堅焼きせんべいを愛するもの

    作者:ライ麦

     伊賀のかたやきをご存知だろうか。
     かつて伊賀忍者が携帯した携行食が元とされる、日本一硬いせんべいである。その硬さ、とても歯では歯が立たないほど。ゆえに、木槌などで割って、口の中でふやかしながら食べるのだ。
     しかし、近年では観光客向けに硬さを抑えたものも多く売られるようになった。柔らかい生地で小豆餡を包んだソフトタイプまである。
     そんな現状に憤りを覚えている、一人の忍装束の少年がいた。
    「硬くないかたやきなんて……かたやきじゃない! まして餡が包んであるやつなんて、もはやせんべいとも呼べないじゃないか!!」
     そんな偽物に「かたやき」の字を冠して売っているのが許せない。そんな偽物を「かたやき」だと思って食べている観光客も許せない。だから。
    「僕が! 本物のかたやきってやつを教えてやる!!」
     意気込んだその時、ちょうど割るための木槌が付いてない「かたやき」を手にした中年女性二人組が土産屋から出てきた。
    「これ、伊賀名物のかたやきですって~!」
    「へぇ~! 初めて知ったけど、どのくらい硬いのかしら? ちょっと食べ……」
     その言葉が終わらないうちに少年は、その手にある「かたやき」を奪い取った。
     そして手にしたハンマーで粉砕した。
    「きゃー!」
     突然の出来事に思わず悲鳴を上げる中年女性に少年は、
    「こんなのは本当のかたやきじゃないよ! さぁ、本物のかたやきをお食べ!」
     と本場の硬いかたやきを差し出した。
     食べやすいように木槌で割った上で。

     教室にカンカンという甲高い音が響いていた。見ると、桜田・美葉(小学生エクスブレイン・dn0148)が何かを木槌で粉々に砕いていた。
    「……硬いせんべいって、歯が折れないか心配になりますよね」
     そう呟きながら。
     そして、改めて集まった灼滅者達の方に向き直る。
    「実は、その硬いせんべい絡みで闇堕ちして、ご当地怪人になりかかっているお兄さんがいるんです」
     名は片井・せんべい。……まんますぎる名前だ。
    「けっこうイケメンみたいです。……忍者装束のせいで隠れてはいますが」
     イケメンなのに残念な名前。その上忍者装束。もうこの時点で濃すぎる。
    「えと、伊賀のかたやきって知ってますか? 元々忍者の携帯食だったっていう、日本一硬いおせんべいなんですけど」
     そう言って美葉は丸くて厚みのあるせんべいを差し出す。どうやらさっき粉々に粉砕していたのがこれらしい。
    「あんまり硬いから、木槌で割って食べるんだそうです……でも、最近では硬さを抑えたものも売られているみたいで、でもせんべいさんは、それが許せなかったみたいで。硬くないかたやきなんてかたやきじゃない! って」
     わたしとしては、硬くない方が歯が折れる心配がなくて良いのですが、と呟きながら。美葉は説明を続ける。
    「せんべいさんは、まずは『本物のかたやき』を観光客に教え込むため、硬くないかたやきを買った人を襲撃して……それを粉砕します。その上で硬い、本場のかたやきを食べさせるんです」
     放っておけば、行為はますますエスカレートして本物のご当地怪人に成り果ててしまうだろう。
    「でも、せんべいさんはまだ人間としての意識を残しています。今なら間に合います。どうか、闇堕ちから救ってあげてください……!」
     美葉は深々と頭を下げた。
    「彼と接触する方法ですが……硬くない「かたやき」を買ってお土産屋さんから出てくれば、彼の方から来ると思います。硬くない「かたやき」の目安は割るための木槌が付いていないもの……ですね。最近では餡を包んだソフトタイプもあるようですので、そちらでもいいと思います」
     その上で、あたかも木槌がついてないやつを「本物のかたやき」と勘違いした風に装えばさらに効果的だろう。
     なお、この方法以外での接触は、相手のバベルの鎖に引っかかってしまうのでお勧めできない。
    「あとは、人払いをしてそこで戦うか、それとも人気のない場所に誘い出すか……お任せします」
     戦闘になれば、彼はロケットハンマーとWOKシールド相当のサイキックを使って戦う。
    「闇堕ちから救う為には、『戦闘してKO』する必要があります。もし彼に灼滅者の素質があれば、灼滅者として生き残れるはずです」
     また、彼の人間の心に呼びかけることで、戦闘力を下げることができる。
    「具体的な説得方法はお任せしますね」
     と美葉は微笑んだ。
     そして、真剣な表情に戻って言う。
    「でも、気をつけてください。本物の「かたやき」は本当に硬いですから。もし食べることになったら、決してそのままかぶりつかないでくださいね」
     歯が折れます、とくそ真面目な顔で美葉は結んだのだった。


    参加者
    フェリス・ティンカーベル(万紫千紅・d00189)
    鷲宮・密(散花・d00292)
    風巻・涼花(ガーベラの花言葉・d01935)
    葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857)
    ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)
    牛野・たん(北斗の牛・d19433)
    ヴィンツェンツ・アルファー(自己破壊衝動持ちの自己愛者・d21004)
    輝鳳院・雪璃(白麒麟・d21596)

    ■リプレイ

    ●か
    「イケメンだけど忍者……出会う前からちょっと残念な雰囲気を感じるんだよ」
     フェリス・ティンカーベル(万紫千紅・d00189)が、今回の相手について素直な感想を漏らす。名前せんべいだしな。まぁそれはさておき。
    「おせんべいはいいよね。日本茶と一緒にいただくと落ち着くんだよ」
     にこにことフェリスは言う。今回のは随分と硬いみたいだけど、うん大丈夫きっと食べられるはず。
    「雪璃もお煎餅は食べますが、硬いのじゃなくて普通くらいが好きなのです」
     輝鳳院・雪璃(白麒麟・d21596)はそう言う。実際そんな人も多いだろう。それでも、
    (「きっと、美味しいから愛されて今まで残っているんですよね」)
     鷲宮・密(散花・d00292)はそう思う。だが愛しすぎるのもまた問題。
    「愛しさ余って大暴走っていう典型的な闇堕ち手前のご当地ヒーローですね」
     葉月・十三(高校生殺人鬼・d03857)はそう評する。その愛を最初からもっと建設的に前向きに活かせないんでしょうかね……と呟く彼に同意して、風巻・涼花(ガーベラの花言葉・d01935)もうんうんと頷く。
    「愛するが故の暴走ってあるよねー……でも、自分が好きだからっていうのはいいけど人に押し付けちゃうのはだめだよねっ!」
     まったくだ、と首肯して、ワルゼー・マシュヴァンテ(教導のツァオベリン・d11167)も語る。
    「ご当地名物を愛するがゆえの暴挙……しかし過剰な偏愛が闇を呼び覚ますとなれば止めねばなるまいよ」
     と。同じご当地ヒーローとして、牛野・たん(北斗の牛・d19433)にもいろいろと思うところがある様子。灼滅者としての責任感、というよりは自分の感情に素直なだけだが。ただ、
    (片井が、ダークネスになるのは、嫌です。なんとなく」)
     と思う。
    「まぁ、言って聞かせ、殴ってみせ、KOすれば灼滅者になるなりって事で。ん~……? 間違えたかなぁ?」
     無表情のまま、十三はひょいと首を傾げる。
    「ううん、だいたい合ってるよ」
     フェリスはにこやかに言った。彼女は力で解決するタイプだった。しかし実際、闇堕ち一般人の説得はだいたい物理込みだ。それをやるため、灼滅者達は戦闘に適した場所を探す。幸い、土産屋からひとつ脇道に入ったところは人気もなく、障害物もあまりない。ここを戦闘場所にすることに決め、十三は殺気を放つ。
    「じゃぁ、誘き出しはお願いします」
     丁寧に頭を下げるヴィンツェンツ・アルファー(自己破壊衝動持ちの自己愛者・d21004)に手を振って、誘導組の面々は土産屋へと向かう。そして幾許か。
    「これが本物のかたやきですか」
     土産屋から出てきた密が、木槌も付いていない、やわいかたやきを興味津々に見つめる。
    「ほう、これが伊賀の名物、かたやきせんべいか……なんだ思ったよりも柔らかいが、程よい硬さが食べやすそうな感じか」
     ワルゼーも早速試食しながら、そんな感想を漏らす。
    「かたやきって、案外食べやすいんですね」
     密もそう言い、たんや雪璃も、
    「思ったより硬くないのです」
    「初めて食べるのですが、普通のお煎餅よりちょっと硬い程度なのですね」
     と、口々にそんなことを言う。勿論、これは誘き寄せるための演技。涼花など、餡が入ったソフトタイプを口にしていた。
    「案外これもおいしいと思うんだよね……しっとりしてる!」
     美味しそうに頬に手を当てる涼花の後ろから、
    「ちがーう!」
     と声が響いてきた。見ると、でかいハンマーを片手に、忍者姿の少年が肩をいからせて立っていた。如何に忍者の里伊賀とはいえ、その様子は明らかに不審者。話によるとイケメンらしいが、この時点で既に残念すぎる。
    「それは偽物だ! 本物のかたやきは……」
     などと言いながら、やわらかかたやきを奪おうと伸ばす手を、
    「そうはいきませんよ?」
     密はひょいと回避する。そのまま、やわらかかたやきを抱えて皆で戦闘場所へと駆けた。
    「待って、逃げないで!」
     狙い通り追いかけてくるせんべい。しかしこんな人に追いかけられたら普通逃げるだろうなぁ、これ。
     一方の待機組は。
     ヴィンツェンツは事前に買っておいたかたやき(襲われないように木槌付本物)を試食していた。
     どの位痛い……硬いのか好奇心で一回砕かず齧って……悶絶。
    「硬過ぎんだよあり得ねーだろクソがッ」
     思わず毒を吐くヴィンツェンツに、十三も怪訝そうな顔をする。
    「……どうしました?」
    「いえなんでもないですすみません! あよかったら葉月さんも食べますか?」
     取り繕うようにかたやきを差し出し……そこに、せんべいを連れた皆が戻ってくる。
     ヴィンツェンツがすかさずサウンドシャッターを展開し、誘導班はせんべいに向き直るように足を止める。せんべいの方も何か察したのか、ピタリと足を止めた。
    「さぁ、戦闘開始だよ!」
     かたやき饅頭をもぐもぐしながら、涼花がごー! と拳を突き上げた。

    ●た
    「輝鳳院・雪璃、参上なのです!」
    「Do-mo、片井・せんべい=サン。葉月十三です」
     雪璃と十三がそれぞれ名乗りを上げる。それを皮切りに、灼滅者達は次々に殲術道具を構えた。その様子を見て、せんべいは肩をすくめる。
    「……残念だけど。戦わなければ、分からないようだね」
     ハンマーで灼滅者達を指し、
    「力づくでも本物のかたやきの素晴らしさを教え込んであげるよ!」
     とのたまった。大分イッチャってる感が。
     ともあれ彼はシールドを展開し、守りを固める。密はそこに異形化した腕を叩き込んだ。しかし盾は厚く、攻撃は深くには届かない。
    「これがかたやきの力さ!」
     せんべいはドヤ顔をした。と思う。顔よく見えないけど。
    「その守り、砕いてあげますよ。かたやきのようにね」
     くすり、と密も薄い微笑を浮かべる。さきほどの鬼神変で、確かに守りを砕く力を得たから。
    「凍らせて、砕くよ!」
     フェリスもフリージングデスで急激に熱を奪う。さらに涼花が雷を宿した拳でアッパーカットを繰り出し、
    「本当の堅焼きせんべいのおいしさを判ってもらいたいのもわかるよ! でも、他の堅焼きせんべいを食べてこそ、本場の良さがわかると思うんだよ! 今は違う堅焼きせんべいでも、いつか皆に本当の堅焼きせんべいを判ってもらえたらいいじゃない!」
     と熱く説得した。餡入りソフトタイプも美味しかったもの!
     続いて十三が縛霊撃で縛り上げ、ワルゼーが閃光百裂拳を叩き込む。
    「古き良きかたやきせんべいの伝統を守らんとする心意気は良い。しかし何事も時代に合わせて進化・変化するのが常。かたやきせんべいを愛する少年が、その進化を止めてしまってどうする」
     たんが夜霧を展開する傍ら、雪璃もワルゼーの言葉に頷く。
    「伝統を守るのも大切ですが、新しい風と上手く付き合っていく事も大切なのです。様々な環境に柔軟に対応出来てこそ一流の文化だと思うのですよ。かたやきは器量の狭い文化だ、って思われるのは悲しい事だと思いませんか?」
     丁寧に語りかけながら、影で作った触手を放ち、絡めとる。ヴィンツェンツもまた網状の霊力を放射して畳みかけた。ビハインドのエスツェットも霊撃で援護する。
     かけられた様々な言葉と攻撃に動揺しつつも、せんべいはハンマーを振り上げた。
    「……でもやっぱり『かたやき』がやわらかいのは違う!」
     そう言って地面を思いっきり叩きつける。地が揺れ、衝撃波が前衛陣に襲い掛かった。説得により、おそらく戦闘力は下がっているだろうが、それでもなお威力は強い。
     灼滅者達はきっとせんべいの方を見据える。堕ちかけの力は侮れない。それでも、なんとか彼を闇から引き戻さなければ……。

    ●や
     ヴィンツェンツの回復で力を得ながら、灼滅者達は彼に挑んでいく。幾度となく彼の盾を砕き、しかしまた回復され。なかなか一筋縄ではいかないが、いつかは届くはず。
    「言うことを聞かない悪い子はおしおき!」
     幾度かの攻防の中、フェリスが炎を宿した武器を叩きつけた。そのフェリスに、せんべいのハンマーが弧を描いて迫る。だがその攻撃は、シールドリングを展開したワルゼーがしっかりと受け止めた。
    「我々の盾を、せんべいと同じ感覚で砕けると思うな、少年!」
    「ありがとう!」
     笑顔で礼を言うフェリスに、
    「何、気にすることはない!」
     とワルゼーは胸を張る。その傍らで涼花は爆炎の魔力を込めた大量の弾丸をばらまき、十三が死角からの一撃で足取りを鈍らせた。
    「援護するのです!」
     十三に引き続き、雪璃も鋭い刃と化した影で防具ごと切り裂く。
     積み重なるバッドステータスと攻撃に、せんべいはギリッと歯噛みした。
    「……僕は諦めないよ。とにかく食べてさえもらえれば、きっと本物の良さが分かるはずだから!」
     ワイドガードを展開し、懐に手を突っ込む。そしてさながらまきびしのようにかたやきをバラまいた! 大丈夫、個包装の袋に入ってるから地面に落ちても汚れはしない!
    「かたやき同士で打ち付けても割れるよ。さぁ!」
    「………………」
     一瞬なんともいえない微妙な空気と沈黙が流れ。
    「そんなに好きならまずテメーで食らってろクソがッ」
     ヴィンツェンツが一瞬キレた。そして無数の拳をせんべいのイケメン顔(伝聞)にブチ込む!
    「ごめんなさい!」
     と謝りながら。さらにエスツェットが顔を晒し、彼のトラウマを呼び覚ます!
    「ちょ、ちょっと待ってぇ!」
     せんべいがおろおろと手を突き出す、そこに、
    「いいかげんにするのです!」
     たんのレーヴァテインがどーん! と炸裂した。怯む彼の前に立ち、たんは思ったことを素直にぶつける。
    「私の実家は牧場を経営してましてね。家族同然に育てた牛を出荷するときは、いつも祈るのです」
     美味しく食べられておいで、と。
    「彼らを、無理に誰かに押し付けようなどとしたら、はたして彼らはどんな顔をするのでしょう?」
     一呼吸おき、たんは続ける。
    「あなたのそれは、同じことです。かたやきにも、きっと心があるのでしょう。あなたのそのかたやき、泣いてはいませんか?」
    「かたやきが……泣いてる……?」
     せんべいは手にしたかたやきにじっと視線を落とす。その視線からは迷いが感じられた。今まで自分がしてきたことに対する……。
     今がチャンス、と密は彼のかたやきに対する愛を信じて、揺さぶるような説得をかける。
    「無理矢理本物のかたやきを食べさせた所でファンになるでしょうか。本当にかたやきを愛するなら、本物のかたやきを真っ当に広めるべきでは? 今の貴方のやり方、本当にそれで良いのですか」
     語りかけながら繰り出したフォースブレイク。さきほど得た破魔の力が、加護の力を打ち砕く。密の言葉に頷き、フェリスも再びフリージングデスを放った。
    「どんなにおすすめしたい物でも、無理強いされたら嫌いになっちゃうものだよ。好きな物が嫌われるってさみしいよね。だからもっと別の方法で好きになってもらおうよ」
    「別の……方法……」
     どこか呆然としつつも、それでも密に向けて放ったロケットスマッシュは、先ほどの攻撃よりも明らかに弱弱しい。大分戦闘力が下がってきているようだ。それを見て、十三は皆に声をかける。
    「殴りましょう」
     字面だけ見ればひどいが、これは彼を闇から引き戻すために必要なプロセス。頷いて、十三を始めとした多くの灼滅者が手加減攻撃を仕掛ける。
     最後に、涼花のガトリング連射で、せんべいはふらふらとその場に倒れこんだ。
    「僕は……間違っていたのだろうか……」
     そう、涙でくぐもったような声を残して。その彼に、たんはしゃがみこんで語りかける。
    「あなたにその気があるなら、かたやきが喜ぶ方法でかたやきを広めることも可能です。ご当地ヒーロー。そう呼ばれています。片井、あなたはご当地ヒーローになりますか?」
    「ご当地……ヒーロー……こんな僕でも、なれるのなら……なりたいな……」
     忍者装束で隠れた顔の裏で、彼がかすかに笑みを浮かべた気がした。

    ●き
     結論からいえば、彼はご当地ヒーローとして目覚めた。灼滅者の素質がちゃんとあったらしい。
     倒れてからしばし、起き上がった彼は、しかしまだ自分の行いを悔いていた。
    「……強引にやりすぎたかなぁ」
     手の中のかたやきを眺めながらはぁ、とため息をつく。そんな彼にヴィンツェンツは声をかけた。
    「今だから言うけど片井君の行動力っていうか気概みたいなの、僕全然嫌いじゃないっていうかむしろ好きだよ」
    「ほんと?」
     その言葉に少し救われたのだろうか。彼は微笑んだ。……相変わらず忍者装束で隠れてよく見えないけど。きっとそう。
     十三も声をかける。
    「確かに堅焼きなのに堅くないのはおかしいです。ただ柔らかくなったのには確かな理由があるのです。周りの認識が間違っているのなら、排除をするのではなく、それを正しく広めればいいのですよ」
     うん、と彼も頷く。
    「今後はそういう感じで活動してみる!」
     そう言ってきゅ、と拳を握った少年の姿に、灼滅者達は安堵する。今後はあんな無茶苦茶な宣伝活動はしないだろう。
     無事に事件が解決したところで、メンバーはお土産タイムに移る。
    「せっかくだからクラブの皆にお土産を買っていこうかな……本場の堅い堅焼きせんべい!」
     割る用のハンマーも買うべきですかね……と涼花は陳列されたかたやきを眺めながら、買うものを選んでいく。フェリスは硬いものも柔らかいものも、隔てなく買い込んでいった。やっぱり硬いのより普通ぐらいの食べやすいのが好き、と雪璃はそういうものを探す。
     ワルゼーや密は、誘導する際には食べられなかった本物の硬いかたやきに挑戦。
    「なるほど、異常なまでの硬さだ。しかしこの硬さが何ともクセになりそうではないか」
     などと言いながらワルゼーはバリバリと食べ、密は慎重に割って口に含む。硬さの中から、小麦粉の素朴な甘さが伝わった。
    「ん、おいしいです」
     と微笑む。
     各々がそうしてかたやきを食べ、あるいは買い物を終えたところで、涼花は
    「近くに忍者村があるなら寄って行こうかな! にんにんっ」
     と楽しげに手で印を結んだ。
    「じゃぁ案内しようか」
     罪滅ぼしも兼ねているのだろうか、涼花の言葉にせんべいは手を差し出す。
     きめぇー、といつもの鳴き声をあげつつ、たんはその様子をちらと見て、
    (「まぁ、ダークネスにならなくてよかったのです」)
     と思う。
     闇は砕かれたのだ。さながらかたやきのように。

    作者:ライ麦 重傷:なし
    死亡:なし
    闇堕ち:なし
    種類:
    公開:2013年10月21日
    難度:普通
    参加:8人
    結果:成功!
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