だ!」
     煉火が声を張り、戦場の皆が一斉に覚悟を決める。
     自分たちが倒れないのは大事だ、だが、時間は待ってくれないのだ。
     煉火は己の両拳にオーラを纏わせると、一気に距離を詰めて劉に拳の乱打を浴びせる。
     その拳は蒼い怪物の体にこびりついた氷の部分を的確に打ち抜き、そのつど劉がくぐもった苦痛の声をあげる。
    「どんなに固くたって、脆い所を一気に突き崩す!」
    「グルルルァァ……」
     大きな口を開けたまま息を吸い込む劉。
    「ガアアアアアアッ!!」
     壮絶なシャウトと共に体が再生していく。
     だが――。
    「これがじり貧と言うもの」
     純也の言うように、劉の体は治りきっておらず、限界がきているのが見て取れた。本当は挑発でシャウトを封じたかったが、攻撃より防御を優先する劉には効果が薄かったといえる。
     それでも……それでもここまで来た。
     純也が自らの影の先端を鋭く変化させ、蒼い怪物の皮膚を切り裂く。
     影の刃に続けとばかりに、灼滅者達が怒濤の攻撃を繰り出し――。

     『ピピピピピピピピピピ――』

     8分が経過した。
     そして……――。
    「ガアアアアアアアッ!」
     デモノイドロードが、まだ戦えると雄叫びをあげたのだった。

     ――撤退。
     皆の頭にその2文字が浮かぶ。
     だがそれを払拭するようにクオリアの機銃が掃射された。
     それと同時、劉が頭上から殴りつけられたように片膝を付く、見ればフォースブレイクを頭上からヒットさせた玉が、スチャっと着地し。
    「倒せるよ。だから、あと1分だけ延長しないかい?」
     玉が皆を見回し、最後に純也へと視線を送る。
    「ああ、続けよう」
     純也が頷くと同時、灼滅者達の判断は早かった。 
     イシュテムが魔法の矢を放ち、劉が直撃してよろめいた所に煉火と蓮司が飛び込みダブルで閃光百裂拳を叩き込む。
     劉はどこか穴が無いかと視線を動かすが、常に囲むように位置取りしていた灼滅者たちの動きに今更ながら気が付くことになった。
     それなら……と頭を巡らせようと思った矢先。
    「そういえば、バズーカやミサイル……ですか」
     ――俺様を傷つけたけりゃバズーカやミサイルを持ってこい。
     それは劉がよく言くセリフだった。
    「……では、これならどうですか?」
     劉の目の前で、旱の腕が巨大な砲台へと姿を変え、ピタリ。

     ドッ!

     死の光線が解き放たれ、それは致命的に劉の胴を貫いた。
     劉は近距離のブレイクしか持っていなかった。そこをついて後列のスナイパーが自己強化を重ねて攻撃する作戦を、もう数人徹底していれば時間内の灼滅は可能だったかもしれない……。
     胴に風穴を開け、それでも倒れない蒼い怪物は、その腕にエネルギーを収束すると大地に叩きつけるように爆発させる。
     前衛の全員をまとめて吹き飛ばした必殺技だ。
     しかし、光に飛び込む影2人。
    「肉を切らせて骨を断つ、たとえ倒れるとしてもきつい一発を見舞ってやる」
    「攻撃こそ最大の防御よね」
     それは香と摩那の2人。
     先に劉に接敵したのは香だ。
     ガッと劉の首を片手で掴むと、もう片方の手を蒼き胸へと添える。
    「この距離なら外さん」
     ドスッ!
     重たい音が響いて巨躯の胸に魔法の矢が突き刺さる。
    「これで、終わりよ」
     摩那が呟くと同時、香の刺した矢を起点に真っ赤な逆十字が蒼い肌を内側から引き裂きながら出現し……。
     どうっと蒼き巨体の怪物は倒れ伏した。
     それが、劉夾の……末路であった。

     9分。
     まだヴァンパイアは来ていないが、いつ来てもおかしくない状況だ。
     悠長になにかをしている暇はない。
     とはいえ純也とイシュテムが役割を全うした為、重傷者は出ないですみ、皆が各の足で撤退を開始する。
    「……いつか、彼奴らの企みごと潰せる力を手に入れてやる」
     工事現場から通りへと抜けつつ煉火が呟く。
     ふと見れば、純也が工事現場にリンゴを放り投げていた。
     それが彼なりのケジメ、なのだろう。
     8人が工事現場を抜け、次々に通りを曲がって撤退を開始する。
     そんな中、イシュテムはふと視線を感じ、ふと通り通りの向こう側の歩道を見る。
     そこには銀髪の高校生がいた。
     じっとこちらを見つめているような……。
    「イシュテム」
     仲間に呼ばれ、慌てて通りを駆けていく。
     見られたのは8人。
     殺界形成は発動していた。
     なら今のは……。

     8人は依頼を完遂し、そして無事に帰還したのだった。

    作者:相原あきと 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月19日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
    得票:格好よかった 18/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
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